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今月のキーワード 新宿御苑
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江戸時代の大名屋敷に始まり、近代農業の研究拠点、皇室庭園、そして国民公園へ――。時代ごとに役割を変えながら人々に親しまれてきた新宿御苑は、その名を冠して今年で120周年を迎えました。都会の中心にありながら自然、歴史、文化が静かに息づく新宿御苑の歩みと魅力、そして環境を守る大切な拠点としての役割を紹介します。
1. 知っていましたか? 新宿御苑ができるまで
新宿の繁華街や高層ビル街の近くにありながら、約58.3ヘクタールもの広大な緑地を有する新宿御苑。そのルーツは江戸時代初期までさかのぼります。1590年、徳川家康が江戸に入府した際、家臣の内藤清成に与えた屋敷地の一部が、現在の新宿御苑の始まりとされています。当時は甲州街道沿いに広がる広大な大名屋敷で、庭園内に残る玉藻池は、その名残を今に伝えます。
明治時代に入ると政府はこの土地を買い上げ、日本の近代農業を発展させるために「内藤新宿試験場」を設置しました。ここでは果樹や野菜の栽培試験、西洋農法の研究が行われ、日本の農業近代化を支える拠点となりました。その後、皇室の御料地「新宿植物御苑」となり、園芸家の福羽逸人(ふくばはやと)らの尽力によって、本格的な近代庭園として整備が進みます。
1906年、フランス人造園家アンリ・マルチネの設計によって造園された皇室庭園が完成。皇室行事や外交の場として利用されましたが、1945年の東京大空襲で大きな被害を受けます。戦後、復旧を経て1949年に一般公開され、誰もが訪れることができる“国民公園”へと生まれ変わりました。1971年からは、同年に発足した環境庁(当時)が管理しています。時代ごとに役割を変えながら、さまざまな魅力を積み重ねてきたことが、新宿御苑の大きな特徴です。
2. エリアや季節ごとに多彩な魅力
新宿御苑の年間訪問者数は2025年度に約300万人を数えましたが、人々を惹きつける魅力の一つが、多様な景観を楽しめることです。広々とした芝生と大木が開放感を生み出す「風景式庭園」、左右対称の整ったデザインが美しい「整形式庭園」、そして池を中心に落ち着いた風情が広がる「日本庭園」。芝生に陣取り、思い思いに時間を過ごしたり、整形式庭園のプラタナス並木やバラ花壇で撮影を楽しんだり、日本庭園を回遊したりと、それぞれ違った楽しみ方ができます。
都会に住む子どもたちが豊かな感性と自然への関心を育めるようにと、1985年に造られた自然観察フィールド「母と子の森」では、里山の自然を感じることができます。
四季折々の自然も見逃せません。春には約70種・約900本の桜が咲き誇り、「日本さくら名所100選」にも選ばれる花見の名所に。ソメイヨシノだけでなく、八重桜など開花時期の異なる品種がそろい、長く春を楽しめます。初夏にはバラやアジサイ、夏には青々とした芝生や深い木陰が心地よく、秋には紅葉とともに皇室ゆかりの伝統を受け継ぐ「菊花壇展」が開催されます。冬は澄んだ空気のなかでの散策や、温室鑑賞もおすすめです。
さらに、重要文化財の旧洋館御休所や台湾風建築の旧御凉亭など、歴史的建築も点在。都会の真ん中にいながら、自然、歴史、文化がゆるやかに溶け合う空間は、訪れるたびに新しい発見があります。
3. 生物多様性保全の拠点としての取り組みも
新宿御苑は園内に残る樹林地や池、草地など多様な環境を維持し、野鳥や昆虫など都市の生態系保全にも取り組んでいます。特に力を入れているのが、絶滅危惧植物の「生息域外保全」。本来、植物は自然に生育する場所(自生地)で保全することが原則ですが、開発や環境変化によって野生での存続が難しくなった種については、植物園などで保護・保存する取り組みが重要視されています。
そこで新宿御苑では、国内の絶滅危惧植物については環境省レッドリスト記載の170種、国外の絶滅危惧植物についてはワシントン条約対象種700種を、温室を利用して栽培しています。この温室は、2012年に「絶滅危惧種の保存・展示を行う環境配慮型温室」としてリニューアルされました。熱帯・亜熱帯植物を中心に約2,700種を栽培し、保全、研究、環境教育を兼ねた施設になっています。
また2008年からは、国内の絶滅危惧植物の種子保存も実施しています。全国の植物園と協力し、自生地情報とともに種子を収集・保管。万が一、野生で絶滅した場合でも、再び増殖・復元できる可能性を残しています。
ほかにも、自然観察会や展示などを通じて、生物多様性の重要性を積極的に発信しています。毎月第2・4土曜日に開催している、パークボランティアによる無料ガイドウォークへの参加も、新宿御苑を楽しむための気軽な機会です。新宿御苑は美しい庭園としてだけでなく、都市における自然保護と環境学習の拠点として、大きな役割を果たしています。
イラスト/丹下京子