環境省水・土壌・地盤環境の保全土壌関係中央環境審議会等における検討中環審答申及び検討会土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会

土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会(第3回)会議録


1.日時

平成13年2月20日(火)14:00~17:00

2.場所

日本海運倶楽部303号会議室

3.議題

(1)諸外国における土壌汚染対策制度について
(2)関係者からのヒアリング
(3)その他(次回の日程等)

4.出席者

(委員)
大塚 直 委員 河内 哲 委員 嶌田 道夫 委員
高橋  滋 委員 谷川 義夫 委員 中杉 修身 委員
野口 基一 委員(岸川 神奈川県大気水質課課長代理 代理出席)
林 裕造 委員 原田 尚彦 委員 細見 正明 委員
松村 弓彦 委員 吉田 文和 委員
(事務局)
石原 一郎 水環境部長
福井 雅輝 水環境部企画課長
仁井 正夫 水環境部水環境管理課長
伊藤  洋  水環境部土壌環境課長
小柳 秀明 水環境部土壌環境課地下水・地盤環境室長
内藤 克彦 水環境部土壌環境課農薬環境管理室長 他
(事務局補助)
高畑 恒志 (株)エックス都市研究所第二研究本部地域環境計画室長
(ヒアリング対象者)
廣田 裕二 (財)日本不動産研究所研究部主席研究員

5.配付資料

資料3-1 土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会委員名簿
資料3-2 諸外国における土壌汚染対策制度について
資料3-3 関係者からのヒヤリング資料

6.議事

【事務局】 ただ今から土壌環境保全対策の制度のあり方に関する検討会(第3回)を開催する。
 まず、本日の配布資料を確認する。(配布資料の確認)
 本日は野口委員からはあらかじめ御欠席の連絡をいただいているが、代理として岸川課長代理に御参加いただいている。また、吉田委員が御出席されているので、御紹介する。
 本日は、資料3-2の作成に当たり、事務局とともに作業いただいた(株)エックス都市研究所の高畑室長にも事務局の一員として参加していただいている。
 では、座長に議事進行をお願いする。

 (1)諸外国における土壌汚染対策制度について

【座長】 それでは議事次第に従い議事を進める。
 まず、本日の議題(1)について事務局に資料の説明をお願いする。

【事務局】 (資料3-2に沿って説明)

【座長】 本検討会の委員には、諸外国の法制度について研究されている方もいらっしゃるので、ただ今の説明に対して補足あるいは論点の整理など、若干コメントをいただきたい。最初に米国関係をお願いする。

【A委員】 簡単に4点について補足をさせていただく。1つ目はスーパーファンド法の全体構造について、2つ目は責任関係についてである。3つ目に、スーパーファンド法にある和解制度とブラウンフィールドに関するイニシアティヴとの関係の議論がその後かなり広がっているので、これについて簡単にお話しする。4点目としては、情報開示について簡単に申し上げたい。
 まず、全体の構造についてである。先ほどお話があったように、環境保護庁(EPA)は、土壌汚染があった場合に責任者に対してどういう方法で浄化させるかについて、裁判所に訴えて浄化させる方法と、責任当事者に対して直接行政命令を出す方法の2つがある。2つともスーパーファンド法に規定されているが、通常は後者が用いられているということを申し上げておきたい。
 それから、有害物質は当初より決められており、その種類については先ほど説明があったところである。しかし、有害物質として決められていない物質についても、汚染物質・汚濁物と呼び、公衆衛生あるいは福祉に差し迫った重大な危険を与え得るという場合には、詳細調査の対象になるというふうに規定されている。つまり、有害物質とは別の汚染物質・汚濁物という非常に広範囲な概念があって、そのような物質によって公衆に対して重大な危険を与えるというような場合には、詳細調査をしなければいけないということである。米国特有の話だと思うが、法制度の構造として多少重要な点かと思う。
 2点目の責任については、先ほど説明にあったように、簡単に言えば、潜在的責任当事者には4つの類型がある。米国の特徴は、原因者といった書き方ではなく、土地所有者あるいは管理者としている点が大きいのではないかと思う。これ以外にも親会社と融資者が入る。融資者がどの程度含まれるかについては、EPAが規則を定めているが、裁判所で無効と言われ、改めて法律を作るという動きがあるが、相当広い範囲で責任を認めることになっている。その責任の制度については、厳格責任、つまり無過失責任であること、そして連帯責任であること、因果関係についてもかなり緩やかに認めるという、責任制度としては非常に広いものになっている。一つ注意しておかなければならないのは、1986年のSARAによる改正の際、善意の購入者の抗弁が規定に入った。つまり、汚染地を購入したが、有害物質が処分されていた事実を知らず、かつ知らなかったことについて過失のない場合は、責任を免れるという規定である。ただ、裁判所はこれを余り広くは認めていない。相続あるいは贈与の場合は比較的認めている場合もあるが、非常に厳格に適用しているが、条文上はそのような抗弁が認められている。善意の購入者の抗弁というものがあることも重要な点ではないかと思う。
 それから3点目の和解についてだが、これは1986年のスーパーファンド法の改正の際に入った規定である。行政庁、EPAと当事者との間で費用負担について和解をすることができるという規定であり、例えば訴訟を提起しない和解や、汚染の寄与度が小さい者に対して、支払えば責任を免除するという和解である。これは責任制度全体との関係でいえば、非常に小さいことのようだが、それなりに重要性を持っていると言わざるを得ない点がある。資料3-2にあるように、EPAが1993年にブラウンフィールド・イニシアティヴを発表し、95年から正式に開始したが、ここでも和解などの問題が非常にクローズアップされている。ブラウンフィールドとは放棄されているあるいは十分に利用されていない、工業用あるいは商業用の土地である。環境汚染によるリスクのために生産的な使用ができなくなった土地がブラウンフィールドであるが、このような土地は、連邦の会計検査院の調査によると65万ぐらいあるということで、非常に大きな問題になっている。そのような土地の所有自体が開発業者、融資者あるいは一般企業から敬遠されるため、土地が放棄されてしまい、有効利用が図れないという問題がある。スーパーファンド法ができたにもかかわらず、むしろ法ができたために、そういった問題がますます出てきてしまった。そういった土地では、売買がそもそも成り立たなくなる。もちろん浄化をしてから売却すればよいのだが、浄化ができないとそのまま放置されるという問題があり、そのため各州でブラウンフィールドについての法律も制定している。EPAのブラウンフィールド・イニシアティヴは、具体的にはEPAとブラウンフィールドである土地を購入する予定の者との間で、訴訟は提起しないという念書を交わすものである。例外はあるが、原則として提起しないという内容の念書を出し、それとともに土地の浄化をさせているようである。訴訟を提起しないという念書によって、EPAが本当に訴訟を提起する権限を放棄するわけではなく、不測の事態が発生した場合あるいは修復が十分でない場合には交渉を再開するという条項が含まれているということである。そのため、全くEPAが自分の武器を失ってしまうわけではないが、そのような方法によって、土地の売買を進めながら、浄化も進めるということが実際に行われているのである。
 スーパーファンド法自体は責任については非常に厳格かつ範囲が広いが、ブラウンフィールドに関しては、このような補充をして運用しているのである。この点については、我が国ではあまり知られていないが、重要な点ではないかと思う。
 4番目の情報開示については、スーパーファンド法では、売主が買主に対して汚染の存在について情報を開示する義務が特に規定されていない。しかし、汚染地の処理をする場合は、その土地の所有者あるいは管理者は、検出される有害物の量や種類についてEPAに通知する義務があるとスーパーファンド法上規定されている。

