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平成17年度「化学物質と環境」目次へ

化学物質対策の国際的動向

1. 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ
2. 国連環境計画(UNEP)の活動
3. 国際連合(UN)の活動(化学品の分類および表示に関する世界調和システム
4. 経済協力開発機構(OECD)の化学物質対策

 

1. 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ

2006年、国際化学物質管理会議において、「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」(SAICM)が採択された。以下、1992年のアジェンダ21に始まりSAICMの採択へと続く、世界規模での化学物質管理の動きについて概観する。
 
1) アジェンダ21
(1) 1992年にブラジルのリオ・デジャネイロにて開催された環境と開発のための国連会議において、21世紀に向けて人類が地球上の他の生物とともに繁栄を続けていくために必要な行動計画として、アジェンダ21が採択された。
(2) アジェンダ21は、社会・経済的な側面から持続可能な開発の促進のための国際協力と国内政策について横断的に示したセクションⅠと、環境上の課題別に取組の方向性を示したセクションⅡ、社会の構成員別の役割を示したセクションⅢ、そして資金、技術移転、科学、教育等の実施手段を示したセクションⅣからなる。
(3) 有害性がある化学物質の環境上適正な管理については、セクションⅡの第19章「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」に記載されており、そこでは以下の6つのプログラム分野が示された。
 ・ 化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進
 ・ 化学物質の分類と表示の調和
 ・ 有害化学物質および化学的リスクに関する情報交換
 ・ リスク低減計画の策定
 ・ 化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化
 ・ 有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止
 
2) 化学物質の安全に関する政府間フォーラム(IFCS)
(1) 1992年リオ・デジャネイロで開催された環境と開発のための国連会議により採択された行動計画「アジェンダ21」の第19章「化学物質の環境適正管理と不法流通の防止」の実施を促進するため、1994年、政府間のフォーラム「Intergovernmental Forum on Chemical Safety」が発足。2000年のIFCS第3回会合において、各国政府が優先すべき行動事項として「2000年以降の優先行動計画」が合意され、これに基づき、参加者が共同して取り組むことを宣言した「バイア宣言」が採択された。「バイア宣言」では、「2000年以降の優先行動計画」に基づき、項目ごとに達成目標年限を設定した。
(2) 「2000年以降の優先行動計画」では、アジェンダ21第19章の6つのプログラムのそれぞれについて、優先的に取り組むべき行動が議論され、その結果、優先的に取り組むべき行動に関する決議がされた。
 
3) 持続可能な開発に関する世界首脳会議のための実施計画
(1) 2002年に南アフリカのヨハネスブルグにて開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議において、持続可能な開発を進めるための各国の指針となる包括的文書として、持続可能な開発に関する世界首脳会議のための実施計画(通称ヨハネスブルグ実施計画)が採択された。
(2) 化学物質関連については、ヨハネスブルグ実施計画の23段落において以下のように記載されている。
23.持続可能な開発と人々の健康と環境の保護のために、ライフサイクルを考慮に入れた化学物質と有害廃棄物の健全な管理のためのアジェンダ21で促進されている約束を新たにする。とりわけ、環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することを目指す。また技術及び資金協力を行うことにより、開発途上国が化学物質及び有害廃棄物の適正な管理を行う能力を高めることを支援する。これは、あらゆるレベルにおける以下の行動を含む。
(a) 国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約が2003年までに発効することが可能となり、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が2004年までに発効することが可能となるように、これらを含む化学物質と有害廃棄物に関する関係国際文書の批准と実施を促進するとともに、これらの実施に際して開発途上国を支援するとともに、調整を促進し、改善すること。
(b) 化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)によるバイア宣言及び2000年以降の優先行動事項に基づき、2005年までに国際化学物質管理への戦略的アプローチを更に発展させること、また、このために国連環境計画(UNEP)、IFCS、化学物質の管理に携わるその他の国際機関、その他関係国際機関及び主体が、適切な形で、緊密に協力するよう促すこと。
(c) 化学物質の分類及び表示に関する新たな世界的に調和されたシステム(GHS)を2008年までに完全に機能させるよう、各国に対し同システムを可能な限り早期に実施するよう促すこと。
(d) 化学物質及び有害廃棄物の環境上適正な管理を向上させ、環境関連の多国間協定を実施し、化学物質及び有害廃棄物に関連する諸問題についての人々の意識を高め、更なる科学的データの収集と利用を促進することを目的とし、そのための活動を促進するためのパートナーシップを促進すること。
(e) 有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約等の関係国際文書に基づく義務と合致する形で、有害化学物質と有害廃棄物の国際的不法取引を防止し、有害廃棄物の国境を越える移動と処分により生ずる損害を防止するための努力を促進すること。
(f) 国内におけるPRTR制度(我が国では化学物質排出移動量届出制度)のような、化学物質に関する一貫し統合された情報の取得を促すこと。
(g) 水銀とその化合物に関するUNEPのグローバル・アセスメントなどの関係する研究をレヴューすること等を通じて、人の健康と環境に害を及ぼす重金属によるリスクの軽減を促進すること。
 
