環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第3節 環境保全を織り込んだ復興の取組

第3節 環境保全を織り込んだ復興の取組

 我が国は東日本大震災により、東北地方を中心に甚大な損害を被りましたが、自然環境に配慮した持続可能な社会の構築を目指した復興の取組が始まっています。ここでは、被災地における環境保全を織り込んだ復興の取組を紹介するとともに、我が国の被災地への支援策を紹介します。

1 三陸復興国立公園の創設を核としたグリーン復興

(1)三陸復興国立公園の創設

 東日本大震災では、沿岸の自然環境(特に海岸の植生、砂浜、干潟及び藻場)が大きく影響を受け、陸中海岸国立公園をはじめとする自然公園の利用施設(歩道、トイレ、野営場等)にも大きな被害が出ました。

 この地域(青森県八戸市の鮫角(さめかど)から宮城県石巻市の万石浦(まんごくうら)まで)の海岸線は三陸海岸と呼ばれています。三陸海岸は北上山地が太平洋に接する地域で、宮古市を境に南北で風景が異なり、宮古市以北は北山崎に代表される豪壮な海食崖、宮古市以南は鋸状の優美な海岸線であるリアス海岸となっています。海食崖とリアス海岸の合間には砂浜や松原などが点在し、変化に富んだ景色が見られ、海食崖、リアス海岸ともに日本最大規模のものです。このため、陸中海岸国立公園を中心に自然公園の再編を進めています。

 これらの優れた自然の風景地のうち、地域の暮らしの中で維持されてきたシバ草原の美しい風景を持つ種差(たねさし)海岸やウミネコの繁殖地で有名な蕪島(かぶしま)を持つ種差(たねさし)海岸階上岳(はしかみだけ)県立自然公園を陸中海岸国立公園に編入し、平成25年5月に三陸復興国立公園として指定する予定です。国立公園のテーマは「自然の恵みと脅威、人と自然との共生により育まれてきた暮らしと文化が感じられる国立公園」となっており、地域ならではの自然環境を活かしてエコツーリズムを推進することによって、この地域の観光業・農林水産業を活性化して復興を目指すとともに、自然と共生する地域づくりを支えるため、この地域の自然環境の成り立ち、森・里・川・海のつながりと人の暮らし、自然の脅威などをテーマとした環境教育プログラム等による持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development。第2章第7節を参照)を推進しています。


三陸復興国立公園の創設を核としたグリーン復興

 このような地域に根ざした取組を効果的に進めていくためには、国立公園に関係する地方公共団体、地域で活動するNPO法人、観光関係者、復興を応援する民間団体、そして地域にくらす人々、国立公園の利用者等、多様な主体が協働して参加・連携する仕組みを構築することが重要です。多様な主体と目標を共有することにより、地域に根ざした魅力的な国立公園の創出や、地方公共団体等が実施する観光や環境教育等との連携による地域活性化が期待されます。


三陸復興国立公園の風景

(2)南北につなぎ交流を深めるみち(みちのく潮風トレイル(旧:東北海岸トレイル))

 環境省では、地域の自然環境や暮らし、震災の痕跡、利用者と地域の人々などをさまざまに「結ぶ道」として、復興のシンボルとなる長距離の歩道「みちのく潮風トレイル」を設定するための準備を、地域との協働で進めています。青森県八戸市蕪島から福島県相馬市松川浦までを対象に、約700kmを想定したみちのく潮風トレイルは、東北太平洋岸を歩いて旅することで、車の旅では見えない風景(自然・人文風景)、歴史、文化(風俗・食)などの奥深さを知り、体験する機会を提供します。旧来の観光名所だけでなく、トレイル全線に渡って旅人が訪れることで人と人の交流が生まれ、地域が活性化することを目指すとともに、地域の人々にとっても素晴らしい自然や文化を背景とした歩道があることを誇りに思ってもらえるようなトレイルを目指しています。トレイルは、平成25年秋に一部区間開通、その後段階的に開通していく予定です(ウェブサイト:環境省_みちのく潮風トレイル公式サイト(別ウィンドウ))。


地域でのワークショップによるトレイルの検討

 コース設定のための調査として、想定するルートをモニターが歩き、地域の外からの、一般の人の目線で、地域の魅力を発見し日記を綴りました。


踏破モニターの旅

(3)森・里・川・海のつながりの再生

 また、被災地では震災をきっかけに自然再生を目指す取組もみられます。岩手県陸前高田市の小友浦は、かつて農地として湾を干拓した場所が津波・地盤沈下の影響を受け、再び干潟のような環境となった場所です。陸前高田市では、干拓以前の本来の姿である干潟に再生することを市の復興計画に明記し、震災後の沿岸域の環境基礎調査等を実施し、その実現可能性を検討しています。


