日本で、そして世界へ

<第3章の要約>

 本章では、第1章で考察した「環境のわざ」と第2章で考察した「環境の心」を適切に融合させることにより可能となる、より質の高いくらしについて見ていきます。環境のわざと心を日本中に広げ、世界へ発信していくことは、環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境を改善するという環境と経済の好循環を、日本で、そして世界で生み出していくことにつながります。



1 くらしの環境革命を目指して

 近年、心豊かで質の高いくらしを求め、くらしを見直すいくつもの芽を見ることができます。
 人工物に囲まれた生活を送る人が多い現在、多くの人がもっと自然とふれあうことを求めています。現在住んでいるところより、自然環境に恵まれたところを望む人が、生活が便利になることを望んでいる人より多くなっています。また、自然保護が必要な理由として、「自然は人間の心にやすらぎやうるおいを与えてくれるから」と考える人や「子どもたちの健全な成長や自然を学ぶ場として大切だから」と考える人が多くなっています。自然に囲まれて、景色の美しさ、木々や花の香り、鳥や風の音、森の静けさなどを感じることは、都会の便利さより魅力的に考える人もいるでしょう。

 「環境のわざ」と「環境の心」が結びつくことにより、より相乗的な環境保全効果が期待できる新しいライフスタイルが生まれます。例えば、家電製品の「環境のわざ」が進展しても、消費者が「環境の心」を持ってこのわざを使わなければ、環境保全効果は期待できません。そこで、家庭での使用電力量から環境負荷を表示することにより環境保全行動を促すシステムがあります。しかし、このシステムだけでは時間が経過するにつれて、環境保全効果が薄れてくる傾向にあります。そのため、消し忘れを防止したり、普段の生活習慣に合わせて電源等を自動的に制御することにより省エネルギーと快適性を同時に追求するシステムが開発されています。

2 「環境ビジネス」と「環境誘発型ビジネス」

 近年、環境に関連したビジネスが活発になってきます。環境省は、環境保全を考えた消費者の行動が、環境に配慮した機器やサービスの需要や市場を誘発する事業を広い範囲で捉え、これらを「環境誘発型ビジネス」として、市場・雇用規模の予測を行いました。これは、経済協力開発機構(OECD)の分類の「環境ビジネス」を含み、これより広い範囲の事業を指すものです。
自然とふれあう機会をもっと増やしたいと思うか

生活が便利なところか自然の豊かなところに住みたいか
環境誘発型ビジネスの概念図


 OECDの分類に基づいた環境ビジネスとしては、廃棄物処理のほか、大気汚染防止用装置の開発、教育・研修・情報サービスの提供等が挙げられます。
 さらに、環境省では、環境保全を考えた消費者の行動が環境に配慮した機器やサービスの需要や市場を誘発する「環境誘発型ビジネス」の市場を試算してみました。その結果、市場規模では2000年の約41兆円から2025年の約103兆円に、雇用規模では2000年の約106万人から2025年の約222万人になると予測されます。例えば、省エネ型家電製品の開発・販売は、従来型の家電製品より省エネ型の製品を購入しようとする環境を保全する志向が需要や市場を拡充する一例です。これらの市場が消費者の支持を受けて拡大するにつれて、事業者も将来性のある環境に関連したビジネスに一層投資を行うことにより環境に関連したビジネスの一層の発展につながり、さらに環境が改善されることが期待されます。

環境誘発型ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計

3 環境と経済の関係についての検討

 中央環境審議会総合政策部会「環境と経済の好循環専門委員会」は、平成16年4月「環境と経済の好循環を目指したビジョン」を取りまとめました。これは、2025年を一つの到達点として「健やかで美しく豊かな環境先進国」を目指すことを提案するものです。また、事業者の自主的、積極的な環境配慮の取組が重要との観点から、中央環境審議会「環境に配慮した事業活動の促進に関する小委員会」は、「環境に配慮した事業活動の促進方策について」を取りまとめました。
 経済産業省では、「産業構造審議会環境部会産業と環境小委員会」において、民間事業者の自主的な取組による環境に配慮した経営の促進のために必要な施策等に関する検討を通じて、「環境と経済の両立」を達成すべく議論を深めています。

