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ecojin interview

自然と人とモノが循環するために
いま僕たちができること

新羅慎二(湘南乃風・若旦那)| SHINJI NIRA

人気グループ「湘南乃風」のメンバー「若旦那」として知られ、
ソロ名義での音楽活動や俳優としても活躍する新羅慎二さん。
音楽活動と並行して社会活動や災害支援に携わり、
環境問題にも深く関わる新羅さんが見つめる
自然と社会の好循環とは。

環境問題への取り組みは過激になり過ぎない
客観的な視点が必要だと思う

 新羅慎二さんが、音楽業界に身を置く一方で「誰かを間近で救ってあげられるようなことができないか」と考え、難病の子どもを支援する社会活動をスタートしたのは2007年のこと。その後、2010年のハイチ大地震を支援するチャリティプロジェクト「LOVE for HAITI」に取り組んだ翌年、東日本大震災が発生。「ハイチの時に災害支援活動の基盤ができていたので、知人や友人にすぐ連絡をとって震災発生の翌月には現地に入りました」と新羅さんは振り返ります。被災地での炊き出しを始め、地元の人たちから何が必要かを聞き取り、定期的に物資を届けるなど、支援を続けました。
 「2016年の熊本地震でも支援活動を行ったんですけど、この時は地震に加えて豪雨による大きな被害が出ました。そういえば近頃、あちこちで自然災害が起きているな、これも気候変動の影響なのかな、と思って、知的好奇心も手伝って次第に環境問題への関心が高まっていきました。調べていくと、環境問題は経済や政治と密接に関わっていることもわかってきました。個々の支援も大切だけど、もっと根本的な部分で環境全体を考える必要があるんじゃないか。そう思って、東日本大震災の復興支援に関わり続けて10年たった2021年から、環境問題にも積極的に取り組むようになったんです」

 環境問題へのアプローチとして新羅さんがまず始めたのは店づくりでした。2021年7月、「TORIBA COFFEE」代表の鳥羽伸博さん、音楽プロデューサーの大沢伸一さんとともに渋谷区富ヶ谷にマカダミアナッツミルクとヴィーガンの店「THE NUTS EXCHANGE」をオープン。メニューはすべて動物性食材ゼロ、農薬ゼロ、内装は廃材を再利用し、可能な限りごみを出さない「ゼロウェイスト」の店を目指しています。
 「都会で日頃ごみ拾いなどをしていると、あまりの量に『僕らはごみを出すために暮らしているのか?』と絶望的な気持ちになります。東京で生まれ育った人間としては、ここでごみを出さない店ができるのか実験してみたかった。『そんなこと本当にできるんですか?』と聞かれた時に、実際にやっている場所があれば説得力があるじゃないですか」

 ヴィーガン料理を出すゼロウェイストの店というと敷居が高い雰囲気になりがちなところ、「大切なことだからこそ、楽しく、おしゃれに伝えたかった。怒りや悲しみを元にしたくない。過激にメッセージを伝えても怖がられるだけ」という新羅さんの言葉通り、店内に直接的なメッセージは見当たりません。その代わり、新羅さんが編集長を務めた書籍『循環』の中に、環境問題や循環型社会についての考え方がしっかりまとめられています。「この本は僕が前面に出るのではなく、循環を実践する人たちの取り組みや考え方を紹介する形にしています。湘南乃風って世間のイメージではエシカル(倫理的、道徳上)から最も遠い存在だろうから、僕が前に出ないほうがいいんです(笑)」

 この書籍『循環』も一つのきっかけになり、新羅さんは2022年4月、島根県松江市が新設した「まつえ環境クリエイティブディレクター」に就任しました。
 「地元の人たちはあまり意識していないと思いますが、松江は古くから自然との共生や循環型社会を実践しているまちなんです。環境クリエイティブディレクターとして、まずは松江市の全家庭にコンポストを設置したり、市民農園で無農薬の野菜づくりによる食育を進めたりしながら、農的暮らし、農的教育をここから発信していきたい。スモールコミュニティのメリットを活かした循環型の自給自足や地産地消によって地域の魅力が高まれば、移住者も増えて税収も上がる。クリエイティブの視点から松江を全国のモデルになるような環境のまちにしたいですね」

 活動母体の湘南乃風と新羅慎二名義のソロ活動を行き来しながら音楽を続ける新羅さんですが、環境問題と深く関わることで音楽との向き合い方も変わったのでしょうか。
 「湘南乃風はお客さんを楽しませるエンターテインメントで、ソロはもっと等身大の世界。ソロの時はアコースティックギター1本で全国どこへでも行きますが、木でできたギターと人の声は、それだけで自然と人との共振です。だから、直接的に環境問題を歌詞にする必要もなくて、もっと普遍的で哲学的なことを日常会話のように歌う。例えば地上から太陽をながめ、太陽から地上をながめるような交互に行き来する客観的な視点から歌が生まれるんです。環境問題への取り組みも、アツく過激になり過ぎないように客観的な視点が必要だと思う。地道にやり続けて、いつの間にか湘南乃風のファンが全員エシカルになっていたら、時代が変わった証拠じゃないですかね」

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新羅慎二(湘南乃風・若旦那)

1976年、東京都生まれ。「湘南乃風」のメンバー「若旦那」として活動する一方、ソロ名義での作品リリースや他アーティストのプロデュース、楽曲提供なども行い、俳優としても活躍。2022年、長野県蓼科に廃材を利用したエコハウスを建て、東京との2拠点生活を送っている。

写真/千倉志野

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