[ 特集 ]

快適で安心、
「ZEH」は未来の
住まいのスタンダード

高断熱の家に省エネ機器や太陽光発電を組み合わせ、
エネルギー消費量の収支を実質ゼロ以下にする住宅
「ZEH(ゼッチ:net Zero Energy House)」。
光熱費の削減や快適な暮らしの実現、エネルギーの自給自足による
防災時の安心など、ZEHには多くのメリットがあります。
国の補助制度も整備されており、リフォームや賃貸など、
一般家庭にとっての選択肢も豊富なZEHの仕組みや具体例を紹介します。

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地球と家計にやさしい
住宅ZEHとは?

「ZEH」(ゼッチ)とは、net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語です。建物の断熱性能*1を高め、高効率な設備を導入し、消費するエネルギーを抑えることで「省エネ」を実現するとともに、太陽光発電などの再生可能エネルギーを創り出す「創エネ」によって、エネルギー収支が正味ゼロ以下になることを目指した住まいのことです。

*1 「建物からの熱の逃げやすさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」の2つの点から建物を評価する指標。

日本政府は2050年までの「ネット・ゼロ」(=温室効果ガスが排出される量と吸収・固定される量の差し引きがゼロになること)の実現を目指しています。日本では温室効果ガス排出量全体の9割以上を占める二酸化炭素(CO2)のうち、家庭部門における排出量が約15%を占めていて、家庭部門の脱炭素化は重要な課題のひとつです。2025年2月に閣議決定された環境省の「地球温暖化対策計画」では、2030年度に家庭部門の温室効果ガス排出量を2013年度比で66%削減、つまり約1/3までに減らすことが目標として定められました。ZEHの普及はその実現のためのカギとなる、重要な取り組みです。

※「住宅脱炭素NAVI」(環境省)より
※「住宅脱炭素NAVI」(環境省)より

ZEHは暮らす人にとっても大きなメリットがあります。断熱性が高く室内温度を一定に保ちやすいため、夏は涼しく、冬は暖かく、1年中快適に過ごすことができます。また、高断熱の家は部屋ごとの温度差が少なくなるため、ヒートショック対策につながるほか、結露による湿気やカビの発生を防ぎます。

使用するエネルギー量を大幅に減らすことができ、それによって光熱費を抑えられるのも大きな魅力です。さらには太陽光発電に加えて蓄電池システムを設置することで、災害時に停電になっても生活に必要な電気をまかなうことができます。エネルギー価格の高騰や夏の気温上昇、自然災害の頻発などが見られる昨今、ZEHは住まいの賢い選択肢なのです。

※「ご注文は省エネ住宅ですか?」(国土交通省)より
※「ご注文は省エネ住宅ですか?」(国土交通省)より
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リフォームで
既存住宅をZEHに!

新築住宅だけでなく、リフォームでもZEH化することは可能です。床、壁、窓、天井などの断熱性能を高め、換気や給湯、照明などを省エネ性能の高いものに変えて消費エネルギーを減らしたうえで、太陽光発電や蓄電地システムなどを導入し、家庭で使うエネルギーの収支をゼロにすることができます。

なお、住宅をまるごとリフォームする場合は多くの費用がかかることから、コストを抑えるため、部分的な断熱リフォームを行うという選択肢もあります。とりわけ窓の断熱リフォームは、天井や壁、床と比べて安価に、短期間で工事が終わります。住宅では窓などの開口部からの熱の出入りが5~7割といわれており、窓を改修することで冷暖房使用量が削減され、光熱費やCO2排出量の削減が期待できます。

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国の省エネ基準と支援策

日本では2025年4月から、住宅を含む全ての建築物について省エネ基準適合が義務化され、新築の建築物を建てる際には断熱性能などにおいて一定の基準を満たすことが必須になりました。この省エネ基準は段階的な引き上げが予定されていて、遅くとも2030年度以降新築される住宅については、ZEH水準*2の省エネ性能が基準となる、つまりZEH水準を満たしている住宅が新築の最低ラインとなるのです。

