エコジン・インタビュー
山崎 直子
2010年4月、日本人女性2人目の宇宙飛行士としてスペースシャトル「ディスカバリー」で宇宙へと飛び立った山崎直子さん。
宇宙から見た地球の美しさ、地上に戻ってきて再認識した自然の素晴らしさ。
どちらをも知る宇宙飛行士ならではの幅広い視点から、宇宙と地球の環境について語っていただきました。
千葉県で生まれた山崎直子さんは、幼少の一時期を過ごした北海道の満天の星空に魅せられた。『宇宙戦艦ヤマト』などのSFアニメの影響もあり宇宙に漠然とした憧れを抱いていた少女は、15歳の時、スペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故をテレビで見て、「亡くなった宇宙飛行士の夢を受け継ぎたい」と思うようになる。それから24年、山崎さんはその夢のバトンを受け取り、念願の宇宙へと旅立つ。宇宙から見た地球は、地上にいた時とは異なる意味をもって山崎さんの目に映った。
「地球の表面を覆う空気の層が、太陽に青く照らされる様はとても美しいのですが、同時にこのぜい弱な大気層によって地上の空気が守られているんだ、ということもよく分かります。そして、“水の惑星”と呼ばれる地球ですが、実は海や川などの水をすべて集めると、地球の体積と比べて非常に少ない量であることもわかってきました。しかも、そのほとんどが海水で、日常的に使える淡水は全体の3%程度。日本は海に囲まれているので水が豊富に思えますが、地球全体を見れば決して多くはない。地球も一つの宇宙船のように、みんなで貴重な資源を分け合っているんですね」
“地球という名の宇宙船”の資源も限られているが、実際の宇宙船ではさらに物資は貴重なものとなる。アメリカ、ロシア、日本、カナダ、欧州宇宙機関が協力して運用する宇宙空間の実験施設・国際宇宙ステーション(ISS)では、極力無駄を出さない工夫がなされ、水や空気は可能な限りリサイクルされているという。
「地球から1kgの物を運ぶと、100万円前後のコストがかかるといわれているため、なるべく地球からの補給には頼らず、国際宇宙ステーション内での自給自足が求められます。地上では、日本などの先進国では、1人が1日で300Lの水を使うとされていますが、宇宙では1人3Lが目安です。そのうち2Lが飲み水で、残りは宇宙食を戻したり体を拭くのに使う。さらに、尿や汗はリサイクルし、呼吸から排出された二酸化炭素はゼオライトという鉱物に吸着させ、加熱して酸素にします。国際宇宙ステーションの水や空気のリサイクル率は90%近くに達していますが、唯一リサイクルが難しいのは食料。現在、宇宙農業の実験も進められているので、いずれは食料も含めて、完全な自給自足が可能になると期待しています」
一方、役目を終えた人工衛星や、その破片などが宇宙空間にスペースデブリ(宇宙ごみ)として増え続けていることも問題視されている。
「いま宇宙空間にあるごみの大半は、宇宙開発の初期から携わってきたアメリカとロシア、及び最近急進している中国によるものです。アジアやアフリカなど、これから人工衛星を打ち上げようとする途上国にとって、宇宙ごみがあることで不利益を被ってしまう。途上国は『ごみを出した国が環境を良くするための負担をすべき』と主張しますが、宇宙開発の先進国からすれば、『受益国みんなで解決するのが筋』という話になって、議論がまとまらないのが現状です。まさに地球上の環境問題と同じようなことが、宇宙でも起きています。そこで調停役を期待されているのが、宇宙開発の先進国でありながら、環境に対する意識も高い日本です。スペースデブリは、これから日本が世界でリーダーシップを発揮できる分野だと思います」
一度地球から離れ、ふたたび地上に戻った山崎さんは、それまで以上に、地球上の何気ない光景や自然に愛おしさを感じるようになったという。
「地球に戻った時、そよ風の気配、緑の香り、花の色、陽の光、土の感触、そのすべてがありがたいと感じました。もちろん宇宙から見た地球は美しかったのですが、地上で見る日常の景色のなんと尊いことか。水も空気も、当たり前と思っていたものが当たり前ではないことが、地球を離れたことで実感できた気がします」