4) 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ
  (Strategic Approach for International Chemical Management:通称SAICM)(http://www.chem.unep.ch/saicm/)
(1) 1990年代中頃からの、化学物質によるリスクを削減するための新たな手法の必要性や、化学物質に関する国際的な活動をより調和のとれ効率のよいものとすべきとする議論等を踏まえ、2002年2月の第7回国連環境計画(UNEP)管理理事会特別会合において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)が必要と決議された。
それに引き続き、2002年のヨハネスブルグサミットで採択されたヨハネスブルグ実施計画において、2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指すこととされ、そのための行動の一つとして、SAICMを2005年末までにとりまとめることとされた。
(2) SAICM策定に向けた具体的な議論は、UNEPを事務局として、UNEP、IFCS及びIOMC共催の3回にわたる準備会合と、国連5地域における地域別会合等において進められた。準備会合は、2003年11月にバンコクで、2004年10月にナイロビで、2005年9月にウィーンで開催された。また、2005年5月、バンコクアジア太平洋地域会合が開催された。これらの会合を通じてSAICMの原案がとりまとめられ、2006年2月、ドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)において、最終的な交渉が行われ、SAICMが採択された。その後、同月のUNEP管理理事会特別会合において、SAICMがUNEPとして承認された。
(3) SAICMの構成文書は以下のとおりとなっている。
ハイレベル宣言(High-Level Declaration)
2020年までに化学物質が健康や環境への影響を最小とする方法で生産・使用されるようにすることを目標に掲げた、30項目からなる政治宣言文。
包括的方針戦略(Overarching Policy Strategy)
SAICMの対象範囲、必要性、目的、財政的事項、原則とアプローチ、実施と進捗の評価について記述した文書。
世界行動計画(Global Plan of Action)
SAICMの目的を達成するために関係者がとりうる行動についてのガイダンス文書として、273の行動項目をリストアップしたもの。
(4) 今後、世界保健機関(WHO)や国際労働機関(ILO)などの関連国際機関にも、承認のため提出される。また、SAICMのフォローアップのため、国際化学物質管理会議が2009年、2012年、2015年、2020年に開催されることとなっている。
 

