平成21年6月30日(火)午後6時00分 開会
- 佐々木補佐 定刻になりましたので、ただいまから第5回石綿による健康被害に係る医学的事項に関する検討会を開催いたします。
メンバーの皆様におかれましては、ご多忙中のところをご出席いただきまして、まことにありがとうございます。
まず、資料を確認させていただきたいと思います。議事次第等々は除きまして、まず資料1でございますけれども、前回検討会の議事概要の案でございます。それから、資料2としまして、本検討会への報告書20090630、本日付の案でございます。それから、この報告書と関連しますけれども、引用文献、こちらの方をお手元のドッジファイルでつづらせていただいております。適宜、ご参照いただけたらと思っております。あと、いつもながらでございますけれども、基本資料集をおつけしております。それから、委員の皆様方にご参考までに配付させていただいておりますけれども、この3月、国際がん研究機関、IARC専門会合で、アスベストの発がん性について評価が行われました。その中で、肺がん、中皮腫以外のものとして、喉頭、卵巣における発がん性について一定の根拠があるというような形で評価が行われているところでございまして、こちらの方をご参考までに配付させていただいております。
以上、本日の資料でございますけれども、欠落等ございましたら、お申し出いただけたらと思います。
なお、本日は、審良委員よりご欠席とのご連絡をいただいております。
それでは、最初に、環境省総合環境政策局環境保健部長の原よりごあいさつを申し上げます。 - 原部長 環境保健部長の原でございます。お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。
昨年度から頻回に、この症例の検証も含めまして、先生方には精力的に検討をいただいてまいりました。きょうは森永座長ともご相談の上、今回のこの議論の内容を取りまとめまして、とりあえず、本検討会の報告書案として提示をさせていただいております。中身として、まだ不十分なところも若干ございますので、きょうはさらに議論を深めていただけたらと考えております。
また、この間、関係の患者さん方からも、特に石綿肺などを指定疾病に追加してもらえないかというようなご要望もいただいております。このような背景も踏まえて、この検討会での結果について、必要に応じて、救済施策に反映させてまいりたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。一応、検討会報告書の案まで、とりあえずつくり上げてまいりましたので、今後さらに最後の詰めをしていただきまして、どうぞ十分な報告書になりますように、よろしくお願いしたいと思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 - 佐々木補佐 それでは、以降の議事運営を森永座長にお願いいたします。
- 森永座長 それでは、前回、第4回目のときの検討会の議事録の概要の確認から始めたいと思いますけれども、事務局の方、どうぞ。資料1ですか。よろしくお願いします。
- 佐々木補佐 それでは、資料1に基づきまして説明させていただきます。
なお、ご発言のときは、お手元のマイクでございますけれども、一番手前の大きなボタンを押していただいて、ご発言終了後は、また押し直しいただけたらと思っております。
前回の議事概要(案)でございますけれども、まず、1番目としまして、症例検証の結果についてご討議いただきました。これは事務局の方で、一応、表として整理させていただきまして、その結果についてご議論いただいたところでございます。
主なご意見としましては、最初のポツですが、胸部エックス線写真では吸気不良によって、しばしばじん肺に類似した所見が認められることがあるということなので、適切な条件下で撮影を行った上で診断することが重要というようなご意見をいただいております。
それから、ちょっと飛ばしまして、石綿粉じんばく露歴のある労働者に特発性肺線維症が発生することも決してまれではないといったことがございました。
それから、厚労省の人口動態統計の死亡数データからは、石綿肺よりも間質性肺炎の方が圧倒的に多いことが推察されると。これにつきまして、臨床現場でもそのような印象であるということでご指示をいただいているところでございます。
二つ目としまして、「石綿肺の取り扱い」についてご議論をいただきました。
まず、「総論的事項」のところでございますけれども、全体的には単一の検査法では、なかなかその鑑別診断をすることは困難であるというようなご意見をいただいたかと思います。
ちょっと後段の方へ入りまして、その中で、石綿肺については、石綿の吸入歴の確認が最も大きな要素になるのではないか。それから、石綿肺について、「高濃度の石綿ばく露歴が必要となると、家内工業や一人親方でなければ石綿肺にならないだろう」というようなご意見をいただいております。
それからまた、最近では、喫煙自体が肺の線維化を起こすというようなご議論についてもご紹介いただきました。
それから、(2)でございますけれども、「石綿肺を指定疾病に加えた場合の判定基準に係る課題」としてご議論いただきました。
まず、(ア)の「呼吸機能検査」でございますけれども、やはりその検査によっては、結果が異なることがあるということなので、再現性のある結果が得られることが重要であるというご意見、それから、日本呼吸器学会より日本人のデータをもとに基準値がつくられ、それを新しい検査機器に組み込んでいる、そういう場合があるというお話をご紹介いただきました。
(イ)の「石綿ばく露の証明」でございますけれども、石綿曝露作業歴について、本人の申請内容から大まかなことは確認できるかもしれないが、客観的に証明するには困難な面があるといったお話。それから、石綿小体について、これがすべてでないにせよ、一つの物的証拠になるでしょうといったお話もございました。そんな中で、気管支肺胞洗浄、BALでございますけれども、一つの手法としてご提示いただきましたけれども、これによる石綿曝露の評価については、国内のデータがやや不足している。それから、安全な実施方法を含め検討が必要な段階にあるというようなご発言をいただいております。
あと、最後に、「平成20年度調査研究について」という中で、海外調査の結果をご紹介申し上げ、それについては、労災でカバーできない石綿肺を対象にしているベルギーでは、気管支肺胞洗浄を積極的に実施し、また、職業歴や累積ばく露も参考にしていると聞いているというご紹介をいただいたところでございます。
以上、前回の議事概要の案でございました。 - 森永座長 この議事の概要で、いや、何か違うことが書いてあるとかという訂正、意見はございますか。よろしいですか。
では、この4回目の議論を踏まえて、今回、報告書の案を取りまとめましたので、一応、事務局の方で紹介していただけますか。よろしくお願いします。 - 佐々木補佐 それでは、資料2、報告書(案)に基づき説明させていただきます。途中途中、ちょっと区切らせていただきたいと思っております。
報告書、資料をおめくりいただきまして、目次をご確認ください。大きく現時点では三部構成になってございまして、「1.はじめに」、「2.非腫瘍性石綿関連疾病に係る医学的事項」、「3.現行の指定疾病の医学的判定のあり方について」というふうになっております。
まず最初に、「1.はじめに」から、2ポツの「石綿肺」「総論」、「疾病の概念・定義」のところまで、ざっとご説明申し上げます。
最初、導入部分は、石綿健康被害救済制度が施行されての実績について、簡単に触れさせていただきたいと考えております。
2段落目以降でございますけれども、石綿救済法、これは健康被害の特殊性にかんがみて、石綿関連疾病のうち、悪性腫瘍である中皮腫、それから肺がん、これを指定疾病としたのだと。
一方、当時、法案に対するご議論の中で、石綿肺をはじめとする非腫瘍性石綿関連疾病については、被害の実態の把握に努め、必要に応じて対象に加えることとされたという状況でございます。
さらに、中央環境審議会でも、この石綿肺に関して、ポツでお示ししてございますけれども、幾つか課題をご指摘されたところでございます。
このような状況を踏まえまして、以降、環境省としましても、石綿肺を中心に、国内外の医学的知見の収集を行ってきたところでございまして、今般、この当該疾病の取り扱い等に関し、専門的見地から検討を行うこととしたということで、本検討会設置の経緯について、簡単に触れさせていただいております。
2ポツ、非腫瘍性石綿関連疾病に係る医学的事項、「石綿肺」「総論」の[1]でございますけれども、石綿肺については、石綿を大量に吸入することによって発生するびまん性間質性肺線維症であり、職業性疾病として知られているじん肺の一種であるというところでございまして、我が国の労働基準行政で取り扱われている定義といいますか、こちらを本検討会でも引用させていただきまして、これに倣い、大量の石綿への曝露があって、じん肺法に基づく胸部単純エックス線写真像の分類が第1型以上のものを石綿肺と定義し、検討を行ったという形でお示ししてございます。
