松本庸氏画像1
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社員、生産者、
そして社会と共に
「花のサステナビリティ」を
実現していく

2026年1月に、花き業界で初めて環境省のエコ・ファースト制度※1
認定を受けた株式会社日比谷花壇。
同社のサステナビリティ推進室長の松本庸さんに、
エコ・ファースト制度の認定に取り組んだ狙いや、
日比谷花壇の社会的使命と環境への取り組みについてお聞きしました。 ※1 業界を牽引して環境保全に取り組む企業を環境大臣が認定する制度。

環境への取り組みを「見える化」するために
エコ・ファースト制度を活用

日比谷花壇がエコ・ファースト制度の認定を受けるにあたり、主導的な役割を担った松本さん。その狙いは環境への取り組みの「見える化」だったそうです。

「日比谷花壇は“花”という自然物を扱う会社ですから、環境とは切っても切り離せません。当社は2007年から植樹活動や、若年層を対象に花に触れる機会を提供する『花育(はないく)』の活動に取り組んでいましたし、2020年代に入ってからも環境配慮型の資材の導入や、ESG経営※2のロードマップ策定といった取り組みを進めてきました。

その一環としてエコ・ファースト制度の認定に向けて取り組んだ大きな理由は、環境目標とそれに向けた取り組みの「見える化」です。環境への取り組みとして現状できていることとできていないことを整理し、社内およびサプライチェーン全体の環境負荷を把握し、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて中間目標を設定する。まず目標を決めてから実現までの道筋をみんなで考えるアプローチを進めるために、エコ・ファースト制度の認定基準を目標設定のためのフレームワークとして活用したんです」

※2 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した経営のこと。

さらにエコ・ファースト制度の認定には、社内外へのメッセージとしての意味合いもあるそうです。

「これからは、すでに認定されている企業と同じく高い環境責任を持つ企業として社会から期待されることになりますが、社会に対して環境対応を進めようという花き業界の姿勢を示すことにもなります。そして日比谷花壇が率先して環境対応に取り組むことは、業界を挙げての環境への取り組みを呼びかけることにもつながります。

社内に対しても、『以前からみんなが実行してきたいろいろな環境への取り組みをまとめた上で、さらに進めていくと約束した結果、環境大臣から認定を受けた。自分たちがやってきたことに自信と誇りをもって、これからも頑張ろう。そして社会に対して約束した以上、責任をもって果たしていこう』という意識づけになればと思いながら、認定に向けた取り組みを進めました。

実際、若手社員から『こういうことがやりたい』という声が上がったり、店舗のスタッフの発案でご自身の子息が通う小学校で花育の授業をしたりと、社内の環境への意識が以前にも増して高まってきたことを実感しています」

日比谷花壇社内の環境研修の様子。(写真提供:日比谷花壇)

日比谷花壇社内の環境研修の様子。(写真提供:日比谷花壇)

花き業界が直面する
環境面での課題とは

改めて、花き業界にはどんな環境課題があるのか、解説してもらいました。

「花きは生花市場を通じた取り引きが多く、特に東京の市場への一極集中が起きています。そのため、例えば長崎で作られたカーネーションが東京の市場に輸送され、それを福岡の花屋さんが購入し、再び九州に輸送されるような、流通上の非効率が起こっています。
これらの課題を解決するために、全国の物流事業者が中心となる『全国花き物流協議会』や花き市場や生産者が進める『フラワー需給マッチング協議会』に参画し、業界全体で商流・物流の分離や効率化の課題解決に取り組んでいます。

また、小さな傷や色の変化だけでも商品価値が下がってしまうため、多くの花は温室で育てられます。温室栽培にはボイラーを稼働させるために重油などの化石燃料が必要ですが、バイオマスボイラー※3などの二酸化炭素(CO2)排出量が少ない方式への切り替えは導入コストの問題でなかなか進んでいません。

保護フィルムや花器などに石油由来の素材が多く使われていることも業界の課題で、こうした課題に対し、当社では紙製品やバイオマスプラスチックへの転換を進めています」

※3 間伐材など森林資源由来の木質バイオマスを燃料としたボイラーのこと。CO2削減やエネルギーの地産地消の効果が期待されている。

トウモロコシ由来のバイオマスプラスチックの花器。(写真提供:日比谷花壇)

トウモロコシ由来のバイオマスプラスチックの花器。(写真提供:日比谷花壇)

ブライダルなどで飾られた花を押し花にしてアップサイクルしたメッセージカード。

ブライダルなどで飾られた花を押し花にしてアップサイクルしたメッセージカード。

また、花き業界は植物を扱うだけに、環境の変化によって重大な影響を受けます。

「日本列島は南北に長く標高差もあるため、地域によって気候に差があり、同じ種類の花でも地域によって時期を変えて育てることができます。これを『産地リレー』と言い、一年を通して安定的に花を供給するためには欠かせません。

しかし、近年の温暖化により、これまで産地リレーで別の時期に咲いていた花が一斉に咲いてしまうことで一時的な供給過多により市場価値が低下したり、出荷の端境期(市場への入荷量が減少)が続くことで安定供給にも支障が生じたりしています。また、気温が上がるとご家庭で花の『日持ち』が悪くなる、つまり切り花として楽しめる期間が短くなることも気候変動の大きな影響です」

