第1部 動き始めた持続可能な社会づくり <総説>

第1章 社会経済システムと環境問題のかかわり


<第1章の要約>
 今日の社会経済システムは、自然からの恵みを用いかつ不用物を自然環境へ排出することにより成立していますが、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムにおける経済活動の拡大は、急速に環境負荷を増大させ、人類の生存基盤である自然環境のバランスを崩し始め、さまざまな地球規模の環境問題として現れています。
 この章では、社会経済システムと環境問題のかかわりについて考察し、今後、持続可能な社会を実現するにあたり、環境効率性を向上させることの重要性を明らかにします。

1 社会経済システムと自然環境における循環

 地球上の自然環境は、大気圏、水圏、土壌圏及び生態系の間を物質が循環し、生態系が微妙な均衡を保つことによって初めて成立しています。一方、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムは、生産、流通、消費、廃棄等の各段階において、資源・エネルギーの採取、不用物の排出等の形で自然環境に対し負荷をかけています。自然環境は、水の浄化、土壌の形成と維持、気温の調整等、人間の存在にとって欠かすことのできないものであるとともに、さまざまな生物資源の宝庫であり、レクリエーションや観光としての価値を有するなど人類にさまざまな恩恵を与えるほか、自らの循環の中で、社会経済システムにおいて生じた負荷を吸収し軽減するという機能を有しています。しかし、その能力には限界があるとともに、社会経済活動の拡大等による自然環境の破壊や、適正な管理が 放棄された森林の増大等による自然の劣化などを通じて、その機能が弱められています。この結果、社会経済活動に伴って生じる環境負荷の総量が、自然環境の循環を通じた吸収・軽減機能の限界を超え、公害や自然破壊をはじめとするさまざまな環境問題を生じさせることとなります。

社会システムにおける循環と自然環境おける循環

 地球温暖化についてみると、産業革命以降、石油・石炭などの化石燃料が大量に消費されるようになり、温暖化の原因物質である二酸化炭素の排出量は最近100年間で約12倍に増加し、現在の大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命以前と比べ3割増加しています。この結果、この100年間で、世界全体の地上気温は0.6±0.2℃上昇し、日本でも約1.0℃上昇しました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、このまま対策がなされなければ、地表の平均気温は、21世紀末までに1.4〜5.8℃上昇し、海面水位は9〜88cm上昇すると予測しています。

世界の人口とCO2排出量の推移

 森林については、非伝統的な焼畑、不適切な商業伐採に加え、森林火災や違法伐採を原因としてその減少、劣化が問題となっており、1990年から2000年までの間に、世界全体の森林面積は9,400万ha減少し、中でも熱帯地域の天然林については、毎年日本の本州の面積の約3分の2に相当する1,420万haが減少しています。また、過放牧、薪炭材の過剰な採取などは、砂漠化の原因にもなっており、砂漠化の影響を受けている土地の面積は、地球上の全陸地の約4分の1に当たる約36億haにのぼります。さらに、農業を通じた自然環境からの採取である穀物の収穫量も、1950年から1995年にかけて約2.7倍に増加しています。
 生物の多様性についても、現在5,435種の動物及び5,611種の植物が絶滅のおそれのある種とされています。

絶滅のおそれのある種の現状

 自然環境への負荷は、不用物の排出によっても生じています。世界の主要国の都市ごみは、いずれも増加傾向を示しており、わが国の物質収支(マテリアルバランス)をみても、再生利用されている量は全体の約1割程度で、1世帯あたりで換算すると、1日当たり130kgの資源を利用し、そのうち約50kgを不用物として排出していることになります。


