平成12年版
図で見る環境白書


 序章 21世紀の人類社会が直面する 地球環境問題

  第1節 地球環境にとっての2000年の意味

  第2節 人類社会が健全に存続することのできる「環境の世紀」の実現に向けて

 第1章 環境の世紀に向けた世界の潮流と日本の政策展開

  第1節 地球規模での社会の変化と環境保全のための取組の方向

  第2節 国内における社会の変化と環境への影響

  第3節 環境の世紀への展望と新たな政策展開

 第2章 「持続可能な社会]の構築に向けた国民一人一人の取組

  第1節 環境問題及び経済社会における個人の役割

  第2節 個人の生活がもたらす環境負荷

  第3節 個人の環境保全への取組と他の主体に与える影響

  第4節 住民主導による環境保全を通じた地域コミュニティの再興

  第5節 個人の視点から見た「持続可能な社会」への道筋

 第3章 わが国の環境の現状

 むすび



 表紙の絵は、埼玉県深谷市立幡羅中学校3年溝端映里香さんの作品で、環境庁、(財)日本環境協会主催「平成12年版環境白書表紙絵コンクール」で環境庁長官賞(小中学校の部)を受賞したものです。
 溝端さんは「私たちが暮らしている地球を大切にして、幸せに暮らせると同時に、私達、私達の仲間、そして世界中の皆で支えなくてはならないということを描きました。」と話しています。



読者の皆様へ
 この小冊子は、本年5月30日に閣議決定のうえ公表された平成12年版環境白書の総説をもとに、その内容をやさしくかいつまみ、また、新しい写真なども加え、多くの人々に親しんでいただけるよう、編集し直したものです。
 今年は、20世紀の最後の年であると同時に、新しい千世紀の入口の年「ミレニアム・ゲート・イヤー」と言われています。2000年版となる今回の環境白書は、過去を振り返った昨年の白書の内容と対になっており、この歴史的な節目を環境政策においても大変重要な時期と捉えるところから出発しています。
 私たちが毎日の生活を送っている地球は、深刻化する環境問題に直面しています。そこには、世紀という単位でみると待ったなしの、人類社会の存続に関わる、Y2K(コンピュータの誤作動)問題よりもはるかに切実な「2000問題」が横たわっています。
 今年の環境白書では、こうした問題にはっきりと目的意識を持って対応し、21世紀を明るい未来を実現する「環境の世紀」としていくため、私たちが力を合わせて足元からの変革に取りかからなければならないことを様々な角度から訴えています。
 この小冊子を通じて、読者の皆様一人一人が環境問題について関心を深めていただき、具体的な行動の参考にしていただくことを強く願っております。



序章 21世紀の人類社会が直面する 地球環境問題



<序章の要約>
 今年は20世紀最後の年です。この20世紀において人類は活動の規模と影響力を大幅に拡大し、その生存基盤である地球環境を利用して今日の繁栄を築いてきました。しかし、その結果として地球環境の著しい劣化を招きました。
 序章では、20世紀における地球環境の変貌を振り返り、その劣化に歯止めをかけるべき転換期であるという地球環境にとっての2000年の意味を考えました。
 さらに、人類社会の存続という観点から「環境の世紀」の意義を考察するとともに、その実現のためにわが国が率先して足元からの変革を進めるべき必要性を明らかにしました。


第1節 地球環境にとっての2000年の意味



1 地球環境のマクロ的変貌と将来予測
 20世紀において、私たち人類は活動の規模と影響力を拡大しながら、その生存基盤である地球環境を利用することによって、今日の繁栄を築いてきました。その一方で、地球環境が著しく劣化するという結果を招いてしまいました。20世紀における地球の環境や資源に関する全体指標から振り返ってみた変化の様子は、人類社会がこのままでは存続できないこと、現状を放置していては崩壊を回避できない時期に近づいていることを物語っています。

●地球温暖化は確実に進行
●地球温暖化は確実に進行
 出典:IPCC(1995);気象庁訳


●土壌劣化や砂漠化が乾燥地域で進行
●土壌劣化や砂漠化が乾燥地域で進行
 出展:UNEP 1991


●森林の減少・劣化は途上国で顕著
●森林の減少・劣化は途上国で顕著
 資料:FAO State of the World's Forest 1997により環境庁作成


●生物多様性が熱帯地域で急激に減少
●生物多様性が熱帯地域で急激に減少

●水資源の持続的利用が困難化
世界の地域別にみた水使用量の動向と水需要の将来の見通し
●水資源の持続的利用が困難化
 出典:WHO Assessment of Water Resources and Water Availability in the World;1996(WMO発行)より環境庁作成


●エネルギー資源の枯渇が懸念
主要なエネルギー資源の確認可採埋蔵量
●エネルギー資源の枯渇が懸念 主要なエネルギー資源の確認可採埋蔵量

2 地球環境の劣化に歯止めをかけるべき転換期

 人類社会の明るい未来は、地球環境を消耗することと引き替えに物質的繁栄を追求してきた現代文明の延長線上には見つかりません。21世紀において、人類とりわけ先進工業国に住む私たちは、豊かさを拡大することが直ちに枯渇性資源の消耗や環境への負荷量の増大に結びつくことのない、環境効率性の高い経済社会への構造転換を図らなければなりません。同時に、現代文明を支配する物質面に偏った人々の考え方、豊かさに関する価値観そのものの変革を目指さなければなりません。

環境効率性の高い経済社会を目指す
環境効率性の高い経済社会を目指す
資料:EEA(欧州環境庁)資料により環境庁作成


第2節 人類社会が健全に存続することのできる「環境の世紀」の実現に向けて



1 人類社会の存続という観点から考察する「環境の世紀」の意義

 私たちは、21世紀が“環境”を人類の味方にして持続的発展を可能にする「環境の世紀」となるように努めなければなりません。例えばわが国の物質収支の現状を見ても、依然として資源採取から消費、廃棄へと向かう一方通行が主流となっており、今後「循環型社会」に向けた飛躍的な進展が求められます。

わが国の物質収支
わが国の物質収支
 注:水分の取り込み(含水)等があるため、産出側の総量は総物質投入量より大きくなる。
 資料:各種統計により環境庁試算


2 21世紀の持続的発展に向けた日本の挑戦

 21世紀において、私たちの人類社会が持続的発展へ向けて明るい展望を拓くためには、人類全体の努力がもとより必要ですが、とりわけ日本が率先実行し、国際社会をリードする役割を担うことが求められています。21世紀を「環境の世紀」として確かなものにするため、行政、国民、事業者などの活動主体それぞれが足元からの変革を具体的かつ着実に進めていかなければなりません。


第1章 環境の世紀に向けた世界の潮流と日本の政策展開



<第1章の要約>
 今日、産業活動や日常生活を通じた環境への影響が深刻化の度合いを増しており、貿易など地球規模での経済活動による環境影響も大きくなっています。一方、国内では、少子高齢化などの構造変化が進んでおり、エネルギー消費量の変化などを通じて環境に少なからぬ影響を与えると考えられます。第1章では、21世紀を目前にして明らかになってきた社会の変化と環境との関係について分析を試みました。
 地球規模での環境問題については、すでに影響が現れ始めており、緊急な対策が必要になっていること、先進国、途上国がそれぞれの立場に応じて取り組むべき多くの課題を抱えていること、自由貿易の進展、企業の多国籍化などが、複数国間の連携した対応を必要としており、各国政府が抱える課題をより複雑にしていることなどが障害になっている状況を概観しました。そして、適切な責任分担に基づく国際的に連携した取組の強化等が必要であることを明らかにしました。
 国内では、少子高齢化や情報化などの社会の変化が環境に与える影響に着目しました。現時点では、予測の幅が大きくはありますが、早い段階から、その影響を予測し、すべての社会経済活動に環境への配慮を組み込むことにより、来るべき変化への適切な対応が可能となります。このため、状況の的確な把握、環境面からの評価、対策における利害関係者の合意形成、様々な主体の参加と連携を促進する枠組みの構築、個人の意識の改革などを、今後の環境対策の枠組みに求められる課題として提示しています。
 さらに、これら課題に対応し、循環型社会を形成するためには、環境保全の視点を重要な構成要素にした新しい考え方に基づいた行動が必要であることを明らかにしています。そして、社会を構成する主体のうち、企業や国民の側ですでに循環型社会の形成に向けた取組が始まっている状況を踏まえ、行政の側でも、自らの活動に環境配慮を組み込んでいくため、1)国内外における環境政策の充実・強化、2)他の目的の施策や事業への環境配慮の組み込み、3)事業者としての行政の活動への環境配慮の組み込みの進展という三つのポイントからの取組が必要であることを示しています。


