課題名

B-5 海洋における炭素の循環と固定に関する研究

課題代表者名

野尻 幸宏 (国立環境研究所地球環境研究グループ温暖化現象解明研究チーム)

研究期間

平成2−4年度

合計予算額

113,511千円

研究体制

(1)海洋プランクトンによる炭酸ガス固定能力に関する研究(環境庁国立環境研究所)

(2)海洋沈降粒子による炭素の沈降フラックスに関する研究

(環境庁国立環境研究所、東京大学海洋研究所、名古屋大学水圏科学研究所)

(3)海洋堆積粒子形成過程とそれに伴う炭素の挙動に関する研究(工業技術院地質調査所)

研究概要

(1)海洋−生物間の炭素循環と、大気−海洋間の炭素交換を明らかにする目的で、海洋部と大気部からなる培養槽を用いて、海洋炭素循環を再現する制御実験系を構築し、植物プランクトンの増殖過程における炭素同化と、気相中二酸化炭素濃度変化の測定した。

(2)表層海洋から深層海洋への正味の炭素フラックスを明らかにするために、セディメントトラップ実験を行い、沈降粒子の形成、沈降する有機炭素の分解、および、海域における有機炭素の水平移動を解明する研究を行った。

(3)沈降粒子から堆積粒子への移行過程である続成作用中に底泥間隙水に溶出するさまざまな炭素化合物の、表層堆積相への移動による深層海水への回帰過程を明らかにする目的で、外洋堆積物の間隙水中の有機化合物組成と濃度を測定した。

研究成果

(1)海洋マイクロコズムにより、海水中の植物プランクトンの増殖により、水中の無機炭素が同化作用で有機炭素に変化するとともに、大気部から海洋部へと二酸化炭素が吸収される過程が、詳細に計測された。

 同化された炭素は、植物プランクトンに固定された形の粒子状有機炭素として存在するとともに、約17%が溶存態有機炭素として細胞外へ放出されることが明らかとなった。

 藻類種C. antiquaが利用する無機炭素の形態が、水和炭酸であることが示唆された。

(2)海洋沈降粒子の鉛直フラックスは、海洋表層で生物生産された有機物、炭酸カルシウム、ケイ酸などを主成分とする比較的大型の粒子に実質的に支配される。ただし、海溝域では陸起源の粘土鉱物の寄与、マンガンの溶存態から粒子態への移行、海溝斜面に由来する再懸濁粒子の寄与なども合わせて観測された。

 海溝深部(5000m以深)では、炭酸殻の沈降量の急激な減少が認められたが、実際の炭酸殻を海洋深部に係留して行った溶解実験で、カルサイトとアラゴナイトの2種類の炭酸殻が、1年間で完全溶解した結果と整合的であった。

 海洋沈降粒子の有機炭素の起源に関する研究を、主に放射性炭素による有機炭素の年齢の解析から行った。結果から、海溝域の有機物の輸送が斜面域の堆積粒子の再懸濁と、引き続いて起こる粒子の水平方向の輸送の寄与があること、沈降粒子は海溝域の中深層で懸濁粒子を取り込みながら、沈降してゆくこと、が明らかとなった。

(3)生物生産量が高い南極海、赤道湧昇帯、半遠洋性の海域を選び、海洋表層堆積物の間隙水中のアミノ酸を分析した。

 溶存結合性のアミノ酸組成が堆積粒子の生物起源の主成分によって影響を受けること、溶存結合性アミノ酸と溶存遊離性アミノ酸との比較により、溶存性アミノ酸の反応性が速い微生物反応や生物化学反応によって支配されること、特に酸性アミノ酸が方解石(炭酸カルシウム)と反応していることが示唆された。

 太平洋・インド洋・大西洋の4地点の堆積物の間隙水中のアミノ酸の平均濃度は、海水中のアミノ酸濃度より2-3桁高く、窒素のリザーバーとして重要であることが明らかとなった。