【座長】 引き続きドイツ関係をお願いする。

【B委員】 1点目は、連邦法であるドイツの土壌保全法をどう見るかということである。まず連邦制であるため、従来までは州それぞれで対応してきた。例えば先ほど説明があったとおり、昔からドイツには州ごとに一般警察法があり、新しい問題についても大体は一般警察法で対処してきた。土壌汚染についても一般警察法で扱ってきた州が多かったということである。それ以外にも個別法として廃棄物処理法、水循環に関して水管理法といったものがあるが、さらには、それでは不十分であり、州ごとに対応がばらばらになっていたため、90年代に土壌そのものの法律をつくろう、思い切って統一しようということになった。そのようなドイツ特有、連邦制特有の問題がある。これは我が国には余り参考にならないが、いわゆる警察法の保護範囲が非常に狭く、やはり基本的には生命や公の秩序の侵害にしか対応できず、廃棄物処理についても、地下水汚染についての水管理法も非常に扱える範囲が狭いため、土壌そのものを把握して、汚染対策を進めることが必要だということで、州から連邦に発展してきたという歴史があることが、ドイツについて検討する場合の参考になるのではないか。
 ドイツの場合、土壌そのものの機能の保護を重視している。行政側は、警察法の執行範囲を特別法で拡張したと説明している。そのように土壌そのものの機能を保護機能としてきちんと位置づけているのが特徴の1つだろう。
 次に、義務者、すなわちどのような者に汚染への措置を命ぜられるかという点だが、これも警察法の伝統に基づき、いわゆる汚染行為をした者が警察法上の責任を持つという行為責任という考え方と、危険物の管理者が責任を負うべきだという状態責任の2つの考え方がある。この義務者の考え方もこの2つの法律、ドイツの連邦法、すなわちドイツの法制の考え方にある。
 問題は、我が国でも行為責任と状態責任は個別法の中にはかなり取り入れられているが、原則的には行為責任なのだが、この法律の特徴は、やはり米国のスーパーファンド法を意識して、行為責任者の概念を若干拡張していることだろう。第18条等で、いわゆる法人、つまり汚染行為を行った法人について、商法上や会社法上様々な責任を認定できる別個の法人についても浄化責任を拡張している。例えば支配会社で、子会社が汚染行為を行った場合に、その支配会社に責任を拡張する、さらには法人格否認といったことがある。例えば汚染された土地だけを分離して、その汚染された土地だけを所有する子会社をつくって分離したような場合も責任を拡張するというやり方を取っている。ドイツは米国のスーパーファンド法を参考にしたわけではないと言っているが、事実上それに似た責任の拡張を別の論理で達成しようとしている点が特徴だろう。
 さらには古典的なドイツでいう状態責任ということで、土地の所有者等についても補充的な責任を認めている。
 3番目に、ドイツで特徴的なのは、やはり浄化目標である。オランダ等では多機能性を確保するために土地の用途にかかわらずに浄化するという問題意識が強かったが、ドイツの場合は、土地利用に応じた形で浄化を進めるという考え方が強いという点がもう一つの特徴だろう。
 資料3-2の16ページには、30万箇所の汚染跡地があると紹介されているが、以前に聞いたところによると、これは単なる書類上の手がかりがある土地だということである。つまり、例えばクリーニング業者がかつて営業していた跡地等を汚染跡地として推定しようということであり、30万箇所のすべてが汚染されているわけではなく、単なる統計上の把握のための数字ということである。
 最後に、ドイツのもう一つの特徴は、調査とその結果のデータを台帳として整備することが制度として確立していることである。資料3-2の22ページ以下にあるが、調査と台帳の整備についての規定を置き、州にその整備を要求している点が特徴だろうと言われている。

