平成11年版
図で見る環境白書


 序章 20世紀の環境問題から得た教訓は何か

  1 環境問題の変遷と対策の系譜

  2 地球化時代の環境問題と対策の進展

  3 20世紀の教訓 〜新たな世紀の持続可能な発展に向けた環境メッセージ

 第1章 経済社会の中に環境保全をどう組み込んでいくのか

  1 環境面から考察する産業構造の変化

  2 産業活動における環境保全の内在化の動き

  3 環境保全と地域経済の融合に向けて

  4 環境保全を内在化した経済社会の実現に向けて

 第2章 環境に配慮した生活行動をどう進めていくのか

  1 利便性を追求する生活行動と環境への負荷

  2 化学物質による環境問題

  3 環境に配慮した生活行動に向けて

 第3章 途上国のかかえる環境問題にどう関わるべきか

  1 地球的視野から見た途上国の環境問題

  2 途上国における環境問題等の現状とその対策

  3 途上国の持続可能な発展に果たす我が国の役割

 第4章 環境の現状

 むすび



*表紙の絵は、静岡県志太群大井川町立大井川中学校3年高橋泰穂さんの作品で、環境庁主催「平成11年版環境白書表紙絵コンクール」で環境庁長官賞を受賞したものです。高橋さんは「地球を美しい姿に戻し、今では見られなくなった草原や、絶滅寸前の動物たちが、また昔のように姿を現してくれるように願い、描きました。そして、笑っている少女のように幸せそうな顔をする人々が、21世紀にたくさん見られるようにしたいものです。」と話しています。



読者の皆様へ


 この小冊子は、本年5月28日に閣議決定のうえ公表された平成11年版環境白書の総説をもとに、その内容をやさしくかいつまみ、また、新しい写真なども加え、多くの方々に親しんでいただけるよう、編集し直したものです。
 20世紀もあと1年半となりましたが、私たちは実質的にも歴史の転換点に立っており、間近に迫った次の世紀がどのようなものになるか誰もが大きな関心を抱いています。
 20世紀は、「大量生産・大量消費・大量廃棄」という言葉で表されることがあります。その結果、今や地球規模で、資源・エネルギーの枯渇や環境への負荷の増大などが人類の存続を脅かしています。その一方で、次の世紀での持続的な発展に向けて環境の保全を支える新しい芽吹きや、力強い胎動も起きてきています。
 平成11年版環境白書では、私たちが21世紀を「環境の世紀」として迎えるため、「どうしたら持続的な発展が可能な経済社会が実現できるか」という視点で環境政策が問い直されている現在、20世紀における環境行政の歩みを振り返ることを通じて、持続することの可能性を高めるための環境政策が今後どうあるべきか探りました。
 この小冊子を通じて、読者の皆様一人ひとりが環境問題について関心を深めていただき、具体的な行動の参考にしていただくことを願っております。





序章 20世紀の環境問題から得た教訓は何か


1 環境問題の変遷と対策の系譜


 20世紀は、前世紀からの局地的な鉱害などの問題が続く中で産声を上げました。我が国では、明治維新後、殖産興業の号令の下で積極的な工業化が進められました。工業化に伴い健康等への被害があることが認識されたものの、被害者の泣き寝入りということもあり、十分な対策は講じられませんでした。以後戦前までの期間、同様の傾向が続き、特に戦争の時期に至ると、国立公園法の事務中止などに典型的に見られるように、環境行政はほとんど省みられることがなかったと言えます。戦後、経済の復興に最も高い優先度が与えられ、高度成長期に入ると激甚な公害問題が生じました。こうした激甚な公害への対策として、昭和45年の公害国会(第64回国会)では公害関係14法が制定・改正されるとともに、体系的な環境行政の必要性が強く認識され、昭和46年、環境庁が設置されました。これ以降、環境庁を中心として政府では各種の環境保全施策を講じていくこととなりました。昭和50年頃以降になるといわゆる都市・生活型の公害が新たな公害として認識されはじめ、この問題への対応が求められるようになりました。

代表的地域の地盤沈下の経年変化
代表的地域の地盤沈下の経年変化

第64回国会に提出された公害関係法律案の一覧表
第64回国会に提出された公害関係法律案の一覧表

二酸化硫黄濃度の年平均値の推移
二酸化硫黄濃度の年平均値の推移

2 地球化時代の環境問題と対策の進展


 昭和末から平成の頃になると、地球温暖化やオゾン層の破壊の問題など次第に地球規模化した環境問題の重要性が国際的にも認識されるようになり、環境行政もまた新たな行政需要に応じて大きな変化・拡充を見せました。平成5年には、地球環境時代に対応した新たな環境政策を総合的に展開していく上での大きな礎となる「環境基本法」を制定し、翌年、同法の規定に基づき「環境基本計画」を策定するなど、環境行政そのものも、新たな時代を迎えたと言えます。さらに9年以降「環境影響評価法」そして「地球温暖化対策の推進に関する法律」などが次々と制定され、新たな枠組みの下で、新たな環境政策が展開されていくこととなりました。

地球環境問題の相互関係
地球環境問題の相互関係
(備考)環境庁資料による


環境基本法の下での個別の措置の例
環境基本法の下での個別の措置の例

3 20世紀の教訓 〜新たな世紀の持続可能な発展に向けた環境メッセージ



激甚な公害経験から学んだこと
1 環境問題から得た教訓を分かち合い、反省とともに受け継いでいくこと
 明治期の鉱毒事件など、振り返ってみると警鐘をならす声があったにも関わらず、対策が遅れ、あるいは不十分であったりしたために、二度と戻らなかった人命や健康がありました。こうした過ちは、人類全体の教訓として受け継いでいく必要があります。
都市・生活型公害から学んだこと
2 環境問題の複雑な原因に合わせて様々な対策を実施していくこと
 多数者の日々の生活と関わりの深い都市・生活型の公害には、従来からの対策が必ずしも効果的ではありませんでした。このため、様々な対策をうまく組み合わせていくことが必要です。
地球規模の環境問題から学んだこと
3 地球環境問題において国際的なイニシアティブを発揮し、環境協力を推進すること
 地球環境問題は、各国のそれぞれの事情から、時に利害が真っ向から対立することがあります。こういう時にこそ、我が国は、アジアの一員であること、経済的に大規模な活動を営む国であることなどの特性を活かし、積極的な役割を果たしていくべきでしょう。
自然保護に関して学んだこと
4 生物多様性という考えで自然環境を保全していくこと
 珍しいもの、すぐれたもの、美しいもの、といった価値を基準にしてそれらを守るということだけでは不十分でした。 「生物の多様性」という概念で自然環境保全の問題を考えていくべきで、そのためには、個体、種、生態系というそれぞれの多様性の保全に向けた取組が重要となります。
5 人間の与える負荷と自然環境の許容量を踏まえた共生を図っていくこと
 私たちの活動が自然環境へ与える影響を予め正しく予測することが必要です。私たちがこれまで知り得た自然環境の知識はごくわずかなものでした。また、人と自然との共生の確保には、環境の許容量を知って自然とのふれあいを促進すること、自然の大切さを学ぶことが大切です。
経済社会の変遷を通じて学んだこと
6 最適生産・最適消費・最小廃棄型の経済社会への変革を図っていくこと
 大量生産という20世紀の画期的な生産方法も大量消費そして大量廃棄という問題をもたらし、経済社会の持続的な発展を危うくしています。従来の生産、消費、廃棄を環境に負担をかけないようなものにしていく必要があります。
7 行政、事業者、国民それぞれが適切な役割分担により環境保全を組み込んでいくこと
 行政、事業者、国民それぞれが環境の価値を重視した判断を行い、お互いに役割を分担しながら協力し合って環境問題への対策をとることが大切です。
計画的な環境対策に関して学んだこと
8 将来像を踏まえて環境政策の方向を明らかに示していくこと
 科学的な技術評価に基づいて、政策主体が明確な意思表示をすることにより、技術革新など対策の進捗が期待できます。
9 未然防止や早めの対策を心がけていくこと
 環境問題に気づき、対策が講じられ、その効果が現れるまでには、予想以上に時間がかかるため、場合によっては手遅れになってしまうことがあります。環境問題への対策は、未然防止や早めの対策という考え方で進めていく必要があります。
10 統一的な組織の下で計画的に施策を進め、目標の設定と事後評価を適切に行っていくこと
 環境保全に関する政策は、統一的な組織の下で、計画的、体系的に行われる必要があります。また、環境行政の目標はできる限り数値でわかるものとして、目標が達成できたかどうかをチェックすることが大切です。



