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「地球環境に関する援助機関ガイドライン」
経済協力開発機構 パリ 1991年
V.生物学的多様性
背景
- 生物学的多様性の喪失は地球的な関心を呼んでいる問題である。種が失われるだけではなく、現在残っている種が希少になりつつあり遺伝変異性要素を失いつつある。野性種は地球上の生物学的多様性の基となっている。しかしながら、私たちの農業システムが地球の人口を支えることが出来るのは栽培種によってである。したがって自然保護のための努力は、野性種および栽培種の両有機体に対して行なわれなければならない。
- 自然位置保護 (In-situ conservation)は、生物学的多様性を保護する際の基本必要事項であり、自然外位置保護 (Ex-situ conservation)が重要な補助対策を構成している。生物学的多様性の保護は、しばしば法的な生息地保護の観点から考えられている。自然保護区域が生物学的多様性の保護には必須のものであるが、今そうした区域は十分ではない。自然保護区域は世界の地表面積のたった4.8パーセントであり (もっとも楽観的な推測にしても最終トータルで10パーセントにしか過ぎない)、ほとんどの生物学的多様性資源は、いつも厳重な保護区域外で見出だされるものとなろう。保護されていない地表における生物学的多様性を維持する努力は、人口や土地利用の圧迫が強まり、新しい保護区域を創る機会が減少するにつれてますます重要なものとなろう。
- 豊かな遺伝学的多様性を通して、さまざまなソサイエティー (生物の社会集団)は、未来の経済的、生態的変化に適応するためのより多くの選択を持っている。さまざまな種および生態系は、進化する能力、そして、害虫や予知し得ぬ気象状況、その他の環境要因に適応する多くの能力を持っている。生物学的多様性の保護が持続的農業開発に必須のものであるということが分かる。
- しかしながら、生物学的多様性を保護するという問題は、今日では生物学的多様性に関する問題のひとつの側面に過ぎない。バイオテクノロジーを通して、野性および栽培種の遺伝子は、農業、食品技術、薬品および産業にとって経済面でより価値あるものになりつつある。遺伝子に関しても重要な問題が持ち上がっており、特に目立つのが経済は豊かであるが遺伝子に関して貧しい北の先進国の利益と、経済は貧しいが遺伝子に関しては豊かな南の開発途上国の利益に対する権利の問題であり、遺伝資源およびこうした資源から出来る農業及び産業製品に対する権利の問題である。
- 生物学的多様性は、現在色々な面で脅かされている。生物学的多様性は、人間の土地利用のさまざまなかたちによって環境が変形させられている居住地域にもかなり存在している。したがって、保護戦略は自然地保存にのみ向けられるべきではない。また、農業および植林が自然生息地の残りの地域を侵食している。都市化、観光事業、採鉱、その他の産業活動、そして汚染もまた土壌および海域の生物学的多様性の消失に一役買っているのである。工業国におけるそうした多様性消滅への主な脅威は、汚染産業、農業、下水、自動車等によるものである。開発途上国においては、貧困と限られた資源基盤の統計学上の窮迫は、苛酷な環境悪化の原因になることが頻繁である。しかしながら、貧困の問題を減らそうと努めるだけでは不十分である。開発活動による環境影響、および経済近代化への努力による環境影響が入念に分析されるべきである。それは、以下のような活動が開発途上国における生物学的多様性の喪失の要因となっている為である。エネルギープロジェクト、採鉱、木材伐り出し、道路工事、工業、そして農業の近代化などである。
- 農業における生物学的多様性の現在または将来の潜在的な価値は、現在の世界の農場におけるそれよりはるかに幅広いものがある。ほとんどの伝統的な作物および家畜種は野性種を持っており、多くの近親種は近代的植物育種で、幅広く使われている。加えてその他多くの種が現在初期栽培化されているかまた、その潜在的商品価値が調査されている。さらに近代的バイオテクノロジーの進歩と共にすべての種が、作物や家畜の改善のための遺伝子素材の潜在的ドナーになっている。