2. 国連環境計画(UNEP)の活動

(1) 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(通称POPs条約)(http://www.pops.int/)
毒性、難分解性、生物蓄積性及び長距離移動性を有するPCB、DDT、 ダイオキシン等のPOPs(Persistent Organic Pollutants)については、一部の国々の取組のみでは地球環境汚染の防止には不十分であり、国際的に協調してPOPs の廃絶、削減等を行う必要から、2001年5月、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」が採択された。
条約の発効には50ケ国の締結が必要であり、2004年5月17日に発効した。我が国は、2002年8月30日に条約に加入している。
<主な経緯>
 1992年のアジェンダ21を受けて1995年にUNEP が開催した政府間会合において、「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画」(以下「世界行動計画」という。)が採択された。この世界行動計画により、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の12物質(PCBs、DDT等)について、国際的に排出・流出の低減等を図るため、法的拘束力のある文書(条約・協定等)の策定を行うことが求められ、UNEP管理理事会において2000年までに行うことが望ましいとされた。これを受け、UNEPが中心となり、1998から2000年までの間に、5回に及ぶ政府間交渉会議が開催された後、2001年5月にストックホルム(スウェーデン)で開催された外交会議において条約が採択された。2005年11月より、POPs検討委員会が設置され、現在の12物質以外に条約対象物質として追加すべき物質について検討が始まった。
<条約の概要>
1. 目的
 リオ宣言第 15原則に掲げられた予防的取組方法に留意し、残留性有機汚染物質に対して、人の健康の保護及び環境の保全を図る。
2. 対策手法
 ① 製造、使用の原則禁止(アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、
   マイレックス、トキサフェン、PCB)及び原則制限(DDT)
 ② 非意図的生成物質の排出の削減(ダイオキシン・ジベンゾフラン、ヘキサクロロベンゼン、PCB)
 ③ POPsを含有する在庫・廃棄物の適正管理及び処理
 ④ これらの対策に関する国内実施計画の策定
 ⑤ その他の措置
   ・ 新規POPsの製造、使用を防止するための措置
   ・ POPsに関する調査研究、モニタリング、情報提供、教育等
   ・ 途上国に対する技術・資金援助の実施
 
2) 国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての
  事前のかつ情報に基づく同意の手続きに関するロッテルダム条約(通称PIC条約)(http://www.pic.int/)
PIC(Prior Informed Consent:事前通報同意)手続きとは、工業用化学品や駆除剤の国際貿易において、あらかじめ輸入国の輸入に係る同意を確認した上で取引を進めるための手続きであり、先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害な化学物質が、発展途上国にむやみに輸出されることを防ぐためのものである。従来、PIC手続きは、化学品については「ロンドンガイドライン」において、農薬についてはFAOの「コード・オブ・コンタクト」において、ボランタリーベースで進められていたが、1995年の第18回UNEP管理理事会において、PICの条約化のための検討を進めることが決定された。
その後、5回にわたる条約化交渉を経て、1998年9月にロッテルダムに於いて「国際貿易における有害化学品及び農薬の事前通報・合意手続き条約」が採択された。条約の発効には50ケ国の締結が必要であり、2004年2月24日に発効した。我が国は、1999年8月にこの条約に署名、2004年6月に締結しており、2004年9月には我が国において効力が発生している。
<主な経緯>
(1) 1987年6月、UNEP において、有害化学物質事前通報を内容とする「国際貿易における化学物質の情報交換に関するロンドンガイドライン」が採択された後、1989年5月、UNEPにおいて、輸出事前通報・承認制度(PIC)の実施等を規定する改正ロンドンガイドラインが採択された。
当面の措置として、10カ国以上で禁止あるいは厳重に規制されている物質について、IRPTCが禁止事項を加盟国に通告し、各国は、当該化学物質の輸入を禁止するか否かを決定し、IRPTCがこれを輸出国に伝えることとされた。
(2) 1991年5月の第16回UNEP管理理事会において、改正ロンドンガイドラインの法的基盤の強化等の緊急課題に取り組むための専門家会合の召集が執行部に要請された。
(3) 1992年6月にはアジェンダ21第19章において、2000年までに法的拘束力のある文書を通じたPIC手続きへの参加と実施の達成が目標として掲げられ、我が国においては、1992年7月の輸出貿易管理令の改正により、ロンドンガイドライン対応体制が整備された。
(4) 1995年5月には、第18回UNEP管理理事会で勧告がなされ、PIC条約化のための条約交渉会合を1997年早期に開催することが事務局に要請された。これを受け、1996年から5度に渡る条約交渉会合を経て、1998年9月にオランダ・ロッテルダムで開催された外交会議において条約が採択された。
<条約の内容>
(1) 締約国は、附属書に掲載されている化学物質および駆除剤の輸入に同意するかどうかを事前に事務局に通報し事務局はこの情報をすべての締約国に伝える(PIC回覧状)。輸出締約国はこれを自国内の関係者に伝えるとともに、自国内の輸出者が輸入締約国による決定に従うことを確保するための措置を取る。
(2) 締約国は、ある物質について国内で使用を禁止又は厳しく制限した場合、その旨を事務局に通報する。事務局は、複数の地域から上記の通報を受け取った場合、附属書に掲載する物質に追加するかどうか専門家から構成される委員会で検討の上、締約国会議で決定する。
(3) 締約国である開発途上国等は、危険な物質によって問題が起きた場合、附属書に掲載する物質への追加を事務局に提案する。事務局はこの情報を全ての締約国に伝えるとともに、附属書に掲載するかどうかを委員会で決定する。
(4) 締約国は、自国において使用を禁止又は厳しく制限している化学物質および駆除剤を輸出しようとする場合は、毎年、輸入国に必要な情報を添付した輸出通知を行う。
(5) 締約国には、附属書に掲載された物質や、自国で使用を禁止又は厳しく制限している物質を輸出する場合、人の健康や環境への有害性・危険性に関するラベルや安全性データシートの添付が求められる。
(6) その他、化学物質の有害性等に関する情報交換、技術援助などを進める。
 