第1節 地球規模での社会の変化と環境保全のための取組の方向


 地球上に人類が現れたのは、地球の生命の歴史の中ではごく最近ですが、産業活動や経済活動、そして日常生活を通じて地球環境に様々な影響を及ぼしてきており、特に産業革命以降、その影響は深刻化の度合いを深めています。しかし、こうした地球環境への影響は日常生活の中で認識されるほど急激なものではなかったため、顕在化しないまま進行してきましたが、近年の科学技術の遊歩や情報化の進展などによって、初めて多くの人々の目に触れることになりました。


1 地球規模での環境問題の深刻化と認識の深まり

 地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、生物多様性の減少、海洋汚染及び有害廃棄物の越境移動などは、それぞれ関連しあって地球環境に大きな影響を及ぼしています。

(1)地球温暖化への国際的対策が急務
 地球温暖化の影響としては、気候の変動に伴う極地域の氷の融解による海面の上昇、生態系の破壊、食料危機、災害の増加や健康への影響など様々な現象が予想されています。
 例えば、平均的な地球の気候がほんのわずかに変化しただけで、ハリケーン(台風)や激しい雷雨、それに暴風といった異常気象の程度が変化すると言われています。実際、高海水温域の拡大がハリケーンの発生頻度を高めていると言われており、激甚な被害を発生させると予想されています。また、生態系への影響として、世界の森林の約3分の1が植生タイプの変化にさらされており、動物の生息域が変化することで、個体数を一定に保っている捕食者と被食者の関係を崩す可能性があります。
 さらに、温度や降雨量などの要因で蚊のような感染症の媒介動物や病原菌そのものの数、分布が変化し、人々の健康に影響を及ぼすことも考えられます。
 地球の温暖化を進行させている主要な原因物質は二酸化炭素で、その国別排出状況は、1996年(平成8年)で、アメリカが22.2%、中国14.1%、ロシア6.6%、日本が4.9%となっており、この4か国で世界全体の排出量のおよそ半分を占めています。
 さらに世界の二酸化炭素の排出量の推移を見ると、先進国、途上国ともに増加するとともに、近年その増加傾向が著しくなっており、今後も各国ごとの事情を踏まえつつ様々な二酸化炭素排出削減対策を強力に推進する必要があります。

高海水温域の拡大
高海水温域の拡大
 出展:気象庁「異常気象レポート'99」


動物が媒介する主な熱帯病と気候変動による分布域変化の可能性
動物が媒介する主な熱帯病と気候変動による分布域変化の可能性
 出典:World Health Organization (WHO), Climate Change and Human Health, A. J. McMichael, et. al., eds. (WHO, Geneva 1996), Table 4.1, p. 75.
 注:a.最初の3項目は、1989年の推計値をもとに、人口に比例配分させて出した予測値である。
   b.内臓リーシュマニア症の年間発生数、皮膚リーシュマニア症の年間発生件数は100万〜150万件である。


二酸化炭素国別排出状況
二酸化炭素国別排出状況
 資料:オークリッジ国立研究所1996年データより環境庁作成


二酸化炭素排出量の推移
二酸化炭素排出量の推移
 出展:オークリッジ国立研究所二酸化炭素分析情報センター(米国)推計値


 温室効果ガスの排出量については、1997(平成9年)12月、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、2008年から2012年までの間の削減目標を定めた「京都議定書」が採択されました。この議定書の実施に必要となる京都メカニズムのルール等については、2000年11月のCOP6で合意すべく準備作業の強化をCOP5で確認しています。

(2)オゾン層の保護対策の徹底
 オゾン層については、現代の生活を支える上で広く使われたフロンを始めとする物質によって破壊が進行しており、皮膚ガンや白内障など人の健康に影響を及ぼすおそれがあります。このため、先進国、途上国いずれの側においても保護対策の徹底が求められています。

(3)酸性雨には原因の解明と国際的な取組が重要
 酸性雨については、北米、ヨーロッパ、中国を始め多くの地域で観測されています。石炭、石油などの化石燃料の燃焼が主な原因と考えられていますが、原因解明と国際的な取組が重要です。

(4)生物多様性の減少への対応
 種の絶滅の主な原因としては、種の移入、生息・生育地の減少、狩猟と意図的な根絶等が考えられます。また、装飾品やペット、医薬品としての需要もあるため密輸が行われており、ワシントン条約などの遵守が必要です。

COP3で採択された「京都議定書」のポイント
COP3で採択された「京都議定書」のポイント

諸外国の酸性雨の状況
諸外国の酸性雨の状況
 出典:欧州,EMEP Data Report 1989, Part 1
   北米,NAPAP Interim Assessment, 1992
   日本環境測定分析協会発行「酸性雨の科学と対策」


密輸された野生生物の原産国と受入国
密輸された野生生物の原産国と受入国
 資料:The World Wide Illegal Trade in Endangered Species of Wild Flora and Fauna, CITES, 1998


有害廃棄物の種類
有害廃棄物の種類
 資料:環境庁


(5)有害廃棄物の輸出規制
 有害廃棄物の越境移動は1980年代後半になって、アフリカや南米諸国に急速に広がり始めました。わが国でも、平成11年にフィリピンへの廃棄物違法輸出事件が発生しました。これらの問題については、有害廃棄物について輸出を行う際、輸出国が事前に通報し、同意を受けることを義務付けた「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」に基づき、国際的な対策が講じられているところですが、今後 層の取組強化が必要です。

(6)残留性有機汚染物質の拡散防止
 DDTやPCB、ダイオキシンなどの残留性有機汚染物質は、排出国のみならず様々な要因で地球全体に広がり、人や環境に影響を及ぼすことから、その根絶、低減等を図るため国際条約などの策定が求められています。

(7)環境への認識の深まりと環境保全行動
 世界の科学者、経済学者などからなるローマクラブによる「成長の限界」や、アメリカの「西暦2000年の地球」などの提言は、「地球環境問題」を認識する契機になりました。また、国連では1972年の国連入間環境会議や1992年の地球サミットの開催につながり、民間団体レベルでも世界的な環境保全活動が行われるようになりました。


2 地球規模での経済活動の拡大が及ばず環境への影響


(1)貿易の拡大による環境への影響
 各国経済の相互依存関係が強まる中で、自由貿易の推進が、世界経済の発展にとっても重要性を増してきています。その一方で、貿易の拡大が地球環境及び環境政策にも様々な関わりを持つようになり、貿易拡大とそれに伴う経済発展による環境への悪影響が懸念されています。また、各国の環境政策が自由貿易に歪みを与え得るという指摘もされています。
 そのため経済協力開発機構(OECD)や世界貿易機関(WTO)などの国際機関において、「持続可能な開発のために貿易政策と環境政策を相互に支え合うものとすること(相互支持化)」についての検討が進められています。環境目的のための貿易制限措置などの環境政策とWTO協定との調整のためのルールの設定は、国際的にも現在議論が続けられており、経済活動の多くを貿易に依存しているわが国にとっては、その議論に積極的に参加し、貢献していく必要があります。

(2)国際的な企業活動による環境への影響
 国際的に活動する企業として代表的な存在である多国籍企業は、自らの活動が地球規模で環境に影響を与え得ることを認識し、バルディーズ原則のような企業責任の考え方を一層発展させていく必要があります。

(3)人の長距離移動による環境への影響
 貿易の自由化や企業の多国籍化によって物の移動が増加してきましたが、これは同時に人の移動の増加も招いています。
 運輸部門の輸送機関別にみた二酸化炭素排出量は自動車からのものが88%を占めていますし、二酸化炭素排出原単位(1人を1km運ぶ際の二酸化炭素排出量)で見ても自家用乗用車、次いで航空の順で大きくなっています。
 二酸化炭素の排出量を抑制するためには、排出量や排出原単位が大きいものへの対策を強化する必要があります。

輸送機関別にみた二酸化炭素排出原単位
輸送機関別にみた二酸化炭素排出原単位
資料:地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議資料


3 地球規模での変化に対応した環境対策の課題

(1)地球環境問題への認識の深まりを共有した国際的な取組が必要
 今日の地球環境問題と密接に関わっている二酸化炭素、フロン、硫黄酸化物や窒素酸化物などの排出は、気候変動枠組条約、モントリオール議定書や長距離越境大気汚染条約を始めとした様々な国際的な取決めに基づいて、各国それぞれが対策を進めていますが、今後も取組の充実強化が必要です。

(2)各国政府や多国籍企業は国際的な責任に応じた取組が必要
 地球環境問題は、地球の宇宙船地球号的性格が強まったという意味で究極的な環境問題ですが、南北間あるいは世代間の公平をどう図るべきかがその対策をめぐる最大の問題です。地球規模の共有財という概念の下、国際社会が適切に責任を分担し合いながら保全していくことが重要です。

