

地域に根差した企業と
行政が連携し
脱炭素を土台に
まちの魅力を再生する
東海地方有数の港町である清水エリア、そして
近年物流拠点として整備が進む恩田原・片山エリアで、
脱炭素とまちづくりを掛け合わせた取り組みを進め、
2022年4月に脱炭素先行地域※1に選定された静岡市。
同市の脱炭素先行地域の取り組みを担当してきた
環境局GX推進課の廣田潤さんに、
脱炭素を通じて静岡市が目指すまちの姿についてお聞きしました。
※1 自治体や地元企業を中心に2050年カーボンニュートラルに向けて地域特性などに応じた先行的な取り組みを実施し、脱炭素の方向性を示すことを目的として環境省が選定・支援する制度。
脱炭素をまちづくりに活かし
まちの魅力と持続可能性を向上
10年以上にわたって静岡市の環境施策に携わってきた廣田さん。今回の脱炭素先行地域(以下・先行地域)選定に結び付いた取り組みの狙いには、「まちの魅力向上」があるといいます。
「静岡市における脱炭素の取り組みの特徴は、新たな土地利用と産業交流を促す『まちづくり』そのものの中に位置づけていること。そして民間企業主体で事業を推進し、市がそれを支援するスキームを構築していることです。
静岡市は全国でも人口減少の著しい地域です。そのため若い人が魅力を感じる仕事・企業を市内に増やしていくことは、行政にとって重要な課題です。
各種の就職意識調査でも、若い世代は企業の社会貢献活動やSDGsへの取り組みを重視する傾向が見られます。そのため、まちづくりにサステナビリティの観点を入れ込み、GX※2に取り組む企業を市内に増やすことは、静岡市の魅力の向上、ひいては人口減少対策としても有望だと考えています。静岡市に根差した企業と一緒になって先行地域に応募したのには、このような観点から市の魅力を磨き上げる狙いもありました」
※2 Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)の略。化石燃料中心の社会・経済を、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギー中心へ転換し、脱炭素と産業競争力強化・経済成長の同時実現を目指す取り組み。
地元に根差した企業が主導して
地域特性に合わせた取り組みを実施
先行地域に選定されてから4年が経ち、対象地のうち「清水駅東口エリア」「日の出エリア」では第一弾の整備が完了。整備中の「恩田原・片山エリア」でも再生可能エネルギーの利用が始まっています。それぞれのエリアの特徴と取り組みを紹介してもらいました。
「清水港の製油所跡に位置する『清水駅東口エリア』は、以前からの所有者であるENEOSグループが整備を進めている、エネルギー拠点としての役割が強いエリアです。
清水駅周辺は、かつて非常に多くの人が集まるエリアでしたが、現在ではにぎわいが失われています。そこで製油所跡の遊休地を再整備し、サッカーチームの本拠地になる多目的スタジアムおよび複合商業施設の建設を検討するなど、清水駅周辺を軸に新たなにぎわいを創出する取り組みが進められています。
それに先行した脱炭素の取り組みとして、太陽光発電設備と大型蓄電池、自営線※3による地域マイクログリッド※4を構築しており、発電した電力は地域の基幹病院と文化施設、そしてENEOSの油槽所に供給しています。また発電した電力で水を電気分解し、生成した水素をモビリティに供給する水素ステーションも備えています」
※3 地域でのエネルギーの地産地消に取り組む事業者が独自に敷設した電線のこと。
※4 地域内で発電・送電を行う小規模な送電網のこと。平常時には従来型の系統電力に接続している場合も、災害時にグリッド内で自立した電力供給が可能になる。
清水駅東口エリアの製油所跡地に整備された太陽光発電設備と大型蓄電池。(写真提供:静岡市 環境局GX推進課)
「清水駅東口エリアから2kmほど南に行った『日の出エリア』は、国際的なクルーズ船の寄港地でもある海の玄関口です。こちらは清水区に本社を置く鈴与グループが、既存の倉庫の屋根などで太陽光発電設備の整備を進めており、観光施設・商業施設が集積するエリアでの再生可能エネルギー活用とにぎわいの創出の両立を目指しています」
清水港の玄関口として多くの観光客が訪れる日の出エリア。(写真提供:静岡市 環境局GX推進課)
「一方、清水駅東口エリアから離れた駿河区に位置する『恩田原・片山エリア』は静岡市内でも数少ない未開発の平坦地だった地区で、現在工業団地として開発されています。ここでは静岡ガスが中心になって、PPA※5による太陽光発電設備を設置し、企業活動の脱炭素を推進する物流拠点として整備を進めています。地域脱炭素推進交付金を活用することで通常と同程度の電気料金で再生可能エネルギーを使用できるため、企業側からもサステナビリティの取り組みによる企業価値向上の面でメリットを感じていただいています」
