第2節  地球温暖化と世界の暮らし

 私たちの暮らしも、地球温暖化の原因である化石燃料の使用などを通じて、地球環境に影響を与えています。低炭素社会の構築に向けて、私たちは、エネルギー多消費型のライフスタイルを見直し、エネルギー資源を大切にする暮らしへと転換を図る必要があります。

1 世界の家庭用エネルギー消費

 エネルギーは、各国の経済社会活動の基礎であり、人々の生活にも不可欠です。2005年(平成17年)の一人当たりの二酸化炭素排出量を各国と比較してみると、我が国は産業部門の比率が36%となっており、ドイツ(30%)、イギリス(25%)、アメリカ(21%)と比較して高いことがわかります。他方、我が国の家庭部門の比率は、14%となっており、ドイツ(32%)、イギリス(32%)、アメリカ(23%)よりも低くなっています。

 2005年における我が国の世帯当たりのエネルギー消費量は1.1TOE(石油換算トン)であり、イギリス(1.7TOE)、ドイツ(1.6TOE)、アメリカ(2.5TOE)と比較して低水準となっています。

 しかし、次に見るように、我が国では家庭用エネルギー消費量が長期的に増加基調にあることが特色であり、増加を止め、減少傾向へと転じることが重要です。


一人当たり二酸化炭素排出量の国際比較(2005年)


2 家庭用エネルギー消費の推移

 家庭用エネルギー消費量とそれに関連する複数の指標の推移を見てみると、2005年における我が国の家庭用エネルギー消費量は、基準年から44%増加しており、他の3か国(アメリカ28%増、イギリス16%増、ドイツ0.7%増)と比較しても突出してその増加率が大きいことがわかります。また、我が国の家庭用エネルギー消費量の増加率は、最終エネルギー消費量、GDPや家庭消費支出などの経済指標の増加率をも上回っています。さらに、我が国の世帯数は引き続き増加基調にあり、2005年は21%増と、他の3か国(アメリカ17%増、イギリス14%増、ドイツ12%増)を上回る増加率で推移していることがわかります。

 これらを見てみると、我が国の家庭用エネルギー消費は、[1]世帯当たりのエネルギー需要の増加(家庭用エネルギー消費原単位の増加)と、[2]世帯数の増加により大幅に増えてきたといえます。世帯数の増加傾向が当面続く中、家庭用エネルギー消費量を抑えるためには、世帯当たりのエネルギー消費量の削減を進める必要があります。


各国の一人当たり及び世帯当たりの家庭用エネルギー消費の推移


各国の家庭用エネルギー消費と関連指標の推移


3 用途の違いからみた家庭用エネルギー消費

 世界の国々の家庭用エネルギー消費の構造は、気候風土や生活水準のほか、ライフスタイルや文化に応じて異なっています。

 2006年度の我が国の世帯当たりの用途別エネルギー消費量の構成を見てみると、動力・照明他35.1%、給湯用31.2%、暖房用23.7%、厨房用7.9%、冷房用2.2%となっており、家庭における機器や給湯の使用によるエネルギー消費量が多いことが特徴となっています。これに対してイギリスやドイツでは、暖房用途が圧倒的に多く、世帯当たりの暖房用エネルギー消費量は、我が国の3倍以上もあり、これが世帯当たりのエネルギー消費量の差をもたらす主要因であるといえます。これは、冬季の気温の差による暖房需要の違いもありますが、欧米各国では、住宅暖房システムは集中化(セントラル・ヒーティング)されて全館終日暖房となっている住宅が多く、この暖房形態の違いが、消費量の違いに影響しているといえます。


各国の世帯当たり用途別エネルギー消費量の推移


(1) 建物のエネルギー効率改善に向けた取組

 ア EUにおける取組

 このように家庭用エネルギー消費量の大半を暖房用途が占める欧州では、家庭部門の省エネルギー対策として、断熱のための建物のエネルギー効率改善に関する対策に重点が置かれています。EUでは、「建物のエネルギー効率に関するEU指令」(2002年)により、加盟国に住宅・建築物のエネルギー効率に関する最低基準やエネルギー効率証明書制度の導入等の国内制度を確立することなどを求めているほか、各国は、補助金制度や税制の活用などにより、建物のエネルギー効率改善を進めるための各種取組を行っています。


