環境省総合環境政策社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会

社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会
日本型環境経済社会システムのアジアへの進展(第4回)
議事録


  1. 日時:平成16年12月16日(木) 14:00~16:00
     
  2. 場所:環境省 中央合同庁舎5号館 22階 環境省第一会議室
     
  3. 出席者
    メンバー(五十音順): 12名
    秋山  裕之 
    足達  英一郎 
    荒井  喜章 
    大久保  和孝 
    黒田  かをり 
    五所  亜紀子 
    齊藤  弘憲 
    酒井  香世子 
    坂口  和隆 
    龍井  葉二 
    長沢  恵美子 
    山田  真理子 
    スーパーバイザー(五十音順、敬称略): 2名
    大木  壮一
    後藤  敏彦
    オブザーバー(五十音順): 3名
    厚生労働省1名
    経済産業省2名
    事務局: 6名
    西久保
    川野  光一
    瀧口  直樹
    石川  宣明
    藤原  敬明
    島川  崇
     
  4. 議題
    (1)アジアにおけるCSRとシビル・ソサイエティの役割
      ・CSOネットワーク  黒田 かをり
    (2)南アジアにおけるCSRと市民セクターの位置付け
      ・シャプラニール=市民による海外協力の会  坂口 和隆
    (2)質疑応答・意見交換
     
  5. 配布資料
    資料4-1 議事次第
    資料4-2 メンバー名簿
    資料4-3 座席表
    資料4-4 「アジアにおけるシビル・ソサイエティの役割」
    資料4-5 「南アジアにおけるCSRと市民セクターの位置付け」
    参考資料
     ・ 黒田氏作成資料
     
  6. 議事内容(発言者ごとに発言内容を記述):

事務局(川野補佐)
 それでは、定刻になりましたので「社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会」の第4回研究会を始めさせていただきます。これまで、第1回「企業におけるCSRの取組の現状について」、第2回「ステークホルダーの意識と取組の現状」、第3回「持続可能な環境経済社会実現のための方策」というテーマで開催させていただきました。本日は第4回目となります。
 暮れの押し迫った中、ご参加いただき、ありがとうございます。
 昨日、環境税についての最終的な結論が出まして、現在その処理などで課長の鎌形は本日も欠席となります。お許しください。第5回は必ず出席すると申しております。
 本日は、日本型環境経済社会システムのアジアへの進展ということで、それについてご闊達な意見をいただきたいと思います。
 それでは、足達様、進行をお願いいたします。

足達メンバー
 今回も進行役を務めさせていただきます、足達でございます。
 今お話にもありましたが、温暖化問題も、どのようなものがマーケットの中で評価される仕組みを作ることが難しいなどのようなことが色々とあります。しかし、この研究会は、経済同友会さんの言葉を借用すれば、「市場の進化」、マーケットの中で経済性のみならず、社会性、人間性をも評価するような市場が何とかできないか、その中で特に環境の問題は大きな一つの手掛かりになるのではないかということで、その現状と課題などを追ってきたつもりであります。
 本日は、「日本型環境経済社会システムのアジアへの進展」について議論を進めていきたいと思います。
 事務局としての問題意識は、日本でも経済性のみならずということを評価しよう、そのことが今後の社会経済にポジティブなインパクトを及ぼすだろうということが仮説にあります。願わくは、アジアのマーケットにおいても、早くそのようなマーケットができあがることが望ましいのではないかということがあります。これは、ある意味では、押し付けになってはいけないという部分はもちろんあります。しかし、環境クズネッツ曲線、つまり、個人の所得と環境の悪化の大きさを測り、ある所得水準を越えると、人々の成熟・意識の気付きがあり、環境対策・環境負荷逓減が進むという仮設があります。日本で、過去に一つの転換点があったならば、もっとそれよりの手前で、アジアの皆さんと歩調を合わせるような形で循環型の経済社会のムーブメントができれば良いのではないかと個人的には思っています。
 本日は、正にそのアジアにおいてNPO活動を中心にそのような取り組みに関与されている黒田さんと坂口さんに発表をいただき、その後、日本だけではなく、広くアジア地域などに視線を広げた上で、市場の進化の可能性や課題、あるいは日本がそこで果たせるかもしれない役割について、皆さんのご意見をいただきたいと思います。
 それでは、黒田様から、「アジアにおけるCSRとシビル・ソサイエティの役割」について報告いただきたいと思います。

黒田メンバー
 「アジアにおけるCSRとシビル・ソサイエティの役割」について発表。

足達メンバー
 アジア諸国には多様性がありますが、NGOやシビル・ソサイエティの力が日本よりも強いと感じることが多々あります。そのようなところが市場の進化を動かしていけるのではないかという期待もあります。しかし一方で、黒田さんが最後におっしゃいましたが、貧困の民営化、CSRという文脈ではこの貧困の問題を先進国の企業、多国籍企業の力によって何とかして欲しいという期待感がむしろ高まっているということです。このような2つの見方があるのではないかということで、私も日頃からそのように感じています。
 そこで、坂口さんは後者の話になるのかもしれませんが、開発問題、企業のあり方の問題などについて、「南アジアにおけるCSRと市民セクターの位置付け」というテーマで、お話いただきたいと思います。

坂口メンバー
 「南アジアにおけるCSRと市民セクターの位置付け」について発表。

足達メンバー
 まだまだバングラデシュではCSRという言葉はないのだけれどもという話でしたが、私はBRACのバングラデシュにおける存在を初めて伺いましたが、NGO的なところが事業活動を行っているということであれば、経済活動の中への公益性の反映や大きさは、実は先進国の企業よりもいきとどいているのではないかという期待感を持ちます。
 CSRという言葉を軸とした日本が目指そうとしている環境経済社会とアジアとの関連においては、3つの切り口があると思います。
 すなわち、一つ目は、アジアの人たちから日本企業が批判や要望を受けることがどの程度あるのか、またそのことが日本の企業を鍛える、また日本の循環型社会経済を促進させる要因になるという視点があると思います。
 二つ目は、アジアをマーケットとして見たときに、アジアの側で環境意識のようなものが進んでくれば、日本のメーカーが得意としてきたプロダクトがより支持されるという脈絡があるのではないかという視点です。
 三つ目は、日本企業が、アジアにおける貧困の問題や環境破壊の問題などに対して、商売というよりもむしろ純粋な意味での支援をどのように行えるのか、もちろん技術やノウハウの提供を含めるものという視点です。
 荒井さんに伺います。二つ目の切り口について、アジアのマーケットは環境やCSRを意識するようになってきているか、あるいは元々そのような意識があるのか、その部分での手ごたえなどをお聞かせください。