第1章 経済社会の中に環境保全をどう組み込んでいくのか


1 環境面から考察する産業構造の変化



我が国の産業構造の変化と環境保全との関わり

 我が国の産業構造の変遷と環境への影響や環境保全の取組は、以下のように変遷してきました。

第I期 軽工業を中核とした近代産業の確立と重化学工業の進展(明治中期〜第二次世界大戦)
 工場等からのばい煙や排水による汚染、騒音、悪臭等の公害が発生するようになりました。

第II期 傾斜生産方式による石炭と鉄鋼等の素材供給型の産業の育成(戦後復興期)
 各種の公害現象が顕在化し、公害問題への住民及び地方公共団体等の認識も徐々に高まってきました。

第III期 重化学工業化、エネルギー転換等による経済成長(1950年代後半)
 広域的な大気の汚染や水質の汚濁等の深刻な公害問題が発生しました。公害防止に係る法制度が整備され、企業は規制に追随する形で公害対策のための設備投資等を実施するようになりました。

第IV期 オイルショックに伴う素材型産業から、組立産業への進展(1970年代〜80年代)
 産業活動における省エネ・省資源の取組が一気に進みました。一方、有機溶剤による地下水汚染等未規制物質使用の増大による新たな公害も発生するようになりました。

第V期 サービス、情報産業及びエコビジネスの進展(1990年代)
 地球環境問題や廃棄物問題等の様々な環境問題の顕在化に伴う、エコビジネス(環境関連産業)及び産業活動における環境保全の取組が進展してきました。

産業別名目GDP構成比の推移
産業別名目GDP構成比の推移
(資料)経済企画庁「国民経済計算」


製造業エネルギー消費の要因別増減寄与度
製造業エネルギー消費の要因別増減寄与度
(資料)(財)省エネルギーセンター「省エネルギー便覧」


我が国のマテリアル・バランス(物質収支)
我が国のマテリアル・バランス(物質収支)
(注)水分の取り込み(含水)等があるため、産出側の総量は物質利用総量より大きくなる
(資料)各種統計より環境庁試算


我が国の産業構造と物質収支に関する考察

 我が国の産業構造は、第一次産業のウェイトが低下、第二次産業はほぼ横ばい、第三次産業は一貫してウェイトを高めているが状況にあります。
 また、我が国の物質収支を見ると、経済活動に投入される総ての投入物質量や総廃棄物発生量は両者とも年々増大傾向にあり、依然として大量生産・大量消費、大量廃棄型の経済構造が維持されています。さらに資源の再生利用率は約1割にすぎず、国内の物質フローは、循環性が低く資源採取から廃棄に向かう一方通行の流れとなっています。
 加工貿易を基礎に成り立っている我が国の経済構造は、国内需要に加え輸出需要に対応した大量の物質やエネルギーフローを生む構造になっており、一方、海外での資源採取等の段階で相当程度の環境負荷を与えています。このような状況の下、産業構造の変化を視野に入れ、産業活動における環境保全の内在化を進めていくことが非常に重要です。

2 産業活動における環境保全の内在化の動き



持続可能な経済社会を構築する産業活動の方向性

 持続可能な経済社会の条件は、資源や環境負荷の側面から見ると以下のように整理できます。

 1)経済活動へ投入される物質量や一次エネルギーの供給量の削減
 2)投入物質やエネルギー供給源の質の転換(地下資源の消費から地上資源の活用へ)
 3)自然界への物質の排出量(総廃棄物発生量)の削減、無害化や最終エネルギー消費量の削減

 また、持続可能な経済社会を具体化する以下の概念が国際的に注目されています。

●環境効率性
 環境効率性とは、環境、経済両面での効率性を追求するための概念で、技術力の向上や経済性の向上を通じて環境負荷の低減を図ることを目指すものです。つまり財やサービスの生産に伴って発生する環境への負荷に関わる概念で、同じ機能・役割を果たす財やサービスの生産を比べた場合に、それに伴って発生する環境への負荷が小さければそれだけ環境効率性が高いということになります。
 持続可能な発展のための世界経済入会議(WBCSD)では、環境効率性の概念を具体化し、その普及活動を行っています。

WBCSDの環境効率性の7つのガイドライン
●製品、サービスの物質集約度(material intensity)の低減
●製品、サービスのエネルギー集約度(energy intensity)の低減
●有害物質の拡散の抑制
●材料のリサイクル可能性の向上
●再生可能資源の最大限の持続可能な活用
●製品の耐久性の向上
●製品の利用密度の向上(共同利用、多機能化、機能拡張)

(出典)「エコ・エフィシエンシーへの挑戦」山本良一監訳

●豊かさを増大させながら資源消費の削減を目指す考え方〜ファクター10・4について
 「ファクター10」とは、持続可能な社会を実現するためには、今後50年のうちに資源利用を現在の半分にすることが必要であり、人類の20%の人口を占める先進国がその大部分を消費していることから、先進国において資源生産性(資源投入量当たり財、サービス生産量)を10倍向上させることが必要であることを主張するもので、1991年(平成3年)ドイツのヴッパータール研究所により提起されました。
 さらに、19955年には、「豊かさを2倍に、環境に対する負荷を半分に」することを目指す「ファクター4」の報告がローマクラブに対して行われ、資源生産性を現在の4倍にすることが技術的に可能であり、かつ巨額の経済収益をもたらし、個人や企業、社会を豊かにすることができることが示されました。
●持続可能な経済社会の4つの条件(ナチュラル・ステップ)
 スウェーデンの環境保護団体の一つに1989年に設立された「ザ・ナチュラル・ステップ」という団体が、持続可能な社会の構築のための条件として、以下の4つのシステム条件を提案しており、企業経営の中に取り入れられるようになっています。
   1)地殻の物質をシステム的に自然界に増やさない。
   2)人間社会で生産した物質(例えば化学物質)をシステム的に自然界に増やさない。
   3)自然の循環と多様性を支える物理的基盤を守る。
   4)効率的な資源利用と公正な資源配分が行われている。
 ここでは、環境保全への配慮を段階的に組み込んでいくことを「グリーン化」と呼ぶこととします。産業活動の持続可能性を高める方向性について、これらの概念を基に整理すると、産業活動における環境効率性を向上させ、1単位の資源から得られる豊かさを4倍、10倍にするよう努めていくことにより、地上資源を有効に活用し、地下資源や自然界に異質な人工物質の利用の必要性を下げていくことではないかと考えられます。
 この方向性に沿って、グリーン化の具体的な取組を「食」を支える産業、「モノ」作りを中心とした産業、「マネー」の流れを調整する産業の観点から整理します。



(出典)ナチュラル・チャレンジ



「モノ」づくりを中心とした産業の取組

 環境経営の取組姿勢として、第1のタイプ=規制対応型、第2のタイプ=予防的対応型、第3のタイプ=機会追求型、第4のタイプ=持続発展型の4つの対応が考えられますが、第1のタイプから第4のタイプへ向かう時系列的な進化を経る事業者が多くなっています。
 「モノ」づくりの産業活動においては、原材料調達、製造、流通・販売、製品利用、廃棄・リサイクルの各段階において環境負荷を低減させることが重要です。
 また、環境効率性を一層高めるためには、ライフサイクル全体を見渡した原材料の選択、製品設計、生産システムの構築を行う環境設計が必要です。
 前項で紹介した3つの概念を基に、環境設計のキーワードは、以下のように整理できます。

