環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 地域経済・社会的課題の解決に資する持続可能な地域づくり>第1節 地域づくりにおける環境の力・環境への影響

第3章 地域経済・社会的課題の解決に資する持続可能な地域づくり

 第1章で明らかになったとおり、若年層の転出や高齢化、財政の悪化、企業の撤退など、地域が抱える課題は複雑化、深刻化しています。さらに、地球温暖化の進行に伴って自然災害の増加が懸念されることや、2008年(平成20年)に発生した世界的な金融危機による景気低迷など、制御が難しいグローバルな事象が突如発生し、地域社会にも大きな影響を与えるようになってきています。こうした課題が山積する状況においては、第1章第3節で示された「環境、経済、社会の統合的向上」により、環境、経済、社会の全ての面において持続可能な、多様で魅力ある地域づくりを進めていくことが重要と言えます。本章では、環境保全に関する取組が、地域の経済・社会的課題の解決に貢献することについて、第1節では「経済」、「防災」、「人口減少・高齢化」という経済、社会の観点から紹介し、第2節では「地域資源の活用」という地域の観点で深掘りしていきます。

第1節 地域づくりにおける環境の力・環境への影響

1 地域経済における環境の力

(1)地域経済活性化の必要性

 我が国では、地域に住む人々が、自らの地域の未来に希望を持ち、個性豊かで潤いのある生活を送ることができる地域社会を形成することを目指す「地方創生」を推進しています。中でも、地域経済縮小の克服は、地方創生の中心施策の一つになっています。

 ヒト・モノ・カネの東京一極集中に見られるように、これまで我が国は、地方圏の人材や資源を吸収しながら、東京圏が日本の経済成長のエンジンとしての役割を果たしてきました。例えば人口移動については、第1章第1節で示したとおり、特に25歳未満の若年層の東京圏転入が著しく、本来であればそれぞれの地域の経済・文化等を支え、その活性化を担い得る人材の多くが東京圏へ流出しています。こうした一極集中型経済は、経済的な効率性を高める一方で、地方圏の人口減少や経済縮小等を加速させるとともに、経済の同質性を高めると考えられます。しかし、今日の我が国のような成熟した社会では、多様性と独創性が付加価値の源泉となるため、高い付加価値を生み出していく上では、それぞれの地域の特性を生かした多様な地域経済の構築が重要です。また、一極集中型経済は大規模自然災害による影響が大きくなる等の弊害があり、リスク低減の観点からも、地方圏の経済活性化が重要と言えます。

 このように、地方圏の経済縮小に歯止めをかけ、多様で魅力ある地域づくりを進めていくことは、地方圏にとって重要なだけではなく、日本全体が中長期的に豊かさを享受していく上で必要不可欠と言えます。この多様で魅力ある地域づくりを、人口減少や高齢化、グローバル経済が進行する中で行っていくには、地方交付税交付金等の財政移転の変化や、グローバルな事象などの影響を受けづらい、自律的な地域経済の構築が重要な観点であると考えられます。こうした地域の特性を生かした自律的な地域経済の構築に、環境保全の側面から貢献する方法として、ここでは、温室効果ガス排出の構造等から地域の強みや課題を発見し、地域資源を活用した地域経済活性化を目指す「地域経済循環分析」を紹介することとします。

(2)地域経済循環分析による地域づくり

 熊本県水俣市では、環境省及び熊本県の支援を受けて、「地域経済循環分析(以下「本分析」という。)」を活用して、環境政策を通じた地域の振興及び雇用の確保等の取組を行ってきました。また、平成26年10月から開催された「循環共生型の地域づくりに向けた検討会」では、本分析を活用しながら地方圏の様々な課題を解決し、循環共生型の地域づくりを推進するため、低炭素政策を通じた地域活性化の方策が検討されました。第1章で示したとおり、生産、消費などの経済活動の在り方は、温室効果ガスの排出を始めとする環境負荷の発生の在り方と密接に関係しており、その関係性によっては、環境保全の取組が、経済的課題の解決につながることがあります。ここでは、同検討会で議論された本分析の考え方や分析手法、水俣市の分析結果等から導かれる環境政策を通じた地域経済の課題解決への貢献について紹介することで、多様で魅力的な地域づくりの具体的な手法を示すこととします。

ア 地域経済循環とは

 まず、本分析の前提となる「地域経済」と「経済循環」の考え方を、簡単に紹介します。

 地域経済の範囲は、[1]行政単位としての自治体を単位とした地域、[2]生産や消費などの経済的な関係の粗密が創り出すまとまりとした地域(都市圏)、という二つの大きな考え方があります。経済分析としては、[2]の都市圏単位での分析が適当ですが、施策の実施が自治体単位という観点から見れば[1]も有用であることから、目的に応じて使い分けることが考えられます。

 本分析における経済循環とは、生産・分配・支出という経済活動を通じて、資金が循環していることを意味しており、支出は更に「消費」、「投資」、「域際(いきさい)収支」へ細かく分類されます(図3-1-1)。なお「域際収支」とは、地域の移出額と移入額の差額を指し、国単位で見れば「貿易・サービス収支」に当たります。

図3-1-1 地域経済循環のイメージ

 ここでは、分かりやすく経済循環の流れを説明するため、大まかな流れに限って、具体的に説明することとします。まず生産面では、企業等が財・サービスを生産・販売します。そして分配面で、企業等が生産・販売で得た付加価値(粗利益)を労働所得(賃金等)と資本所得(配当・内部留保等)に分配します。支出では、家計が分配で得た所得を消費や貯蓄、投資等に回します。具体的に消費面では、財・サービスの消費の対価として、企業等へ資金が還流するとともに、投資面でも家計の貯蓄が金融機関等を通じて、企業等へ投融資され、生産・販売の資金となります。また域際収支面では、地域間で財・サービスの移出入が行われることで、域外との間でも資金が循環することとなります。こうした経済の循環が正常に機能することで、私たちの経済活動や暮らしが成り立っていると言えます。

イ 地域経済循環分析の意義と留意点

(ア)地域経済循環の強みと課題を知る

 本分析の大きな特徴は、地域内・地域間の資金の流れを明らかにする上で、生産だけでなく、分配、支出(消費、投資、域際収支)にまで視野を広げ、地域経済の循環に問題がないかを明らかにすることです。

 具体的には、生産・分配・消費・投資・域際収支の各面において、域外へ流出している資金を突き止め、地域経済循環における課題を抽出することができます。さらに、域外の資金を獲得できる産業とその規模、最終消費財の生産に必要な、部品や原材料などの中間投入の域内調達の割合などが分かることで、地域経済循環の強みが定量的に明らかになります。例えば、地域資源を活用している産業や、地元資本の中小企業が集積する地場産業の場合には、地域内の企業から部品や材料を調達することなどにより、地域内への経済波及効果が大きくなると考えられます。

 他方、この強みは時代と共に変化し得ます。例えば、強みと考えられていた業種や企業でも、原材料価格の高騰や新たな競合製品・サービスの出現等により優位性が低下することがあり得ます。また、グローバル企業は世界経済の影響や為替レート等によって業績が大きく変動し、雇用等に影響を与えるリスクがあるほか、地域に根ざした企業でない場合には新たな適地を求めて撤退するリスクが大きくなります。

 こうした強みと課題を、客観的なデータに基づいて把握することで、先入観にとらわれない戦略的な地域づくりが可能になると考えられます。

(イ)地域経済で循環する資金を拡大する

 地域経済で循環する資金を拡大(以下「地域経済循環を拡大」という。)するには、持続可能な範囲で地域資源を利活用することで、域外の資金をより多く獲得するとともに、地域からの資金流出を低減させることが必要です。