3) その他のUNEPにおける化学物質対策
(http://www.unep.org/themes/chemicals/)
UNEP(国連環境計画:United Nations Environment Programme)においては、①化学物質の人及び環境への影響に関する既存の情報を国際的に収集・蓄積すること、②化学物質の各国の規制に係る諸情報を提供すること等の目的で、国際有害化学物質登録制度(IRPTC)が実施されていた。現在、IRPTC事務所はUNEP化学品課(UNEP Chemicals Branch)(http://www.unep.org/themes/chemicals/) と改称され、OECD、WHOなど他の国際機関とも連携しつつ、地球的規模の化学物質汚染問題に取り組んでいる。 UNEPの化学品に関する主な事業には、POPs対策に関するキャパシティビルディング、水銀・鉛・カドミウム等の重金属プログラムがある。また、上述のSAICMの事務局も、UNEP化学品課が務めている。
なお、UNEPは、上記のPOPs条約、PIC条約のほか、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の締結・履行についても主導的な役割を果たしている。
 

3. 国際連合(UN)の活動(化学品の分類および表示に関する世界調和システム
  (Globally Harmonized System、通称GHS))
  (http://www.unece.org/trans/danger/publi/ghs/ghs_welcome_e.html)

1) GHSの検討の経緯
UNEP(国連環境計画:United Nations Environment Programme)においては、①化学物質の人及び環境への影響に関する既存の情報を国際的に収集・蓄積すること、②化学物質の各国の規制に係る諸情報を提供すること等の目的で、国際有害化学物質登録制度(IRPTC)が実施されていた。現在、IRPTC事務所はUNEP化学品課(UNEP Chemicals Branch)(http://www.unep.org/themes/chemicals/) と改称され、OECD、WHOなど他の国際機関とも連携しつつ、地球的規模の化学物質汚染問題に取り組んでいる。 UNEPの化学品に関する主な事業には、POPs対策に関するキャパシティビルディング、水銀・鉛・カドミウム等の重金属プログラムがある。また、上述のSAICMの事務局も、UNEP化学品課が務めている。
なお、UNEPは、上記のPOPs条約、PIC条約のほか、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の締結・履行についても主導的な役割を果たしている。
(1) 化学物質の有害性による分類や表示方法は、国や地域、化学物質のタイプ(工業化学物質、農薬など)、製品ライフステージ(製造・運搬・使用等)により異なっており、人の健康保護や環境保全の観点から不適当であるため、1992年に採択されたアジェンダ21では、地球的規模で調和のとれた有害性の分類と互換性のあるラベリングシステム(化学品安全シート(MSDS)と理解の容易な記号の表示を含む)を2000年までに利用できるようにすることが国際的な目標として決定された
(2) 国連危険物輸送専門委員会(UNCETDG)が爆発性などの物理化学的性状の有害性分類を、OECDが毒性(急性毒性、皮膚刺激性・腐食性、目刺激性・腐食性、呼吸器又は皮膚感作性、変異原性、発ガン性、生殖毒性、標的臓器毒性)や生態毒性(水環境)の有害性分類を、国際労働機関(ILO)がハザードコミュニケーション(ラベル及びMSDS)を検討している。
(3) GHSは国連勧告として出版され、順次各国・地域の法規制等に取り込まれていくが、ヨハネスブルグサミットおよび化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)では2008年までの完全実施を目標としている。また、APEC諸国においては2006年までの実施を目標としている。
 
2) GHSの内容
(1) GHS国連勧告は、序、物理化学的危険性、健康および環境に対する有害性の3章からなる本文と、9つの附属書から構成される。
(2) GHSでは、火薬類や引火性/可燃性ガス等の16種類の物理化学的危険性と、急性毒性や皮膚腐食性/刺激性等および水生環境有害性の10種類の健康および環境に対する有害性について、それぞれ分類基準を定め、それぞれの分類に応じて、下図のような絵表示を含む表示を行うシステムが提案されている。各国は、自主的にこれらの分類基準に沿った分類および対応する表示を導入することが求められている

引火性ガス/可燃性ガス
引火性エアゾール
引火性液体、可燃性固体
自己反応性化学品、自然発火性液体
自然発火性固体、自己発熱性化学品
水反応可燃性化学品
 

火薬類、自己反応性化学品
有機過酸化物

高圧ガス

急性毒性(高毒性)

呼吸器感作性、生殖細胞変異原性
発がん性、生殖毒性
特定標的臓器/全身毒性(単回暴露)
特定標的臓器/全身毒性(反復暴露)
吸引性呼吸器有害性

 

急性毒性(低毒性)、皮膚刺激性
眼刺激性、皮膚感作性

水生環境有害性

金属腐食性物質
皮膚腐食性/刺激性
呼吸器感作性または皮膚感作性
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性


 

酸化性ガス、酸化性液体
酸化性固体、有機過酸化物

 

