人とペットのやさしい関係

 「ペットは家族の一員」。ペットを飼っている人、あるいは飼ったことのある人の多くは、そんな実感を持っているのではないでしょうか。最近ではペット(愛玩動物)に対し、伴侶のように共に暮らす関係を示す「コンパニオン・アニマル」という呼称が広まっていることからも、社会においてペットの存在が大きくなっていることがわかります。


 自分はペットを大事にしている、かわいがっている……。多くの飼い主はそんな自負を持っているかもしれませんが、動物に対する考え方や接し方は人それぞれ。中には、動物に対するアレルギーや恐怖心を持つ方、動物が好きではない方、動物に興味がない方などもいます。また、ペットの鳴き声、臭い、排せつ物などが、時に近所でトラブルとなり得ることもあります。


 ペットを飼う、ペットと暮らす上で、飼い主はどんなことに配慮すればよいのでしょうか。人と動物が共に生きていくために、社会はどう変わればよいのでしょうか。

ペットと良い関係を結ぶために

 ペットは私たちにとってかけがえのない存在です。その一方で、一部の悪質な業者が動物を不適切に取り扱ったり、飼い主が適切に飼育できないことで、社会問題が起こったりしているという現実もあります。これらの改善を目指して、2019年には「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が改正されました。


 動物愛護管理法は、私たちが命ある動物を大切にする気持ちを抱き、社会において命を尊ぶことや友愛、平和の精神を育むこと、または人の生命や財産へ被害が及ばないよう管理することの2つをもって、人と動物が共生する社会を実現することを目的としています。


 法改正では、動物取扱業者の犬や猫の取り扱い方の基準が具体化されたほか、虐待、遺棄などに対する罰則が強化されました。また、特定動物(危険動物)として指定された動物を愛玩目的で新たに飼うことはできなくなったり、販売される犬と猫にマイクロチップの装着が義務化されたりと、多くの点が改正されています。


 また、動物福祉の視点からもう一つ。ペットの健康や医療を支える新たな国家資格「愛玩動物看護師」が創設され、2023年2月には第1回目の国家試験が実施されます。


 このように、ペットに対する社会の関心の高まりとともに、社会情勢も制度も変化しています。ここでは具体的な取り組みをいくつかご紹介します。


ペットが人に与える影響
生活に潤いや安らぎが生まれる75.1%、お年寄りの慰めになる50.4%、育てることが生きがいとなる47.5%、ペットを通じて人付き合いが深まる43.3%、鳴き声、悪臭など周囲の人に迷惑をかける37.3%、防犯や留守番に役立つ31.3%、噛まれるなどの危害を加えられる20.9%、人に感染する病気の心配がある19.7%、ペット飼育によって近隣住民との人間関係が悪くなる15.5%、その他0.6%、特にない3.8%、わからない0.9%

出典:内閣府「環境問題に関する世論調査」(令和元年8月調査)

私たちができること、
社会ができること

 2010年の世論調査*1によると、日本では幅広い世代にわたる約3割の国民がペットを飼育しています。かけがえのない命を守るために、どんな取り組みが進んでいるか。ペットと人間が共に幸せになる関係を築くために知っておきたいことをご紹介します。


*1 内閣府「動物愛護に関する世論調査」(平成22年9月調査)


マイクロチップはなぜ必要なの?

 室内で飼っていた猫が逃げ出して帰ってこなかったり。犬の散歩中、リードがすべって手から離れてしまい、犬がいなくなってしまったり。あるいは災害時に、飼い主とペットが離ればなれになってしまったり。誰にでも起こり得る、こうしたトラブルに遭遇しても飼い主の元に戻すことができる「絆」となるのが、「マイクロチップ」です。犬には鑑札を装着しなければなりませんが、外れることがないマイクロチップを装着する方法もあります。


 動物愛護管理法の改正によって、販売される犬と猫へのマイクロチップの装着・登録が義務化されました。飼い主はどんなことに気を付けなければならないのでしょう。なぜマイクロチップが必要なのでしょうか。環境省動物愛護管理室の野村環さんにうかがいました。

インタビュー

ペットを個体識別できるだけでなく、
飼い主であることを証明


 マイクロチップは犬や猫の皮下に装着する、直径1.4mm、長さ8.2mm程度の円筒形をした電子標識機器です。ここには世界で唯一の15桁の数字が記録されており、この数字を専用リーダーで読み取り、所有者の情報を検索することができます。15桁の数字によって管理された所有者情報は、地方自治体などの限られた人しかアクセスできないデータベースに保存しています。


 飼い主の皆さまにまずお願いしたいことは、ペットショップやブリーダーから犬や猫を迎えたら、マイクロチップ情報の変更登録をすることです。住所、氏名、電話番号などのデータを飼い主のものにしてこそ、マイクロチップ装着の意味がありますので、転居時や携帯番号が変わった時、マイクロチップを装着した犬や猫を譲り受けた時にも同様に所有者情報の変更*2をお願いします。