山崎さんは2015年、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)に合わせて環境保護を訴えるビデオメッセージを公開するなど、地球環境にも高い関心をもつ。「国や国籍を超えて、地球に住む一人ひとりが“宇宙船地球号”の乗組員として協力し合いながら、この星のありようを考えていくことが大切ではないでしょうか」
PROFILE ~ やまざき・なおこ
宇宙飛行士。1970年千葉県生まれ。東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程修了。2001年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙飛行士としての認定を受ける。2010年、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し国際宇宙ステーションへ。ロボットアームの操作など15日間にわたるミッションを行う。現在は内閣府宇宙政策委員会委員、女子美術大学・立命館大学客員教授などで幅広く活躍。
写真/かくたみほ
今号の特集
全国に34カ所ある日本の国立公園は、優れた自然だけでなく、
その自然に育まれた伝統文化や食など、地域特有の人の暮らしにふれられるのが特徴です。
訪日外国人旅行者数が年間2,000万人を超える今、国内外を問わず、より多くの人に
国立公園を訪れ、その魅力を知ってもらうため、環境省では「国立公園満喫プロジェクト」という新しい取り組みを進めています。
今回は、このプロジェクトで変わり始める国立公園の姿を追います。
写真/アフロ
日本の国立公園のポテンシャルを活かし、世界中の旅行者が訪れたいと思える場所にすることを目指す「国立公園満喫プロジェクト」。訪日外国人の国立公園利用者を2020年までに、現在の約2倍の1,000万人に増やすことを目標に動き始めています。国立公園はどのように変わっていくのでしょうか。
自然を活用したアクティビティや文化の体験など、外国人も楽しめる魅力的なツアーを開発する
展望地、ビジターセンターなどの拠点施設でゆっくりとくつろいで自然を楽しめる空間を創出する
日本の国立公園の魅力を発信し、どこに行けば何が楽しめるか、日本に来る前、来た後に必要な情報が手に入るようにする
主要拠点へのWi-Fi環境の整備、標識・看板の多言語化、トイレの洋式化など、外国人がストレスなく滞在できる環境を整備
国立公園満喫プロジェクトについて
http://www.env.go.jp/nature/mankitsu-project/
「国立公園満喫プロジェクト」を推進するため、まず先行して8カ所の国立公園で取り組むことを「ステップアッププログラム2020」としてまとめた。地元自治体や民間事業者などとの連携を図りながら、全国の国立公園に先駆けて取り組みを進めていく。
全国で活躍するパークレンジャーたちが国立公園公式Instagram とFacebookで公園内の絶景やパトロール中に出会った生きものなど、今ここにしかない国立公園の魅力を、日英2言語で世界に向けて発信している。
民間企業と連携してプロジェクトを推進するため、環境省では「国立公園オフィシャルパートナー」制度を開設。例えばJALは機内誌「SKYWORD」で毎月国立公園の魅力を紹介、KNT-CTホールディングスは周遊ツアーを企画・販売するなど、パートナーとして情報を発信していく。オフィシャルパートナーとなった企業は、公式ロゴマークを自由に活用できるようになる。
全国34カ所の国立公園を紹介する、環境省のHP「日本の国立公園」を全面リニューアル。また、それぞれの国立公園での遊び方が具体的にイメージできるよう、「2時間ほどハイキングがしたい」「サイクリングに適したコースは?」など、 “ やりたいこと” から選べるモデルコースを紹介するHP「国立公園へ出かけよう!」も新たにスタートした。
国立公園へ出かけよう!