なお、途中、米印のところは、各段落ごとに脚注的にお示ししておりまして、あと、右肩に数字で書いているのが、引用文献の数字をお示ししたものでございます。
とりあえず、以上でございます。 - 森永座長 病理学的な定義がどうなるのか。井内委員、国際会議があるという話ですけれども、ちょっと一言触れてください。
- 井内委員 今の文章のところで、訂正した方がいいなと思うところから、ちょっと先に発言させてください。
2ページ、「はじめに」のところで、13行目ぐらいですか、ポツの上の行ですが、「非腫瘍性石綿関連疾病のうち石綿肺に関しては」、ポツがあって、「様々な原因で発症するものであり」と、こうつながるわけですよね。そうすると、これは石綿肺がさまざまな原因で発症するものというふうにとれますよね。だから、そうじゃなくて、下にはちゃんとしたことが書いてあるんですが、「石綿肺に関しては、肺の線維化を来す疾患である」というところで一つ置いて、その肺の線維化というのはさまざまな原因で発症するものであるので、石綿の曝露歴がないと診断することが困難であるというふうに表現をしないと正確ではないというふうに思います。 - 森永座長 井内委員のおっしゃるとおりですね。
- 井内委員 それで、国際会議に関しては、実は今月の24、25、26と、アメリカのポートランドで、Pulmonary Pathology
Societyと、略してPPSというんですけれども、2年に1回、国際的な肺病理をやっている人たちの集まるミーティングがあります。それに参加してまいりました。
大変多くのセッションがあったので、必ずしもアスベスト関連疾患についてだけ議論したわけではないのですが、アスベスト肺の定義に関しても、アメリカのDr.Roggliの方からまとまった総説的な発表がありました。ただ、彼の発言内容というのは、これまでとそんなに大きく変わるものではなくて、アスベスト繊維の定量ということをやらないと、やっぱりアスベスト肺とほかの線維症を区別できないというふうな言い方に終始したようです。
フロアから発言が出て、いろいろなディスカッションがあったんですが、その中でも、なかなか救済補償という立場と、それから、そういうサイエンスの場として、特に病理学的な定義という部分で議論することの間には、かなり矛盾があるというか、必ずしも一致をえることが難しいのではないかということで、結論的な内容にはなりませんでした。
現在、日本では、獨協医大の准教授の本間先生がじん肺症の専門家ということで、彼が加わった一つの委員会が、石綿肺の見直しに関してつくられているという紹介があったのですが、まだ、それについての基本的な枠組みというか、定義上の成文化されたものが示されたわけではないという状況ですので、もう少し時間がかかりそうな感じです。
以上です。 - 森永座長 ここで特に病理学的な定義を紹介する必要はないという考えでよろしいですか。
- 井内委員 この場で紹介できるほどの新しい展開があったということではないというふうに思います。
- 森永座長 ほかに、ほかの委員の先生方、何かご意見はございますか。
なければ、次をお願いします。 - 佐々木補佐 それでは、その次は、「疫学」のところ、三本柱になってございますけれども、三つまとめて読み上げさせていただきたいと思います。
「死亡の動向」、「人口動態調査」(厚生労働省大臣官房統計情報部)によると、我が国では、原死因が石綿アスベスト及びその他の無機質繊維によるじん肺症である死亡数、表1、下にお示ししてございますけれども、は、年間数十名で推移している。しかし、このうち石綿によるものがどれだけを占めているかは不明である。また、逆に原死因が石綿肺ではないものの石綿肺に関連した死亡がどれだけあるのかについても不明である。
なお、1986年の国際化学物質安全性計画(IPCS)の報告書では、「幾つかの国では大幅な作業環境改善がなされたので、石綿肺はもはや重要な石綿関連死因ではなくなるだろう」と述べられている。そして、1998年の報告書では、「石綿肺様の変化は5~20繊維/mlの長期間のばく露によって生じるのが一般的である。それより低いレベルでのリスクは知られてない。良くコントロールされた職場環境下でのレベルでクリソタイルによって臨床的症状のない変化があったとしても、線維化の変化が肺に起こったとしても、臨床症状の出現という観点からみると進展しそうにもない、ということを疑うに足る理由はない」とも述べている。
ページ変わりまして、次、「ばく露との関連」でございます。
石綿肺は、石綿を大量に吸引することによって発生する職業性の疾病であり、いわゆる一般環境下におけるばく露による発生例は、本邦において、これまでのところ報告されていない。前述のIPCSの報告書、1986においても、「一般環境下でのばく露によって石綿肺が発症することを示す疫学的な証拠は無い」と述べており、1998年の報告書においても、「クリソタイル労働者の家族や、ばく露源から生じる大気中クリソタイルへの近隣ばく露による住民の石綿関連疾患の罹患・死亡に関するデータは、1986年の報告以降みつからなかった」と述べている。
このようなことから、本検討会では、環境省が、主として労災補償の対象とならない人々を対象に実施している石綿の健康リスク調査について検証を行い、石綿肺がどのような人に発生しているのかという点について知見を得ることを試みた。
この結果、検証対象となった全138症例のうち、肺の線維化について、石綿肺の可能性が否定的でないとされた19症例に関しては、うち6例が「石綿肺の可能性が考えられる線維化所見あり」とされ、その全てに職業性の石綿へのばく露が示唆された。また、その他の13例が「石綿肺との鑑別が不可能な線維化所見あり」とされ、このうち9例に職業性の石綿へのばく露が示唆された。この検証結果の詳細につきましては、この後の11ページから13ページにかけて掲載させていただいております。
その他、これまでの数々の報告から、石綿肺を発生する可能性があるのは、基本的に職業性のばく露によるものであり、近隣ばく露では発生例があったとしても極めてまれであり、その場合であっても重症例とは想定されがたいと考えられる。
特殊な環境ばく露としては、元来土壌に石綿が含まれている地域でのばく露が挙げられる。このような特殊な地域では、低濃度の石綿ばく露で生じるプラークや中皮腫の罹患率が高いことが報告されている。また、高濃度の石綿ばく露で生じると考えられる石綿肺の報告も、少ないながらも報告されている。しかし、胸部エックス線だけの早期の石綿肺による診断については、不確かさの問題点も指摘されている。
また、石綿工場の周辺地域に認められる近隣ばく露によるとされる石綿肺の例としては、イタリア北西部の報告がある。ただし、これらの報告では、診断方法が、前者では病理組織所見のみによるもの、後者では画像所見のみによるものであり、後述する医学的な鑑別が十分に行われているとは言えない。
なお、石綿取扱作業従事者が石綿に汚染された作業着等を自宅に持ち帰ることによって発生するいわゆる家庭内石綿ばく露による石綿肺の例としては、アメリカ、カナダの報告があるが、近隣ばく露の報告例と同様、診断の確からしさに疑義がある。
以上のことから、これまでの数々の報告から石綿肺を発生する可能性があるのは、基本的に職業性のばく露によるものであり、近隣ばく露では発生例があったとしても極めてまれであり、その場合であっても重症例とは想定されがたいと考えられる。
次、三つ目でございますけれども、「石綿肺を発生するような高濃度の石綿へのばく露があったと考えられる作業」。
一般に石綿肺はある程度以上の高濃度の石綿累積ばく露量を上回らないと発症しないと考えられている。
石綿肺を発生するような高濃度の石綿へのばく露があったと考えられる作業の例としては、石綿紡織製品や石綿セメント製品の製造作業、石綿製品を用いた配管・断熱作業、石綿の吹付け作業、石綿が吹き付けられた建築物の解体作業などが挙げられる。
一たん、ここで区切らせていただきます。 - 森永座長 ここまでのところでご意見ございますか。
7ページの上までいきましょうか、とりあえず。続けていってください。 - 佐々木補佐 では、この後、引き続き、[3]の臨床症状から[5]の診断及び鑑別診断まで、一気に読み上げます。
[3]臨床症状。石綿肺の自覚症状は労作時の息切れに始まる。また、咳、痰も主要な症状である。咳は乾性咳(いわゆる“から咳”)であることが多く、痰を伴った場合でも少量の粘性痰であることが多い。これらは他の呼吸器系疾病でもみられる非特異的な症状である。
他覚的所見として重要なものに聴診所見がある。石綿肺の軽度例では、しばしば両側肺底部の中腋窩線上から肩甲骨中線上で、呼気終末時に複雑音としてのクラックル(捻髪音)が聴取される。石綿肺が進展するにつれ、クラックルの聴取部位も肺底部から上の領域に拡がり、全吸気時や呼気時にも聞かれるようになり、また、音自体が粗大になる傾向がある。これも間質性肺炎でもみられる非特異的所見である。
