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環境協力に携わる方々へ

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「地球環境に関する援助機関ガイドライン」

経済協力開発機構 パリ 1991年

IV.有害廃棄物

背景

  1. 廃棄物とは、埋設、海洋投棄、焼却、地上投棄、その他のさまざまな方法で処分されるものである。有害廃棄物とは、毒性、腐食性、爆発性、可燃性があるため、適切に処理されない場合に生物および/または環境に損害を与える可能性のある廃棄物である。廃棄物にある種の物質 (例えば重金属)が含まれていると、取締当局からその廃棄物は有害になりうる可能性があると判定される。有害になりうる可能性をもつ廃棄物のリストがすでに多くの国で公表されている。1988年5月にOECD加盟国は44種類の廃棄物を有害廃棄物に指定することで合意した。このリストは、1989年3月22日に採択された「有害廃棄物の越境移動およびその処分の管理に関するバーゼル条約」に組み込まれている。ECもこのOECDリストの採択を進めているところである。
  2. このように、生物および/または環境に損害を与える可能性を最小限に抑えるためには、有害廃棄物に対して十分な監視と管理が必要だという合意が世界的に存在している。また、廃棄物の発生を抑制するために、経済的インセンティブと規制措置を導入する必要があるという点についても、広く合意されている。有害廃棄物の監視とは、その廃棄物の所在をつねに (つまり揺り籠から墓場まで)確認できる状態にしておくことであり、さらにその廃棄物が取扱、貯蔵、および/または処分に適した設備に実質的に収容されたことを意味する。特殊なケースとして、ある種の化学製品 (例えば農薬)が間違って、あるいは不適切な使用や貯蔵のために「廃棄物」にされてしまうこともありうる。十分なモニタリング・システムが設置されている場合にのみ、有害廃棄物の完全な管理が実行可能になる (多くの国ではまだ実現していない)。この場合の管理とは、廃棄物の不適切な取扱いが行なわれる可能性を最小限に抑えられるように担当官庁が直ちに行動できることを意味する。事故が発生している場合の管理とは、担当官庁が、人命および/または環境に及んでいる危険を軽減するために、法的にも資金的にも直ちに行動できる能力をもっていることを意味する。
  3. 有害廃棄物に関する既存のすべての監視および管理体制に共通する要素は次のとおりである。
  1. 「廃棄物」と「有害廃棄物」の定義、および処理対象となる廃棄物とリサイクル、資源回収、再利用、または再生の対象となる「素材」との区別の規定。
  2. 「有害廃棄物」にされる廃棄物質のリストの作成。
  3. 有害廃棄物の源になりうる可能性のある源 (発生源)のリストの作成。
  4. 監視および管理すべき各種有害廃棄物の数量評価。その結果は、有害と見なされる廃棄物のリストと現在の発生源にほぼ左右される。
  5. 各種有害廃棄物の発生量に見合った取扱、貯蔵、処理 (TSD)設備の規定。
  6. 監視計画の実行。これによって担当官庁は廃棄物を「揺り籠から墓場まで」、さらにはその先まで追跡することができる。
  7. 事故、システムの故障、または人命および/または環境に脅威を与える恐れのある投棄された有害廃棄物の発見などによって発生する緊急事態にすばやくかつ適切に対応するための手段。
  8. 有害廃棄物を監視・管理するために選択された体制に準拠した基準の設定に必要な資源、および違反している場合に規則を適用するために必要な資源。
  1. 以上の8項目は、すべての有害廃棄物管理システムを効果的なものにするためには欠かせないものであるが、実際にはその形態はさまざまであり、国 (または地域)によっては若干修正した形で採用されている。各国がそれぞれに重視する項目を選択する際にはさまざまな要因が関係してくる。その要因は、コスト、地理的条件、産業構造、一般の理解度など、多様である。多くの先進工業国では、有害廃棄物の管理に支出される資源は金額にして人口1人あたり年間5ドルないし15ドルの範囲内におさまるようである。例えば、OECDのヨーロッパ加盟国では、年間約2400万トンの有害廃棄物が発生しているが、この廃棄物を適切に管理するためのコストは、1989年にはトンあたり平均約100ドルであり、今後は急速に増加するものと予想されている。
