環境省自然環境・生物多様性国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方に関する検討会

国立・国定公園内における
風力発電施設設置のあり方に関する検討会(第4回)
議事要旨


委員名簿(50音順・敬称略)
氏名 所属
飯田 哲也 NPO環境政策エネルギー研究所所長
牛山 泉 足利工業大学総合研究センター長
小河原 孝生 (株)生態計画研究所所長
熊谷 洋一 東京大学大学院新領域創成科学研究科・農学生命科学研究科教授
瀬田 信哉 (財)国立公園協会理事長
本藤 祐樹 (財)電力中央研究所 経済社会研究所 主任研究員
森本 幸裕 京都大学地球環境学堂大学院教授
山岸 哲 (財)山階鳥類研究所所長
吉野 正敏 筑波大学名誉教授・国際連合大学上席学術顧問 (欠席)

1 開催日時:

平成15年12月15日(月)14:00~16:00

2 開催場所:

経済産業省別館944会議室

3 議題:

(1) 国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方に関する基本的考え方(骨子案)について
(2) その他

4 議事経過:

なお、検討会における主要な発言は以下のとおりである。

◆ 国立・国定公園内における取扱検討に係る全般的事項

○国内エネルギーについて、省エネルギー政策だけでなく、新エネルギーによる供給体制へとドラスティックに転換する必要がある。自然保護原理主義に陥らないよう留意すべき。

○わが国の自然植生は、多くが国立・国定公園に指定されている反面、指定地域外にもあるため、国立・国定公園の区域外にも適用できるルールを検討すべき。

○自然は失われたら二度と元には戻らないため、守るべき所はきちんと守るというゾーニングの考え方が重要。環境省として何故これまで国立・国定公園を保護してきたかということを押さえておくべきであり、ある種の自然保護原理主義的な面も必要と思う。

○自然風景や自然環境を国民共有の財産として守っている自然公園の意義を考えれば、大きな風車は基本的に避けるべきもので、何処まで譲るのかという話。国立・国定公園内で風力発電施設の是非を問う前に、区域外における風力発電施設の可能性等について、きちんとした説明がなされるべき。

○京都では自然風景保全条例に基づき、見える見えないといった次元の議論を超えて、三山に囲まれた地域一帯の古都の風景の保全を図っている事例もある。

○既にある人為的事象による影響も踏まえ、風力発電施設の建設による影響の程度を判断すべき。景観を守るべき大事な地域とそれ程でもない地域とゾーニングして考えるべきではないか。

○公園の保護と風力発電の推進というそれぞれの公益性に如何に折合いをつけるかが課題であるが、自然に対して謙虚な姿勢で検討する中から結論が出てくるのではないか。

○公益性の議論について、言葉にするのは難しい面もあろうが、定義を明確にしておくことが必要である。

◆ 環境への影響評価及び審査基準のあり方

○基準の骨子案は景観を中心とした内容となっているが、風力発電施設の設置にあたっては渡り鳥の中継地や希少種の繁殖地を避ける等、野生生物への配慮について予防的措置として明確に記載すべき。また、事前のアセスメント手法としてレーダーを利用した調査の実施等についても検討すべきではないか。

○自然景観資源である海食崖の約7割が国立・国定公園区域に含まれているとのことだが、海食崖は希少な鳥類等の生息地になっているケースも多いと思われる一方、生息状況に関するデータは不足している。このような場所は風況がよく風力発電施設の設置が計画される可能性もある。生物多様性保全という新しい役割を踏まえ、新しい基準では、このような場所では野生生物の調査を義務づけるなど、慎重に取扱うことが必要。
(事務局)従来の審査基準においても、植物をはじめとした野生生物についても景観の構成要素として保全しており、生物多様性という観点も含まれている。風景の保護と一体のものとして、生息・生育する野生生物も適切に保全していきたい。

○風力発電施設は高さが命であり、従来の審査基準等で用いられているような数値基準を適用することはナンセンスではないか。一律の高さ制限等ではなく、プロセスを含めた基準の検討が必要。
(事務局)現在の許可基準が曖昧との指摘を受け、数値的基準を検討している。これまで建築物等で用いている数値基準は過去の自然公園行政等の積み上げや経験の中で出来上がってきたもの。一律の数値基準の弊害を踏まえつつも、出来るだけ具体的な数値基準の検討が必要と認識している。