わが国の物質収支

主要国の都市ごみ排出量の推移 世界の鉱物生産量

 資源についてみると、石油は1950年から1995年にかけて約6.3倍、鉄鉱も約6.5倍に生産量が増加しており、石炭や石油の燃焼に伴って大気中に放出される硫黄酸化物や窒素酸化物から生じる酸性雨は、湖沼の酸性化、森林の衰退等、自然環境へ負荷を与えています。
 オゾン層の破壊は、化学的に安定かつ人体に無害で、多くの産業で使われたフロンが大気中に放出されることにより生じた問題であり、オゾン全量が著しく少なくなる「オゾンホール」は、昭和60年頃に南極上空で確認され、平成13年にはその面積は2,647万km2にまで拡大しました。
 有害化学物質による環境汚染問題もあります。現在、世界全体で約10万種の化学物質が流通していますが、例えば、製造などが中止されてから30年以上経つPCB(ポリ塩化ビフェニル)が北極のアザラシからも検出されるなど、危険性が指摘されている数多くの化学物質がさまざまな環境中から検出されています。
 こうした自然環境からの資源等の採取の増加、不用物排出の増加の原因には、経済活動の規模の拡大とその前提でもある人口の増加があります。1950年から1995年の間に、世界のGNPは約5.5倍に増加し、1950年から2000年の間に、世界の人口は約2.5倍の約60億人へと増加しています。
 このように、今日の社会経済システムは、自然環境に対して多大な負荷を与え続けており、社会経済システムと自然環境のバランスが崩れ自然環境の質の低下があらゆる場面で進行しています。

2 日本の環境問題の変遷

 わが国の戦後から現在までの歴史を振り返り、社会経済システムと自然環境の関係を見ていきます。


 日本のエネルギー供給量

 戦後の経済復興を優先した昭和30〜40年代の高度成長期(第T期)においては、エネルギー消費量は急増し、また、生産額1単位当りの汚染物質発生量の大きい重化学工業が躍進することにより、環境の急速な悪化をもたらしました。最も大気汚染が著しかった時期には、汚染によって視程が30〜50mにまで落ち込むとともに、硫黄酸化物による鼻を刺すような臭いが立ちこめているところもありました。また、プランクトンが水面近くで急激に繁殖し魚介類に被害を与える赤潮も、昭和45年には瀬戸内海の全域で発生するようになりました。深刻な大気汚染や水質汚濁は、いわゆる四大公害病(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)の発生を招く等、大きな社会問題にまで発展しました。

わが国の環境問題の変遷
硫黄酸化物・窒素酸化物の排出量
 昭和50年代は、二度にわたる石油危機等を要因に経済が高度成長から安定成長へと移行した時期(第U期)で、産業部門においては省エネルギーが進み、民生部門・運輸部門のエネルギー消費が拡大しました。産業活動を原因とする公害問題は、自治体の公害防止協定や条例、国の規制の効果、企業の努力等によって収束を見せつつあり、例えば、大気汚染に関する硫黄酸化物対策は、その効果が顕著に現れた事例であるということができます。しかし、大都市圏に人口が集中したこと、所得向上によって自動車が普及したこと等により、自動車排気ガスによる大気汚染や生活排水等による水質汚濁など日常生活や通常の事業活動に伴う都市生活型公害が問題となったのもこの時期です。
 昭和60年代以降(第V期)は、原材料のみならずあらゆる製品の輸入が拡大するとともに、原油価格の下落により化学、パルプ等のエネルギー多消費型産業の生産が増加しました。国内においては、東京への一極集中が加速し、バブル経済等による個人消費の拡大がもたらされましたが、バブル経済の崩壊後は、長期の不況、消費低迷等に直面することとなりました。前半の急速な経済の拡大期には、すでに環境対策の枠組みが構築されていたことから、産業型公害の発生が繰り返されることはありませんでしたが、都市生活型公害が広がりを見せるとともに、廃棄物・リサイクル問題や地球環境問題等の新たな環境問題を生じさせることとなりました。また、科学的に未解明な点が多い内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題が生じたのもこの時期からです。

3 過去の事例等からの教訓

 視点を世界に向けてみると、世界の中でも環境の脆弱な地域では、面積が3分の1に縮小したアラル海や、地下水位が急速に低下しているインドや中国のように、生態系の破壊がその地域の社会経済に深刻な影響を与えている事例を見ることができます。また、シュメール文明やイースター文明等の過去の事例は、環境が回復不能なまでに破壊されたときに、文明は環境とともに滅びることを示しています。自然環境は微妙なバランスの上に成立しており、私たちは、こうした事例も踏まえつつ、今までのような経済活動を継続し、環境に影響を与えていくことの意味を考える必要があります。

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