環境省地球環境・国際環境協力

温室効果ガスの安定化濃度に関する科学者会合の結果について

平成17年2月10日(木)
独立行政法人国立環境研究所
社会環境システム研究領域長
原沢 英夫 (029-850-2507)
同領域環境計画研究室 研究員
高橋 潔 (029-850-2543)

要旨:
  • 地球温暖化の影響に関するリスクは、IPCC第3次評価報告書(2001)で得られた知見と比べ、より深刻であることが明らかとなった。
     
  • 温室効果ガスの安定化を達成するためには早期の削減対策が不可欠であることが強調された。
本文: 1 日程、場所

 
2005年2月1〜3日、英国気象局ハドレーセンター(英国エクセター)
 
2 主催

 英国環境・食糧・農村地域省(DEFRA)
 
3.参加国、出席者

 G8各国、中国、インド等約30カ国から200名以上の研究者等が出席した。
主催国の英国からは、ベケット環境・食糧・農村地域大臣が出席し、基調講演を行った。
我が国からは、(独)国立環境研究所原沢領域長をはじめとする研究者7名が講演及びポスターセッションを行った。

4.会合の目的

 気候変動問題は、アフリカ問題とともに本年のG8における主要議題である。本会合は、「危険な地球温暖化のレベルとそれを避けるための方策」について、G8を中心とした科学者間で議論を行うことを目的に開催された。
なお、本会合では、科学的知見についての参加者間の合意を目指すものではなく、様々な知見を専門家の間で共有し、会合の結果を今後のG8プロセスや気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議論に活かしていくことが重視された。
 
5.結果概要

(1)会合では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書(2001)以降の新たな科学的知見について、以下の論点に従い講演者の発表と質疑応答が行われた。

[1]様々なレベルの地球温暖化がもたらす影響
[2] 危険な温暖化を避けるための温室効果ガス安定化濃度と排出経路
[3] 温室効果ガスの安定化を達成するための技術オプション

根底にあるテーマは、危険な影響と受け入れがたい緩和(削減)コストを避け、最適な対応策を見つけることがどの程度可能かということである。

(2)気候変動の影響評価については、IPCC第3次評価報告書(2001年)に比べ、知見がより明確となり不確実性も減少した。多くの場合、影響のリスクは以前考えられていたよりも深刻であることが明らかとなった。例えば、グリーンランドでは地域的な気温が2.7℃上昇(全球平均では1.5℃の上昇に相当)すると、万年雪・氷の融解が起き、約1℃の全球気温上昇で大規模な珊瑚の白化が起きる可能性がある。一般的には、全球では1〜3℃気温が上昇すると被害が増加することが分かった。3℃以上の気温上昇になると、海洋大循環の停止、陸域吸収源の排出源への逆転、南極氷床の不安定化などの大規模で深刻な影響が発生する可能性がより高まるとの発表もあった。

(3)温室効果ガスの排出経路については、緩和(削減)対策が遅れた場合、同じ温度目標を達成するためには、後からより大きな対策を取る必要があることが複数のモデルにより示された。5年の遅れでさえ大きな違いをもたらす可能性がある。排出削減対策が20年遅れた場合、その後の削減を3〜7倍の速さで行う必要があるかもしれない。

(4)温室効果ガス安定化のための技術オプションについては、長期間における排出削減のための技術的方策は既に存在していること、また、多様な技術を有効に活用することで、削減コストを低減できる可能性が示された。温室効果ガスの安定化のためには、技術革新、普及、排出権取引等のあらゆる施策を推進することが必要である。

(5)現在、主な投資は緩和(削減)と適応の両対策に必要である。まず、将来の影響を最小限化すること、次に、不可避な影響への適応が重要となる。
 
(参考)
本会合の,講演予稿資料,講演スライド資料,会合運営委員会によるレポートについては,会合プログラム,会合の趣旨説明等と併せて,会合事務局が下記ホームページにて公開している.

・Avoiding Dangerous Climate
http://www.stabilisation2005.com/
 
問い合わせ: 独立行政法人国立環境研究所
企画・広報室 担当:田邉
Tel: 029-850-2303 Fax: 029-851-2854
URL:http://www.nies.go.jp/