干潟のような環境となった小友浦(岩手県陸前高田市)

(4)地震・津波による自然環境への影響の把握(自然環境モニタリング)

 地震・津波による自然環境の変化状況を把握するため、自然環境保全基礎調査やモニタリングサイト1000に加え、新たに調査を開始しました。面的な変化状況を把握するため、震災前後の植生図を基にした植生改変図の作成、海岸線、海岸植生及び海岸構造物の変化状況の把握を進めています。また、スポット的に変化状況を監視するために、アマモ場5か所、藻場4か所、干潟15か所、海鳥繁殖地3か所について調査を行っています。さらに、被災地ではさまざまな主体により自然環境調査が行われており、これらの情報を共有するためのウェブサイト「東北地方太平洋沿岸地域自然環境情報」を開設しました(東北地方太平洋沿岸地域自然環境情報(生物多様性センター(環境省 自然環境局))(別ウィンドウ))。


東北地方太平洋沿岸地域自然環境情報ウェブサイト

 東北地方太平洋沿岸のグリーン復興事業の対象地には、平成22年に選定したラムサール条約湿地潜在候補地が7か所あり、平成24年度に地震・津波の影響を受けた後の資質の再評価を行いました。その結果、大きくかく乱された現在の状態であってもすべての候補地において、条約湿地としての資質基準のうち最低一つは現在も該当していると考えられました。候補地の自然環境は現在も変化を続けている状況であることから、モニタリングを継続し、長期的な情報収集に努めていきます。

(5)国際的な情報発信

 三陸復興国立公園の取組に関しては、国際的にも高い関心を集めていることから、平成25年11月に仙台市で開催される「第1回アジア国立公園会議」における発表をはじめとして、幅広く国際的に情報発信し、海外からの旅行者の増加を目指すとともに、自然環境保全に関する施策が自然災害からの復興に果たす役割を国際的モデルとして提示していきます。

2 被災地における復興の取組

 東日本大震災の被災地のうち、特に大きな被害を受けた福島県、宮城県、岩手県を中心に地域の自然環境を活かしながら、持続可能な社会を目指した復興への取組が始まっています。

(1) 福島県の取組

 福島県は、震災前に策定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を平成24年3月に改訂し、復興に向けた主要施策の一つに「再生可能エネルギーの飛躍的な推進による新たな社会づくり」(以下「ビジョン」という)を位置付けました。福島県は全国3位の広大な面積を有し、広大な山林や温泉など豊かな自然にも恵まれていることから、再生可能エネルギー資源に恵まれています。このビジョンでは、平成32年には県内の一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を約40%に、さらに平成52年頃には県内のエネルギー需要の100%以上のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出すことを想定した「再生可能エネルギー先駆けの地」を目指しています。


福島県の再生可能エネルギーの導入推移

 福島県内の磐梯地域は、東北地方最大級の地熱資源を有しているとされており、温泉地数全国第5位、自噴湧出量全国8位と、全国的にも豊富な湯量があることで知られています。ここでは、磐梯朝日国立公園内に位置する福島市の土湯温泉における地熱資源を活かした復興の取組を紹介します。同温泉は、古くから宿場町として栄えた温泉街でしたが、東日本大震災に伴う風評被害の影響から宿泊客数が激減しました。このような状況を打開するため、同温泉の協同組合では、温泉熱を利用したバイナリー発電と小水力発電による地域の復興に取り組もうとしています。バイナリー発電とは、温泉の熱で沸点の低いアンモニア系の液体を気化させ、その蒸気によってタービンを回して発電するものです。新たに温泉を掘削する必要がないため、周辺の自然環境への影響も一定程度に抑えられています。また、土湯温泉で計画しているバイナリー発電は、循環液の冷却に水を用いることで、騒音を軽減する予定です。さらに同温泉では、付近の河川を利用して小水力発電の設置も検討しています。


福島県の再生可能エネルギーのポテンシャル図

 地元住民だけで組織した土湯温泉町復興再生協議会は、平成24年10月に「株式会社元気アップつちゆ」を立ち上げ、これらの再生可能エネルギーを活用した売電事業、温泉と廃旅館を活用した屋内野菜農園事業、再生可能エネルギーの導入研修等でも利用できる合宿施設を含む複合施設事業などを構想しており、復興モデル観光地として新たな街づくり事業を展開しています。


