本文へジャンプ

環境省 水鳥救護研修センター

ここから本文

閣議決定(平成18年12月8日)

油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画

第1章 序説

第1節 計画の目的
 四面を海に囲まれた我が国は、海洋を取り巻く多様な自然環境に恵まれるとともに、そこに存在する豊かな漁場等から多くの恩恵を受けるなど、海洋環境との密接な関係の中で国民生活が営まれている。このようなことから、我が国周辺海域において、万一、油、有害液体物質、危険物その他の物質(以下「油等」という。)による汚染事件(放射性物質による汚染事件については、原子力災害対策特別措置法等により国家的な体制が確立されていることから、本計画の対象としない。以下「油等汚染事件」という。)が発生した際には、その初期の段階から迅速かつ効果的な措置を講ずることが、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護の観点から必要不可欠である。また、我が国が世界有数の海運国でありエネルギー輸入国であることを考慮すると、我が国がこのような準備及び対応の体制を整備しておくことは極めて重要である。この場合、国、地方公共団体を始め、石油業界、海運業界、鉱山業界、化学業界、漁業関係者その他の官民の関係者が一体となって取り組むことが重要である。
 このような考え方を踏まえ、この計画は、「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」第6条(1)(b)及び「2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書」第4条(1)(b)に規定する「準備及び対応のための国家的な緊急時計画」として、油等による汚染に係る準備及び対応に関する我が国の体制を体系的に取りまとめたものであって、国際約束の的確な実施を確保するとともに、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護のため油等汚染事件に我が国が迅速かつ効果的に対応することを目的として策定するものである。
第2節 他の計画との関係
 この計画は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)に基づく防災基本計画、防災業務計画及び地域防災計画、環境基本法(平成5年法律第91号)に基づく環境基本計画、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号。以下「海防法」という。)に基づく排出油等防除計画、石油コンビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号。以下「石災法」という。)に基づく石油コンビナート等防災計画並びに緊急事態に対する政府の初動対処体制について(平成15年11月21日閣議決定)と調和を保ったものであり、これらと相まって油等汚染事件に迅速かつ的確に対応できるよう策定するものである