環境と経済の好循環ビジョン〜健やかで美しく豊かな環境先進国へ向けて〜(平成16年4月中央環境審議会総合政策部会「環境と経済の好循環専門委員会」報告)



 くらしの環境革命の第一歩は、意識革命です。すなわち、人間と環境との関わりについての理解と認識を深め、自ら環境に配慮した生活や責任ある行動を取ることです。また、自然と親しみ美しい環境を五感で感じることは、子どもの心を育み、大人の心を癒す上で大変重要な役割を果たします。環境問題が一人ひとりのくらしや社会から起きていることを理解し、これを自らの手で解決していく努力も求められています。そのためには、環境に対する豊かな感受性や見識を持つ人づくりが重要で、環境教育がその役割を担っています。
 環境教育については、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が平成15年7月に成立し、同年10月に一部施行されました。今後、16年10月の完全施行に向けて、基本方針の作成などを進め、法律を踏まえた施策を積極的に実施していく必要があります。また、17年から始まる「国連持続可能な開発のための教育の10年」に向けて、持続可能な開発のための教育の概念の整理、長期的な推進計画等の検討が官民で進められています。
 環境教育の推進を図る上で、環境に関する知識だけでなく、現場での経験、問題解決に当たってのリーダーシップや異なる主体間の調整を行うコーディネート能力を有する専門家の育成が重要です。
 環境保全を行った子どものきっかけとして、母親の発言や行動を挙げる回答が最も多く、子どもに対する家族の役割は重要です。また、小中学校は身近な地域単位ごとにあることから、各地域における環境教育学習の拠点となることが期待されます。
 また、子どもだけでなく、成人に対しても、企業による環境教育や消費者教育等の生涯学習の場を通じて、環境配慮型のライフスタイルの形成が求められています。さらに、高齢者層に対しては、その経験や生活の知恵に裏付けられた物を大切にするという伝統的なライフスタイルを若い世代に伝える役割が期待できます。
 約4分の3の企業が従業員に対する環境教育を実施しています。地域の代表的な企業などでは民間団体と協力して、地域の子どもたちなどの環境教育に取り組んでいる例もあり、今後、活発になることが期待されます。
 行政には、学校、事業者、民間団体などが行う環境教育に対しての人的、技術的、財政的な支援の拡充のほか、国内外の先進的な事例の把握、環境教育に関する実態調査などが求められています。また、こうした各関係者間のパートナーシップの構築が重要です。

従業員に対する環境教育
環境保全活動の契機


第3節 日本発の環境関連の国際標準を目指して

 日本の優れた「環境のわざ」を広めていくためには、日本が国際標準を策定する場に積極的に関与し、貢献していくことが必要です。
 日本は、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などへの対応として、幅広い分野での国際標準化の取組を進めており、光触媒空気浄化性能試験など環境関連の分野で積極的に進められているものがあります。燃料電池の国際標準化については、水素・燃料電池に係る技術開発、基準・標準化、情報交換等を促進する「水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE)」が設立されました。平成15年11月に開催されたIPHEの閣僚会議では、全体の企画運営を担当する運営委員会の副議長を日本が務めることとなりました。今後、日本は、燃料電池に関する優れた技術力を活かし、産官学の連携により戦略的に研究開発等を進めると同時に、積極的に燃料電池の基準・標準化の検討に関与していくことが必要です。
 環境面での日本の技術水準は、世界でも最先端のものが多くあります。今後、産業界、行政、大学等が協力して、日本発の環境標準を提案し、国際合意の形成に能動的に関与し、貢献していく必要があります。こうした国際標準の策定の場に、日本が戦略的に人的資源を投入することは、日本発で環境と経済が好循環する世界市場を作り出すためにも重要です。