https://www.env.go.jp/park/guide/index.html
阿寒湖や摩周湖に代表される湖が点在し、火山や天然林に囲まれた阿寒国立公園。
最大の魅力である“原生的な自然”と、そこで育まれた文化を利用者に堪能してもらうための取り組みを紹介します。
面積:90,481ha所在地:北海道指定年月日:1934(昭和9)年12月4日年間利用者数:約353万人(平成25年)
初心者でも楽しめるよう、ガイドが丁寧にレクチャー
阿寒湖では原始的な自然環境を活用して、主に5月~10月にはカヌーや周辺の森林を散策するトレッキングが楽しめる。カヌーは、湖内にある遊覧船の周遊コースとは異なり、湖の西側を巡るため、他では見られない風景を水面に近い視点から感じられる。「トレッキングでは湖周辺に広がる、里山とはまた違う手付かずの原生的な森林の中を散策することができます」と語るのは、阿寒ネイチャーセンターの安井岳さん。安井さんのような民間ツアーガイドの同行によって、自然への影響に配慮しつつ、安全に阿寒湖の自然を満喫することができる。
1月~3月はスノーシューでの散策によって、凍った湖面の上を歩いたり、キタキツネやエゾシカなど、周囲に棲息する動物の姿を見かけることも。阿寒湖周辺では、このような四季を通じた自然の魅力をPRしていくため、地域の観光協会などと手を携えながら、新たなツアー・プログラムの開発や利用者の多様なニーズに応えられるガイドの育成を進める。
アイヌ古式舞踊は、国の重要無形民俗文化財にも指定されている
アイヌの人々が暮らす村(集落)の中でも、道内最大級の「阿寒湖アイヌコタン」。ここでは、伝統工芸である木彫りや刺繍(刺繍)の技に触れられ、伝統楽器ムックリの製作体験などができる。村内には、アイヌにとって欠かせないアイヌ古式舞踊が見られる劇場「阿寒湖アイヌシアター イコロ」がある。このアイヌコタンを中心に、自然を尊び共生してきたアイヌの思想や精神への理解を深めるプログラムを提供していく。
ほのかな硫黄の香りに包まれながら、源泉かけ流しの足湯を楽しめる施設も
川湯温泉は、明治期の硫黄山の硫黄採掘から始まり、強酸性の硫黄泉は多くの人々を癒やし、温泉街は1960年~80年代にかけて大きな賑わいを見せた。今後は、世界有数の透明度を誇る摩周湖と、キャンプやサイクリングと娯楽性の高い屈斜路湖との中間に位置し、硫黄山の恩恵を受ける温泉という魅力を武器に、街並みの景観を改善しつつ、“森の中の温泉街”をコンセプトに、滞在型の観光客の増加を目指す。
写真/石原敦志
阿蘇山やくじゅう連山といった火山群と、雄大な草原が特徴の阿蘇くじゅう国立公園。
次々と変化する景観が楽しめるサイクリング、この地域ならではのグルメなど、
2020年に向けた“阿蘇くじゅうならではの未来図”を示します。
面積:72,678ha所在地:熊本県、大分県指定年月日:1934(昭和9)年12月4日年間利用者数:約2,241万人(平成25年)
(下段左)くじゅう連山に咲くミヤマキリシマ。こうした絶景を眺めながらサイクリングが楽しめるのが特長だ。(下段右)草原を彩るサクラソウも美しい
熊本県側では、阿蘇市内から小国郷を走り抜けるロードバイクイベントを開催し、難易度や所要時間ごとのモデルコースも設定するなど、「阿蘇サイクルツーリズム」の取り組みが始まっている。一方の大分県側でもサイクリングコースを紹介するほか、休憩スポット「サイクル・ハブ」を沿道に設置。このように、公園一帯におけるサイクリングコースの充実化はすでに進行中だ。
阿蘇くじゅう国立公園のサイクリングコースは、雄大な草熊原景観、阿蘇五岳、カルデラの縁(ふち)、くじゅう連山など、次々と変化していく景観を眺められるのが特徴。阿蘇自然環境事務所の佐保光康自然保護官も「爽やかな風や草原の香りといった“発見の連続”を楽しんでほしい」と話す。
検討されているのが、熊本と大分をつなぐサイクリングイベントの実施だ。より快適にサイクリングを楽しんでもらえるよう、路側帯の整備なども検討されている。この大型イベントが実現すれば、両県をつなぐ“シンボル”となるだろう。
(左)あか牛を使ったステーキ (右)温泉の蒸気熱を利用した地獄蒸し料理
地域内の飲食店や宿泊施設と連携し、「あか牛」「おおいた豊後牛」といったブランド牛や高原野菜(トマト、ナスなど)を使用したメニュー、温泉の蒸気を使った蒸し料理「地獄蒸し料理」など、この地域ならではの食事を提供する。また、温泉地周辺の豊かな自然を満喫しながら、その地ならではの食や文化を体感する「ONSEN・ガストロノミーウォーキング」も実施予定。食と温泉という、地域の特色ある自然資源を活かした点が特徴だ。
南阿蘇ビジターセンターは阿蘇地域の魅力を伝えるための施設。熊本地震の経験を伝える役割も担う