環境設計のキーワード
●物質集約度の低減        ●エネルギー集約度の低減
●有害化学物質の利用・排出の削減 ●製品の耐久性の向上
●利用密度の向上         ●再生可能資源の持続可能な利用
●再使用・リサイクル可能性の向上


ライフサイクルを長期化する生産システム
ライフサイクルを長期化する生産システム
(出典)持続的発展を指向した新しいモノ作りと自転車のリサイクル(早稲田大学 永田勝也)


 環境設計の推進は、例えば耐久性の向上が、修理、メンテナンス等の新たなビジネスを生み出し、利用密度の向上が、モノの所有からリース、レンタル等モノの所有の形態に変化をもたらし、また再生可能資源の利用が国内の農林水産業の振興に資するなど、持続可能な経済活動を進めていくことにつながると考えられます。
 このようなキーワードを基に、リサイクル工程から発想した製品設計、生産システムの構築を目指した「インバース・マニュファクチュアリング」の構想が東京大学によって提唱されています。これは、元の部品と同質のモノに戻す閉じたリサイクルによる循環型製品のライフサイクルを実現し、製品機能に着目した量的充足から質的充足を目指したモノづくりを行っていくものです。


「食」を支える産業の取組

 「食」を支える産業である農業は、健全な生産活動を通じ、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の多面にわたる機能を持っています。一方、化学肥料、農薬の不適切な使用による水質汚濁や農業用廃ビニールの増大等の環境負荷も生じています。
 農業のグリーン化のためには、合理的な輪作、土づくり、畜産と耕種との結合等による農薬や化学肥料の節減や、露地栽培の推進や自然エネルギーの利用等により持続可能な農業生産を実現する環境保全型農業を進めていくことが必要です。このような農業のグリーン化の実効をあげるためには、伝統的な日本の食生活を見直していくとともに、地域住民の参加型農業や食を介して第一・二・三次産業間の連携を進めていくなど関係主体との連携及び地域の活性化と一体となった取組を進めていくことが重要です。

他地域の資源に依存した農業から地域自立型の農業へ
他地域の資源に依存した農業から地域自立型の農業へ
 (出典)有機農業ハンドブックより環境庁作図


JAの環境保全型農業への具体的取組内容(JAとして取組・支援している場合)
JAの環境保全型農業への具体的取組内容(JAとして取組・支援している場合)
(複数回答)
 (出典)最新事例 環境保全型農業 農林水産省監修 JA全中 JA全農編



「マネー」の流れを調整する産業の取組

 「マネー」の流れを調整する産業である金融業は、事業者への資金供給を通じて間接的に環境へ大きな影響を及ぼしています。そこで、金融業は、融資の際の借手や投資事業の環境リスクの確認や、グリーン化を行う事業者への積極的な投資を行っていくことにより、事業リスクの削減だけでなく、グリーン化を促すことができます。また、保険業については、契約事業者の環境保全に資する環境汚染賠償保険等の商品開発やコンサルティング等の取組が行われることが望まれます。

持続可能な産業活動のイメージ
持続可能な産業活動のイメージ
 (資料)環境庁


3 環境保全と地域経済の融合に向けて



経済のグローバル化と地域経済

 経済のグローバル化は、環境保全に資する技術や情報の流通やISO14001等の環境保全に係るグローバルスタンダードの普及等を進める一方、大量生産システムの進展や輸出入の増大に伴うエネルギー利用量の増大、過度の資源採取等の環境への大きな影響をもたらすことが懸念されています。
 経済のグローバル化が進む現在、環境保全と密接に関わる地域経済の動向に注目することが必要となっています。


地域経済を形成する産業活動の在り方 〜地域内資源活用の取組

 地域の活性化と環境保全との両立を図った地域づくりの事例を見ると、再生可能な地域資源や再生資源の地域内での活用が、資源供給、活用側双方の産業や新規産業の振興をもたらし地域の経済を活性化させています。また、このような取組は、人々や情報の交流を活発化させ、地域の固有の生活文化を形成することにもつながっています。さらに地域における信頼と輸送コストの削減等を競争力にしながら発展している例もあります。


地域の環境保全を支える「人、情報等」の活性化を促進する取組

 上記の地域内の資源を活用した産業活動を進めるためには、それを支える人及び情報の交流を促進することが重要です。生活クラブのワーカーズコレクティブ等の協同組合や市民事業は、地域における情報交換を密にし、地域の環境保全の取組の基盤となる地域コミュニティの形成に資するものです。また、地域の資金循環を調整する地域金融の活躍や地域内で財・サービスをやりとりする「LETS」システムの導入等により、地域内での経済循環を活性化させることで地域内での物質循環を実現するとともに、経済活動に内在化されていない環境の価値を評価していく試みも見られています。


環境保全と地域経済の融合に向けて

 以上のことから、地域資源の地域内での利用、循環といった「モノ」の循環を進めることが環境保全と地域経済の自立につながること、またそれを支える「人・情報」の交流や地域の経済循環を促進する取組が有効であることが分かります。このような形で地域経済を活性化し、グローバル経済と地域経済が相互に補完しあいながら環境保全上望ましい形で展開されることが必要です。

4 環境保全を内在化した経済社会の実現に向けて



環境保全型の経済社会についての将来像

 環境保全型の経済社会の構築に当たっては、現在の経済社会に存在する財貨の存在量を重視し、それを最大限活用して効用を得るストック活用型経済へ転換し環境効率性を最大限向上させていくことが重要です。
 また、第一次産業は、環境保全機能を維持・増進しエコ(再生可能)資源を供給する主体として、
    第二次産業は、環境効率性を追求しリサイクルの循環回路を形成する主体として、
    第三次産業は、ストック活用の媒体・非物質系循環の推進主体として、
 それぞれ持続可能性を高めていくとともに、相互にバランスをとりつつ連携を強めていくことにより循環促進型の産業構造への移行を図っていくことが重要です。

各産業部門の連携による循環促進型の産業構造の在り方
各産業部門の連携による循環促進型の産業構造の在り方
 (資料)環境庁


 日本経済の発展やグリーン化の推進力となりうるエコビジネスの発展も大いに期待されます。さらに、経済を構成する新たなセクターである市民事業やNPO等の「協」的セクターの活躍が期待されます。
 持続可能な産業活動の進展のためには、「規模の経済性(スケールメリット)」の追求だけでなく、他の主体との連携を軸にした「範囲の経済性(スコープメリット)」、「連結の経済性」や「合意の経済性」などの多様なアプローチを使い分けていくことが重要でしょう。


環境保全の内在化を進めるために

 環境保全の内在化を進めるためには、以下のことが必要不可欠だと考えられます。
(1)ライフサイクルアセスメント、環境マネジメントシステム、環境報告書、環境会計等の「環境情報の社会インフラ」を整備することにより環境効率性を高める企業行動を推進すること。
(2)消費者、投資家、労働者としての国民の経済行動に環境合理性(環境価値を重視した行動規準)を定着させること。

エコビジネスマップ(主な取組事例)
エコビジネスマップ(主な取組事例)
 (資料)環境庁


20世紀の経済社会と環境保全型の経済社会の相違
20世紀の経済社会と環境保全型の経済社会の相違
 (資料)環境庁


(3)地域の資源を活用するなどにより地域主導による環境保全と地域経済の融合を図っていくこと。
(4)環境保全型の経済社会に関するビジョンを提示しつつ、積極的な環境投資を推進していくこと。
(5)規制的手法、経済的手法等の各種手法の組合せにより経済社会全般に及ぶグリーン化の推進を図っていくこと。
 これらの取組を進めていくために環境政策の果たす役割はますます重要になってくると考えられます。



