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第2部 平成11年度底質モニタリング結果の概要

 

1.はじめに

2.調査の概要

3.調査結果

    (1)調査地点別結果

    (2)調査対象物質別結果

       a) ヘキサクロロベンゼン(HCB)

       b) ディルドリン

       c) DDT類(p,p'-DDE、p,p'-DDD、p,p'-DDT)

       d) クロルデン類(trans-クロルデン、cis-クロルデン、trans-ノナクロル、cis-ノナクロル)

       e) ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)類(α-HCH、β-HCH)

       f) ジクロロベンゼン類(o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンン)

       g) 2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)

       h) ターフェニル類(o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル)

       i) リン酸トリブチル

       j) ベンゾ[a]ピレン

4.参考文献

 

1.はじめに

 水質・底質のGC/MSによるモニタリング調査は化学物質環境安全性総点検調査の一環として昭和61年度から新たに開始された。
GC/MSを用いた環境調査は、当初は環境中の未知物質の検索に重点をおき、昭和51年度から検索方法に関する基礎的な検討を開始し、昭和59年度には「GC/MSを用いた環境中の化学物質検索マニュアル(水質、底質編)」をとりまとめた。しかし、検索については、マススペクトルデータの蓄積や物質の分離、同定等に制約があったため、主要な目的をモニタリングに移して、昭和59年度から準備調査を開始し、昭和61年度より本調査を行うこととしたものである。
 この調査は、多種類の化学物質を同時に感度よく分析できるという特徴を持ったGC/MSを用いて、環境調査の結果等により水質及び底質中に残留していることが確認されている化学物質について、その残留状況の長期的推移を把握することにより環境汚染の経年監視を行うことを主たる目的として実施しているものである。
なお、水質モニタリングについては、現在の分析対象物質及び分析方法では、ほとんどの物質で不検出となることが予想されるため実施せず、本年は、底質モニタリングのみを実施した。

 

2.調査の概要

(1) 調査対象地点
 一般環境中に残留する化学物質の全国的な濃度レベルの推移の把握を目的として、特定の排出源の影響を直接受けないような調査地点を、他の環境調査地点との関係も考慮しながら設定した。
 平成11年度においては、図1に示す18地点で調査を実施した。なお、これら18地点のうち、昭和61年度から継続して調査を実施しているのは石狩川河口、桂川宮前橋、大和川河口、五反田川五反田橋、大阪港、播磨灘姫路沖、水島沖(玉島)及び諏訪湖の計8地点である。

(2) 調査対象物質
 調査は、主に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下化学物質審査規制法という)に基づく第一種特定化学物質を中心に、環境調査及び生物モニタリングにより環境中においてかなりの範囲かつ程度で残留していることが確認されている物質を対象とした。
平成11年度における調査対象物質は以下に記す20物質である。

       (ア) ヘキサクロロベンゼン(HCB)
       (イ) ディルドリン
       (ウ) DDT類       3物質(p,p'-DDE、p,p'-DDD、p,p'-DDT)
       (エ) クロルデン類    4物質(trans-クロルデン、cis-クロルデン、trans-ノナクロル、cis-ノナクロル)
       (オ) ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)類 2物質(α-HCH、β-HCH)
       (カ) ジクロロベンゼン類 3物質(o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン)
       (キ) 2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)
       (ク) ターフェニル類   3物質(o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル)
       (ケ) リン酸トリブチル
       (コ) ベンゾ[a]ピレン
       
       構造式
       

(3) 分析法等の概略

a) 試料の採取
  各調査地点で、原則として秋期に底質1検体を採取した。採取方法は「水質・底質モニタリング調査マニュアル(1991年版)」(平成3年7月環境庁保健調査室、以下「マニュアル」という。)に基づいて操作した。なお、精度管理のため、分析操作に先立って均一化した試料を二分し、分析試料A、Bとして調製した。分析の結果、A、Bの数値の差が許容範囲を超える場合は分析をやり直した。

b) 試料の前処理及び試験液の調製
   試料の前処理及び試験液の調製は、原則として図2及び図3に示す方法に基づいて行った。なお、分析試料には操作ブランクを含むこととした。

c) GC/MS-SIM分析

(ア)  GC/MS装置のパフォーマンステスト
 分析開始前に、GC/MS装置が期待される性能を保っているかをテストするため、調査対象物質等を含む標準溶液を作成し、GCに導入して分離度等を確認した。
 また、MS装置については、マニュアルに示したDFTPP(デカフルオロトリフェニルホスフィン)を用いた管理チェックを行った。