4. 経済協力開発機構(OECD)の化学物質対策

1) OECDの環境保健安全プログラムの概要
(1) OECD(経済協力開発機構)は、1960年に西側自由主義先進諸国が、経済成長、自由貿易等各国に共通の問題を討議するために設立したもので、パリ(フランス)に本部を置いている。現在30ケ国が加盟しており、我が国は、1964年に加盟している。
最高議決機関は、OECD理事会であり、その下に現在、環境政策委員会等の委員会が設置されている。
(2) OECD環境政策委員会は、1970年7月に環境問題への関心の高まりを受けて、科学政策委員会から環境委員会として独立し、1992年に環境政策委員会に改名された。1971年、同委員会の下に化学品グループ設置され、化学品試験法の検討などの活動が開始された。
(3) さらに、我が国の化審法、米国TSCA、EC6次指令などの各国の化学物質規制に関する法律制定の動きに対応して、特別なプログラムを実施する必要性がでてきたことから、1978年、各国からの特別の出資による「化学品規制特別プログラム」が開始され、その運営のための「管理委員会」が設置された。管理委員会は、化学品グループと密接な協調のもとで作業を行うこととされており、1983年以降、「化学品グループ/管理委員会合同会合」が、化学品プログラムの推進、調整を行う機関となった。
(4) その後、農薬問題や新しいバイオテクノロジーに関する分野にも対応するため、「化学品グループ」は「化学品・農薬・バイオテクノロジー分科会」と改名された。また、「管理委員会」も「化学品委員会」に再編された。その活動全体を「環境保健安全プログラム」(Environment,Health and Safety Programme)(http://www.oecd.org/ehs/)と呼ぶようになり、現在に至っている。同プログラムの概要を説明した日本語版のパンフレットが、環境省のウェブサイトからダウンロードできる。
(http://www.env.go.jp/chemi/oecd_programme/oecd_programme.html)
(5) また、2020年までの化学産業の経済面及び環境面の将来動向や予測をまとめた「化学産業の環境アウトルック」(OECD Environmental Outlook for the Chemicals Industry)が、2001年4月に公表されている
(6) 最近の環境保健安全プログラムの活動は、以下の構成となっている。
 ① 国際的調和と役割分担
   ・ テストガイドライン
   ・ 優良試験所基準
   ・ 非加盟国の参加
   ・ 新規化学品
   ・ 既存化学品
   ・ 有害性の分類と表示
 ② 意思決定のためのツール
   ・ リスク評価
   ・ リスク管理
 ③ 関連プログラム
   ・ 農薬
   ・ 化学品事故
   ・ PRTR
   ・ バイオテクノロジーの安全性
 
