みんなで守る、生物多様性豊かな未来 自然共生サイトってなんだろう? 「自然共生サイト」は、環境省が2023年度より認定を開始した取り組みです。 民間企業や地方公共団体、個人などの取り組みによって 生物多様性の保全が図られている場所を認定します。 それでは自然共生サイトについて見ていきたいと思います。

今月のテーマ

ブラザーの森 郡上[岐阜県]

ブラザーの森 郡上

岐阜県のほぼ中央に位置する郡上市は、その面積のおよそ9割を森林が占め、長良川をはじめとする一級河川が24本流れるなど、豊かな自然環境に恵まれた地域です。美しい水と森林が育む自然や文化は、郡上市の大きな魅力となっています。

郡上市にある『ブラザーの森 郡上』は、白鳥町のスキー場跡地や美並町・八幡町の人工造林地など計3カ所に点在する総面積28ヘクタールの人工林です。ブラザー工業株式会社、岐阜県、郡上市、郡上森林組合、名古屋大学などが連携して進める産官学の取り組みとして、2008年の活動開始以来、森林の再生と保全を進めてきました。

ここでは、ブラザー工業の従業員やその家族、地域住民などが参加する植樹ツアーが行われています。この活動は植樹による森林の再生や保全に貢献するだけでなく、参加者が森に親しみ、地域との交流を深める機会にもなっています。また、名古屋大学大学院環境学研究科による調査研究の成果を植樹計画や森林整備に活用しながら、多様な動植物が生息する豊かな森の回復を目指しています。

郡上市の豊かな自然の中に広がる『ブラザーの森 郡上』。
郡上市の豊かな自然の中に広がる『ブラザーの森 郡上』。

このような活動により、多様な生態系が形成されていることが評価され、『ブラザーの森 郡上』は2023年に自然共生サイトに認定されました。

ブラザー工業が『ブラザーの森 郡上』で活動を始めた背景について、同社のコーポレートコミュニケーション部主幹を務める岩田俊夫さんに伺いました。

「ブラザー工業は創業100周年を迎えた2008年、岐阜県および郡上市と自然再生を目的とした森林づくりの三者協定を締結しました。ブラザー工業では、紙を使用するプリンターや複合機などを製造する企業として、事業活動の中で森林資源や生態系に一定の負荷を与えているという認識がありました。『事業活動で生じた環境負荷は、自らの事業活動でオフセットする(相殺する)』という考えのもと、100周年記念事業として、荒廃した土地を地域固有の動植物が息づく豊かな里山へと再生するプロジェクトを開始しました」

『ブラザーの森 郡上』の案内看板。
『ブラザーの森 郡上』の案内看板。

しかし『ブラザーの森 郡上』白鳥町エリアにおける活動初期には、植樹した苗が定着しないという困難にもぶつかりました。経済成長期に開発され、後に放棄されて荒廃したスキー場跡地は、岩が多く苗木が根づきにくい土壌であることに加え、冬は積雪が著しく雪の重みで苗木が倒れてしまうのです。

「ただ植樹しただけでは苗木が定着しないことがわかってきましたので、森林分野に高い知見を持つ名古屋大学大学院環境学研究科の高野雅夫先生をはじめとする専門家に支援をお願いし、2014年に共同研究がスタートしました」

専門家による土壌分析の結果に基づき、木陰を好む植物が多い樹林ゾーン、明るく乾燥した草原ゾーン、水分の多い土壌を好む植物が育つ湿潤ゾーンにゾーニング※1を行い、それぞれのゾーンに応じた活動計画を検討し、植樹に適した場所で苗木を選定して植える手法へと見直しました。この植樹計画に基づいた活動の結果、荒れた土地は、多彩な動植物が暮らす里山に生まれ変わりました。
※1 森林のさまざまな機能を十分に発揮するために区分して整備計画を立てること。

多種多様な生物が暮らす環境になった『ブラザーの森 郡上』で生息が確認された、固有種のギフチョウ(左、環境省第5次レッドリスト 絶滅危惧II類VU)
ギフチョウの幼虫の食草であるヒメカンアオイ(右)
多種多様な生物が暮らす環境になった『ブラザーの森 郡上』で生息が確認された、固有種のギフチョウ(左、環境省第5次レッドリスト 絶滅危惧II類VU)と、ギフチョウの幼虫の食草であるヒメカンアオイ(右)。

活動を始めて以来、ブラザー工業は毎年春と秋の2回、植樹ツアーを開催しています。これまでに延べ約3,000人の従業員や地域住民が保全活動に参加し、26種・7,000本以上の苗木を植樹してきました。