第2章 環境に配慮した生活行動をどう進めていくのか


1 利便性を追求する生活行動と環境への負荷



20世紀の利便性向上の歴史と環境問題

第I期 科学技術の急速な進歩と都市型消費生活の始まり(1900年代〜20年代)
 大衆車の大量生産方式の実現を始めとして、諸外国で科学技術が急速に発達しました。我が国も、1910年代後半頃から都市的な消費生活が始まるものの、まだ萌芽にすぎませんでした。
第II期 利便性の追求と大量消費・大量廃棄パターンの始まり(1940年代半ば〜60年代)
 電気洗濯機、電気冷蔵庫、白黒テレビといった「三種の神器」が急速に普及し、また自動車保有台数が増加する一方で、モデルチェンジが頻繁に行われるようになりました。こうした中、買い換えによる大量消費が進むとともに、まだ使用可能な製品が大量に廃棄され始めました。
第III期 生活者による環境保護運動の進展(1960年代〜70年代)
 戦後の急速な経済成長とそれに続く高度経済成長の裏側で、水俣病を始め産業公害による健康被害が表面化し、住民運動が活発化していきました。また、ローマクラブが「成長の限界」を発表するなど、地球規模でも環境に対する危機感が高まり、環境保護運動が進展していきました。
第IV期 地球環境問題等の表面化と生活様式に対する問題提起(1980年代以降)
 生活排水等による水質汚濁等や地球温暖化問題等に見られるように、利便性の追求の結果、それまで被害者であった生活者は加害者としても位置付けられるようになりました。こうした中、消費の段階で環境保全を意識したり、環境家計簿等を利用して消費生活を見直すなど、自らの生活様式を変える取組への機運が高まりつつあります。

20世紀における国民の生活行動の変化
20世紀における国民の生活行動の変化


利便性を追求する生活様式と環境負荷

●消費生活等から見た生活様式の変化
 平成8年の家計の消費水準は、30年前に比べ約1.6倍になっています。この間、自家用車の普及に伴う自動車関係費や耐久消費財の大型化・高級化に伴う支出が増加し、エネルギー使用の増加に伴う光熱・水道費が増加しており、生活者の利便性の追求・快適志向がうかがわれます。また、例えば食料費に占める中食(調理済み食品)費、外食費の割合がこの25年間で倍増しているように、消費のサービス化が進行しています。生活時間の使い方も変化しています。労働時間の短縮や家事の省力化などを受け、テレビを見たり新聞を読んだり、レジャー活動を行ったりする自由時間が増加しています。
●日常生活における環境負荷
 私たちの生活は、大量の資源・エネルギーを消費することで便利になりましたが、他方では様々な環境負荷が生じています。例えば、全国で約550万台普及し、便利に利用できる自動販売機は、家庭1世帯の消費電力のおおよそ6割の電力を消費しています。また、耐久消費財の大型化、高級化、大量普及により、技術開発により一台当たりの環境負荷が低減されても、全体としてCO2排出量が増大しています。
 家庭からのごみもこの15年で8.4%増えており、生活様式の変化を反映して、時間と手間を節約でき便利な使い捨て商品や、食べ残し、容器包装類等が増加しています。台所や風呂、洗濯、水洗便所等で使用され排出される水は、様々な有機物や栄養塩類を含んでおり、海や河川、湖沼の有機汚濁や富栄養化を引き起こす原因の一つとなっています。主な湖沼の発生源別汚濁負荷量をCODについてみると、生活系の寄与が3割前後を占め、また、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の閉鎖性海域のCODについても、生活系が5割〜7割を占めています。
 また私たちの日常生活は、自動車の利用を前提としていると言えます。自家用乗用車は、利用したい時にいつでも、出発地から目的地まで荷物を持たずに直接移動でき、バスや鉄道という公共交通機関にはない利便性を備え、便利で快適な生活を支えている一方で、燃料の燃焼に伴って地球温暖化の原因となるCO2等を排出します。輸送機関別のエネルギー消費量の推移を見てみると、自家用乗用車のエネルギー消費が大きな割合を占めるとともに、著しく伸びています。

消費の費目別構成比の推移
消費の費目別構成比の推移
(資料)総務庁「家計調査年報」


家庭用用途別世帯当たりCO2排出量
家庭用用途別世帯当たりCO<SUB>2</SUB>排出量
(出展)住環境計画研究所推計

正誤表
「平成11年版 図で見る環境白書」12頁において、一部誤りがございました。
図表の家庭用用途別世帯当たりCO2排出量
         
□暖房    → □照明・動力
□冷房    → □厨房
□給湯    → □給湯
□厨房    → □冷房
□照明・動力 → □暖房


家庭ごみの物理的組成の経年変化
家庭ごみの物理的組成の経年変化
(資料)京都市環境局資料に基づき環境庁作成


旅客輸送における輸送機関別エネルギー使用量の推移
旅客輸送における輸送機関別エネルギー使用量の推移
(資料)「運輸関係エネルギー要覧」より環境庁作成


2 化学物質による環境問題



化学物質に依存する現代社会と環境問題

 私たちの身の回りにはありとあらゆる用途に対応した多様な化学物質が存在します。それらは私たちの生活を便利にしてきました。その一方で、生産・使用・廃棄等のしかたによっては、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす恐れのあるものもあります。その背景には、利便性を追求し、多種多様な化学物質を大量に生産、消費、廃棄している社会経済活動や生活様式を私たちが受け入れてきたという事実があります。
 化学物質による環境問題に対しては、そのつど対策が取られてきました。最近では、新しい化学物質問題の現れとして、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題と、ダイオキシン問題への関心が高まっています。


内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題の台頭

 近年、いろいろな分野の研究者等によって、野生動物等に化学物質による内分泌かく乱作用の影響が出始めている可能性があるという報告がなされています。特に、シーア・コルボーンらによって1996年(平成8年)3月に発刊された「奪われし未来」は、それまで個別に行われてきた野生動物などの生殖の異常に関する研究報告を、内分泌かく乱化学物質がそれらの異常の原因ではないかという、一本のストーリーでつなぎ合わせたものです。この本をきっかけに、内分泌かく乱化学物質、いわゆる環境ホルモンが、従来になかった新しい環境問題の出現として世界的にクローズアップされています。

 内分泌かく乱物質:動物の生体内に取り込まれた場合、本来動物の生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与えるおそれのある化学物質のこと。

 内分泌かく乱化学物質がホルモンの正常な作用をかく乱するメカニズムは、必ずしも解明されていませんが、本来ホルモンが結合するはずのレセプター(受容体)に内分泌かく乱化学物質が結合することによって、女性ホルモンが分泌されたと錯覚させたり、男性ホルモンが結びつくのを妨げたりすると考えられています。

ホルモンの働きと内分泌かく乱作用のメカニズム例
ホルモンの働きと内分泌かく乱作用のメカニズム例
(資料)各種資料より環境庁作図


内分泌かく乱化学物質問題についての本格的な調査研究はまだ始まったばかりです。
今後も引き続き、
●内分泌かく乱化学物質による環境汚染の状況、野生動物等の実態調査の推進
●中核的な研究施設の整備と試験研究及び技術開発の推進
●OECDが進めるスクリーニング試験プログラム(化学物質が内分泌物質と類似の作用を持つか持たないか等を調べる手法)への参加や途上国への情報提供等、国際的なネットワーク強化のための努力
といった調査研究体制の充実を図るとともに、有識者などによる検討会や国際シンポジウムの開催を通じて、この問題に積極的に取り組んでいく必要があります。


ダイオキシン問題について

 ダイオキシン類は、人工物の中で最も強い急性毒性を持つといわれる化学物質です。意図せずに生成されるため、環境中に極めて低い濃度で拡散しているのが特徴で、一度に大量に身体に取り込まれることはほとんどありません。長い期間接することによって生じる毒性によって人の健康に害を与えるのを未然に防ぐため、主な発生源である廃棄物焼却施設からの排出を抑制する措置等がとられています。

ダイオキシン(PCDD)、ポリクロロジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナーPCB
ダイオキシン(PCDD)、ポリクロロジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナーPCB
(Co-PCB)の化学構造式

TEQ
TEQとは「毒性等量」を意味している。ダイオキシン類210種のなかには17種類の2,3,7,8-体と呼ばれる毒性の強いものがある。しかし、その毒性には強弱があるため、毒性の最も強い2,3,7,8-TCDD(2,3,7,8-四塩化ジベンゾダイオキシン)に換算して数値化し、数値の後ろにTEQを加えて表現する。