第2章 油等汚染事件に対する準備に関する基本的事項

第1節 油等汚染事件に関する情報の総合的な整備
 油等汚染事件への対応を総合的かつ効果的に実施するため、関係行政機関は、内外の関係情報を収集・整理し、適宜最新のものとして維持するとともに、関係行政機関で構成する「油等汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議(以下「関係省庁連絡会議」という。)」等の場を通じて相互に交換する。
 海上保安庁は、それぞれの関係行政機関が把握している国内の各種分野の専門家及び排出された油等(以下「排出油等」という。)の防除資機材に関する情報を、関係行政機関等の協力を得て一元化するとともに、油等汚染事件への準備及び対応に関する活動に活用しようとする関係行政機関、地方公共団体等の要請に応じて提供し得る体制の確立に努める。
 また、関係行政機関は、油等汚染事件による環境への影響を迅速に把握・評価し、また、油等汚染事件に対応する措置を的確に講じ、被害の発生を最小限とするために参考とすべき、各海域ごとの自然的・社会的・経済的諸情報(水質、底質、漁場、養殖場、工業用水等の取水口、海水浴場、さんご礁、藻場、干潟、鳥類の渡来・繁殖地、史跡等に関する情報)を収集・整理し、適宜最新のものとして維持する。
 さらに、収集・整理した情報は、それぞれの行政に反映できるよう共有化するとともに、情報図として整備する等その内容を充実し、関係行政機関、地方公共団体等において有効に活用できる体制の確立に努める。さらに、地方公共団体が地域の実情に応じて行う油等汚染事件への準備及び対応に関する活動の促進を図るため、関係行政機関は、地方公共団体の要請に応じて適切に関係情報を提供するよう努める。
第2節 対応体制の整備
 関係行政機関、地方公共団体等は、油等汚染事件への対応について必要な対策を適切に実施するため、それぞれの機関の対応体制及び機関相互の協力体制の整備を図る。この場合、関係行政機関は、関係省庁連絡会議の場等を通じ、油等汚染事件に対する協力体制について必要な調整を行う。
 海上保安庁は、油等汚染事件への対応を迅速かつ的確に実施するため、海防法に基づき排出油等防除計画を作成するとともに、海上における特殊な災害に対応する特殊救難隊及び機動防除隊の育成強化を図り、船艇・航空機による24時間の出動体制を確保する。
 また、独立行政法人海上災害防止センター(以下「海上災害防止センター」という。)における防除措置の実施に関する対応能力の一層の確保に努める。また、海防法に基づき、管区海上保安本部長、タンカーの船舶所有者等は、官民合同の組織として排出油等の防除に関する訓練の実施、重要事項の協議等を行う排出油等の防除に関する協議会を、関係地方行政機関、地方公共団体等と連携し、必要に応じて組織し、対象海域の広域化、それぞれの機関の防除の実施に関する役割分担の明確化等に努める。
 水産庁及び環境省等は、油等汚染事件発生時における環境影響調査、野生生物の保護、漁場等の保全等の対応措置が迅速かつ的確に行われるよう、各行政分野における体制の整備に努めるとともに、地方公共団体、関係団体等との連携協力体制の一層の確保に努める。
第3節 通報・連絡体制の整備
 船舶の船長、施設(陸地にあるものを含む。)の管理者等は、当該船舶又は施設から海洋への大量の油等の排出があった場合及び排出のおそれのある場合には、海防法に基づき、電話、電信その他のなるべく早く到達するような手段により、直ちに最寄りの海上保安部署等に通報する。
 また、石油コンビナートの事業を統括管理する者は、当該石油コンビナート等における石油の漏洩その他の異常な現象が発生した場合には、石災法に基づき直ちに消防署等に通報する。
 さらに、鉱業権者は、自らが管理する鉱山施設等において大量の油等の海洋への排出があった場合及びそのおそれがある場合には、鉱山保安法(昭和24年法律第70号)に基づき直ちに産業保安監督部等に通報する。
 海面に大量の油等が広がっていることを発見した者その他海上における異常な現象を発見した者においても同様に直ちに最寄りの海上保安部署等に通報する。