(3)具体的な行動につなげるきっかけとしての情報伝達が重要
 地球環境問題に対する取組については、必要性は認識しているものの実際には自らの生活の利便性や快適性を優先し、具体的な行動をとることができないことがあります。地球環境問題の深刻さと自らの行動の必要性について自覚し、積極的な行動が望まれます。
 様々な情報機器の発達により、入手できる情報は飛躍的に増えていますが、さらに、各国政府やマスコミは正確でわかりやすい科学的知見に基づいた情報の提供や、環境教育を推進することにより、個人が具体的な行動を起こす枠組みや機会、きっかけづくりに積極的に取り組むことが必要です。

第2節 国内における社会の変化と環境への影響


 20世紀は、わが国にとってめざましい成長の世紀でした。しかし、現在、これまでの成長を支えてきた基盤である経済社会システムが大きく変わりつつあります。環境問題も少子高齢化等の人口構成の変化、情報化など技術の変化、産業構造の変化等、経済社会システムの転換により大きく影響を受けることになると考えられます。


1 少子高齢化及び過疎過密問題と環境影響


(1)少子高齢化の進行が環境に与える影響とその対策への環境配慮の組み込み
 人口の減少や高齢化については、一般的にはモノへの需要を減らし、サービスへの需要を高める原因となるため、環境負荷が減るのではないかと考えられています。
 しかし、今後、都市の人口規模の縮小に伴い、郊外における人口集積、非都市圏における過疎化などが進行し、自動車依存度が高まり、環境負荷が増大するおそれがあります。また、一人暮らし高齢者の増加などにより一人当たりのエネルギー消費量が増大するなど、高齢化による環境負荷増大の可能性も考えられます。
 一方、人口の減少や高齢化を適切に組み込んだ対策が講じられた場合には、公共空間を十分に確保した街づくりや公共交通機関の整備、省エネルギーの住居の建設を進めることにより環境負荷の低減を図ることができます。特に、少子高齢化対策として検討が開始されている「歩いて暮らせる街づくり」には歩行者専用空間と公共交通機関を組み合わせた、トランジットモールなど環境対策ともなる施策も多く含まれており、今後の対応によっては、少子高齢社会に対応し、かつ環境保全にも配慮した社会を築ける可能性を示しています。
 また、高齢化に伴う余暇時間を活用して、高齢者の環境保全活動への参加率が高まることが予想されます。特に、経験や技術を持った高齢者が参加することにより、環境教育の充実など環境保全活動の活発化が期待されます。


(2)地域的な人口の偏りが環境に与える影響とその対策への環境配慮の組み込み
 都市過密地域においては、大気汚染や水質汚濁問題についての改善が見られず、都市部で大量に発生する廃棄物についても発生抑制、廃棄物焼却施設の整備、最終処分場の確保等が課題となっています。
 過疎地域においては、農林水産業従事者の減少や高齢化による森林や農地の管理不足や放棄の問題があり、人の関与によって維持されていた里山の減少等をもたらしています。一方、大都市内部の人口の空洞化の問題については、これまでに整備された社会資本が利用されず、新たに郊外地域に整備されるなど、資源利用の面での非効率を招いています。
 これらの課題に対しては、過密地域における都市再開発や社会資本整備に環境配慮の観点を盛り込み、省エネルギー、省資源型の暮らしやすい都市を構築すること、さらに、リサイクルなどの環境保全活動を核とした地域コミュニティを形成し、都市内部の活性化を図ることなど、過疎過密対策と環境対策との相乗効果を高める手法が有効です。
 また、過疎地域対策としては、豊かな自然を生かしたエコ・ツーリズムの実施や地域に存在する風力発電、太陽光発電など、自然エネルギーの利用により環境対策と地域活性化対策の相乗効果が期待されます。

環境配慮を組み込んだ「少子・高齢社会における街づくり」について
環境配慮を組み込んだ「少子・高齢社会における街づくり」について
注1:少子・高齢社会における街づくり対策は経済審議会答申「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」を参考に作成。同答申には、豊かで活力ある少子・高齢社会を実現するためには、経済全体の効率(生産性)を高めることが重要として、移動時間の短縮や物流の効率化のための都市鉄道や道路の整備等による交通容量拡大、時差通勤及び相乗りの促進、トランジットモールの導入等が位置づけられている。
 2:エレベーターの設置等エネルギーの消費が増大する可能性もある。
 資料:環境庁


人口規模にみた一人一日当たりのごみ排出量(1995年度実績)
人口規模にみた一人一日当たりのごみ排出量(1995年度実績)
 注:生活系ごみ:直営収集ごみ+委託収集ごみ
   事務系ごみ:許可業者収集ごみ+直接搬入ごみ
   各人口区分毎の加重平均値
 出典:(財)日本環境衛生センター『廃棄物基本データ集』(1998)


2 情報化及び環境技術の発展と環境影響


(1)情報技術の進展と環境への影響
 近年の情報技術の進展は環境や資源、エネルギーに直接的、間接的に影響を与えると考えられています。例えば、情報化により、在宅勤務、サテライト・オフィスでの勤務の増加や高度道路交通システム(ITS)による渋滞の緩和、流通の効率化などを通じてエネルギー消費量の削減が期待されています。また、消費者の要求に適合した生産が可能になって売れ残りを防ぐなど資源利用の効率化や、廃棄物等の情報交換が容易になってリサイクルの進展も見込まれます。さらに、日常生活に関して情報機器の利用によりエネルギー消費量が減少する可能性や環境に関連する情報の提供により、省エネルギーへの取組が進んだり、環境配慮型製品の購入量が増加するなどの効果が期待されます。
 一方、情報化によって効率化されたり、代替された時間や所得が別の経済活動に振り向けられることにより、全体として環境負荷が増加するリバウンド効果の可能性も指摘されています。さらに情報機器の消費するエネルギーの増大や情報機器の廃棄物の問題、紙等の二次廃棄物の増加の問題もあり、適切な対応が必要です。
 また、情報通信技術の進展は、環境対策自体にも活用され、環境状況の把握方法の改善や対策の効率化が進められています。

(2)環境技術の発展の方向性
 これまでの環境対策の進展において、環境技術の発展が大きな役割を果たしました。新たな環境技術の開発により、環境問題に対する施策の選択肢が増え、より効果的な施策を実施することができます。長期的には、これらの技術の発展が生産コスト削減や生産効率の向上をもたらし、産業や企業の競争力の向上に寄与し、ひいては、国際市場をリードし、国際社会に貢献する大きな要素となります。
 このため、今後の環境技術開発に当たっては、1)総合的な観点からの技術開発、2)評価手法の開発、結果の公表、3)技術に関する情報基盤の整備、4)技術開発基盤の整備等が求められます。

情報伝達手法別にみた二酸化炭素排出量
情報伝達法別にみた二酸化炭素排出量
注:それぞれ1,000文字を送る場合を想定して、一定の前提の下で試算
  手紙:紙の環境負荷と輸送の環境負荷のみを計算
  FAX:紙の環境負荷とFAXの消費電力を計算
  パソコン:パソコンの消費電力のみを計算 20分使用
  携帯端末:消費電力のみを計算 20分使用
  携帯電話:消費電力のみを計算 60分使用
  ※いずれも廃棄の場合の二酸化炭素排出量は計算していない。
資料:安井至東京大学生産技術研究所教授作成


オフィスのエネルギー消費の内訳
LAN導入オフィスのOA機器電力消費構成
オフィスのエネルギー消費の内訳・LAN導入オフィスのOA機器電力消費構成
 出典:(社)日本ビルエネルギー総合管理技術協会『オフィスビルにおけるOA機器のエネルギー消費調査結果(平成10年度)』


3 産業構造の変化と環境影響


(1)産業構造の変化が環境に与える影響
 わが国の産業構造は、第一次産業、第二次産業の縮小と第三次産業の拡大という方向で変化してきました。第三次産業化はモノの消費からサービスの消費への移行を促すなど、環境負荷を低減させる面を持っています。
 しかし、第三次産業における環境対策については、その業態が多種多様であることから実状に応じた施策を講じることが難しく、また、環境に関する目的・目標の設定等に取り組んでいる企業の割合も相対的に低いことが課題となっています。