  2. 開発途上国における有害廃棄物の発生率はほとんど判っていない。しかし、バーゼル条約で採択された有害廃棄物のリストを基礎にして考えるとかなり正確な推定が可能になる。それによると、開発途上国の年間国民総生産100万ドルあたり有害廃棄物の排出量は2.5トンないし4.5トンと推定される。したがって平均すると、国民総生産が年間10億ドルの国は年間約3万5000トンの有害廃棄物を処理しなければならないことになる。
  3. おおまかに言えば、開発途上国の有害廃棄物発生源は主に次の3つである。
  1. 外国企業が所有する企業、国営企業、または合弁企業、メッキ業者や金属加工業者などの小企業、ならびに地元の農家や家庭など、国内で発生する廃棄物;
  2. 輪入される廃棄物;および
  3. 下水処理施設でスラッジとして残る廃棄物。
  1. UNEPの調査結果によると、開発途上国の廃棄物処理はさまざまな問題を抱えているという。例えば、熱帯の多雨地帯では頻繁に降る大量の雨に対処しなければならない。ゴミ捨て場の廃棄物からは大量の雨に混じって含有物がすぐにしみ出したり、廃棄物がそのままあふれて流れ出す恐れが多分にある。廃棄物が投棄前に前処理されることはほとんどないか、まったくないので、そのために上水が (地下水も表流水も)汚染され、それを近くの住民が利用する可能性がある。また、UNEPによると、開発途上国の工業生産設備はほとんどが人口密集地に集中している。有害廃棄物の投棄は一般的に工業地区の周辺に発生するものであり、そこは貧困地区とも接している。多くの開発途上国では有害廃棄物やその他の廃棄物が定期的に分別されることはない。開発途上国にはこうした危険が存在するため、土地利用計画を立案し、それを直ちに強制的に実行する必要があることは明らかである。
  2. 有害廃棄物のある場所から流れ出る雨水は広範な土地を汚染する可能性がある。農業に対する依存度が高い地域でそれが発生すると、広大な土地が利用不可能となり、壊滅的な打撃を与える恐れがある。
  3. 開発途上国では、有害廃棄物の発生源を規制する国家機関はまだ十分に整備されていないし、また強い権限ももっていない。そうした有害廃棄物の処理にはつねに危険ないしは重大な危険が伴う。このように、多くの開発途上国の政府は、今後は放置されたままのゴミ捨て場と取り組んで、それを改善する必要性に迫られる可能性が十分にある。この仕事には技術的な専門知識とかなりの資金が必要になるだろう。改善措置が取られない場合には、人命や環境に重大な損害を与える恐れがある。
  4. 先進工業国から開発途上国への技術移転は廃棄物の管理の必要性や管理方法の選択にも影響を及ぼす。1970年代や1980年代に、最終的には受入国の管理に委ねられた建設資金な主に利用した産業は、化学工業、エネルギー産業、金属工業、建材工業、それと若干金額は少ないが繊維産業、製紙工業、鉱業、食品加工業および廃棄物処理産業などであった。これらの産業は有害廃棄物を排出する可能性が高く、開発途上国では多くの場合、ほとんどの有害廃棄物を発生させるこれらの産業を事実上、国が管理しているようである。
  5. 技術を管理下におくのが国家であろうと、あるいは地元企業や国外の投資家であろうと、開発途上国で有害廃棄物を発生させるような事業の拡大や新規投資を行なう場合には、有害廃棄物の適切な管理能力にも留意する必要がある。一般的には、外国投資家と受入国との間で契約に伴う義務が定められるのが普通である。外国投資家の事業活動によって有害廃棄物が発生するような場合には、外国投資家が自国で行なうのと同様にその廃棄物を処理する義務が課せられる場合がある。事実、一部の多国籍化学企業はすでにそうした責任を前提にしている。そのような場合には、そうした処理を行なうという契約が可能になる。その場合には、契約義務の中に監査の実施を含むこと、しかも有害廃棄物は自国の場合と同様に適切に処理することが前提条件となる。さらに、廃棄物に対して特殊な処理が必要な場合には、外国投資家がそうした処理に同意する場合もある。人命や環境を最低の対策費で守れるような特殊な対策やそれに必要なコストについてアドバイスを提供できる専門家を利用することもできる。
  6. したがって、開発途上国における主要な経済問題は、専門家や資金を利用できる範囲内で有害廃棄物の監視と管理を行なう手段を実行に移す方法だということになる。とくに「予測と防止を重視する」戦略の場合には、管理体制をある程度強化する必要があるが、その場合には利用できる資源が少ないことも考慮しながら進めていく必要がある。最終的には、これまで規制を受けてこなかった場所に対しては定期的な監視が必要であり、また廃棄物を規制する改善措置を計画する必要もある。