 海上保安部署等、消防署、警察署等においては、24時間の情報収集体制を確保する。
 関係行政機関、地方公共団体等は、内部の若しくは相互の連絡体制が確保されるよう、又は関係団体等との連携協力の下に必要な対策が適切に実施されるよう、それぞれの機関内部及び機関相互間における夜間、休日の場合等を含めた連絡体制の整備を図るとともに、防災行政無線の活用等により通信手段の確保を図るよう努める。
第4節 関係資機材の整備
 船舶所有者等は、海防法に基づき、排出油等の防除措置を実施するため必要な資機材等を備え付けるとともに、当該資機材等を適切に使用することができるよう、その備付け場所、管理、設備等に関し、必要な措置を講じておくものとする。また、海上災害防止センターは、同法に基づき、海上保安庁長官の指示若しくは船舶所有者等の委託により防除措置を実施するため、又は船舶所有者等の利用に供するために必要な資機材等を保有する。
 また、鉱業権者は、鉱山保安法に基づき、排出油等の防除措置を実施するために必要な資機材を備える。
 石油コンビナートの事業を統括管理する者は、当該石油コンビナート等における石油の漏洩に備え、石災法に基づく資機材を備え付ける。
 港湾管理者は、港湾法(昭和25年法律第218号)に基づき、港湾区域内に流出した油等の防除に必要な資機材を備える。
 海上保安庁は、油等汚染事件への対応を迅速かつ的確に実施するため、船艇、航空機、情報通信施設、排出油等の防除資機材等の整備を推進する。
 経済産業省は、関係者の利用に供するため、石油事業者団体等が行う排出油等の防除資機材の整備事業及び当該事業の普及・啓蒙を推進する。
 水産庁は、油等汚染事件による漁場等の汚染の防止又は軽減を図るための資機材の整備を推進する。
 環境省は、野生生物の保護を行うに当たって必要な資機材が適切に整備されるよう措置する。
 関係行政機関は、各行政分野において、油等汚染事件への対応のため必要な資機材の整備に努める。
 地方公共団体は、必要に応じ、油等汚染事件への対応のため必要な排出油等の防除資機材等の整備に努める。
 また、必要な排出油等の防除資機材が、現場に迅速に配置され、活用できるよう日頃から官民の連携の確保に努める。
第5節 訓練等
 関係行政機関、地方公共団体等は、油等汚染事件への対応を迅速かつ的確に実施するため、事件の形態・規模、気象・海象、油等の性状等様々な条件設定の下でのシミュレーション訓練手法を導入するなど工夫した関係機関相互の有機的連携に重点を置いた総合的かつ実践的な訓練を、排出油等の防除に関する協議会等を活用して行う。訓練後には、その評価を行い、課題等を明らかにし、必要に応じ、それぞれの機関の対応体制等の改善を行う。
 関係行政機関、地方公共団体等は、油等汚染事件への対応を迅速かつ的確に実施するため、海上災害防止センターの海上防災のための措置に関する訓練事業を活用するなどして、人材の育成に努める。
 環境省は、野生生物の保護等を実施する上で必要な知識及び技術の修得に関する地方公共団体、関係団体等に対する研修等を行う。
 また、海上災害防止センターは、海防法に基づき、より的確な防除技術を普及するため、海上防災のための措置に関する訓練事業を行うとともに、自らの防災措置に関する技術の向上に努める。
 これらの訓練等の実施に当たっては、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護の観点から適切に実施されるよう配慮するものとする。
 関係行政機関は、関係者に対し講習会、訪船指導等を通じ、油等汚染事件発生の防止及び当該事件発生の際の対応に関する指導を行い、これを通じて海洋環境の保全に係る思想及び技術の普及・啓蒙を図る。
 民間事業者は、油等汚染事件発生の際に迅速かつ的確に対応できるよう、積極的に訓練等を行うとともに、人材の育成に努める。
第6節 近隣諸国等との協力体制
 外務省は、国土交通省及び海上保安庁と協力しつつ、近隣諸国等との油等汚染事件発生時の連絡体制の強化や要請に応じた資機材の提供等、海洋汚染に関する協力体制の一層の強化に努める。

