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響灘ひびきなだビオトープ
[北九州市]

北九州市響灘(ひびきなだ)ビオトープ

福岡県北九州市の廃棄物処分場跡地に整備された『北九州市響灘(ひびきなだ)ビオトープ』は、日本最大級の規模を誇る湿地・草地のビオトープです。市民が生物多様性に配慮しながら、自然と触れ合える魅力ある自然環境学習拠点となっています。

ビオトープ

ベッコウトンボなど、湿地に生息する希少種が確認されていることから、環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」として選定されています。

ビオトープがある北九州市若松区の響灘エリアは、福岡県の北部に位置し、戦前から民間企業や国、市が埋め立てを行い、2,000ヘクタールもの広大な産業用地として整備されてきました。東地区は臨海工業地として、西地区は物流拠点として、北九州市の産業・物流を支える場所となっています。また、響灘エリアを含む北九州市は、日本の四大工業地帯の一つとして戦後の高度経済成長期を支えてきた地域です。しかし、重化学工業を中心に産業が発展した一方で、大気汚染や水質汚濁が大きな問題になっていました。そこで、市民と企業、行政が一体となった取り組みにより、環境が改善してきたという背景があります。

1978年に響灘エリアの東地区の一画で廃棄物処分場の建設が開始され、1980年から2000年に廃棄物の受け入れが行われました。その間、砂れき地や草地、湿地が出現し、多くの動植物が生息する場所となったことから、この場所を産業と自然が調和した魅力ある場所として整備することになりました。そして、自然環境の保全と生物多様性に関する学習ができる施設として、2012年10月に北九州市響灘ビオトープがオープンしました。

絶滅危惧種のコアジサシ

絶滅危惧種のコアジサシの生息環境となる砂れき地。

響灘ビオトープの特徴について、北九州市環境局環境監視課自然共生係長の新谷拓也さんにお話を伺いました。

「まず何よりも、廃棄物処分場跡地という生物多様性とは縁遠い状態からつくられたビオトープというのが大きな特徴といえます。廃棄物として下水汚泥などが含まれていたため、軟弱な土壌に地盤沈下が発生し、地形に凸凹が生じました。そこに雨水がたまり、湿地や淡水池、草地など多様な自然環境を出現させたのです。すると、さまざまな植物に加え、トンボやメダカなど多くの動物もすみつくようになりました。また、この地域は渡り鳥の日本縦断のコースにあたり、越冬や中継地として200種類もの野鳥が飛来するようになりました。現在では、チュウヒやベッコウトンボなどの絶滅危惧種を含む800種もの動植物が確認されています」

絶滅危惧種のチュウヒの営巣

絶滅危惧種のチュウヒの営巣が確認されています。

ベッコウトンボ

国内では5県のみで確認されているベッコウトンボは、トキと同じレベルの絶滅危惧種です。

響灘ビオトープ園長の安枝裕司さんに、施設についてお話ししていただきました。

「園内は湿地、草地、そして小石や岩片(がんぺん)のある砂れき地に分かれ、それぞれの特性に合わせた生物の生息環境を保全するため、エリアごとにローテーションで管理しています。ここにいる生物はすべてが野生なので人の動きに敏感です。したがって、野生動物を観察する野鳥観察施設や観察デッキなどでは、観察窓をつくり、人の気配を感じさせない工夫をしています」

観察デッキ

観察デッキでは、水生昆虫や植物など、湿地に生息する生き物を間近で観察することができます。

見晴らし台

見晴らし台は周辺より5mほど高く、響灘ビオトープの全41ヘクタールを見渡せる場所。

「子どもから大人まで、より多くの人に自然に触れて学んでもらうため、毎月定期的に観察会や、団体でご案内するガイドツアーを開催しています。夏は湿地でオタマジャクシや水生昆虫を小さなアミでとって観察したり、春や秋は草原の昆虫を観察したりします。観察会では、毎回、大人は懐かしさを覚えながら、子どもたちは新鮮な体験として、園内の自然との触れ合いを楽しんでいます」

市民参加型の観察会

市民参加型の観察会では、力強く響く鳥の声や昆虫の羽音を身近で感じることができます。

「課題としては、自然に関心のある人に向けてだけではなく、あまり自然に興味を持っていない人にもアプローチをしなければいけないということです。そのために、生物多様性保全活動とアートやスポーツなど、異なるジャンルのものを組み合わせた企画を進めています。例えば、外来種駆除をスポーツ感覚で行えるイベントとして、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)取り大会を競技のように行っているほか、カヌーに乗って水辺の環境を見るイベントなどを開催しています。また、引退した路線バスをサウナに改造した『サバス』を使い、サウナ体験後に園内に設置した水風呂に入りながら、響灘ビオトープの豊かな自然を体感する企画は好評でした。そのほか、プロスポーツチームとのコラボ企画で、スタジアムにスタンプを設置し、スタンプラリー形式で子どもたちが野鳥や生態系について楽しく学べる機会をつくりました」

ジャンボタニシ取り大会の様子

ジャンボタニシ取り大会の様子。大量のジャンボタニシの成貝を駆除。

カヌーで水辺の生き物観察。

カヌーで水辺の生き物観察。

今後の目標について新谷さんと安枝さんにお聞きしました。

「響灘ビオトープを北九州市内だけでなく、市外にも積極的にアピールしていきたいですね。人の手を入れていない野生動植物なので、来園された方が目的の野鳥や昆虫、植物と出会えるとは限りません。いつ訪れていただいても楽しめるような工夫を考えていきたいと思います」(新谷さん)

「響灘はアジアの玄関口でもあるので、外国の方にも来ていただきたいですね。工業都市である北九州市が、生物多様性保全に積極的に取り組んでいることも知られるようにできたらと思っています」(安枝さん)

下記の「関連リンク」に「北九州市響灘ビオトープ」のホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。

【データ】

名前 :北九州市響灘ビオトープ
住所 :福岡県北九州市若松区響町1
TEL :093-751-2023

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