1.調査目的
2.ダイオキシン類のモニタリング調査
3.PCBsのモニタリング調査
図表一覧
化学物質の合成過程,燃焼過程などで非意図的に生成される化学物質による環境汚染が問題となったことから,環境庁では昭和60年度から一般環境中における非意図的生成化学物質の環境残留性を把握することを目的として「有害化学物質汚染実態追跡調査」を開始し,平成5年度からは調査名を「非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査」と改め,引き続き調査を実施している。
平成8年度は,昭和60年度から継続して実施しているダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称。)のモニタリング調査並びにPCBs(ポリ塩化ビフェニル)に関してその総量及びコプラナーPCBs(オルト位に置換塩素を持たない扁平構造のPCB)の環境調査を実施した。
その結果の概要は以下のとおりである。
(1) 調査の概要
PCDD:13種類
4塩化物(2378-,1368-,1379-,他)
5塩化物(12378-,他)
6塩化物(123478-,123678-,123789-,他)
7塩化物(1234678-,他)
8塩化物(OCTA)
PCDF:15種類
4塩化物(2378-,1368-,他)
5塩化物(12378-,23478-,他)
6塩化物(123478-,123678-,123789-,234678-,他)
7塩化物(1234678-,1234789-,他)
8塩化物(OCTA)
(b) 調査対象媒体
底質,生物(魚類)
(c) 調査対象地域数(図1)及び検体数
同一地点で各1検体を採取した。
河川(12地域): 底質13検体,魚類13検体
湖沼( 3地域): 底質 5検体,魚類4検体
海域(11地域): 底質18検体,魚類18検体
(d) 分析方法(図2及び図3)
ガスクロマトグラフ/質量分析計(以下GC/MSと記す)を用いたSIM法により分析した。
平成8年度調査では,平成7年度調査迄の検出限界より感度が高い方法で分析を実施し,検出限界は,塩素数4及び5のPCDD及びPCDFの測定で0.0001ng/g,塩素数6及び7のPCDD及びPCDFの測定で0.0002ng/g,塩素数8のPCDD及びPCDFの測定で0.0005ng/gである。
(2) 調査結果
調査結果を表1~表6に示した。
ダイオキシン類として,2,3,7,8-TCDD当量濃度(各種PCDD及びPCDFの物質の毒性の強さを2,3,7,8-TCDDを基準に換算した濃度)を用いて表示する方法が一般的になっている。2,3,7,8-TCDD当量濃度への換算に用いる毒性等価ファクター(I-TEF)を表7に示した。平成8年度の調査結果を2,3,7,8-TCDD当量濃度に換算した結果(平成7年度調査結果と同様,検出限界以下[nd]を0として計算)を表8に示した。
概要は以下のとおりである。
(PCDD)
(a) 底質では,2,3,7,8-TCDDを除き,高い頻度で検出されている。特に湖沼及び海域での検出頻度が高い。2,3,7,8-TCDDについても,海域においては,河川及び湖沼に比べて高い割合で検出されている。
生物では,1,3,6,8-TCDD,1,2,3,7,8-PentaCDD及び1,2,3,4,6,7,8-HeptaCDDが高い頻度で検出されている。2,3,7,8-TCDD及びOctaCDDについても検出されている。
(b) 検出範囲は,底質で0.0001~20ng/g(平成7年度:0.001~17ng/g),生物で0.0001~0.065ng/g(平成7年度:0.001~0.062ng/g)であった。
(c) 2,3,7,8-TCDDの検出状況は,底質では26地域中9地域,36検体中16検体,検出範囲0.0001~0.0041ng/gであった。生物では26地域中18地域,35検体中25検体,検出範囲0.0001~0.0005ng/gであった。
平成元年度からの経年変化(表2)を見ると,平成4年度に生物で検出が無かった以外も検出頻度は低いレベルで推移していた。今回の調査では検出頻度が高くなっているが,平成7年度までの調査に比べ検出限界が下がったことから検出頻度が高くなったものと推察される。
なお,検出限界を平成7年度までの調査と同じとした場合,平成元年度からの経年変化を見ると,平成8年度における状況が以前と比べて大きく変化したとは認められない。
(PCDF)
a) 底質では,いずれの物質についても,高い頻度で検出されている。特に湖沼及び海域での検出頻度が高い。1,2,3,7,8,9-HexaCDFは若干低い。
生物では,TCDF,PentaCDF及び1,2,3,4,6,7,8-HeptaCDFが高い頻度で検出されているがそれ以外の物質の検出頻度は低い。
b) 検出範囲は,底質で0.0001~1.6ng/g(平成7年度:0.001~1.2ng/g),生物で0.0001~0.0033ng/g(平成7年度:0.001~0.017ng/g)であった。
