みんなで守る、生物多様性豊かな未来 自然共生サイトってなんだろう? 「自然共生サイト」は、環境省が2023年度より認定を開始した取り組みです。 民間企業や地方公共団体、個人などの取り組みによって 生物多様性の保全が図られている場所を認定します。 それでは自然共生サイトについて見ていきたいと思います。

今月のテーマ

YKKセンターパーク
ふるさとの森 [YKK株式会社]

YKKセンターパーク ふるさとの森

富山県と長野県にまたがる北アルプスの鷲羽岳(わしばだけ)に源を発する黒部川。立山連峰と後立山連峰の間を走り、深く急峻な黒部渓谷を経て富山湾へと流れ込むこの川は、流域一帯に豊かな森や生態系を育むと同時に、水力発電や農業用水、工業用水など、さまざまな形で人々の営みを支えてきました。

下流に広がる黒部川扇状地は、こうした自然の恩恵を受けながら、地域の文化や産業を発展させてきました。しかし一方で、近年は都市化などの影響で、昔ながらの森や水辺は失われつつあります。そうした状況を少しでも改善したいと、20年近く前から始まった新しい森づくりが、ここにきて大きな実を結んでいます。

『YKKセンターパーク ふるさとの森』は、ファスナーや建材商品の製造などを行うYKKグループが、製造・開発の主要拠点である黒部事業所の一角につくった人工林です。工場の跡地に黒部の豊かな森を再現する構想を掲げ、2008年から4年近くかけて、在来種を中心に20種2万本の苗木を植えるプロジェクトを推進。その後の自然淘汰を経て、今では約6,000本の木々が力強く根づいています。

ふるさとの森(左)。黒部に由来する桜の自生種が植えられた遊歩道(右)。
ふるさとの森(左)。黒部に由来する桜の自生種が植えられた遊歩道(右)。

森の木々が成長するにつれ、多様な生き物が姿を現すようになりました。生態系の頂点に立つハヤブサなどの猛禽類から、哺乳類ではアナグマといった中型動物やネズミ類、水辺にはトンボやタニシなども見られます。これは、森の生態系ピラミッドが健全に形成されつつある証しとも言えます。2023年の生物調査では、378種※1の生き物が確認され、そのうち日本及び富山県で絶滅が危惧される種も28種に上りました。
※1 植物は含まない。

ハヤブサ(左)やマイコアカネ(右)など、日本及び富山県で絶滅が危惧される種もサイト内で確認されています。
ハヤブサ(左)やマイコアカネ(右)など、日本及び富山県で絶滅が危惧される種もサイト内で確認されています。

YKKセンターパーク ふるさとの森は年間を通じて一般公開されています。子どもから観光客、企業など幅広い層に黒部の自然の魅力を伝えている場所で、2023年に自然共生サイトに認定されました。

YKK株式会社 環境・安全・施設管理部 環境管理室 環境推進グループの村重誠吾さんと中島智美さんにお話を伺いました。

「私たちが森づくりを始めた理由はふたつあります。ひとつは、創業者・吉田忠雄の『森の中の工場』という理念です。従業員には森の中で自然に触れ、クリエイティブな発想をもって仕事をしてほしい──そんな創業者の思いを、創業100年となる2034年までに実現したいと考えました。

もうひとつの理由は、黒部の原風景を再現するためです。川の氾濫原※2であるこの地域には、小規模ながら多様な生き物が住む森や水辺が点在していました。しかし都市化などの影響で、そうした場所が次々と失われつつあります。黒部の自然の恵みを得て事業活動を行っている企業として、この地域の本来の自然を少しでも取り戻し、地域に恩返ししたいという思いから取り組みを始めました。

黒部の原風景を再現するため、植える木はシラカシやオニグルミなど、昔から地域に生息する在来種を中心に選定し、苗木は地域の山々から採取した種から育てました。2006年に苗木の育成をスタートし、植樹を始めたのは2008年からです。YKKの従業員やその家族、地域住民など1,300人を超える人々が作業に参加しました」と、中島さんは語ります。
※2 河川の洪水が発生した時に冠水する領域のこと。

地域の山々から採取した種(左)を工場内で苗木に育てる様子(右)。

地域の山々から採取した種(左)を工場内で苗木に育てる様子(右)。

苗木を植える作業にはYKKグループの従業員やその家族、地域住民など1,300人近くが参加。

苗木を植える作業にはYKKグループの従業員やその家族、地域住民など1,300人近くが参加。

植樹は富山大学の専門家による指導のもと、異なる種の苗木を混ぜ合わせ、間隔を詰めて植える方式を採用。あえて密に配置することで植物間の競争を促し、自然淘汰によって強い木を生き残らせるというやり方です。