- 近代農業の強化によって、ますます作物や家畜種を限定する特殊化、集中化がなされるに至った。品種改良戦略、特に作物の場合、概してより画一的な変種を生みやすく、短期間で成功した変種は栽培種の多様性の豊かさに取って代わり広い地域で採用されるかもしれないが、農業システムの長期的持続性の問題を起こすだろう。したがって、特別な保護対策が採られない場合、こうした多様性は失われることになろう。食品安全性のための生物学的多様性の重要性は、害虫、異常気象状況、その他の環境要因への適応性を含めて分析されて然るべきである。
- 生物学的多様性は、自然位置または自然外位置対策によって保護されるべきである。栽培種に対する自然位置保護とは、自然なかたちの持続的進化適応を可能にする農業生態系内の保護を意味している。自然外位置対策によって保護される生体材料は進化し続けることはなく、文化的重要性、つまり現場の知識や管理技術も失われるかもしれない。現在の問題の視点から見て、特に関心が持たれているのは品種改良であり、現代生物学の可能性は、主にその生息地を守ることによって保護がなされねばならない未開発種の野性同類種 (wild relatives)にある。
- 遺伝子銀行 (種子銀行)が今までのところ遺伝形質の自然外位置保護のための主要な保護対策をなしている。遺伝子銀行はすべての作物保護ニーズをカバーすることは出来ないが、多くの遺伝子豊富な地域の進行性遺伝子浸食に対処するため持続、開発されるべきである。開発途上国には国または地域の遺伝子銀行がほとんどない。さらにその不十分な能力のため、多くの遺伝子銀行は、家庭作物の多様性やその地域内のこうした作物の野性同類種の開発や、保護の十分な安全性を制限されている。
- 従来の植物育種およびバイオテクノロジーにおける作物遺伝子資源の商業化は、所有権の問題を生んでいる。遺伝子銀行は、政府所有下にある国または地域の施設である。しかし、遺伝子銀行の多くは、FAOあるいはCGIARの賛助のもとにある国際的なものである。国際遺伝子銀行のネットワークによって集められた作物多様性の膨大なストックの所有権に対するジェネラル・アクセスおよび所有権の問題は、現在多くの国際フォーラムで討議中である。
- 遺伝子銀行は、作物多様性保護のすべてのニーズをカバー出来ないため、遺伝子銀行を補助する資源基盤保護政策の必要性がある。栽培種は、また、自然位置が保たれねばならないが、増加する人口のニーズを充たすため、農業が集約化されるなかではそれは難しい問題となっている。自然位置保護では生物多様性は、地元レベルで管理されている。そうした管理を成功させるには、自然資源の管理および収穫で女性が果たす特別な役割に注目し、地元民を活発に参入させることである。作物の遺伝子多様性の自然位置保護のための関連戦略には、生物学的多様性の枠組みで経済インセンティブの多様な形がどのように機能しているかをよく見極めることが含まれていると思われる。そのような戦略にはまた作物の進化に貢献する野性種の生息地保護も含まれている。そうした地域の多くは今や脅かされており、自然資源管理統括プログラムで取り扱われる必要があり、そのプログラムでは、遺伝子資源に重要な関心が寄せられていなければならない。
- 世界の生物学的多様性のほとんどが南の開発途上国に見出だされている。北の工業諸国は、植物育種を南からの遺伝子流道に依存させている。種子産業の商業化および遺伝子資源の特許への関わりと共に、遺伝子資源の所有権に関する問題が紛争のもとになってきている。知的所有権などの問題に関する粉争も、急速に拡大するバイオテクノロジー産業によって深刻化する可能性がある。多くの開発途上国が恐れていることは、彼らの遺伝子資源を守る努力が、自分達自身の社会よりむしろ北の新しいバイオテクノロジーを基盤にした産業に利益をもたらすのではないかということである。この新産業革命は、新しいバイオテクノロジー製品の開発を通して、第三世界の伝統的な輪出商品を変えてしまうかもしれないし、開発途上国の経済を衰微させることさえあるかもしれない。こうした問題に関しての国際的な討議の多くが以下の二つのテーマに集中している。それは知的財産権と遺伝子資源のテーマである。