 前者については、域外の資金を獲得し、これが域内で分配・投資されることで、域内の経済循環が拡大すると考えられます。域外の資金獲得に当たっては、地域資源の活用により、他製品・サービスとの差別化や、地域に根付いた事業の創出を図ることが、上記(ア)で言及したリスクを低減し、域内の経済循環を拡大する上で重要です。地域資源を活用することは、地域の特産物や、気候、地形などの独特の自然環境を生かせることが多いため、差別化が可能であると考えられます。さらに、こうした域外の需要を取り込むような事業を創出することは、域内の需要喚起にもつながる可能性があると考えられます。

 こうした域外需要の獲得は、「限られたパイの奪い合いになる」と誤解しないよう留意する必要があります。域外需要の獲得に当たっては、地域産品の付加価値を高めるなどにより新たな需要を喚起することで、眠っているお金を動き出させるという視点が重要です。例えば、日銀レビュー「銀行券・流動性預金の高止まりについて」(日本銀行、平成20年8月)では、金融機関に預けられず家庭内に保管されている現金(タンス預金)が約30兆円存在すると試算されており、消費が拡大する可能性は十分にあると考えられます。

 また、我が国は長らくデフレ経済下にあり、恒常的な需要不足が生じていたとともに、人口減少・高齢化に伴い、更なる需要の減少が懸念されていますが、第1章第2節4で示したとおり、高品質・高付加価値な財・サービスへの潜在的な消費意欲が十分に存在すると考えられることから、こうした消費意欲を刺激する財・サービスを創出することが、消費を喚起する一つの方法と考えられます。また、第1章第1節3で示したとおり、人件費削減による利益の確保は消費の減少につながるなど、経済の悪循環を起こす要因の一つとなっていますが、高品質・高付加価値なものを創出することは、消費の増加等につながり、地域経済循環を拡大するほか、生産性の向上による適切な賃金水準の確保にもつながることが期待されます。高付加価値化の例としては、第1章で「心の豊かさ」を重視する割合が増えていることを踏まえれば、後述する観光列車などの消費者のニーズに合った生活の質の向上に資する財・サービスなどが考えられます。

 後者の資金流出の低減については、「価格や品質が劣っても、地元産品を購入する」という考えではなく、「地域資源を活用した財・サービスの魅力向上により地元産品の需要を喚起する」という観点で考えることが必要です。地元産品を無条件に優遇するような施策は、事業者の付加価値を高める意欲を妨げて、かえって地域経済の基盤を弱体化させると考えられるからです。さらに、域内の地域資源を活用して域外への資金流出を抑えることができれば、地域経済循環の拡大につながります。

(ウ)地域資源の価値、課題を発見する

 本分析により、資金の流れや地域経済循環の強みなどが明らかになりますが、この強みを強化するには、その源泉となる地域資源を評価することが不可欠です。地域資源には、社会インフラや農林水産物など、一定程度定量的に測ることが可能なものがある一方で、文化・伝統、地域コミュニティ等の社会関係資本など一部の地域資源には、人それぞれによって価値の捉え方が異なるなど、定量的に測ることが困難な側面があり、網羅的に地域資源の価値等を評価する分析手法は確立していません。

 本分析は、資金の流れのみを対象とした分析ですが、地域資源は資金の流れと密接に関係しているため、本分析を通じて地域資源の価値を間接的に評価することが可能と考えられます。例えば、ある地域の観光業が栄えており、地域固有の伝統文化や豊かな自然等の地域資源がその源泉となっている場合、その地域資源の経済的な価値を間接的に評価することができると考えられます。

 また、こうした地域資源は、資金の投入により維持、向上していく側面もあり、地域資源と資金の流れは相互関係にあると言うことができます。例えば、自然資源を活用している事業者が、自然資源の保全に投資等を行うことにより、豊かな自然が維持されることや、その質が向上することが考えられます。このような地域資源の維持・質の向上は、地域資源を活用した事業者の事業継続や、財・サービスの高付加価値化につながり、結果として地域経済の強みを強化していくことになると考えられます。

 他方、地域資源は、地域外の人にとっては新鮮であっても、地域住民にとっては「当たり前の存在」であるため、有効に活用されないまま埋もれていることも多々あります。本分析を通じて地域資源の価値を再発見することが重要であるとともに、住民自身が調査して発掘することも重要です。熊本県水俣市で実践された「地元学」と呼ばれる考え方に基づく取組もその一つであり、地域の環境を住民自身が調査して、地域の風土と生活文化を掘り起こし、これを活用して環境保全型・持続型のライフスタイルへの転換を図るとともに、風土に根ざした特産品やツーリズムの開発、環境保全型の地域づくりなどが行われています。

 地域づくりにおける地域資源の活用については、本章第2節で詳述することとします。

ウ 地域経済循環分析の考え方

 前述のとおり、本分析では地域の経済活動を生産・分配・消費・投資・域際収支(地域の総収入と総支出の差)の大きく五つの視点に分けて分析します。具体的には、生産面で「域外から資金を獲得している、強みのある産業は何か」、分配面で「地域の企業が得た所得が、地域住民の所得になっているか」、消費面で「地域住民の所得が、地域内で消費されているか」、投資面で「住民の預金が地域内に再投資されているか」、域際収支面で「域外へ域内資金が流出していないか」を分析します。

 こうした視点で地域経済の循環を分析する上では、様々な統計が必要になりますが、最も重要なのが地域内外の財・サービスの流れを詳細に把握した市民経済計算及び市町村単位の産業連関表となります。さらに既存の統計のみで把握できない場合は、ヒアリングやアンケートを実施して補完することが必要となります(表3-1-1)。

表3-1-1 地域経済循環分析の視点と指標一覧

エ 地域経済循環分析による課題の抽出 ―水俣市の事例

 熊本県水俣市は、環境問題への取組をまちづくりの主要課題にしてきており、平成20年に国の「環境モデル都市」に認定されるなど、一定の成果を上げてきましたが、人口減少、高齢化等が進展する中で、地域経済は疲弊し、環境への取組で経済を再生することが課題となっていました。そのため、本分析の考え方に基づき地域経済の「健康診断」を行って、何が問題かを明らかにするために、県民経済計算や、市内全事業所を対象としたアンケート調査等を活用して、2010年水俣市産業連関表(2005年水俣市産業連関表をアンケート調査等で補正したもの)を始めとした各種の統計を作成しました。これを活用して本分析を行ったところ、以下の分析結果及び課題が抽出されました(図3-1-2)。

図3-1-2 水俣市における地域経済循環の概要

[視点1]生産:地域の中で強みのある産業は何か

 水俣市において域外から資金を獲得できる産業は、化学メーカーを始めとした製造業と医療・福祉産業(二次医療圏の中心)でした。平成22年度の市内生産額2,123億円のうち、市内の中核企業グループ(以下「A社」という。)の生産額が約576億円(約27%)、次いで医療・保健・社会保障・介護の部門が257億円(約12%)となっており、付加価値額はA社が248億円(約23%)、医療・福祉が143.9億円(約15%)を占めていました。我が国の平成22年の国内総生産(以下「GDP」という。)全体に占める製造業の割合が19.6%であることを鑑みると、A社の水俣市に占める付加価値額の割合は、相当程度大きいと言えます。[視点5]の域際収支の観点も併せて見ると、水俣市外で稼いでいる産業もこれと同様、A社が536億円と最も多く、次いで医療が100億円でした。このほか、電気機械、パルプ・紙・木製品、電子部品などその他製造業にも、競争力を有した企業が存在しており、それぞれ45~57億円を市外で稼いでいました。