いろいろな毒性物質
いろいろな毒性物質
(資料)環境庁


大阪府における母乳中のダイオキシン類濃度の推移
大阪府における母乳中のダイオキシン類濃度の推移
(資料)厚生省



 ダイオキシン類については、我が国では当面の許容限度としての耐用1日摂取量(TDI)10pg/kg/日と、人の健康を保護する上で望ましい値としての、「健康リスク評価指針値」5pg/kg/日が提案されていますが、世界保健機関のTDIの基準の見直し(10→14pg/kg/日、コプラナーPCB含む)を受けて、見直しを行っています。
 また、土壌中ダイオキシン類濃度については、社会的関心の高まりを受け、環境庁において、土壌1g当たり1,000pgTEQの暫定ガイドラインが提案されています。



 政府は、ダイオキシン問題の広がりに対応するため、「ダイオキシン対策関係閣僚会議」で、総合的にダイオキシン対策を進める「ダイオキシン対策推進基本指針」を策定するなど対策を進めています。


ダイオキシン対策推進基本指針
 1)耐用1日摂取量の見直しなどの各種基準等作り
 2)ダイオキシン類の排出削減対策等の推進
 3)ダイオキシン類に関する検査体制の改善
 4)健康及び環境への影響の実態把握
 5)調査研究及び技術開発の促進
 6)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 7)国民への的確な情報提供と情報公開
 8)国際貢献


化学物質による環境汚染の未然防止のための新たな手段について

 従来の化学物質による環境問題への対策は、個別の物質に着目する方法、規制を厳格にしていく方法が取られてきました。しかし、化学物質が複数の経路を通じて人の健康に影響を及ぼすおそれがあること、多数の化学物質について科学的に確実な裏付けを持った維持すべき環境保全上の目標を定量的に設定するためには膨大な経費と時間を要することなどから、これまでの対策に加えた、新しい対策の枠組みが必要となっています。
 化学物質による環境を保全する上での支障を総合的、効果的に低減、管理するための方策として、PRTRへの取組が国際的に進んでいます。PRTRは、1992年の地球サミットで採択されたアジェンダ21やリオ宣言で導入が推奨されました。


 PRTR:Pollutant Release and Transfer Registerの略称で、環境を汚染する可能性を持つ化学物質がどのような発生源からどの程度環境中に排出されているか、また廃棄物になっているかというデータをまとめたもの。


 我が国では、環境庁がPRTRの導入について検討を行い、現在178の化学物質を対象としたパイロット事業を実施しています。産業界でも通商産業省の支援の下、PRTRに関する取組を実施しています。
 また、化学物質管理に必要な情報を化学物質の供給者から取扱事業者に提供することで、その管理を促進する手法として、MSDSの重要性が指摘されています。MSDS(Material Safety Data Sheet)とは、化学物質ごとに有害性をはじめとする物質性状やその安全な取扱方法等を記載した、化学物質安全性データシートのことをいいます。
 政府は、これらの検討結果や審議会の答申等を踏まえ、PRTRとMSDSの制度化を主な内容とする「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」を平成11年3月16日に閣議決定し、国会に提出しました。

特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案

★化学物質の排出量等の届出制度の仕組み(PRTR)
★化学物質の排出量等の届出制度の仕組み(PRTR)
(注)PRTRとは、Pollutant Release and Transfer Register の略。

★化学物質安全性データシートの交付の仕組み(MSDS)《典型的な流れ》
★化学物質安全性データシートの交付の仕組み(MSDS)《典型的な流れ》
 (注)MSDSとは、Material Safety Data Sheetの略。
(資料)環境庁


3 環境に配慮した生活行動に向けて



生活行動における環境配慮の分類

(1)(環境リスクに対する)回避行動
 (例) 環境リスクの高い製品は購入しない
(2)環境負荷抑制行動
 (例) 省エネ、省資源に関する生活行動
(3)環境保全目的行動
 (例) リサイクル、環境保全団体への寄付
〔なお、環境負荷抑制行動と環境保全目的行動を合わせて「環境保全行動」と言う〕
(生活行動において環境配慮を欠くケース)
(1) 情報等が限られるため、冷静な環境リスクに対する回避行動がとれない。
(2) 環境負荷を削減するインセンティブを欠くため、環境保全行動につながらない。

環境に配慮した生活行動の類型
環境に配慮した生活行動の類型
(資料)環境庁


リスク・コミュニケーションを通じた回避行動の必要性

 今日の化学物質による環境汚染問題については、長期にわたる微量の化学物質の曝露による健康や生態系への影響の問題が中心となっています。これらによる影響を未然に防止するには、環境リスクの考え方で問題をとらえた上で、有害な物質を個別に規制していくだけでなく、化学物質によるリスク全体を効率的に減らしていく取組が必要です。
 また、環境リスクを効率的に低減していくには、国民、事業者、行政などの間の適切なリスク・コミュニケーションが必要です。

 環境リスク:人の活動による環境への負荷が環境中を通じ、人や生態系に有害な影響を及ぼす可能性を示す概念。
      (影響の大きさ)×(発生の不確かさ)で評価



双方向的なリスク・コミュニケーションのイメージ
双方向的なリスク・コミュニケーションのイメージ
(資料)環境庁


地球環境問題に対する国民の意識と行動の様子
地球環境問題に対する国民の意識と行動の様子
(資料)環境庁



環境保全における意識と行動のギャップの解決


(1) 環境意識と行動のギャップ
 右図から分かるとおり、生活者の多くが、地球環境問題に対する危機感を持っているものの、具体的な行動は自らの利益を損なわない程度で行いたいという考えが読みとれます。こうした自らの便益を最大化する行動パターンは、社会全体、更には生活者自身の便益を失わせる可能性があります。

(2) ギャップを埋めるための解決方策
 意識と行動のギャップを埋めるためには、生活者の努力に期待するだけではなく、社会システムを変え、生活者に対し環境に配慮した生活行動を実践しようとするインセンティブを与えることが必要です。
1)解決方策その1〜生活者が置かれている「社会的条件」の変更
 特に地球温暖化対策のうち、生活者との関わりの深い二酸化炭素排出抑制対策を中心に考えると、以下の対策が考えられます。
●「地球温暖化対策の推進に関する法律」や「エネルギーの使用の合理化に関する法律」等を適切に組み合わせることにより、総合的な地球温暖化対策の枠組みが構築されることが期待されています。また併せて、技術開発や排出抑制を誘導するような経済的措置の活用も重要です。
●サマータイム(夏時間)制度の導入は、地球環境にやさしい生活様式への転換を図る契機となる可能性があります。
●都市部における自動車の排気ガスによる大気汚染対策として、公共交通機関への需要の誘導、円滑な自動車走行の確保といった自動車交通需要を調整する施策が有効です。
2)解決方策その2〜社会的条件に対する生活者の「認識」の深化
●学校、地域社会や家庭など多様な場において、体験的な学習・活動を重視しつつ環境教育・環境学習が総合的に推進されることが必要です。このためには、プログラム等の体系化、人材の育成、情報提供体制や拠点の構築・整備が必要です。
●環境ラベルの活用により、「環境への負荷」等をわかりやすく表示したり、グリーン購入を通じて、環境負荷の少ない製品等の市場の成長を促すことが有効です。
3)解決方策その3〜環境重視の「価値観」や「行動規準」の生活者への定着
 生活者を中心とした「生活の質」を重視した経済社会への転換が進むに伴い、自らの健康やそれを支える環境に対する価値に重きを置く行動規準(「環境合理性」)が生活者に定着することが望まれます。こうした考え方のベースとして、グリーンGDP等新しい指標の開発が行政、NGO等により積極的に進められています。