[4]経過・予後。石綿肺の所見は、戦前の報告例を除いては、ばく露開始後概ね10年以上、多くは20年以上ののちに現れる。石綿ばく露から胸部単純エックス線写真に不整形陰影が出現するまでどの程度の期間を要するか、断熱材を取り扱う598例の労働者を対象に検証した調査報告によると、作業に従事してから5年以内に出現するものはなく、20年以内でもごく少数例であった。
石綿肺は、石綿のばく露中止後に進展する場合もあるが、その進行は、ばく露濃度、ばく露期間、ばく露後の時間等に影響されるとされている。石綿吹付け作業従事者の方が石綿製品製造作業従事者よりも進展が早いという報告もある。
石綿肺は、同じ石綿関連疾病である中皮腫や肺がんのような悪性腫瘍と比較すると、全体として予後の悪い疾病ではない。一部の症例で徐々に症状が進行し、呼吸機能の著しい低下によって日常生活に支障が生じるものもある。しかし、石綿肺の程度が1/0や1/1といった軽度である場合には、中皮腫を合併する場合を除き、肺がん等による過剰死亡を観察することは難しい。1/2以上であれば、その後の進展により、呼吸不全等石綿肺自身による死亡や、さらに重要なことに、肺がんによる死亡が増加する。なお、じん肺法では、労働者等に「じん肺による著しい肺機能の障害がある」と認められる場合、「療養を要するもの」としている。
[5]診断及び鑑別診断。臨床の場では、石綿肺の診断は、症状や経過等の臨床所見、石綿ばく露作業歴(ばく露開始時期及びその時の年齢、ばく露期間、作業の種類、ばく露終了からの期間)、胸部単純エックス線写真所見及び呼吸機能検査所見に基づいて行われる。
石綿肺は病態としてはびまん性間質性肺炎・肺線維症の一種である。このため、診断に当たっては、他の原因によるびまん性間質性肺炎・肺線維症との鑑別が重要になる。
原因が明らかなびまん性間質影肺炎・肺線維症としては、a)単独で発生する場合、b)他疾患に合併する場合、c)家族性に発生する場合に大別される。
a)については、微生物、化学薬品、無機物(石綿のほか、ベリリウムやコバルト等)、有機物(菌類蛋白質、鳥類蛋白質等)の吸入や医薬品の副作用、電離放射線等が挙がられ、b)については、関節リウマチ、強皮症、全身性エリテマトーデスといった膠原病や潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患などが挙げられる。世界的に著名なハリソン内科学書第17版では、間質性肺疾患は200種類に及ぶとされており、これらは臨床的、画像的、機能的及び病理的な所見に類似性がある、と述べている。
原因不明のびまん性間質性肺炎・肺線維症である特発性間質性肺炎やその一亜型である特発性肺線維症(以下「特発性間質性肺炎等」という。)は、石綿肺との鑑別が困難とされている。画像による鑑別は容易でないが、特発性間質性肺炎などは石綿肺と比べて比較的すみやかに進行する点が診断上の参考になるとされている。
また、病態が石綿肺に類似していることに加え、一般人口における特発性間質性肺炎等のり患者数が増加、注として、(前述の死亡数統計より、石綿肺と比べて特発性間質性肺炎等の患者は圧倒的に多いと推測される。)増加する一方で、石綿肺のり患者、特に典型的な重症例が減少していることも鑑別を難しくしている要因になっていると指摘されている。
さらに、喫煙と肺線維化との関連にも注意を要する。石綿肺の初期の所見である、胸部単純エックス線写真の下肺野にみられる不整形陰影は非特異的な所見であり、老齢の患者、初期の左室不全の患者、重喫煙者にもみられる。
また喫煙者である石綿ばく露労働者は、非喫煙者であるばく露労働者に比べて、胸部単純エックス線写真において間質性変化が有意に多く認められるとする報告もある。
以上のように、臨床像や画像所見だけでは、石綿肺を他のびまん性間質性肺炎・肺線維症と区別して診断することは極めて困難であり、石綿肺の診断には、大量の石綿へのばく露の確認が必要である。
ヘルシンキクライテリア(1997)においても、他の原因による肺線維症との鑑別には、過去の大量の石綿へのばく露歴、又は、肺組織内に一般住民では見られない大量の石綿小体若しくは石綿繊維の検出が必要であるとしている。
なお、石綿ばく露歴のある者に、他の原因による、あるいは原因不明のびまん性間質性肺炎・肺線維症が発生することもあるため、単に石綿ばく露歴があるというだけで石綿を原因と考えることは、診断の誤りにつながるおそれがある。
以上でございます。 - 森永座長 石綿肺の臨床像について、過去の、最近の文献も含めて、もう一度、委員の先生方にレビューをしていただいて、まとめたわけですけれども、中皮腫ばっかりで、石綿肺をもう一度こんなところでやるとは思わなかったですけれども、もう一遍、ちょっと文献を改めて見直して、とりあえずまとめたという内容ですけれども、委員の先生方、よろしいですか。
- 神山委員 全体的に、現在のこういう石綿肺が疑われる患者さんの鑑別という観点で結構だと思うんですけれども、基本的な考え方として、例えば先ほど、病理的な見方はどうかとか、そういう問題が重要になる時点というのは、患者さんが亡くなった後のケースであれば、病理的にいかようにも肺組織の検索ができますし、それからヘルシンキクライテリア等で言っている、結果としての石綿繊維とか小体の定量というのが、非常に容易にできますので、亡くなった後ということに関しては、こういったいろいろな難しさというのが、ある面ではかなり補てんできるのではないかというふうに基本的には考えているんですが、先ほどの、例えば4ページの一番下の、イタリアのケースの報告というのでも、病理所見、組織所見のみによるものであるとか、画像所見のみによるもので、不確かさがあるというような観点で、十分に行われているとは言えないという、この観点は、画像所見と両方が、あるいは曝露歴等がきちんとそろっていないというようなニュアンスが内容にあるんだろうと思うんですが、今のようないろいろなことで、生前と死後という両面から見たときに、石綿肺の認定は、今回はあくまでも現在生存されている方の石綿肺の認定という観点からの報告書というふうに考えてよろしいのでしょうか。
- 森永座長 もちろん、やはり生存されている患者さんをどういうふうに正しく診断して、救うかという観点で検討しているわけですから、亡くなってからわかるという話では、やっぱりちょっと遅過ぎると思うので。という理解で、皆さんよろしいですね。
- 坂谷委員 腫瘍の方は、既に認定基準が決まっている方は、確定診断例に限るということになっていると思うんですよね。中皮腫であるとか、肺がんであることの確定診断の方法は、はっきりしているわけです。石綿肺の方が病理的所見が得られるか、得られないかは別にして、この文章では、何と何と何がそろっていれば石綿肺と確定診断できるということがはっきり書かれていないように思うんですけれど。だから、こういうものがそろった段階で、石綿肺であろうというふうにしましょうというけれど、こういう例もある、こういう例もあるということは書かれておりますが、何をもって石綿肺と最終的に判断するかということが、明確にはこれを読んで書かれていないんじゃなかろうかと、こういうふうにとりましたけれど、いかがでしょう。
- 森永座長 それは次のセクションの方に入るので、ちょっと待ってください。
ここまでのところで。どうぞ。 - 井内委員 6ページのところの[5]の診断及び鑑別診断のところに、これから問題になるであろうびまん性間質性肺炎・肺線維症の原因と、それによって分類が非常に多岐にわたるということが書いてあるんですが、ここで、ちょうど真ん中から少し下のところに、「世界的に著名なハリソン内科学書第17版では」というふうに引用してあって、それに基づいて、間質性肺疾患は200種類に及ぶと、こういうふうな著述があるんですが、ちょっとこれは今の考え方から言うと、アップ・トゥー・デートではないというふうに思うんですね。それで、2002年から2004年にかけて、いわゆるATSという、アメリカのThoracic
Societyと、ERSというEuropean Respiratory Societyですか、それが共同で提案して、日本の呼吸器学会も認めた間質性肺炎の新しい分類というのがあるんですね。それで、ここにIPFというのがIIPの一亜型であるというような表現をしてありますが、もうIPFという言葉は少し避けて、病理学的にはUIPという言葉を使うんですね、Usual
Interstitial Pneumonia。ですから、現在、病理学的にもあるいは臨床的にも、ほとんど同じ基準を使うんですが、後で正確に報告を申し上げますけれども、UIP、NSIP、AIP、DIP、LIP、RB、COPという、この6型に分けて扱うんですね。それで基本的には、原因は多岐にわたるけれども、病理学的なパターンから言えば、この6型で整理をすると。それと臨床所見はかなり一致するというふうな考え方で、日本も世界も動いているというふうに思いますので、少しここの表現は変えていった方がいいというふうに思います。今言っていることは、いわゆる特発性の間質性の線維症に関する部分であって、それがAとすれば、それに対するBというのは、二次性のものがあって、その二次性とは何かというと、先行する関節リウマチだとか、強皮症だとか、全身性エリテマトーデスといった膠原病等々の疾患に続発するものというのがあるというのが、今の整理の仕方だというふうに思いますので、ここはちょっと最新の石綿肺の位置づけが、肺線維症全体の中のどういう部分にあるかというのを少し書き直した方がいいのかなという気が今しております。