 一方、A社は設備投資において市内企業と取引があるものの、原材料のほぼ100%を市外から調達しており、同社の生産活動の拡大は、既存設備の範囲内で行われている限り、市内への経済波及効果が限定的であるということが判明しました。

[視点2]分配:地域の企業が得た所得が、地域住民の所得になっているか

 労働所得については、平成22年度の域内総所得1,088億円のうち、600億円(約55%)を占めており、そのうち医療・介護関連が107.4億円、A社は106.7億円となっていました。市民の感覚からは、A社の割合が予想したよりも低いと感じられたところ、その背景として、A社の従業員数が、業態転換等に伴いピーク時の約1/5まで減少しており、それに伴って市全体の労働所得の割合も低下してきたと考えられます。

[視点3]消費:地域住民の所得が域内で消費されているか

 人の移動に関するデータから、水俣市の住民の私用目的(買い物等)の外出先を見ると、休日には約半数の人が市外に買い物に行っていることが分かりました。また、平成9年~19年の10年間で、市内の小売業販売額は、約50億円減少する一方で、近隣市のロードサイド店集積地では、同期間の小売業販売額が約85億円増加していたことから、市内の所得が市外の消費へ流出していると考えられます。

[視点4]投資:地域住民の貯蓄が域内で再投資されているか

 水俣市内の金融機関に預けられた1,000億円以上の貯蓄のうち、市内へ再投資されているのは僅か2~3割にとどまり、残りは国債の購入や市外への貸出に充てられていました。その背景には、金融機関の融資姿勢と企業の設備投資意欲の乏しさの両面があると考えられます。水俣市はA社のいわゆる企業城下町ですが、A社と高い技術を有する下請け企業との縦の取引関係はあるものの、それら企業の横の連携が進んでおらず、新しいビジネスが生まれにくい状況にあることが分かりました。

[視点5]域際収支:域外へ資金が流出していないか

 [視点1]のとおり、製造業や医療が域外の資金を稼いでいる一方で、サービス業や商業などは、市内の需要を賄いきれず、資金が市外に流出していました。一般的に、対事業所サービスや不動産、情報通信、電力・ガス・熱供給、商業は、どの産業にとっても必要な業種であり、水俣市では、全産業の需要に占める対事業所サービスの割合が大きいものの、水俣市の企業の多くが市外の対事業所サービスを利用していたため、同産業の純移輸出額がマイナスとなっていました。

 また、電力・ガス等、石油・石炭製品(ガソリン等)といったエネルギー代金の支払いによって、地域内総生産の約8%に相当する約86億円が、地域外に流出していました。

オ 地域経済循環分析から見える地域経済循環の課題

 水俣市の事例等から明らかになった地域経済循環の課題の中には、他の地域にも共通するものがあると考えられます。ここでは、その一部の課題を紹介していきます。

(ア)地域資源を活用した域外資金の獲得(生産)

 前述のとおり、域外の資金を獲得することは、地域経済の循環を拡大する上で重要です。特に、これまで地方交付税交付金などの財政移転や公的部門等に、地域の行政サービスや経済を依存させていた地域は、国の財政赤字が拡大するとともに、地方交付税の財源不足が継続している中では、こうした財政移転に極力依存せず、民間主導で地域経済を活性化していくことが、持続可能性の観点から重要と言えます。

 また、企業城下町など、少数の大企業に雇用等を依存した産業構造を有する地域は、域外の資金を獲得できている場合でも、その企業の衰退・撤退が、地域経済の停滞に直接つながるという脆(ぜい)弱性を抱えていると言えます。特に同企業がグローバルな企業活動を行っている場合、変化の激しい国際競争の状況によって、地域の生産活動・雇用に大きな影響が生じるほか、海外移転による地域経済基盤の喪失リスクも抱えていると言えます。その地域に根ざした産業・企業ではない場合、地域の人口減少等に伴う消費減少や労働者の減少によって撤退するリスクも今後高まる可能性があります。

 このため、地域経済循環を拡大する観点からは、地域資源を活用した産業など、地域に根付いた産業の振興により、域外の資金を獲得していくことが重要と言えます。また、生産をするために必要な中間財について、域内からの調達の割合が少ない産業についても、有効な地域資源や技術力のある企業等が域内に存在する場合は、それらを活用して域内での調達割合を高めることにより、生産過程における域外への資金流出を抑制して、地域経済循環を拡大することが期待できます。こうした地域資源の活用によって、他国・他地域との価格競争に陥らないよう、差別化された高付加価値な財・サービスを生み出していくことも重要な視点と言えます。

(イ)域内の余っている資源を活用し、域外(国外・大都市圏)への資金流出を低減

a エネルギー代金の流出(域際収支)

 我が国は、エネルギーの大部分を海外に依存しており、平成23年の一次エネルギーに占める化石エネルギーの依存度は90%に上っています。化石燃料の輸入額は、2008年(平成20年)の世界金融危機後に一度減少したものの、その後は増加傾向にあり、平成25年度には28.4兆円に上っています。化石エネルギー代金の多くは、資源産出国に支払われるため、こうした化石エネルギー代金の域外流出は、国内の全ての地域に共通していることと言えます。第1章第1節で示したとおり、特に地方圏は自動車依存率が高いなど、大都市圏に比べ、家計に占めるエネルギー代金の支払額が大きくなる傾向にあると考えられます。

 しかし、私たちの生活で利用するエネルギーは、海外から輸入される化石燃料だけでなく、我が国に存在する再生可能エネルギーから生み出すことも可能です。特に地方圏では、風力や地熱、森林などの豊かな再生可能エネルギー資源を有しており、こうした資源を活用して、域外への資金流出を低減することが可能と言えます。

b 消費や投資の流出(消費・投資)

 イ(イ)で述べたとおり、域外への資金の流出を考える上では、全てを地域内でそろえる自給自足型ではなく、「地域資源を活用した地元産品の財・サービスの魅力向上により消費を喚起する」という観点が必要です。

 消費の域外流出として、他の地域でも生じていると考えられるのは、食料品・日用品の販売など生活に必要なサービスが、域内に存在しているにもかかわらず、域外のサービスが多く利用されている事例です。特に地方圏で、郊外における大型商業施設が増加し、売上げを伸ばす一方で、商店街等の中心市街地の衰退が進んでいます。こうした大型商業施設の出店により、大型商業施設が立地していない近隣の地域においては、域内の消費が域外の大型商業施設に流出している可能性があります。こうした大型商業施設が立地している地域は、域外の資金(消費)を獲得することにつながると考えられますが、当該大型商業施設の本社が大都市圏にある場合、その地域で得られた利益が大都市圏に流出し、株主への配当や内部留保、他地域への新規出店などの資金となるなど、十分に地域内に資金が投資されていない可能性があります。

 また、投資の域外流出としては、我が国の資金運用先として最も大きな割合を占める「預金」が、域内に投資されず、証券や国債等に運用されていることが考えられます。我が国の預金に対する融資の割合を示す預貸率は、90年代以降、全体として低下傾向にあり、平成26年の全国平均が63%となっています。特に地方圏の地域に根ざした金融機関である信用金庫は、預貸率が50%にまで低下しています。この要因の一つとして、域内に有望な投資先が見つからないと判断されていることがあると考えられます。