第3章 油等汚染事件に対する対応に関する基本的事項

第1節 保護対象についての基本的な考え方
 油等汚染事件に対しては、海洋環境の保全の観点並びに国民の生命、身体及び財産の保護の観点の両面に配慮して適切な対応方策を講ずるものとする。この場合、第2章第1節の各海域ごとの情報等も踏まえて、被害の発生が最小限となるように措置を講ずるものとする。
第2節 対応体制の確立
 油等汚染事件が発生した場合、関係行政機関、地方公共団体等は、油等汚染事件への対応について必要な対策を適切に実施するため、それぞれの機関の対応体制及び機関相互の協力体制の確立に努める。
 海上保安庁長官、管区海上保安本部長又は都道府県知事は、自衛隊の派遣要請の必要性を油等汚染事件の規模及び収集した被害情報から判断し、必要な場合には、自衛隊法(昭和29年法律第165号)の災害派遣の規定に基づき、直ちに要請するものとする。また、事態の推移に応じ、要請しないと決定した場合は、直ちにその旨を連絡するものとする。
 自衛隊は、当該要請を受けたときは、要請の内容及び自ら収集した情報に基づいて部隊等の派遣の必要の有無を判断し、部隊等を派遣する等適切な措置を行う。
 関係行政機関は、大規模な油等汚染事件が発生した場合には、事件及び被害の第一次情報についての確認及び共有化、応急対策の調整等を行うため、必要に応じて、関係省庁連絡会議を開催する。
 内閣危機管理監は、大規模な油等汚染事件が発生した場合又はそのおそれがある場合であって、情報の集約、内閣総理大臣等への報告、関係省庁との連絡調整を集中的に行う必要がある場合は、事態に応じ、緊急参集チームを官邸危機管理センターに緊急参集させ、政府としての初動措置に関する情報の集約等を行うとともに、官邸危機管理センターに官邸対策室を設置する。
 国は、油等汚染事件が発生した場合において、収集された情報により、事件の規模、被害の広域性等から、応急対策の調整等を強力に推進するために特に必要があるときは、内閣総理大臣に報告の上、海上保安庁長官を本部長とする警戒本部を設置する。この場合、警戒本部及びその事務局の設置場所は、原則海上保安庁内とする。また、警戒本部が設置された場合は、現地の状況を把握し、応急対策の迅速かつ的確な実施に資するため、現地に管区海上保安本部長を本部長とする連絡調整本部を設置する。この場合、連絡調整本部及びその事務局の設置場所は、原則管区海上保安本部内とする。
 国は、収集された情報により大規模な被害が発生していると認められたときは、直ちに原則国土交通大臣(石災法に基づく石油コンビナート等特別防災区域(以下「石油コンビナート等特別防災区域」という。)からの油等汚染事件については総務大臣)を本部長とする災対法に基づく非常災害対策本部を設置する。非常災害対策本部の設置方針が決定されたときは、内閣府は、速やかに所要の手続きを行い、非常災害対策本部の設置等を行う。この場合、非常災害対策本部及びその事務局の設置場所は、原則国土交通省内(石油コンビナート等特別防災区域からの油等汚染事件については消防庁内)とする。また、非常災害対策本部は、関係地方行政機関、関係地方公共団体等のそれぞれの機関が実施する応急対策の総合調整に関する事務のうち、現地において機動的かつ迅速に処理する必要があるときは、原則国土交通副大臣(石油コンビナート等特別防災区域からの油等汚染事件については総務副大臣)を本部長とする非常災害現地対策本部を設置する。
 なお、警戒本部又は非常災害対策本部(以下「非常災害対策本部等」という。)は、官邸対策室と緊密に連携を図るものとする。
 関係行政機関又は非常災害対策本部は、現地の状況を把握し、迅速かつ的確な対策の実施等に資するよう、必要に応じ、調査団を現地に派遣する。
 地方公共団体は、必要に応じ、災対法に基づく災害対策本部等を、又は石災法に基づく石油コンビナート等防災本部の現地防災本部を設置する。
 関係行政機関、地方公共団体等は、これら本部が設置された場合には、職員を派遣するなどして、これら本部との間における情報の交換を促進し、油等汚染事件への的確な対応体制を確保する。
 国と地方公共団体等との情報の交換には、連絡調整本部又は非常災害現地対策本部を活用する。
第3節 油等汚染事件に関する情報の連絡
 油等汚染事件の発生又は発生するおそれについて連絡を受けた海上保安庁その他の関係行政機関、地方公共団体等は、必要に応じ、あらかじめ定められた連絡網に従い、官邸、他の関係行政機関、地方公共団体等に、入手した情報、対応に必要な情報を提供する。
 関係行政機関、地方公共団体等は、被害情報、対策実施情報等を、官邸対策室又は非常災害対策本部等(設置された場合に限る。以下同じ。)に連絡(地方公共団体等は、関係行政機関又は連絡調整本部若しくは非常災害現地対策本部を介して連絡)し、当該連絡を受けた官邸対策室又は非常災害対策本部等は、必要に応じ、内閣総理大臣に報告するとともに、関係機関に連絡する。
 関係行政機関、地方公共団体等は、当該油等汚染事件に対し迅速かつ適切に対応する観点から、事件の収束に至るまで、必要に応じ、相互に緊密な情報の交換を行う。