以上です。 - 森永座長 ジョイントの委員会の報告書はいつ出ましたか、アメリカとヨーロッパの。
- 井内委員 2004年だったか、2002年だったか、正確には……。2002年ですか。2002年で、日本呼吸器学会がapproveしたのが2004年ですかね。
- 酒井委員 それについては、2002年のATS、ERSのコンセンサスステートメントを受けて、一昨年でしたか、2004年でしたか、日本呼吸器学会の彌慢性間質性肺炎の取扱い規約というのが、第四次改定が行われたと思います。今、実はATS、ERSは、コンセンサスステートメントの改定を行っているところですけれど、どういう形になるか、まだ最終的には決まらないようです。
- 森永座長 その改定の前のものをここへ紹介する方がいいということですね。
そこへ追加することでよろしいですかね。 - 井内委員 一部、用語を統一した方がいいと思いますので、確かに今改定作業が進んでいますけれども、非常に細かいところが変わる可能性がありますが、今の大きな流れというのは、そんなに大きく変わらないんじゃないかなという気がしていますので、今後、我々が肺線維症あるいは彌慢性間質性肺炎というような言い方で扱うときの用語は、できれば統一しておいた方がいいので、ここのところを少し、表も含めて、コンセンサスミーティングで提案された疾患の名称みたいなものは、一応述べておいた方が混乱がなくていいと。恐らく、こういうものをごらんになった全国の臨床医等々が、やっぱり最新版に従って診断をされてくるでしょうから、それに従っておいた方がいいというふうに思います。
- 森永座長 ご意見、ありがとうございます。では、そこのところは追加修正すると……。
- 井上主任 5ページ目の上の方なんですけれど、字句的な問題なんですけれど、3行目に、10と11の文献をマニャーニという人とカンデューラという人だったと思いますが、イタリアの98年と2008年の10年、間のあいた報告を指しているんだと思うんですが、何か「前者では」、「後者では」と、いきなり書いているので、「前者では」というのはやめて「病理組織所見のみによるものであったり、画像所見のみによるものであったりするものであるなど、」とか、こんなふうに変えたらよろしいのではないかと思いますが。
- 森永座長 前者、後者ということではなしに、もっとはっきりわかるように書けと、こういうことですか。
- 井上主任 ええ、そうです。それだけです。
- 石川委員 今の関連なんですけれど、「病理学的所見のみによる」から悪いのではなくて、これがnecropsyのみによっているから不十分なんですね。ですから、病理学的所見というのは、解剖すれば、全肺を検討すればわかるわけですけれども、そうじゃなくて、ここの論文を読みますと、necropsyと書いてありますね。だから限られた材料による病理学的所見のみによっているというふうに直した方がいいと思います。
- 森永座長 もう少し正確に書けと、こういうことですね。
- 井内委員 追加よろしいですか。先ほど申し上げた間質性肺炎・肺線維症の分類というのは、多くがVATS生検、いわゆる胸腔鏡下で、ある程度の大きさの組織材料がとれた場合に基づいた診断なんですね。つまり、TBLBのような経気道的な小さな生検材料では、まず診断はつかないと。ですから、今、間質性肺炎を診断しておられる臨床医の多くは、できればVATSをやるということで、予後のいいNSIPと、予後の悪いUIPを区別するというようなことを大いにやっておられるんですね。ですから、そういう傾向の中で判断するとすれば、石綿肺も今の小さな材料という、石川先生のご意見もあったんだけれど、やっぱりVATS生検が薦められるとか、VATS生検によるものが最も望ましいとか、そういうふうな表現の仕方、つまりそれが全員にできるというふうに思っているわけではないですが、正確な診断を得るためには、こういうことが必要であるということは一行加えておいた方がいいのではないかなというふうに考えられます。
先ほど、これは亡くなられた方で判断するのは、それは病理学的な判断もかなり正確にできますし、アスベスト小体のカウントもできるんだけれど、患者さんがまだお元気でいらっしゃって、その方を救済するという立場で、どのようなツールがあるかということについては、もう少し細かい指示というか、経気道的な生検ではなかなか難しいとか、VATSをやればかなりの確度で診断がつくとか、そういう表現の仕方も、この線維症あるいは間質性肺炎の分類のところには書いておくべきかなというふうな考えを持っております。
以上です。 - 森永座長 わかりました。そこのところは、VATS生検でこういう分類がされているという紹介でいいと思うんですよね、ここは。そういう形でよろしいですか。
- 井内委員 はい。それは最低限でいいと思います。それ以上に、石綿肺の診断はこうしなければならないということではないということです。
- 森永座長 では、皆さん、それでよろしいですね。
- 坂谷委員 細かいことを言いますけれど、5ページのクラックル(捻髪音)と書いてありますが、これでいいんでしょうか。クラックルには、ファインクラックルとラージクラックルがあって、ファインクラックルの方のことを言っていると思うんですね。
- 森永座長 それはもうご指摘のとおりで、ファインクラックルですね。
ほか、どうぞ。 - 石川委員 今回の救済の対象について、ちょっと確認したいんですけれども、4ページの3行目からには、「いわゆる一般環境下におけるばく露による発生例は、本邦において、知られていない。報告されていない。」と書いてありますが、今回の対象になっているのは、いわゆる一人親方も入っているわけですよね。そうですね。そうすると、いわゆる一般環境下というのは、そういう一人親方というのは、いわゆる一般環境下でないわけですから、余りこういう一般環境下ではないとか、そういうことを何度も強調する必要はないんじゃないでしょうか。一回それを入れればそのとおりで、今回の救済の対象は一人親方、いわゆる職業人ですけれども、労災も対象にならない。職業曝露を受けているけれども労災の対象にならない人も救済の対象としているわけですから、余りこういうことを何度も強調する必要はないような気がするんですけれども。
- 森永座長 それは、別に強調した方がいいんじゃないですか。今、誤解されているところがありますからね。という意味なんですけれど。
- 石川委員 大前提として、石綿肺は職業曝露じゃないと起こらないということを確認するのはいいと思いますけれどね。ただし、この救済の対象は、労災の対象とならない職業人も対象としているわけですから、そのことも書いた方がいいんじゃないでしょうか。
- 森永座長 それは一番最後のところで取り上げるようにしましょう。
よろしいですか。次にいってよろしいですか。
では、次にいきましょう。 - 佐々木補佐 それでは、7ページでございますけれども、「(イ)石綿肺の判定に係る課題」につきまして、これも一気に[4]まで説明させていただきたいと思います。
まず、「[1]基本的な考え方」でございます。現在、石綿健康被害救済制度では、中皮腫と肺がんを指定疾病としている。
これらの疾病は、悪性腫瘍であり、予後が非常に悪いことが迅速な救済を要する理由の一つであった。石綿肺はこれらと比較すると、診断されたからといって直ちに予後の悪い疾病であるとは言えないことから、中皮腫や肺がんと同列に論じることはできない。
しかしながら、進展した石綿肺では石綿肺自体による著しい呼吸機能障害によって日常生活に支障が生じ、呼吸不全といった重篤な状態に陥る場合がある。
一方、石綿肺の判定を適切に行うためには、石綿肺に比べて圧倒的に多いと推測される特発性間質性肺炎等のびまん性間質性肺炎・肺線維症と十分な鑑別を行うことが必要となる。
したがって、石綿肺であるか否かとその重症度を評価するためには、大量の石綿へのばく露の確認、画像所見、呼吸機能検査所見を基に、病状の結果を踏まえながら判定することが重要である。この場合、一時点のみの所見で病状の経過を判断することは困難であることから、例えば複数時点の画像所見等により、数年間にわたる経過を確認することが重要である。また、早期の石綿肺を診断し、悪化を防止する手だても検討すべきである。
[2]石綿ばく露の評価。石綿肺の判定を行うためには、大量の石綿へのばく露を確認することが必要となる。ヘルシンキクライテリアにおいても、他の原因による肺線維症との鑑別には、過去の大量の石綿へのばく露歴、又は、肺組織内に一般住民では見られない大量の石綿小体若しくは石綿繊維の検出が必要であるとしている。