(2)今後のエコビジネスの可能性
 現在、公害防止、廃棄物処理、リユース、リサイクル、再生可能エネルギー利用、自然保護等、様々な分野においてエコビジネス(環境関連産業)の成長が見られます。環境庁の推計によると、わが国のエコビジネスの市場規模は、2010年時点で39兆8千億円となると見込まれています。
 エコビジネスには、環境悪化によって発生する社会的費用の節約と新たな付加価値の創造が同時に可能になるという利点や、環境保全型の製造工程などの環境技術を開発することにより企業の競争力が高まるという利点があります。
 しかし、現時点では、エコビジネスの効果に対する認識は十分ではなく、発展の障害となっています。このため、民間事業者の創造力や活力を最大限に引き出し、エコビジネスの自立的な発展を促進するためには、行政の側でも支援策が必要です。具体的には、企業の環境保全に関する取組状況について積極的な開示や客観的な評価を行うための環境マネジメントシステムや環境報告書、環境会計といった手法の整備などの基盤整備、エコビジネスの質的向上を図るための適正な競争の確保、地域特性を活かした地域発エコビジネスの育成などがあげられます。

業種別にみた環境目的・目標の設定状況及び環境に関する具体的行動計画の作成状況
業種別にみた環境目的・目標の設定状況及び環境に関する具体的行動計画の作成状況
注:上場企業、非上場企業を合わせたものが母数となっている。
資料:環境庁『平成11年度環境にやさしい企業行動調査(平成12年3月)』より作成


日本のエコビジネス市場規模の現状と将来予測についての推計
日本のエコビジネス市場規模の現状と将来予測についての推計
注1:一部、年度がそろっていないものがある。
 2:A.の中で「装置製造」、「サービスの提供」、「建設及び機器の据え付け」に分けた推計が困難なものがある。そのため、装置単体で発注されると考えられるものは、「装置及び汚染防止用資材の製造」に、プラントとして発注されると考えられるものは「建設及び機器の据え付け」に分類したため空欄となっている部分がある。
 3:その他、データ未整備のため空欄となっている部分がある。
資料:環境庁


第3節 環境の世紀への展望と新たな政策展開



1 新たな世紀における循環型社会の実現

 20世紀の経済社会システムが生みだした深刻な環境問題は21世紀を目前にして一層深刻化し、今後の経済社会の発展を制約するおそれがあります。また、20世紀の発展を支えてきた社会経済構造が大きく変化していますが、この変化が環境に与える影響についての予測結果は、好悪に大きく開いており、どちらの方向に進むかは私たちの選択に任されています。
 このため、21世紀においては、環境保全の視点を重要な構成要素にした新しい原則に基づいて社会経済活動を行うことが必要となるでしょう。具体的には、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて資源やエネルギー面でより一層の効率的な利用や循環利用を進め、廃棄物などの発生抑制や適正な処理を図る必要があります。また、国民、企業、行政等、すべての主体が公平な役割分担の下で相互に連携しつつ環境に配慮した行動をとることが必要となるでしょう。
 この結果、自然資源の過剰利用という現在の状況が修正され、少ない資源でより多くの満足が得られる環境への負荷の少ない循環型社会の形成が可能となります。


2 循環型社会の形成に向けた行政の役割

 新たな世紀における循環型社会の形成に向けて、すでに国民や企業の側では、多くの試みが始まっていますが、社会を構成するもう一つの主体である行政の取組を進めることも非常に重要です。行政の活動への環境配慮の組み込みに向けた取組は世界的にも進められており、OECDの調査によると、政府の通常の活動における環境配慮や政府内における環境管理システムの構築等の意思決定過程における環境配慮が各国で進んでいます。ただし、現時点では規制や許可、補助金のシステムの構築等の政策決定まで環境配慮を行っている国はカナダやスウェーデンなどごく一部にとどまっています。


3 環境配慮の組み込みに向けた行政の具体的な展開


(1)環境政策の充実・強化
 地球規模の環境問題については、気候変動枠組条約などの多国間条約に基づいた取組が進められていますが、わが国としても今後一層国際的な合意形成のために努力する必要があります。開発途上国における環境問題については、途上国自身の自助努力を支援するために環境政策対話から個別の環境対策における協力まで幅広い取組が求められています。
 国内の環境政策については、予防原則を適用することを第一に考えることを基本に、環境の状況や汚染物質の排出状況の的確な把握、汚染の状況と環境影響の因果関係の究明等が必要です。
 さらに環境問題の幅広さや複雑な構造に鑑み、統一的な視点での計画的な対策の実施が重要であり、わが国の環境基本計画を始めとして、先進各国で環境政策の方向性を総合的に示す計画や戦略が定められています。
 また、環境政策の手法としては、規制的手法、経済的手法等様々なものがあります。これら様々な施策を環境問題の状況や性質に合わせて組み合せて実施するポリシーミックスの重要性に対する認識が高まってきました。例えば現在、ヨーロッパ各国では経済的手法の利用が大きく広がっており、特に地球温暖化問題の分野で二酸化炭素の排出を削減するため、近年ドイツ、イタリアがエネルギーに対する追加的な税の導入を行いました。さらにイギリスも2001年の導入を目指して法案が議会で審議されており、フランスも同年の導入について閣議決定を行っています。

環境保全に関する政策手法の概要
環境保全に関する政策手法の概要
 注:実際の政策手法の適用に当たっては、政策の実効性、政策の実施コスト等の要素も考慮される。
 資料:環境庁


(2)他の目的の施策や事業への環境配慮の組み込み
 現在、他の目的の施策や事業へ環境配慮を組み込む動きが進んでいます。特に、行政の様々な意思決定が環境に対して直接的、間接的な影響を及ぼすことから、意思決定に当たって環境への影響をあらかじめ検討することが重要であるとの認識が高まっています。こうした観点から、戦略的環境アセスメントが効果的であるとして注目されており、アメリカ、ヨーロッパ諸国で制度の導入が行われているほか、EUでも導入に向けた検討が進んでいます。

(3)事業者としての行政の活動における環境配慮
 わが国の経済活動において、国や地方公共団体の通常の経済活動の占める割合が大きいため、これらについて環境配慮の観点の組み込みが重要です。国については、平成7年6月に閣議決定された「率先実行計画」に基づき取組が進められていますが、目標達成に向けて大幅な努力を必要とする項目があり、一層の取組の促進が必要です。
 地方公共団体においても、率先実行計画の策定が進んでいます。しかし、例えば、グリーン購入については区市町村ではまだ組織的に取り組んでいる団体の割合が低いなどの課題があります。

率先実行計画の目標の達成状況
率先実行計画の目標の達成状況
 資料:環境庁


第2章 「持続可能な社会」の構築に向けた国民一人一人の取組



<第2章の要約>
 近年大きな問題となっている自動車の排出ガスによる大気汚染や生活排水による水質汚濁等の都市・生活型公害、廃棄物問題、地球温暖化問題等の様々な環境問題の原因は、個人の日常生活の中や通常の生産過程に存在しています。
 本章では、この観点から個人による環境保全への取組を具体的に考察するとともに、こうした取組が社会を持続可能なものに変える大きな力になることについて概観します。
 具体的には、環境に配慮した製品を優先的に購入する「グリーン購入」や、環境保全への取組が進んでいる企業の株式等で構成された投資信託「エコファンド」の利用、そして環境保全活動の社会的な広がりを支える民間非営利団体の活動について、その現状と期待される役割を考察します。また、地域社会に目を転じて、住民の発意の下、環境保全への取組を行うことで、環境保全と地域活性化の両方を実現できることを事例を交え考察します。
 こうした個人の取組を積極的かつ効果的に進めるためには、個人を取り巻く企業や行政など各主体間のパートナーシップを確立することが必要です。このため、環境情報の積極的な開示や質の向上により円滑な環境コミュニケーションを実現する必要があることなどを示します。


第1節 環境問題及び経済社会における個人の役割


 近年、自動車の排出ガスによる大気汚染などの都市・生活型公害や廃棄物問題、さらには、地球温暖化などの地球環境問題が注目されていますが、その原因として、企業側だけでなく、便利で快適な生活を享受している人々のライフスタイルがクローズアップされています。
 こうした中、1990年代初頭のいわゆる「バブル崩壊」とその後の不況を背景に、個人が自らの個性や独創性を発揮し、様々な活動に積極的に参画することが特に環境問題への対応について多く求められています。
 具体的には、個人自らの環境保全活動のみならず、環境汚染物質の排出量が多い企業のうち、新たな技術開発や生産プロセスの変更など柔軟な対応が可能な企業に対して、個人が、消費者、投資者などの立場から積極的に働きかけ、企業の環境保全への取組を促すことなどです。
 以下では、個人の生活の環境に与える影響について分析するとともに、個人の環境保全への取組が、卒業活動に影響を与え、ひいては社会を持続可能なものに変えていく大きな力になることを示します。

第2節 個人の生活がもたらす環境負荷



1 個人の生活に身近な環境負荷の現状


(1)家庭ごみ排出の現状
 家庭ごみと事業系ごみを合わせた平成8年度の1人1日当たりのごみ排出量は約1.1kgで、このうち家庭ごみの割合は約7割(約800g)に当たります。
 家庭ごみは容積の約6割近くが容器包装廃棄物で占められており、また家庭の食生活における外食や中食(なかしょく)(持ち帰りや宅配される食事)の機会の増加が、食品廃棄物全体の増加をもたらしている側面もあります。