カ 環境政策による、地域活性化(地域経済循環の拡大)への貢献

 イ(イ)で述べたとおり、地域の経済循環を拡大して地域経済を活性化するためには、地域資源を活用し地域外でも通用する高付加価値な財・サービスを生み出して地域内の消費・需要を喚起し、地域外から資金を獲得するとともに、地域で十分に調達できるものまで域外から移入するなどの不必要な域外への資金流出を削減することが重要です。

 ここでは、上記の地域経済循環分析の考え方を用いて、環境政策を通じた地域の経済循環の拡大を図る上での一つの考え方を紹介します。

(ア)地域の自然資源等を活用した新しい価値や高付加価値の創造(生産、分配、支出)

 地域外でも通用する新しい価値や高付加価値な財・サービスを生み出すためには、従来の財・サービスとの差別化が必要です。その差別化の源泉として、その地域の伝統産業、産業集積、特産物、気候、歴史遺産、地形・景観等の自然資本など、地域資源を生かすことが重要と考えられます。平成18年の株式会社三菱総合研究所の調査によれば、高価格帯で販売を行っている中小企業ほど、地域資源を活用している割合が高くなっています(図3-1-3)。差別化が、高価格帯の販売を可能とする要因になることを踏まえれば、同調査結果は現在にも当てはまるものと考えられます。

図3-1-3 地域資源の活用に対する中小企業の認識

 環境政策の観点では、例えば、その地域の中小企業等が有する技術を活用し、大企業が進出しないような小規模な市場を狙って、新しい環境技術製品を開発・展開すること、その地域固有の豊かな自然環境を観光資源として活用し、高付加価値な旅行商品を生み出すことなどが考えられます。

(イ)域外(国外、大都市圏)への資金流出対策

a エネルギー代金の域外流出対策(域際収支)

 水俣市の例でも紹介したように、我が国の各地域は、平均で地域内総生産の約1割に相当する資金を電気、ガス、ガソリン等のエネルギー代金として地域外に支払っています。電力会社やガス会社等のエネルギー産業が得る付加価値は、それらが存在する地域に帰属しますが、化石燃料の輸入代金は、中東を始めとした資源国に流出しています。

 エネルギー代金の域外流出を低減するには、まず高効率な空調や照明、燃費の良い自動車を導入するなどの省エネルギーを進めることで、電気やガス、ガソリンなどのエネルギーの消費量を減らすことが挙げられます。このほかにも、第1章で述べたとおり、市街地のコンパクト化と公共交通の整備によって歩いて暮らせる街を構築し、中心市街地を活性化することにより、自動車依存度の低下や小売業等の業務床面積の適正化を図り、ガソリン消費量や空調、照明などのエネルギー消費量を減らすことも考えられます。

 また、再生可能エネルギーを導入し、地域内で電気と熱の両方のエネルギーを生み出すことで、地域外に流出するエネルギー代金の支払額を削減することができます。第3章第2節3(2)で詳述しているとおり、木質バイオマス(森林)や風力、地熱、水力などの再生可能エネルギーは、地方圏において特にポテンシャルがあります。また、一定規模以上の森林資源が近くに存在する中小都市や農村部では、バイオマスコージェネレーションを導入することで、発電時の熱も利用できるため、効率良く再生可能エネルギーを利用することが考えられます。エネルギーの需要量に比べて再生可能エネルギーのポテンシャルが大きい地方圏では、将来的に、エネルギー需要量が大きい大都市圏等に再生可能エネルギーを移出(地域外に販売すること)することで、地域外から資金を獲得できる可能性があると考えられ、再生可能エネルギー産業が移出産業として育つことが期待されます。さらに、地方圏に限らず大都市圏においても、地域内で最大限の再生可能エネルギーの導入を図ることで、エネルギー代金の支払いによる域外への資金流出額を削減することができると考えられます。

b 消費・投資の域外流出対策(消費・投資)

 前述したとおり、地方圏では、地域内の資金が地域内に再投資される比率が低く、地域外に投資が流出していると考えられます。そのため、地方圏における投資需要を拡大していくことが必要です。

 他方で、地球温暖化対策のための投資需要は今後拡大していくと考えられます。中央環境審議会の試算によれば、2030年(平成42年)までに100兆円以上、年間10兆円前後の追加的な投資が必要と指摘されています。これは、現在の我が国のGDPの約2%に相当する大きなものです。各地域においても大きな投資需要を生み出すと考えられ、これらの投資需要を着実に生み出すための施策の実施が重要です。

 消費面では、前述したとおり、自動車の利用を前提とした郊外型店舗の増加により、市町村の枠を超えた商圏が広がりました。実際にも、第1章で紹介したように、市街地のコンパクト化の度合いと全売上げに占める中心市街地の売上げの比率には相関がある一方で、自動車依存度と中心市街地の売上げの比率には逆相関があります(図3-1-4)。こうしたことから、市街地のコンパクト化と公共交通の整備によって歩いて暮らせる街を構築し、中心市街地活性化策を講ずることにより、地域内の消費が増える可能性があります。

図3-1-4 自動車依存度と中心市街地の売上比率の関係(都道府県別)

c 資本所得の域外流出対策(分配)

 前述のとおり、地域内で事業が行われたとしても本社が地域外にある場合や、株主等の出資者の多くが地域外に存在する場合などは、資本所得が企業の内部留保や配当金等の形で、地域外に流出してしまう可能性があります。そのため、例えば、aで述べた再生可能エネルギー事業を実施する場合においても、地元資本を活用することが、地域資源循環を拡大させていく上では重要です。近年は、市民ファンドなど、個人の出資により資金を調達する例も多く見られます(本章第2節3で詳述)。他方、多額の資金が必要となる事業については、事業資金を全て地域内で調達することは難しい場合もあるため、域外の資本と連携することも重要と考えられます。

キ 地域経済循環分析の環境政策への活用例 -水俣市の「環境まちづくり」の取組について

 水俣市では、前述のとおり、本分析を活用して「環境まちづくり」による地域活性化の在り方について市民、専門家を交えて議論され、その結果が「平成23年度水俣市環境まちづくり推進事業概要報告書」として戦略的にまとめられました。これに基づき、水俣市では平成24年度から「環境首都水俣創造事業」等により、地域の経済循環を拡大するための具体的なプロジェクトが進められています。現在進行中の事業もありますが、ここではその一部を紹介します。

(ア)地域の自然資源等を活用した高付加価値な低炭素型観光の推進

 前述のとおり、水俣市では、製造業と医療福祉産業以外の産業が、地域外において競争力をあまり有していないことや、自動車依存度が高く、市外のロードサイド店等に消費が流出していることが明らかとなったことから、域内外の消費・需要を喚起する産業の育成が課題と考えられていました。

 そこで、水俣市は、設立以来、沿線人口の減少等により乗降客数や売上げが低下していた「肥薩おれんじ鉄道株式会社」(熊本県と鹿児島県の沿線自治体が100%出資)に対して、「公共交通機関を活用した低炭素型観光の推進」の提案を行ったところ、同社はこれを受けて、世界的な工業デザイナーの協力を得て、平成25年3月に既存車両を改造した観光列車を導入しました。この観光列車は、乗客が水俣病の舞台となり再生した不知火(しらぬい)海などの風景を楽しみながら、沿線自治体の食材を使った料理を堪能する食堂車として運行されています。通常の運賃に比べて最大約8倍の料金を設定したものの、首都圏、関西圏を含む地域から多数の利用があり、同社全体の売上げ(運送及び旅行業収入)が約3割増加したほか、沿線自治体に多くの観光客が訪れるようにもなるなど、高付加価値化による地域経済循環の拡大に成功した事例と言えます(図3-1-5)。