 マイクロチップの普及の背景には、1995年に起きた阪神淡路大震災があります。都市部で起きた大地震の後、放浪し、行方不明になったペットは少なくありませんでした。これをきっかけに所有者を探す上で有効だとして、関係者のご尽力により、マイクロチップ導入への理解が広がっていきました。


 犬や猫へマイクロチップを装着する最大のメリットは、個体識別を容易にすることです。現在、保護した犬の約9割、猫の約8割は所有者がわからず、そのため飼い主に戻せないという状況があります。もしマイクロチップを装着した犬や猫であれば、専用リーダーを当てて番号を読み取ることで、登録情報から飼い主に連絡することが可能です。さらに、ペットを個体識別するだけではなく、マイクロチップは自分がそのペットの飼い主であることも証明します。保護施設で、自分の犬や猫と種類や見た目が似ているため取り違えられてしまう、といったことを避けたり、複数の飼い主が名乗り出た場合に自分の犬や猫であることを証明したりするためにも、マイクロチップは有効です。


 動物を飼う人には管理責任があります。マイクロチップの導入はその自覚を促すことにもつながるのではないでしょうか。


*2 犬と猫のマイクロチップ情報登録


マイクロチップ(上)を専用リーダー(下)で
読み込むと15桁の数字が表示される
野村環さん
環境省自然環境局総務課動物愛護管理室室長。
改正動物愛護管理法や、動物虐待などに関する
対応ガイドラインの策定に関わる。

命を守り、つなぐためにできること

 ペットに関する深刻な社会問題の一つが、犬猫の殺処分です。「飼えなくなった」「生活環境に悪影響がある野良猫を引き取ってほしい」など、何らかの理由で保健所へ持ち込まれたペットは、新しい飼い主を一定期間内に見つけられない場合、殺処分されてしまうことがあります。これに歯止めをかけるためにはどうすればよいのでしょう。また私たちにできることは何でしょうか。


 環境省では保護犬・保護猫の譲渡促進と新しい活躍の場の創出を目指して、パートナーシッププロジェクト「つなぐ絆、つなぐ命」を2021年8月に立ち上げ、その最初の連携先としてアマゾンジャパン合同会社(以下、Amazon)と第1号のパートナーシップを締結。これに基づき両者は連携して、地方自治体や動物保護団体による譲渡活動を支援し、行き場を失った犬・猫が新たな飼い主のもとに引き取られ、終生にわたって幸せに暮らせる社会づくりの加速に貢献してきました。


 動物保護施設で新しい飼い主を待っている犬や猫に対して、具体的にどのような支援ができるのでしょう。環境省が賛同するAmazonの「保護犬・保護猫 支援プログラム」についてご紹介します。

犬や猫が新しい飼い主に出会うまで、
必要な物資をサポート

 主にボランティアに支えられている動物保護団体の活動は、つねに物資や資金を必要としています。こうした課題の改善に向けて、Amazonが2019年6月に始めたのが「Amazon 保護犬・保護猫 支援プログラム」(開始時の名称:「Amazon 動物保護施設 支援プログラム」)です。サイトには各動物保護団体が作成した「ほしい物リスト」が掲載されており、そこから選んで注文すれば、ペットフード1袋からでも物資支援ができるという仕組みです。


 「Amazon 動物保護施設 支援プログラム」のスタートについて同社消費財事業本部事業本部長の古米潤さんは、「米国や欧州のアマゾンも含めてまったく初の取り組みでしたし、日本の動物保護団体を取り巻く環境や、犬や猫の迎え方における課題も複雑だったので、Amazonとしてどのように貢献できるか検討を重ねました。その結果、各動物保護団体にAmazon上で『ほしい物リスト』を作成いただき、それを見たお客様が商品を注文するとそれが支援物資として直接団体に届けられるという仕組みを活用することが、Amazonとして最も貢献できる方法であると考えました。また、支援対象となる動物保護団体の選定・審査には専門的な見解や実務経験が不可欠なので、その点を踏まえて3つの団体・企業に委託しています。その後、『ほしい物リスト』を介した物資支援だけではなく、実際に保護犬・保護猫を譲り受ける選択肢を持つきっかけになってほしいという思いから、地域別に施設を検索することができるようにするなど改良を重ね、2021年に『Amazon 保護犬・保護猫 支援プログラム』にリニューアルしました」とした上で、この活動から保護犬・保護猫の認知拡大や環境改善の幅が広がり、動物保護団体・行政・企業など多くの関係者が共に活動していることに大きな意義を感じているそうです。


 プログラムには、2022年11月末時点で285の動物保護団体が登録。動物保護団体からは「物資支援はほぼこのプログラムで賄えている」「見知らぬ方にも応援していただいていると思うと力になる」という声が上がっており、スタートから2022年11月末までの間に、計4億3千万円相当の支援物資が寄付され、多くの保護犬・保護猫たちの生活を支えてきました。