(2)家庭ごみの処分による環境負荷
 これらの家庭ごみの約8割は焼却処分されていますが、不適切な焼却処分はダイオキシン類の排出を招くおそれがあります。
 平成12年1月に施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」では、大気、水質、土壌の環境基準や特定施設からの排出規制等が定められましたが、適切な規制によりダイオキシン類の排出の未然の防止を図るとともに、廃棄物の減量に積極的に取り組むことが、今後ますます重要になってきます。

(3)個人の生活のあり方と環境負荷
 家電製品の保有台数や普及率の増加と同時に、廃家電製品の数量も増加しています。
 このほかにも、生活排水がもたらす水質への環境負荷が、依然として産業排水よりも高い割合を占めているなど、個人の生活のあり方が、排出される廃棄物の数量や環境負荷に大きな影響を与えていることを示しています。
 このような個人の生活からもたらされる環境負荷の低減を図るため、「容器包装リサイクル法」、「家電リサイクル法」などによる制度基盤づくりも進められています。

      家庭ごみの組成(平成9年度)            家庭ごみ中の容器包装廃棄物の割合(平成9年度)


資料:厚生省『容器包装廃棄物排出実態調査報告書』(平成9年度)より環境庁作成


廃棄物減量化の目標量
廃棄物減量化の目標量

主要廃家電製品台数の推移
主要廃家電製品台数の推移
資料:(財)家電製品協会資料より環境庁作成


閉鎖性3海域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)の化学的酸素要求量(COD)発生負荷量の推移
閉鎖性3海域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)の化学的酸素要求量(COD)発生負荷量の推移
 資料:環境庁


2 地球温暖化と個人の生活から排出される二酸化炭素


(1)家庭から排出される二酸化炭素
 平成9年度のわが国の二酸化炭素排出量のうち、12.6%が家庭から排出されています。
 これを、用途別に分けると、「照明・家電製品・他」が全体の4割を占め、最も多くなっています。
 また、供給エネルギー源別に分けると、電力使用に伴う排出が全体の半分近くを占めます。
 このことは、家電製品の使用が二酸化炭素の排出に大きな影響を持つことを示しています。

(2)自家用乗用車の使用と二酸化炭素の排出
 運輸部門から排出される二酸化炭素は、全体の20.9%(平成9年度)に当たります。
 このうち、自家用乗用車は旅客部門全体の約半分の輸送を担っていますが、エネルギー消費量では全体の約8割を超えており、自家用乗用車の使用に伴う二酸化炭素の排出は、運輸部門全体の排出量に大きな影響を与えています。

(3)個人と産業部門の関わり
 また、わが国最大の二酸化炭素排出源である産業部門(40.1%:平成9年度)は、一見個人の生活とは無縁のようですが、製品の一生(ライフサイクル)を通して排出される二酸化炭素について考えると、個人がその製品を購入し、消費し、廃棄することによって排出が誘発されていると考えることもできます。このことからも、個人のライフスタイルのあり方が、経済社会システム全体の二酸化炭素排出量に大きな影響力を持っていることが分かります。

わが国の二酸化炭素(CO2)排出量の推移
わが国の二酸化炭素(CO<SUB>2</SUB>)排出量の推移
 資料:環境庁

1世帯当たり年間CO2排出量の推移(用途別)
1世帯当たり年間CO<SUB>2</SUB>排出量の推移(用途別)
 資料:住環境計画研究所『家庭用エネルギーハンドブック』(平成11年)等より環境庁作成

1世帯当たり年間CO2排出量の推移(供給エネルギー源別)
1世帯当たり年間CO<SUB>2</SUB>排出量の推移(供給エネルギー源別)

輸送機関別にみた輸送量・エネルギー消費量分担率(平成10年度)
輸送機関別にみた輸送量・エネルギー消費量分担率(平成10年度)
 資料:日本エネルギー経済研究所『エネルギー・経済統計要覧』(平成11年)、運輸省資料より環境庁作成


製品のライフサイクルでの二酸化炭素(CO2)排出量の例
製品のライフサイクルでの二酸化炭素(CO<SUB>2</SUB>)排出量の例
出典:(社)日本自動車工業会資料          出典:富士通(株)『環境活動影響報告書』(1999)

第3節 個人の環境保全への取組と他の主体に与える影響


 本節では、次の3つの側面から、個人の環境保全への取組や企業を始めとする他の主体に与える影響について考察します。
 1)企業が生産する財・サービスを消費する主体である「消費者」
 2)企業に資本を提供する主体である「投資者(又は資金提供者)」
 3)社会活動を通じて行政施策を補完・補充する「民間団体」を組織する主体


1 消費者による環境保全への取組の広がりとその社会的影響


(1)グリーン購入
 「グリーン購入」とは、環境への負荷の少ない製品・サービスを優先的に購入する消費者一人一人の行動をいいます。これにより、事業者の環境負荷低減への取組を押し進めることが可能となります。
 近年の意識調査からは、消費者のグリーン購入に対する高い意識が示されていますが、実際には、まだ十分な行動に結び付いてはいません。
 その要因としては、大きく「環境に配慮した製品は価格が高い」という価格面の問題と、「環境に配慮した製品に関する情報が少ない」といった情報面の問題があげられます。

環境に配慮した製品・サービスを購入することによって企業を変えていくことができるか
環境に配慮した製品・サービスを購入することによって企業を変えていくことができるか
出典:国立環境研究所『地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響《消費者編:日独比較》』(平成10年度)


社会全体において日頃から環境に配慮して商品を買っている人が多いと思うか
社会全体において日頃から環境に配慮して商品を買っている人が多いと思うか
 出典:東京都『消費生活モニター・アンケート』(平成10年度)


普段あまり環境に配慮した消費行動をしていない理由
普段あまり環境に配慮した消費行動をしていない理由
 出典:東京都『消費生活モニター・アンケート』(平成10年度)


電気冷蔵庫における総コストの試算
電気冷蔵庫における総コストの試算
 資料:(財)省エネルギーセンター『家庭用電気ハンドブック』(平成11年)等より環境庁作成
(2)グリーン購入に係る価格面の問題
 価格面の問題については、製品に対する支出を「導入に要するコスト」と、「導入後の運用に要するコスト」とをあわせたものとして考えれば、省エネ型機器と非省エネ型機器の導入に要するコストの価格差は、電気代節減による「導入後の運用に要するコスト」の低減によって補われることがあるので、環境に配慮した製品の価格は必ずしも高いとは言い切れません。
 また、政府やグリーン購入を促進するため組織された民間団体(「グリーン購入ネットワーク」など)による大量購入が、環境に配慮した製品の導入に要するコストを下げていくことも期待されます。

(3)グリーン購入に係る情報面の問題
 情報面の問題については「環境ラベル」による、製品・サービスの広い意味での環境に関する情報の提供が考えられます。
 例えば、わが国では、環境保全全般に関する負荷の低減を図った製品を第三者機関が認定するエコマークなどの制度が設けられています。
 また、事業者自身が、製品の環境負荷に関するより具体的な情報を定量的に表示、提供する取組についても、積極的な事業者の取組が進展しています。
 さらに、製品や店舗の選択を環境という視点から行うためのガイドブックも多数作成されており、消費者がこのような情報を主体的に取り入れ、消費行動の大きな力としていくことが求められています。

(4)消費のグリーン化
 このようなグリーン購入の発展型として、消費者がその活動の中に環境保全への配慮を段階的に組み込んでいく「消費のグリーン化」というアプローチも考えられます。
 1)農産物の選択購入
   減農薬、減化学肥料等の農産物や地場産の農産物を選択することにより、環境負荷の低減に資することができます。
 2)家庭における省エネルギー行動
   節電、節水などの省エネルギー行動は、資源、経済的負担の節約のみならず、環境負荷の低減を図ることができます。
 3)電力の選択購入
   スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アメリカなどにおいては、太陽光、風力などで発電された電力の選択により環境負荷の低減を図る取組が行われている事例があります。
 4)モノの消費から機能・サービスの利用への転換
   従来の「所有」という概念にとらわれない、以下2つの事例のような機能・サービスを利用する「ストック活用型」の消費形態は、新しい「消費のグリーン化」の胎動と言えます。
 (ア)「移動」という機能の利用
    ○1台の自動車を複数の世帯が共同で利用する「カーシェアリング(自動車共用)」(横浜市、神戸市などの事例)
 (イ)「居住」という機能・サービスの利用
    ○人生のライフステージに応じた住宅の住み替え
    ○定期借地権などを利用した新しい居住の方式(つくば方式)など