第4節 油等汚染事件の評価
 海上保安庁は、油等汚染事件発生の情報を入手したときは、更に詳細な情報を得るように努め、船艇、航空機を油等汚染事件発生場所に急行させるほか、必要に応じ、派遣された自衛隊機等の協力を得て、当該事件の調査を行う。事件の調査結果に基づき、その規模及び態様を分析し、第2章第1節の情報を踏まえ、気象・海象の状況、船舶交通の状況等を考慮して、当該事件の影響を評価し、対策の実施に資するよう、これを官邸、関係行政機関、地方公共団体等に提供する。
 また、水産庁及び環境省は、海上保安庁その他の関係行政機関、地方公共団体等からの情報に基づき、当該油等汚染事件が野生生物及び漁業資源に及ぼす影響の評価を行い、これを、野生生物の保護、漁場等の保全等の対策の決定に反映させるとともに、その他の対策の実施に資するよう、速やかに官邸、関係行政機関、地方公共団体等に提供する。
第5節 油等防除対策の実施
  1.  油等汚染事件が発生した場合、海防法に基づき応急措置を講ずべき船長等及び防除措置を講ずべき船舶所有者等の関係者による措置が実施されることになるが、海上保安庁はこれらの措置義務者の措置の実施状況等を総合的に把握し、措置義務者に対する指導、援助・協力者に対する指導を行う。防除措置義務者が措置を講じていないと認められる場合は、海上保安庁はこれらの者に対し、防除措置を命ずる。  緊急に防除措置を講ずる必要がある場合、海上保安庁は、自ら防除措置を実施し、又は海上災害防止センターに対して防除措置を講ずべきことを指示する。
  2.  油等汚染事件が発生した場合の排出油等の防除には、例えば、次のような措置があるが、排出油等の種類及び性状、排出油等の拡散状況、気象・海象の状況その他の種々の条件によってその手法が異なるので、防除作業を行うに当たっては、まず、排出油等の拡散、性状の変化及び化学変化の状況について確実な把握に努め、第4節の評価の結果を踏まえて、状況に応じた適切な防除方針を速やかに決定するとともに、関係行政機関、地方公共団体等が協力して、初動段階において有効な防除勢力の先制集中を図り、もって迅速かつ効果的に排出油等の拡散の防止、回収、処理等を実施する。この場合において、海上保安庁その他の関係行政機関等は、他の関係行政機関、地方公共団体等に対し、防除措置の実施に必要な資機材の確保・運搬及び防除措置の実施について協力要請できるものとし、当該要請を受けた関係行政機関、地方公共団体等は、当該協力の必要の有無等を判断し、必要な協力を行う。
     自衛隊は、防除措置の実施に必要な資機材の輸送について、関係行政機関又は地方公共団体から依頼があった場合、輸送の必要の有無等を判断し、航空機、艦船等の輸送手段を使用して必要な支援を行う。
    (1) 排出防止措置
     引き続く油等の排出を防止するためにガス抜きパイプの閉鎖、船体の傾斜調整等による措置を行うほか、破損タンク内の油等を他船又は他の施設へ移送するいわゆる瀬取りを行う。
    (2) 拡散防止措置
     排出油等は、風や潮流の影響を受けて、通常急速に拡散し、海洋汚染の範囲が拡大するものもあるため、油等汚染事件が発生した場合には、必要に応じ、直ちに排出源付近の海域にオイルフェンスを展張して排出油等を包囲し、拡散を局限する。  また、揮発性を有する油等の防除に当たっては、排出油等の性状等に応じ、周囲の状況等を勘案して薬剤等の使用により蒸発ガスの発生を抑制する措置を講ずるものとする。
    (3) 回収措置
     排出油等の回収方法としては、回収船、回収装置等を使用して回収する機械的回収、吸着材、ゲル化剤等の資機材を使用して回収する物理的回収、その他ひしゃく、バケツ等を使用して回収する応急的・補助的な回収があり、状況に応じてこれらの回収方法のうち最も効果的な方法を用いるものとする。
    (4) 分散処理等
     放水装置による放水若しくは船舶の航走により油等を撹拌し、又は処理剤等を使用して油等の分散を促し、大気若しくは海中へ分散させ、生物・自然分解を促進させる処理がある。これは、回収措置の実施、気象・海象、周囲の自然環境、漁場又は養殖場の分布等の状況を勘案して、(3)に掲げる回収方法のみによることが困難な場合において実施するものとする。
  3.  防除措置を実施するに当たっては、第2章第1節の情報図などを参考にし、それぞれの手法の特質と海洋環境への影響を総合的に考慮して実施すること、できる限り海上での回収に努めること、また、海岸等に漂着させざるを得ない場合においてもその後の回収作業や、影響を受けた環境の修復が比較的容易と想定される場所に誘導すること等に注意を払う必要がある。
  4.  排出油等が海岸等に漂着した場合、船舶所有者等の関係者により漂着した排出油等の除去のための措置が実施されることになるが、関係行政機関、地方公共団体等は、当該除去のための措置の実施状況等を把握するとともに、迅速かつ効果的な防除作業が実施されるよう、関係機関の出動可能勢力、当該防除作業への支援体制等の情報を収集・整理し、船舶所有者等の関係者に対し提供等を行うよう努める。