図3-1-5 肥薩おれんじ鉄道の売上推移

 関連して水俣市では、同社と連携した低炭素型の旅行商品を開発するほか、環境に配慮し、「心豊かな公共空間」をコンセプトとした空間を持つ観光物産館や温泉センターを整備するなどして、長年低迷が続いていきた市内2か所の温泉地の再生を図っており、ここ数年で宿泊者が増加傾向に転じるなど、一定の成果が現れてきています(図3-1-6)。

図3-1-6 水俣市における温泉地(2か所)の宿泊者数の推移

(イ)再生可能エネルギーの導入によるエネルギー代金の流出削減

 前述のとおり、水俣市では、エネルギー代金の支払いによって年間約86億円の資金が地域外に流出していることが分かりました。そこで、市民参加の円卓会議で、具体的な再生可能エネルギープロジェクトが提案され、現在、各種の事業が進められています。具体的には、水俣産業団地において、地元の中核企業なども参画した、総額40~50億円の太陽光発電事業とバイオマス発電事業の計画が進められています。特にバイオマス発電事業については、地元の林業関係及び発電所の運転等に関連する雇用創出が期待されています。

 なお、水俣市によれば、市内の再生可能エネルギーのポテンシャルは、現在の市のエネルギー需要量を上回るとの推計結果を得ており、今後の省エネルギーの取組も考慮すれば、市外に再生可能エネルギーを供給(販売)する可能性があるとしています。

(ウ)環境投資の拡大

 前述のとおり、水俣市では、市内の金融機関が保有している1,000億円以上の預金のうち、市内の企業や市民に貸し出されている資金が200~300億円にとどまっていることが分かりました。

 このため、水俣市では、環境投資を活性化させることを通じて、市民の資金が市内に融資される仕組みを検討しました。まず、水俣市と市内の金融機関が「環境と経済が一体となった持続可能な発展の実現に関する協定」を締結して連携を深めるとともに、平成25年度には、市内中小企業が行う環境投資に係る融資について、水俣市が3年分の利子と、信用保証協会に対する保証料への全額補助を行う制度を構築しました。その結果、市内の中小企業は、金融機関による営業活動もあって、この制度を積極的に活用し、高効率な照明や空調の導入、リサイクル関連設備や再生可能エネルギー設備等の導入を図り、市内金融機関による融資が、数百万規模から数千万規模まで多数実施された結果、制度開始から約1年で域内への融資額が約2億円増加しました。

循環産業による地域経済活性化

 バイオマス系循環資源による再生可能エネルギー発電は、化石燃料はもちろん、風力や太陽光等、他の再生可能エネルギー発電事業と比べて、特に維持管理において大きな雇用効果を有しています。

 また、リサイクル等により廃棄物の排出をゼロにしようとする「ゼロ・エミッション構想」に基づくエコタウン事業では、地域の産業構造等を生かした循環産業の振興を図っています。エコタウンとして認定された地域においては、平成18年度のデータによると、国による施設整備の補助金が345億円であるのに対して、自治体や事業者等から6倍弱の誘発投資(計2,023億円)が行われ、地域のリサイクル産業の振興及び地域経済振興に貢献しています。雇用創出数は、エコタウン全体で4,318人に上り、経済波及効果は521億円と試算されています。

 さらに、世界に目を向けると、国際的な廃棄物・リサイクル市場規模は、2006年(平成18年)の約38兆円から、2050年(平成62年)には約73兆円へ拡大することが見込まれています(田中勝「世界の廃棄物発生量の推定と将来予測に関する研究」平成23年)。我が国の優れた廃棄物処理・リサイクル技術と制度をパッケージとし、海外展開を促進することで、循環産業の海外展開が活発になり、日本及び地方の経済を活性化させることが期待されます。

再生可能エネルギー発電導入による雇用効果

2 防災・減災における環境の力

 第1章第1節5で述べてきたように、防災・減災への備えは我が国の喫緊の課題です。最近では、平成26年8月には広島市北部で大規模な土砂災害が、9月には長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山(おんたけさん)の噴火による被害が生じ、いずれも多くの尊い命が失われるなど甚大な被害をもたらしました。豪雨や猛暑、大型台風のほか、今後発生が予測されている南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模な災害は、我が国ならではの地理・地形・気象などに起因している面もあるため、これを避けることはできません。そのため、いかなる事態が発生しても機能不全に陥らない経済社会のシステムを平時から確保しておくことが重要です。本項では、防災・減災に向けて実施されている[1]国土強靱(じん)化に関する取組、及び[2]低炭素社会の実現に関する取組を取り上げ、環境施策が防災・減災に資することを紹介します。

(1)国土強靱(じん)化に関する取組

 東日本大震災の教訓を生かし、また忍び寄る大規模自然災害の発生に備え、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱(じん)化基本法(平成25年法律第95号)が平成25年12月に公布・施行されたところですが、平成26年6月には同法に基づく国土強靱(じん)化基本計画が閣議決定されました(図3-1-7)。

図3-1-7 国土強靱化基本計画の概要(抜粋)

 国土強靱(じん)化基本計画は国土強靱(じん)化に向けた他の計画の指針となるよう、15の施策分野ごとに推進方針を示し、それぞれの推進方針に関して、各分野に関係する府省庁と協力して施策の実効性・効率性を確保することを要請しています。また、地域ならではの災害リスク・課題はそれぞれ異なることから、地方公共団体による国土強靱(じん)化に関する地域計画の策定も進められており、国はその促進・支援のほか、各々の地域計画だけでは対応しきれない課題の調整を行っています。

 環境分野の推進方針としては、次の3点が挙げられています。以下では、[1]自然生態系ならびに[2]廃棄物処理施設について取り上げ、それぞれの施策が防災・減災に果たす役割を明らかにしていきます。

 [1]自然生態系を積極的に活用した防災・減災対策の推進

 [2]災害廃棄物の迅速かつ適正な処理を可能とする廃棄物処理システムの構築に向けた対策の推進

 災害発生時に汚水の適正処理を実施する体制の構築

 [3]有害物質の管理(貯蔵情報共有、排出・流出時の監視・拡散防止等)に係る体制の確保

ア 自然生態系を活用した方策の推進

 災害に強い国土利用や地域づくりに向けて、海岸林が津波被害を軽減する、サンゴ礁が高潮被害を軽減する、湿原が洪水を調節する、森林が土砂崩れなどを防ぐといったような、自然生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction、以下「Eco-DRR」という。)は、地域に備わる自然生態系を生かして効果を得られる場合や、初期費用や維持管理のコストが低い場合があるので、積極的に活用する重要性が高まっています。

 Eco-DRRが有する減災効果に関して、東日本大震災における海岸林に関する研究があります。海岸林は、防砂や防風等を目的に植林されていますが、現地調査において海岸林が津波の緩和に寄与したと推察される事例が示され、宮城県仙台市を対象とした研究でも、一定の条件下で海岸林が家屋流出距離を抑制した効果が試算されるなど(図3-1-8)、海岸林には防潮堤が津波の勢いを弱めた場合に、一定の条件下で減災効果があることが確認されています。

図3-1-8 海岸林による津波の減災効果

 こうした効果から、Eco-DRRを活用する動きが世界的に起こっています。平成26年10月に韓国で開催された生物多様性条約第12回締約国会議では、我が国の提案により、各締約国に対して災害リスク削減に生態系を活用することを求める決議が採択されました。また、平成27年3月には、宮城県仙台市で第3回国連防災世界会議が開催され、国連加盟193か国の首脳・閣僚を含む政府代表団、国際機関、NGOなどが参加しました。会議では、防災の世界目標である「仙台防災枠組み2015-2030」が採択され、その中で、生態系の管理が防災・減災に果たす役割の重要性が明記されました。さらに、Eco-DRRに関連する取組として、米国ではグリーンインフラ政策に関する連邦政府の役割強化を図っているほか、欧州連合(EU)でもグリーンインフラを積極的に利用していくための戦略を2013年(平成25年)に採択しています。