【座長】 では、オランダをお願いする。

【C委員】 では、オランダについて、我が国の制度を考える上で参考になりそうな点及び参考にはならないであろう点に絞って補足する。
 第1は法制度の成り立ちについてだが、当初は暫定法で公的負担によって浄化を行い、その費用を原因者に対して償還請求するものだった。この償還請求に民事法上の私法上の不法行為、不当利得という制度を使ったため、要件事実等の関係で、例えば行政庁に対する不法行為の要件として過失が成立するかといった点から、最高裁判所は1975年以前についてはその要件が一般的に存在するとは言えないとし、証明責任を転換する形で事実上、償還請求を認めなかった。こういう契機があるが、そういう制度と公法上の浄化義務、費用負担責任というものとが2つ加わっているという点が、オランダの制度の歴史の特徴である。したがって、当然のことながら1975年以前に原因があった汚染については、現時点では償還請求の道がないため、法制度の変更によって手当てをすることが検討されている。
 この点は逆にいうと、我が国の制度を考える場合、このような私法上の請求権を認める制度は、余り参考にならないと思う。ドイツの場合は規定がないが、遡及を考えている。その遡及は不真正遡及という考え方である。現時点において土壌が汚染されており、一定のリスクを持っている場合、これが責任原因であるから、現時点でそのリスクが存在する以上、遡及に当たらないという論理構成をするわけだが、こういった制度の方が優れていると言えると思う。それに対してオランダは反省点がある。
 第2点の責任については、これもドイツと対比されるが、原因者、土地所有者あるいは長期契約者が責任を負うが、当該土地の所有者の責任は善意であることの証明によって免責されるという制度がある。ドイツの場合には条文上、責任範囲の限定がない。そのために善意で土地を取得した土地所有者の責任範囲は解釈に委ねられる。条文上は責任がある。しかし、所有権補償との関係で、昨年、そういった善意の場合は、土地の価格を超えて責任を追わせてはいけないという連邦憲法裁判所の判決があり、ここを解釈に委ねた。それに対してオランダでは、善意の証明によって免責するという制度を置いたという特徴がある。
 3点目は浄化目標である。目標値そのものは一昨年か昨年に変更があった。当初、完全浄化を目標として進めており、そこで行き詰まった。時間の問題、コストの問題で行き詰まって、結局ドイツ型に近い、土地の用途を考えた浄化目標に変更した。これもやはり一つの反省点として、我が国は考えておいた方がよいだろう。
 第4は、浄化責任あるいは調査において産業界の自主的な努力を大変活用していることである。これは、産業界から純自主的に行おうとしたわけではなく、ある程度政府との間の交渉を経て実施しようという経過がある。BSBのシステムあるいは地下のガソリンタンク等についてはSUBATというシステムがあるが、産業界が自らの資金で浄化を行う際は、こういった法律上の義務に基づかない制度を大変うまく活用している。
 最後に5点目として透明性の問題がある。汚染情報の収集及び公開については、かなり積極的である。BSBの制度もそうであるし、この法律の下で調査に関する命令があるが、1989年以前に設置された施設の設置者について概況調査を義務づけている。あるいは土地上の建築物の許可、日本でいえば確認申請なのだろうが、この段階で概況調査を義務づける等の形で情報を積極的に収集し、登録制度に乗せている。項目によっては不動産登記簿に記載するという形で土地取引の公正を図っている。
 もう一点、浄化計画を策定する上で市民参加という制度を想定しており、透明性が大変高い制度であることを注目しておきたい。

【座長】 では、事務局からの説明と3名の委員からのコメントについて、質問等あるか。

【D委員】 ドイツは表層的な土だけを対象にしている点について、水管理法における地下水の管理との関係はどうなっているのか。特に、例えば土地利用的な点からどういう仕分けで処理されているのか。

【事務局】 水や地下水源等についてはそれぞれ計画が策定され、地域が指定されている。都市計画法とか国土利用計画の方ともリンクしており、そちらでも重要な地下水源になると、指定された部分については水の規制を適用し、そうでない場合には土壌保全法あるいは廃棄物の施設管理等の有害物質を扱っている法律を適用する、と理解している。

【B委員】 実は、これにはドイツ特有の問題がある。水管理法は州が基本的な権限を持つ法律である。土壌保護法は、連邦がかなり強力に統一したもので、連邦の権限と州の権限をどう調整するのかという法律上の問題が出た。基本的に、土壌起源の水質汚染については土壌保全法で対応しているが、このために州法をかなり逸脱し、州の権限を侵害することになるため、浄化基準は州法で定めている水質浄化基準を採用し、法制度としては、土壌起源の水質汚染は土壌保護法で扱うといった形で連邦と州の関係を調整したと理解している。

【E委員】 ただ今のD委員の質問に関連して伺う。基準だけ水質のものを用いると、土壌については溶出試験等がメルクマールになるだろうが、それを用いて土壌浄化を完了させても、地下水は浄化されていないという事態が必ず起こり得る。このようなことに対して具体的にどのような措置をとっていくのだろうか。

【事務局】 基本的には、ただ今のB委員の御説明のとおりであるが、水管理法の規制だけではなく、州と相談して修復計画あるいは対策計画といったものを策定する。策定の段階である程度、土壌の浄化目標や水質の浄化目標を決め、それに対して取り組むという形であると理解している。

【E委員】 ドイツでは土地利用に絡めて浄化目標を決めるという話だが、土地利用の変更等をどのように整理しているのだろうか。現時点の土地利用と将来とでは全く異なる可能性があるため、その点が最も難しい問題ではないかと思うが。

【事務局】 ドイツの都市計画法は、日本の都市計画法と比較して非常に厳しい。まずDプラン、Fプランというものがあるが、その詳細計画で定めた土地用途はほとんど変更できない。そのため、ブラウンフィールドのような都市内の工業用地についても、土地計画の段階で、商業地域に変更することになった場合は、その土地を徹底して商業用地に変更してしまう。そういう場合は、商業用地への変更によって町の活性化等の経済的効果もあるということで、ある程度は公的資金を用いて修復する意味があるという理解がドイツはじめヨーロッパで進んでいる。その背景には、EUでは91年か92年に、自然環境の多様性の保護に関する指令においても、未開発の自然の緑地等を新たに開発して自然環境を喪失するより都市内にあるブラウンフィールドを活用すべきと、EUの閣僚会議等で共同案として宣言されており、それを受けてEUの加盟国がそれぞれ国内法の中でブラウンフィールドの開発を促進するというような仕組みになっている。

【E委員】 浄化を行った者は現在の土地利用に関する浄化を行えばそれで責任は果たしたことになり、その後で土地の用途が変更される際は公的負担で行うといった割り切った形ということか。

【事務局】 例えばベルリン市では、飽くまでも現在使われている状態で対応していればよいと以前伺ったが、詳細については把握していない。

【C委員】 E委員の御指摘は、絶えず議論になる問題である。まず、例えばドイツでは、ダイオキシン類についての話があったが、土地の用途によって子供の遊び場から工業専用地区まで4区分ある。最初に一番厳しい基準で対応しておけば、もちろん問題ないが、その逆の場合は、実態的には土地の用途についての計画変更という手続の段階で処理されると思う。土壌法の規定上の問題としては、現時点で例えば工業用地であれば工業用地に匹敵する目標値をクリアすればよいが、将来、例えばそこを住宅地に再開発する場合、その時点でもう一度出てくるという考え方であろう。ただ実際には先ほどお話があったように、計画変更の段階で行政上の手続が入ってくるので、そこで処理されることになる。したがって、費用負担としては、当然に公的負担になるわけではなくて、義務者は出てくると理解している。

