みんなで守る、生物多様性豊かな未来 自然共生サイトってなんだろう? 「自然共生サイト」は、環境省が2023年度より認定を開始した取り組みです。 民間企業や地方公共団体、個人などの取り組みによって 生物多様性の保全が図られている場所を認定します。 それでは自然共生サイトについて見ていきたいと思います。

今月のテーマ

南三陸FSC®認証林[南三陸森林管理協議会]

南三陸FSC®認証林

宮城県北東部、三陸海岸の南部に位置する南三陸町。この町は山に降った雨水が異なる水系に分かれて描かれる境界線に囲まれており、森・里・川・海のつながりを感じられる場所です。森林から流れ出た水は川を通って海へと注ぎ、海から陸へ吹きつけるミネラル豊富な空気が、再び山の森林を潤します。

江戸時代に、仙台藩の初代藩主である伊達政宗が城下町の川に大橋を架ける際、南三陸のスギを求めたことがきっかけで、この地は良質なスギの産地として広く知られるようになりました。現在は国有林・民有林を合わせて約12,600ヘクタールの森林が広がり、南三陸町の総面積の約77%を占めています。

その中のおよそ2,500ヘクタールが、『南三陸FSC(Forest Stewardship Council)®認証林』と呼ばれる森林です。FSC®認証とは、責任ある森林管理が行われているか客観的に評価するための国際的な制度で、10の原則と70の基準に基づく厳しい審査が課されます。その内容は森林の管理体制づくりから生態系の保全、労働者の安全管理、地域社会への貢献まで多岐にわたり、審査の際には第三者認証機関の審査員によって、当事者だけでなく周辺関係者への聞き取りも行われます。

南三陸町では、自然と共生する林業を実現するため、地元の森林所有者や事業者、自治体などが共同で取得を目指し、2015年に認証を得ました。以来、毎年FSC®認証の厳しい審査をクリアしています。

自然共生サイト認定区域(左・緑の部分)。「美人杉」と呼ばれる南三陸のスギ(右)。
自然共生サイト認定区域(左・緑の部分)。「美人杉」と呼ばれる南三陸のスギ(右)。

同時に希少種の保全、学生や企業向けの環境教育、森林の観光資源化など幅広い取り組みを行っています。そうした活動も評価され、2024年に自然共生サイトに認定されました。

南三陸FSC®認証林の運営を担う南三陸森林管理協議会(MFSA)の事務局長を務め、FSC®認証取得の推進メンバーでもあった株式会社佐久 代表取締役の佐藤太一さんにお話を伺いました。

「2011年に発生した東日本大震災の津波により、私たち南三陸町は壊滅的な被害を受けました。その中で、ほとんど無傷で残ったのが森林でした。復興に向けて『自立分散型の持続可能な町』というビジョンを町が掲げる中、地元の林業関係者の間でも議論し、環境や社会に配慮した持続可能な林業を目指そうと決めたんです。その第一歩として目標にしたのが、FSC®認証の取得でした。

認証を得るには、森林管理計画や労働者の安全衛生マニュアルなど、膨大な書類の作成に加え、500以上のチェック項目をクリアする必要があります。そのため、まずは既に森林経営計画※1を導入している森林所有者や事業者、自治体などが集まり、2015年にMFSAを結成。互いに協力しながら審査の準備を進め、同年に宮城県で初めて認証を取得しました」
※1 森林所有者や、森林の経営を委託された者が、自らが経営する森林の施業及び保護について作成する計画のこと。

年に一回行われる植生調査の光景。こうしたモニタリングは適切な森林管理の基盤になります。
年に一回行われる植生調査の光景。こうしたモニタリングは適切な森林管理の基盤になります。

以来、10年以上にわたってMFSAは「環境」「社会」「経済」の三つの側面から持続可能な森林管理を実践してきました。

「林業を営む私たちにとって、森林管理の目的は単に自然を守ることではありません。森林へのダメージを抑えながら収益を生み出すことが、長い目で見れば、林業の持続可能性を高め、『環境』の保全にも良い効果をもたらすと考えています。そのためには、まず現場で作業する労働者の安全で働きやすい環境づくり、そして森林管理や自然について知ってもらうための教育など、『社会』の視点が欠かせません。また、良質な原木の生産や森林の観光資源化といった『経済』の視点も重要です。