- 国際遺伝子銀行に貯蔵されている遺伝子資源は、最近まで共通財産と見做されていた。バイオテクノロジー製品やその製法に対する一層重要なマーケットが出現したことは、特許や植物育種者権利というかたちで個人の財産権を広げる刺激を与え、また隔離および変更のさまざまな階段における遺伝形質にも刺激を与えている。特許は、すでに欧米の植物や合衆国の動物に対しては認められている。特許の国際的調整化は、ECCやGATTで今実施されており、生物学的多様性やバイオテクノロジーなどの問題と結びついた重要な処理作業がいま「植物新変種保護のための国際ユニオン」や「世界知的所有権機関」 (WIPO)のもとで進行中である。調整化特許の出現は、国際遺伝子銀行にとって重要な意味合いをもつかもしれない。
- GATT交渉が出し得る結論は以下の内容になると思われる。すべての国が、その植物に認められた特許、植物の遺伝子的発現、あるいは植物から生まれた化学製品の開発などを尊重する義務を負うことといった内容である。生物学的多様性がどのようにしてバイオテクノロジーの問題と結びついているかという疑問は、1992年の「環境と開発に関する国連会議」の準備過程において開発途上国と工業諸国とのあいだで取り交わされる主要な討議である。
- 植物遺伝子資源は、人類の共通財産であり、遺伝子資源へのアクセスはすべてのユーザーに与えられねばならず、したがって国は、現在および未来の発生 (generations)に関するユーザー利益のためにその資源を守る義務を負う、といったFAOの立場に反対して国家主権の原則が提起されている。
- 上記の分析が提示するように、生物学的多様性を保護する戦略は、開発途上国のみならず工業国内の経済政策にとっても意味を持っている。貿易政策もまた知的財産権に関する論争に影響されている。
- 数多くの国際機関、条約、そして協議などが生物学的多様性を支持している。この分野における複製を回避し、国際協力を高めるため、UNEPの第14回理事会は、"好ましきこと"についての決定および包括的協議 (umbrella convention)の可能なかたちを採択した。
- 新しい国際合法手段は未だ準備中であるが、以下の点については、すでに合意が成立している。
- 新しい国際合法手段は、協議が支持した枠組みで具体的な問題に関する議定書を合法的に履行させることによって開発されるべきである。
- 生物学的多様性の全体幅は、地上および水中生態系の異種、そしてすべての生物地理学的地域に対して、種内および種問レベルで取り扱われるべきであり、開発途上国がこうした問題を取り扱う手助けをし、その協議義務を充たすための適切な融資メカニズムをそこに伴う。
- 生物学的多様性および気候変化に関する国際的提案合法手段 (そして森林に関する国際的手段)のあいだには調整が必要とされる。そして、
- 生物学的多様性に害を及ぼす行動を他国では控えるという原則が含まれるべきである。
- 9ヶ国で現在進行中である資金面のニーズの目録を含む地方研究が有用な情報を提供すべきである。UNEPガイドライン基本に関する国家地方研究のUNEPプログラムに対するサポートについては、DACメンバーによって考慮かなされるべきである。
- 提案生物学的多様性会議に関する討議の中心問題は、以下の事項と関連がある。栽培種の関連重要性、資源の持続利用のための適正インセンティブ、保護対策への融資、テクノロジーの譲渡、および遺伝子資源の所有権などである。
- 開発面から見て生物学的多様性協議プロセスに関連した多くの問題は、以下の事項に関係している。
- 協議のもとの活動が標準開発活動と区別される範囲。
- 開発途上国が援助を要求する協議のもとで課せられる自らの義務。
- 現行の二か国間および多数国間融資活動の基金メカニズムに対する関係。
- 基金メカニズムのなかでの世界銀行、UNEPそしてUNDPに導かれた地球環境施設に可能な役割。
- モントリオール議定書基金メカニズムのなかでの生物学的多様性協議のメカニズムに適している要素。
- 提案森林協議あるいはその契約そして気候変化協議など、それらのもとのすべての基金メカニズムに対して、生物学的多様性協議のための基金メカニズムが持っている関係。