「持続可能な花」の形を
生産者と共に模索する

日比谷花壇の環境への取り組みの特徴は、自社だけでなくサプライチェーン全体を視野に入れていることです。

「日比谷花壇グループの事業分野は花きの仲卸から小売までになります。当社は、サプライチェーンの上流、特に生産者の方の尽力があってこそ成り立つ会社です。環境への取り組みにおいても、その協力が欠かせません。

花き業界にはMPS認証※4という、使用した農薬、肥料、燃料などを記録・評価する国際的な環境認証がありますが、これは生産者のグループによる自主基準を基に発展し、国際的な基準に成長したものです。このように日本でも企業・業界主導で動くことが大切だと考えました。

そこで『持続可能な花とは何か』という問いに応える形で、MPS認証の取得、日持ちを担保するリレーフレッシュネス※5の取得、エネルギー投下量を低減する露地栽培品、有機減農薬栽培品という4項目からなる『生花の環境配慮型生産4基準』という自主基準を定めました。同時に生産者のMPS認証取得のサポートや、生産者と一緒に環境について考える勉強会も行っています」

※4 オランダ発祥の、生産業者と流通業者を対象とした花き業界の総合的な認証システム。

※5 花き業界の事業者に向けた、花きの日持ち性向上対策に関する認証で、正式名称は「花き日持ち品質管理認証制度(リレーフレッシュネス)」。

MPSをはじめ環境配慮栽培を学ぶ生産者会議の様子。(写真提供:日比谷花壇)

MPSをはじめ環境配慮栽培を学ぶ生産者会議の様子。(写真提供:日比谷花壇)

「生産者に対して『日比谷花壇はこのような花を生産者から買い、消費者に売り、取り組みの意義を伝えていく。だから一緒に取り組んでいこう』と約束する意味でも、先ほどの4基準を満たした『環境配慮型生産』を取り扱い量の50%以上にすることをはじめ、国産品を取り扱い量の80%以上、地産地消・地域生産品の店頭販売割合を50%以上といった具体的な目標値を日比谷花壇では掲げています」

「自然との接点」の創出が
自分たちの社会的使命

事業の一環として、市民が自然と触れ合い、学ぶ機会を創出していることも日比谷花壇の特徴のひとつです。

「日比谷花壇グループは、植物のプロフェッショナルとして培ってきた知識や造園技術を活かして、公園や文化施設など全国で約1,200の公共施設を指定管理者として運営しています。それぞれの施設では、地域のボランティアの力をお借りしながら、施設の特徴や地域性を活かした自然観察会などを行っています。公共施設のなかには、自然共生サイト※6の認定を目指している施設もあり、市民の皆さんに、さまざまな形で自然に触れ、環境について学んでいただく機会を創出しています」

※6 環境省が認定する、民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域の認定制度。

管理施設での自然観察会の様子。(写真提供:日比谷花壇)

管理施設での自然観察会の様子。(写真提供:日比谷花壇)

「自然との接点の創出に関連して、横浜で開催される2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)に、会場整備の造園工事や花・緑出展でのブース出展、グリーンショップの出店を通じて参加します。花・緑出展では『花き産業からサステナビリティを考える』というテーマの一角を担っており、来場者の方に会場での体験を通じて学びを持ち帰っていただけるよう、準備を進めています」

最後に、日比谷花壇はエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、松本さんに聞いてみました。

「当社が創業したのは1872年のことですが、『日比谷花壇』という社名は戦後の1950年から名乗るようになりました。当時の東京都知事から『戦後復興計画の一環として、市民の憩いの場である公園に、海外の事例にならってフラワーショップを作りたい』という要請を受けて日比谷公園に花屋を出店し、『日比谷花壇』と名付けてもらったことに由来します。我々は『平和と復興のシンボルとして日比谷花壇になった』わけです。個人的にも、福島県の花き生産者の方に『日比谷花壇は都会にある“自然との接点”なんだよ』と言われたことがずっと心に残っています」

日比谷公園に出店した当時の本店。(写真提供:日比谷花壇)

日比谷公園に出店した当時の本店。(写真提供:日比谷花壇)

「私たちの社名にはそのような社会的使命が込められており、環境分野においても先導的な役割が期待される立場です。今後も花き業界の環境への取り組みをリードし、業界と一緒になって進めていきたいと考えています」

松本庸氏画像2
松本庸(まつもと よう)

花き農家に生まれ、家業の花き生産に就農。オランダの花き業界での経験を経て、1997年日比谷花壇入社。仕入部門、商品企画部門、販促部門を経験。2023年ブランドコミュニケーション室ディレクター、2025年サステナビリティ推進室長(兼任)。

【企業情報】

株式会社日比谷花壇
本社:東京都港区南麻布1-6-30
従業員:2,027名(2026年6月1日時点)
設立 :1950年12月6日

写真/榊水麗
原稿/甲斐荘秀生

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