 ほかにも保護犬・保護猫の譲り受けを希望する方がAmazon専属獣医師に無料でメールにて相談できるサービスを提供したり、環境省パートナーシッププロジェクトの一環として、保護犬・保護猫を迎え入れるのが当たり前の選択肢となる世の中を目指す「保護犬・保護猫 Welcome Family Campaign」を開催し、関係団体や企業、行政が一堂に会して話し合う機会を設けたりと、同社では保護犬・保護猫をめぐる状況を変えていくための旗振り役も担いながら、保護・譲渡活動の普及に向けた支援活動に取り組んでいます。


「Amazon 保護犬・保護猫 支援プログラム」のサイト画面

ペットの健康を守るために

 飼い主が責任を持ってペットを飼う。そのためには日常的に健康管理を行うこと、けがを負った時や病気になった時に適切な治療を受けさせることが重要です。加えて、ペットを大切に思うすべての飼い主にとって、より身近に相談できる専門家がいるとよい。そのような背景もあり、2022年5月に、新たな国家資格「愛玩動物看護師」が誕生しました。


 ペットの看護と飼養のスペシャリストである愛玩動物看護師はどんな役割を持ち、どんなことができるのか。またなぜ必要なのか。帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授の加隈良枝さんにうかがいました。

インタビュー

動物福祉の視点から、
飼い主とペットの架け橋として


 今まで民間団体が認定していた資格について、獣医師をサポートする補助的な役割を担ってきたスタッフについても国家資格にしてはどうか検討を重ね、誕生したのが愛玩動物看護師です。ペットの数が増えたことを背景に、獣医師が医療に専念できるよう、愛玩動物看護師にはペットなどの愛玩動物の病気やけがの診断・治療のサポートに加え、動物愛護の視点から動物の適正飼養の大切さを伝える役割が期待されています。


 適正飼養とは、しつけること、動物に愛情を持ってやさしくすること。日本ではそう捉えられがちですが、そこには動物にとって必要なものが与えられているのか、動物はどう感じているのかという科学的視点が欠けています。例えばペットは、ずっと同じ人に飼い続けられるのが良いのでしょうか?忙しすぎて犬の世話に負担を感じる飼い主よりも、毎日散歩に連れて行ってくれる飼い主に迎えられた方が幸せかもしれません。感情論ではなく、動物にとって本当に適切な環境や飼い方を理解してこそ、人とペットの良い関係が生まれるのだと思います。


 そして人間もペットも、普段の健康管理が大切なことは一緒です。日々ペットと共にいる飼い主には、動物が暮らす環境を整える責任があります。愛玩動物看護師は、保健衛生を含めた動物の健康管理やトレーニングの方法などを飼い主に指導し、人とペットの架け橋になること。そして今後は、多頭飼いや飼育放棄などペットをめぐる問題の改善に向けて、地域の動物愛護センターやボランティア、動物取扱業などと連携して活動することも求められるでしょう。


 ペットとの暮らしは、ほかでは得ることのできない癒やしや楽しみを与えてくれるものです。そうした喜びや潤いを享受するには、ただ「かわいがる」だけではなく、ペットにとって何が幸せであるかについての知識や情報を得ること、目の前のペットときちんと向き合うことが必要です。それをサポートしてくれるのが愛玩動物看護師なのです。


加隈良枝さん
帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授。
犬と猫の行動学、動物福祉の普及や動物愛護活動の在り方
などを研究テーマとしている。

人と動物の豊かな共生社会を目指して

 人とペットが幸せに暮らせる社会はどうすれば実現するのでしょうか。さまざまな法律によって制度が設けられたり、先にご紹介したAmazonのような民間での取り組みが始まったり、ペットを大切にする環境は改善されてきています。人と動物がより良い関係を築くためには、そうした制度の目的を私たちがよく理解して行動することが必要です。


 法制度の整備は進んでいるものの、保護された犬の9割、猫の8割近くは所有者不明。そして、年々減少していますが、2020年度に殺処分された犬と猫は全国で約2万4000頭であること*3、これもまたペットを取り巻く現状です。人間にとっても動物にとっても「命」の重さは変わらないことを、今あらためて考えるべきでしょう。また、「かわいい」「かわいそう」といった感情だけで動物と向き合うのではなく、動物がそれを望んでいるかという生態や習性に基づいた視点でペットを見ることも大切ではないでしょうか。


 動物の正しい飼い方を学び、知識に基づいたふれあいの中で気付きを重ね、ペットとのより良い関係を築いていくこと。その先に本当の意味での、人と動物が共生できる社会があるはずです。


*3 環境省統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」

写真/石原敦志、PIXTA(メイン、2-3上)

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