- かなりの数に昇る二国間ドナー、国連の機関、そしてその他機関は、生物学的多様性を扱う特定プログラムあるいはセクターのプログラムを通して開発途上国に技術的、経済的援助を提供している。国内外のNGOもまた生物学的多様性に関する主要プログラムに融資している。UNEPの研究が評価するところでは、開発途上国への生物学的多様性の保護あるいは利用を活動の主要目的に挙げているドナーの総援助額は、現在少なくとも年間2億ドルと見られている。生物学的多様性から間接的利益を得る関連活動に関する経費は、もっと大きい。にもかかわらず開発援助機関にサポートされているそれ以外の活動は、生物学的多様性を減少させる影響を持っているかもしれないと認識されて然るべきである。
- 生物学的多様性は、ほとんどのDACメンバー諸国の場合、その支援プログラム内でプライオリティーが当てられてきたという部門ではない。しかしながら、米国、北欧諸国、ドイツ、オランダそして英国などからの援助は、異なった方法で生物学的多様性保護への重要な貢献をしている。ほとんどの二国間活動は、資金援助というよりは技術援助から成り立っているように思われる。例えば研究、訓練および教育、調査および目録作り、保護区域管理、そして国家保護戦略などがある。
- 国連ファミリー、国際開発銀行、そしてCGIARなどを含む多数国間機関は現在、年間約7千5百万ドルを生物学的多様性関連プロジェクトに費やしている。開発銀行は今まで少量の財源のみを生物学的多様性保護をその主要目的にしている活動に当ててきたに過ぎない。このことは、間違いなく生物学的多様性保護活動からの融資の見返りが低いことを国家レベルで認識していることを反映している。しかしながら、最近銀行は、生物学的多様性問題にますます関心を払っている。生物学的多様性は、地球環境施設による支援が確認されている4部門のうちのひとつである。地球環境施設の活動は、UNEP,UNDP、そして世界銀行による3者の合意を通して今実施されている。
- 特にFAO,UNEP,UNDPなどの国連機関には主要な生物学的多様性プログラムがある。1985年、FAOは森林遺伝子資源プログラムに約70万ドルをかけ、また1986年の熱帯森林生態系保護プログラムには約4千140万ドルをかけた。そして1989年のFAO,UNEP,UNDPは、三者の遺伝植物形質プログラムに約100万ドルをかけている。FAOプログラム内には植物遺伝子資源の自然外位置保護に関する特別専門知識がある。13箇所の農業リサーチセンターを含めてのCGIARは、「植物遺伝子資源国際委員会」 (IBPGR)とともに、主に遺伝子銀行を通して自然外位置保護に関する主要プログラムを持っている。UNDPは、1988年に約3億万ドルを環境経費に割り当てた。そのうちの940万ドルが生物学的多様性、植物資源保護、そして野生動物管理のために使われた。さらに環境経費に含まれるものは、森林および土壌管理保護に対する援助で、それは生物学的多様性と密接に関連している。その他、国際組織では国際熱帯木材機関や共同事務局が生物学的多様性への技術保護に対するもっともささやかな融資を行なっている。
ドナーのためのガイドライン
- 保護対策は、雨林のような生物学的多様性の豊富な地域にのみ重要なのではない。乾燥地域あるいは気候穏やかな地域における生物学的資源は、わずかなものであるが、こうした地域は、農業、動物育種、あるいは地域森林などの持続性に欠かせない特有の風土を持っていることが頻繁にある。地方の地域社会、特に中心をより離れた遠方の地域社会はその場の生態系で見出だされる生物学的多様性に非常に依存している。こうした生物学的多様性の保護は、その地元の地域社会にとっては、地球規模の多様性の重要性とは無関係に非常に重要である。さらに、地元地域社会は、消滅の危機にあるその場の生態系や、その地域社会および地域社会以外め世界の生態系損失に関する知識を持っている。
- ドナーは、いろいろな方法で生物学的多様性保護を進めることが可能と思われる。ドナー戦略は、開発支援のさまざまなレベルに対して確立されるべきである。その支援に含まれるのは、政策改善、開発途上国における制度的能力の向上、国家保護戦略、そしてフィールド活動などである。開発援助の保護対策を統括するドナー能力を強化することもまた重要である。
