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「地球環境に関する援助機関ガイドライン」
経済協力開発機構 パリ 1991年
II.気候変化
1.背景
- 地球温暖化および気候変化の問題に関する国際的関心は、「気候変化に関する政府間パネル」 (IPCC)の作業に集まっている。IPCCはUNEPと世界気象機関 (WMO)に支援によって1988年に設立されたものである。その中の3つの作業部会 (WG)が次のようなテーマに取り組んでいる。すなわち、気候変化の科学的問題 (WG I:議長国はイギリス)、気候変化の影響 (WG II:議長国はソビエト)、および気候変化の影響に対応するための戦略とそれを抑制する戦略 (WG III:議長国はアメリカ)である。1990年8月のIPCCの最初の評価レポートの公表、および1990年11月の第2回世界気候会議の政府宣言などに次いで、国連総会決議によって設立された「政府間交渉委員会」 (INC)が気候変化の枠組み条約の作成に関する交渉を開始した。
- IPCCが最初の評価レポートで下した結論は、気候変化に関する我々の理解はきわめて不正確なものだということである。IPCCによれば、人間の活動に起因する温室効果ガスの大気中の現在までの累積濃度は、1850年以降の二酸化炭素の累積濃度の約50%分に匹敵し、もし何らの対策も講じない場合には、もっとも控えめにみても21世紀中の地球の平均気温の上昇率は10年間に0.3℃になるという。これは過去1万年の間に発生した上昇より速いペースであり、その結果、地球の平均気温は2025年までに現在のレベルより平均1℃上昇し、また2100年までに平均3℃上昇する見込みである。地球表面の平均気温はこの100年間で約0.3ないし0.6℃上昇しているが、1980年代には最高気温年になった年が5年も記録されている。
- 気候変化の地域的影響の精確な予測は現在は不可能である。しかし一般的な結論を導き出すことはできる。人間が出す温室効果ガス排出の増加を抑制する予防措置をとらない場合は、地球の平均海面上昇率は10年間で約6センチと予想されている。もし海面上昇が1メートルに達すると、36万キロメートルの海岸線に変化が現れ、一部の島国では居住が不可能になり、数千万の人が土地から追われ、低地にある都市は危機に曝され、肥沃な土地も水をかぶり、飲み水は汚染されるだろう。温度や海面水位の上昇のほかにも第3の影響として植物帯の移動が予想される。
- 被害の影響をすぐに受けてしまう地域や生態系の脆弱な地域では、適応能力が弱いために、農業生産性の低下が起こるものと予想される。一部の地域の生態系は、気候変化の速度が一部の種の適応能力の速さを上回るため、その影響を受ける可能性がある。気候のわずかな変化でも、水資源に大きな問題を引き起こす場合がある。開発途上国では、水とバイオマスはともに重要なエネルギー資源であるが、両方とも入手可能性に重大な影響が現れる恐れがある。全体として、気候変化のマイナス影響を最初に受け、しかもそれがもっとも厳しい形で現れるのが開発途上国になる可能性があると、IPCCは予想している。
- IPCC対応戦略作業部会は、気候変化に対する取り組みを支援できる抑制対策としてさまざまなものがあることを確認している。そうした抑制対策は、エネルギー・セクター、森林セクター、農業セクターのほか、海岸地帯の管理などを対象としており、その内容は、資源利用、経済政策と財政政策、一般大衆への情報提供と教育、法的規定 (とくに気候変化協定のための提案に関するもの)、さらに技術移転などとなっている。こうした対応戦略はすべての国で採用されることを期待して提示されたものであるが、開発途上国の側にはそれぞれに独自の要求があり、また国際的に十分に対応していくためには外部からの援助が必要である。IPCCの「開発途上国の参加に関する特別委員会」は、開発途上国の状況を適正に考慮し、また開発途上国をIPCCの今後の活動に密接に参加させるよう配慮しなければならないと、勧告した。
- 1991年3月13日から15日までジュネーヴで開かれた第5回本会議で、IPCCは、気候変化とその影響、とくに海面水位の上昇に対する科学的調査の促進、およびエネルギー・セクター、森林セクターでの影響に関する技術的分析の推進のための作業計画などを採択した。
Copyright OECD, 1991