*2 ZEHと同じ断熱性能とエネルギー消費性能を満たし、創エネの有無は問わない。

※「家選びの基準変わります」(国土交通省)より
※「家選びの基準変わります」(国土交通省)より

ZEHを普及・推進するために、国や自治体ではさまざまな支援制度を設けています。そのひとつが「ZEH補助金」です。これは、ZEHの新築戸建住宅を建築・購入する場合に一定額の補助金が給付されるほか、蓄電池などを設置する場合は費用の一部が追加で補助されるというものです。

また、既存の住宅を断熱リフォームする際の補助制度、子育て世代の新築やリフォームを対象とした事業などもあります。各自治体でも独自の支援制度を設けていて、なかには国の支援制度と併用できるものも。住宅ローンに関しても、減税や金利の優遇制度などが用意されています。

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各地での導入事例

ZEHとは一体どのような住まいで、どのような特徴や工夫があるのでしょう。ここでは国や自治体の支援制度を活用したものを中心に4つの異なるタイプの事例を紹介します。

新築・戸建①

東京都では、都独自の住宅基準「東京ゼロエミ住宅」を設けています。断熱性能と設備の省エネ性能に応じた3つの水準があり、水準に応じて助成金を受けることができます。また、原則として太陽光発電等の設置が必要となり、設置に対する助成金もあります。

この木造の戸建は、基礎と壁、屋根に十分な断熱材を施し、窓も樹脂サッシとペアガラスにすることで高い断熱性を実現しています。 無垢の木を多用し、断熱性と相まって心地よく過ごせる空間に仕上げています。

2階のリビング・ダイニングキッチンは高い断熱性をもちながらも開放的な設計。2階バルコニーは、日差しを抑える庇(ひさし)の役割も果たしています。

参照元
東京都環境局 東京ゼロエミ住宅 事例集

新築・戸建②

山形県では、住宅の断熱性能および気密性能を審査して、認証基準に適合している住宅を「やまぽっかの家」(やまがた省エネ健康住宅)として認証し、補助金を給付しています。「やまぽっかの家」とは、最も寒い時期の就寝前に暖房を切っても翌朝の室温が10度を下回らない断熱性能と、その断熱効果を高める気密性能がある住宅のことです。

県内でも有数の豪雪地帯で山間部にあるこの家は、太陽光パネルの集光効率を上げるため屋根の勾配が急になっていて、自然に雪が流れるように設計されています。また、窓の設置にも工夫が凝らされており、家族が集まって長い時間を過ごすリビングルームには、外の景色を楽しめる大きな窓を取り付けつつ、高断熱なサッシを用いることにより断熱性能を高めています。一方で暑い日差しが差し込む西向きの窓には、日射熱の入りにくいガラスを採用しています。

リビングの大きな窓の外には広々としたウッドデッキを設置。家族それぞれの部屋がある2階の窓は、シンプルでコンパクトなものを採用しています。

参照元
山形県すまい情報センター タテッカーナ 新築実例

新築・戸建③

新潟県では、多雪寒冷な気候を踏まえ、国のZEH基準に比べて断熱性能を高めた「雪国型 ZEH」を推奨しています。これまでに補助金の交付も行われ、新潟県の各地に工夫を凝らした雪国型ZEHが建てられました。十日町市にあるこの家も「雪国型ZEH」の基準を満たしています。屋根裏にエアコンを1台設置し、各部屋にダクトを介して暖気や冷気を送ることで、外がマイナス気温の冬季でも室内は約23℃に保たれます。

また、高気密高断熱の家の場合、冬の間は乾燥しがちという課題がありますが、この家には24時間換気できる機能があり、その心配もありません。太陽光発電と共に蓄電池を設置し、貯めた電気を上手に使うことで、雪の多い冬季に発電量が減るというデメリットを補っています。

外観は道路側には閉じ、田園に面して開く設計。高い断熱性能に24時間換気や全館空調を組み合わせることで、室内の空気が清潔に保たれ、花粉症も家の中では治まるといいます。