援助機関のためのガイドライン

  1. 管理手法の効果を上げるためには、種類や量を含めて、有害廃棄物を発生させる可能性のある事業の評価が不可欠である。この評価は、有害廃棄物の発生量を減少させ、最終的には最小限にまで抑える対策を講ずる場合や、そうした有害廃棄物のリサイクルや再利用を促進する場合にも利用できる。公害防止技術や資源回収方法を導入することにより、廃棄物管理の分野における援助機関の投資利益率を最大化できる場合もある。したがって、廃棄物の管理や処理に要するコストの見積もりは、環境影響評価の際にプロジェクト評価全体の中で行なうべきである。
  2. 多くの開発途上国においては、有害廃棄物に対して適切に対応するためには、上級専門職の採用と訓練が不可欠である。彼らに要求されることは、廃棄物管理に関して国が直面している問題点を確認し、さらに国が抱えている多くの問題や優先すべき課題を考慮しながら適切な政策について助言し、それを実行することである。この仕事には各種の資源や資金が必要であるが、開発途上国の中でそれに投入できるだけの準備ができている国はほとんどない。1つの方法として、管理職員の訓練・雇用に当てる資金を、処理を必要とする廃棄物を発生させる投資に結び付けるという策がある。また、二国間ないし多国間機関がある事業に資金援助する際に、そのような策や訓練に協力してほしいという要望が出てくる場合がある。企業が支援する非政府機関も、そうした訓練の実施に寄与できる場合がある。
  3. 開発途上国からは有害廃棄物の管理システムの一部を実行するために援助を求めてくるケースがあるが、多くの場合そのシステムは必要な行政的規定や法的規定、技術、インフラストラクチャー、支援サービスなどによって構成されている。援助機関が重視する援助規定は、十分な支援体制と支援サービスが整っていること、ならびに技術が発生する廃棄物の処理に適していることだと思われる。例えば、現在のセメントキルンを改良して液状廃棄物を削減できるようにすれば、特別な焼却炉を建設するのと同じ効果を上げられる可能性があり、しかもコストは多分かなり少なくてすむ筈である。
  4. 廃棄物管理のためばかりでなく、有害物質による事故発生を少なくするためにも、有害廃棄物を排出する可能性のある企業を検査できる検査官の養成や訓練は不可欠の要素である。この点については、UNEPの「現地の緊急事態の確認と対応」 (APELL)が援助機関にとって有効なモデルになるものと思われる。
  5. 農業からは監視や管理がとくに難しい有害廃棄物が発生する。援助機関の立場からは、農業セクターについては投資面を重視した監査や適切な廃棄物管理手法が価値のあるものと考えられる可能性が十分にある。その点では、農薬や肥料の使用から発生する廃棄物は有害廃棄物であり、農民はあまり費用をかけないで自分でその廃棄物を適切にしかも簡単に処理できなければならない。特別な収集システムを装備した車両を農場に持ち込んで、農薬や肥料、その他の農業廃棄物を回収し、それを処理センターで再利用、リサイクル、処理するという方法はかなり有効と思われる。実際には廃棄物の発生を削減するためには、農薬や肥料を自由に使用することを奨励する農法は見直しを行ない、もう一度組み立て直す必要がある。例えば、農業用プラスチックは除草剤への依存を終わらせることができ、さらにもう一度ポリエチレン樹脂に戻してプラスチック製品に再利用することができる。複合型の害虫病原菌防除システムを利用すれば、農業から有害廃棄物の発生を長期的に減らすことができる。
  6. 上記のような分析にもとづいて、DAC加盟国は次のような作業に進むことで合意している。
  1. 廃棄物規制のためのプロジェクトの環境影響評価の規定作成および発生する廃棄物を回避し、取扱い、処理する際に必要なコストの見積もりのためのプロジェクト・デザインの規定作成。
  2. 公害防止技術の移転および資源回収方法や廃棄物削減技術の導入の促進。
  3. 有害廃棄物の管理について国が直面している特殊な問題を確認し、他の優先課題を考慮しながら実行政策を立案できる開発途上国の上級政策担当職員の募集、訓練、および雇用に対する援助。
  4. 有害廃棄物を排出する企業を検査し、さらに有害廃棄物による事故の発生を減らすこともできる検査官の訓練に対する援助。
  5. 支援体制と関連サービスを整備し、廃棄物の管理の要求に適した技術を採用できるようにする援助。
  6. 農業から有害廃棄物の発生を減らすために複合型の害虫病原菌防除システムの採用を促進する投資や支援プログラムを実行するための適切な廃棄物管理手法の特別検査と作成に対する援助。
  7. 開発途上国への有害廃棄物の輪出を減らすための事前通知承認手続きを導入するための規定の作成に協力する援助。
  8. 有害廃棄物の所在や開発途上国への輪出を完全にしかも正確に確認できる追跡・通知システムの構築に対する援助。
  9. 地域または国の養成機関、訓練機関および協力協定を支援するための関連する国連およびその他の機関との協力。

Copyright OECD, 1991

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