- 政策開発/生物学的多様性を保護し管理するための開発プログラムでは、人間の地域社会の場の経済開発と脅威に曝されている人間と無関係な動物相および植物相のあいだのバランスが守られる必要性が反映されていなければならない。生物学的多様性の保護と両立した政策活動を促進するために、ドナーは活動には以下の事項が含まれるべきである。
- 生物学的多様性の保護に重要な政策例えば、国土保有、森林、居住、人口、自然資源管理、農業、エネルギー、雇用発生、そして地方開発などの調査である。
- 生物学的資源および生物学的多様性を持続するためのマクロ経済政策改善/国土利用とその保有政策および国家所得勘定における資本蓄積として、生物学的資源に金銭的価値を置く経済政策などがそこに含まれる。自然資源保護利益は、コスト利益分析で量化することは困難である。なぜなら、そうした保護利益というものは、大体非経済的なものであり拡散的であり、また将来の生産に対して生ずるものであるためである。生物学的資源に適用される不適切な値引き率やメソッドは、そうした資源を保護というよりは破壊に至らしめるものである。
- 生物学的資源および生物学的多様性の現実的価値評価/ 森林、湿地、海洋システム、そして農業種の遺伝子学的多様性などの直接、間接の価値を量化する努力は、多くの開発途上国でいまなされており、それはドナー支援を受けるに値するものである。フィールド・調査では、例えば観光事業によって生ずる商業的な収穫や商業サービスなどの価値を評価することに加えて、市場を通さないでしばしば直接消費される猟鳥獣類や非木材製品に評価を与えることが出来る。流域保護、土壌保全、そして気候規則化などの生態系機能の間接的価値は、より量化が困難であるが、おおよその評価でさえ現行の事実評価より正確である (ほとんどの場合ゼロである)。食品安全性のための農業生物学的多様性が持っている重要性には、プライオリティーがもっと与えられるべきであり、分析がもっとなされるべきである。そうした評価は、生物学的多様性保護を支持する経済政策改善に対して重要なデータを提供する。
- 非政府組織は非政府自然資源組織を援助するために、注目する必要のある保護政策問題を規定し、保護政策における持続性を打ち立てる時主要な役割を演じる。そうした活動は、以下のことをなす時に大事である。提唱、一般の認識の向上、調査、地元プロジェクトの支援および実施、そして管理責任の地元地域社会への返還などである。
- 制度的能力の強化/ 地元の能力を開発するための援助は以下め団体の利益となるべきである。開発途上国の環境および自然資源機関 (農業および沿岸資源のための機関を含む)、大学およびその他訓練施設、そして国および地方レベルの非政府組織などである。ドナー活動は、時には以下のものを含むことがある。
- 自然資源管理機関、調査施設、そして受入れ国の非政治組織などへの適切な支援。
- 保護政策およびプログラム実施に対する支持者を増やすために一般人、学生、そして意志決定者への効果的環境教育および効果的一般認識向上プログラム。
- 現行あるいは新規プログラムに対する一歩進んだ支援、生態系を扱うカリキュラムの改善、自然資源管理、そして社会および経済問題との結合。
- 大学と政策立案者、地元地域社会の両者のあいだのより強固な連結への支援。
- 国および地域調査施設開発、ドナー諸国の施設との調査協力、そして関連バイオテクノロジーに関する協力イニシアチブなどを通して地元の調査能力向上を支援。そして、
- 地元ユーザーグループの資源管理能力への支援。
- 国家保護戦略/ 保護活動の効果を増す戦略は、外部機関および外部親組織ら必要とされる資金、技術面の援助を以て開発途上国の施設によって開発されるべきである。最初からそのプロセスは、オープンであるべきであり、明確な目標とともに他機関の参加を得るべきである。生物学的多様性戦略においては、他の補助イニシアチブ、プラン、そしてプログラムなど (熱帯森林行動プログラム、保護戦略、環境行動計画、UNCEDのための国家レポートその他)との調整がなされるべきである。
