今年、創設50周年を迎えた茨城県つくば市の国立環境研究所では、構内の植生保全優先区域の一部を『つくば生きもの緑地in 国立環境研究所』と名付け、生物多様性の保全活動を行っています。研究所内には昔からの里地・里山の自然にあるコナラやクヌギといった雑木林が残り、さまざまな生き物が生育しています。
国立環境研究所の生物多様性領域 生物多様性評価・予測研究室の主幹研究員で、構内緑地等管理小委員会の委員長である石濱史子さんにお話を伺いました。
「国立環境研究所のある筑波研究学園都市では、1970年代から各研究機関の建設が始まり、各敷地内の30%以上を緑地とすることが定められており、国立公害研究所(現 国立環境研究所)ではさらにできるだけ多くの緑地を維持する方針でした。その後、国立環境研究所の環境配慮に関する基本方針にも、この維持されてきた自然環境を、単なる緑地としてだけではなく、地域の自然の一部として、多様な生き物が生育できるよう管理することを明文化しました。現在は絶滅危惧種のキンランが育ち、ツリガネニンジンやジュウニヒトエ、ニホンノウサギやニホンアカガエルといった里地特有の動植物の生育が確認されています」
このような地域に残る自然環境の保全活動をつくば地域に広げていきたいと石濱さんは言います。
「筑波研究学園都市は、筑波大学や高エネルギー加速器研究機構など29の公的機関をはじめ、民間企業を合わせると約300もの研究施設がある、日本最大の研究開発拠点です。これらの研究機関には里地の自然が残る緑地も多く、また、生き物は1カ所の緑地だけで暮らしているわけではありません。鳥や昆虫が行き来する緑地のネットワークを、地域全体として保全していく必要があります。
多くの研究機関の敷地内に緑地が残っているだけでなく、生き物の知識を持つ研究者も揃っているのがつくば地域の特色です。地域の研究者の知恵を集めることで、生物多様性の保全のためにより効果的な管理も可能になるでしょう。そこで、生きものと人が繋がるネットワークとして、2019年に『つくば生きもの緑地ネットワーク』を設立しました。
『つくば生きもの緑地ネットワーク』は、どこの敷地にどのような動植物が残っていて、現在どういう状況なのか、そして管理方法などの情報を共有することを目的としています。例えば、草刈りは刈り過ぎても、少な過ぎてもダメで、生き物の多様性が低下してしまいます。年2回の草刈りを行うタイミングなど、適度かつ適切な管理が必要なのです。『つくば生きもの緑地ネットワーク』は研究機関だけではなく、NPOや企業、保育園などさまざまな業態の機関が関わっています。このように多種にわたる人たちとの交流で、それぞれの強みを活かせるネットワークを築くことができると思っています。そして、つくば市の研究機関や事業所などの各敷地内の緑地を、保全・管理のノウハウを共有しながら適切に守り、地域全体の生物多様性の保全に貢献したいと思っています」
最後に、これからの取り組みについて石濱さんにお話しいただきました。
「つくば市は全国でも珍しく人口増加により宅地造成が進んでいるため、緑地の価値に気付かないまま開発が行われ、貴重な環境が失われてしまう可能性があります。筑波研究学園都市にある機関は自然環境とは直接的に関連しない分野の研究・開発が主業務であることも多いため、生物多様性の保全を優先しにくいところもあるのが現状です。業態によっても立場や興味が異なるので、いかに協力して進めていくのかは手探り状態で、課題の一つではあります。保全には労力や時間がかかりますが、自治体や企業を含めて、より多くの人に生き物への興味を持っていただき、それぞれが『自分ごと』として実感できるメンバーを増やしていきたいです。さらには、つくば市内に自然共生サイトの仲間がたくさんできればうれしいですね」
下記の「関連リンク」に「国立環境研究所 生物多様性領域」と「つくば生きもの緑地ネットワーク」のホームページがありますので、興味がある方はぜひご覧ください。
【データ】
名前 | :つくば生きもの緑地in国立環境研究所 |
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住所 | :茨城県つくば市小野川16-2 |
TEL | :029-850-2314(国立環境研究所) |