このため、石綿肺の判定に当たっては、患者のこれまでの石綿へのばく露状況を確認することが重要となってくる。
高濃度の石綿へのばく露があったと考えられる作業の例としては、石綿紡織製品や石綿セメント製品の製造作業、石綿製品を用いた配管・断熱作業、石綿の吹付け作業、石綿が吹き付けられた建築物の解体作業等が挙げられる。申請者のこのような作業への従事状況について、可能な限り客観的な情報を基に明らかにしていくことが必要と言える。
また、申請者から、気管支肺胞洗浄等によって得られた石綿小体等に関する医学的資料が提出された場合は、これらを石綿ばく露の評価の参考にすることができるものの、これからの検査等は申請者にとって一定のリスクがあると指摘されている。
[3]画像所見の評価。一般に、石綿肺の胸部単純エックス線所見は、下肺野優位の線状影、網状影(これらを総称して不整形陰影と呼ぶ)を呈するが、頻度としては低いものの、一見肺結核と紛らわしい肺尖部を中心とした胸膜肥厚を主とする上肺野の変化が見られる場合もある。また、総ばく露量やばく露密度が高いほど石綿肺の所見を認めやすく、ばく露期間が長いほど不整形陰影の出現率が高まり、かつ、進展するとされている。
胸部の所見をより適確に把握するためには、CTが有用とされている。これまでに胸部単純エックス線写真と胸部CT写真等を比較検証した報告は複数あり、いずれもCT、特にHRCTによる診断の優位性を指摘している。石綿肺のHRCT所見としては、小葉内網状影、小葉間隔壁の肥厚、胸膜下線状影、胸膜に接した結節影、スリガラス影、嚢胞、肺実質内帯状影、蜂窩肺等が挙げられるが、これらの所見は特発性肺線維症にも見られ、必ずしも石綿肺に特異的なものではない。
下肺野優位の不整形陰影は、特発性間質性肺線維症等でも同様であり、両者の鑑別を困難にしている。このため、両者の鑑別には、胸部単純エックス線写真だけでは限界があり、少なくとも胸部HRCTの併用が望ましい。石綿肺では細気管支周囲の線維化が強いため、HRCT画像上では蜂窩肺部分以外の胸膜直下に小葉中心性に分布する粒状影が多く認められるのに対し、特発性間質性肺炎等では小葉辺縁部に強い病変分布を示すこと等、種々の所見の組み合わせを慎重に検討しなければならない。
また、石綿肺では、胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚、索状の線維化病変等の胸膜病変を来すことがあり、胸部単純エックス線写真だけでなく、HRCTの活用によってこれらの所見を参考にすることは、石綿ばく露の所見として参考になる。
以上のことから、一般に、画像で石綿肺の線維化の有無やその程度について評価を行う際には、胸部単純エックス線写真を基礎としつつ、補助的に胸部CT写真(HRCTを含む。)を活用し、数年間の経過をみて判断することが必要と考える。
なお、重喫煙者や吸気不良の胸部エックス線写真では石綿肺と類似の、軽い不整形陰影像を呈することがあるため、画像所見の評価に当たっては、これからの要因についても留意しておく必要があるとともに、胸部CTの活用が薦められる。特に早期の石綿肺を診断する場合には、重量負荷による線維化類似所見を回避するために、腹臥位によるHRCTが推奨される。
[4]呼吸機能障害の評価。
石綿肺における呼吸機能障害の基本的構造は、びまん性の間質の線維化に伴う拘束性障害と細気管支・肺胞領域の障害によるガス拡散障害である。このため、呼吸機能検査では、肺活量(VC)の減少や肺拡散能(DLco)の低下を来す。
他の制度における呼吸機能検査の例としては、じん肺法に基づくじん肺に係る肺機能検査等が挙げられる。同様の病態を来す特発性間質性肺炎については、難治性疾患克服研究事業(特定疾患調査研究分野)の重症度分類判定において、安静時動脈血酸素分圧(PaO2)と6分間歩行時SpO2(パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度)が採用されている。また、これらの検査のうち、スパイログラムと動脈血液ガス分圧については、日本呼吸器学会肺生理専門委員会が、2001年4月に日本人のデータを基にした新しい予測式及び基準値を提案している。呼吸機能検査の評価には、これに適した基準値と予測式を用いることが必要であり、少なくとも人種差は考慮に入れるべきである。
石綿肺を指定疾病に加えるとした場合は、このような知見を踏まえつつ、重症度を評価するための呼吸機能検査の手法、指標及び判定基準の設定について検討する必要がある。また、肺結核等の合併症がある場合は、合併症によって申請者の呼吸機能が修飾されている可能性があり、合併症の考え方とその場合の評価方法について検討する必要がある。
以上でございます。 - 森永座長 今までのところで、委員の先生方、ご意見ございますか。
- 坂谷委員 今読んでいただいた「(イ)石綿肺の判定に係る課題」の7、8、9ページのところでは、病理学的な所見をどういうふうに取り入れて判断するかということが一言も出てこないんですけれど。
- 森永座長 病理学的なことは判断の材料にしないでいこうという考え方で、今これは書かれているということです。
- 坂谷委員 そういうことですね。それでよろしいのですね。
- 森永座長 それについてご意見があれば、おっしゃっていただいたらいいと思うんですけれども。
- 井内委員 この第1回か第2回かのときの議論で、この前の第4回の議事録にも出ていますけれども、病理組織で判定するというのには非常に問題点も多いし、患者さんに対する侵襲性が非常に高いので、それを用いることは極めて難しい場合が多いだろうという前提で、これは落ちたんだというふうに思います。ただ、石綿肺の判定に対する考え方ということについて、病理ではどうなんだということについては、例えば呼吸機能障害の評価、[4]の次に、[5]の病理所見の評価というのが書かれていてもいいのではないかと。それが使われないというか、あるいはそういう材料が提供されないことがしばしばあることを承知の上で、もし、先ほど言いましたように、VATSの材料が出てくるというようなことがあって、もちろんそれは画像所見の裏づけでしかないかもしれませんけれども、これは間違いなく石綿肺だと言えるようなものもあるであろうということを想定するならば、私も坂谷委員と同意見でありまして、やはり文章上、何らかの表現があってもいいのではないかと。最終的に、それは患者さんの救済のために使われることは極めて少ないであろうということは前提としてあったとしても、それが表現されていてもいいのではないかというのが私の考えです。
以上です。 - 森永座長 岸本先生、どうですか。
- 岸本委員 今、石綿肺という診断をするためには、病理組織がなければ、職業性の石綿高濃度曝露が必要であるというのが前提でありますから、石川先生が言われたように、一人親方等が対象になるということなんですけれども。まだ日本で報告はございませんが、環境曝露や家庭内曝露で石綿肺が起こる可能性もゼロではないということになれば、病理学的にVATS等で得られた肺組織から診断がつく可能性もゼロでないということになります。井内委員が言われましたように、病理学的なものも入れておくべきではないかなというふうに思います。
- 坂谷委員 まず、一人親方を救済するためにこれを定めるのであるということは、どこにも書いてないと思うんですよね。それから、合意事項ですけれど、病理学的所見が必ずそろっていなければだめだというふうには、皆さん考えていないわけで、病理学的所見がなければ認めないということではないんです。それは確かなんです。だけど、この文章だけを見ますと、「病理学的所見が得られたときに、それも参考にしつつ、」とか、そういうふうなことで一言あってもしかるべきでありますし、まず、何を言いますかというと、画像だけでは矛盾がない。だけど、たまたま病理学的所見が得られまして、それが石綿肺ではないという病理学的所見が得られたときに、この文章では、「病理学的所見は考慮に入れなくていいのだから、病理学的所見は石綿肺を積極的にサポートするのではないけれども、ここに書かれている職歴、曝露歴であるとか、画像診断の判定であるとか、それだけで考えていいのである」というふうにとられないかということを気にするわけです。
- 森永座長 「病理で石綿肺と診断しましょう」という話ではなくて、一番最初のように、この報告書の中では、3ページの一番頭のところに、定義としては一応、「画像上、じん肺法による1型以上ということでいきましょう」という話で議論しているわけですから、それにのっとって話を進めてほしいんです。ですから、基本的に、むしろ間質性の影があって、石綿肺以外の例の方がはるかに確率として可能性が高いと思われる例については、これはVATSをして、治療法があるものについては、そういう検査をすべきなわけでしょう、臨床医としては。そのときに判断がつかない場合について、そうしたら石綿肺を疑う場合に積極的にVATSをするかというと、それはむしろそこまではできないだろうというのが今までの考え方だというふうに私は理解していたんですけれども。だから前提は、やはり3ページの上のところから確認をして、そこから始まっていますので、病理学的な検討は、むしろ石綿肺以外のものを疑う場合は、積極的にVATSをやればいいというようなことは言えるとは思うんですけれども、そういう形で書くのはまずいのですか。そういう形で書いた方がいいかなという気はするんですけれど、どうでしょうか。