荒井メンバー
 ビジネスをしている現場の意見としては、そのようなことが少しずつ動いてきているという実感があります。今年アジアにおいて初めてAPO主催でエコプロダクツ展が開催されました。当初は参加を渋っていたのですが、結局参加し、様々な人に見ていただきました。このようにアジアにも少しずつですが意識が芽生え始めており、期待しつつあります。
 年々中国市場が伸びており、我々も多くの製品を販売していますが、当然その製品の環境負荷は多大なものであります。これを何とかしなければならないと思っていますし、またその要望も増えていますが、そのようなことが我々自身の自覚としてあります。それをマーケットの中で認めていただく活動を通じて、ビジネスと環境の両立ができる可能性があるのではないかということを少しずつ認識し始めている段階です。
 毎年企業レポートを発行していますが、今年初めて中国語版を発行しました。実はこれは我々のイニシアティブではなく、中国の現地の人間が是非発行したい、これからの企業責任を従業員やサプライヤーを始め、社会全体に伝えていきたいという理由でした。このようなことが少しずつ気運として出てきたのではないかと思います。

足達メンバー
 秋山さんに伺います。タイにおいてリペアパーツの工場を立ち上げられたという話を伺ったのですが、これに関するマーケットからの要請などをお聞かせください。

秋山メンバー
 先週竣工式を行いました。この工場は資源循環において統一した工場で、従業員が約100名います。中国と台湾を除くアジアの10カ国、地域、主に東南アジアの国々を中心に、実際に市場で使用されたものをタイに集約し、そこで64種類の再生を行います。再生率は100%に近い数値になります。日本では機械レベルで100%を達成していますが、やっとタイでそれを展開することができました。
 環境配慮型設計の中で、日本国内では回収業者、再生業者、物流業者、行政の支援なども含めて、当然の形でできています。しかし、アジアの場合は、インフラなど非常に困難な状況にありました。今回は日本企業4社、現地企業も含めた海外企業10社が賛同する形で、単独ではできないものでした。タイ国内でも25%廃棄していたものが、今回の統一化でほぼ100%再生、廃棄ゼロが現実の方向になってきました。
 100名の雇用、物流なども含めて、中間業者をなるべく排除して、我々の関連のノウハウを持っている業者などで立ち上げようとしていますが、その意味では一定の社会システムに何らかの刺激を与える効果はあるのではないかと考えております。

足達メンバー
 それは当然、これから御社における製品の差別化のポイントとしてアジアでもPRしていくのでしょうか。

秋山メンバー
 地球規模でやさしく、かつ地元に喜んでもらえて、我々も喜ぶというwin-win-winの状況で、当然としてそれを前面に出していきたいと思います。
 東南アジアでも、良い評価を得たいと思います。

足達メンバー
 アジアの存在、現状のマーケットなどをどのように見るか、また企業や行政として取り組んでいくことなどの意見はありますか。

酒井メンバー
 黒田さんに伺います。資料の5ページの最終段落に「企業と連携をしながらCSRを推進するNPOやNGOの台頭 PBSP、WWF、ワールド・ビジョン、CIなど」とありますが、具体的にどのような連携をしているのでしょうか。
 なぜこのような質問をするかと言うと、例えば日本ではCSRというと企業セクターばかりが見ているという印象が非常にあり、もっとNPOと連携して推進していくためにはどのようにすれば良いのか、日本国内での企業とNPOの連携のモデルの参考などになるのではないかと思ったからです。

黒田メンバー
 WWFに限らず、NGOで大手と言われている団体は現在、企業に対して、環境の意味でのサステイナビリティを企業が支援すること、サステイナブルな社会を支えていくことが企業にとって非常に価値があるということを色々と調査しているようです。またそのようなことに関するレポートを発行しています。
 例えば、エシカル・トレーディング・イニシアティブというイギリスの団体では、NGO、企業、労働組合など3者でグループを作っています。さらに、南米のバナナ農業などでは、従業員の労働環境や彼らの家族の状況を調査するために、企業や労働組合、NGO、現地従業員、その家族やコミュニティ、現地のNGOなどが連携しています。このように、セクター間を越えてグループを作って同じ目的のために連携することが増えています。
 日本でも昔から企業との連携に取り組んでいるところがありますが、国際NGOの日本オフィスがこれからキーになるのではないかと思います。なぜなら、彼らが持っているグローバルネットワークが強いから、そして日本のNGOは規模が小さいですが、アメリカやイギリスの団体が調査したことを調べられ、それによって情報を共有でき、またそのネットワークに入ることができるからです。そのようなところがこれから窓口的な役割を果たしていくのではないかと思います。
 オックスファムという団体も、オリンピックに向けてスポーツ用品がフェアに生産されているかというキャンペーンを開催しており、オックスファムジャパンも力をつけております。NGO同士のグローバルネットワークも非常に進んでいます。また、途上国と先進国とのネットワークも連携してきていると思います。

足達メンバー
 アジアの諸国で、製品の格付け、企業を環境やCSRの観点から評価する動きはあるのでしょうか。台湾では、グリーン購入法ができたということを耳にしました。
 山田さんに伺います。アジアの環境ラベルのようなものなどがあるかをご存知でしょうか。

山田メンバー
 台湾はGEN(ジェン)、Global Ecolabeling NetworkというタイプⅠのエコラベルの団体で活動を行っています。台湾は日本と同様にグリーン購入法ができ、政府調達における環境マークの商品、環境配慮型の商品の調達が急激に進んでいると思います。日本のグリーン調達型の枠組みでは、エコマークをとっていなければ公共の入札に参加できないというものではないと思いますが、台湾ではより強い枠組みで進められているように思います。その他には、タイ、中国、韓国などとは共通コア基準、相互認証をはじめとした協力を進めております。市民の意識までは把握しておりません。