【B委員】 ドイツはそういう点も計画上の規定に従って、第1章で基本的には計画上の指定に従って土地の利用・浄化についても考えていくことになっている。後はその枠内で処理している。それ以上の具体的な実務は分からないが、そういうことだと思う。

【F委員】 資料3-2の15ページに法の目的について書かれているが、どういうことか。一般の私有地も対象になるのか。工場跡地以外の土地であればどういったものだろうか。また、そのような土地であっても個人又は公共に対して危険、重大な影響を与えるようなものとなっているが、それはどういうものだろうか。逆に言えば、影響を与えなければよいのか。

【B委員】 この法律は、予防及び実際に起きた汚染の浄化の2つの基本的な部分がある。その場合、有害な土壌変更は、正に一般的な予防の部分も含む概念である。土壌の機能を阻害する変更が、幅広く有害な土壌変更として規定される。ただ、基本的に、それは予防義務の段階であり、実際に浄化する場合は、一定のレベル以上の汚染となっていなければならない。そこで、具体的には浄化であるが、一般公衆等に対する危険等が具体的に生じている場合に浄化の義務が発生するという形になっていくと思う。

【F委員】 対象地はどのようなものか。

【B委員】 すべての土地である。そのため、実はイエダーマンプフィースト(すべての人の義務)があり、16ページにあるように、あらゆる人間に対して有害な土壌変更を引き起こすようなことはしてはならないという、非常に抽象的、一般的な義務を課して、土壌の環境の悪化を一般的な形で防止しようとしている。この義務は罰則まであるような具体的な義務であるかについては、ドイツでは議論がある。しかし、少なくともそういった一般予防という形で徹底して土壌の質の悪化を防止し、さらにそれを超える具体的な一般の個人、公衆、土壌機能に対し、深刻な侵害があったときに、具体的に発動しようという形になっていると理解している。

【F委員】 すると、土地の場合、公共に対する重大な影響にはどういったものが考えられるか。水や大気に出てくるものはわかるが、それ以外の場合として、どんなものがあるか。

【B委員】 それは15ページに書いてあるようなことをすべて含む概念である。例えば非常に大規模な汚染があって、住宅用地には適さなくなる場合もあるだろう。さらには、資料に書いてあるとおり、自然的な水循環といったものに対し非常に大規模な汚染があって、水循環全体が損なわれるような場合は、発動の対象になるかと思う。

【F委員】 個人所有の土地が汚染された場合、所有者が自分の土地なので構わないと言った場合は対象でないだろうか。

【B委員】 それは要するに、土壌保全法の第1条に規定されている機能を阻害しない場合については、浄化の発動の対象にならないというだけである。

【C委員】 御質問の点は、恐らく日本の法制度からみると、非常に分かりにくいと思う。例えば水質汚濁防止法での地下浸透規制であれば、健康に対する影響やそのおそれを保護法益として動く。ドイツの法制度は、土壌の機能そのものを保護法益とする。当然人の健康も含むが、それ以上に土壌の機能そのものを保護法益として、これを侵害するような場合には、予防の対象にしていく。あるいは跡地汚染という概念があるが、これは工場の跡地あるいは廃棄物処分場の跡地であって、有害な土壌変更を伴うおそれがあるものである。このような概念は、私有地であれ、住宅地であれ、現在工場が操業中の土地あれ、一般に含む。ただし、B委員からの御説明のとおり、更に進んで行政庁から調査命令や浄化命令がくる。この場合は、具体的に、特定の物質について数字を決めて、調査の場合は検査値を超えた場合、浄化命令の場合には措置値を超えた場合となる。

【G委員】 米国のスーパーファンド法に対する評価は一番問題があり、経済学的にいうと、このような法律を作ったため、米国の風土もあって、裁判が非常に多発し、実際に浄化には使われず弁護士費用が増えたため、取引費用が非常に多くなったという批判がある。さらに、浄化が余り進んでいないという批判がある一方、非常に厳しい法律を作ったために土壌汚染抑止効果があるという議論もある。実際には95年に再々授権がされず、失効になっているが、以前私が米国で調査した際に、スーパーファンド法は廃止されず、固定されるだろうという議論があったが、その点についての見通しについてお聞きしたい。もう1点、米国の場合、連邦レベルでのスーパーファンド法というのは、言わばすそ切りをしており、連邦で扱われない汚染は各州でよく取り組んでいて、その両方をやはり見ておくべきだと思うが、州法レベルの問題への取組について、お教えいただきたい。

【A委員】 最初の点は非常に興味深い問題であり、今のお話のとおり、訴訟が多発したために、弁護士費用がかさみ、取引費用が増加したという議論がかなりあった。それが先ほど和解やブラウンフィールドに関して申し上げたことと関連する点である。NPLに記載された汚染地のうち、浄化が完了したものは非常に少なかったが、その後、浄化が完了したものがかなり増えたこと、NFRAP(No Further Response Action Planned)と言われているが、詳細調査をした結果、取りあえず汚染地とは扱わないということで、NPLから除外したものがかなりたくさん出てきている。そのため、昔に比べると、スーパーファンド法は非常に良くないという評価は少し変わりつつあるという感じがする。
 その中で、ブラウンフィールドに関するEPAのイニシアティヴや各種のブラウンフィールドに関する取組が、実際にはかなり有効に機能しているのではないかと考えられる。残念ながら、責任に関して極めて厳格に規定しているスーパーファンド法だけですべてうまくいったというわけではない。その上でブラウンフィールドに関する運用や州法があって、何とか進んできているというのがアメリカの状況ではないかと思う。
 スーパーファンド法自体については、再授権が進まないでおり、今後どうなるかという見通しはよく分からない。毎年のように新しい法律が議会に出るが通過しないという状況が続いているので、はっきりしない。最近、アメリカの環境法はほかにもそういうものがかなり出てきているような状況なので、スーパーファンド法に限った問題では必ずしもないのだが、先行きはよく分からない。
 各州のスーパーファンド法についても多少は知っているが、全体的な連邦のスーパーファンド法と各州のスーパーファンド法との関係については、また別の機会に報告することとしたい。

【H委員】 情報公開について、先ほどオランダでは不動産登記等に明記されている、インターネット等で検索ができるのだと伺ったことがある。ドイツではホームページ等で公表されている部分もある。あるいは米国では、TRI等といったところでは非常に情報公開が進んでいる。具体的に、どのような情報がどの程度まで一般の人が入手できるのだろうか。ドイツで私の聞いた限りでは、情報を買おうとするかなり強い意思の人に対しては、相当程度まで閲覧できるらしいが、一般の全く関係のない人には、そういう情報は見せないらしい。情報公開に関して、それぞれの国においてどの程度まで公開されているのだろうか。