- 以上のような戦略を支援するためのドナー活動
- 生態学的天然資源目録および調査を通しての評価/ 至急行動区域の選択は以下の3つの要素に重きが置かれている。生物学的特徴、現在および将来の脅威の重大性そして社会、経済、制度各面の要因に照らしての保護機会の度合。
- 種の分布、自然生息地、人間の土地利用そして住民の文化的特色などに関するデータが盛られた情報交換センター。そうしたセンターは、それらが独立機関あるいは関連大学、政府機関など何れにしろ、直接政策立案プロセスに結合されていなければならず、自由にアクセスが可能でなければならない。
- 以上の戦略実施援助に関するドナーコミュニケーションおよびドナーコーディネーション。
- フィールド活動/ 生物学的多様性を保護するフィールド活動は、以下の事項を含むことがある。
- 公園および保護区域の設立および管理/ 今後5年から10年にかけての活動が、独特で特色のある現在保護がなされていない生息地を保護するうえに非常に重要である。ほとんどの国々で比較的保護されてこなかった沿岸、および海洋の生態系に特別な関心が向けられるべきである。保護区域を確立することは、それに対する割り当て地のみならず、区域を十分に利用し維持させるための法、政府、融資などの面の必要事項に向けて、ドナーが支援する必要がある。
- 周囲の地域との物理的、社会的、経済的関係および地元住民や外部組織の参加などに正当な関心を盛った緩衝地帯管理および生態系の再生/ プロジェクトの長期実行可能性に非常に重要である要因のいくつかは、計画過程において扱われるべきである。そうした要因とはすなわち土地保有と伝統土地権、人口力学、社会的文化的要素、そして地元地域社会に対する経済利益などである。生態学的再生のための必要事項を緩衝地帯における住民の経済的ニーズに結びつけることが、核心保護区域における生物学的多様性を十分に保護するための唯一の方法であるかもしれない。だが、もし地元地域社会がそうしたプログラムやプロジェクトの計画作りや実施に効果的に参加しない場合はそれは保証の限りではない。
- 生物学的多様性資源の持続的利用のための資源管理/ 地元地域社会や資源ユーザーの直接的な経済利益を提供するためになされる。非木材森林製品および伝統的漁業地域に対する地元権利の確認は、マーケテイングプログラムおよびクレジットプログラムとともに持続管理および増加収入の基盤を提供する。
- 作物不足のリスクを減らし、特定環境状況に適応した新たな変種の開発に向けた農林水産のための遺伝子資源保護/ 野性、また農業生態系内 (以上、自然位置)、または庭園、果樹園、種収集、実験室 (以上、自然外位置)において、野性植物あるいは栽培植物、または動物遺伝形質などの維持は、基本遺伝子貯蔵を管理するためには共に欠かすことのできない戦略である。森林においては、単一栽培のための外来種の利用、あるいは依存、そして固有樹木種の育材価値などがもっと組織的に分析されるべきである。
- 自然位置保護にとって代わるものとしてではなく、補助としての種銀行への支援。
- 国の生物相の審査目録および熱帯の組織的調査への支援/ 3千万から5千万のあいだとされる種の数のうち、確認されている世界の種は、200万種以下である。
- 適用保護調査/ 社会、経済、生物学の面からの調査。特に急を要するのは熱帯森林、沿岸湿地、そして海洋システムなどの生態学的過程を明らかにするフィールド研究であり、それは生物学的生産性の傾向、人間の活動がもたらす崩壊に対する回復度、そして現在および将来に可能とされる経済的、社会的価値などすべてを決定するための研究である。フィールドレベルの社会経済調査ではまた生物学的資源が如何に食物、健康、そして地方の人々の生活や資源管理の伝統的システムなどに貢献しているかを記録文書化することが必要とされる。また、フィールドレベルの社会政策調査では、特定の政策が導入管理システムおよび固有管理システムの両者に如何に影響を及ぼすかを記録文書化する必要もある。
- 生物学的多様性の長期維持に向けた重要なステップとしての人口プランニング・サービス。