土湯温泉のバイナリー発電計画

2 宮城県の取組

 宮城県は、平成23年10月に宮城県震災復興計画を策定しました。同計画では、復興の主体を県民一人ひとりとし、県内の市町村や民間企業、NPOなど多様な活動主体が「絆」という結びつきを核に、災害からの復旧にとどまることなく、抜本的な再構築を目指した復興に取り組むこととしています。


宮城県の復興主体

 また、太平洋岸に位置し、日本三景に数えられる松島に面する宮城県東松島市は、震災後、津波の被害を受けた地域を有効活用するため、復興のシンボルとしたメガソーラーの建設を民間事業者と協力して進めています。また、市内の駐車場の屋根などにも太陽光発電を設置して、災害時の非常用電源として活用することを計画しています。さらに津波の被害が大きかった沿岸部における海岸防災林の育成に取り組むほか、木質バイオマス発電の導入を進めるなど、木を軸にした街づくりにも取り組んでいます。環境に配慮した街づくりのさらなる推進と東日本大震災からの迅速な復興を目指すため、行政と民間を仲立ちする一般社団法人「東松島みらいとし機構」を設立し、行政と民間事業者が一体となって復興に取り組んでいます。


東松島市カーポート型発電施設完成予想図

真に豊かな復興を目指して―わたりグリーンベルトプロジェクト

 被災地域におけるまちづくりによる復興は、さまざまな自治体が市民と協働で取り組んでいます。

 宮城県沿岸部に位置する亘理町には、沿岸部にハマボウフウ(宮城県レッドデータブック絶滅危惧種II種)やクロマツが生育する特徴的な海岸防潮林が縦4km、幅250~400mに渡って広がっており、100年以上もの間、潮風や砂の飛来を防ぐ町のシンボルとして美しい景観を成していました。しかし、東日本大震災の津波により、この海岸防災林がほぼ壊滅してしまいました。そこで、海岸防災林の再生を中心とした復興計画の策定によって、「次世代のために地域の持続的な発展を実現させたい」という強い思いから「わたりグリーンベルトプロジェクト」が進められています。同プロジェクトでは、復興のグランドデザインを行政だけが描くのではなく、町内外の40から50名の参加者を中心にワークショップを5回開催し、町民主導で海岸防災林再生のマスタープランを策定しました。また、苗木の栽培やツーリズムの展開等を行なっており、今後も町内外の人材を活用しながら、地域資源を活かしたビジネスも展開し、復興を進めていく予定です。


壊滅的な被害を受けた海岸防潮林

完成したマスタープラン

3 岩手県の取組

 岩手県では、「安全の確保」、「暮らしの再建」、「なりわいの再生」の3つの原則を基に、「海と大地とともに生きるふるさと」を目指して復興に取り組んでいます。

 陸前高田市では、震災復興計画において同市内の浜田川地区を「食農産業モデル地域」と位置付け、安全・安心・高生産性な農業生産システムとして注目されている植物工場を誘致し、大規模施設園芸団地の実現を目指しています。植物工場とは、施設内で生育環境を制御して栽培を行う施設園芸のうち、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な施設のことを言います。平成24年に設置された植物工場では、人工光ではなく太陽光を使って、直径30メートル、高さ5メートルのドーム型フッ素樹脂ダブルフィルムハウス内でレタス類を中心とした野菜を栽培しています。ドーム内では円の中心部に植えた苗が外側にずれ、30日程度で外周に移動し、最も外側にきた株から収穫します。この装置では、苗が放射状に移動することから、隣の苗と葉が重ならず、単位面積当たりの生産量も増加し、植え替えの手間も省くことができます。また、同工場内では、地下水を利用することによって、太陽蓄熱や熱交換による養液温度の制御にかかわる実証試験等を行い、環境にも配慮した設備となっています。ここで栽培された野菜は、東北地方の小売店を中心に販売されています。この取組により、被災地における新たな農業活性化と被災市民の安定的な雇用創出に寄与するとともに、こうした先端農業の担い手を育てるために、実践型の農業専門学校の設立も視野に入れて、新たな食農ビジネスモデルの構築に挑戦しています。


陸前高田市の植物工場ドーム内部

関東地方における復興の取組

 福島県、宮城県、岩手県以外の地域においても東日本大震災により、人的、物的損害が発生しており、各地で復興に向けた取組が進められています。ここでは、関東地方における復興の取組として、茨城県日立市と千葉県浦安市の事例を紹介します。