     関係行政機関、地方公共団体並びに港湾、漁港、河川及び海岸の管理者等は、必要に応じ、協力して、漂着した排出油等の除去のための措置を実施する。この場合において、必要な措置を、地元住民、ボランティア等の協力を得て実施する機関等は、第7節の健康安全管理のための体制整備のほか、円滑な防除作業が実施されるよう必要な支援体制の整備に努める。
  5.  回収した油等(油等によって汚染されたものを含む。以下同じ。)は、船舶所有者等の関係者による処理が実施されることになるが、関係行政機関、地方公共団体等は、当該回収した油等の量、処理作業の状況等を把握するとともに、適正かつ円滑な処理が実施されるよう、関係業界団体等の協力を得て、回収した油等の貯留・搬送に従事可能な貨物船・タンカー等、回収した油等の処理施設・当該受入可能量等の情報を収集・整理し、船舶所有者等の関係者に対し提供等を行うなど、必要な支援体制の整備に努める。
     関係行政機関、地方公共団体等は、必要に応じ、回収した油等の処理を実施する。
  6.  油等のうち、引火性や毒性を有するものが排出された場合には、特に以下の点に留意し、防除措置等を実施するものとする。
    (1)
     火災・爆発、ガス中毒等の二次災害を防止するため、検知器具を用いて危険範囲の確認、火気の使用制限等の危険防止措置を講ずるものとする。
    (2)
     排出された物質の特性に応じた保護具を装着させる等防除作業に従事する者の安全確保に努めるものとする。
    (3)
     海上保安庁は、排出された物質の種類及び性状、影響を及ぼす範囲等に関する情報の把握に努め、入手した情報を関係行政機関、関係地方公共団体等に速やかに提供するものとする。
    (4)
     沿岸域において大規模な汚染事件が発生した場合には、関係行政機関、地方公共団体等は、付近住民の生命及び身体を保護するため、必要に応じ、災対法に定めるところに従い、住民の避難等所要の措置を講ずるものとする。
第6節 資機材等に関する情報の提供等
 海上保安庁は、第2章第1節の分野別専門家及び排出油等の防除資機材に関する情報を、関係行政機関、地方公共団体等の要請に応じて提供し得る体制を確保する。  経済産業省は、第2章第4節の石油事業者団体等が行う整備事業において、船舶所有者等の関係者等からの要請に応じて排出油等の防除資機材に関する情報の提供及び排出油等の防除資機材等の貸出しを行い得る体制を確保する。  総務省は、通信機器を、関係業界団体の協力を得る等により、必要に応じて又は関係行政機関、地方公共団体等の要請に応じて供給し得る体制を確保する。
第7節 防除作業実施者の健康安全管理
 厚生労働省及び環境省は、防除作業が実施される場合には、油等の成分、漂着状況等を踏まえ、防除作業における健康又は安全上の配慮事項について検討し、防除作業を実施する関係行政機関、地方公共団体等に対し適切に情報を提供する。  防除作業を実施する関係行政機関、地方公共団体等は、防除作業を実施する者の健康及び安全上の配慮事項について関係者等及び作業現場への周知を図るなど、健康安全管理のための体制整備に努める。
第8節 野生生物の救護の実施
 環境省は、油等汚染事件により野生生物に被害が発生した場合には、排出油等が付着した野生生物の洗浄、排出油等付着に伴う疾病の予防、回復までの飼育等野生生物の救護が、獣医師、関係団体等の協力を得て円滑かつ適切に実施されるよう措置する。
第9節 漁場保全対策等の実施
 水産庁は、油等汚染事件により漁場等に汚染が生ずるおそれがある場合、又は生じた場合には、必要に応じて排出油等の回収等の保全、修復対策が円滑かつ適切に実施されるよう措置する。
第10節 海上交通安全の確保及び危険防止措置
 油等汚染事件の発生により航路筋が閉そくされる等により現場周辺の海域において船舶交通が混雑し、新たな海難が発生する危険が生じ、あるいは、防除作業の円滑な実施の妨げとなる場合には、海上保安庁は、必要に応じ、海防法等に基づき、船舶の退去、航行制限等の措置を講ずる。
第11節 広報等
 船舶交通の安全の確保、付近住民の安全確保、防除作業の円滑な実施等を図るため、関係行政機関、地方公共団体等は、それぞれ必要に応じ、他の関係行政機関、地方公共団体等と連絡調整を図り、迅速かつ的確な広報を行うものとする。
 油等汚染事件が発生した場合には、同様の事件の発生の防止及び一般的な油等汚染事件発生時の対応に関する知識の充実に資するため、関係行政機関、地方公共団体等は、当該事件の原因、汚染の状況、講じた対策等についての状況を記録する。
第12節 事後の監視等の実施
 関係行政機関、地方公共団体等は、前節までに定める措置が終了した後においても、必要に応じ、相互の連携の下、環境影響調査、財産の被害の調査等を実施する。特に、油等汚染事件による沿岸域の生態系等環境への影響は、回復に長期間を要することがあることから、水質、底質、野生生物等への影響の調査を段階的・継続的に実施し、講じた措置の効果を検証する。また、関係行政機関、地方公共団体等は、この結果を踏まえ、必要に応じて補完的な対策を実施する。