【事務局】 米国の場合は、NPLのリストは、地図情報等も州政府で閲覧できる。

【H委員】 NPLとは、CERCLISのことではないか。

【事務局】 CERCLIS自体は公開されている。これは、環境局とEPAの地方部局で閲覧可能という形になっている。
 ドイツでは、州政府によって異なるかもしれないが、原則として汚染サイトの地図は一般公開されている。例えばベルリン市等では、都市計画の地図と一緒に公開となっている。ドイツの場合は、汚染地というより、汚染のおそれがある土地であり、それが赤く塗りつぶされた地図を市庁で閲覧できる。市民向けの環境白書を見ると、小さい地図が載っており、地図上での自宅の位置を把握していれば、自宅の状況を確認できる。
 オランダについては、一応原則として公開で、確か州政府で情報が把握できると聞いている。しかし、公開の対象範囲については把握していない。
 英国は、現在環境が地図情報のデータベースを作成しており、いずれ公開すると聞いている。しかし、英国は土地登記とリンクした情報の把握について1度法案化したが、議会で否認されたため、その後止まっていると聞いている。しかし、ウェールズ州等個別の州には、先んじて情報公開しているところもあると聞いている。
 フランスは、すべて情報公開することになっている。しかし、データベースが完成していないため、完成するまでは公開していない。2005年には作業がすべて終わるので、その段階でインターネット上で公開すると伺っている。
 デンマークも、大都市の周辺、特に飲用水源の保全域については、すべて公開と聞いている。
 台湾については存じていない。

