自然共生サイトってなんだろう?

今月のテーマ

相知町横枕(おうちちょう よこまくら)自然共生区域
[NPO法人 唐津Farm&Food]

相知町横枕自然共生区域

九州北部沿岸部に面した玄界灘や国の特別名勝に指定される虹の松原など、美しい風景が広がる観光地、佐賀県唐津市。その中山間地域の相知町横枕自然共生区域には、古き良き里山の風景が残っています。一級河川の厳木川(きゅうらぎがわ)が流れ、竹林や水田が広がる環境のなか、アユやトンボ、キジ、カワセミなど、日本の里山の縮図ともいえる動物が生息しています。

里山の自然にはさまざまな動物が生息。左からカワセミ、キジ。

里山の自然にはさまざまな動物が生息。左からカワセミ、キジ。

相知町横枕自然共生区域は、竹林を中心とした森林ゾーン、草刈りや水路の管理をしている水田ゾーン、厳木川の水質調査を行う井堰(いせき)ゾーンの大きく3エリアに分かれた区域です。ここを自然共生サイトに申請したNPO法人 唐津Farm&Foodは2020年に設立。地元で生まれ育った人や移住者など、異なる経験や視点を持ったメンバーが集まって構成されています。その設立メンバーで、横枕地区で農園を営んでいる木下翔太さんにお話を伺いました。

「4年前の設立時は、唐津産の農産物・海産物を県外にPRすることが目的で、ふるさと納税の制度を活用する予定でした。そのために生産者を訪問し、直接情報を集める必要があったのですが、設立してすぐに新型コロナウイルス感染症の影響で、情報を集めることが難しくなりました。その代わりに環境保護の貢献につながる廃プラスチックのリサイクル活動を始めたのです。この活動が循環型社会を目指す唐津市や県内外の学校関係者の目に留まり、海洋ごみ問題、ネイチャーポジティブ、生物多様性といった課題に対するワークショップの依頼が増え、環境保全活動が中心になっていきました。現在は設立時の目的であった唐津産の農産物・海産物のPRとともに、生物多様性の保全と里山の価値を生かした地域ブランドの向上を目指しています。これらの取り組みの内、自然共生サイトに申請した横枕地域では、毎年1月7日に無病息災のための祭事「鬼火焚き」が行われています。そこで用いる竹を毎年森林ゾーンから切り出しており、このことが地域の伝統行事、伝統文化のために活用する資源供給の場として認められ、自然共生サイトに認定されました」

2024年4月に開催された「波戸岬ビーチクリーンアップイベント」には312名が参加。

2024年4月に開催された「波戸岬ビーチクリーンアップイベント」には312名が参加。

1年の災難よけとして毎年1月7日に行われる地域の伝統行事の「鬼火焚き」。このために竹を切り出すことが、適切な間伐および竹林の保護につながっています。

1年の災難よけとして毎年1月7日に行われる地域の伝統行事の「鬼火焚き」。このために竹を切り出すことが、適切な間伐および竹林の保護につながっています。

NPO法人 唐津Farm&Foodの取り組みにより、地元の人たちに変化が見られたと木下さんは話します。

「私たちの活動により、小さな子どもから高校生、外国人、高齢者まで、さまざまな人との交流が生まれています。唐津南高校の食品流通科の学生とは食品開発を進めており、横枕の養蜂所でハチミツ加工作業をしながら、自然と生物の大切さを学んでいただいています。また、九州にはウクライナ情勢を踏まえて避難された、ウクライナの方が多く住んでおり、私の横枕農園でビーツの有機栽培体験をしてもらっています。ビーツはウクライナ人にとって日本人の大根やニンジンのように身近な野菜なのです。彼らがビーツを使って作るウクライナ料理を地元の人と一緒に食べるなど、交流も盛んに行っています。

唐津南高校の学生と進めている唐津ミツバチプロジェクト。安全対策をしながら、ニホンミツバチを怖がらずに取り組んでいます。

唐津南高校の学生と進めている唐津ミツバチプロジェクト。安全対策をしながら、ニホンミツバチを怖がらずに取り組んでいます。

木下さんが経営している横枕農園では、有機栽培のオーガニックビーツやナスなどを栽培。生物多様性保全や国際交流の場にもなっています。

木下さんが経営している横枕農園では、有機栽培のオーガニックビーツやナスなどを栽培。生物多様性保全や国際交流の場にもなっています。

横枕の住民は90人ほどで、平均年齢は70歳ぐらいなので、高校生や外国人との交流は地域にとって刺激になっていると思います。また、私たちが取り組む生物多様性の保全活動を通して、横枕に希少な生き物が生息していることを知れば、町に誇りを持ってもらえることにもつながります。ただ、私たちの活動により、これまで静かだった町に急に人や車が増えてしまうことで、地域の人にストレスを与えないように気を付けています。慌てずにゆっくりと皆さんと対話しながら進めていけたらと思います」

横枕公民館前で地元の住民とウクライナの方々が記念撮影。

横枕公民館前で地元の住民とウクライナの方々が記念撮影。

最後に今後の活動について木下さんにお聞きしました。

「やりたいこと、やらなければいけないことは非常に多いです(笑)。今年の10月に現在試行している環境省の有識者マッチングを利用して、大学の先生たちに現地を見ていただいたところ、横枕は里山として豊かな自然が残り、生物多様性の価値があるところであると言っていただきました。今後のモニタリング充実に向けた助言をいただいています。一方で、過疎化により今の文化を維持できるのかという課題があります。まず、高齢化で農道の管理が困難になるので、ラジコン草刈り機などの設備導入を検討しています。さらに、高齢化の課題解決に協力していただける方を増やしていくために、横枕の里山としての重要性を証明するデータを集めなければいけないと思っています。生物多様性保全活動として生態系のモニタリングを住民と協力して実施する予定です。

大学の先生たちによる現地視察の様子。

大学の先生たちによる現地視察の様子。

また、観察会やツアーなど観光事業の促進につながる活動も充実させていきたいです。高校生と開発しているハチミツや農産物を地域ブランドとして消費者に認知してもらい、生物多様性に対する社会的な関心を高めていくことに貢献できたらと思います。

自然共生サイトは多くの人に注目される制度です。隣の武雄市や佐賀市からも参加してもらえるとうれしいですね。そのためにも、私たちの活動がもっと注目されるようにがんばっていきたいと思います」

横枕の住民の方々。

横枕の住民の方々。

下記の「関連リンク」に「NPO法人 唐津Farm&Food」のホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。

【データ】

名前 :相知町横枕自然共生区域
住所 :佐賀県唐津市相知町横枕995-1(横枕農園)
TEL :090-3263-4557

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