 Eco-DRRの活用については、地域に備わる自然生態系を活用するため、コストが低い場合があること、地域の生物多様性に及ぼす影響が少ないこと、平常時には景勝地・レクリエーションの場として利用できることなど、様々なメリットもあると考えられます。

イ 防災・減災拠点としての廃棄物処理施設の推進

 国土強靱(じん)化に向けた取組として、各地域に存在する廃棄物処理施設の活用が位置付けられ、従来からのごみ処理機能に加えて、防災・減災にも役立てることが目指されています。災害が発生してエネルギー供給が途絶するような緊急時であっても、廃棄物処理施設は自立稼働することにより地域の災害廃棄物を受け入れ、処理の遅れによる悪臭の発生や、有害物質の流出などを防ぎ、衛生や環境面の安全安心の確保等に迅速かつ的確に対応することが求められています。また、廃棄物処理施設は稼働に伴い発生する熱などのエネルギーを高効率で回収できる特色も持ち合わせることから、近隣施設との供給網を整備することにより、こうした電気・熱・蒸気などのエネルギーを、災害発生時に周辺の公共施設(市役所、コミュニティセンター)や体育館等の避難所へ供給することも可能となります。

 廃棄物処理施設の様々な機能のうち、減災に資するという観点から発電能力に注目すると、平成25年度末時点において、ごみ焼却施設のうち発電設備を有する施設は全体の28%である328施設であり、発電能力の合計は1,770MWとなっています。また、平成25年度の総発電電力量実績は7,966GWh(約240万世帯分の年間電力使用量に相当)にも上り、大きなポテンシャルを有していると言えます(図3-1-9)。他方、各地域の廃棄物施設については老朽化の進行という課題を抱えています。全国1,189施設のうち、多くの施設が更新の時期を迎えつつあることから、施設の適切な更新や改良・改造によるインフラの長寿命化を進める必要があります。

図3-1-9 ごみ発電による我が国の総発電電力量の推移

 これらの背景を踏まえ、国では市町村の廃棄物処理・リサイクル施設の整備を支援する循環型社会形成推進交付金において、平成26年度からは、災害廃棄物の処理体制を強化し、高効率にエネルギーを回収して利用する「エネルギー回収型廃棄物処理施設」に対して、その交付率を1/3から1/2に引き上げる新たな交付金のメニューを創設し、廃棄物処理施設が災害時も含めた地域のエネルギーセンターとして貢献できるような取組を推進しています。

 このような取組の一例として、東京都武蔵野市における新武蔵野クリーンセンター(仮称)の建設事業が挙げられます。現在の廃棄物処理施設が稼働後30年を経過し、再整備の時期を迎えていることから、市民も参加する委員会、協議会の議論を経て、新武蔵野クリーンセンター(仮称)建設の事業計画が進められています(図3-1-10)。新施設のコンセプトの一つとして「災害に強い施設づくり」が掲げられており、大地震等の災害時に強い都市ガス(中圧)を燃料とすることで、災害時に自立稼働し、公共施設や避難所等にエネルギー(電気・蒸気)の供給が可能となるガス・コジェネレーション設備や、近隣公共施設へ電力を供給する専用線の導入等が計画されています。平時には近隣公共施設と一体でエネルギー利用の効率化を図る一方、災害時など系統電力が途絶えたときにも、電源に頼ることなく焼却炉が稼動し、最大で約4,150kWhの発電が可能であるため、災害対策本部となる市役所や緊急物質輸送拠点等となる体育館等に継続してエネルギーを供給でき、行政機能維持に資するシステムとなっています。

図3-1-10 新武蔵野クリーンセンター(仮称)による近隣公共施設へのエネルギー供給(イメージ)

 このように、廃棄物処理施設は平時から果たす機能のみならず、地域のエネルギー拠点となる十分なポテンシャルを有しており、今後は廃棄物系バイオマスの活用の拠点としても、地域の防災・減災という観点から国土強靱(じん)化に資する可能性があると言うことができます。

(2)低炭素社会の実現に関する取組

 第1章第2節5で触れたように、豪雨や大型台風の背景に地球温暖化による影響があると考えられています。そのため、低炭素社会の実現に向けた取組を実施していくことは、地球温暖化を緩和するのみならず、長期的な観点で防災・減災に資するものと言うことができます。

 我が国では、東日本大震災における電力需給逼(ひっ)迫の経験を踏まえ、既存の大規模発電所からのエネルギー供給にのみ依存するのではなく、エネルギーを消費するそれぞれの地域・建物等において、再生可能エネルギー等により、エネルギーを自立・分散的に確保できる体制を整えようとする取組が広まりつつあります。この自立・分散型エネルギーの構築は、災害発生後に省庁や地方公共団体、企業等が事業を継続するためのBCP(事業継続計画)などの防災対策のほか、非常時電源として危機管理に寄与するのみならず、結果として、CO2の削減、エネルギー効率の向上や資源利用量の節減によるエネルギー購入代金の海外流出減少等につながるなど、様々な効果が期待できます。

 例えば、エネルギー効率に関する比較があります。従来の発電システムでは、発電所で投入された化石燃料等の一次エネルギーが燃焼した熱を利用して電気が生み出され、消費場所である家庭に届けられます。しかし、発電時に発生したエネルギーのうち、利用されない排熱が55~60%発生するとともに、送電の間にも送電ロスが発生するため、当初発電所で発生したエネルギーのうち、35~40%が電力として活用されるに過ぎません。一方で、家庭用の燃料電池に代表される分散型電源の場合、使う場所で化石燃料から水素を取り出し、その水素を燃料電池に供給して発電するため、そこで得られる電気のみならず、発電時に発生した熱も給湯などに利用することができ、全体のエネルギー効率が80~90%へ上昇します(図3-1-11)。同量のエネルギー(熱・電気)を得るために投入されるエネルギー量を比較する観点に立てば、投入される資源が節約できることに加え、結果として排出されるCO2排出量の削減にも寄与することになります。

図3-1-11 従来の商用電力と家庭用コジェネレーションシステムとのエネルギー利用率比較

 また、平成26年12月に一般社団法人創発的地域づくり・連携推進センターが中心となって実施した地方自治体を対象にしたアンケートによると、再エネ事業による地域貢献の意義として地方自治体が期待するものとして、地域での独立電源や防災対策が最も多い結果となりました(図3-1-12)。東日本大震災を経て、各地域が「災害に強い」というイメージで、再生可能エネルギーを捉え直していることが推測されます。

図3-1-12 自治体が地域の再エネ事業に期待する地域貢献

 こうした背景を踏まえ、我が国では、再生可能エネルギーや未利用エネルギー等を活用した自立・分散型エネルギーシステムの導入により、低炭素な地域づくりのみならず、災害にも強い地域づくりの実現を目指しています。第2章第2節でも紹介した平成23年度から実施しているグリーンニューディール基金は、各都道府県や指定都市が選定する避難所や防災拠点等への再生可能エネルギー等の導入を支援し、自立・分散型の地域づくりを後押しする事業です。地震や台風等による大規模な災害の発生によってライフラインが途絶した場合でも、非常用電源などの機能を保持できるよう備えることができます。役所庁舎への太陽光発電設備及び蓄電池の設置等、これまでに日本全国で3,000件を超える事業が実施され、事業を実施した都道府県・政令指定都市における防災拠点の再エネ・蓄電池普及率を3ポイント上昇させることができました。