2) 各プログラムの取組
(1) テストガイドラインと優良試験所基準(GLP)
OECDテストガイドラインは、個々の化学物質の有害性を評価するために用いる方法を規定したもので、人の健康、生態系への影響、環境中での蓄積と分解性などについて、様々な試験方法が定められている。現在、内分泌攪乱化学物質に関する試験方法が検討されているほか、動物実験の削減に向けた取組が進められている。
一方、優良試験所基準は、テストガイドラインを補うもので、試験所における管理、試験実施、報告などに関する基準を設定している。
データの相互受入に関する1981年OECD理事会決定により、他の国で作成された試験データがテストガイドライン及び優良試験所基準に従ったものであれば、OECD加盟国はそのデータを受け入れるよう求められている。
(2) 非加盟国の参加
(3) 新規化学品
新規化学物質の届出プロセスを改善し、各国が協力して活動できるよう支援することが新規化学物質プログラムの焦点となっており、新規化学物質に関する情報や評価結果の共有を目的とする二国間協定の締結の推進、届出様式の標準化などの活動が行われている。
(4) 既存化学品
既存化学物質は、新規化学物質と比較して、数量とも圧倒的に多いにもかかわらず、新規化学物質ほど有害性の評価が十分になされていないまま利用されていることから、リスク評価の加速化が急務となっている。このため、OECD加盟国が協調して取組を進めている。現在行われている活動は以下のとおり。
① HPV(高生産量)化学物質プログラム
既存化学物質の環境に対する影響を評価するに当たっては、高生産量の化学物質に焦点をあてるのが効率的であるため、世界的に高生産量の化学物質について協力してデータを収集し、その環境安全性の評価を行うことを目的として開始された。
OECDの現在の高生産量化学物質の定義は「1カ国以上で1,000トン/年以上製造又は輸入されている物質」であり、2004年版のリストには、4,843物質が掲載されている。
リスクアセスメントの加速化が世界的な要請になっていることを鑑み、OECDでは高生産量化学物質の初期評価をリスク評価から有害性評価に限定しており、評価に用いるマニュアルはhttp://www.oecd.org/env/existingchemicalsからダウンロードできる。また、産業界の協力も得て評価の速度を早めることが検討されている。
② クリアリングハウス
懸念のある特定の化学物質に関する共同作業の可能性をより詳細に調べるために、加盟各国は自主的に自国が関心を持つ化学品に関して先導的な立場をとり、中心的な機関(クリアリングハウス)として機能し、当該化学物質に関する各国の情報を集約、交換する活動を行っている。クリアリングハウスは、加盟国が共通の関心を持つ課題や化学物質について、ボランティア国が情報収集、交換のセンターとして活動を行おうとするものであり、集められたデータは、リスク管理の推進やIPCSの環境保健クライテリアの作成にも役立っている。
③ EXICHEM及びHPVデータベース
EXICHEMデータベース((http://www.olis.oecd.org/exichem.nsf))の目的は、加盟各国が特定の既存化学物質を調査する上での協力の機会をつくりやすくすること及び関心を有する国々がそれぞれの活動について情報交換、交渉をしやすくすることにある。従って、本データベースの利用により各国政府、機関が個々に実施している安全性点検などの情報をOECDに集約することができ、安全性試験の重複を防ぐとともに同一物質の安全性評価対策における協力関係を促進にも役立っている。