足達メンバー
 その共通コア基準作りにおいては、消費者の代表者よりはむしろ政府の代表者が出てくるのでしょうか。

山田メンバー
 基本的には環境ラベルの代表者、例えばエコマーク事務局の者などです。しかし、そのバックグランドとしては利害関係者の協議の場は設けられています。

足達メンバー
 おそらく意識の高い人はいらっしゃるのでしょうね。

山田メンバー
 そうですね。

足達メンバー
 五所さんに伺います。格付けの面で、これまでに面白い、勉強したいなどアジアでリアクションはありましたか。

五所メンバー
 格付けの面ではわかりません。
 私の本業の面で、今年環境報告書の第三者保証において、ある化学メーカーの中国工場を訪問しました。この企業は10年前から中国で製造を行ってきました。そのベースとなったのは日本のISOの環境に関する知識でした。現在98%が中国人の社員、2%が日本人の経営者になっています。検証業務を通じて、よくマネジメントされており、また中国人にやる気を起こさせていると感じました。特に中国では男女の区別はなく、若い女性がマネジメントのメンバー長のような職務についていたり、現場に対して非常に積極的に働きかけていると感じました。その意味では、日本のツールがうまく機能していると言えます。将来的には、製品を通して中国で作ってきた技術などを広めていきたいと考えているようです。ビジネスのためには、中国人も技術を学びたいと考えているようです。これはCSRだと思います。自分たちが持っている技術を中国に合った、ローカルエリアに合った製品にモディファイするには、中国人の技術者を育てていくことが重要になります。またこれは積極的に評価されているようです。個人的に業務を通じて若い女性にインタビューした際に、この企業に働くメリットは何かを伺ったら、すごくやる気を起こさせてくれる企業だとおっしゃっていました。その意味で、企業に勤める人たちに対しては、やる気を起こさせる経営をきちんと行って、将来的には現地で技術開発させて、製品を作るなどということまで考えているのだと感心しました。非常に良い事例だと思います。

足達メンバー
 ISO14001の関係で訪問されたのですか。

五所メンバー
 環境報告書の関係です。CSRの観点から、労働安全衛生について伺いました。面白いと思ったことは、中国では環境よりも、労働安全衛生が重視されることです。つまり、自分たちが働く上で安全に働けるような企業がセレクトされるのです。

後藤スーパーバイザー
 ISOなど国際ルールに対して、途上国はかつて反対だったのが、現在は賛成になってきています。それは途上国の政府や産業界の意識が変化してきたのからだと思います。
 その中で、先ほどバングラデシュの話で、例えば欧米の企業がサプライチェーンマネジメントで否応なく、立ち入ってしまうようなことがありますが、これは一つのやり方でそこの意識にはつながります。しかし、本日のテーマである日本型環境経済社会システムのアジアへの進展という観点から考えると、相手国にとって本当に良いのかどうか疑問です。
 やはりアジア各国には多様性があり、各々の国に合ったものでなければ、押し付けであり、受け入れられないものであると思います。
 あるスーパーの方に伺ったのですが、サプライチェーンマネジメントで回ってみると、今まで日本企業にサプライしていた企業は環境のことを言っているので、向こうは環境のことは割と答えられるが、人権や倫理について聞くと反発があった。一方、欧米のスーパーなどに納入しているサプライヤーに聞くと、人権や倫理については簡単に答えてくれるが、環境については知られていないから答えられない。どちらとも取引がない企業は、どちらの質問をしても反発するようです。このようなことがありました。
 本日のテーマである日本型環境経済社会システムのアジアへの進展において、日本型環境経営でコアになるのは環境だと思います。我々は環境は重要だと思っているし、またアジアに対して説得していかなければならないと思いますが、一方でそれ以外をどのように入れ込んでいくのかが問題になると思います。欧州ではCSRは倫理の方から来ていますが、もう一つはIPP、統合プロダクトポリシーで、例えばEMASを改定して、そこにプロダクツの基準を入れ、それをアジアに展開しようという今までのCSRの倫理的な側面だけではなく、環境的な側面を別の観点から入れようとしています。役立つ環境経営をどのように進めるかという視点で、今の日本の環境中心のものに、それぞれの多様性のある国にどのような形で取り組んでいけばよいかについて、秋山さんや荒井さんにお聞かせ願いたいと思います。

荒井メンバー
 IPPの考え方と自分たちの状況は非常にリンクしています。ものづくりが、世界中で作って世界中に流通して、同じ商品を同じ生産者が同じ消費者に提供するという仕組みが事実上の基本になりつつあります。そうしたときに、残念ながら企業活動としてリスクを見ていかなければならないこととがアジアに多く残っています。
 実はものづくりの基本がアジア中国地域で行われているのです。松下の場合、アジア地域に55のサイト、中国に45あります。アジアはそれなりに歴史がありますが、中国はこの5年間くらいで一大拠点に急激に成長してきました。そこの環境や品質をどのように安定させ、ものづくりを供給していくのかが問題です。一方ではIPPという欧州の基本的な考え方があります。その意味でも、それを我々の事業の形に組み込むためには、中国、アジアを大前提に考えなければなりません。開発は日本、ものづくりは中国、アジア、最後の言語対応やソフトウェアは各地域で行って、組み立てて、パッケージ化して販売する。このような流れがある中でのアジアの重要性は本当に高まっており、そこに研究開発拠点、品質を確実に認証するところ、労働が行われているかどうかをチェックする機能を入れていこうとしていますが、基本的には弱いです。正直な印象としては、アジアでものづくりだけを行っていることです。したがって、そのところはこれからだと思います。

