課題名

A-5 紫外線増加が植物に及ぼす影響に関する研究

課題代表者名

野内 勇(H.2)、礒部 誠之(H.3,4 (農林水産省農業環境技術研究所気象管理科)

研究期間

平成2−4年度

合計予算額

105,861千円

研究体制

(1)紫外線増加が農作物に及ぼす影響の評価に関する研究(農林水産省農業環境技術研究所)

(2)紫外線増加が植物プランクトンに及ぼす影響の評価に関する研究

(農林水産省水産庁北海道区水産研究所)

(3)紫外線増加が海藻類に及ぼす影響の評価に関する研究

(環境庁国立環境研究所、(委託)財団法人 海洋生物環境研究所)

(4)紫外線の植物への影響の作用機構に関する研究(環境庁国立環境研究所)

研究概要

 オゾン層破壊により、増加が予想されるUV-Bの陸上植物および海洋植物(海藻、植物プランクトン)への影響を評価すること及びUV-Bによる障害発現の作用機構を明らかにする。

 

研究成果

1.自然光利用型の人工気象室内で主にキュウリを用いて3週聞の紫外線照射実験を行った。4回の実験の結果、キュウリの個体乾重量は、コントロールに比較して244mWm-214-49%381mWm-217-79%減少した。なお、照射時期として日射の少ない冬ではUV-Bによる生長阻害が大きく、日射が大きい夏では生長阻害はわずかであった。244および381mWm-2UV-BBE8時間照射量は、つくば市での夏至頃の快晴日のそれぞれ1.752.75倍の強度であった。

2.UV-B照射を受けたキュウリは、葉の厚みが厚くなった。この葉の厚みの増加は、UV-Bの葉内への透過を減少させるための一つの適応機構と考えられた。

3.野外において太陽紫外線強度に追随して、常に50%増のUV-B量を照射する調光型フィールドUV-B照射装置を開発した。水稲17品種を用いて2か月間のUV-B照射実験を行ったが、17品種すべて、草丈、分げつ数、穂重および個体乾物重など何らの影響も受けなかった。このことは、UV-Bの農作物への影響が当初予想された程大きいものではないことを示唆している。

6.紫外線を含む光合成有効光照射培養装置を用いて、紫外線照射すると植物プランクトン(緑藻)はクロロフィルaおよびbを消失したが、逆にカロチノイド色素の生成を高めた。

7.富栄養性海域である北海道厚岸湾の海水を採水し、紫外線を除去して培養すると、クロロフィルあたりの光合成速度の増加比は2以上になることがあった。このことは、現場の植物プランクトンは紫外線の影響から1日以内では回復しえない場合もあることを示唆した。

8.紫外線放射量の1%到達深度は外洋親潮海域では12mで、厚岸湾内では1mであり、植物プランクトンは外洋域でより紫外線の影響を受けやすいことが示唆された。

9.北海道厚岸湾では20年前と現在の植物プランクトン種組成にはほとんど変化がなかった。紫外線照射実験結果等を考慮すると、厚岸湾の植物プランクトンは紫外線の影響を受けるものの、海水の鉛直混合等によって、1日の昼夜の明暗周期を利用して回復しているものと考えられた。

10.10数種類の紅藻類を用いて、紫外線遮断区を設けた屋外水槽での栽培実験と紫外線照射(300μWm-2)装置を備えた恒温庫でのフラスコ培養実験を実施した。紫外線は体細胞の脱色あるいは壊死、生長速度の低下、光合成色素含量の低下、紫外線吸収物質含量の増加のどれか、あるいは、いくつかの組合せで認められた。しかし、その反応は紅藻の種間で異なり、種間差異が大きい。

12.キュウリ葉の生長阻害に関する作用スペクトルから、300nmに比較して280および290nmの紫外光は極めて著しい生長阻害作用があることがわかった。このことは、オゾン層破壊により、290nm付近の紫外線が増加すれば、植物の種類によっては、大きな影響を被ることを示唆する。

13.キュウリ葉の290nmによる生長阻害は可視光により回復しなかったが、310nmと可視光での同時照射はむしろ生長を促進する効果があることがわかった。また、UV-AUV-Bの同時照射実験から、UV-AUV-Bの生長阻害効果を軽減する効果があることもわかった。

14.キュウリ葉中のアスコルビン酸含量はUV-B照射により著しく増加した。UV-B照射により酸化物質が増加し、それを除去するためにアスコルビン酸が蓄積したと考えられた。