 日本で作られた優れた「環境のわざ」は、政府、地方公共団体、企業、NGO等を通じて、世界に広がっており、地球規模の環境問題等の解決に大きく貢献しています。
 政府開発援助(ODA)は、日本の国際社会への貢献として、開発途上国に対する支援政策の根幹をなしています。その基本文書である政府開発援助大綱は、国内外の情勢の変化等を踏まえ、平成15年8月に改定され、地球的規模の問題である環境問題に対する援助や、援助を行う際の環境と開発の両立は、引き続き重要視されています。政府としてもさまざまな主体との協力・連携の下、専門家の派遣や研修員の受入、機材の供与など、日本が積み上げてきた経験や知見、技術を活用しつつ国際環境協力を行っています。
 地方公共団体が行う国際環境協力には、姉妹都市関係などにより直接海外の自治体に対して行うものや、日本が各国から要請を受け、ODA事業として援助することが確定した案件について、実施機関である国際協力機構(JICA)が実施するODA事業に参加する形で行うものなどがあります。都道府県の87%、政令指定都市の100%、中核市の21%が国際環境協力を行っています。例えば、兵庫県は、モンゴル国の森林火災を契機として、技術者の派遣等により同国の緑化の支援を行っています。同時に、緑化によるCDM事業の実施の可能性について先導的な民間企業や団体とともに取りまとめることを通じて、県内企業等に同国の緑化事業への参加を促す試みを実施しています。
3章4節 中国黄土高原
 日本の企業も、さまざまな形で国際環境協力を行っています。例えば、ある自動車会社は、環境改善や保全に向けた活動を助成する制度を作り、「持続可能な発展のための社会的投資」を基本テーマとして、環境技術と環境学習の2つの分野で地域に根ざした実践型プロジェクトに対して支援を行っています。環境面での技術水準と意識の高い日本企業の海外直接投資が、開発途上国の環境保全に重要な役割を果たしている例も見られます。
 開発途上国で活躍するNGO等の民間団体のきめ細かな対応は、環境分野をはじめとする日本の国際協力において極めて重要です。その活動の場の多様性や迅速性、地域に根ざしたアイデアも注目されています。例えば、NPO法人「緑の地球ネットワーク」は、中国の黄土高原で保水や土壌の浸食防止と改善のためにマツや灌木を植林したり、貧しい村の小学校にアンズやリンゴなどの付属果樹園を造り、その収益の一部を教育条件の改善に充てる活動などを行っています。


むすび 環境のわざと心で地球環境保全

 くらしの中で「環境のわざ」と「環境の心」を活かすことにより、変革が始まります。家電の省エネ率、自動車の燃費をはじめ、環境に資する日本の技術には世界最高水準のものがあり、このような「環境のわざ」が日本で、そして世界に広がれば、地球環境の保全に貢献することができるでしょう。また、古来自然を敬ってきた日本人の心は、美しい自然を味わいつつ健やかに豊かに暮らす持続可能なライフスタイルを生み出せる可能性があり、これを日本人全体に、そして他国の人々にも魅力的に提示できれば、世界の持続可能な発展に貢献することができるでしょう。
 一人ひとりが環境のわざと心を活かして行動しなければ、環境は保全できません。一方、一人だけの行動では、改善できる環境は小さなものかもしれません。だからこそ、個人、事業者、NGO、行政等の人々が家庭で、地域で、国全体で、また国境を越えて連携し、これらの協力の中でよりよい環境に向けた行動を進めることが望まれます。
 「環境のわざ」と「環境の心」を結びつけ、広めることにより、環境保全をバネにした新しい社会経済への発展、すなわち「環境革命」が始まると考えます。21世紀の世界が新しい発展を遂げるよう、「環境のわざと心」を、日本から生み出し、広げていこうではありませんか。



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