 イ 我が国における取組

 京都議定書目標達成計画では、新築時等における省エネルギー措置の徹底に加えて、既存の住宅・建築物ストックの省エネルギー性能の向上を図る省エネルギー改修を促進することとしています。新築時における措置としては、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネルギー法)を改正し、住宅・建築物に係る省エネルギー措置の届出の義務付けの対象について、一定の中小規模の住宅・建築物(2,000m2未満)へ拡大するとともに、大規模な住宅・建築物(2,000m2以上)については、省エネルギー措置が不十分な建築主に対する命令を導入する予定です。また、既存の住宅ストックにおける省エネルギー措置としては、既存住宅において一定の省エネルギー改修(窓の二重サッシ化等)を行った場合に係る省エネ改修促進税制を創設するなど、省エネルギー改修を促進する仕組みに力を入れています。


(2) 家電製品等のエネルギー効率改善に向けた取組と課題

 ア トップランナー基準に基づく取組

 我が国の世帯当たりの動力・照明他の使用によるエネルギー消費量は、ドイツの約2倍、イギリスの約1.5倍と、多いことが特徴です。このため我が国では、省エネルギー技術の開発を促し機器のエネルギー効率を高めるため、エネルギーを多く使用する機器ごとに省エネルギー性能の向上を促すための目標基準(トップランナー基準)を設け、規制しており、今後更に基準の対象を拡大するとともに、既に対象となっている機器の対象範囲の拡大及び基準の強化を図ることとしています。


トップランナー基準の対象となる特定機器(21機器)とトップランナーの例


 イ 増加する家電製品等の使用によるエネルギー消費

 個々の機器のエネルギー効率を改善する取組は進められていますが、用途別家庭用エネルギー消費量の推移を見ると、我が国では、動力・照明他のエネルギー消費量が、2006年度には基準年度比50%増と、他の用途(給湯用(13%増)、暖房用(21%増)、厨房用(10%増)、冷房用(26%増))や他の欧米先進国と比較して大幅に増加しています。


 (ア) 機器の増加に伴うエネルギー消費の増大

 我が国の家電製品等の世帯当たりの保有台数は全体的に増加傾向にあり、特に、エアコンやテレビについては一世帯当たりの保有台数が平均2.5台を超えています。また、パソコン、温水洗浄便座、DVDといった新しい機器によるエネルギー消費が近年増加しています。このような機器の増加傾向は、世帯当たりのエネルギー消費量を増加させる要因となっています。


主要耐久消費財の保有率と普及率の推移


 (イ) 生活スタイルの変化に伴うエネルギー消費の増大

 生活スタイルが深夜化したことによるエネルギー消費量の増加も指摘されています。日本人の生活時間の調査によると、1970年以降、日本人の睡眠時間は長期的に減少を続けてきています。これは家庭での機器の使用時間の増加など、様々な側面で家庭でのエネルギー消費の増大につながっていると考えられます。


睡眠時間の時系列変化(国民全体・平日)


 (ウ) 世帯構成の変化に伴うエネルギー消費の増大

 我が国では、1990年以降、少子高齢化の進行、核家族化、住居の個別化、晩婚化・未婚化等による単身世帯の増加などにより世帯当たりの人数は急速に減少してきており、その減少のペースは他の3か国よりも明らかに速いものとなっています(1970年3.4人→2006年2.6人)。世帯数を構成する人数が少ないほど1人当たりのエネルギー消費量は増加するため、このような我が国の家族を取り巻く環境の変化も、家電製品等の使用によるエネルギー消費量を増加させている大きな要因になっているといえます。


各国の世帯当たりの人数の推移


世帯人数別1人当たりエネルギー消費量


4 エネルギー源の違いからみた家庭用エネルギー消費と二酸化炭素排出量

 我が国の2005年の家庭用エネルギー源の構成比は、電力52%、石油29%、ガス17%、太陽光1%となっており、エネルギー源ごとの消費量は1990年と比べて、電力が81%、ガスが27%、石油が18%増加しています。我が国は、イギリス、ドイツ等と比べると電力の割合が大きいことが特徴的です。このため他国と比べると、電力の発電に用いる燃料(石油、石炭、天然ガス、原子力)の構成変化による電力の二酸化炭素排出原単位の増減は、家庭用エネルギー消費における炭素集約度に強く影響を及ぼすことになります。例えば、2005年度における家庭部門の二酸化炭素排出量は、約174百万トンとなっていますが、この年度において原子力発電所が仮に2002年度に計画された設備利用率で運転していた場合、その実績と比べて850万トン削減されていたこととなります。