エコマーク認定商品数・商品類型数の推移
エコマーク認定商品数・商品類型数の推移
 出典:(財)日本環境協会


環境問題についてどの程度の情報・知識を持っているか
環境問題についてどの程度の情報・知識を持っているか
 出典:国立環境研究所『地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす調査《消費者編:日独比較》』(平成10年度)


横浜市における電気自動車共同利用システム
横浜市における電気自動車共同利用システム
 資料:(財)自動車走行電子技術協会資料より環境庁作成


2 個人の資産選択における環境保全意識の高まりとその社会的影響

 平成11年9月現在約1,332兆円に上る日本国内の個人金融資産は、銀行や保険会社、証券会社等の金融機関を通じて、その一部が民間部門における投資の資金になっています。
 なかでも、昨年登場したエコファンド(環境への配慮の度合いが高く、かつ株価のパフォーマンスも高いと判断される企業の株式に重点的に投資する投資信託)など、金融商品を通じて、個人の資産を環境保全に役立てる動きが注目されています。

(1)日本におけるエコファンドの登場の意味
 欧米では、収益面のみならず、倫理的、社会的な側面まで配慮して投資対象を選ぶ「社会的責任投資」の考え方が早くから登場しています。日本においても、長引く不況の中で定期預貯金などの安全資産の金利の低下に、銀行などの投信窓販の解禁が相まって、エコファンドを含む投資信託などのリスクを伴う資産が個人金融資産の受け皿になりやすくなりました。
 こうした中、平成12年3月現在、5社からエコファンドが発売され、良いパフォーマンスを示しています。購入者の約9割は個人投資家で、投資信託の初心者や女性が多いことが特徴です。
 エコファンドといっても投資先企業の選定基準は様々ですが、大体はまず従来型の財務分析や株価判断による対象企業の収益性・安定性の評価によって銘柄を選定し、その上で環境保全の取組の明確化などの環境面からの選定が行われています。

(2)個人の資産選択による環境保全型社会への変革
 エコファンドの人気や環境保全事業、環境ベンチャーに対する金融機関の融資制度の登場は、個人が金融資産を運用する際に環境保全を考慮するという概念(グリーンインベストメント)が浸透しつつあることを反映しています。今後、資金の流れの中で、金融機関が企業を、あるいは個人が企業や金融商品を選択する際に、環境という要素がますます重要になってくることが予想されます。

環境保全に影響を与え得る金融商品等(例)
環境保全に影響を与え得る金融商品等(例)
 資料:環境庁


環境対応度の高い企業30社の株価とTOPIXのトレンド比較
環境対応度の高い企業30社の株価とTOPIXのトレンド比較
注:ある研究機関の選択した環境先進企業30社の株価のトレンドをTOPIXと比較したもの
出典:グッドバンカー「GOOD30sVSTOPIX」


 特に、経済が急速に変化しつつある現在、企業の業績や認知度の変化に影響を与える要素として、金融機関による資金の供給が果たす役割も大きいと考えられます。つまり、金融機関が、融資に当たり企業の環境に対する配慮の状況を判断材料にすることによって企業の行動に影響を与え、それがひいては社会全体を環境保全型に変革することを可能にするのです。

3 環境保全活動の社会的広がりと民間団体の果たすべき役割


(1)わが国における民間の環境保全活動の特徴
 環境保全活動を行う団体の活動分野としては、リサイクル・廃棄物が最も多く、以下、自然保護、環境教育の順になっています。
 また、組織的には、会員100人以下、財政規模が100万円未満の団体がほぼ半数を占め、非常に小規模な組織が多数存在しています。

(2)民間非営利団体に期待される役割〜環境パートナーシップの構築
 1) 個人が一人では行いにくい環境保全への取組を団体で行うことにより、個人が参加しやすい環境を作る
   (例)太陽光発電設備の共同購入・設置、自然保護活動の実施 等
 2) 行政、企業、個人といった各主体の持つ情報や関心などの橋渡しを行うとともに、自らその専門的能力を活かし提言、行動を行う
   (例)環境に配慮した製品・サービスに関する評価 等
(3)民間の環境保全活動が社会的に広がるために行政が果たすべき役割
 1)情報の場の提供
   環境庁と国連大学で共同運営している「地球環境パートナーシッププラザ」や、東京都板橋区の「エコポリスセンター」などにおいて、各主体の活動に関する情報の収集・発信、ネットワーク作りなどが実施されています。
 2)財政的措置
  環境事業団に創設された地球環境基金において、民間非営利団体に対し助成が行われています。平成11年度は、217件に対し、約7億円の助成が実施されました。
 3)参加の制度化
 「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいて、全国地球温暖化防止活動推進センターが、(財)日本環境協会に設置され、民間非営利団体がその運営体制の一部を担うことになりました。

環境保全活動を行う民間非営利団体の活動分野(複数回答)
環境保全活動を行う民間非営利団体の活動分野(複数回答)
注:平成8年11月〜平成9年6月にかけて、(財)日本環境協会が環境保全活動を行う民間非
 営利団体11,595団体にアンケート調査を行ったものであり、有効複数回答は4,227団体
資料:(財)日本環境協会資料より環境庁作成


地球環境基金の助成実績
地球環境基金の助成実績
資料:環境事業団資料より環境庁作成


第4節 住民主導による環境保全を通じた地域コミュニティの再興



近年見られる地域コミュニティの再興への取組の主な特徴
 1)身近にある環境を保全又は利用するといった環境に関する取組(資源の地域内循環も含まれる。)が大きな位置を占めている。
 2) 環境保全と地域活性化の両立につながっている。
 3) 住民たちが自らの発意の下で活動に取り組むことで、これまでは専門家や行政側の主導で進みがちであったまちづくりのプロセスに新たな手法や可能性を持ち込んでいる。




1 リサイクル活動などを通じた地域の活性化

 (例)東京都八丈町の空き缶などのデポジット制度
  東京都八丈町では、平成10年9月より、アルミ・スチール缶とペットボトルを対象に、デポジット制度
(預託金払戻制度)を試行しています。開始当初の対象製品の累計回収率は34.3%と低かったのですが、住民のごみ問題に対する意識の高まりなどから、その後平成12年2月現在79.6%に伸びています。


2 豊かな自然環境の復元による地域の憩いの場の形成

(例)東京都武蔵野市「木(こ)の花小路(はなこうじ)公園」の建設
   東京都武蔵野市では、住民参加による公園整備計画の策定を進めるとともに、平成10年4月に完成した「木の花小路公園」の維持管理、運営を市民グループ「生きものばんざいクラブ」に委託しています。


3 自然環境を「持続可能な資源」として活用することを通じた地域の振興

(例)三重県宮川村の「森の番人」
  三重県宮川村は、「日本有数のきれいな河川である宮川を守るため、有志が集まり、この宮川源流の水を「森の番人」という名称で販売する事業を開始しました。その結果、観光客の増加や地域住民の自然保護に対する意識啓発につながりました。

デポジット累計回収率の推移
デポジット累計回収率の推移
資料:東京都八丈町資料より環境庁作成


第5節 個人の視点から見た「持続可能な社会」への道筋



1 個人、行政、企業等各主体間のパートナーシップを確立するための条件


(1)各主体の環境コミュニケーションの確立
 ア 企業活動における環境情報の開示
 近年、企業は、消費者、投資家、地域住民等に対し説明責任を負うという考えや、彼らからの支持を獲得したいという考えから、自らの活動を積極的に情報開示するようになりつつあります。主な開示手段としては、環境報告書、環境会計、環境ラベル等があげられます。
 イ 円滑な環境コミュニケーションを確立するために必要な条件
(ア)簡易な形でも環境コミュニケーションを始めるなど、環境情報の公開と情報の拡大を進めることが必要です。
(イ)環境情報が、消費者、投資家などの意思決定に活かされ、環境保全に役立つためには、相互比較を可能にすることが望まれます。
(ウ)提供される多種多様な情報に対し、受け手が理解しやすい形でアクセスできるよう、行政、民間非営利団体、研究機関、マスコミ等が、情報の仲介者として機能することが重要です。

(2)個人の環境保全施策への参加プロセスの確立
 行政施策の意思決定段階で、個人の参加を促進することが必要です。例えば、環境影響評価法の場合、スコーピング段階や準備書段階で、意見を提出できるようになりました。

(3)地域住民が主体となることを可能にする地域コミュニティの基盤整備
 地域の環境保全を進めるためには、地域住民が主体となることを可能にする地域コミュニティの基盤を整備する必要があります。