第4章 関係行政機関等の相互の連携等

第1節 国家的な連携
 関係行政機関は、所掌事務及び関係法令に基づき、油等汚染事件への準備及び対応のため必要な施策の総合的な企画及び推進、関係法令の整備、調査研究の推進等を積極的に実施する。この場合において、関係行政機関は、関係省庁連絡会議等を活用し、相互に密接な連携を確保するよう努める。
 また、石油業界、海運業界、鉱山業界、化学業界その他の関係業界団体は、その能力を活用し、油等汚染事件への準備及び対応に関し、積極的に取り組むことが期待され、国は、これら関係者を積極的に支援するとともに、これら関係者との連携の確保に努める。さらに、必要に応じ、専門的な知見に基づく助言等を活用するため、排出油等の防除の実施、海洋環境の保全等に関する専門家との連携を図る。
第2節 地域的な連携
 関係地方行政機関等は、所掌事務及び関係法令に基づき、第1節の国家的な連携の下に推進される施策と密接な連携の下に、地域の実情に応じた具体的な準備及び対応の施策を推進する。
 また、地方公共団体等、民間事業者その他の関係者は、関係法令に基づく責務に応じ、又は自発的に、その能力を活用し、地域の実情に応じた具体的な準備及び対応の施策を積極的に推進することが期待される。
 この場合において、関係者は、排出油等の防除に関する協議会等を活用し、相互に密接な連携を確保するよう努める。また、必要に応じ、専門的な知見に基づく助言等を活用するため、排出油等の防除の実施、海洋環境の保全等に関する専門家との連携を図る。

第5章 その他の事項

第1節 調査研究、技術開発の推進
 関係行政機関は、油等汚染事件の防止並びに当該事件による排出油等の防除及び海洋環境への影響の防止に関する調査研究、技術開発を、必要に応じ、民間との連携を図りながら推進する。
第2節 計画の見直し
 国は、この計画の見直しについて随時検討し、必要があると認めるときは、見直しを行うものとする。

HOME | センター概要 | センター所在地 | 関係条約等 | 文献目録 | リンク |

mail

〒191-0041 東京都日野市南平 2-35-2
TEL 042-599-5050 : FAX 042-599-5051
http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/oiled-wb/
E-MAIL : oiled-wb@env.go.jp