例えば、私たちは企業や修学旅行の生徒などを対象にFSC®認証林の見学ツアーを提供しています。参加者は全員ヘルメットをかぶり、森林にじかに触れながら、人の手で適切に管理された森林の特色や、安全対策の重要性を学びます。私たちにとっては収益を得ると同時に、企業や学校とのコミュニケーションの場でもあります。ツアーをきっかけに、生産した木材を事業に採用してもらったり、森林の一角を企業の森として活用してもらったりと新たな交流やコラボレーションなどの機会創出にもつながっています」

装備の充実など、労働者の安全確保は不可欠(左)。学生向けの見学ツアー(右)。
装備の充実など、労働者の安全確保は不可欠(左)。学生向けの見学ツアー(右)。

南三陸FSC®認証林はスギ、アカマツ、ヒノキといった針葉樹を主体とした森林で、下層植生※2が豊かな点も大きな特色。ヤマツツジ、クロモジといった低木や、ワラビ、ゼンマイといったシダ植物など、幅広い植物が大木の足元に生育しています。間伐など人の手で適切に管理することによって、地表に光が届くようになり、下層植生が発達します。下層植生が豊かな森林は、雨水や土壌が川に流出しにくいので災害に強いほか、環境の多様性が生まれて多様な生き物が生息しやすい場所にもなります。
※2 森林の背の高い木々の下に生息する植物で、背が低めの木や草、コケ類などを指す。

一部エリアにはタブノキ林など潜在的な自然生態系も残っています(左)。希少なベニバナヤマシャクヤク(右)。
一部エリアにはタブノキ林など潜在的な自然生態系も残っています(左)。希少なベニバナヤマシャクヤク(右)。

「こうした豊かな森林を生かした象徴的な取り組みとして、南三陸地域で絶滅が危惧されるイヌワシの生息環境の回復と、地域林業の両立を進めています。現在は隣接する国有林エリアとも連携しながら、まずは計画的な伐採をすることで、イヌワシが餌をとることに適した開けた環境を適度に確保することを計画しています。2025年度からは、動物園で飼育されていた個体を放鳥し、野生復帰を目指す試みもスタートしました。森林の生態系ピラミッドの頂点に立つイヌワシは、生態系の健全さを示す存在でもあります。野生のイヌワシが捕食するウサギやヤマドリも森林内で確認されています」

絶滅が危惧される南三陸のイヌワシ。
絶滅が危惧される南三陸のイヌワシ。

幅広い試みに関わる中で、自然共生サイトに認定されたことは自分たちの活動の意義を再確認する機会になったと、佐藤さんは語ります。

「これまで、木を切り倒す林業は自然破壊というマイナスのイメージを持たれることも少なくありませんでした。しかし本当は、適切な森林管理を行えば、生物多様性保全にも貢献しながら木材を生産することができる──そう信じて取り組んできた私たちの活動が、国にも評価されるか知りたくて申請しました。

自然共生サイトの認定をきっかけに、より幅広いコミュニティーに私たちの取り組みを発信していきたいです。スポンサー向けに「自然共生サイトに係る支援証明書」※3も活用したいと考えています」
※3 自然共生サイトの質の維持・向上に資する支援を行った方に対して、環境省が発行する証明書のこと。

自然共生サイトに認定された2024年、佐藤さんたちは新たな取り組みを始めました。公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパンと『日本のFSC®認証林推進協定』を締結し、活動の柱の一つとして生物多様性の評価方法の開発に挑んでいます。

「生物多様性にとどまらず、生態系サービス全般をどのように評価していくかが、今後の大きな課題です。そこで研究機関とも連携して、人が管理する森林とそうでない森林のデータを集めながら評価指標を検討し、より効果的なモニタリング計画づくりに着手しています。

目標はほかにもあります。ひとつは、もっといろいろな手法で森林のデータを集め、それを活用して収益を上げられるようにすること。そうなれば、いずれ木材の生産だけでなく、山を守ること自体にも価値がつけられるようになると考えています。実現するには、今まで以上にアクションを起こしていかなければなりませんが、そこを目指して今後も挑戦していきたいです」

下記の「関連リンク」に「南三陸FSC®認証林」に関連するホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。

【データ】

名前 :南三陸FSC®認証林
住所 :宮城県本吉郡南三陸町
TEL :0226-46-3119(南三陸森林管理協議会)

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