※5 Power Purchase Agreement(電力販売契約)の略。利用者が保有する屋根や遊休地に、電力事業者側の負担で発電設備を設置し、発電した電気のうち使用した分を利用者が電力事業者から購入する方式のこと。
恩田原・片山エリアは環境に配慮した物流拠点として整備し、企業誘致・留置を狙う。(写真提供:静岡市 環境局GX推進課)
「いずれのエリアでも、事業は静岡市と関わりの深い民間企業が担っています。私たち行政は全体構想の策定、各企業・関係機関の調整および情報共有機会の設定、国の補助金の申請支援や事業全体の進捗管理といった『推進し、場を整える』役割を担っています。
また静岡市は日照条件にも恵まれ、再生可能エネルギーの大きなポテンシャルを有する地域です。その導入を加速させる有効な手段として、初期費用の負担なく導入できるPPAを市内全域で推奨しています。一般的なPPAは、余剰電力が電力系統に流れてしまい、必ずしも地域内で有効活用されません。そこで静岡市では、市内のPPAで創出された余剰電力を先行地域に供給して直接活用する仕組みを構築し、エネルギーの地産地消を実現しています」
脱炭素を契機に地域の企業がまとまり
事業者を超えた取り組みが可能に
先行地域の選定を通じて、環境省という外部の目から見た対象エリアの特徴の発見や、他の自治体の環境担当者との情報交換の機会が得られたという廣田さん。もうひとつの効果として、これまで個別に協業してきた企業がひとつにまとまったことがありました。
「先行地域の選定以前から、静岡市はそれぞれの企業と個別に脱炭素を基盤にしたまちづくりについて協議を重ね、事業を進めていました。
例えばENEOSからは、化石燃料の事業が世界的に縮小していくと予測される中で、『清水の地から次世代エネルギープラットフォームを構築したい』というご要望をいただき、遊休地を転用した脱炭素のまちづくりについて以前から協議していました。同じように日の出エリアでも、鈴与グループへの委託事業として電力需要の調整やVPP※6の導入を進めていましたし、恩田原・片山エリアでも、工業団地の新規開発における再生可能エネルギーの活用に向けた調査を静岡ガスと実施していました。
このように、それぞれの企業と個別に脱炭素とまちづくりを掛け合わせた取り組みを進めていた中で、先行地域の募集開始をきっかけに『皆さんで一緒にやってみませんか』とお声がけしたところ、快諾していただきました。そこから金融機関など他の事業者とも協働し、『静岡市脱炭素先行地域推進コンソーシアム』を形成したことで、事業者の枠を超えた取り組みが進められるようになりました。例えば、あるエリアで生じた余剰電力を他エリアに融通する仕組みの実証なども、コンソーシアムの参加企業が行っています」
※6 Virtual Power Plant(仮想発電所)の略。複数の小規模電力源や蓄電池を、IT技術を活用してあたかもひとつの発電所のように統合制御する仕組み。
「静岡市脱炭素先行地域推進コンソーシアム」の会合の様子。(写真提供:静岡市 環境局GX推進課)
未来を創る「人」の想いと行動を支援し、
広げることが行政の使命
静岡市の取り組みは他地域にとっても参考になるものですが、それを実現したのは各企業の「想い」だったと廣田さんは言います。
「静岡市では、民間企業が事業の主体となり、行政が全体調整や支援を担う推進体制を構築したことで、行政だけでは難しい規模の投資を可能にしました。こうした官民連携の枠組みのモデルは、全国のさまざまな地域においても応用・展開が可能だと考えています。
企業にとって脱炭素の取り組みは、短期的には必ずしも利益につながる事業ではありません。しかし静岡市での一連の取り組みでは、各企業の担当者の方が『静岡市のために』という想いから動いてくださり、『まず地域の価値が上がり、結果的に自分たちの企業価値も上がっていけばいい』と考えてくださっています。行政の立場からすると本当にうれしいことです」
最後に、静岡市はエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、廣田さんに聞いてみました。
「行政単独で大きな取り組みはできません。ですから一番大事なことは、企業そして市民の皆さんと『共創』していくことです。
静岡市も担当者である私自身も、今回の脱炭素とまちづくりを掛け合わせた取り組みを、環境対策としてだけでなく『地域の未来を創る原動力』として進めていきたいと考えています。未来を創る当事者である『人』が動くための基盤と支援体制を整えること。私たち環境を担当する部署の場合は、サステナブルな社会を創る人同士の環を広げていくこと。それが私たち行政の役割であり、使命であると思っています」
原稿/甲斐荘秀生