- 坂谷委員 言い方がまずかったかは知りませんけれど、井内先生がおっしゃったのが適切な言葉かと思います。だから、病理的所見をとらないといけないということはないんです。ですけれど、手に入ったときには、それも判断の材料に加えるということをどこかに書くべきでないかと僕は思うんですけれど。
- 森永座長 わかりました。だから病理学的検討の評価を[5]で入れろと、こういうことですね。
- 石川委員 病理学的な項目もないですし、病理学という言葉もないんですけれども、8ページの下から7行目ぐらいからの記載は、これは明らかに病理学的な所見に基づいていますね。石綿肺では細気管支周囲の線維化が強い。そのために、それをもとにして画像を見ると、こういうふうに見えると。特発性間質性肺炎では小葉辺縁部に強い病変分布を起こすので、画像ではこうなるというふうに書かれていまして、これは明らかに病理学的な結果を踏まえていますね。ですけれど、問題なのは、じん肺でも細気管支周囲の線維化は来るけれど、たばこでも来ますね。ですから、坂谷委員の言われたのは、こういう画像ではいいけれども、病理をとってみたらそれを否定するということには多分、恐らく病理を見てもならないと思いますね。病理は非常にあいまいで、腫瘍と違ってはっきりしないですから、じん肺では矛盾しないという所見になるんじゃないかと思いますが。
- 森永座長 じゃあ、そこの病理学的なところは、井内委員の方で原案を考えてください。
- 井内委員 今、石川委員がおっしゃったことは、まさにそのとおりで、従来では、細気管支周囲の線維化がかなり大きなクライテリアになると言われていましたが、現在、たばこ肺の研究がどんどん進んで、経気道的な障害物が肺に入ってきたときには、同じパターンを示すというようなことがわかってきつつあるので、今の知識をもって従来から言われてきたことを否定しなければいけないところも随分ありますので、結果的には病理で決められないという結論を書くことになるとは思いますが、ただ、病理学的な検査というのには、こういう意味はあるというふうな書き方になろうと思います。その原案をつくれとおっしゃるのであれば、つくらせていただきます。
- 森永座長 よろしくお願いします。
ほかにご意見ございませんか。 - 井上主任 私、不勉強でよくわからないのですが、9ページ目の1行目なんですが、平成18年のものにも、この出典は、16という出典を見ますと、かつて医学的判断に係る検討会の18ページ目にも書いてあるんですけれど、索状の線維化病変というのは、これは胸膜なのか、肺実質のことを言っているのか、直接エックス線で見て見えるのか、HRCTで見えるのか、どうなんですか。初めて、私、教科書的に余り見たことがないものですから、そんなに頻繁に我々も余り石綿関連疾患といって箇条書きにされるようなものを見たことがないものですから、これが出てくるなら、胸水が出てきたり、円形無気肺が出てきたりするかなと思ったら、こういう言葉が出てくるものですから、索状線維化って、そんなにメジャーな話なんですか。メジャーというか、皆さんの中では、石綿肺につきものであるというお考えなのか。もっと言えば、平成18年のときにこれを入れた根拠論文は、後で教えていただければと思いますが。
- 森永座長 8ページの下から4行目のことですね。
- 井上主任 もうメジャーであれば、もうこれで流していただいて、事務的に後でいただくので結構です。
- 三浦委員 よろしいですか。これは石綿関連胸膜疾患を表現するところですよね。いわゆる肺実質の線維化病変をあらわした言葉ではないと。ここの部分は、特に胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚、索状の線維化病変等の胸膜病変を。これ、索状の線維化病変そのものは胸膜病変ではないんですけれども、胸膜につながる変化で、胸膜病変が反映して、肺の中にしわが寄った影と僕らは考えています。
- 岸本委員 これはクローズ・フィート・サインを言っているのではないかなと思います。
- 井上主任 クローズ・フィート・サインの巻き込みみたいなことを言っているんですか。わかりました。
それと、これも私、前からずっと気になっていたんですけれども、腹臥位によるHRCTというときの「腹臥位」なんですけれど、点数表とかを見ると、麻酔のところでは「伏せる」という字で出ているんですけれど、これは、皆さんはどちらで普通。保険点数のレセプトでは、みんな「腹臥位」は「伏臥位」で書いておられるので請求されていると思うのですが、臨床的には、教科書的にはどうなんですか。L008という点数表項目を見ますと、みんな「伏臥位」は加算がつくわけなんですけれども。 - 酒井委員 臨床的には「腹」です。「伏」という字は、ほとんど臨床の場では使わないと思います。
それから、ついでに細かいことをよろしいですか。[4]のすぐ、画像の一番、下から2行目、「重量負荷」という言葉はちょっと不適切で、「重力効果」、重「量」ではなくて、「力」ですね。gravitational effectというのが英語の原語ですから、「重力効果」ですね。gravitational effectの訳だと思います。 - 森永座長 「重力効果」に直すということですね。そうですね、「量」が「力」ですね、確かに。
ほか、ご意見ございますか。
それでは、今までのところで、石綿肺を追加するためにはどういう課題があるかということを整理をしてきたわけですけれども、委員の先生方は、石綿肺を救済法の中に追加することについての意見に反対する先生方はだれもおられないわけで、ただ、どのようにして認定をしていくかと。どういうふうに行政的に取り組んでいくかということには、いろいろ課題があるのだということを整理して、それをクリアしていかないとなかなか難しいということを明らかにした報告だというふうに理解していただいたらいいと思うんですけれども、まず、申請者、これは石綿肺の診断については、どこの教科書にも、石綿の曝露量をきっちりと把握する必要があるというのは、もうどこの教科書にも書いてあることなのですが、いわゆる申請者の過去の石綿の曝露の作業歴をどういうふうにして確認していくかという課題が一つあると思います。それについてどうしていくかということについて、ご意見ございますか。
これは今年度の、一つは石綿肺の調査で研究班を立てていますので、その中で、事例を集めて、職歴を検討していくということを既にスタートさせましたので、それでひとつクリアしていこうかなということだと思います。それから、海外での取り組みですね。特にベルギーは、今、石綿肺を救済に取り入れていますけれども、どういう形で取り入れているのかということを調べて、それを参考にできるかどうかですね。それから、社会保険事務所などで職歴の問い合わせを監督署はしているわけですけれども、それも同じような方法で確認できないかというようなことを少し調べる必要があるということですね。
ほかにBALの問題もありますが、特にベルギーはBALを積極的にどうもやっておられるみたいなんですけれども、BALの方もいろいろ安全の問題等、なかなかクリアする課題が多いんですけれども、これも今年度の調査でスタートさせるという、そういう考えですよね、事務局の方。 - 佐々木補佐 はい。さようでございます。
- 森永座長 ですから、要するに各個の曝露の問題はそういう形でクリア、曝露歴の把握はそういう形でクリアできないかを取り組んでいるという状況だということです。
それから、次の呼吸機能の評価の問題ですけれども、これもなかなか大変な問題でして、これもあわせて今年度の石綿肺の調査の中で取り組むという理解でよろしいですね。 - 佐々木補佐 はい。
- 森永座長 もう一つは、もう韓国では、基準値を韓国人のデータでやっているわけですけれど、日本はまだボールドウィンの式でやっていると。ここのところも既に呼吸器学会で基準値が出ていますので、それをどう組み入れたらいいかということですね。これも研究班の方で今始めているということだと思いますけれども、そういう形で進めていくしかほかに方法はないですよね。
- 三浦委員 今、日本人の基準値を入れた肺機能検査の機械が、もうかなり生み出されていて、むしろ古い機械の方は、それがコンピュータ上入っていないと。簡単に選択できるのもあれば、できなくても最初から日本人のデータが組み込まれているやつが標準として出されているので、混在していますので、やはりここできちんと、もう日本人のデータを基準にする方をメーンにしたきちんとした調査を一度やっておいた方がいいと思いました。それはスタートしていますよね。