ブラザー工業の社員やその家族、地元住民たちが参加して行う植樹の様子。
ブラザー工業の社員やその家族、地元住民たちが参加して行う植樹の様子。

「ツアーには社内公募で集まった社員とその家族100名程度に加え、名古屋大学の先生や研究室の学生たち、郡上の森林組合のみなさん、地元の森林ボランティアや地域住民のみなさんが参加してくださっています。参加者は、苗木を手作業で植える植樹コース、植樹した苗木の生育を計測する調査コース、木の生育を妨げるツルや雑草を取り除く保育コース、解説を聞きながら自然共生サイトに認定された区域を観察する自然観察コースの4コースに分かれて活動を行います」

こうした植樹・保育活動を通じて地域とのつながりが深まる中で、ブラザー工業は白鳥町の伝統的な夏祭りである『白鳥おどり』への協賛に加え、ウェブサイトなどを通じて郡上の魅力を発信するようになりました。『ブラザーの森 郡上』を起点に、森づくりにとどまらない地域との連携が広がっています。

「森林保全にとどまらず、地域の伝統文化を盛り上げる関係を築けるようになったのは、長年の活動が育んだ相互の信頼があればこそ。ですから、自然が豊かで郷土の食も魅力的な郡上市をさまざまな角度からアピールしています」

複数のコースに分かれて活動する植樹ツアーの様子。植樹した苗木の生育を計測する調査コース(左)
ツルや雑草を取り除く保育コース(右)
複数のコースに分かれて活動する植樹ツアーの様子。植樹した苗木の生育を計測する調査コース(左)と、ツルや雑草を取り除く保育コース(右)。

民間企業と地域による継続的な取り組みが高く評価され、『ブラザーの森 郡上』は2023年に自然共生サイトに認定されました。その意義や効果について、岩田さんはこう考えています。

「一般の方にとって自然共生サイトはまだまだ馴染みの薄い言葉ですが、『ブラザーの森 郡上』が自然共生サイトに認定されたことで、地域住民やブラザー工業社内での生物多様性や自然共生サイトの認知度が格段に上がっていることを実感しています。もちろん、認定がゴールではありません。認定されたことをきっかけに自然共生サイトや森林保全の取り組みに興味を持っていただき、関わる人々の環境意識を高めていきたい。そんな風に考えています。」

『ブラザーの森 郡上』白鳥町エリアはツアーの開催時以外でも、誰もが敷地内を自由に散策できるオープンなフィールドです。整備された登山道のほかにバイオマストイレも設置しており、訪れた人が気軽に森の再生プロセスを体感できるようになっています。多くの人にこの森を散策し、多様な動植物や豊かな自然に触れてもらいたい。ブラザー工業と地域の人々はこうした思いを共有しながら森づくりを続けています。

ブラザー工業では、『ブラザーの森 郡上』に加えて『斎宮(さいくう)こぶしの杜 三重ブラザー』でも生物多様性保全に取り組んでおり、こちらも2025年に自然共生サイトに認定されました。

自然と共生し、資源が循環するモノづくり工場を目指す『三重ブラザー精機株式会社』の敷地内にある『斎宮こぶしの杜 三重ブラザー』(左)
敷地内の森に生育するコブシから採取した種子で育てた苗木を植樹しているほか、オオジシバリやニホンタンポポなど在来の野草を守り育てており、ベニシジミ(右)など多彩なチョウ類が確認されています
自然と共生し、資源が循環するモノづくり工場を目指す『三重ブラザー精機株式会社』の敷地内にある『斎宮こぶしの杜 三重ブラザー』(左)。敷地内の森に生育するコブシから採取した種子で育てた苗木を植樹しているほか、オオジシバリやニホンタンポポなど在来の野草を守り育てており、ベニシジミ(右)など多彩なチョウ類が確認されています。

「2つのプロジェクトが自然共生サイトに認定されたことは、多様な生物が息づく森を目指して継続的に行ってきた区域の管理・保全の効果が評価されたものと考えています」と岩田さんは話します。

「複数の自然共生サイトでの活動を通じて実感したのは、地域が変われば関わる人も課題も異なるということです。ですから、それぞれの地域の特性や自然環境に寄り添った活動を続けることが何より重要だと感じています。ブラザーグループでは生物多様性保全を重要課題の一つと位置づけ、『ブラザーグループ 環境ビジョン2050』のもと、事業活動による環境負荷の最小化と、それを上回る修復・保全活動の推進を掲げています。これからもこのビジョンに沿って生物多様性保全に取り組み、再生した森を次世代につなげていきたいと考えています」

【データ】

名前 :ブラザーの森 郡上
住所 :岐阜県郡上市

原稿/倉石綾子

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