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花王株式会社 和歌山工場[花王株式会社 和歌山工場]

洗剤や化粧品などの日用品メーカーの花王株式会社和歌山工場では、江戸時代に植林されたクロマツの保護とともに、環境の変化に合わせた生物多様性保全を進めています。

クロマツは1年を通して緑の葉をつける常緑針葉樹で、海からの潮風による田畑への被害を防ぐ防潮林として使われてきました。和歌山県北西部の和歌山下津港に面した和歌山工場では約80年間、約4,000本のクロマツの保護活動をしてきました。

和歌山工場の防潮林。

和歌山工場の防潮林。

ただ、時代の変化とともに自然環境にも変化が出てきたため、クロマツの保護だけでなく、生物多様性の保全を考えた取り組みが必要になってきました。花王株式会社和歌山工場 地区サービスセンター環境グループの飯塚直樹さんにお話を伺いました。

「もともとこの土地は海沿いにありましたが、埋め立てによりクロマツが“海から遠くなった”ことで、生物や植物の生態系に変化が生じてきました。防潮林のクロマツのある場所に届く潮風が減ったなどの理由で、クロマツ以外の植物が育ちやすくなったのです。そこでクロマツの保護だけではなく、ほかの植物や昆虫にとっても優しい環境づくりが必要になりました。まず、どのエリアにどのような植生があるのかモニタリングを実施し、クロマツの保護区域と自然に植物が変わっていく区域を分けて、それぞれの環境に合わせた管理をしなければいけませんでした」

上空から見た和歌山工場と防潮林(左)。

上空から見た和歌山工場と防潮林(左)。埋め立てで海岸線が遠くなり、クロマツ以外の植物が育ちやすい環境に。クロマツ林保護区域と自然植生遷移区域を区別して管理しています。

ほぼクロマツの一斉林状態の場所(左)と一部に広葉樹のクスが侵入した場所(右)。

ほぼクロマツの一斉林状態の場所(左)と一部に広葉樹のクスが侵入した場所(右)。

「ただ、私を含めてグループメンバーの社員は、動植物のモニタリングに関しては全員が素人同然でした。そこで外部の専門家にアドバイスをいただいて、社員で昆虫の簡易モニタリングを開始しました。見よう見まねで試行錯誤しながら行っているところですが、やるべきことが明確化されてきました。例えば、『昆虫の生態調査』は和歌山県立自然博物館、『鳥の生態調査』は日本野鳥の会、『植生の生態調査』は和歌山県農林水産部、『歴史・景観・生態的価値』については和歌山大学といったように、目的に合わせて有識者の方々に直接お話を伺い、保全活動に必要な情報を収集していったことで、少しずつ前に進んでいるように思います」

社員によるモニタリング風景。

社員によるモニタリング風景。

現在は、モニタリングのほかにもさまざまな活動に取り組んでいます。

「長年成長してきた樹木が大きくなりすぎたため、近隣の道路や設備の保安上、伐採や間伐が必要になってきました。そこで、私たちは間伐材を樹木資源として有効活用していきたいと考え、和歌山県田辺市の紀州備長炭発見館に、常緑広葉樹間伐材の活用をご提案しました。そして昨年11月に、和歌山工場で育てたウバメガシを提供した際には、社員とその家族の約40名に燃えたままの炭を窯から取り出す作業である窯出しや、紀州備長炭を使った風鈴づくりなど、地域文化体験の機会をいただきました。また、1回の炭づくりにつき、最低1トンの原木が必要になるなど、準備の大変さも知りました」

ほとんど広葉樹に置き換わった場所(左)。「木の実をとってリース作り」の様子(右)。

ほとんど広葉樹に置き換わった場所(左)。和歌山工場内で行われた和歌山市立こども科学館主催行事の「木の実をとってリース作り」の様子。51名の親子、16家族が参加しました(右)。

「生物多様性保全活動はまだ課題が多く難しさを感じますが、近隣小学校の見学会などのイベントを通して、社員や地域社会の環境コミュニケーションの場をつくり、モチベーションを高く持っています」

最後に今後の目標についてお話しいただきました。

「このエリアは、住居と商業地域、工業地域であり、森林がほぼ存在しません。そのため、野鳥や昆虫にとっては、とても貴重な生息地になっています。和歌山工場内では、松林を好むシジュウカラやヤマガラといった野鳥が観察され、巣がつくられていることも確認しています。また、ほぼ松の樹液しか摂取しないハルゼミの鳴き声が聞こえるなど、和歌山市内全体の生物多様性を考えた場合にも、とても重要な環境であると考えられます。これからは、江戸時代から保存されてきた歴史あるクロマツと、そのなかで育まれる生態系について、広く認知されるようにしていきたいです。その結果、私たちと地域社会とのつながりが生まれ、より豊かな生活ができる環境をつくっていけたらと思います」

社員家族見学会の様子(左)とクロマツの紹介パネル(右)。

社員家族見学会の様子(左)とクロマツの紹介パネル(右)。

下記の「関連リンク」に「花王株式会社 生物多様性の基本方針」のホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。

【データ】

名前 :花王株式会社 和歌山工場
住所 :和歌山県和歌山市湊1334
TEL :073-423-8151(代表)、073-426-1285(見学受付)

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