【座長】 まだまだ御質問はあるかと思うが、議題(1)はここまでとする。

(2)関係者からのヒアリング

【事務局】 本日は、(財)日本不動産研究所の廣田主席研究員からお話をお伺いする。

【廣田氏】 資料として、先日当方が行ったセミナーの資料と、当研究所に関するパンフレット、資料3-3を使う。
 先日行ったセミナーでは、この問題への関心が高いということで、非常に多くの方が御参加されたが、本当に2年ほど前までには考えられなかった状況である。しかし、不動産鑑定業界だけではなく不動産の世界において、この土壌汚染の問題はまだ非常に認識不足だと思う。
 (財)日本不動産研究所では、2年ほど前から土壌汚染の鑑定評価手法の検討を行っている。
 今回は、不動産分野の中でも、不動産の価値を評価する不動産鑑定士の立場からお話をする。また、我が国と米国との比較を中心にお話ししたい。
 まず、不動産関連情報の差が非常に大きいことが挙げられる。米国では情報の透明性が比較的高い。少なくとも日本よりはかなり高いと言える。例えば、今、証券化等の議論があるが、数年前、ある米国系の企業は、日本ではオフィスビルの情報や地区の取引状況等の情報の入手が困難であり、日本の不動産市場は閉鎖的だと、強く不満を漏らしていた。2年ほど前までは、米国系の投資家などが当方に情報を求めることがよくあったが、最近は日本の状況に慣れたのか、あまりそういうこともなくなった。土壌汚染に関する情報についても、そもそも我が国の不動産業界が閉鎖的な上、土壌汚染は非常に微妙な問題であり、あまり公にしたくない情報であるため、ますます入手しづらくなる。
 我々は、土地の評価の際、主に3つの手法で行っている。1番目は原価法である。当該不動産を作る際のコスト面からのアプローチ法である。2番目は収益還元である。当該不動産から得られる収益から不動産の価値を元本と果実の関係で逆算する収益的なアプローチ方法である。3番目は、取引事例比較法である。対象となる不動産に対し、類似の不動産の市場で成立した価格をベースに取引事例から査定するものである。
 3つの中で最も分かりやすいのが3番目の取引事例比較法である。しかし、この方法は土壌汚染地の鑑定評価に関しては使えない。それは、現在のところ我が国では、土壌汚染を意識した取引事例がほとんどない。あったとしても、汚染の状況や取引の内容について、当面は鑑定評価等に使うことのできる情報が入手できる可能性はないと考えている。つまり、当面は最も分かりやすい手法を使えない。これが我々にとって一番の悩みである。米国ではどうかというと、実際にどの程度の情報が得られるかについては疑問はあるが、汚染の状況や取引価格、取引の時期といった情報を入手することができ、不動産鑑定人はそれらを評価に活用できる。
 次に取引に当たっての調査についてだが、この2,3年でいわゆるPhase1がやはりかなり増えている。利用目的として、土地取引、不動産証券化、不動産鑑定、資産管理、担保価値評価、保険審査とあるが、ERSの安藤氏の話によると、昨年の春頃、1年ほど前から急増しており、土地取引に関しおおよそ50件にERSが関与したそうである。それから不動産の証券化関係で100件ぐらいのPhase1調査を実際にされたという話だった。ERSの実績が多分間違いなく日本で一番だろうが、他に数社は始めているのではないかということである。
 最近は、我々に鑑定評価が依頼される際にPhase1調査が付随する場合が増えてきている。鑑定評価の依頼者から土壌汚染の調査を依頼されることもあるが、我々から依頼者に土壌調査について説明することもある。調査するしないは依頼者の判断だが、少しずつそういった傾向になりつつあると感じている。特に証券化等を行う場合、従来は建物の耐震性や使用されたアスベスト等の項目が調査(デューデリジェンス)の中心だったが、最近は土壌汚染に関する項目をどの程度設定すべきかという議論がされているようである。現在、(社)建築・設備維持保全推進協会(BELCA)が、我が国での土壌汚染調査のPhase1的な内容の鑑定評価の基準を作成しているところだと聞いている。
 不動産の取引においては、事前調査が可能かについては疑問である。例えば、あるマンション適地の土地が出てきた場合、かなり早い時期に入札が行われるため、デベロッパーは入札価格について比較的短時間で判断しなければならない。その場合、Phase1といった土壌汚染調査を行う時間的な余裕がない。そのため、事実上分かっていても調査できないのが現状と言われている。汚染が判明したらどう対処するかという点を詰めずに開発を進めるため、基礎工事中に汚染が判明するケースも時々見られる。
 不動産の取引の慣習を変えることは難しいかもしれないが、本来は売手側が入札前に土壌調査すべきだと個人的には考えている。しかし、それはなかなか難しそうだし、これだけいろいろ問題が判明しているにもかかわらず、不動産業界では、土壌汚染問題については比較的楽観的に考えている傾向があり、中には当たったら運が悪いという感覚でとらえている人もいるくらいである。土壌汚染は気にせず、とにかく良い土地があれば多少のリスクは覚悟の上で早急に購入しなければならないという認識である。
 それから、マンションを分譲後、引渡し直前での購入者に対する説明会の席上で、敷地内の土壌汚染の説明があったという記事が新聞に掲載されていたが、宅地建物取引業法には、すべての不動産取引の際、契約前に宅地建物取引主任者が購入者にその物件についての重要事項の説明をしなければいけないという手続がある。ここ半年ほど、私はマンションデベロッパー等から色々と話を聞いているところだが、重要事項説明に土壌汚染を入れることはほとんどない。大手のマンション業者であっても入れていないという状況である。それで、慌てて検討しているというのが昨年11月、12月ぐらいの状況であり、対応が後手後手になっていると考えている。重要事項説明に土壌汚染の項目を入れている場合も、他にも多くの項目があるため、購入者もじっくり読まないことが多いようで、実際には質問が出るようなことは余りないそうだが、敷地内に土壌汚染があるということで、購入を取りやめる人もいるそうである。最近は環境問題に対する意識の向上から建築資材に対する関心は高まっているようだが、モデルルームで土壌汚染について話題にする人はほとんどいないため、基本的には応答要領も特に用意していないということである。
 一方、米国では、このようなチェックは一般的だと思う。例えば個人が住宅購入に当たって融資を受ける際に、色々とチェックする中で、環境に関する項目もあり、その中に土壌汚染も入っているようである。
 金融機関については、検討を開始した段階と思う。今年2月に、「持続可能な社会に資する銀行を考える研究会」という都銀等が参加している検討会が中間報告を公表した。しかし、今後どのような方向で銀行が取組を行うか、融資の際の扱いをどうするかという検討はまだされていないとのことである。しばらくは対応が固まらないのではないかと聞いている。これは、例えば土壌汚染がありそうな土地の購入に際して融資を相談された場合に、非常に厳しくチェックし、Phase2調査を行うよう指示する銀行と、一方でノーチェックで融資する銀行があれば、ノーチェックの銀行に融資申込みが殺到することになる。それではよろしくないということで、銀行間での足並みをそろえようということであり、まだ土壌汚染の関係する融資に対して確固たる考えは固まっていない段階とのことである。
 一方、米国では、通常、商業用不動産の購入時の融資に際してはPhase1が当然要求されるプロセスになっている。これは、多分スーパーファンド法の下では、融資した側にも責任が課せられるためだと思う。そのあたりがが大きく進んでおり、違いがあるところである。加えて、これに評価関連の話を紹介すると、米国では、金融機関がそれなりの融資基準をもっている。つまり、土壌汚染地と、似たような土地で汚染のない土地を比較した場合、汚染のリスクによってどのくらい評価に差を付けるか、金融機関ごとに考えて基準を持っている。よって、リスクプレミアムというか、評価の差を収益還元法に生かせるのが大きな違いである。取引事例比較法についても同様である。米国での土壌汚染地の鑑定評価の際の主たる手法は、やはり取引事例比較法と収益還元法である。しかし、先ほど申し上げたように、我が国では土壌汚染地の取引事例がなく、金融機関が融資の際に土壌汚染を考慮していないため、現状では2つの方法とも使うことができない。不動産鑑定士としては、市場から得た客観的・実証的データに基づいて鑑定評価を行えば、顧客に対し非常に説明しやすいのだが、現状ではそういうデータがないため、非常に説明しづらい状況である。
 土壌汚染地の鑑定評価について、日本では不動産鑑定評価基準というものがあり、現在改訂作業中であるが、何らかの形で土壌汚染について盛り込もうという検討をしているようである。逆にいうと、現在の基準には土壌汚染について直接的には何も触れられておらず、現在土壌汚染が問題となっている中で、改訂を待っていられないということで、当方でいろいろと検討してきた。問題点は、評価方法は理論的にはそれなりに考えることができるにもかかわらず、実証データがなく、非常に説明に苦しむということである。
 もう一つ、取引時における市場価値の把握のほか、資産価値としての評価需要についてだが、取り引きしなくても不動産を所有していれば固定資産税がかかり、相続の際に相続税がかかるといったように、土地の価値を把握しなければならない時があるかと思う。現在のところ、そういった話は表面化していないと思うが、隣接地からの汚染のために明らかに自分の土地の価値が下がっていると思われる場合、固定資産税はどうなるのかという相談もあった。具体的には動いていないが、近い将来そういった仕事も必要かと考えている。固定資産税に関して、米国でこれに当たるのはプロパティータックスという財産税なのだが、これに土壌汚染を考慮する基準といったものがある。一般的な鑑定の指針のような非常に簡単な基準だが、日本のように全くないというのとは大きく状況が異なる。そして、この基準についての論文や実例集のような文献も十数年前からいろいろある。日本にはそのようなものはほとんどない。
 米国では土壌汚染の評価が広く普及しているが、米国の不動産鑑定人がすべて評価を行っているわけではない。実際には非常に限られた専門分野で、専門家が対応している。ある米国の専門家によると、土壌汚染地の本格的な評価を実際にできるのは30~40人ぐらい、行ったことがあるという者を含めて100~200人だろうとのことである。米国では不動産鑑定士は国家試験でないため、いわゆる不動産鑑定人にいろいろ種類があるのだが、何万人といる中で、行ったことのあるのが100人くらいということなので、土壌汚染地のある土地の評価は、アメリカでも非常に特殊なのだろうと思う。
 それから、我々が不動産鑑定評価の専門家として土壌汚染問題に対してどういう態度で取り組むべきか、つまり専門家としての責任についてであるが、従来から大半の鑑定士は、土壌汚染がありそうな土地についても、自分たちだけでは評価しきれないということもあり、土壌汚染については何も考慮せずに通常の土地としての評価を行って、鑑定評価書には土壌汚染は考慮外であると書いてきた。しかし、今後はそういうわけにはいかないだろう。既に米国では、調査すれば土壌汚染地であることは分かるだろうし、その場合には不動産鑑定人に何らかの責任が問われても仕方がないという認識である。やはり米国の方がそういった認識もかなり進んでいるのかと思う。我々としては、一般の方からの不動産鑑定士に対する信頼性を落とさないために、不動産鑑定業界に対し広くアナウンスして、業界全体の認識を高めようとしているところである。その際に、不動産鑑定士に可能なPhase1未満の調査、Phase0.5と呼んでいるが、古い地図を調べる、現地周辺に住むお年寄りに聞くといった程度の調査はやってみようではないかということで、(財)日本不動産研究所でも最近始めたところである。
 米国では、1995年に不動産鑑定人の協会が環境に関するチェックリストを作成し、不動産鑑定人に示している。つまり、不動産鑑定人としての責任を担保するため、この程度のことはすべきであると示している。逆に、後で問題が発覚しても、チェックリストで確認したが分からなかったという、ある程度は鑑定人側の保身の意味もあるかもしれない。
 それから最後、土壌汚染に関する保険制度については、3種類ほどあるかと思う。1番目は、不動産を購入した後で土壌汚染が判明した場合や、そこで有害物質を使用していたことが発覚した場合の保険である。これについては、日本にもあると聞いている。2番目は、いわゆる浄化(修復)対策についての保険である。浄化したが、実際は不十分だった場合の保険であって、日本では現在検討中と聞いている。米国には既にそういった保険があるということである。3番目は、土壌汚染地の評価に限らないが、単純ミスで鑑定評価の内容を間違った場合の保険である。米国には、そのような保険がある。しかし、日本では、不動産の鑑定評価の市場が非常に小さいこともあって、そのような保険が成立しない。何年も前にいろいろと検討したが、商品化してもらえなかった。現在、再び検討してもらい、今回は何とかなりそうな状況である。鑑定評価の手数料が数十万円、せいぜい数百万円という現状で、広い土地の場合に土壌汚染云々で何十億円あるいは何百億円という損害賠償のカバーは当然できないため、この保険にどれだけ意味があるかという疑問もあるが、そういった保険も今検討されているところである。
 最後に、日米の比較について簡単にお話ししたが、不動産として土壌汚染地の評価をする者の立場としては、日本では不明確な点が非常に多すぎるため、評価の際に様々な条件を設定しなければならず、非常に評価がやりにくい。一つ一つの問題がより明確になれば、評価しやすくなる。土壌汚染地の評価の現状については、米国の方が日本よりも不確定要素が少ないので評価がしやすい。そのため、米国では既に十数年前からの鑑定評価の実績があるが、日本はやっと始めようとしているところだと認識している。