秋山メンバー
 我々もグローバルコンパクトに参加することを表明していますが、その中の労働や人権の項目で、児童労働の問題、団体交渉権を認めているかなど、多くの日本の方が見れば当たり前のことでなぜこのようなことを入れているのか、もっと大事なことがあるのではないかというような話はたくさんあると思います。
 これは上海でも同じです。環境について、化学物質の管理規定を我々は作成していますが、中国の生産事業所でしっかりと管理しているかということを、法律を超えた部分で、つまりゼロックスが基準を作ったものが、正にISO14001で、環境の責任者が上海などで独自に規定を作り、監査をしてくれと要求してきました。
 我々も環境はコミュニケーションのツールとしても、またリスクに対する考え方も非常に一致しています。しかし、人権や児童労働の問題などは実際に現地に行ってみないと難しいと思います。つまり、環境に関しては、話も通じやすく、リスクも共有しやすいが、人権や児童労働に関しては、問題意識はあるものの、日本企業の問題意識のレベルは低いと言えると思います。

坂口メンバー
 我々の海外援助や国際協力の分野でも、同じようなことが起こっております。我々の場合は、現地の受益者やパートナーNGOがいます。我々はお金を持っています。パートナーではあるけれども、ドナーの部分が大きいです。そうすると、ドナードライブと言って、我々の意図したものを彼らは汲んでそれをやろうとします。つまり、金のつくプロジェクトをやる、ドナーが喜ぶ仕事をやることです。我々のように金を持ち、テクニックを持っている状態で途上国に入っていく際に、一番気をつけなければならないことはドライブがかかっていないかを見極めることです。本当にやりたいことなのかを見極めるところに先進国のNGOの職人技があります。話を聞いていて、バイヤードライブのような、お客さんだから言うことをきくというところがあると思います。そこをどのようにしていくかが課題だと思います。本日のテーマである日本型を進展させていくときに、本当にドライブがかかっていないかをどのようにして見極めるのかは実感としてわかります。
 8月にインドで国際NGOということで現地のNGOを招いてディスカッションを行ったのですが、欧米のNGOは研修を欧米型でやりたがるようです。我々は独自にやるのだからいらない、お金も要らないと断ったようです。つまり、ハードの部分は、例えばものづくりでは、ものに関しては地域を越えて裨益することがあると思いますが、ソフトの部分は、例えば環境、児童労働、人権などに関しては、環境は近い部分があると思います。しかし、その他の部分に関して、ミレニアム開発目標に掲示されている項目は各国によって全く事情が異なります。それをもって、我々先進国の企業やNGOが入っていって、こちらのドライブをかけながらやってくれということ自体の是非を議論していかなければならないと思います。気を付けなければならないのは、金と金との関係ではない部分を、どのように相手をファシリテートしていくか、つまりこちらが金を持っているのは事実ですが、イシューで、課題の議論をしようという部分をいかに出していけるかが大切だと思います。また、CSRのISO化と言われているようですが、正にこれこそ環境のISOは全世界に問題なく入ると思いますが、CSRとなると各国の事情が組み合わされて、トータルなものが出せるのか、統一したものが出せるのかというのはNGOとして非常に疑問なところです。

足達メンバー
 ドナードライブに関して、日本ではどうしても環境のことを取り組みたいという意見が出ると思いますが、それは現地の人に言わせれば、環境の前に開発や貧困問題に取り組んで欲しいということはあるのでしょうか。環境というキーワードは、どのくらい現地の人たちの本当の社会問題として捉えられている優先順位として高いのでしょうか。

坂口メンバー
 それも国によると思います。例えば南アジアではまだまだです。地元の有力者が、空気がきたないなどのことを言って、環境が変わったという意味で環境が変わったことはありますが、一般の市民や貧困層の住民は日本製品を買ってもらうようなバイヤーではないのでステークホルダーとは言えないのかもしれませんが、その人からすれば何とかして食べたいということの方がむしろ大きいと思います。逆に、公害も当然発生しており、例えばインドやバングラデシュでは砒素汚染がひどく、そのようなところは実際問題として被害者がいるので、環境の問題があります。つまり、非常に特化した意味でのプライオリティはあると思います。

龍井メンバー
 直接にCSRとは関係ないかもしれませんが、関連ある動きが最近あったので、それを紹介します。
 労働組合もNPO、NGOの一つと考えていただいて、日韓で投資協定、自由貿易協定にどのような項目を盛り込ませようかという問題で、特に投資協定では、3、4年前の段階からその協定に日韓の労組が協力してアクションを起こそうとしています。これは当然、環境、労働を中心に行っていました。その時に思ったのが、何がお互いにとって重視する項目かについて、皆さんご指摘のように、それぞれのポジションで異なります。しかもそれを、この場合二国間の協定の中でどこに比重を付けていくかで、結局それぞれがそれぞれの事情を理解する、コミュニケーションをどれだけ持つかにかかっていました。したがって、政府側がどれだけ善意で、ある意味では先取りをしてこのような基準を設けたのだからいいでしょうというのは、正にこれは押し付けです。特に韓国の場合には、政府側が一切NGOや労働組合に情報を開示しない、意見も聞かないという状況で、それはNGOや労働組合に対して非常に不信感があってのことで、実は今でもそれが続いております。
 先ほどマーケットとおっしゃいましたが、企業、施策面にも広がるかもしれませんが、ある程度の基準をクリアしていれば良いということでやるのか、あるいは何が重要なのか、CSRが正に最初の段階でそうであったように、中身だけではなくコミュニケーション、意思決定などソフトな部分こそ実は大事で、そこでどれだけ合意が得られるか、つまりマーケットだけではなく、様々なセクター、様々なレベルでのコミュニケーションが対等に持てるのかということにむしろ、何が重要であるのかが関わってくるのではないかと思います。結局、最後はリスクで運動を起こされるようなところまで行けば、また違う罰を受けなければならないと思いますが、しかしマーケットで選択されるだけではなく、その間があるのではないかと思います。
 日本はアジアの中でお金の面で頼られたり、様々な交流を行ってきたりしました。対等のプロジェクトというのは実は初めてなのです。少なくとも日韓は、同じ問題に直面して、進んでいるでも遅れているでもなく、また支援でもない、共同で行っていくというところまで到達しています。韓国の企業側が日本と違う意味で台湾などに進出している各国企業など、非常に評判が悪いです。そのようなところに、逆に、網をかけていくというものも作らなくてはいけないと思います。是非それぞれのレベルの、アジアの経営者団体が持っている、あるいは我々連合のようなものが持っている、そのようなセクターがやれば良いのだと思います。色々なレベルでコミュニケーション装置を持つことがCSRの管理だと思います。

