地球温暖化と冷凍空調技術
生活に欠かせない冷凍冷蔵技術
暑い夏、エアコンの効いた食卓に、新鮮な食材が並ぶ。私たちは今、100年前には考えられないほど豊かな生活環境で暮らしています。
このような私たちの豊かな生活を支えているのが、冷凍空調の技術。
例えば、海で獲れた魚や畑で採れたレタスが新鮮なまま私たちの口の中に入るのは、水揚げや収穫後にすぐ低温状態に置かれ、その後の物流過程でも低温を保たれたまま、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等に運ばれているからです。
(この一連の流れを、「コールドチェーン」といいます。)
冷凍空調の技術は、冷凍食品やチルド食品、飲料や薬の製造・保管、部屋の快適な温度調整など、私たちの生活のあらゆる場面で役立っています。

空気を暖めたり冷やしたりするには“冷媒”が不可欠
私たちの生活に欠かせない冷凍空調の技術ですが、代表的な機器として冷蔵庫に関して考えてみましょう。さて、どうして冷蔵庫に入っているモノが冷えるか、知っていますか?
夏に水で地面を濡らすと、その周りの空気が冷たくなる経験をしたことがある人もいるかも知れません。これは気化熱と呼ばれる現象。水が蒸発する際に周りから熱を奪っているのです。
冷凍冷蔵の技術は、この原理を応用しています。

それでは、冷蔵庫の中でも、水がまかれているのでしょうか?冷蔵庫は機械の塊なので、水をまいたら故障してしまいますね。そこで登場するのが、“冷媒”と呼ばれるもの。冷凍空調の技術を支える大きな存在の1つです。
冷蔵庫の中には、冷やすための機械が入っています。その機械の中には、冷媒が入っています。
冷やすための機械が 動き出すと、右の図にあるように冷媒が機械の中を周り始めます。そして、冷媒が熱を運ぶことで、冷蔵庫の中が冷えるのです。
水蒸気が雲を作り、雨となって川や海に流れ、また水蒸気となって雲を作るように、冷媒も状態を変えることでモノを冷やす仕事をし続けています。

では、現在“冷媒”として働いている物質には、どのようなものがあるのでしょうか。
フロン類と地球温暖化の関係
実は、現在使われている冷媒の大半を占めているのが“フロン類”※という化学物質です。
熱を運ぶための冷媒として使われるフロン類は、二酸化炭素と同じように、地球を暖める力をもつ“温室効果ガス”の仲間として知られています。
フロン類が及ぼす地球温暖化への影響は、二酸化炭素が地球を暖める効果を1とすると、その数十倍~1万倍以上にも及びます。
例えば、現在普及しているエアコンや冷凍冷蔵機器によく使われているフロン類(R-410A)は、地球温暖化への影響は二酸化炭素の約2千倍にもなります。
たとえ少量でも、冷媒のフロン類が機器の使用中に漏れ出たり、機器を捨てる時に回収されずに大気中に放出されたりすることで、地球温暖化に大きな影響を与えています。
私たちの豊かな生活に欠かせない冷凍空調の技術が、地球温暖化を通して将来世代の生活環境に影響を及ぼしてしまう。
未来のために、今、私たちにできることはないのでしょうか?
※クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)およびハイドロフルオロカーボン(HFC)がフロン類と呼ばれています。
未来の食生活を救う“自然冷媒”
フロン類に代わる新たな選択肢
現在、フロン類はオゾン層破壊や地球温暖化に影響を与えることから、段階的に製造・輸入が制限されるようになりました※。
そこで、フロン類に代わり新たに導入が推進されているのが“自然冷媒”です。
自然冷媒は、より環境負荷の少ない物質を冷媒として使用する技術開発により、実用化されました。
その代表例が、アンモニア(NH3)、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、空気、炭化水素(HC) の5つです。
これらはいずれも自然界にもともと存在している物質であるため「自然冷媒」と呼ばれるようになりました。
地球温暖化への影響の少ない自然冷媒を選択し、未来の豊かな食生活を守っていきましょう。
※モントリオール議定書に基づき、日本においてCFCは2005年まで、HCFCは2020年までにそれぞれ生産・消費ともに全廃となりました。(CFC, HCFCはいずれもオゾン層を破壊する物質)
さらに、オゾン層は破壊しない一方で温室効果の高いHFCも、日本を含む先進国では生産・消費量の段階的な削減が開始されており、2036年までに85%削減(基準値:2011年~2013年の平均)することとされています。
フロン類が充填された冷凍空調機器に自然冷媒を入れ替える
レトロフィットに関して(注意喚起)
温室効果の大きい代替フロン(HFC) 冷媒が充填された冷凍空調機器について、温室効果の小さい炭化水素(HC)等の自然冷媒に入れ替えること(レトロフィット)を提案されるケースが見受けられます。
例えばHC系の冷媒は、強い燃焼性があるため、対策が講じられていない機器から冷媒漏えい等が生じた場合、火災などに至る恐れがあります。
機器管理者の皆様におかれましては、このようなレトロフィットの取扱いには十分ご注意ください 。