地球温暖化対策推進法の構造
地球温暖化対策推進法の構造
 (資料)環境庁


環境に配慮した生活行動に向けて

 環境問題とその対策の流れを「フィードバック機能」に例えるならば、現在はフィードバック機能が有効に働いていないと言えます。このため、この機能の中枢を担う行政が生活行動に起因する環境問題を把握するとともに、それに見合ったレベルの対策が講じられているのかを常にチェックし改善を施すことが必要です。

国民生活におけるフィードバックの仕組み
国民生活におけるフィードバックの仕組み
 (注)太線、波線は国民生活におけるフィードバック機能に関係する流れを、点線は環境負荷を示す。
 (資料)環境庁




第3章 途上国のかかえる環境問題にどう関わるべきか


 環境問題はこの四半世紀のうちに地球規模の広がりを見せ国際的な注目を集めるようになってきました。持続可能な発展のためには我が国も取り組むべき課題は多く、同時に地球規模の環境問題を考える場合、途上国が持続可能な発展を続けていくことも重要です。

1 地球的視野から見た途上国の環境問題



環境問題をめぐる国際的議論の推移

 人間活動に起因する環境問題、とりわけ地球規模の広がりを見せるものに対処していくには、すべての国が共通の目標に向かって努力をしていかなければなりません。しかし、国際的合意の形成は必ずしも容易なものではなく、特に先進国と途上国の環境問題に関する立場の違いが障害となってきました。

(1) 国連人間環境会議(1972年)
 国連人間環境会議は、1972年6月5日からスウェーデンのストックホルムで開催されました。当時の社会的背景には、先進工業国の急速な経済発展に伴う環境負荷の急速な増加、開発途上国の貧困等が問題となっていました。南北の問題についてこの会議では、開発が環境汚染や自然破壊を引き起こすことを強調する先進国と、未開発・貧困等が最も重要な人間環境の問題であると主張する開発途上国とが鋭く対立しました。

(2) ナイロビ会議(1982年)
 ナイロビ会議(UNEP管理理事会特別会合)は、1982年5月にケニヤのナイロビで開催されました。会議で採択されたナイロビ宣言では、「環境、開発、人口、資源の間の密接かつ複雑な相互関係等を重視した総合的で、かつ、地域毎に統一された方策に従うことは、環境的に健全であり、持続的な社会経済の発展を実現させる」また、「環境に対する脅威は、浪費的な消費形態のほか貧困によっても増大する」と述べています。このようにして先進国と開発途上国との環境と開発をめぐる議論について共通の土俵ができました。

(3) 国連環境開発会議(1992年)
 国連環境開発会議(地球サミット、UNCED)は、1992年6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催されました。この会合では「環境と開発に関するリオ宣言」が、全世界的なパートナーシップを構築し持続可能な開発を実現するための行動原則、環境と開発をめぐって先進国と開発途上国の間で交わされた議論の到達点を集約したものとして採択されています。それまでの対立の論点には、1)環境問題の責任論、2)開発の権利の問題、3)資金、技術移転の問題等がありました。

(4) 国連環境開発特別総会(1997年)
 国連環境開発特別総会は、1997年ニューヨークで開催されました。日本はこの場で、政府開発援助の「1992年度からの5年間で1兆円を目途として拡充する」という目標を4割以上の超過をもって達成したことを報告し、我が国の環境協力政策を包括的に取りまとめた「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD構想)」の推進を宣言しました。
 しかし、具体的な環境問題への対策に関しては、1997年に開催された京都会議(GOP3)、1998年に開催されたブエノスアイレス会議(COP4)においても、相変わらず先進国と開発途上国の姿勢の違いが温暖化問題の取組の障害となっています。
 このように南北間の議論は前進していますが、数多くの問題は残っており、一歩ずつお互いの立場を理解し協力して取り組むようになることが必要です。


アジア太平洋地域の環境に関する将来予測

 それでは開発途上国の環境問題は今後どのようになると見込まれているのか、予測を紹介します。
 アジア太平洋地域の人口は既に世界の半分以上を占め、今後も増加は続くと予測されています。国別には、中国が現在のシェアを維持する一方で、インド、パキスタン、バングラデシュの人口増加が顕著と見込まれています。人口増加は経済成長ともあいまって、エネルギー消費の増大を導きます。この結果、二酸化硫黄等の大気汚染物質や二酸化炭素等の温室効果ガスが、大気中に大量に放出されることになると予測されています。
 人口増加と経済活動の拡大は土地利用にも影響し、農地増加に伴う森林の減少は、ボルネオ島やインドシナ半島の北部で著しいと予想されています。このような変化は、生物多様性の減少、温室効果ガスの排出につながり、自然災害の危険が増すおそれもあります。
 また、途上国の環境問題を論ずるに際し、環境衛生問題への配慮も欠かせません。健康のリスクは社会基盤の整備に伴って、伝染性の疾病等からいわゆる現代の病気へ移行します。しかし・途上国では衛生問題の解決を見ないまま大気汚染や水質汚濁等の公害が発生しています。また、土壌劣化、森林減少等の自然環境破壊の影響は貧困の増大につながっています。こうした現状が衛生問題への対処をますます後手にまわすこともあり、悪循環から抜け出せずにいるという現状があります。

二酸化炭素排出量予測
二酸化炭素排出量予測
 (出典)AIMモデル


化石燃料の消費に伴う各ガスの排出量(1990年との相対比較)
化石燃料の消費に伴う各ガスの排出量(1990年との相対比較)
 (出典)AIMモデル


先進国と途上国の死亡原因の割合
先進国と途上国の死亡原因の割合
 (出典)WHO(1995)


 このようにアジア太平洋地域の環境問題の予測結果は厳しいものです。そのため、解決に向けて我が国も真摯に取り組む必要があります。

2 途上国における環境問題等の現状とその対策



アジア太平洋地域の環境問題の多様性

 アジア太平洋地域は、極めて多様な環境を有します。北部の草原地帯から南部の熱帯林や田園、さらには中国の砂漠等々、両極の極寒を除き地球上に存在する環境は、ほぼ全部この地域にそろっています。これらの地域が抱える環境問題は、土壌の劣化や森林破壊から産業公害や都市環境問題、廃棄物の問題まで、実に多岐にわたります。とりわけ森林破壊は多くの国で深刻な問題とされています。
 一方、アジア太平洋地域の途上国は、人口増大や工業化の進展が急速であるため、発展段階に応じて発生するこれらの環境問題が短期集中的に発生し、同時並行的に対処することを迫られていると言えます。また、人口増大や経済活動の拡大は、森林や海洋等の自然環境劣化の問題にもつながっており、環境問題への取組を一層困難なものにしています。

地域毎の環境問題の相対的重要性
地域毎の環境問題の相対的重要性
(資料)Global Environment Outlook,UNEPより環境庁作成

アジア太平洋地域の環境問題の現状

 土壌は食料生産を始めとして、人間や動物の生存に必要なものを提供する重要な天然資源です。土壌は再生能力を持つため適切に利用されていれば持続的にその恩恵を享受できますが、現状は人間活動に伴う影響や負荷が土壌の回復能力を超えており劣化が進行しています。
 森林は、文化、経済などと深い関わりを持っています。アジア太平洋地域の森林は、世界最大規模のマングローブ林を始め、熱帯降雨林、熱帯季節林、温帯林などを擁しています。しかし、この地域の森林減少は世界で最も速く、中でも東南アジア地域の島●〈しょ〉部において急激な森林減少が見られます。

