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ナホトカ号油流出事故に係る魚介類重油成分等残留状況調査等結果概要
1. 調査目的
2. 調査の概要
3. 調査結果の概要
(a)n-パラフィン類
(b)ベンゼン
(c)ベンゾ(a)ピレン
(d)ジベンゾチオフェン
(e)バナジウム及びニッケル
(f)非イオン系界面活性剤
4. まとめ
平成9年1月2日に発生したロシア船籍ナホトカ号の遭難事故により流出した重油は、山形県から島根県にかけての日本海を漂流、広範囲の沿岸に漂着した。
このため、この周辺での重油含有成分の残留等による環境影響が懸念され、影響把握の一環として魚介類中の重油含有成分等に関しては次の2調査を実施したものである。
調査1:ナホトカ号油流出事故に係る魚介類重油成分等残留状況調査
調査2:ナホトカ号油流出事故に伴う浅海域への環境影響に関する緊急調査
1). 採取等地点
魚類、貝類の採取等地点としては、重油流出事故の直接的影響が懸念された鳥取県から山形県の日本海側9府県から、重油の漂着・接近等があった水質環境基準点付近を中心に地点を選定した。
また、当該地点の事故前のデータがないことから、今回の重油流出事故の直接的影響を受けていないと考えられる日本海側の地点を参考対照地点として選定した。
地点:
【調査1】山形県鼠ヶ関、新潟県上越市-名立町沖、富山県黒部川河口沖(魚類のみ)、石川県珠州市三崎町寺家地先、石川県輪島市町野町大川地先、福井県立石岬、京都府浜詰地先、兵庫県香住、鳥取県岩美町浦富地先、島根県隠岐・黒石灯台(貝類のみ)、島根県島根半島、
島根県浜田市沖(参考対照地点)、山口県萩沖(参考対照地点、魚類のみ)、山口市長門港(参考対照地点、貝類のみ)
【調査2】
2). 調査時期
【調査1】平成9年2月27日 ~ 3月27日
【調査2】平成9年3月14日、20日
3). 調査項目
(1)調査対象生物
魚類:スズキ、カレイ類(マガレイ、マコガレイ、メイタガレイ)、カサゴ
貝類:ムラサキイガイ、ムラサキインコガイ、サザエ
注1)各地点の調査検体数は、魚類1検体又は貝類1検体である。
注2)各地点では、上記の何れかの魚類1種類又は貝類1種類を採取し、各々複数個体を1検体として分析に供した。
注3)魚類は「可食部」、貝類は「むき身」を分析に使用した。
(2)調査物質及び分析方法
重油成分等である次の物質:
n-パラフィン類C8~C28( GC/MS法 )、ベンゼン( GC/MS法 )、
ベンゾ(a)ピレン( GC/MS法 )、ジベンゾチオフェン( GC/MS法 )、
バナジウム( ICP/MS法 )、ニッケル( ICP/MS法 )、
非イオン系界面活性剤( GC/FID法 )
4). 調査体制
試料採取、分析は、民間分析機関等に委託し実施した。
3. 調査結果の概要(調査1及び調査2をまとめて)
(a) n-パラフィン類
(1) n-パラフィン類の総量として、魚類から0.064~0.333 mg/kg(wet)、貝類から0.175~1.40 mg/kg(wet)の範囲で検出された。また、参考対照地点で採取された魚類、貝類からは、検出範囲0.042~0.102 mg/kg(wet)、0.075~0.421 mg/kg(wet)(「山口県長門港」の値は除く。)で検出された。
(2) 最高検出値は、参考対照地点の「山口県長門港」の貝類で276 mg/kg(wet)であったが、これは漁船の燃料等の何らかの影響を直前に受けたものと考えられる。
(b) ベンゼン
(1) 魚類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(2) 貝類については、「石川県町野町大川地先」、「石川県加賀市沖」、「福井県三国町沖」、「島根県島根半島」及び参考対照地点の「山口県長門港」の5地点で検出された。検出濃度はいずれも0.01 mg/kg(wet)であった。
(3) 環境庁が昭和61年度に行った化学物質環境安全性総点検調査では、全国の一般環境中で採取された魚類の114検体中37検体から検出され 、検出範囲 は、0.003~0.088 mg/kg(wet)であった。今回の結果はこの範囲内であり、検出濃度レベルは特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(c) ベンゾ(a)ピレン
(1) 魚類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(2) 貝類については、参考対照地点で検出されなかったが、「新潟県上越市-名立町沖」、「石川県町野町大川地先」、「石川県加賀市沖」及び「福井県三国町沖」の4地点で検出された。検出範囲は0.001 ~ 0.097 mg/kg(wet)であった。
(3) 環境庁が平成元年度に行った化学物質環境安全性総点検調査では、全国の一般環境中で採取された魚類の123検体中1検体から0.008 mg/kg・wetで検出されており、「新潟県上越市-名立町沖」以外の今回の結果の検出濃度レベルは必ずしも低い状況とは言えないと考えられる。
(d) ジベンゾチオフェン
(1) 魚類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(2) 貝類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(e) バナジウム及びニッケル
(1) 魚類については、両物質とも参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(2) 貝類については、参考対照地点を含め両物質ともほとんどの地点から検出され、バナジウムは0.3~2.3 mg/kg(wet)、ニッケルは0.2~5.8 mg/kg(wet)の範囲で検出された。
(3) 自然界の魚介類はこれらの物質を通常微量含有し、生物種によりばらつきがあることが知られており、今回の検出濃度レベルは特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(f) 非イオン系界面活性剤
(1) 魚類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
(2) 貝類については、参考対照地点を含め全ての地点で検出されなかった。
1. 採取された魚類については、3月の時点で今回の重油流出事故に伴う流出重油の影響は明確には認められないと考えられる。
2. 採取された貝類については、3月の時点で「石川県町野町大川地先」、「石川県加賀市沖」及び「福井県三国町沖」の調査地点で、ベンゼン、ベンゾ(a)ピレン等の複数の物質が検出されており、この付近で今回の重油流出事故に伴う流出重油の影響の可能性が考えられる。