【座長】 では、今の御説明について御質問等あるか。

【G委員】 最近1年の間にこういう需要があるとのことだが、そのきっかけの1つは、日本ではバブル崩壊後に土地が相対的に安くなったために米国系資本が購入しようとするケースが増え、その際にスーパーファンド法の経験から、その基準で対応し出したことと理解しているが、その点はどうだろうか。
 また、日本の場合、これほど地価がかなり高く、土地の評価額に対し非常に厳しい割には、土地そのものの質についての関心が非常に低い。その理由については、私も経済学者として前から疑問である。その点についての御意見を伺いたい。

【廣田氏】 最初の点については、御指摘のとおりだと思う。我々の認識としては、やはりバブル崩壊以降、日本の土地が購入しやすくなったため、主に米国系の企業が土地購入に参加し出した。その際にデューデリジェンスを行う場合、当然のように土壌汚染のチェック項目があるということで、我々も最初はそういうものがあるといった程度の認識だったが、どういったところでチェックができるか相談した記憶がある。
 それから、昭和50年代の東京都での六価クロム汚染発覚があった時期に、日本不動産研究所では、土壌汚染の問題をかなり研究し考え方をまとめたことがある。しかし、その後、いわゆる土地神話、つまり地価は上昇し続けるという時期になり、バブルの最盛期は1年で倍になるといった中で、不動産の細かい傷といったものが余り認識されなくなった。どうせ来年になれば倍くらいの価格になるのだからそのような細かいことは別によいという認識に世間一般がなっていた。
 不動産の世界での認識は、最近になって非常に変わったと思う。従来まではまず土地ということで、土地の上物への関心は低かった。つまり、土地の質だけでなく建物を含めた不動産の質に対する関心が低かった。しかし、現在はまさにデューデリジェンスの話もあり、土地ではなく、そこに建っている物が大切であるという認識である。例えば、同じようなオフィスビルが隣同士にあったとして、片方のテナントは優良で家賃もきちんと納めている。しかし、隣のビルは外見上は同程度の質であっても、テナントの質が劣る場合、我々としては不動産の価値の差を明確につけて評価する時代になった。
 特に、バブル時は土地重視の発想だった。つまり、建物を壊して土地がいくらで売れるという、そちらの方のウェイトが非常に高かった。都心にある不動産の場合、価格に占める土地の割合が90%で建物が10%という感じで、地価だけ見ればよかった。しかし、最近は、本当にテナントの質まで含めて非常に細かく考慮しなければならない。オフィスだけではなく、住宅でも建物に対するウェイトが高まっている。
 住宅のチラシ広告などでは築10年程度の住宅でも古屋付き土地という感じで、建物の価値をほとんど無視している場合があるが、その建物をリフォームすればそれなりの価値を評価しなければならないのではないかという議論が、昨年から国土交通省において議論されていると聞く。そこで、不動産の価値は土地だけではないという認識が最近は強くなってきているのではないか。
 そういった意味で、土壌汚染があった場合、所有権の移転の際にはきちんと決着を付けなければならないということになり、デューデリジェンスの中での土壌汚染のウェイトというのがにわかに高まってきたのではないかと思う。

【E委員】 土地取引に当たって、土壌の浄化をすることになる場合があるが、土地の受渡しの時期が既に決められている場合、その期限までに浄化が終わらないこともある。しかも、完了するかどうかは浄化してみないと分からない場合も多い。当然その後、土地を引き取った者がそれなりの対策を求められる場合がよくあるが、土壌汚染を含めた不動産鑑定をどういった段階でどのように行うかという点が問題になってくるのではないか。土地取引を始めるに当たって、引渡し時期、その前に浄化対策をどう行うか、どのようなことが起こり得るか想定して、それを見込んでの鑑定をするのか。あるいは逆に受渡しの時期に、浄化がここまで済んだという確認の調査を行い、それを見て再度浄化をやり直すのかという、そういった難しい問題が出てくると思う。そういった点については、どのような整理をしているか。