c) 2,3,7,8-TCDFの検出状況は,底質では26地域中20地域,36検体中29検体,検出範囲0.0002~0.014ng/gであった。生物では26地域中25地域,35検体中33検体,検出範囲0.0001~0.0027ng/gであった。
平成元年度からの経年変化(表2)を見ると,平成2年度に生物で検出頻度が高くなっているが,それ以後はほぼ同じレベルで推移していた。今回の調査では検出頻度が高くなっているが,平成7年度までの調査に比べ検出限界が下がったことから検出頻度が高くなったものと推察される。
なお,検出限界を平成7年度までの調査と同じとした場合,平成元年度からの経年変化を見ると,平成8年度における状況が以前と比べて大きく変化したとは認められない。
(3) 調査結果の評価(平成9年12月25日,中央環境審議会環境保健部会化学物質専門委員会)
ダイオキシン類の一般環境への汚染状況は,前年度までの調査結果と比較して大きく変化したとは認められないが,環境中から広範囲に検出されているため,今後とも引き続きその汚染状況の推移を追跡して監視していくことが必要である。
また,ダイオキシン類の発生源や環境中挙動などの汚染機構の解明に努めるほか,内分泌攪乱物質に係わる情報を含め,毒性関連知見の収集に努めることも必要である。
(1) 調査の概要
a) 調査対象物質
3,4,3',4'-テトラクロロビフェニル(3,4,3',4'-TetraCB)
3,4,5,3',4'-ペンタクロロビフェニル(3,4,5,3',4'-PentaCB)
3,4,5,3',4',5'-ヘキサクロロビフェニル(3,4,5,3',4',5'-HexaCB)
Total-PCBs
b) 調査対象媒体
c) 調査対象地域数(図1)及び検体数
河川(12地域): 底質13検体,魚類13検体
湖沼( 3地域): 底質 5検体,魚類 4検体
海域(11地域): 底質18検体,魚類18検体
d) 分析方法等
コプラナーPCBs : GC/MSを用いたSIM法
Total-PCBs: GC(ECD)を用いた係数化法
平成8年度調査の検出限界は平成7年度調査までと同じであり,
コプラナーPCBsの測定で0.001ng/g,Total-PCBsの測定で10ng/gである。
(2) 調査結果
調査結果を表9に示した。概要は以下のとおりである。
a) 底質では,3,4,3',4'-TetraCBが26地域中25地域,36検体中35検体,検出範囲0.001~6.7ng/g(平成7年度:3地域中2地域,3検体中2検体,検出範囲0.18~5.2ng/g),3,4,5,3',4'-PentaCBが26地域中19地域,36検体中29検体,検出範囲0.002~0.14ng/g(平成7年度:3地域中2地域,3検体中2検体,検出範囲0.010~0.11ng/g),3,4,5,3',4',5'-HexaCBが26地域中11地域,36検体中18検体,検出範囲0.001~0.009ng/g(平成7年度:3地域中2地域,3検体中2検体,検出範囲0.002~0.011ng/g)で検出された。
b) 生物では3,4,3',4'-TetraCBが26地域中26地域,35検体中35検体,検出範囲0.003~0.48ng/g(平成7年度:3地域中3地域,3検体中3検体,検出範囲0.023~0.87ng/g),3,4,5,3',4'-PentaCBが26地域中25地域,35検体中34検体,検出範囲0.002~0.053ng/g(平成7年度:3地域中3地域,3検体中3検体,検出範囲0.009~0.11ng/g),3,4,5,3',4',5'-HexaCBが26地域中13地域,35検体中18検体,検出範囲0.001~0.012ng/g(平成7年度:3地域中2地域,3検体中2検体,検出範囲0.010~0.011ng/g)で検出された。
c) Total-PCBsは,底質では26地域中9地域,36検体中16検体,検出範囲10~340ng/g(平成7年度:3地域中2地域,3検体中2検体,検出範囲80~330ng/g),生物では26地域中14地域,35検体中22検体,検出範囲10~250ng/g(平成7年度:3地域中3地域,3検体中3検体,検出範囲20~740ng/g)で検出された。
(3) 調査結果の評価(平成9年12月25日,中央環境審議会環境保健部会化学物質専門委員会)
コプラナーPCBsの環境残留は,主にPCB製品からの環境放出に由来すると考えられており,PCBは,既に昭和47年に使用が中止され,昭和49年6月には「化学物質審査規制法」に基づく第1種特定化学物質に指定されるとともに,平成4年7月には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づく特別管理産業廃棄物に指定されていることから,その汚染の拡大の可能性は少ないと考えられる。
平成8年度は調査地点を増やした結果,コプラナーPCBsは,環境中に広範囲に残留しており,一部の地点で高濃度の検出がみられることから,今後とも引き続き汚染状況を調査し,その推移を追跡して監視することが必要である。