- 森永座長 それから、まだ呼吸機能の問題と同時に、合併症の問題も出てくるんですけれども、これもあわせて文献調査も今年度始めるということでよろしいですね。なかなか気管支炎の問題は、石綿肺に特有な疾患ではないわけですから、ここのところの扱いはどうするかというのは非常に大きな問題になってきますので、これも文献でいま一度確認する必要がありますね。
石綿肺については、今言ったような問題、課題があるということであります。
それから、この検討会で良性石綿胸水やびまん性胸膜肥厚について、検討しなかったというか、実はできなかったわけでありますけれども、前のとき以降に、新しい知見というのはなかなか集まってこないのが今現状でして、それは補償サイドの方で集めたデータがあるだけということですので、これはもう少し時間をかけないと仕方がないなということになるのかなと、私の方では思っていますけれども、そういう対応でしか仕方がないですよね。
石綿の救済法では、第2条の3で、環境大臣は、政令の制定、改廃に当たって立案をする場合は、中央環境審議会の意見を聞かなければならないこと、ということにされていますので、石綿肺の追加の課題をこの検討会では整理しましたので、できるだけ早く、中央環境審議会の方で検討をしていただくのが次の段階だということになると思いますので、そちらの方で対応を考えてもらうということで、今までまとめた要約を最後につけて、今言ったような課題にどこまで今の石綿肺の研究班等で答えが出せるかということにも関係しますけれども、それを待つこともなく、とりあえずは課題を整理して、この4の方で課題をこれまでの検討したことのまとめと課題を取りまとめて、4にそういう形で取りまとめて、一応、とりあえず検討会の報告書のまとめにしたいというふうに思いますけれども、委員の先生方、それでよろしいですか。
(異議なし)
- 森永座長 事務局の方もそれでよろしいですね。
では、次回までに病理のことを入れて、病理は鑑別にできることもあるけれども、むしろできないことの場合もあるし、それを病理の所見をメーンに考えるのはやっぱり難しいというようなことでいいですよね。しかし、そこに抜けているのはおかしいので、きちんと入れておくと。それと、先ほど井内委員の方から指摘のあった、間質性肺炎の分類を、最新のアメリカとヨーロッパの呼吸器学会のコンセンサスのレポートを取り入れて、ここのところを少しすっきりさせると、そういうことですね。
ほかに何かご発言ございますか。 - 坂谷委員 冒頭、座長がおっしゃったように、3ページの本検討会においてもこれに倣い、大量の石綿への曝露があって、じん肺法に基づく胸部単純エックス線写真像の分類が第1型以上のものを石綿肺と定義し、検討を行った。これが基本ですね。それで、その中に、CTとか病理とか、ほかのデータも、それからBALの所見とかを含めて検討した結果、石綿肺でなかったと結論されたものがあったか、なかったかということは書かれておりますか。
- 森永座長 そこのところは、ちょっと触れるのを忘れていましたが、4ページのところで、真ん中のあたりに、環境省のリスク調査で問題になった例を検討した結果が、11ページ、12ページ、13ページまで書いてあります。実は、このデータは、一昨年の調査で得られたものを検討していますので、実は昨年度やられたものも、新たに何例かが集まってきているとは思うんですけれども、それの検討もやった方がいいですか。
- 坂谷委員 いや、何を申し上げるかというと、今までの救済法の方で、申請者及びそれをサポートする医療従事者の方から、肺がんである、中皮腫であるということで申請が上がってきたものの中に、違うものもかなりあったわけですね。同じようなことで、一人親方であろうとも、とにかく石綿肺であると診断された、画像所見で1型以上であるということで申請が将来上がってくると。それを今やっているのと同じようなパネルでもって、改めて診断をやると。そのときに、病理の所見がなくてもいいんですけれど、少なくとも曝露歴を慎重にもう一度とり直しをすること。それから、画像のCTがあった方がいいですよという話。それから、機能の評価のこと、これはペンディングに残っていますけれど、環境省独自にはならないですけれど、とにかく機能の評価で、著しい障害があることをどの点で判断するかということ。それから、病理もそうですが、BALの方は書かれているわけで、8ページに書かれておりますが、得られれば、それを参考にすること。それから、合併症をどうするかということ。改めて判断するわけですけれど、一人親方で、厚生労働省の方の判断にのっとれば、石綿肺であるとされるものが、環境省では違うと判断されることがあり得るということは間違いないですね。
- 森永座長 それは、しかし厚生労働省で石綿肺と診断されたものについては、それはそのまま認めたらいいと思いますけれどね。
- 佐々木補佐 厚生労働省で石綿肺と診断されることがあるんでしょうか。多分、じん肺として確定診断されると思うんですけれども。
- 森永座長 それは石綿肺という診断をしていないですね、確かにじん肺診査会では。じん肺というだけですね。だから、石綿肺ということについては、改めて確かに診断し直す必要があるということになりますね。訂正します。じん肺の診断はありますけれど、石綿肺の診断はないということですね。
それでいいですよね、岸本先生。坂谷先生、そうですよね。 - 坂谷委員 いや、氷山のてっぺんでは、じん肺ということになっているんですけれど、水面下では石綿肺か珪肺か、mixedか判断が入った上でのじん肺という診断です。どれかわからないけれどじん肺だということはないですよね。
- 森永座長 でも、それは石綿肺としては上がってこないですよね、統計上は。
- 坂谷委員 それは確かです。
- 森永座長 逆に言うと、じん肺診査医会で、あなたは石綿肺ですよという証明書は出てこないということなんです。オフィシャルには「じん肺」としか出てこない。こういうことですよね。
- 坂谷委員 そのとおりです。だけど、ということですけれども、まさか珪肺がこっちの方へ流れてくることはあり得ないですね。
- 森永座長 それはあり得ますよ、解体業は両方ありますから。
- 坂谷委員 具体的な例を挙げると、そういうことになるわけですね。なるほど。そうすると、申請者の方では、それからサポーターの方では、石綿肺に属するじん肺であると。逆ですか。じん肺と評価されたけれども、石綿肺であると思うから、環境省へ持って上がったと。ですけれど、石綿肺ではありませんという評価がこちらでは判断が出ることがあり得ると、こういうことですね。わかりました。
- 岸本委員 作業歴とすると、解体もそうですけれど、築炉作業なんかもそうなります。だからアスベストとほかの粉じんを吸う職場というのはあるので、そのあたりは判断が慎重でなければならないと思います。
- 坂谷委員 慎重というか、難しいですね。
- 森永座長 だから、職種を絞るという考え方もあるわけですよね。ベルギーは、どうもそういう考え方をとっているみたいなので、それもやはり参考にしないと、するべきだろうとは思いますけれども。
また、課題としては、環境省の方で以前に行われたリスク調査の昨年度分も、できるだけ委員の先生方でもう一度レビューしていただくという作業をやって、もう少し、一般環境下で本当に出ているのか、出ていないかは、数は多ければ多いほどいいわけですから、それはその作業をやって、それを踏まえて、その間に、少し病理の記述も入れて、だけど最終的には病理の判断を優先して使うことはないという、そういう考えは皆さんの委員の先生方、一致するわけですよね。だからそういう形で入れて、この報告書をまとめていくということでよろしいですね。
よろしいですか。では、日程的には、レビューをする日を1回入れていただいてというスケジュールで、ちょっときょうは皆さんも小委員会の方でお忙しい先生ばかりですから、また後で日程調整していただいて、それを踏まえてやるということでいきたいと思います。よろしいですか。
きょうは参考資料が、IARCの参考資料が回っていますけれども、何かこれについて、委員の先生方、コメントがございますか。 - 井内委員 新しいIARCのレポートで、larynxとovaryがアスベストの発がん性によるリスクで発生するということが書いてあるんですが、実は先年、IARCでアスベスト関連悪性腫瘍の各国別頻度と将来予測というワーキンググループに参加してきたんですが、そのときに、既にこのlarynxを対象にするか否かで、各国の委員の間でかなりの議論がありました。それで、私は、その時点の皆さんの議論は、確かに疫学的な調査ではそういうデータはあるのかもしれないけれども、larynxを今取り上げて議論ができる状況ではないというふうに委員の間でコンセンサスがあって、それ以上の議論はなかったというふうに承知しています。
このレポートを書いたグループと、私の入っていたワーキンググループのメンバーは一致しませんので、ちょっとこのレポートが出たことに、ちょっと奇異な感じを受けました。