(イ)  GC/MS測定条件
 イオン化法は、正イオンモード電子衝撃法、イオン化電圧は、70eVに設定し、表1に示す測定イオンで測定した。

(ウ)  定量
 定量は、分析対象物質のサロゲート化合物あるいは内標準物質に対する相対感度係数を用いて行った。
5段階以上の濃度で相対感度係数(RF)を求め、その相対標準偏差が20%未満ならば、平均RF値を用いて試料中の対象物質を定量した。日毎のRF値の変化は、±20%を超えてはならず、1日のドリフトは±15%以内とした。
 なお、サロゲート化合物を用いた同位体希釈法により定量した物質は、ヘキサクロロベンゼン、ジクロロベンゼン類、ターフェニル類、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及びベンゾ[a]ピレンの計9物質である。それ以外の11物質は、内標準法により定量した。

(エ)  精度管理
 既知濃度試料及び未知濃度試料を使用してクロスチェックを行った。

d) 検出限界目標値
  検出限界値は、マニュアルに従って、底質については1ng/g-dryを目標とした。

 

3.調査結果

調査対象物質20物質のうち、α-HCHを除く19物質が検出された。
調査地点別の検出結果を表2に、昭和61年度からの検出結果の一覧表を表3に示す。

(1) 調査地点別結果
  調査地点別に平成11年度の調査結果をとりまとめると以下のとおりである。
検出状況は、甲府市内河川を除く17地点でそれぞれ1~14物質が検出された。 11物質以上(過半数以上の物質)が検出された地点は、大阪港(14物質)、洞海湾(14物質)、大和川河口(12物質)、四万十川河口(12物質)及び諏訪湖湖心(11物質)の計5地点となっている。また、調査対象物質毎の最高値を2物質以上記録した地点は、大阪港(7物質)、洞海湾(7物質)及び隅田川河口(2物質)であり、閉鎖性の内湾部の汚染レベルが高いことが示唆される。

(2) 調査対象物質別結果(以下かっこ内は平成10年度の値である)
  調査対象物質別に平成11年度の調査結果をとりまとめると以下のとおりである。

a) ヘキサクロロベンゼン(HCB)
 HCBは、昭和54年8月に、化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定され、実質的に生産、使用等が中止されている。
検出状況は、0.26~4.1ng/g-dry(H10:0.83~7.8ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度は、18検体中5検体(H10:18検体中3検体)であった。

b) ディルドリン
 ディルドリンは、ドリン系の殺虫剤で、農薬としての使用は昭和30年代がピークであり、昭和46年以降は実質的に生産、使用が中止された。その後、白アリ防除のために家屋等に使われていたが、昭和56年10月にアルドリン、エンドリンとともに化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定され、昭和46年以降の農薬としての規制と併せて、その使用が全面的に中止されることとなった。
 検出状況は、0.56ng/g-dry(H10:0.3~1.1ng/g-dry)が検出され、その検出頻度は18検体中1検体(H10:18検体中2検体)であった。

c) DDT類(p,p'-DDE、p,p'-DDD、p,p'-DDT)
 DDTは、ヘキサクロロシクロヘキサンやドリン剤とともに多用された殺虫剤である。農薬としての使用は昭和46年以降中止されている。また、昭和56年10月には化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定された。DDTにはいくつかの異性体があるが、本調査においては殺虫剤の有効成分であるp,p'-DDTのほか、DDTの環境中での分解産物であるp,p'-DDD、p,p'-DDEの2種も含めて調査対象物質とし、モニタリングを行っている。
 検出状況は、p,p'-DDE、p,p'-DDD、p,p'-DDTがそれぞれ、0.13~25ng/g-dry(H10:0.28~41ng/g-dry)、0.13~7.6ng/g-dry(H10:0.22~5.5ng/g-dry)、1.8ng/g-dry(H10:0.28~5.7ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度はそれぞれ、18検体中10検体(H10:18検体中13検体)、18検体中7検体(H10:18検体中7検体)、18検体中2検体(H10:18検体中3検体)であった。

