第5節 対策技術の活用の方向性

地球温暖化対策を進めていく上で、技術は重要な役割を担います。ここでは、既存技術の大幅普及、革新的技術や自然と共生する技術の開発など、今後の地球温暖化対策に当たっての我が国の技術活用の方向性を考えます。

1 既存の技術を隅々まで行き渡らせる

各家庭や業務用ビルなどに新しい技術を用いた機器等を大幅に導入することが、二酸化炭素排出削減にどのような可能性を持つかを見ていきます。

(1)家庭における機器等の導入に係る二酸化炭素削減量試算例
現在既に家庭にある機器を、省エネルギータイプの機器に買い換えし、また家の一部に断熱改修などを行った場合の二酸化炭素削減効果について試算してみます。例として、1)40代夫婦と子ども2人で一戸建て(持ち家)に住むAさんと、2)60代夫婦で一戸建て(待ち家)に住むBさん、3)30代独身だが結婚して2人家庭を持つことになったCさん(賃貸アパート)の3つの場合を示します。

家庭における機器の買換え等による二酸化炭素排出量削減量試算

試算の結果、Aさん、Bさんともに二酸化炭素排出量が大幅に削減でき、Cさんも、買換え等を行った機器に関しては、独身の頃より二酸化炭素排出量が減る可能性さえあることとなりました。
また、家庭において自家用自動車を燃費の良いものに置き換えた場合も、走行距離に応じた相当程度の二酸化炭素排出削減効果があると試算されます。

自家用乗用車の買い換えによる二酸化炭素排出量削減効果


(2)業務用ビルにおける機器等の導入に係る二酸化炭素削減量試算例
既存の業務用ビルにおいて、現在既に実用化されている省エネルギー技術の導入を行った場合の二酸化炭素排出削減効果について試算してみます。東京都内の標準的なビル(地上8階地下1階、延床面積約7,500m2)で、既存の設備を活用しつつ機器の運用対策の徹底を図った場合と、運用対策に加え更に照明器具の交換等の比較的投資負担の少ない設備対策を講じた場合について試算すると、大幅な二酸化炭素の排出削減が可能となります。

業務用ビルの対策効果試算

各家庭、業務用ビルにおいて、既存の各種の対策技術を導入することによって、短期間で大きな二酸化炭素排出削減効果を上げ得ることが分かります。
しかしながら、実際にはこのような対策技術の導入はまだ十分には進んでいません。つまり、最新型の省エネルギー性能の高い機器・設備を導入したり、機器・設備の調整を最適化したりする、といった対策を講じる余地はまだ大いにあると言えます。二酸化炭素排出量の削減を実効的に進めるためには、新たな技術開発が重要であるだけでなく、開発され実用化されたこのような技術を社会の隅々にまで行き渡らせていくことが極めて重要であると言えます。

2 革新的技術の開発を進める

新たな対策技術の開発は今も不断に進められており、革新的な対策技術の開発が進み、それが普及していけば、業務や家庭といった民生部門、自動車などの運輸部門も含め、更に大幅な二酸化炭素排出の削減を実現することが期待されます。技術開発の進展は経済や社会も含めたイノベーションの新たな起爆剤となり得ます。そして、経済や社会の発展がさらに次の技術革新推進の原動力となり地球温暖化対策が進展していくという展開が期待されます。

コラム 将来に大きな期待の持てる技術

地球温暖化対策分野において将来に期待の持てる現在開発中の技術のうち、民生部門及び運輸部門に活用が可能な技術を中心に紹介します。

1)蓄える技術(蓄電蓄熱)
 電気は、利便性は高いものの、発電場所や導線から離れたところで使用する際には、蓄積が難しいことに効率上の課題があります。このため高性能の蓄電体の開発が期待されます。充電時間が短い、充放電の繰り返しによる寿命低下がない、という利点を持つ大容量のキャパシタを開発することができれば、電気自動車への応用も考えられ、コンセントから充電を行うプラグインハイブリッド自動車を含めた、画期的に高性能・高効率な電気自動車の早期実用化が見込まれます。
 様々なエネルギー利用に伴って生ずる熱を逃さず蓄えて必要な時や必要な場所で使える技術とシステムや、化学的エネルギーを直接電気に換える燃料電池の実用化が期待されています。

写電気二重層キャパシタ

2)低温熱、未利用熱の活用
 従来活用されることなく捨てられていた熱などのエネルギーを、高温から低温に移る段階ごとに順次無駄なく使用していくことは、エネルギーの効率的な利用の観点から非常に重要です。こうした観点から、エクセルギーの高い段階から低い段階まで、例えばエンジンからガスタービンや蒸気タービン、給湯用高温水、暖房用温水といったように、エネルギーを無駄なく効率的に使用する「カスケード利用」の徹底のための技術開発も期待されています。

その他、きめ細かな連携・制御に関する技術、素材・デバイスに関する技術、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術など、様々な分野で革新的な技術の開発が進められており、こうした技術の開発・普及が、地球温暖化対策を進める様々の取組に大きく寄与していくことが期待されます。


3 自然との親和を図る

私たちは生態系を構成する一員であり、その健全な生態系が働いている仕組みの中でしか生きられない以上、技術の開発・導入に当たっては、人間の活動が生態系の仕組みと親和性を持つべきものであることを忘れてはなりません。こうした観点から考えると、自然の仕組みや生物の働きをいかした地球温暖化対策技術の開発・活用は、今後期待される分野の一つと考えられます。例えば、農業分野においても、自然環境やその変化に対応した作期の変更や品種の開発、遺伝子組換え技術を活用した環境耐性に係る研究開発を適切なバランスを考えつつ講じていく必要があります。また、太陽エネルギーを用いて水と二酸化炭素から酸素と有機物を合成したり、水を水素と酸素に分解したりする人工光合成など、自然の仕組みに学ぶ技術も開発が進められています。

人工光合成

地球温暖化対策技術の開発・普及は、我が国の温室効果ガス削減のためだけではありません。世界各国に優れた技術を移転し技術を組み込んだ製品等を普及させていくことは、世界的な温室効果ガスの排出削減やエネルギー問題の緩和に貢献するだけでなく、大気汚染など他の環境問題の解決も併せて図るという見地からも実現が強く求められています。また、我が国の省エネルギー関連技術の開発・普及は、国際競争力の向上等経済的な意味においても大きな利点があるものと考えられます。
地球温暖化が顕在している中で、持続可能な社会への転換が迫られています。技術は、これまで見てきたように地球温暖化問題を含む環境保全分野において、社会へ様々な利点を生み出してきました。今後、3つの方向性を意識しつつ技術を有効に活用することで、技術は地球温暖化問題への解決、つまり新しい社会への変革への道を開く重要な要素になると考えられます。


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