それから、ovaryについては、これは腹膜中皮腫との鑑別が大変難しいというのは、常にこれまでの環境省でやってきました判定会でもしばしば問題になったところでありまして、ovarian tumourそのものが、一番頻度の高い漿液性腫瘍、つまり卵巣の表面の上皮というのは全く腹膜と親戚関係にある上皮なものですから、起こっても悪くはないと思いますけれども、これが本当に卵巣がんとして認定できるものなのかどうかということについては、私自身は、これは全く個人的見解ですけれども、疑わしいというか、そのアスベスト障害によって選択的に腹膜中皮ではなくて卵巣の表層上皮ががん化するということについては納得しがたいというふうに思っています。
ですので、このレポートそのものは、疫学的な調査に基づくものであって、私自身の経験と自分の考え方で言えば、この二つを大変大きなリスクとして入れているということには、余り賛同できないというふうには思っています。
以上です。 - 森永座長 ほかの先生方、何かご意見ありますか。
- 坂谷委員 mesotheliomaそのものだって、1対1で石綿が関係しているわけでなくて、それ以外の原因もありますね。肺がんはもちろんのこと、環境省の判定でも、肺がんのたばこの方に責任があるのか、石綿の方に責任があるのかということは、もう常識的でありますが、このlarynx、ovaryも、石綿も原因かもしれないというふうにとるべきであって、larynx、ovaryの腫瘍が、即、mesotheliomaのように石綿に主たる原因があるということはちっとも書かれていないと思うんですよね。ですから、larynxのがんが石綿の曝露歴がある、石綿に原因があるというふうになるはずがないと思いますけれど。ovaryはもちろんのことであります。
- 森永座長 しかし、IARCが言っていますから、一応、どこかでは見直しは日本でも検討はした方がいいとは思いますけれども、私も個人的には、この引用文献の6番のAchesonのデータは、死亡票に基づいていますので、mesotheliomaの登録でやっているわけではないので、ovarian
cancerとmesotheliomaのところは非常に難しい、そういう疫学調査だとは思います。larynxは、高濃度曝露では高いという報告がありますので、これは、イギリスはリスクが大きくないから、因果関係はあっても補償の対象にしないという考え方をとっていますけれども、これはそれぞれの国の事情で考えたらいいことなので、今すぐに救済法に取り上げるという話ではないという考えでいいんじゃないかなと思います。まずは石綿肺をどういうふうに入れて、どういうふうに認定作業を行うのかということが、まず第一の議論で、それに引き続いて、今までだとこの中皮腫と肺がんは5年ということになっていますので、それをさらにどうするのかという問題が、医学的な課題としては、そこの問題があります。それから、ほかの疾患についてどうするのか。それから、そのあたりのことも含めて、一応5年以内に見直しということになっていますので、もう今からでも始めないと、十分な議論が尽くせないということになると思いますので、平成17年のときは、11月にスタートさせて、2月の初めという、非常に短期間に迫られて、とにかく肺がんと中皮腫だけでも何とか救済法の疾病に入れて、認定基準も考えてと。普通、幾ら何でも3カ月というのはちょっと無理なんですよね。そこのところは、無理なことを承知で、しかし仕方なく走ってやったところがございますから、それも含めて、すべての法律を5年見直しというのはかかっていますけれども、この救済法については、認定の期間が5年ということもありますから、そこのところもどうするかも考えなければならないし、いろいろ課題がたくさんありますので、だけど、それはまた一度に全部やるというのは、実質上、はっきり言って、石綿の専門家というのは少ないわけでして、なかなかたくさんの方で、それが一度に処理ができるというような現状ではないので、これはやむを得ないところもありますので、その辺はご理解いただいて進めていくしかないということで、一旦は、石綿肺を追加することについては、委員の先生方全員賛成しているわけですから、ただ、それをどう実際に運用させていくかというところでいろいろ課題があるので、それを一つずつクリアしてやっていきましょうという、そういうことですから、ご理解をいただいて次に進むという理解で、あとは昨年度の環境リスク調査の部分のフィルムもレビューをして、それもできれば報告書に取りまとめて、この検討会を終わりにしたいというふうに考えています。
ほかの委員の先生方、よろしいですか。 - 坂谷委員 班の報告と関係なく、蛇足的なことですが、石綿肺については、中皮腫や肺がんのように簡単ではないと思います。調査研究が始まりまして、その班長を仰せつかっておりますが、石綿肺そのものを対象疾患に入れることは、座長がおっしゃったように異存はないと思われますが、どういうものを取り入れるかということに関して調査が始まりますが、曝露歴の問題でありますとか、機能評価の問題でありますとか、BALの取り扱いでありますとか、病理像の取り扱いでありますとか、合併症でありますとか、複雑きわまりない部分の調査が入りますので、かなり慎重にたっぷり時間をかけて、正確なデータを集めたいと、こういうふうに思っております。
- 石川委員 このIARCのレポートについて、ちょっとご質問というか、ご存じの方がおられたらなんですが、裏面に、ovarian cancerがなぜアスベストと関係あるかということの根拠として、論文は6番、7番が引かれているんですね。6番は27年前の論文で、7番は13年前の論文なんですね。何でこういう古い論文を引用して、今回、2009年になぜ新たにこういうことが出てきたのか、ちょっと奇異な感じなんですが、ご存じの方がおられたら。
- 森永座長 これ、石綿に詳しい人が余りいないと思うんだよね、このメンバーを見ると。
- 三浦委員 よろしいですか。要するに6番は、根拠はメタ解析を使った文献が1個しかなかったと、僕はこれを読んだときには考えたんですね。その根拠として、卵巣にアスベストの繊維がありますよというのが、その下の根拠なので。ただ、全身の臓器、ほとんどいろんなところにアスベストの繊維が集まっているわけなので、だからovariumだけに、ほかにはない量が集まっているとは言っていないと思うんですよね。ovariumにはアスベストが集まっていますとは言っているけれども。そうすると、余り、それこそ1個しかない疫学的なデータ、しかも委員長の話だと、死亡小票に基づいた何かそういう、診断根拠はそんなに確かではないものをベースにしたデータがあって、ただ、それがあれば、今のメタ解析の世界では、1個があれば、ほかになければ、対抗馬がなければ、その1個でも物が言えてしまうというところがあると思うんですね。それでしようがないから、卵巣にアスベスト繊維が集まっていますよというふうに、それをくっつけたんじゃないかなと、僕自身はこれを見たときには思ったんですけれども。
- 森永座長 しかし、一応はどこかで吟味はしたらいいとは思います。このAchesonの論文は、たしか「石綿・ゼオライトのすべて」で引用していたと思うんですけれど、私が。クロシドライトが軍用のガスマスクに使われていて、市民用がクリソタイルのガスマスクで、この疫学調査では、クロシドライトの曝露の方に非常に高いんですよね、中皮腫の死亡が。ですから、これはmesotheliomaでおかしくないんです。だけど、一応、もう一度吟味してみたらいいとは思います。どこでするかがまた問題ですけれども。アスベストをやっている人は余りいないですね、このグループではいないので、その辺の問題もあるのかもわかりませんけれども。
私の方から、だれも委員の先生言わなかったから言いますが、この見直しのことについては、できるだけ公聴会か何かヒアリングを一回設けて、いろんな立場の人の意見も聞く機会を一度つくっていただいて、それでこの改正の話をいいものにしていった方が私はいいかなと思いますので、一律全員月10万円でなくてもいいと思いますし、もっと中皮腫なんていうのは本当に悲惨ですから、その辺のことも含めて、全体のせっかくの機会だから、石綿肺だけではなくて、もう5年後の見直しというのは今からやらないといけないので、公聴会等も含めて、一度考えていただいたらと思います。
ほかの委員の先生方、何かご意見ございますか。
(なし)
- 森永座長 なければ、最終の案を次回にご提示すると。きょう、いろんな議論がありました。特に病理のことも含めて追加をして、今までの議論のまとめと、あと、どういう課題があるかということを、少なくとも箇条書きぐらいまでにはできるようにして、そこに昨年度の環境リスク調査のレビューも入れてまとめるという形で、この検討会を終えたいと思いますが、よろしいですか。
それでは、少しまだ時間が早いですけれど、これで終わらせていただきたいと思います。
では、これで第5回検討会を終わりたいと思います。皆さん、どうもご苦労さまでした。
午後7時40分 閉会