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ecojin interview

きちんと課題に向き合えば、
少しずつ世界は変わっていく。

坂井佳奈子|KANAKO SAKAI

ファッションのみならず
さまざまな社会的課題についても
発信するメディア『ELLE(エル)』。
エルグループ編集局長を務める坂井佳奈子さんに
環境問題への向き合い方について伺いました。

環境負荷が高いとされるファッション業界ですが
近年は環境問題に本気で向き合っています

 フランスで創刊され、世界45の国と地域で読まれているファッションメディア『ELLE(エル)』。ファッションにとどまらず、環境やジェンダーなどのさまざまな社会的な話題も取り上げて発信しています。日本版『エル』でも、2007年に初めて“グリーン・イシュー”として環境問題を大きく取り上げました。 「セレブリティの中には、環境に対する意識が高く、環境活動に携わっている人がたくさんいます。海外版では彼らのインタビュー記事をフックに、たびたびグリーン・イシューを扱っていました。当時日本では、環境問題を特集するファッション誌はほとんどありませんでしたが、『エル』はジャーナリスティックな視点を併せ持つメディア。日本版でもグリーン・イシューを取り上げるべきだということで、特集を組んだのです」

 環境負荷の高い産業と言われるファッション業界。1着の服を作るために、原料の調達から製造までに約25.5kg(500mlのペットボトル約255本製造分)のCO2が排出され、それ以外にも大量生産による大量廃棄や資源の大量消費など、多くの環境負荷が浮き彫りになっています。 「私が愛してやまず、仕事としても長年関わってきたファッションがこんなにも環境に悪影響を及ぼしているのだということに、私自身衝撃を受けました。それを知ったからには、『メディアにいるのだから、きちんと環境問題に向き合って発信しなくてはいけない』と強く決心しました」

 定期的にグリーン・イシューを取り上げ、発信を続けている『エル』。2022年も「自然の再生」と「循環型経済」をテーマに、世界のサステナビリティの動きをしっかりと紹介しています。 「『知らない』ということが、一番怖いことなのではないでしょうか。環境問題をあまり意識していない人に対しても、記事を掲載することで『これって何だろう、どういうことだろう』という気付きにつながってくれればと思っています」

 昨年に引き続き、オンラインとリアルのハイブリッドで開催した「ELLE ACTIVE! FESTIVAL 2022」では、SDGsをテーマにしながらもお堅いムードを一掃。『エル』らしくハッピー&ポジティブに社会課題に向き合おうとYouTubeとTwitter、TikTokでもライブ配信しました。また、『エル デジタル』25周年を記念して制作した「バーチャル・ポップアップストア」では、撮影に使用していたCO2の総排出量を計算して排出削減に挑戦。荷物の運搬にEV車を使ったり、撮影場所に再生可能エネルギーを契約しているショップをセレクトしたりするなどして、サステナブルな世界の実現に向けての『エル』の本気度を示しました。
「今年は会社全体で事業に使用するCO2の総排出量も計算してみたんですよ。これまでにも、2010年に国内の出版業界で初めて「FSC CoC認証」*を取得しました。オフィスでの紙の使用量も2年前と比べて月平均で50%削減も実現させています。こうした会社の姿勢を示すことによって、従業員がSDGsを自分ごととして捉えるようになり、それに対応するアイデアを出すようになる、そんな良いスパイラルが生まれていると感じています。最終的には、『エル』で発信するすべてのコンテンツをサステナブルにして、行動を伴うメディアとして自信を持ってコンテンツを世に出していきたいですね」

 地球の未来について、坂井さんは「実はそんなに悲観していない」と話します。「徐々にですが、若い人たちの間にサステナブルに対する意識が根付いてきているように感じています。ファッションアイテムを選ぶ際にも、新しい物を持つのがカッコイイのではなく、背景にあるストーリーで選ぶ傾向がある。『買い物は投票』と話し、製品がどのように作られているのかをちゃんと調べて購入するインフルエンサーもいます。こうした動きに対して、生産側も、近年環境問題に相当の覚悟を持って取り組んでいると感じています。事業活動における環境負荷を測定して対策に乗り出しているハイブランドでは、例えばファッションショーで排出したCO2を植樹でオフセットしたり、またシーズンごとに新しいコレクションを発表しつつも、パーマネントコレクションと呼ばれる定番ラインを設けて、同じものを長く持つことの素晴らしさを伝えたり。ファッション業界のさまざまな環境問題への向き合い方を見ていると『こうやって時代は変わっていくのだ』という感慨が湧いてきます。ビジネスを継続していきながら、サステナビリティをしっかり考える。それをドラスティックに変えようとするのではなく、できることから一つずつ向き合って取り組んでいけば、少しずつだけれど世界は前進していくのだと思います」
 自分自身も、買い物の仕方が変わったという坂井さん。「最近は、手にした物と一生つきあえるかを考えてから購入するようにしています。自分が気に入ったものを長く大切に着る、というのが今のファッションにおける本当の『おしゃれ』。流行は参考程度に、自分の好きな格好をすればいい。物を大切にすることで、ライフスタイルが丁寧に、豊かになるようにしていきたいですね」

*FSC CoC認証 FSC認証は、森林の環境や地域社会に配慮して作られた製品を消費者に届けるための制度。森林管理のFM認証と加工・流通過程のCoC認証があり、CoC認証では、製品が完成するまでのすべての⼯程で、FSCが不適格とする森林由来の原材料が混ぜられていないことを審査・認証する。

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坂井佳奈子(さかい かなこ)

エルグループ 編集局長 兼 エル デジタル 編集長。
1998年、アシェット・フィリパッキ・ジャパン(現・ハースト・デジタル・ジャパン)入社。『ELLE JAPON(エル・ジャポン)』編集部でファッション・ディレクターなどを経て、2014年1月に『ELLEgirl(エル・ガール)』編集長に就任。2015年4月にエル コンテンツ部の編集長に就き、コンテンツの拡充と成長に貢献。2020年10月より『ELLE』に関する全メディアの編集体制を統括するエルグループ編集局長に就任。

写真/千倉志野

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