足達メンバー
 アジアの消費者、従業員、株主、地域の人々など、そのようなレベルでのステークホルダーコミュニケーション、意見を聞くチャネル、意見が国内の本社に届いてくる仕組みなど、事例はありますか。

秋山メンバー
 正直に言えば、お寒い状況です。
 コミュニケーションのツールとしては情報公開がベースになるのだと思います。そのことで言えば、英文のサステイナビリティレポートでは、経済性、社会性を含めた連結の内容については開示し、それを見ていただいた方に率直にご意見をいただくような方法をとっていますが、非常に消極的な手法だと思っています。私は国内では汚染の問題など様々な事業所や市民集会などで話したことはありますが、現場でどこまでやっているかについては少ししか把握していません。

荒井メンバー
 サプライヤーとの関係が現在最大のイシューになっています。考え方は、グリーン購入からクリーン購入へというもので、それを現在やりつつあります。我々が有しているサプライヤーは、中国だけで3000社、アジアでは3000~4000社と実質的な関係を持っています。これらの企業との関係をどのように強化していくのか。これらの会社とはグリーン調達という観点ではしっかりとパートナーシップを組むことができたのですが、それを今度はクリーン調達、つまりCSRの観点から我々と共に、一緒に商売をするパートナーとしてふさわしい企業体に育っていただこうということをやり始めています。ところが、実際にコミュニケートしていくとなると至難の技です。例えば、我々の方針や具体的なアクションまでを説明する会議を開くと、一つの会場で最大でも500人が限度です。そうすると中国では5回、そしてアジア各国を回っていかなければなりません。しかも、我々が本当の問題は説明会に来てもらうパートナーではなく、違うところに潜んでいる可能性があります。では、そこに手の届くコミュニケートができるのかということでは、まだ非常に距離感があるのではないかと感じています。しかしこれは一歩一歩進めていくしかありません。我々のサプライヤーの立場としても審査を受けているので、我々の社内の労働環境にもしっかりと目を配り始めています。例えば我々が直面している状態として、今年のボーダフォンのレポートに、フィリピンにある我々のモバイルフォン工場が出ました。抜き打ちで審査を受け、問題はなかったようですが、このような状態です。

事務局(川野補佐)
 環境省ではなく、個人的意見として述べます。
 私は環境と開発には非常に興味があります。アジアの国には開発途上の国もあれば、GDPが10,000ドルを超えている国もあります。ODAの援助でも日本の工業化モデルを開発に役立てようということで工業化を進めている国もありますし、それを受け入れない国もあります。政府間のやり取りの中でそのような話を聞いていると、非常に頭でっかちになっている印象を受けます。
 例えばインドネシアの副大臣とお会いしたときも、インドネシアでも環境報告書を義務化するとおっしゃっており、役人がこれからこのようなものを発行しなければならないと一軒一軒回っているそうですが、実態としてはあのような国では底辺までは無理だと思います。政府のポリシーは非常によいところにあるのですが、その国で実行に移すのは難しいと思っております。
 先ほどエコプロダクツ展の話がありましたが、これもどちらかと言うと日本の仕掛けた展示会であり、これから中国や韓国で仕掛けていくことになると思いますが、現地で本当に必要なのかと疑問の余地があります。
 後藤さんとISOの14063の環境コミュニケーションで韓国を訪問しても、韓国の環境政策課の課長さんも、環境報告書のガイドラインを作成するということで、昨年実現しました。各社発行しているようですが、本当に末端まで浸透しているかどうか疑問です。
 その意味で、頭でっかちという表現をしました。
 先日エコプロダクツ展でKELAの会長とお会いし、韓国でもグリーン購入法がやっと整備されたということですが、そこでエコマークを日中韓で相互認証して欲しいという意見もありました。これから着実に進んでいき、非常によいことですが、その裏に、日本市場への韓国家電製品の売り込みにエコマークが欲しいという韓国の思惑が見え隠れしているので、日本流のCSRのポリシーを勝手に売り込みたくないという意識がありました。
 そういった点で、私は行政の方と話していると頭でっかちに感じられます。末端まで行き届いていない先進的な施策、例えば中国では循環型経済という施策を打ち出そうとしていますが、今そこに当てはめるのは良いのだろうか疑問に思います。
 皆様に意見を伺いたいのですが、いかがでしょうか。

足達メンバー
 一つの回答としては、龍井さんがおっしゃったように、様々なパートナー同士がより密接なコミュニケーションをして確認しあうこと、本音を共有し合うことだというのはポイントだと思います。そして、政府間だけでやっていてはいけない、企業がお客さんとだけ関係を持ってもいけないと思います。
 また、押し付けになっていけないが、環境の問題などはありますか。

大木スーパーバイザー
 千差万別の地域でやること、また日本型と言っても、役割を担う組織や人々も違ってきます。
 中央アジア、カザフやウズベク、キルギスなどに行くと、大統領や役員の方たちはODAを拒否します。日本の企業に直接投資をして欲しいとおっしゃいます。大手の企業が出られている国、例えば中国やベトナムなどは、その企業が先進的な指導を色々としていけると思います。我々はアメリカの企業に来てもらったときに、若い頃就職先として魅力もあり、また嫌なこともありましたが、相当学ぶ面もありました。その時のギャップが縮んでくると、ますます参考になったのだと思います。そのような企業が進出されているところは、企業が色々なリーダーシップを取り、マーケットと一緒にやっていくことが良いと思います。どうしても企業が来てくれないところについては、また別な役割が必要です。
 CSRは、環境省がやっているので環境問題なのでしょうが、トリプルボトムラインです。したがって、貧困や飢餓を救っていくときには、経済の要素は非常に大きいと思います。それがないといけないと思います。その機能は、インフラ整備を政府としてはどうするか、民間の色々な団体がそれをどのように構築していくか。例えば、日系企業が行って、ものが作れる、ディストリビュート・チャネルを作れる状況までにもっていくべきなのか、そこまではしないのか。そのようなことを踏まえて、国別にいくつかのクリティカルな問題があるので、例えばレーダーチャートを書くとへこみがあり、本当はその部分が重く、その重い部分をきめ細かく見ていくプログラムを考えなければならないと思います。
 坂口さんに伺います。公益事業を行っていないコンペディターがいるのでしょうか。それがいると非常にやりにくくなると思います。そのような巨大なNGOが日本に今でもあります。例えば、農協がそうだと思います。農協は今でも公益法人の税率を使った、一つのNGOかもしれません。米の開放などで攻められ、今は農協のCSRをどのように考えるのかということを研究しています。私もそのメンバー会で、是非CSRをやりましょうということでやっています。時代に応じて変わってきますが、そこまで外国が攻めてもいけないと思います。コンペティターの状況やそれがどのようにマネージされているかなどを教えていただきたいと思います。