緊急時に備え、電気を水素としてためておく

 自立・分散型のエネルギー供給システムが抱えるコスト面や性能面の制約をクリアし、緊急時対応という観点からも、いかに効果的に普及させていくか――。この課題に対して、株式会社東芝と川崎市は、二次エネルギーである水素に焦点を当て、太陽光と水があれば電気と温水を供給できるシステムの共同実証を平成27年4月から行うことを発表しました。

 従来、再生可能エネルギーによる発電は、発電量が季節や天候等によって左右されやすいほか、出力の調整ができないため、発電された電気は機器ですぐに利用するか、すぐに利用できない場合には蓄電池にためる以外の方法がなく、また蓄電池も長期間・大量の電気をためておくことが難しいという弱点を抱えていました。一方、同システムは太陽光発電由来の電力によって水を電気分解し、発生した水素をためておく点が特徴で、ためておいた水素は燃料として燃料電池の稼働に用いられます。

 今回の共同実証では、川崎市内の災害時における周辺地域帰宅困難者の一時滞在施設に同システムを導入する予定です。平常時は補助電源の機能を果たし、設置場所における使用電力のピークシフト及びピークカットに寄与する一方、緊急時には約300人の避難者に対して、約1週間分の電気と温水を供給することが可能となります。また、同システムは、トレーラー等に積んで運ぶことができるサイズである点を生かし、災害発生時においては被災地やオフィスビルなどの非常用移動電源としても活躍が期待されています。

各種電力貯蔵システムの出力容量と蓄電時間

水素貯蔵と蓄電池のメリット・デメリットの比較

3 人口減少・高齢化時代の持続可能な土地利用

 第1章で示したとおり、我が国は人口減少・高齢化の進行に伴い、耕作放棄地の増加など里地里山の荒廃や、それに伴う鳥獣被害の増加及び営農意欲の低下が生じているほか、市街地の拡散が伴う人口減少が進む中での行政コストの増大や高齢者の交通手段の減少等も懸念されています。こうした経済・社会的課題は、環境問題とも深く関連しているため、環境施策の実施により経済・社会的課題の解決にも貢献できる可能性があります。ここでは人口減少や高齢化、人口密度の低下等によって生じる環境への影響や、その解決に向けた取組について紹介します。

(1)市街地のコンパクト化

 第1章で述べたとおり、市街地の拡散によって、経済・社会的な面では、行政コストの増大、中心市街地の衰退、高齢者の交通手段の減少等の問題が生じ、環境面では、自動車依存度・走行量やオフィス、店舗等の床面積の増大により運輸部門、業務部門等におけるCO2排出量が増加しています(図3-1-13)。

図3-1-13 市街化区域の人口密度と一人当たり自動車CO2排出量(路面電車有無別、東京圏・関西圏を除く中核市)

 中長期における温室効果ガスの大幅削減に向けては、市街地のコンパクト化を進めて、自動車の走行量や店舗等の床面積を適正化することが重要です。さらに、熱需要の多い施設を計画的に一定の範囲内で配置し、建物間の距離を縮めることで、地域熱供給システムの導入によるエネルギーの有効活用も期待されます。これと同時に、市街地のコンパクト化は中心市街地の活性化や高齢者の交通手段の確保などの経済・社会的な課題解決にも寄与し、第1章第3節で示した環境、経済、社会の統合的向上の実現につながると考えられ、政府でもその取組を推進しているところです。

 しかし、市街化区域を有する都市を見ると、依然として郊外の開発は進んでおり、我が国の多くの都市では、市街地のコンパクト化に向けた取組が進んでいるとは言えない状況です。地方圏で、平成17年から平成22年の間に、市街化区域を拡大した都市は107都市、縮小した都市は15都市、現状を維持した都市が106都市ありますが、市街化区域を拡大した都市のうち54都市は、面積とは逆に市街化区域の人口が減少しています。また、市街化区域の人口密度は、地方圏全体の半数以上の地域で低下しています。今後、人口減少を見据えて、前述の環境、経済、社会の課題解決を図るためには、各都市において市街化区域の範囲の適正化や、郊外道路の沿道開発の抑制など、市街地の人口密度を維持・向上させる取組が重要です。

 この点に関し、平成18年版環境白書において、路面電車が市街地の拡散を防止する上で一定の役割を果たしたことを紹介しています。多くの都市で、市街地のコンパクト化等の効果を期待して路面電車やLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車システム)の延伸や新設に向けた検討が進められており、富山市においては富山港線(LRT)が新設されました。路面電車やLRTの拡大や新設が市街地のコンパクト化に寄与することで、CO2排出量の削減、行政コストの削減、中心市街地活性化、都市全体の自動車依存度の低減など、多様な効果が得られると考えられることから、導入に向けて議論の深化が期待されます。

 さらに市街地のコンパクト化は、土地の有効活用にもつながる可能性があります。愛媛県松山市と栃木県宇都宮市は、都市全体及び市街地の人口がほぼ同じでありながら、市街化区域の面積は、松山市が約70km2、宇都宮市が約92km2と宇都宮市が約22km2広くなっています(次頁コラム内の図参照)。今後、宇都宮市のような拡散型の市街地を有する都市は市街地のコンパクト化を図る余地があると言うことができます。市街地のコンパクト化を進めることで、元々市街地であった土地において、自然再生を行って森林や草地を復活させることや、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備を設置することなど、新たな土地の利活用が進む可能性があります。

松山市と宇都宮市の市街地の構造

 松山市と宇都宮市は、人口、面積がほぼ同規模の都市ですが、自治体単位で見ると、市街地の構造に大きな違いがあります。松山市は、市内の中心部に路面電車が存在し、その周辺等に人口密度の高い人口集積地区があります。他方、宇都宮市は、環状道路周辺等に広く人口が分布するとともに、松山市に比べると中心部の人口密度はそれほど高くなく、市街地は拡散しています。

 温室効果ガス排出量の面では、運輸部門においては、松山市の自動車分担率は約50%、宇都宮市は約66%である一方、松山市の徒歩・自転車分担率は約38%、宇都宮市は約26%となっており、一人当たりの年間の自動車CO2排出量(乗用、貨物)は、松山市が約1.3トン、宇都宮市が約2.2トンとなっています。また、業務部門との関連においては、一人当たりの商業床面積は松山市に比べて宇都宮市が約17%大きくなっています。これと関係して、単位面積当たりの小売りの売上げは、松山市の方が1割近く大きくなっています。

松山市と宇都宮市の比較

 社会面では、高齢者の外出頻度を見ると、松山市が2割近く多くなっています。また、財政面では、道路や学校等の人口一人当たりの維持補修費は、宇都宮市が松山市の約1.7倍で、総額で約9億円の差額が生じています。

 仮に宇都宮市の市街地が松山市と同等の人口密度にコンパクト化し、併せて公共交通機関の利便性を高めたなどと仮定した場合、どの程度自動車(乗用車)からのCO2排出量が減少するかを、「平成23年度地方公共団体実行計画(区域施策編)策定マニュアルに関する低炭素化手法(土地利用・交通関係)の検討業務報告書」に掲載されている試算モデルに基づいて推計しました。