アジア太平洋地域における土壌劣化の原因
アジア太平洋地域における土壌劣化の原因
 (資料)Oldman(1990)より環境庁作成


年森林伐採面積(1990−95)
年森林伐採面積(1990−95)
 (資料)世界森林白書(1997)より環境庁作成


 淡水の存在は、地理、気候などの地域性に大きく依存します。中央アジアでは降水量が少なく蒸発が多いため、利用可能な水資源はそれ程多くありません。バングラデシュは年間の降雨量は十分ですが、降雨はモンスーン期に集中し、他の時期の雨量は不足しています。
 アジア地域は比較的降水が多いのですが、降水が雨期に集中すること等の事情のため、利用可能な水資源はごく一部となっています。
 アジア地域では都市の急激な発展に伴って、産業活動や交通システムから大量の大気汚染物質が放出されています。品質の悪い燃料や自動車の使用により、二酸化硫黄、窒素酸化物、ばいじん等による大気汚染が進行しています。特にアジア地域の大都市ではいくつもの項目でWHOの基準を超えており汚染が著しくなっています。
 アジア太平洋地域の沿岸地域では、豊富な海洋資源や地理的な利便性のため大都市が形成されてきました。人口の集中は家庭、産業、農業等の排水による汚染を進行させています。都市部においても、スラム街や不法占拠地に居住する貧困層の大部分は、不十分な水供給、衛生問題、廃棄物問題に苦しんでいます。南アジアの都市部ではこうした貧困層の割合が世界で一番高いという報告もあります。不法占拠に対しては、行政側も衛生改善等のサービスを提供しにくいため、改善が困難なのが現状です。
 また、この地域は、砂漠、草原、森林、湿地帯、山脈、海洋といったあらゆる生態系を含むため、生物多様性は比較的豊富です。しかし、生息域の消失等のため、生物多様性の減少が急速に進んでいます。

一人当たり淡水量
一人当たり淡水量
 (資料)Global Environment Outlook,UNEPより環境庁作成


海洋汚染の原因
海洋汚染の原因
 (出典)Weber(1993)


都市人口におけるスラム街及び不法占拠地区居住者の割合
都市人口におけるスラム街及び不法占拠地区居住者の割合
 (出展)ESCAP(1993)The State of Urbanization in Asia and the Pacific 1993. UN, New York



日本とアジア地域との関わり

 我が国は、大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会活動の基盤を海外からの資源・エネルギー等の輸入に依存しており、特にアジア地域と深くかかわっています。
 枯渇性資源(原油、鉄鉱石等)や再生可能な資源の採取に伴って環境への負荷が懸念されています。例えば、木材供給についてみれば、約8割を外材に依存しており、食料自給率についても供給熱自給率で41%まで下がるなど海外との貿易に大きく依存しています。
 タイでは長年の連作障害によりエビの養殖池に白斑病などの病気が発生したことに加え、近隣地域の追い上げにより、対日輸出は減少傾向にあります。また、その他地域でもマングローブ林の開墾による生態系への影響など、森林資源や水産資源などの大量の輸入消費により、これらを生産する途上国の人々の生活や生態系そのものへ影響を及ぼしていることに注意が必要となっています。

我が国の食料品の輸入状況及びアジアとの関係
我が国の食料品の輸入状況及びアジアとの関係
 (資料)通商産業省「平成10年版通商白書」より環境庁作成


タイからのエビ輸入状況
タイからのエビ輸入状況


日本、アメリカ、ドイツの地域別輸出入構造(1995)
日本、アメリカ、ドイツの地域別輸出入構造(1995)
 (資料)OECD, Monthly Statistics of Foreign Tradeより環境庁作成



アジア地域の環境対策の現状

 アジア地域の国々においては、生活の基盤である環境が破壊されていくのを、何とかくい止めようと地道な努力が重ねられてきました。基本的な枠組みとして、環境保全を位置づける憲法や個別法等の整備とそれを支える組織が整備されています。これは、環境問題に対する基本姿勢が、対立から調和へ、そして持続可能な開発へと推移していることを表していると言えるでしょう。また、環境に関する計画の策定が行われ、アジェンダ21や、環境管理計画制度が国際機関の支援などの下策定されています。しかし、依然解決が困難な環境問題を抱えているため、環境対策の実効性を高めることが、途上国政府に求められる課題です。また、排出賦課金やごみ・森林のデポジット制度の導入など、先進諸国における経済的手法などの環境政策を先例として先進的な施策を導入しているケースもあります。アジア地域でも森を救う新しい方法として森認証制度FSC(森林版エコラベル)の動きもあり、認証を受けた森林もあります。今後とも規制的手法や経済的手法と両方の施策を効果的に組み合わせて的確に政策として活用していくことが必要です。その他、多くの国で環境アセスメント制度を整備しています。自然保護に係る施策として、自然保護区の設定、森林計画の策定による保全と利用の推進、森林利用許可制度の導入、湿地リストづくりなどの取組を実施しています。


アフリカ・中南米地域の環境の現状等

 アフリカ地域は、貧困・人口・環境のトリレンマの問題構造の悪循環があります。貧困の脱出に向けた取組が中心ですが、砂漠化の防止に向けた取組などを実施しています。
 また、中南米地域では、アマゾン地域の生物多様性の喪失など様々な問題を抱えています。ブラジルでは、アマゾン地域への配慮について憲法で明確にするなど様々な取組を行っています。

アカハラレミュー
アカハラレミュー

モザンビーク海峡
モザンビーク海峡

3 途上国の持続可能な発展に果たす我が国の役割



我が国の環境協力等の現状

 我が国の途上国への国際協力は、途上国の自立的な取組を促進するという観点から要請に基づいて行われています。しかし、環境対策に対する途上国の要請の優先度は必ずしも高くありません。一方で、近年の援助の考え方は、「要請主義」から「共同形成主義」ともいえる新たな考え方にシフトしつつあります。これは、途上国の自助努力を尊重しつつ、援助国側も自らの援助方針を示し、共同して援助計画を策定し、適切な案件を探っていくというものです。こうした考え方に基づき、政府は、政策対話、政府開発援助や関連機関を活用した環境協力に取り組んでいます。具体的には、無償・有償の資金協力のほか、専門家の派遣、研修員の受け入れ、地域の公害対策計画づくり等のための開発調査などの技術協力等を行っています。

環境分野における我が国の経済協力(形態別実績)
環境分野における我が国の経済協力(形態別実績)
 (注)1.無償資金協力、有償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベース。
   マルチは国際機関に対する拠出金等で予算ベース。
   2.合計欄以外の( )内は各形態毎のODA合計に対する割合(%)。
   但し、無償資金協力にあっては、一般無償資金協力総計に占める割合(除、債務救済、ノンプロ無償(経済構造改善努力支援無償)、草の根無償)。有償資金協力にあっては、プロジェクト借款、ノンプロジェクト借款(商品借款、構造調整融資等)の合計額(除、債務救済)に占める割合。
   3.合計欄の( )内は、上記各形態毎を積算したODA全体に占める割合。


 また、地方公共団体、事業者、NGO等も途上国に対して様々な環境協力に取り組んでいます。
 地方公共団体は、四日市市や北九州市等、自らの公害経験を活かして公害対策を中心とした環境協力を進めています。また、大阪府や滋賀県のようにUNEPの施設を誘致し人材育成の拠点とする等、国際的なイニシアティブを発揮する積極的な取組も見られます。
 事業者による途上国の環境保全に関する取組としては、1)非営利的活動として、社会的貢献として行われる環境協力のほか、2)途上国内での事業活動における環境配慮を通じた、環境保全のための技術移転・環境教育・意識啓発、3)環境保全のための事業活動として、エコビジネス(環境関連産業)の技術移転があげられます。また、4)環境ODAの案件の発掘や実施においても民間事業者が大きな担い手となっています。
 NGOの環境協力に関する活動形態は様々な分野にわたり、各種の調査・分析、技術移転、情報の普及・啓発のほか、植林や砂漠化防止のように環境の回復そのものを活動内容とするものもあります。NGOの活動は、近年は高度に専門化された分野においても活発な取組が見られ、今後の一層の活躍が期待されています。こうした国民参加型の援助を支援する制度として、我が国には「NGO事業補助金」や「草の根無償資金協力」等の制度があり、その取扱いは年々増加しています。