d) クロルデン類(trans-クロルデン、cis-クロルデン、trans-ノナクロル、cis-ノナクロル)
 クロルデン類は、木材(一次加工)用及び合板用に用いられたり、白アリ防除のために家屋等に使用されたりしたが、難分解性等の性状を有するため、昭和61年9月、化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定された。本調査では、クロルデン類8物質を調査対象として実施した昭和57年度精密環境調査の結果、特に検出頻度の高かった5物質を調査対象物質として選定したが、昭和61及び62年度において全く検出されなかったオキシクロルデンは、昭和63年度より調査対象物質からはずしている。
 検出状況は、trans-クロルデン、cis-クロルデン、trans-ノナクロル、cis-ノナクロルがそれぞれ、0.26~2.0ng/g-dry(H10:0.14~5.4ng/g-dry)、0.39~2.0ng/g-dry(H10:0.22~5.2ng/g-dry)、0.63~1.8ng/g-dry(H10:0.18~4.4ng/g-dry)、0.71~1.2ng/g-dry(H10:0.4~2ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度はそれぞれ、18検体中4検体(H10:18検体中10検体)、18検体中3検体(H10:18検体中6検体)、18検体中3検体(H10:18検体中7検体)、18検体中2検体(H10:18検体中4検体)であった。

e) ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)類(α-HCH、β-HCH)
 HCH類は、過去に農薬として使用されていたが、昭和46年以降使用が中止されている。本調査においては、α-HCH、β-HCHの2種の異性体についてモニタリングを行っている。
α-HCHは、検出されなかった(H10:検出範囲0.8ng/g-dry、検出頻度18検体中1検体)。β-HCHの検出範囲は、16ng/g-dry(H10:2.1ng/g-dry)、検出頻度は、18検体中1検体(H10:18検体中1検体)であった。

f) ジクロロベンゼン類(o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンン)
 ジクロロベンゼン類は、有機溶媒、殺虫剤及び染料の中間体等広い用途に用いられており、国内生産量1)は、26,351トン(平成10年)、27,203トン(平成9年)、22,870トン(平成8年)である。
 検出状況は、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼンがそれぞれ、0.26~32ng/g-dry(H10:0.50~45ng/g-dry)、0.2~12ng/g-dry(H10:0.2~10ng/g-dry)、1.2~130ng/g-dry(H10:1.1~73ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度はそれぞれ、18検体中14検体(H10:18検体中14検体)、18検体中6検体(H10:18検体中9検体)、18検体中15検体(H10:18検体中17検体)であった。

g) 2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)
 BHTは、酸化防止剤及びプラスチックの劣化防止剤等の用途に用いられている。
 検出状況は、0.93~76ng/g-dry(H10:0.2~97ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度は、18検体中8検体(H10:18検体中11検体)であった。

h) ターフェニル類(o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル)
 ターフェニル類は、熱媒体及びその原料として使用されている。
 検出状況は、o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニルがそれぞれ、0.34~13ng/g-dry(H10:0.30~19ng/g-dry)、0.57~95ng/g-dry(H10:0.63~180ng/g-dry)、0.25~55ng/g-dry(H10:0.11~110ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度はそれぞれ、18検体中4検体(H10:18検体中5検体)、18検体中10検体(H10:18検体中14検体)、18検体中8検体(H10:18検体中13検体)であった。

i) リン酸トリブチル
 リン酸トリブチルは、合成ゴムの可塑剤、金属の抽出溶媒及び製紙用・繊維加工用消泡剤等に用いられている。
 検出状況は、3.5~53ng/g-dry(H10:2.38~38ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度は、18検体中10検体(H10:18検体中10検体)であった。

j) ベンゾ[a]ピレン
  ベンゾ[a]ピレンは、石炭等の乾留で発生するほか、石油、石炭、木材等の燃焼過程で非意図的に生成される化学物質である。平成元年度に実施した環境調査の結果、水質からは検出されなかったが、底質からは高頻度で検出されたため、平成3年度から新たに調査対象物質とした。
 検出状況は、3.1~1700ng/g-dry(H10:4.6~2100ng/g-dry)の範囲で検出され、その検出頻度は、18検体中14検体(H10:18検体中15検体)であった。

4.参考文献

 1)通商産業省大臣官房調査統計部編,平成10年化学工業統計年報,(財)通商産業調査会  出版部,1999


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