環境基本計画

第2部 目次

(第1部 計画策定の背景と意義)

第2部 環境政策の基本方針

第1節 基本的考え方

第2節 長期的な目標

[循環]
[共生]
[参加]
[国際的取組]

第3節 目標に係る指標の開発

(第3部 施策の展開)

(第4部 計画の効果的実施)


第2部 環境政策の基本方針

第1節 基本的考え方

 これまで人類は、環境から種々の恵沢を享受する一方で、環境に様々な影響を与えながら生活を営んできた。環境は、生態系が微妙な均衡を保つことにより成り立っており、人類の存続の基盤である。この限りある環境は、ひとり人類のみならずすべての生命を育む母胎であるとともに、人類は、この生存の基盤としての環境を将来の世代と共有している。

 しかしながら、近年における人口増加や人類の活動の拡大・高度化に伴う資源採取及び不用物の排出の増大等は環境の持つ復元能力を超え、公害や自然破壊をはじめとする環境問題が生じた。これは、従来の農耕文明から、産業革命以降の工業文明へと進み、さらには、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式が定着し、人間活動が飛躍的に拡大した結果に他ならない。今日の人間の活動による環境への負荷の集積は、地域の環境にとどまらず、人類の生存基盤として一体不可分である地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすおそれが生じてきており、次の世代への影響も懸念されるまでになっている。

 環境の持つ特性やその価値の全貌については、いまだ人類のうかがい知れない多くの部分が存在するが、地球環境が損なわれつつあるとの懸念や環境保全のための予防的方策をとる必要があるとの認識は国際的に共通のものとなり、世界各国は、持続可能な開発を進めていく必要性を認識する点で一致している。これまで地球環境に大きな負荷を与えてきた我が国をはじめとする先進国としては、現代の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式の在り方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていく必要がある。さらに、先進国が互いに協調を図りつつ、グローバルパートナーシップの下、途上国の実情に即した支援を積極的に行うなど、国際的取組を進めることが必要である。我が国では、物質的な豊かさのみの追求が環境の危機を招いているとの認識が深まり、あらゆる主体が、環境を保全するために必要な行動をとろうとの機運の高まりが見られる。経済社会システムや生活様式の変革には痛みも伴うものであるが、あらゆる者が、公平な役割分担の下に、環境と経済の統合に向けた変革に取り組んでいかなければならない。

 我々は、健全で恵み豊かな環境が人間の健康で文化的な生活に不可欠であることにかんがみ、環境の恵沢を現在及び将来の世代が享受できるようにしていかなければならない。同時に、人類共有の生存基盤である有限な地球環境は、将来にわたってこれを維持していかなければならない。その際には、自然の摂理と共に生きた先人の知恵も受け継ぎつつ、現代の文明のあり方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていくことが肝要である。

第2節 長期的な目標

 上記の環境政策の基本的考え方を踏まえ、以下に示す「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」を環境政策の長期的な目標として、人間と環境との間に望ましい関係を築くため総合的に施策を推進する。

(1) 人と環境の望ましい関係

 環境は、大気、水、土壌及び生物等の間を物質が循環し、生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っている。人類存続の基盤である有限な環境を、健全で恵み豊かなものとして維持していくには、これらの環境の構成要素が良好な状態に保持され、また、その全体が自然の系として健全に維持されることが必要である。

 このためには、科学的知見の充実の下に、予見的アプローチを用い、環境への負荷が環境の復元能力を超えて重大な、あるいは取り返しのつかない影響を及ぼすことがないようにするとともに、生産活動等において自然の物質循環を活用しつつ、人間が多様な自然・生物と共に生きることを確保する必要がある。

(2) 長期的な目標

[循環]

 大気環境、水環境、土壌環境等への負荷が自然の物質循環を損なうことによる環境の悪化を防止するため、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて、資源やエネルギーの面でより一層の循環・効率化を進め、不用物の発生抑制や適正な処理等を図るなど、経済社会システムにおける物質循環をできる限り確保することによって、環境への負荷をできる限り少なくし、循環を基調とする経済社会システムを実現する。

[共生]

 また、大気、水、土壌及び多様な生物等と人間の営みとの相互作用により形成される環境の特性に応じて、かけがえのない貴重な自然の保全、二次的自然の維持管理、自然的環境の回復及び野生生物の保護管理など、保護あるいは整備等の形で環境に適切に働きかけ、その賢明な利用を図るとともに、様々な自然とのふれあいの場や機会の確保を図るなど自然と人との間に豊かな交流を保つことによって、健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との共生を確保する。

[参加]

 以上に掲げた「循環」、「共生」の実現のためには、有機的連携の下に、長期的視野に立って総合的かつ計画的に施策を展開する必要があることはもとより、浪費的な使い捨ての生活様式を見直す等日常生活や事業活動における価値観と行動様式を変革し、あらゆる社会経済活動に環境への配慮を組み込んでいくことが必要である。

 このため、あらゆる主体が、人間と環境との関わりについて理解し、汚染者負担の原則等を踏まえ、環境へ与える負荷、環境から得る恵み及び環境保全に寄与し得る能力等それぞれの立場に応じた公平な役割分担の下に、相互に協力・連携しながら、環境への負荷の低減や環境の特性に応じた賢明な利用等に自主的積極的に取り組み、環境保全に関する行動に参加する社会を実現する。

[国際的取組]

 今日の地球環境問題は、ひとり我が国のみでは解決ができない人類共通の課題であり、各国が協力して取り組むべき問題である。我が国の社会経済活動は、世界と密接な相互依存関係にあるとともに世界の中で大きな位置を占めており、地球環境から様々な恵沢を享受する一方、大きな影響を及ぼしている。我が国は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を率先して構築するにとどまらず、深刻な公害問題の克服に向けた努力の結果顕著な成果を挙げてきた経験や技術等、その持てる能力を活かすとともに、我が国の国際社会に占める地位に応じて、地球環境を共有する各国との国際的協調の下に、地球環境を良好な状態に保持するため、国のみならず、あらゆる主体が積極的に行動し、国際的取組を推進する。

 これらによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会を構築する。

第3節 目標に係る指標の開発

 この環境基本計画は、「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」が実現される社会を構築することを長期的な目標とし、そのための施策の方向を明らかにするものである。これらの目標の達成に向け施策の効果的な実施を図るためには、これらの目標の達成状況や目標と施策との関係等を具体的に示す総合的な指標あるいは指標群が定められることが望ましい。こうした指標については内外で調査研究が活発に行われているものの、現時点ではその成果が十分ではなく、本計画に組み入れられる状況には至っていない。このため、環境基本計画の長期的な目標に関する総合的な指標の開発を政府において早急に進め、今後、その成果を得て、環境基本計画の実行・見直し等の中で活かしていくものとする。