I. はじめに

 地球温暖化問題は、人為による温室効果ガスの排出量の増加及び二酸化炭素の吸収量の減少により、大気中の温室効果ガスの濃度が高まり、地球の気候システムに危険な攪乱を生じさせるものであり、その予想される影響の大きさや深刻さから見て、まさに人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つである。
 国際社会においては、この地球温暖化問題に対処するため、1992年に「気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)」が採択され、我が国も1992年6月に署名し、1993年5月に加入した。
 気候変動枠組条約では、その第2条で「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを究極的な目的とする」ことを掲げている。我が国も1990年に地球環境保全に関する関係閣僚会議が「地球温暖化防止行動計画」を決定し、条約上の約束を果たすべく、これに沿って、政府・各省庁が様々な施策を実施してきた。
 しかし、気候変動枠組条約における具体的な温室効果ガスの排出量の削減に至る方策としては、先進国の約束として、2000年に温室効果ガスの排出量を1990年レベルに戻すことを目指し、講じた政策・措置を通報すること等を定めることにとどまっていた。このため、1995年4月にベルリンで開催された気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP1)では、現行条約上の先進国の約束は条約の目的を達成するためには不十分であるとして、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)までに先進国の対策の強化を図る法的文書を採択するべく国際的な作業を行うこと等を決めた。
 2年余にわたる国際交渉を経て、1997年12月に京都で行われたCOP3においては、「京都議定書」が採択された。これにより、先進国の温室効果ガスの排出量の削減目標について法的拘束力ある数値目標が決定されるとともに、先進国間の排出量取引、いわゆる共同実施や途上国の自主的対策に係るクリーン開発メカニズム等の導入が合意されるなど、今後の地球温暖化防止対策に向けて大きな一歩が踏み出されることとなった。
 「京都議定書」により、我が国は、温室効果ガスを「2008年から2012年の第1約束期間に1990年レベルから6%削減」することが必要となった。
 これは我が国にとってぎりぎり受け入れ可能な厳しい目標であり、さらに、地球温暖化を防止するためには2013年以降も先進国における一層の温室効果ガス排出量の削減が必要となることを視野に入れる必要があるが、これらを踏まえると、この法的拘束力ある数値目標を確実に達成していくことが必要であり、また、このためには、我が国の温暖化対策について、その制度的な基礎を含め抜本的な見直しを行い、国民各界各層による対策の徹底化を図ることが不可欠となっている。
 今後の国内対策に関しては、COP3を控えて内閣総理大臣の要請を受けて開催された「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」において検討が行われ、その報告書(平成9年11月)においては、「本合同会議が示した地球温暖化対策の基本的方向を踏まえ、関係省庁の連携の下に、地球温暖化対策を深く掘り下げ、具体的な実効性ある対策が総合的かつ計画的に講じられるべきである」とし、「今後、それぞれの審議会において、2010年及びそれ以降に向けた政策の具体化に着手するものとする。」「今後、我々が、それぞれの審議会において、地球温暖化対策について審議を深めるに当たり、国民の意見により一層耳を傾け、同時に積極的に情報を提供することに努めることとする。」としている。
 本審議会では、環境基本計画の進捗状況に関する毎年度の点検作業の中で、また、特に平成9年8月以降は、国民意見の聴取を含め、本審議会の発意により、集中的に地球温暖化対策の在り方を審議してきたが、以上のような内外の状況を受け、昨年12月16日、環境庁長官から、本審議会に「今後の地球温暖化防止対策の在り方」について諮問がなされた。以降、本審議会では「京都議定書」の意義と今後我が国が対処していかなければならない課題について整理するとともに、これらの課題に取り組むために、{1}京都議定書に対応するための総合的な制度の在り方を検討してきた。しかし、課題の中には、京都議定書自体において気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4)以降の国際的検討作業を必要としているものもある。他方で地球温暖化防止は一刻も猶予できないことから、{2}総合的な制度のうち現段階で実施可能なものについては、今日の段階から早急に取り組まなければならない事項として、早急に制度化すべきものと考え、それぞれの課題に対する取組の考え方及びこれらへの対応手法の在り方について審議を行ってきた。
 今般、その審議を踏まえ、今後の地球温暖化防止対策の在り方について、特に今日の段階から取り組むべき対策の在り方に重点を置き、中間的な答申として環境庁長官に意見を述べることとした。

 なお、この際、本審議会としては、地球温暖化の防止に向けてこれから始める本格的取組には、国民各界各層の主体的な参加が不可欠であることを指摘したい。国民は、経済社会の、いわば主人であって、その行う日々の選択や活動が、結局、将来の環境の質を決定している。このことへの理解と、そうした理解の上に立った責任ある選択等が国民に求められている。我々の子や孫の世代が享受すべき環境の恵みを我々の世代の利益のために減殺するようなことがないよう、自らの家庭や職場で可能な取組を進めることはもちろん、経済社会を地球の環境と共生し得るものに積極的に変えていくべく、他の人々との連携・協力をも進んで図っていくことを期待したい。国民への呼びかけとして付言する。


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