【廣田氏】 実は、昨年、栗田工業と日本不動産研究所の共同プロジェクトで、土壌汚染地に対する本格的な評価のシステムを開発した。
 土壌汚染地の評価をする際、浄化コストの部分はやはり鑑定士には扱いかねる。そこで、これについては、栗田工業が担当し、浄化コスト算定システムを作った。栗田工業には約700件の浄化実績のデータベースがあるとのことであり、そのデータ等を用いて、最適な標準的なコストが算出できるシステムが開発された。コストについては、栗田工業が責任を持っているというか、そういう意味で不動産鑑定評価に用いてもかなり正確ということで、我々としてはその数字を当面は使っていくつもりである。
 土地取引の際には、やはり当事者間の契約上の話であるため、よくあることだが、売主と買主の双方から鑑定の依頼があった場合、浄化費用を考慮した鑑定評価ができるため、このシステムは十分に役立つと考えている。

【E委員】 現在、土壌浄化については栗田工業が最も実績が多いのは間違いないだろうから、ここがこういう算定システムを作れば一番確かな数字が出ると思う。
 浄化は時間の制限がなければ、あるコストの中でできると思う。しかし、私もよく相談を受けるが、時間の制限というものがある。土地の引渡し期限という話になると、引渡しの際に浄化対策がそのまま継続できるかという問題も出てくるため、別のシステムを組まなければいけなくなることもよくあるので、そういった際は、どのようにしているのだろうか。

【廣田氏】 厳密な意味では、鑑定評価は国の基準にのっとっていなければならない。そのため、現段階では、このシステムから得た評価は鑑定評価にはならない。地価を定量的に算出する意味では鑑定評価と変わりない。しかし、ただ今の御指摘のとおり、取引においては様々な条件がある。例えば売却の時期が決められており、それまでに終わる浄化方法しか実施できない。
 通常は複数の浄化方法が提示される。その中で、市場価値という観点から最も妥当なものはどれか。それは短期的な浄化か、中期的な浄化か、あるいは長期的な浄化なのか、土地の市場価値が一番高く出るものを一般には価値の査定に使うのだが、取引について期間等が限定されている場合、査定結果を鑑定とは呼べない。そのため、コンサル価格というか、かっこ付きの「(鑑定評価)」ということにこだわっている。結果をコンサルティングレポートと呼ぶか、鑑定評価書と呼ぶかであるが、現状ではコンサルティングレポートであり、鑑定評価書とは呼びにくい。

【H委員】 この評価の中にも出ているスティグマは、全く定量性がない。これを改めて書くことで、かえって様々な支障が出てくるのではないか。例えばアメリカ等では、これをかなり定量的に考慮したものはあるのか。

【廣田氏】 論文等では一応は定量化されたものが報告されている。ただ、やはり100%納得できるようなものは、まだ見たことがない。
 さらに今、当方が栗田工業と共同でシステムを開発したと申し上げた。仕組みはできている。しかし、これに用いる係数については、全てのケースを想定した確定版ではなく、これからいろいろな実績を積み重ねながら係数の精度を高めていくものである。最も大きい問題は、市場での実証データがないことである。米国では、最も簡単な取引事例を挙げれば、ある地域は汚染がないが、ある地域はある程度の汚染があり、この2地域にそれ以外の要素はほとんど変わらないという場合、その差をスティグマやそういったもので計量化する試みがある。それからCVMというアンケートを使って挑戦している鑑定人も米国にいるが、いろいろ聞いてみると、実際には時間も手間もかなりかかるため、学問的なレベルに留まっているようである。特に訴訟関係の鑑定では、やはり取引事例比較法が一番分かりやすい方法であるため、それが最も使用されていると、米国のこの分野に詳しいとされる数人の方から直接聞いたことがある。
 我々の開発しているスティグマの値については、市場からのデータがとれない状況でどうするのか、どのように決めるのか、あるいは非常にいい加減ではないかという御意見もあると思う。しかしながら、これまでの経緯から適正と認めることのできる範囲は定めることはできると考える。例えば判例としての減価率、墓地に隣接する場合の減価率、あるいは火葬場への道路に面している土地の固定資産税がどれぐらい安くなるか等、とりあえずそのような種々の参考にできる数値から決めていくという状況である。

【座長】 では、議題(2)については、ここまでとする。

(3)その他

【D委員】 本検討会のスケジュール、進め方について教えていただきたい。今後どういうことを検討し、どの程度までこの検討会で決めるのかという点をもう少し明確にお知らせいただきたい。

【土壌環境課長】 今後の進め方についてだが、少なくとも次回までは事務局も含め、いろいろな現状認識を高めておく必要があると考えており、各方面の関係者からのお話を伺うこととしている。第1回及び第2回の検討会において取りあえずの検討課題を提示したが、委員から様々な御指摘を頂いており、事務局内での検討及び委員からの御意見を含め、次々回の検討会において今後の検討課題案を改めて提示させていただき、それに沿って検討を進めていただければと考えている。ただ、いつまでにといったスケジュールについては、その後の検討の進み方いかんによるものと考えている。
そこで最初の議論の中心は、環境リスクをどのようにとらえ、例えばそれをどういう形での基準とするかになるだろう。そういった点が明確になれば、次の展開として、例えば対策や調査の在り方、情報公開の進め方等が検討すべき課題として出てくるのかと思う。そういった点について、次々回の検討会で進め方も含めて御議論いただければと思う。

【座長】 論点は事務局から提示されるだろうが、それを順に検討していくのが適当か、あるいは意見が一致できるところから始めていくのがよいか、それは議論の成り行きによるのではないかと思う。そのタイムスケジュールがきちっと決まっているわけではないが、適宜進めていきたいと、私は考えている。
 次に次回の予定について。

【事務局】 次回検討会は3月6日(火)午前10時からを予定している。議題については、関係者からのヒアリングを考えている。まだ確定していないが、例えば浄化ビジネスをしている側から、逆に汚染を起こす可能性のある業界、あるいは不動産としての土地を保有している方からのヒアリングができるよう、調整しているところである。
 それから次々回については、改めて御連絡する。

【座長】 では、進行を事務局にお返しする。

【事務局】 これで第3回の検討会を終了する。

-以上