群馬県南西部にある標高299mの崇台山(そうだいさん)の山頂からは、360度見渡せる大パノラマが広がり、山麓では四季折々の花が咲き誇ります。県内だけでなく県外からも登山者が訪れ、花畑を求めてアサギマダラやルリモンハナバチなどの希少な昆虫も集まってきます。
現在は自然愛好家たちに親しまれている崇台山ですが、約10年前まで山麓にある谷津田(斜面林に囲まれた台地)は、人の手入れがされていませんでした。このままでは里山の大切な自然が失われてしまうと危機感を持った地元の有志が立ち上がり、里山の再生活動が始まりました。最初に『崇台山に毎日登る会』が山道の整備を開始し、続いて『里山の花畑・里の小屋 友の会』が中心となって荒れ果てた山麓の整備を行いました。
山麓の整備を担当してきた『里山の花畑・里の小屋 友の会』代表の櫻田稔さんにお話しいただきました。
「自然共生サイト『里山の花畑と崇台山の山麓』では、荒れ地の整備とともに、もともと自生していた草花を移し替えたり、近隣から持ち寄ったりして四季の草花を育ててきました。山麓一帯の西側に『棚田(傾斜地にある稲作地)』が、東側にかつての谷津田がありますが、『旧谷津田』の一部は『花畑』にして、他は草地や水辺環境を整えています。そして南側はコナラなどの『二次林※』があります。これら4つのエリアを合わせた約3.2ヘクタールの中に希少種を含めた300種類もの動植物が生息しています」
※その土地に本来あった森林が、自然災害や伐採などによって失われ、その後、土中に残った種子の成長などで自然再生した森林のこと。
「水生昆虫が生息する『棚田』では、水質の管理をしています。秋の七草などがある『花畑』では、ルリモンハナバチやオオセイボウ、アサギマダラといった希少な昆虫の保護や観察を行っています。『旧谷津田』の草地にはミゾソバなどの植生が確認されており、観察道を含めた保全活動を行い、『二次林』では野鳥やヤマユリなどの保護をしています。『旧谷津田』ではゲンジボタルやヘイケボタル、シュンランなどの希少な動植物が生息し、ホタルの観察会も開いています」
どのようなことに注意して活動されているのでしょうか。
「私たちは、人・地域・自然の関わり方を次世代に伝えるとともに、さまざまな体験を通して生物多様性の大切さを知っていただくことを目的に活動しています。そのため、鳥獣や昆虫、チョウ類、樹木、草花などのモニタリングや観賞会、環境保全活動を約60名のボランティアスタッフで運営しています。活動範囲が広いため、みんなが同じことをするのではなく、モニタリング、整備、機械修理など各自の得意分野を生かして取り組んでもらうようにしています」
「ここまで続けてこられたのは、いろんな人との出会いがあってこそです。いまから40年ほど前に、近隣の学校の校長先生をされていた里見哲夫さんと知り合う機会がありました。里見さんは生物の先生でしたので、私が生物多様性保全活動をするときに里見さんから多くのアドバイスをいただきました。また、岡部和夫さんは、以前からこの地域の観察・撮影をされていたので、多くの情報の提供やモニタリングで協力いただいています」
多くの人と協力しながら生物多様性の保全活動を続けてきた櫻田さんに、今後の目標について伺いました。
「これまで保全活動をするなかで、つらいと思ったことはなく、ただ自然が好きで、子どもたちをはじめ、多くの人に生物多様性の大切さを伝えたいと思ってここまできました。ホタルを見た参加者の家族から、『また来たい』と言ってもらえたときはとてもうれしかったですね。これからも、県内外さまざまな地域から来る登山者や花畑の来訪者に向けて私たちの活動について伝え、植物や昆虫などの観察会や撮影会を通じて自然愛護の大切さを提唱していきたいと思います」
「『里山の花畑と崇台山の山麓』は約3.2ヘクタールですが、その周りには広大な土地があります。さらに活動エリアを広げて、尾瀬※のように美しく、マナーが守られる観光名所を目標にしていきたいです。そのためにも、SDGsの17個目の項目『パートナーシップで目標を達成しよう』を意識して、より多くの人に声をかけ続けて、仲間をつくっていきます。平安時代の和歌で詠まれた1,000年前の植物であるフジバカマが今ここに存在します。さらに1,000年後の人たちに見せられるようになればと思っています」
※福島・新潟・群馬・栃木にまたがり、2,000m級の山々に囲まれた湿原。
下記の「関連リンク」に「里山の花畑と崇台山の山麓」に関するホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。
【データ】
名前 | :里山の花畑と崇台山の山麓 |
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住所 | :群馬県安中市上間仁田 |
TEL | :080-7363-1953(里山の花畑・里の小屋 友の会 櫻田稔) |