坂口メンバー
 私も専門家ではないので、知る範囲でお答えいたします。いわゆるエリートの就職先として、企業のプライオリティが低く、基本はNGOがトップなのです。つまり、エリートは全てNGOに流れます。エリートであるNGOの職員は、今この国で必要な収益事業は何かに関して非常に目を持っているので、その目を元に今資源がない国でこれから一番つながっていけるのはITだろうということで、ITに飛びついたということとが言えると思います。したがって、コンペティターとしての、いわゆる一般の企業はほとんど太刀打ちできない、特にITの分野では太刀打ちができません。このように、エリート、目の立つ人たちが全てNGOに流れているからという要因があると思います。そこに日本の会社が入って、云々というのはまた別の議論になると思います。
 また、バングラデシュの中ではNGO、非営利業界はダメだという議論があります。援助漬け、それの上にドナードライブ、依存体質が生まれるのです。それは現地のNGOにも生まれますし、もっと言えば受益者である貧困層の住民にも生まれてしまいます。何もしないで待っていれば何かもらえるだろう、NGOは先進国のドナーやODAに良い顔をしていればお金が降ってくるだろうと考えています。小さなNGOは自分の団体を回していくためにローンに入らざるを得ません。ローンがあり、ローンの原資を回していけば利息が溜まります。そのような現状で、援助業界は大丈夫か、もうダメだろうというところまで来ています。この中で、もっと国の富を生むためには企業だろうということで、収益事業として企業をやっていくことはもちろんなのですが、雇用の確保などを含めた上で、起業をしていく方が国を富まして、ひいては貧困住民まで裨益させられるのではないかということにNGOのトップの考え方がシフトしているように思います。したがって、今後益々企業化が進むと思いますし、実際に我々のアドバイザーをやってくださっている現地の方も、一部でNGOをやっているのですが、縫製工場をやっています。貧しい人たちを日本的な労働条件の下で、託児所まで作って起業して、貧困層の人たちを雇っていこうというようにシフトしている状況にあります。

後藤スーパーバイザー
 環境経済社会システムのアジアへの進展、共存共栄を図っていくために、日本の何が良いものがあり、何が技術移転できるかという問題だと思いますが、それは企業、政府、NGOなど単独の問題ではなく、全てのセクターに関わる問題です。
 先ほど先進企業はお寒い部分があるという非常に率直なご意見がありましたが、日本におけるトップクラスの企業が率直に言えばお寒い状況にある中で、日本の大企業が今後アジアで共存していくためにはどうあるべきかについて、長沢さんに経団連さんではそのようなことをどのように考えているかをお聞かせください。また、あわせて、政府やNGOがこの問題でどうあったら良いのか、政府セクターやNGOセクターへの期待や要望などについてもお聞かせください。

長沢メンバー
 どこまでお答えできるかわかりません。
 まず、お話しておきたいことは、ISOのSR規格についてです。12月22日に開催される、国内対応メンバー会に経団連からのガイダンス文書案が出ています。それについて皆さんに叩いていただこうという趣旨で経団連としての考えを出します。これは正式な会議を経て出たものではなく、ある部会で企業の方々に具体的に検討していただいたものとして出たものです。その文書のウリは、正に龍井さんがおっしゃられたように、ステークホルダーとのコミュニケーションです。
 これはCSRではなくSRとして書いていますが、組織そのものが社会から共感や信頼を受け、持続的な発展を遂げていくためには、その組織のステークホルダーとのコミュニケーションの中で、何をすべきかということを決めていかなければいけないということに基づいて作り上げているものなので、それが日本国内のステークホルダーの皆さんからどう捉えられ、外に出て行ったときにはどう捉えられるかは全くわかりません。しかし、我々としてはそこが肝であると考え、作っているものです。
 その時に政府がどうかについては、ここで私がコメントするのは良くないと思いますが、NGOとの関係においては、NGOと連携できる部分、特に労組と連携できる部分はこれからたくさん出てくるのではないかと思います。
 なぜなら、日本企業の強みは、環境にあると思います。例えば公害問題などネガティブな経験を持っていて、なおかつそれ以外にも、エネルギーが少ないなど少資源の国でどのように生産していくかといったチャレンジも受けていて、環境技術なども進んでいます。
 もう一つの強みは、人だと私は思います。人を育てていく、先ほど五所さんが人を育てていくことでモチベーションが向上するといった話がありましたが、やはりその部分は大きいと思います。
 個人的な感想ですが、その時に、人権、human rightという言葉は日本やアジアには合わないと思います。それよりはNGOの姿勢に学んで、人のエンパワーメントという姿勢をとるべきだと思います。いかに色々な人たちの力を引き出していくかということに対して、企業もNGOも労働組合も一緒に連携していける部分はこれからあるのではないかと思います。例えば、児童労働の問題でも、「児童労働をやっていますか?」「いいえ」ということではいけないと思います。もっと人を育てていく、地域経済を起こしていくなどの視点で考えていくことが企業にも求められていると思いますので、その意味では、もう少し言葉を変えて日本企業が対応していくこともあるのではないかと思います。
 また、海外の状況などを伺っていると、多国籍企業が地元の企業のCSRを牽引していく部分は非常に大きいと思います。先ほどの秋山さんの話でも、富士ゼロックスさんがあのような仕組みを作ることによって他の地元の企業を啓発していって、そのような動きにつながっていく部分があるのだろうと思います。多国籍企業が牽引していく部分と、地元企業や現地企業に学ぶものも当然あるのだと思います。押し付け、ドナードライブでないものを実行していく上では、地元はどのようなことをやっていこうとしているのかをしっかり見ていくことが必要だと思います。バングラデシュに進出している企業は多いとは言えないので、バングラデシュのNGOがやっている事業に学ぶのは難しいかもしれませんが、日本のケースで言っても、日本の中でNGOが運営している企業が存在しています。そこは何を考え、何を目的にやっているのかということから、企業が集まっているところでその運営の仕方や、消費者、顧客との関係の作り方など非常に学ぶべきものが多かったように記憶しています。そのような学びあいの場をこれから必要になるのではないかと思います。