具体的には、各レコードには各々の窓口(フォーカルポイント) が記載されており、手紙、ファックスや電子メールで情報交換が出来るシステムとなっている。加盟国は、特定の化学物質に関する進行中又は計画中の活動についての情報を毎年このデータベースに提供する。データの更新は各国のEXICHEMコーディネーターを通じて年1回行われる。
また、高生産量化学物質の評価結果その他の関連情報は、HPVデータベース(http://cs3-hq.oecd.org/scripts/hpv/)に整理されている。
(5) 有害性の分類と表示
2003年7月、国連において、化学品の分類と調和に関する世界調和システム(Globally Harmonized System:GHS)が2003年7月に勧告された(後述)。OECDは、化学物質の人の健康及び環境影響に関する有害性の分類方法の、技術的フォーカルポイントとして取り組んできている。OECDにおいて合意された有害性項目の分類方法については、他のILO、UNCETDGにおける検討結果とともに、国連経済社会理事会に新たに設置された常設委員会(GHS小委員会)において検討される。
(6) リスク評価
工業化学物質や農薬のリスク評価方法の作成・調和に向けた取組が進められている。工業化学物質については、特に環境暴露評価(例:化学物質排出シナリオ文書の作成、環境暴露モデルの調和、環境モニタリングの利用)などについての活動が進められている。また、農薬については、人への暴露や健康影響に関するガイダンス文書の作成などが進められている。
(7) リスク管理
1980年代から1990年代半ばまでは、鉛、水銀、カドミウム、臭素系難燃剤、ジクロロメタンなどの特定の化学物質に焦点にあてた取組が進められてきたが、現在では化学産業全体に適用可能なリスク管理のためのツールづくりや情報提供に重点が移っている。前者の取組の延長として、鉛のリスク管理に関する閣僚宣言(1996年)のフォローアップ、ニッカド電池のリサイクル、臭素系難燃剤に関する産業界の自主的活動が進められているほか、後者の取組として持続可能な化学産業、リスクコミュニケーション、社会経済的分析などの検討が挙げられる。
(8) 農薬
農薬プログラムは、農業及び非農業用の駆除剤や殺生物剤(バイオサイド)を対象としている。農薬のリスク評価における各国の協力関係を強化するため、農薬評価報告書のデータベース化や書式の調和、農薬に関する共通データ要求事項の調和、リスク削減などの取組を進めている。
(9) 化学品事故
化学事故の防止、対策、対応などに関するガイダンスの作成、OECD加盟国と非加盟国との間の情報交換などに取り組んでいる。
(10) PRTR
加盟国のPRTR構築の支援、国際的なPRTR活動の調整、PRTRデータの普及方法や点源及び非点源からの排出量の推定手法に関する情報共有などの活動を進めている。
(11) 食品の安全性とバイオテクノロジー産物
遺伝子組換え体(GMO)が人の健康や環境に及ぼす影響を明らかにするための科学的知見の基盤構築、OECD加盟国におけるGMOの規制及び商品化に関する情報データベースの作成・更新などに取り組んでいる。
 
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