各国の家庭用エネルギー消費の燃種構成の推移

 各国の炭素集約度は現在概ね同程度ですが、推移を見ると、イギリスやドイツでは、天然ガスへの燃料シフトにより、炭素集約度が低下し、家庭部門の二酸化炭素排出量の減少に大きく寄与しています。また、ドイツでは、太陽熱発電やバイオマスによる地域暖房の利用の増加も二酸化炭素排出量の削減に貢献していると報告されています。家庭部門においても、省エネルギー対策とともに、暖房や給湯などの低温熱需要における太陽熱利用や太陽光発電の設置など、再生可能エネルギーの利用が期待されています。


各国の炭素集約度の推移


5 暮らしを見直す

 私たちの住まい方、使い方、選び方により、エネルギー消費量は変わってきます。無駄なエネルギー消費をなくし、二酸化炭素排出量を削減するためには、人々が環境に対して関心を持ち、自分の問題として捉え、さらにその関心が実際の行動に結びつくことが重要です。


(1)暮らしとエネルギー消費の関係について知る

 居住者の家庭用エネルギーに対する認識について調査した結果によると、エネルギー消費量が実際は2%と少ない冷房が最大用途と回答した世帯が全世帯の30%、給湯(この場合は厨房を含む。)が家庭用エネルギー消費量の多くを占める実態(39%)を把握している世帯は全体の16%であったなど、認識と実態の乖離があることが指摘されています。


家庭におけるエネルギー消費の実態と認識の乖離

 自分自身の生活行動とエネルギー消費の関係について、正しい認識を持つことが、家庭用エネルギー消費の削減につながります。そこで、エネルギー消費量や二酸化炭素排出量等の情報を提示し、「見える化」することで、生活者の省エネ・省CO2意識を喚起し、行動を促す試みも始まっています。


「見える化」の例:(左)イギリスのスマートメーター(家庭での電力使用量を数値化しリアルタイムで表示)、(右)省エネナビ(写真提供:More Associates、(財)省エネルギーセンター)


(2)省エネルギー行動を実践する

 我が国の地球温暖化防止のための国民運動「チーム・マイナス6%」では、「めざせ!1人、1日、1kgCO2削減」キャンペーンを行っています。これは、身近なところでできる地球温暖化防止メニューの中から個人が「実践してみよう」と思うものを選び、毎日の生活の中で1人1日1kgの二酸化炭素排出量削減を目指そうとする取組です。これらのメニューを毎日の生活の中で心がけて実践することが大切ですが、意識による行動の実践とともに、省エネ機器の普及促進や省エネ設備の導入など、省エネルギー技術を活用した対策も大きな効果が期待されます。

 例えば、我が国は他国と比較してお風呂に入る回数が多く、給湯用のエネルギー消費量が多いですが、家族が入浴の間隔を空けずに入る、シャワーの使用時間を1日1分短くするといった行動の実践とともに、給湯エネルギーについては、太陽熱の利用や高効率の給湯器の導入など、設備面での対策が有効です。従来の燃焼系給湯器をCO2冷媒ヒートポンプ給湯器に換えると、一次エネルギー使用量を約3割、二酸化炭素排出量を約半分削減することができます。

 また、照明についても、エネルギー消費の多い白熱灯から、省エネルギー型の蛍光灯やLED(発光ダイオード)照明に転換する動きが、世界の家庭やオフィス、街灯などで広がってきています。


LEDを使用したクリスマスイルミネーション(左:パリ・シャンゼリゼ通り、右:六本木けやき坂通り)(写真提供:カイエ・ド・パリ、森ビル(株)

 さらに、暮らしの場となる住まいそのものについても、環境の面から見直そうとする視点も重要です。例えば、住宅の価値をエネルギー効率性などの環境の視点からも適切に評価することや、長期にわたって使用可能で環境性能にも優れた住宅(200年住宅)を普及させていくことも、低炭素社会に向けて求められているといえるでしょう。


(3)エネルギー資源を大切にする暮らしへ

 低炭素社会に向けては、エネルギー多消費型の生活から、環境を大切にすることを価値として認めるライフスタイルへの転換を進める必要があります。そして、低炭素社会への移行に当たっては、地球環境を考え、環境への負荷が少ないものを選択し、環境に配慮した暮らしをする生活者が大きな役割を果たします。低炭素社会の構成員は私たち一人ひとりです。低炭素社会へと動き出した世界の中で、私たちは、次代を担う世代のために、エネルギー資源を大切に使う暮らしへと今、転換しなければなりません。



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