「自然淘汰に任せるといっても、主要な木の成長記録や生物調査は定期的に行っています。また、幅広い層の人々が訪れる公園でもあるため、景観や安全を優先し、必要に応じて人が手を加えるエリアも設けています。それでも課題は尽きません。水辺の植物が繁茂しすぎるなど、想定外の問題が起きます。その場合にどこまで手を加えるか、管理のあり方に悩むことは多いです」

黒部の原風景の再現に加え、環境学習の場としても新たな試みを行っています。農業用AIソリューション「e-kakashi(イーカカシ)」を提供するソフトバンク株式会社※3と共に2020年から始めた、緑地における二酸化炭素(CO2)吸収量の「見える化」もそのひとつです。
※3 2024年7月以降はグリーン株式会社が運営。

「森の一角にセンサーを設置して、気象や地温などの環境データを収集し、CO2がどれだけ吸収されているかをリアルタイムで算出するシステムを導入しました。CO2吸収量はセンターパーク内のカフェに設置した電子掲示板に表示され、誰もが森のCO2削減への貢献度を視覚で理解できるようになっています。

この取り組みは、子ども向けの環境教育プログラムでも活用されています。地域の小学校と連携して定期的に開催している『ふるさとの森の探検』ツアーでは、探検に出る前に、森の役割や自然について学ぶ時間を設けていて、その中でこの取り組みも紹介しています。探検した帰り道にも、カフェでCO2吸収量を数値化して見られるので、森の大切さを実感する機会になっていると思います」

CO2吸収量の算出に必要な環境データを収集するセンサー(左)と、リアルタイムで電子掲示板に映し出されるデータ(右)。*写真のセンサーは2020年9月当時のモデルです。
CO2吸収量の算出に必要な環境データを収集するセンサー(左)と、リアルタイムで電子掲示板に映し出されるデータ(右)。
*写真のセンサーは2020年9月当時のモデルです。
黒部市吉田科学館と協働で定期的に開催する樹木板づくりのイベントでは、ふるさとの森を散策し、クイズを解きながら森について学びます。
黒部市吉田科学館と協働で定期的に開催する樹木板づくりのイベントでは、ふるさとの森を散策し、クイズを解きながら森について学びます。

森づくり以外にも、地域の自然との共生を目指すYKKの取り組みは多岐にわたります。例えば、工場などで使った水は自社の排水処理施設できれいにしてから地域の川へ放出し、さらに川の生き物に影響が及んでいないか確認するため、水生生物調査も行っています。

2023年に自然共生サイトの認定を受けたことは、そうした活動を続けてきた同社にとって大きな後押しになると、中島さんは言います。

「認定を受けたことで認知度が上がり、他の企業や行政からの見学や取材の依頼も増えています。何より自分たちの活動が認められたことは、大きな自信になりました」

新たな挑戦も始まっています。2025年からは黒部川流域の企業や自治体、地域団体が連携してネイチャーポジティブ※4な地域づくりのモデル創出をめざすプロジェクト※5にも参加しています。「まだ始動したばかりですが、こうした取り組みにも貢献していきたい」と村重さんは語ります。
※4 自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止めるだけでなく、回復に転じさせること。
※5 2025年9月に環境省の「令和7年度ネイチャーポジティブ地域づくり支援モデル事業」に採択された「黒部川流域ネイチャーポジティブ・プロジェクト」。

「同時に、YKKセンターパーク ふるさとの森をより幅広い層の人々が集う森にしていきたいです。黒部というと、山登りの装備が必要になるような本格的な自然体験を求めて来られる方もいますが、小さなお子さんがいる方や障害を抱えておられる方などは、そうした場所に行くのは難しい場合もあります。その点、この森は散策路の一部がバリアフリーになっていますし、年間を通じて無料で公開しています。誰もが気軽に立ち寄って、黒部の自然を感じられる場所にしたいです」

下記の「関連リンク」に「YKKセンターパーク ふるさとの森」に関連するホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。

【データ】

名前 :YKKセンターパーク ふるさとの森
住所 :富山県黒部市吉田200 YKKセンターパーク内
TEL :0765-54-8181 YKKセンターパーク(黒部ツーリズム株式会社)

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