鳥取県が誇る名峰、大山の北麓にはアカマツを主体とする森林が広がっています。その一角、大山隠岐国立公園の外縁部に位置する面積約104.5ヘクタールの区域が『鳥取県立大山オオタカの森』(以下、『大山オオタカの森』)です。森林内には樹齢60〜80年のアカマツが立ち並び、その下にはヤマザクラやリョウブ、イタヤカエデが、そのさらに下の低木層にはヒサカキやクロモジなどが生育しています。
この森で営巣が確認されているオオタカは、タカ目タカ科に分類される猛禽類で、全長は50〜60cm、翼開長は1mほど。かつては絶滅の危機に瀕しており、種の保存法に基づく「国内希少野生動植物種」に指定されていました。その後、保護活動などにより個体数が回復した現在は、豊かな森林生態系を示す指標的な存在となっています。ここに生息するのはオオタカだけではありません。クマタカ(絶滅危惧ⅠB類)、サシバ(絶滅危惧Ⅱ類)、ハヤブサ(準絶滅危惧)※1といった希少な猛禽類を含むおよそ50種類の鳥類や、イノシシやアナグマ、ニホンノウサギなど約10種類の哺乳類、ミヤマアカネなどさまざまな昆虫類が確認されています。
※1 絶滅危惧種の区分は、環境省第5次レッドリストに基づくもの。
1990年代、『大山オオタカの森』を含む一帯にリゾート開発計画が持ち上がりました。しかし、開発計画が頓挫した後、開発予定地にオオタカの営巣が確認されたことから、当地の豊かな生態系を守るため、2001年に営巣地とその周辺の森林を鳥取県が取得しました。2004年には「鳥取県立大山オオタカの森の保全に関する条例」を制定し、現在も森林の保全と適切な管理を続けています。その取り組みについて、『大山オオタカの森』の保全に携わる鳥取県生活環境部自然共生社会局自然共生課ネイチャーポジティブ推進室の山川渉さんにお話を伺いました。
「もともとこの地域には天然のアカマツ林が広がっており、梁や桁などの構造材として利用される良質なアカマツの産地となっていました。戦後、長く草刈場(家畜の餌や田畑の肥料などを採取する土地)として利用されてきた『大山オオタカの森』一帯にも多くのアカマツが植林されるようになり、地元住民の手によって管理されてきたという経緯があります。鳥取県が管理するようになってからは、オオタカをはじめとする野生動物が生息できる環境を守るため、アカマツや広葉樹の更新伐(一定の範囲の樹木の一部を伐採し、その後に森林の造営を行うこと)や、マツクイムシの被害木の除去を進めています」
2014年から始めた更新伐は森林の若返りを目指して進めているもので、更新を完了した地区は現在15ヘクタールほど。毎年1〜1.5ヘクタールずつの更新伐を実施し、60年を1サイクルとして森林内の世代交代を進めながら、多彩な動植物が育つ豊かな環境を維持する計画を立てています。
更新伐を行った場所では、「天然下種更新」によって次世代の森を育んでいます。天然下種更新は、周囲の親木から落ちた種子を生かして森づくりを行うため、成長スピードにばらつきが生じる一方、植林コストを抑えながら自然の力で持続可能な森林サイクルを作れるというメリットがあります。
「実施地区ではアカマツの若木が順調に育っており、森林内に新しい環境が生まれたことでオオタカの餌となる多彩な鳥類が確認されています。これまでは10年ごとに実施してきたモニタリングで更新伐が野生動物に与える影響を評価してきましたが、今後はこのモニタリングを5年ごとに実施しようと考えています。なお、伐採したアカマツは県内の木材市場に建材として出荷していますが、現在はさまざまな企業と連携して新たな活用方法を模索しているところです」
こうした森林全体の若返りを計画的に進めながら、オオタカの営巣に適した豊かな環境づくりも行っています。
「オオタカが営巣するためには、高さ10m前後にある高い木々の下部と、その下に育つ木々の上部との間に、鳥が翼を広げ、のびのびと飛び回れる空間を確保する必要があります。こうした飛翔空間を維持し、営巣木を育てるために、高齢のアカマツの間伐も行っています」
こうした取り組みを進める鳥取県では、『大山オオタカの森』の豊かな自然環境をより多くの人に知ってもらいたいと、散策できる観察路や広場の整備に加え、案内標識のリニューアルに取り組んでいます。各分岐点には案内看板が設置されており、子どもから大人までが観察路を利用できるようになっています。整備後の2024年には一般向けの植物観察会、2025年には子どもを対象とした昆虫観察会が実施され、いずれも20名前後が参加しました。さらに、60年以上も続く鳥の巣箱設置会も『大山オオタカの森』で開催されています。
「鳥取県では1963年から県内の小中学生を対象に『鳥取県野生動物のすみか(巣箱)コンクール』を実施しています。児童・生徒が野生動物の生態を学びながら巣箱を製作し、自然環境への関心を高めることを目的としたもので、入賞した作品は『大山オオタカの森』に実際に設置されます。設置にあたっては製作者である小中学生を招いて巣箱設置会が開催されます。『どの木なら鳥が入りやすいか』を考えたり、観察路から野鳥が巣箱を使う様子を見たりすることで、子どもたちが森や生き物に親しむきっかけになっています。鳥取県では今後もこうしたイベントを継続していく予定です」
鳥取県には、大山をはじめ『大山オオタカの森』に代表される豊かな自然環境が広がっており、自然環境とともに育まれてきた里山文化や農林水産業が営まれてきました。この環境を未来へ引き継ぐため、地域の目標として生物多様性地域戦略『人と自然が共生するとっとり』を進めています。
自然を守りながら、行政・県民・企業が一体となって持続可能な地域づくりを目指す『環境立県』を掲げる鳥取県では、自然共生サイトへの認定を目指す団体や企業への支援にも力を入れています。取り組みの一環として、まず県自らが認定申請を行ったのが『大山オオタカの森』でした。
「県がいち早く申請を行い、手続きの流れを実際に経験したことで、民間の団体に対して具体的な助言を行えるようになったことは大きなメリットだと感じています。また、自然共生サイトに認定されたことをきっかけに、条例が制定されて20年が経った今、改めて『大山オオタカの森』の存在を県民の皆さんに広く知っていただくきっかけになりました。実際、事業者から『大山オオタカの森』の保全活動に関わりたい、整備の際に生じた間伐材をオフィス内の家具に転用したいといった声もいただいています。
これからも民間団体や県民の皆さんと力を合わせながら、鳥取県の豊かな自然を守り、次世代へつなぐ試みを進めていきたいと考えています」
【データ】
| 名前 | :鳥取県立大山オオタカの森 |
|---|---|
| 住所 | :鳥取県西伯郡大山町 |
| TEL | :0859-31-9325(西部総合事務所環境建築局 環境・循環推進課 自然公園担当) |