環境に関する情報の公開について(上場企業)
環境に関する情報の公開について(上場企業)
資料:環境庁「平成11年度環境にやさしい企業行動調査(平成12年3月)」


環境コミュニケーション確立の将来像
環境コミュニケーション確立の将来像
資料:環境庁


(4)具体的行動につながる環境教育・環境学習の推進
 環境教育・環境学習の推進を通じて、持続可能な社会の創造に主体的に参画できる人材を育成することが必要です。このため、こどもエコクラブ事業を実施するとともに、環境カウンセラー登録制度などによる指導者の育成、環境学習プログラムの整備等を推進しています。


2 循環型社会を構築する上での個人の取組の重要性
 従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システムを、最適生産・最適消費・最少廃棄型の循環型社会に変えるためには、個人の役割が重要です。
 具体的には、消費者としてグリーン購入を、また投資家としてエコファンドに投資信託することにより、企業に環境配慮型製品を開発、製造するインセンティブを与えることができます。また、廃棄物の排出者として、排出の極小化やリサイクルを念頭に置いた分別回収への協力が求められます。
 個人、企業、行政各主体それぞれが循環型社会の構成員であることを自覚し、各主体間のパートナーシップの下に適切な役割分担と相互連携が図られ、自主的かつ積極的な取組を行うことにより初めてシステム全体が機能し、相乗的な効果があげられます。

環境への負荷の少ない循環型社会の構築に向けて
環境への負荷の少ない循環型社会の構築に向けて
 資料:環境庁


第3章 わが国の環境の現状


 環境問題の多くは、私たちの通常の社会経済活動に起因し、その影響は、地球環境や将来の世代まで及びます。これらは、地球の温暖化、都市の大気汚染、水質汚濁、廃棄物の増大等の多様な問題となって現れています。ここでは、現代の環境問題の典型と言える身近な問題について、わが国の現状を見ていきます。


1 酸性雨

 酸性雨とは、硫黄酸化物や窒素酸化物等の酸性雨原因物質から生成した硫酸や硝酸が溶解した酸性の強い雨や雪のことで、粒子状・ガス状のものを含みます。平成5年度から9年度までの調査結果をとりまとめた第3次酸性雨対策調査によれば、調査期間中の降水中のpHは4.8〜4.9(年平均値の全国平均)と、第2次調査の結果とほぼ同レベルの酸性雨が観測され、これまで森林、湖沼等の被害が報告されている欧米と比べてもほぼ同程度の酸性度でした。また日本海側の測定局で冬季に硫酸イオン、硝酸イオン濃度及び沈着量が増加する傾向が認められ、大陸からの影響が示唆されました。一方、生態系への影響については原因不明の樹木衰退が第2次調査に引き続き確認されるとともに、酸性雨による影響が生じている可能性のある湖沼が確認されました。


2 光化学オキシダント

 光化学オキシダントは、工場、事業所や自動車から排出される窒素酸化物や炭化水素類を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの物質の総称で、いわゆる光化学スモッグの原因となります。光化学オキシダントは強い酸化力をもち、高濃度では眼やのどへの刺激や呼吸器へ影響を及ぼし、農作物などにも影響を与えます。
 平成10年の光化学オキシダントの注意報発令延日数は100日(19都府県)、光化学大気汚染によると思われる被害届出人数は402人(6府県)でした。地域別には、首都圏地域、近畿圏地域及び中国・四国圏地域に注意報の発令が集中しています。また、平成11年は、警報(各都道府県が独自に要綱等で定めているもので、一般的には光化学オキシダント濃度の1時間値が0.24ppm以上の場合に発令)の発令はありませんでした。

降水中のpH分布図
降水中のpH分布図
 −:未測定
 *:無効データ(年判定基準で棄却されたもの)
 注1:第2次調査5年間の平均値(欠側、年判定基準で棄却された年平均値は計算から除く。)
  2:東京は第2次調査と第3次調査では測定所位置が異なる。
  3:倉橋島は平成5年と平成6年以降では測定所位置が異なる。
  4:札幌、新津、箆岳、筑波は平成5年度と平成6年度以後では測定頻度が異なる。
  5:冬季閉鎖地点(尾瀬、日光、赤城)のデータは除く。
 資料:環境庁


注意報等発令延日数、被害届出人数の推移
注意報等発令延日数、被害届出人数の推移
 資料:環境庁


3 浮遊粒子状物質

 浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter、SPM)とは、大気中に浮遊する粒子状の物質(浮遊粉じん、エアロゾルなど)のうち粒径が10μm(マイクロメートル)以下のものをいいます。SPMは微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼします。浮遊粒子状物質には、発生源から直接大気中に放出される一次粒子と、硫黄酸化物、窒素酸化物等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子があります。一次粒子の発生源には、工場等から排出されるばいじんやディーゼル車の排出ガスに含まれる粒子状物質等の人為的発生源と、土壌の巻き上げ等の自然発生源があります。
 浮遊粒子状物質濃度の年平均値は、近年ほぼ横ばいが続いています。平成10年度の環境基準の達成率は、一般局では67.4%、自排局では35.7%と、いずれも平成9年(一般局61.9%、自排局34.0%)よりも上昇しています。


4 悪臭

 悪臭は、人に不快感を与えるにおいの原因となる悪臭原因物質が大気中に放出されるために発生し、騒音・振動と同様、感覚公害として生活に密着した問題となっています。現在、主に悪臭防止法により規制が行われています。
 悪臭苦情件数は、昭和47年をピークにおおむね減少傾向にありましたが、ここ数年は増加傾向にあります。平成10年度は20,092件で、前年度に比べ5,538件(38.1%)増加しました。この原因としては、廃棄物の野外焼却の増加とダイオキシン問題などを契機として臭気問題に対する国民の意識が高まったことによるものと考えられます。発生源別にみると、「サービス業・その他」が最も多く、次いで「その他の製造工場」、
「個人住宅・アパート・寮」の順となっています。

浮遊物粒子状物質濃度の年平均値の推移
浮遊物粒子状物質濃度の年平均値の推移
 資料:環境庁


悪臭に係る苦情件数の推移
悪臭に係る苦情件数の推移
 注:主な製造工場とは、飼料・肥料製造工場、食料品製造工場、化学工場を指す。
 資料:環境庁


環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
 資料:環境庁


5 公共用水域での水質汚濁

 水域の生活環境は有機汚濁により大きな影響を受けるため、代表的な有機汚濁の指標であるBOD(河川)、及びCOD(湖沼・海域)等の項目について環境基準の達成率を評価しています。

平成10年度の生活環境項目(BOD又はCOD)の環境基準達成率は、全体で77.9%(平成9年度78.1%)、河川で81.0%(同80.9%)、湖沼で40.9%(同41.0%)、海域で73.6%(同74.9%)でした。河川の達成率については、渇水の影響で低下した平成6年度から着実に改善しつつあります。湖沼については、ここ数年は40%前後と低いレベルで推移しています。海域の達成率は、近年は80%前後で推移していましたが、平成10年度は河口付近海域の水質悪化等もあり、前年度と同程度にとどまっています。


6 地下水汚染

 地下水は、温度変化が少なく一般に水質も良好なため、重要な水資源として広く活用されていますが、流速が極めて緩慢で、希釈も期待できない等の特性を持つため、一旦汚染されるとその回復は非常に困難です。地下水の水質の保全のため、平成元年度より水質汚濁防止法に基づき地下水質の測定が行われており、また、平成9年度より、汚染された地下水について人の健康の保護のために必要がある時は、都道府県知事が汚染原因者に対して地下水の水質浄化のための措置を命ずることができるようになりました。
 平成10年度の地下水質測定では、汚染の継続的な監視等により依然として地下水汚染が続いている状況がみられました。こうした地下水汚染が発見された場合は、周辺井戸の調査を行うとともに、井戸の使用法の指導や有害物質を使用している事業場に対して指導などを行っています。


7 土壌汚染及び地盤沈下

 土壌の汚染には、汚染状態が長期にわたる、人の健康に間接的に影響する、一般に局所的で現地毎に多様な態様を持つ、といった特徴があります。農用地の汚染については、汚染の検出面積7,145haに対して対策事業の完了面積は5,631haでした(平成11年11月末)。市街地土壌の汚染については、近年工場跡地や研究機関跡地の再開発等に伴い、有害物質の不適切な取扱い、汚染物質の漏洩等による汚染の事例が増えています。

平成10年度地下水測定結果
平成10年度地下水測定結果
(資料):環境庁


平成10年度の全国の地盤沈下の状況
平成10年度の全国の地盤沈下の状況
資料:環境庁

 地盤沈下は、地下水取水制限等により、長期的には沈静化に向かっています。平成10年度の年間4cm以上の地盤沈下は、昭和53年以降初めてゼロになった前年に引き続いてゼロでした。