大久保メンバー
 元々CSRのムーブメントは、社会と企業と行政の役割変化の一つの大きな流れを受けていることによると考えています。その意味で、アジアとの関係では、これまで日本がやってきたことはODAに基づく政策が中心であったように思います。ところが、CSRの議論はその役割変化の中で一番トピック的な、いわゆる民民規制、つまり民間同士での規制をどのように行っていくのかということがその発端にあったことに遡ってみると、もっと民間同士のアジアの国々との交流があっても良いのではないかと思います。
 その時に、日本は大企業だけではなく、中小企業が非常に多く、実はこれらの企業がかなりアジアに進出しているという実態があります。中国人の方数人にお会いしてCSRの議論を個人的に行っていると、やはり日本企業の問題はそのような中小企業の方が進出したときに、どのような対応をとられているかということに対して、アジアの方々は非常に見ていると感じました。ところが、必ずしも品行方正な行動をとっていないケースがあります。多国籍企業は非常に厳しく管理され、やっているのですが、そうではないところは非常に強く目に映るのだとおっしゃっていたことが印象に残っております。
 そのようなことにおいて、このような民民規制の中で、日本のより多くの企業がアジアの中できちんとCSR活動に根ざした様々な活動をしていくことが非常に重要であると思います。そのためにはまず、国内の企業において、大企業だけではなく中小企業までCSRを波及した形で活動を展開していき、その考え方を持ってアジアの企業との交流を促進し、当然その先にはNPO、NGOとの関係が出てくるのではないかということを実感しました。
 最近、色々な企業に行って実感することは、日本の企業はステークホルダーの認識が今までなされていなかったと思います。認識されたとしても、ステークホルダーが何を求めているかということをあまり見てこられなかったように思います。これはお上の国家なので、役所があって企業があってその下にステークホルダーがあるという位置付けになっていたことも一つの特徴であるかもしれません。その意味においては、それぞれの国にはそれぞれのニーズがあるので、そのような草の根的な活動の中で、それぞれの国のニーズを拾い上げていって、それを活動に転化していき、それを中長期の中で良い方向に向けていくべきではないかと思います。したがって、日本は環境が大切だと言っていますが、それは日本のニーズであって、その国々のニーズを拾い上げて活動していくことが重要ではないかと思います。

齊藤メンバー
 我々は一方で日本の経営者とヨーロッパの経営者との会議、他方で日本の経営者とASEANの経営者との会議を開催していますが、ヨーロッパの経営者との会議では既にCSRは議題に上っていて、むしろヨーロッパの経営者の方が専門的過ぎて、秋山さん、荒井さん、酒井さんがおっしゃるようなことを普通に話し、日本の経営者がたじたじになることがあります。しかしASEANとの経営者との会議では、双方のアジェンダにCSRや環境という言葉が上ってこなく、多少の関連として話されることはあっても、例えばガバナンスレベルの話で終わってしまって、アジアと日本の中での経営者同士の問題意識は低いと思います。もう少しセクター間での意識の統一、意見を拾いあう場があっても良いのではないかと思います。

足達メンバー
 コミュニケーションが重要だということが認識できたと思います。もう少し具体化するために、意見はありますか。

五所メンバー
 コミュニケーションに関して、例えば日本企業が海外に進出して企業の中でCSRに取り組んでいく場合、先ほどのサプライヤーの問題もあると思いますが、監査に行く際に必ず現地スタッフを連れて行きます。その人は日本ポリシーを少し教育して、それを現地風に慣らして、それを今度はサプライヤーの方に現地の従業員を通してコミュニケーションをとっていくことは重要だと思います。そのような実例をいくつか伺っております。その時に理解力があるようです。日本人が行うよりも、日系企業で働いている現地スタッフが、このようなことをみんなにしてもらって、このようなことをツールとして教えるのでやってみませんかということで、橋渡し役をしています。したがって、一つひとつの企業で、一つひとつのサイトでそのようなことを少しずつやっているので、そのような情報を是非企業の方がまとめて、政府の方が事例集のようなものとして、日本企業から海外の企業へ投げていったり、政府へ投げて行ったりすると、橋渡しとしての役割が政府やNGOの役割として大きくなってくると思います。地道なもので良いと思いますので、そのようなものをまとめていくと、国別のものやローカル別の傾向や、コミュニケーションのとり方などがわかってくると思います。そのようなことを是非環境省の方にはやっていただきたいと思います。

長沢メンバー
 先ほど申し上げた経団連のガイダンス文書は、コミュニケーションだけではなく、事例をぶら下げていくという話です。正に地域別、業種別、規模の大きさなどで事例をぶら下げていければ良いと思っております。まだ、どのようにぶら下げられるかというのは、議論が分かれているところです。そういうことをしていければ、実際にパフォーマンスを上げていくのに役立つのではないかと思います。

坂口メンバー
 南アジア、インド、東南アジアなどはNGO大国なので、本当にしっかりとしたところが多いと思います。東アジアは少し異なります。中国は官製のNGOが多いです。
 先ほど荒井さんの3000社のサプライチェーンという話で、きっと、小回りの効く良いNGOと現地で手を組まれることによって、松下さんならば松下さんの方針をきちんと伝えていく一つの役割を果たすことができるNGOは日本以上にあると思います。現地に行ったら、NGOの人たちにその国のイシューや旬な課題などをヒアリングする、ディスカッションする場をもたれると、良いのではないかと思います。ただNGOにも色々ありますので、ドナードライブがかかっているところに行ってもしょうがないので、ローカルNGO、ブラックやオックスファムのような全国区のナショナルNGO、またアクションエイドなどのインターナショナルNGOなどは各国に支部を置いているので、そこで、この国でどんな良いNGOがあるのかを話を聞くのが良い思います。単にドネーションするための先ではなく、協働していくためのソフト面のイシューは何があるのか、それを解決するためにはどうすれば良いのか、あるいはそこに企業はどのように関われるのかなどが聞くことができるのではないかと思います。NGO大国は日本ではなく、海外であり、良い意味でNGOを活用していかれたら良いと思います。