参照元
新潟県 脱炭素ポータルサイト 雪国型ZEH 取材日記

新築・集合住宅

戸建だけでなく、分譲や賃貸の集合住宅にもZEHの基準を満たすもの=「ZEH-M」が増えつつあります。

本事例は、賃貸型のZEH-Mです。2つの建材を用いた独自の二重断熱ゾーンを形成するなど、高断熱を実現するとともに、効率性の高い省エネ設備や太陽光発電設備を備えてZEH-Mを実現。従来の省エネ基準の一般賃貸(太陽光発電なし)と比べて光熱費を25%*3、売電も考慮すると最大36%の削減が見込まれます*4。また、太陽光発電と蓄電池を備え、災害時の非常用電源を維持できるようにしています。

*3 2LDK(60㎡)想定。2022年9月時点の東京ガス・東京電力の料金体系をもとに、旭化成ホームズにて使用量を想定して試算。

*4 数値はすべて太陽光発電供給住戸の場合となります。2022年度引き渡し、新築時での試算と比較。売電単価は2022年度固定買取単価17円/kwにて試算。

横浜市にあるこの3階建ての賃貸住宅では、子どもたちが遊ぶ中庭は各住戸から見えることに加え、見守りスペースも設置。エネルギー面で安全安心なZEH-Mにおいて、災害時にも助け合える入居者同士のつながりを生む設計となっています。

参照元
経済産業省 資源エネルギー庁 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会 2024

改修・戸建

古い家がZEHに生まれ変わる事例もあります。大阪府にあるこの家は築40年の木造住宅をフルリノベーションによってZEHにしたものです。元々あった家の柱はそのままに、外壁と内壁の間にウレタンフォームの断熱材を吹き付けたほか、サッシのリフォームや内窓の設置などによっても断熱性能を高めました。また、太陽光発電設備と蓄電地、さらには電気自動車を蓄電池として利用する「V2H*5システム」も備えています。

*5 Vehicle to Home

改修後の外壁(写真左下)には約12時間分の電力をまかなえる蓄電池を設置。屋根に設置した太陽光パネルで発電した電気を貯め、災害時にも活用できます。さらにV2Hは蓄電池の4倍もの電力供給が可能です。
既存の窓を活かした内窓設置と、新しい高性能窓への交換という2つの方法によって、窓の断熱性能を高めています。

参照元
大阪府 ZEHお試し体感事業の申込みはこちら

部分リフォーム(断熱窓リノベ)

部分的な断熱リフォームの事例も見てみましょう。環境省の「先進的窓リノベ事業」は、既存住宅の窓の高断熱リフォームに対して補助金を交付する事業です。この事業を利用した千葉県の戸建住宅では、内窓の設置を中心に窓の高断熱リフォームを行いました。その結果、夏は室内が暑くなりすぎず、夜はエアコンを切って眠れるようになったほか、冬に必ず発生していた結露もなくなりました。また、冬の暖房費も半減したそうです。

また、分譲集合住宅でも内窓を設置するリフォームであれば、今ある窓の内側、つまり専有部に設置することになるため、原則として窓の高断熱リフォームを行うことができます*6。さらに、集合住宅の管理組合が修繕積立金によって全戸の外窓の断熱リフォームをする場合や、区分所有者が自己資金で外窓の改修を行うケースもあります。

*6 集合住宅の規約によっては事前に工事の申請が必要な場合があります。

窓断熱改修のなかで、最も実施しやすいのが内窓設置。また、分譲集合住宅(右)でも条件により外窓交換の実施が可能です。

参照元
環境省YouTubeチャンネル 先進的窓リノベ2025事業活用セミナー 特集動画
環境省YouTubeチャンネル 先進的窓リノベ2025事業活用セミナー 特集動画【集合住宅編】

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最後に

ZEHは、脱炭素化や気候変動対策に大きく貢献する重要なテーマです。何よりZEHに住むことは暮らしの安心や快適さ、そして家計の大幅な節約につながります。2030年の省エネ基準引き上げに伴い、これからはZEHが住まいのスタンダードになっていくでしょう。戸建住宅の新築だけでなく、リフォームやマンションなど、さまざまな形から選べるZEHを住まいの選択肢として考えてみませんか?

原稿/嶌 陽子
イラスト/鴨井 猛

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