昨年4月に発生した熊本地震において、阿蘇くじゅう国立公園も道路や登山道の寸断など甚大な被害を受けた。その時に得た教訓や被害の大きかった南阿蘇村地区の地表に現れた断層を保存し、地震の教訓を後世に伝える取り組みを、県や村、教育機関、土地所有者などで連携して検討している。国立公園内にある南阿蘇ビジターセンターなどを活用して熊本地震を伝えていくのと同時に、その体験を活かして安全に楽しめる公園作りにも取りかかる。
阿寒国立公園や阿蘇くじゅう国立公園以外にも、利用者増に向けて動き出した6つの国立公園を紹介します。
DATA凡例:①面積 ②所在地 ③国立公園に指定された年月日 ④年間利用者数
和田地域と八幡平地域からなる十和田八幡平国立公園では、山岳を縦走する本格的なルートから日帰りで楽しめるコースまで、原生的な大自然を体感できる多彩な登山道が整備される。活発な火山現象によって泉質が恵まれた温泉や旅館が充実しているので、昔ながらの趣のある温泉文化が楽しめる。
DATA
①85,534ha②青森県、秋田県、岩手県③1936(昭和11)年2月1日④約450万人(平成25年)
東京からわずか2時間で、高原の自然や世界文化遺産をはじめとする歴史文化を体験できることを活かし、宿泊施設の充実、交通事業者との連携、Wi-Fi環境の整備など、観光客がより長期間滞在しやすくなる環境づくりが行われる。また、レンタサイクルや水上交通など新しい交通手段を導入し、周遊性の向上も検討されている。
DATA
①114,908ha②福島県、栃木県、群馬県③1934(昭和9)年12月4日④約1,544万人(平成25年)
久の歴史を刻む伊勢神宮 人々の営みと自然が織りなす里山里海」が公園のコンセプト。自慢の“自然と人の営みが調和した優れた景観”を眺めながら、ゆっくりと快適な時間を過ごすことができる展望カフェを整備する。また、自然と人が調和した歴史・文化・食をストーリー性を持って伝えていく。
DATA
①55,544ha②三重県③1946(昭和21)年11月20日④約1,063万人(平成25年)
神話・信仰が息づく地域であり、歴史文化資源を活用したガイドツアーの策定や、山・島・海にまたがる多彩な自然の恵みを楽しむための歩道やキャンプ場などの再整備やプログラム開発を検討している。大山を望む大山寺地区においては、官民連携によってツアーデスク、カフェ、登山基地機能を備えた総合利用拠点の整備検討が進められている。
DATA
①35,353ha②鳥取県、島根県、岡山県③1936(昭和11)年2月1日④約1,537万人(平成25年)
天孫(てんそん)降臨神話のある高千穂峰(たかちほのみね)、現在も噴煙を上げる活火山の新燃岳(しんもえだけ)や桜島、海域カルデラ景観が広がる錦江湾など、多様な火山景観を堪能できるツアーを実施する。あわせて、火山湖や海を活用し、SUP(スタンドアップパドル・サーフィン)、カヌー等の水上アクティビティの開発や、天然温泉掘り、桜島ナイトツアーなど既存メニューのブラッシュアップも検討中だ。
DATA
①36,586ha②宮崎県、鹿児島県③1934(昭和9)年3月16日④約1,210万人(平成25年)
利用者に、美しいケラマブルーの海や島がつくりだす穏やかな景観の中で、ゆったりとした島時間を過ごし、島民との交流の中で心を癒してもらう“リトリート”を満喫してもらうのが狙い。冬期には陸から見えるホエールウォッチングなど、利用者が多い夏の時期以外も楽しめる陸域のアクティビティ開発にも取り組む。
DATA
①3,520ha②沖縄県③2014(平成26)年3月5日④―
ecoMASTERへの道
エコ初心者のお笑い芸人・松橋周太呂さんが、あらゆるエコな体験をしながら、“エコマスター”を目指すこのコーナー。
各分野の“師範”から、エコの真髄を教わります!
本日のお題:【三段編】
エネルギー“ゼロ”の未来のビルを見てみよう
省エネを超えた、最新のゼロエネへ
創エネと省エネの技術を組み合わせ、建物単体での年間エネルギー収支をゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル」(通称:ZEB)。業務用ビルの省CO2化は、地球温暖化対策に大きく貢献します。これから実用化と普及が望まれる、先進的なZEB実証棟を見てみましょう。
松橋 周太呂 さん
掃除・洗濯・料理などを得意とし、「掃除検定士」や「洗濯ソムリエ」の資格も取得する、家事大好き芸人。「あのニュースで得する人損する人」(日本テレビ系)では、独自の家事テクニックを教える“家事えもん”として活躍中。
加藤 美好 さん
大成建設株式会社エネルギー戦略部理事。開発当初より、同社のZEB実証棟の企画や設計に携わってきた。
INFORMATION・大成建設株式会社
大成建設では国のZEB実現のロードマップを見据え、2018年に「市場性のあるZEBの実現」を目指している。同社のZEB実証棟は、「平成26年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」など、数多くの賞を受賞している。
URL : http://www.taisei.co.jp/
写真/石原敦志