- ドナー能力の向上/ ドナー機関はまた自身の能力を強化すべきである。それは保護ニーズを評価したり、生物学的多様性の維持を計画開発目標に統合する効果的戦略の改訂をしたりするためである。こうした方向における各ステップは以下の事項を含む事がある。
- 他のプライオリティーとの初期競合を減らす手段としての生物学的多様性の関連活動を活発にするための融資。
- 生物学的多様性へのプロジェクトの環境影響評価指定ガイドライン (支援機関の為のガイドラインに関するDACシリーズの一部としてその中に含まれることがある)。
- 革新的融資/例えば、自然保護プログラムおよび団体、特に非政府組織などの諸機関への長期的、安定的援助を提供するための自然保護債務スワップ、基金、債券、および、てこ作用メカニズムなどがある。また、循環コストの再生などを行なう。
- 機関政府、地域戦略、国家戦略、そして環境影響評価必要事項などの決定の際に参考ポイントとして有用である生物学的多様性保護に関する戦略説明。
- スタッフ・トレーニングや保護スペシャリスト、政策アナライザーなどの募集を通して、ドナー機関内の循環科学および自然資源保護の専門知識を増やす。
- 生物学的多様性の保護のための孤立したプロジェクトよりも、むしろ戦略的プロジェクトに焦点を与えることによって、環境プロジェクトに持続性および長期的見通しを提供するメカニズム。
- 農業、森林、沿岸資源、そしてその他のセクタープログラム (地方開発エネルギー、教育および民間企業開発などを含む)における生物学的多様性維持の調整/諮問委員会、セクター調査、あるいはその他メカニズムは、開発援助プログラムにおいて保護問題および保護機会を確認する手助けを行なう。
- DACメンバーは、政策改善、固有制度能力強化、そして国家自然保護戦略などを通して生物学的多様性保護の奨励に合意する。上記分析に基づいてDACメンバーは、以下の事項を通して開発途上国の援助に合意する。
- 生物学的多様性保護に重要な政策の調査。セクター政策も含まれる。
- 生物学的資源を維持するためのマクロ経済政策改善。
- 生物学的資源および生物学的多様性の現実的評価を確立するための努力。生態系機能の間接的価値評価も含まれる。
- 環境資源および自然資源機関、大学、訓練施設、そして非政府組織の制度能力の強化
- 生物学的多様性保護プログラムの計画作り、およびその実施における地元ユーザーグループやその組織の参加促進強化。
- 生態学目標・調査、至急注目地域の確認などにより生物学的資源の評価をする。そうした確認は、生物学的特色、脅威の重大性、そして社会的、経済的、制度的要因に基づいた保護機会などを参考にしている。
- 政策立案プロセスに直結したインフォーメーション・センター。
- DACメンバーは、以下の事項を通してフィールド活動支持に努める。
- 自然保護区域の確立、および管理に対する支援。
- 緩衝地帯管理、生態学的再生などの改善に対する支援。
- 地域社会に向けた直接経済利益 (非木材森林製品、および観光産業など)のために、生物学的資源を持続的に産出するより優れた管理に対する支援。
- 自然位置、および自然外位置対策による農、林、水、産における遺伝子資源保護に対する支援。
- 種銀行、目録作り、適用社会経済調査に対する支援。そして、
- 自然資源保護プログラムに統合された住民サービスおよび計画作りに対する支援。
- DACメンバーは、またその開発目標の中で生物学的多様性を維持する際の保護ニーズや創案戦略などを評価するため、自身の能力を以下の事項を通して強化することに合意する。
- 生物学的多様性保護に関するドナー戦略説明。
- 生物学的多様性に関連した活動への融資。
- 生物学的多様性への影響を計るための開発プロジェクト評価。
- 保護のための革新的融資機会。
- 環境科学および自然資源保護における支援機関の専門知識。
- 環境プログラムの持続性に長期見通しを提供するメカニズム。
- 諮問機関、セクター調査、そして環境影響評価などを通したその他関係セクターと関連すると共に、農業、森林、沿岸の各資源にも関連した開発援助セクタープログラムにおいて生物学的多様性の統合を行なう。
Copyright OECD, 1991