8 資源リサイクル率

 個別のリサイクルの状況について見てみると、スチール缶の平成10年の再資源化率は82.5%(平成9年79.6%)、アルミ缶の平成10年度の再資源化率は74.4%(平成9年度72.6%)とそれぞれ増加してきています。また、ガラスびんについて見ると、平成10年のガラスびんの生産量197.5万tのうち原料として使用されたカレット(使用済びんを細かく砕いたもの)の量は145.9万tで、カレット利用率73.9%となっており、カレット利用率は増加傾向にあります。平成10年の古紙の利用率については54.9%で、わずかながらも増加傾向にあります。PETボトルのリサイクルについて見てみると、約1,000の地方公共団体でリサイクルが始まっており、平成8年のリサイクル率2.9%に対し、年々リサイクル率は向上し、平成10年には16.9%となっています。


9 内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)

 平成8年に刊行された「Our Stolen Future」(邦訳「奪われし未来」)という本では、DDT、クロルデン、ノニルフェノールなどの化学物質が人の健康影響(男性の精子数減少、女性の乳がん罹患率の上昇)や、野生生物への影響(ワニの生殖器の奇形、ニジマス等の魚類の雌性化、鳥類の生殖行動異常等)をもたらしている可能性が指摘されています。また、わが国においては、イボニシという巻き貝のメスが雄性化するという現象が見られ、詳しいメカニズムは解明されていませんが、船底塗料として使用されていた有機スズ化合物が原因ではないかとの報告もあります。
 このような、生体内にとりこまれて内分泌系(ホルモン)に影響を及ぼす化学物質は、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)と呼ばれています。
 平成10年度に実施された環境ホルモン緊急全国一斉調査によると、ノニルフェノールなどが広い範囲で検出されたほか、野生生物のうち、食物連鎖で上位に位置するクジラ類や猛禽類において、PCBなどの蓄積が見られました。

リサイクル率等の推移
リサイクル率等の推移
注:スチール缶再資源化率=スチール缶屑使用重量/スチール缶生産重量×100
 古紙利用率=古紙の使用率/繊維素原料使用量×100
 ガラスびんのカレット利用率=カレット使用量/ガラスびん生産量×100
※カレットとは使用済みびんを細かく砕いたもの。
 アルミ缶再資源化率=アルミ缶再生重量/アルミ缶消費重量×100
 ごみリサイクル率=資源化総量+集団回収率/計画処理量+集団回収量×100
資料:空き缶処理対策協会資料、古紙再生促進センター資料、ガラスびんリサイクル促進協議会資料、アルミ缶リサイクル協会資料、厚生省資料により環境庁作成


環境ホルモンと疑われる物質の環境実態調査結果の概況
環境ホルモンと疑われる物置の環境実態調査結果の概況
注:大気、野生生物については、検出される可能性の高い物質を測定している。
資料:環境庁
10 自然環境

 日本列島はユーラシア大陸の東縁部に位置し、日本海をへだて大陸とほぼ平行に連なる南北約3,000kmに及ぶ弧状列島です。世界でも比較的新しい地殻変動帯にある日本列島は、種々の地学的現象が活発です。地形は起伏に富み、山地の面積が国土の約4分の3を占めます。山の斜面は一般に急傾斜で谷により細かく刻まれ、山地と平野の間には丘陵地が分布しています。平野、盆地の多くは小規模で山地との間や海岸沿いに点在し、河川の堆積により形成されています。また、気候は湿潤で、季節風が発達し、四季の別が一般に明確です。
 自然度別で見ると、自然林に自然草地を加えた自然植生は国土の19.1%と2割を切り、このうち2分の1以上に当たる58.8%が北海道に分布しています。一方、近畿、中国、四国、九州地方では、小面積の分布域が山地の上部や半島部、離島等に点在しているにすぎません。


11 日本の野生生物種の現状

 わが国の絶滅のおそれのある野生生物の個々の種の生息状況等は、平成3年に、日本の絶滅のおそれのある野生生物(通称:レッドデータブック)−脊椎動物編−、同−無脊椎動物編−」として取りまとめられました。このレッドデータブックでは、野生生物の生息状況や生息環境の変化に対応するために定期的な見直しが必要であるとし、これまでに両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類及び汽水・淡水魚類の新しいレッドリスト(レッドデータブックの基礎となる日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)の取りまとめを終了しています。植物についても平成9年8月にレッドリストをまとめ、現在レッドデータブックを作成中です。これによると、わが国に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の2割強、爬虫類、維管束植物の2割弱、鳥類の1割強の種が存続を脅かされています。

地方別に見る植生自然度の構成比
地方別に見る植生自然度の構成比
出典:第4回自然環境保全基礎調査「植生調査」


わが国で確認されている動植物及び菌類の種数並びに絶滅のおそれのある種の現状
わが国で確認されている動植物及び菌類の種数並びに絶滅のおそれのある種の現状
絶滅(Extinct)         :我が国では既に絶滅したと考えられる種
野生絶滅(Extinct in the Wild)   :飼育・栽培下でのみ存続している種
絶滅危惧I類(Critically Endangered+Endangered)・絶滅危惧種(Endangered):絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧II類・危急種(Vulnerable):絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧(Near Threatened)・希少種(Rare):存続基盤が脆弱な種
*絶滅のおそれのある種の現状については、分類群毎に定期的見直しを行っているため、平成9年度以降に見直しを行った分類群についてのみ、平成8年度に改訂された新カテゴリーに基づいている
(1)動物の種数(亜種等を含む)は「日本産野生生物目録(1993、1995 環境庁編)」等による。
(2)維管束植物の種数(亜種等を含む)は植物分類学会の集計による。
(3)蘚苔類、藻類、地衣類、菌類の種数(亜種等を含む)は環境庁調査による。
(4)絶滅のおそれのある種(亜種等を含む)の現状は、新カテゴリーに基づくものについては環境庁(1997、1998、1999)に、旧カテゴリーに基づくものについては「日本の絶滅のそれのある野生生物・無脊椎動物編(1991 環境庁)」による。


12 自然とのふれあい

 近年、都市の身近な自然の減少や国民の環境に対する意識の向上などに伴い、人と環境との絆を深める自然とのふれあいへのニーズが高まっています。自然公園を訪れる人々の数(利用者数)は、平成10年では9億4,671万人でした。

むすび


 これまで見てきたとおり、経済社会のあり方を明確な目的意識を持って持続可能なものへ方向転換することが必要不可欠であり、その時期は「循環型社会元年」とも呼ばれる現在をおいてはありません。そして、日本が率先して循環型社会のモデルを示すことにより、21世紀の世界の潮流の中に経済社会に環境配慮を組み込んでいく力強い流れを形づくっていくことが求められています。そのためには政策主体そして国民一人一人が社会の主人公として足元からの変革を着実に進めていかなければなりません。今回の環境白書では、こうした考え方を具体的に明らかにしてきました。

 21世紀に予想される様々な構造変化の中にあって、私たちが環境と共生していくためには、一人一人に環境の価値に対する正確な認識が生まれ、それを大切にする合理的な行動がしっかりと根付くことがまず求められます。このためには、適切な場面で環境についての知識、環境情報、環境技術などが活かされることが不可欠です。

 環境保全と経済活動とが統合することが「環境の世紀」を実現する鍵になりますが、環境保全のためのコストが経済活動を支える市場のメカニズムにうまく反映されることを通じて、経済社会に環境配慮が組み込まれていくことが今後特に重視されます。また、地域特性を活かした環境共生型の地域社会が、その基礎となることが望まれます。

 もとより「環境の世紀」に向けた経済社会の構造変革は、社会の構成員それぞれにとって相当のエネルギーが必要な共同作業です。このため、政策主体の立場から、環境政策を始め各分野の行政施策の方向が各活動主体の環境保全への取組姿勢とうまく整合するように努め、互いに補強し合って相乗的な効果が上がるようにしなければなりません。

 人類社会の持続的発展は、私たちが生きている現代文明を乗り越えることから切り拓かなければなりません。「足元からの変革」こそ、私たちができるだけ早い時期に絶対にやり遂げなければならない重い課題です。
 人や組織における個々の変革努力が共通の目的意識を通じて適切に組み合わさったとき、大きな相乗効果を発揮します。今回の環境白書では、このような足元からの変革努力により社会が大転換を遂げる可能性があることを強調しました。

 私たち人類は、“環境を味方にする”ための社会変革の方法を生み出す英知と素早い実行力を持ち合わせているはずです。21世紀は、そうした可能性を秘めた「環境の世紀上」なのです。私たち現在に生きる世代が、未来世代の命運を握っており、環境問題への対応を誤るわけにはいかない重い責任を担っていることを忘れてはなりません。