○基本的に自然公園の地種区分は自然的類型に基づく区分であると考えるが、骨子案にある「自然的・社会経済的状況」とは何を指しているのか。
(事務局)地種区分は土地所有等社会状況が反映されることもあるが、基本的には地域の自然的条件に基づくもの。このため、地域の状況から全国的な審査基準を一律に適用することが不合理と認められる場合、衡平性を確保する観点から基準の特例を定める場合がある。

○山稜線に設置される線的な施設とウィンド・ファームのような面的な施設と分けて景観影響を整理すべきではないか。
(事務局)技術的に可能かどうか検討したい。

○スペインや北米等雄大な地形の地域と比べ、日本のような複雑な地形においては、風況の良い場所にエネルギー効率を優先し風力発電施設を作ろうとすると景観と馴染みにくい。デンマークではコペンハーゲン沖にウィンド・ファームを設置する際、街から展望するシミュレーションを行い、6000人の住民の意見を聞いて決定したとのこと。審査に当たってはエネルギー最大ということではなく、景観に配慮してレイアウトを検討すべき。

○見え方の指標の事例として、鉄塔に係る環境アセスメントのガイドラインを引用しているが、風力発電施設は羽根が回るという動態的な工作物であり、鉄塔とは見え方が異なる。風力発電施設の視覚的特性を踏まえた評価を検討すべきではないか。

○一度手を加えると元には戻らない自然の不可逆性に鑑み、コア部分の保護と事前の環境影響評価が重要であるのは当然であるが、個々の「事後評価」が将来的には全国的な「事前評価」となるものであり、審査に盛り込むべき。
(事務局)法的には、事前の環境影響調査は環境保全上の支障の程度を判断するために申請時に必要としているが、事後の環境影響調査には許可条件として実施を求めるのが通常である。今後どのように法令等に文言を盛り込めるか検討したい。また、自然環境保全基礎調査等幅広いデータを用いて、環境影響の全体像をつかんでいきたい。

○エッフェル塔のように建設時には反対が大きかった施設でも時間をかけて周辺の景観と調和し、風車により景観が引き立つなど、長期的には評価される場合もある。

○宮古島では台風で風車が倒壊し、羽が飛んだ事件が起こったが、このような場合は周囲の植生や人に重大な影響を与えるおそれがある。風力発電施設の安全性やリスクにも言及しておく必要があるかもしれない。

○骨子案では、地域住民の意見は、事前の環境調査が実施されない場合は反映され得ないのではないか。
(事務局)住民意見をどの段階でどのように取り入れていくべきか、手法論を検討する必要性があると認識している。

◆情報の収集・共有

○バードストライクなど鳥類への影響については、専門家、施設周辺の住民、自然保護団体、事業者等が協力して、信頼しうるデータを収集、共有することが重要である。先に北海道で開催されたシンポジウムなども有益である。

○国立・国定公園内外において、環境省としても環境影響に関する調査に積極的に取り組むべき。

○事後評価のデータを収集、共有するためのシステムとして、国立・国定公園内外の共通のガイドラインやデータベースを構築していくことが重要。

◆その他

(事務局)風景・景観論の議論が未だ不充分と認識している。行政的な調整結果としての地種区分と風景や景観のまとまりが、必ずしもしっくりいかない状況もある。風力発電賛成の声がある一方で、自然を守るべきという声が劣ることはないのもまた事実。

(座長)風景や自然公園の保護をどのように考えるかさらに整理が必要である。当検討会の議論の背景となる風景論は、客観的・科学的な風景論である必要がある。今後、ゾーニング及び風力発電に関する基準の考え方について、風景研究会の意見も踏まえながら検討を深めたい。


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環境省自然環境局国立公園課(大代表03-3581-3351)
課長 : 笹岡達男(内線6440)
課長補佐 : 牛場雅己(内線6442)
保護管理専門官 : 中島尚子(内線6438)