黒田メンバー
 NGOと言うと、ある特定のイメージを持っている団体を想像しがちですが、昨年と今年にベトナムに行き、そこで民間セクターの判定をしている、非常に共産党の強い国でありますが、そういった中で民間の人たちが民間セクターを支援するような商工会のような団体がベトナムにおいてもできていますので、JETROさんなどとも色々とお付き合いをされているので、そのようなところにお願いする役割があるのではないかと思います。実際にドイツの商工会などはそのようなところに多額の支援をしています。日本もそのようなところとつながっていくと、例えば中小企業で、日本も安い労働市場を求めて、中国ではやりにくいこともあってベトナムシフトをしているという話ですが、中には一人でいらっしゃっているところや、そのような方たちを支援している日本の銀行もありますが、CSRと言う以前に一人で何かをやっていかなければいけない、いわゆる多国籍に活躍されている企業とは全く違う事情があることをホーチミンの近くで聞いてきました。そういった時に現地のNGOをかなり広く捉えた形で、もう少し日本のNGOも何らかの一定の役割を果たすことができると思いますが、ステークホルダーにつながるための回路、どのような道筋があるのかについて情報などをお互いに共有し合いながら、どのようなところにアプローチするとより広く伝わるかなど、そのようなことについてもう少し研究、セクターを越えた連携で、そのような調査ができれば良いと思いました。

山田メンバー
 IPP、環境配慮型製品について申し上げます。我々エコマークの中で議論になっているのが、予防原則的な有害物質の規制と資源を循環させていくこととは、ともすればトレードオフの関係になり得ることがあるということです。そういった時に、ヨーロッパ的な予防原則に基づいた有害物質の規制を日本のようなリサイクル回収が進んでいる国に当てはめるのが全て正しいわけではないという考えもあります。特に国際流通商品においては、企業ではグローバルに製品設計の共通化を進めていて、それは環境配慮の上でも大変重要なことだと思うのですが、その一方で、その国の社会システムやインフラなどに基づいた環境配慮もやっていただきたいというのが、我々団体におけるステークホルダーの協議の場から出てきています。我々事務局としては、GEN(Global Ecolabeling Network)の枠組みにおいてもそのようなことを訴えていきたいと思います。例えば、製品の回収となると、インフラや社会システムに加えて、地元の市民の方との協力が必要不可欠であると思います。そういったことにも企業の方には是非取り組んでいただきたいと思います。

長沢メンバー
 環境と関係ありませんが、地域によってはイシューに特化してやらなければならないことがこれからあるのではないかと思います。例えば、これから先、中国においてAIDSが問題になると言われています。それは従業員の問題でもあると思います。それにどのように対応していくかというのは、おそらく日本の企業が単体でやり始めたら、何らかの形で批判を被るかもしれません。
 もしそのような問題に対応していくときには、例えば中国のある地域に進出している日本の企業だけではなく、欧米の企業、中国の企業、NGO、中国政府、公的機関のような団体が連携をして、ある程度カスタマイズできる、AIDSの予防、治療のようなプログラムのようなものを作り、その上で進めていくことが必要だと思います。例えば、労働安全や安全衛生と言われるようなイシューに対して、色々な機関が横に連携して進めていくことが良い地域があるのではないかと思います。したがって、地域とイシューをかけたようなものなど、連携のあり方には様々な形があると思います。

黒田メンバー
 今の話に関連して、インドネシアの保健・医療のNPOでHIVなどに取り組んでいる団体があります。その団体が、企業向けに、企業の従業員やその家族などを考慮して、HIVの予防研修をしています。それはインドネシアの企業と、その地域で創業している国際的な企業を対象としています。日本の企業の方に参加していただきたいがどこにアプローチしたらよいかわからないという相談を受けています。
 国際協力銀行に関連する話ですが、ベトナムに関することです。橋を作る建設労働者の中にHIV感染の労働者が多いので、その方たちのケアも含めた大規模インフラ建設にシフトしようとしています。このような問題に対しては、政府と企業が一緒になって対応していく方がより効果的なのではないかと思います。

足達メンバー
 本日が4回目となりました。社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会ですが、マーケットは変わっているのかというところから始めて、何が課題なのか、本日はアジアについて議論をしました。どの回も、「コミュニケーション」や「情報」のことに結論が落ち着いたのではないかという印象を持っております。結局それらが様々なものの根っこにあるのだと思います。
 日本人は、どちらかと言うと、コミュニケーション下手、意見を言わない、人の批判をしないという特徴がありますが、このCSR、あるいはアジアでもそのようなシビル・ソサイエティが育っているという中では、もっともっとコミュニケーション上手にならなければならないことだと思います。またそのことが実は環境問題に対してもポジティブな影響を与えるだろうし、市場の進化ということに対しても一定のポジティブな貢献ができるのではないかと思います。個人的には4回の議論を通じて、以上のような印象を持ちました。
 予定では議論はこれで終了となります。これでどんな報告書ができるかということに不安を抱えておりますが、それは事務局の方で、後で相談していただくことにします。
 次回は2005年2月4日金曜日、一応10時から12時までとしたいと思います。報告書のドラフトをお示しし、皆様からのご意見を伺いたいと思います。あわせて、社会的責任に向けた官民の役割を、環境省さんの研究会であることとも踏まえて、どのように報告書に盛り込んでいくかもご意見いただきたいと思います。報告書自体はスーパーバイザーの方たちのご意見も伺いながら事務局の責任として発表しようと考えております。皆様には、文言の確認や訂正などをいただかないように進めていこうと思っております。
 それでは、第4回研究会を終了いたします。


以上