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[D−2 有害化学物質による地球規模海洋汚染の動態解析と予測に関する研究]
(2)有害化学物質の環境中での分解・変質と有害性評価に関する研究
独立行政法人産業技術総合研究所
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環境管理技術研究部門 計測技術研究グループ
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田尾博明・中里哲也・伊藤信靖・
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Ramaswamy Babu Rajendran
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東京薬科大学生命科学部
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藤原祺多夫
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静岡県立大学環境科学研究所
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橋本伸哉
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[平成15〜17年度合計予算額]
平成l5〜17年度合計予算額 27,483千円
(うち、平成17年度予算額 8,490千円)
[要旨]
多環芳香族炭化水素(PAHs)は燃焼等に伴って大量に放出され有害なものも多い。また、紫外線等により水酸化体に変換され、内分泌攪乱作用を示すものもあり、今後の監視が必要な化学物質の一つである。しかし、PAHs水酸化体(以後OH-PAHsと略)に関する報告は僅かしかないため、本研究ではOH-PAHsの海洋中での変質・分解過程の解明、内分泌攪乱性の評価手法の確立を通じて、モニタリング手法の確立、海洋環境におけるOH-PAHsの汚染実態と運命を明らかにすることを目的とした。このためOH-PAHsの分析法として、OH-PAHsを無水酢酸により誘導体化後、吸着剤被覆回転子により抽出し、熱脱着-GC/MS法を開発した。また、TENAX樹脂による固相抽出/in-tubeシリル化/熱脱着-GC/MS法を開発し、検出限界として0.01ng/Lと約1000倍の高感度化を実現した。光分解性に関しては、太陽光シミュレーターを用いてアントラセン、ピレン等の分解生成物を同定し、分解速度に及ぼす共存物質やメチル置換基の効果を明らかにした。内分泌攪乱作用に関しては、酵母を用いる方法によりアントラセンやナフタレンの光反応生成物である約30種類のOH-PAHsを評価した。その結果、2-ヒドロキシアントラキノンは、17β-エストラジオールの1/8000、p-ノニルフェノールの0.4倍のエストロジェン・アゴニスト活性を有することが分かった。また、OH-PAHsの中にはラット肝臓で代謝された後、エストロジェン活性を示すものがあり、PAHsの光反応生成物が新たな内分泌攪乱物質の起源となることを示した。これらの手法を実海水に適用し、海水濃度とエストロジェン様活性から各化学物質の寄与率を求めた。駿河湾海水での主なエストロジェン様活性物質は、エストロン(≦9.2ng/L)、ビスフェノールA(≦1070ng/L)、p-ノニルフェノール(≦276ng/L)であり、OH-PAHsの寄与率は低かった。しかし、海域によっては、石油流出事故などによりPAHs濃度が上昇し、太陽光照射等によってOH-PAHsが生成する可能性があり、今後も多様な海域を対象として研究を進めていくことが必要と考えられた。
[キーワード]
内分泌攪乱物質、海洋汚染、多環芳香族炭化水素、水酸化体、環境動態