 その結果、宇都宮市の都市内交通の自動車からの排出量は、自動車の総走行距離が減少することによって3割程度(約27%)削減されるとの推計が得られました。その地域における自動車からのCO2総排出量は、総走行距離と距離当たりのCO2排出量(平均燃費に相当するもの)の積で求められます。例えば、総走行距離と平均燃費がそれぞれ3割削減される場合、総排出量は半減する(0.7×0.7=0.49)ことになります。地域における中長期の自動車のCO2総排出量の大幅削減のためには、自動車の環境性能の向上とともに、市街地のコンパクト化等による総走行距離の削減が重要と考えられます。

試算の前提条件の概要
(2)里地里山の保全

 里地里山は、約3,000年という長い歴史を通じて、農業や林業などの営みを通じ、人が自然に働き掛けることによって形成、維持されてきた多様な生態系であり、多面的な機能を有する重要な地域です。しかし、第1章で見たように、産業構造や資源利用の変化と、人口減少や高齢化による無居住地の拡大・活力の低下に伴い、自然に対する働き掛けが縮小することによる里地里山の荒廃が継続・拡大しています。

 今後無居住地化する全ての里地里山において、従来どおり人の手を掛けて維持管理していくことは現実的ではありません。里地里山の状態のまま、手を加え続けて保全すべき地域と、自然の遷移に任せ、本来人間の手を加えない状態で成立する森林にまで移行させていく地域を区分するなど、総合的な判断の下に国土の将来あるべき姿を描いていく必要があります。

図3-1-14 未来に引き継ぐ里地里山のイメージ

 環境省では、平成24年度から生物多様性保全上の観点から重点的に保全すべき里地里山を「生物多様性保全上重要な里地里山(以下「重要里地里山」という。)」として選定のための検討を行ってきました。選定に当たっては、生物多様性保全の重要性を示すデータや専門的知見を活用するほか、地域特性も踏まえ、「多様で優れた二次的自然環境」、「里地里山に特有で多様な野生動植物の生息・生育環境」、「生態系ネットワークの形成への寄与」の三つの観点から抽出しています。抽出した重要里地里山は、平成27年に全国に公表し、里地里山の保全・活用の理解や取組の促進・拡大に役立てるとともに、保全活動時に発生する間伐材等のバイオマス資源の活用促進等、具体的な保全活用策の検討を行っていくことで、重要里地里山の保全管理を促進していく必要があります。さらに、別途検討・抽出が行われている生物多様性の保全上重要な海域や湿地との間で、人と豊かな自然とのつながりを作り出し、国土レベルでの生態系ネットワークの構築に向けた検討が必要です。これにより、野生生物の生息・生育空間の確保、良好な景観や人と自然との触れ合いの場の提供など多面的な機能を生かし、里地里山での持続可能な暮らしの支援と、生物多様性保全に資する国土利用を目指しています。里地里山の保全を目指すこれらの取組は、鳥獣被害の減少や営農意欲低下の抑止にも資すると考えられます。また、里地里山は環境教育の場としても活用されています。我が国では児童・生徒が農山漁村での宿泊体験活動を通じて、自然体験や農林漁業体験等を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進しています。環境省では、人と自然が織り成す風景地として、自然公園に含まれている里地里山における自然体験を推進しています。自然体験を通じて、自然保護の大切さや人や自然に対する思いやりの心を学ぶと同時に、豊かな人間性が育まれます。

 一方、自然の遷移に任せて森林に移行させていく地域について、東北地方南部から南西諸島の範囲では、常緑広葉樹林が最終的な森林(極相林(きょくそうりん))になるのが通常です。しかし、一部ではアズマネザサというササが林床を覆ってしまって他の植物が生育できなくなったり、竹林が進入・拡大し、通常とは異なる経過をたどる「偏向遷移(へんこうせんい)」が生じる場合があります(図3-1-15)。偏向遷移は、単調な植生により生物多様性が低いため、自然の遷移に任せて森林に移行させる地域については、地域の自然環境や里地里山の分布状況、周辺環境等を踏まえ、偏向遷移防止やその解消が課題となります。

図3-1-15 植生遷移の一例

淡水魚保全のための検討会

 日本列島には、約400種の汽水・淡水魚が生息していますが、環境省が作成したレッドリストでは、絶滅危惧種数が改訂の度に増加しており、平成25年2月に公表した第4次レッドリストでは167種と、評価対象種に対する絶滅危惧種の割合が42%と分類群の中で最も高くなりました。この中には、ドジョウ、メダカ等の近年まで身近であった種のほか、アユモドキ、スイゲンゼニタナゴ等の生息数が非常に少なくなった種もあります。

アユモドキ

スイゲンゼニタナゴ

 これらの淡水魚は、河川のほか、水田、水路、ため池等、人間の活動により維持されている二次的自然に依存していることから、人間活動の影響を受けやすく、戦後から現在に至る土地利用や人間活動の急激な変化等が、その生息環境を劣化・減少させた要因だと考えられます。

 このような淡水魚を取り巻く危機的な状況を打開し、その生息環境を改善していくためには、これらの淡水魚が二次的自然に依存し、河川、水田、水路等の水域間のネットワークを利用するという生活環の特性を踏まえ、生息環境の保全や再生に係る技術的な対策を行うほか、危機に至った社会的な背景・要因についても視野に入れた総合的な保全策を講じていくことが必要です。

 このため、環境省では、関係省庁とも連携し、有識者による「淡水魚保全のための検討会」を平成26年度から開催しています。同検討会では、絶滅の危機にある淡水魚の保全上の課題、対応の方向性、種の特性に応じた技術的な対策等の検討を行っています。同検討会の成果は、国、自治体、市民、農業者、研究者等の多様な主体が淡水魚の保全に取り組む上で活用できるよう、平成27年度末を目途に淡水魚保全のための提言について取りまとめる予定です。

適正な資源ストック社会の実現

 人口減少や高齢化は、廃棄物発生量にも影響を与えると考えられます。人口減少によって、生活に伴う廃棄物発生量の減少が見込まれる一方で、高齢単身世帯の増加を始めとする世帯数の増加に伴う一人当たりの家庭ごみ排出量の増加や、高齢単身世帯の増加に伴って、家庭からのごみ出しに困難を伴うケースの増加が予想されます。さらに、過疎化により利用者が減って不要となったり、税収減少により更新が困難になるインフラの増加、空き家の増加など、社会資本等の廃棄物化により、将来的なインフラ起因の廃棄物量の増加なども懸念されます。

 そのため、こうした人口減少・高齢化社会では、買い物や食事の宅配サービス時に「通い箱(使い捨てでない配送箱)」の使用や食器・容器包装のリユースが行われるなど、高齢化社会・単身世帯化に対応した3R活動が営まれることが必要です。また、長期にわたって使用可能な質の高い住宅の設計、製品を長期間使用していくための修理や維持管理、リフォームなどにより古い住宅や空き家を最大限活用するなどの観点も重要となります。さらに、新しい商品の購入・所有にこだわらないリースやレンタルなど、モノの「共有」が所有形態の一つとして定着することで、共有を通じた人と人とのつながりにも新たな価値観が見いだされることとなります。

 さらに、人口減少や無居住地化の拡大によって利用や需要が減少し、財政状況によって適正な維持管理が難しくなるインフラについては、老朽化してリユース、リサイクルが困難となる前に、例えば想定した耐久年数が過ぎた時点など適切なタイミングで縮減し、資源として有効利用を図ることも必要となります。こうした製品やインフラの寿命の長期化や適切なリユース、リサイクルにより、潜在的に廃棄物となり得る負のストック(将来的に老朽化・不要となるインフラなど)が可能な限り縮減され、豊かさを生み出す有用なストックが多く蓄積された、「ストック型社会」が形成されていくこととなります。