 茨城県日立市では、津波の被害を受けた沿岸部を中心に、市内全域が被災しました。同市は日本経済団体連合会の「未来都市モデルプロジェクト」のモデル地域となっており、震災からの復興に向けて、株式会社日立製作所と協働して環境に優しく災害に強い工業都市を目指しています。この取組では、災害時に使用する避難所に太陽光発電システムを設置する等、自立分散型電源の整備を推進しています。また、ハイブリッドバスを運行させることで、ガソリンに頼らない交通インフラの整備も進めています。さらに、FEMS(工場間の配電設備、空調設備、照明設備、製造ラインの設備等の電力使用量のモニタリングや制御を行うためのシステム)を活用して工場と地域が連携した自立分散型の地域づくりに取り組んでいます。


日立市「未来都市モデルプロジェクト」概要図

 千葉県浦安市は、震災直後、市全体の86%の地域において液状化現象が発生したことにより約75,000m3の土砂が地上に噴出し、住宅地を中心に深刻な被害が生じました。また、地震の揺れなどにより、約2,000tもの災害廃棄物が発生しました。同市では、これらの土砂や災害廃棄物などを利用した復興の取組として「浦安絆の森」事業に取り組んでいます。同事業は、災害からの復旧工事によって発生した廃材や噴出した土砂を活用して土塁を築き、そこへ市民が中心となって植樹をすることで、自然豊かな海岸防災林を造成しようとするものです。同事業では平成23年度から浦安市内の高洲海浜公園で実施しており、平成24年度には、市民と民間事業者が協同で植樹を実施しました。


千葉県浦安市「浦安絆の森」における植樹

2 復興による持続可能な地域社会の構築を支援する制度

(1)オフセット・クレジット制度(J-VER)を活用した被災地支援の取組

 我が国では東日本大震災の被災地支援を実施する事業者に対して、カーボン・オフセットを活用した「オフセット・クレジット制度(J-VER)」による支援を実施しています。カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。オフセット・クレジット制度では、このような考え方に基づき、温室効果ガスの削減活動を認証してクレジットを発行し、このクレジットを市場で流通させることによって低炭素社会を実現しようとするものです。同制度では、民間事業者・市民等がカーボン・オフセットを活用するための支援事業の公募を行っており、採択された事業者に対して、カーボン・オフセットプロバイダーが、[1]カーボン・オフセットの企画に対するアドバイス、[2]温室効果ガス排出量算定・オフセット認証費用支援、[3]情報提供ツール作成等を行うことでサポートしています。同制度の活用により、事業者、国民など幅広い主体による自発的な温室効果ガスの排出削減の取組を促すことになります。また我が国では、平成24年1月より同制度を活用して復興支援に携わる事業者への支援を行っています。被災地産のオフセット・クレジットを活用しながら、カーボン・オフセットの考え方を浸透させると同時に、復興支援につなげることを目指しています。なお、オフセット・クレジット制度(J-VER)は、平成25年度からは、国内クレジット制度と統合した新たなクレジット制度「J-クレジット制度」として運営することとなりました。

J-VERを活用した被災地支援の具体例

 本環境白書の市販版発行にあたっては、印刷時に排出したCO2をオフセットするとともに、復興に資する取組を支援するため、被災地産のクレジットを購入しています。ここでは本環境白書の制作にあたり、カーボン・オフセットに用いるクレジットであるJ-VERクレジットを購入した釜石地方森林組合と宮城県林業公社の取組を紹介します。

 岩手県釜石市の釜石地方森林組合では、木材価格の低迷や、森林所有者の森林整備への関心の低下、林業従事者の減少などの問題を抱えています。そこで、J-VERクレジットの販売収益を活用しながら、小規模山林所有者の施業集約化や林地残材のバイオマス利用などに取り組み、持続可能な森林経営を行っています。東日本大震災では、事務所の喪失や組合長他職員、組合員が亡くなるなど大きな被害を受けましたが、震災前と同様に、J-VERクレジットを販売しながら、復興に向けて取り組んでいます。


木材の積み込み(岩手県釜石市)

 また、宮城県林業公社は、同公社が保有している46.27haの森林を対象に発行されたJ-VERクレジットを販売しています。この販売収益によって同公社の森林の間伐を促進することで、被災した地域の環境の復旧や雇用創出、復興住宅への木材供給に取り組んでいます。

(2)復興支援・住宅エコポイント制度

 我が国では平成23年10月から開始した「復興支援・住宅エコポイント制度」により、[1]東日本大震災の復興支援、[2]住宅市場の活性化、[3]地球温暖化対策のため、エコ住宅の新築又はエコリフォームを実施した場合にポイントを発行する復興支援・住宅エコポイント制度を約1年間実施しました。同制度を通じて発行されたポイントは被災地産の商品やエコ商品等と交換することができます。さらに、被災地でのエコ住宅の新築には、その他の地域の倍のポイントを発行し、また、エコリフォームについては、耐震改修した場合等にもポイントを発行しました。