今後の効果的な環境協力の実現に向けて

 これまでの環境協力の取組から、今後一層の効果を上げていくための方向性として、持続可能な開発を達成するための開発援助、貧困対策と環境対策の連携、環境保全施策の施行力の向上支援、様々な主体の連携等があげられます。
 国の役割としては、インフラの整備に加えて、我が国と相手国双方の人材の養成等ソフト面での環境協力や、他の主体も参加しやすい援助の仕組みづくり等が求められます。地方公共団体としては、地域の実情に適合した環境保全のノウハウを役立てることが有効です。また、事業者としては、地球温暖化問題のための、CDM等の枠組みを活用しつつ技術面での協力が期待されています。さらにNGOは、途上国の地域社会に密着し他の主体では難しいきめ細かな対応が期待されます。
 地球規模で環境問題が意識されるようになってから、途上国と先進国の間では環境問題への取組に関して様々な対立がありました。1990年代に入り、持続可能な開発というキーワードにより全体として一致点が見えてきていますが、温暖化問題など個別の課題で具体的な取組になるとやはり対立が鮮明となります。
 途上国側の反発の第1の理由は、環境対策が自国の発展を阻害するものではないかという懸念です。我が国を含む先進国は、環境対策は持続可能な開発の実現という視点から行われることを改めて明確化して、途上国の貧困の解消や発展を抑制するものではなく、むしろ望ましい経済社会を構築するものであることを具体的な環境協力によって示し、理解を求めるべきでしょう。
 途上国の反発の第2の理由は、先進国側の環境負荷にあります。先進国自身の大量生産、大量消費、大量廃棄による環境負荷は依然として大きく、持続可能な経済社会とは大きな隔たりがあります。我が国も国内的取組を一層進める必要があります。
 また、先進国の途上国に対する貿易や投融資による途上国の経済社会に与える影響は大きく、これらを通じた環境への影響も大きいと考えられます。今後これらについても、途上国の持続可能な開発の観点から検討され、必要な取組がなされるべきです。
 こうした途上国への働きかけや先進国内での取組は、先進国政府のみで実現できるものではなく、先進国や途上国の中央政府、地方公共団体、民間事業者、NGO、消費者等並びに、国際機関や団体が協力して取り組むことが大切です。このような、様々な主体がそれぞれの特徴と役割を発揮し、また、相互に連携するという、複線的パートナーシップの構築が、21世紀の持続可能な開発の実現に向けて重要であるといえます。

草の根無償資金協力予算額の推移
草の根無償資金協力予算額の推移




第4章 環境の現状


 環境問題の多くは、私たちの通常の社会経済活動による環境への負荷に起因し、その影響は、地球環境や将来の世代まで及ぶ状況となりつつあります。こうした状況は、地球の温暖化、都市の大気汚染、水質汚濁、廃棄物の増大等の問題となって現れています。


地球温暖化

 地球温暖化の問題とは、人為的影響により温室効果ガスの濃度が上昇し、地表の温度が上昇する結果、気候、生態系等に大きな影響を及ぼすものです。温室効果ガスの温暖化への寄与度は、CO2が64%を占め、CO2の発生源対策が急務となっています。温暖化の兆候は、平均気温の上昇、海面水位の上昇という形で現れており、今後も、気象、生態系等に様々な影響を及ぼすおそれがあります。

世界の年平均地上気温の平年差の経年変化(1880年〜1998年)
世界の年平均地上気温の平年差の経年変化(1880年〜1998年)
 (注)棒グラフは、各年の値。青い線は各年の値の5年移動平均を、赤い線は長期傾向を示す。
 (資料)気象庁


オゾン層の破壊

 オゾン層破壊の問題とは、CFC(クロロフルオロカーボン)等が成層圏で分解されて生じる塩素原子等によりオゾン層が破壊され、有害な紫外線の地上への到達量が増加し、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすものです。南極上空では、毎年南極の春にあたる時期に成層圏のオゾン層が著しく少なくなる「オゾンホール」と呼ばれる現象が起きています。1998年は過去最大のオゾンホールが確認されました。しかし、南極ではCFC等の大気中濃度の増加率は低下し始めており、CFC等に由来する対流圏中の塩素等の濃度は1995年に減少に転じたことが確認されています。


酸性雨

 酸性雨は、硫黄酸化物や窒素酸化物等の大気汚染物質を取り込んで生じる酸性度の高い雨や雪及び粒子状・ガス状の酸のことです。酸性雨のために、湖沼、河川等が酸性化し、水資源開発・利用等や魚類等に影響を与えたり、土壌が酸性化し森林に影響を与えたり、文化財への沈着がその崩壊を招くことが懸念されています。第3次酸性雨対策調査のとりまとめによれば、我が国でも、森林や湖沼等の被害が報告されている欧米並の酸性雨が観測されており、酸性雨が今後も降り続けば将来影響が現れる可能性もあります。

降水中のpH分布図
降水中のpH分布図
−:未測定
*:無効データ(年判定基準で棄却されたもの)
 注1) 第2次調査5年間の平均値(欠測、年判定基準で棄却された年平均値は計算から除く)。
   2)東京は第2次調査と第3次調査では測定所位置が異なる。
   3)倉橋島は平成5年度と平成6年度以降では測定所位置が異なる。
   4)札幌、新津、箆岳、筑波は平成5年度と平成6年度以後では測定頻度が異なる。
   5)冬季閉鎖地点(尾瀬、日光、赤城)のデータは除く。
 資料:環境庁


窒素酸化物等大気汚染物質による汚染

 我が国の大気汚染は、二酸化硫黄、一酸化窒素については近年は良好な状況ですが、二酸化窒素、浮遊粒子状物質については大都市地域を中心に環境基準の達成状況は低水準で推移しています。また、ダイオキシン類のように意図せずに生成され大気中に排出される有害化学物質については、平成8年に改正された大気汚染防止法に基づき対策が進められています。

二酸化窒素濃度の年平均値の推移
二酸化窒素濃度の年平均値の推移
(資料)環境庁


騒音・振動・悪臭・ヒートアイランド・光害等の生活環境に係る問題

 騒音・振動・悪臭は、主に人の感覚に関わる問題であるため、生活環境を保全する上での重要な課題となっています。それぞれの苦情件数は全体的に年々減少傾向にあるものの、各種公害苦情件数の中では大きな比重を占めており、発生源も多様化しています。騒音に対する苦情は、特に工場・事業場に関するものが多く大きな割合を占めています。悪臭については、サービス業や個人住宅等の割合が増加傾向にあります。
 この他に、首都圏などの大都市では、地面の大部分がアスファルト等に覆われているため水分の蒸発による温度の低下がなく、夜間に気温が下がらない「ヒートアイランド」と呼ばれる現象や、必要以上の照明により、夜間星が見えにくくなったり生態系への影響が懸念される「光害(ひかりがい)」と呼ばれる現象が起きています。

典型7公害の種類別苦情件数の推移
典型7公害の種類別苦情件数の推移
(注)地盤沈下の苦情件数は表示が困難なため省略した。
(資料)公害等調整委員会


水質汚濁

 水質汚濁に係る環境基準の達成率は、河川については渇水の影響で低下した平成6年から引き続き改善しつつあります。しかし、湖沼・内湾などの閉鎖性水域では依然として達成率は低い状況です。海域については平成9年度は河口付近海域の水質の低下や局所的な赤潮の発生等もあり、前年度と比べて低下しました。
 我が国の水質汚濁は、工場、事業場排水に関しては、排水規制の強化等の措置がとられています。一方生活排水も環境への大きな負荷になっており、住民の意識啓発や実践活動の推進が重要となっています。

環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
(資料)環境庁


海洋環境

 海洋は陸上の汚染が最終的に行き着く場所となることが多く、汚染が世界的に確認されています。平成10年に海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は697件で、前年に比べ16件の減少でした。このうち油による汚染は388件と高い比率を占めています。油以外のもの(廃棄物、有害液体物質、工場排水等)による汚染は283件、赤潮は26件でした。


土壌汚染・地盤沈下

 土壌の汚染には、汚染状態が長期にわたる、人の健康に間接的に影響する、一般に局所的で現地ごとに多様な態様を持つ、という特徴があります。農用地の汚染については、汚染の検出面積7,140haに対して対策事業の完了面積は5,570haでした(平成10年10月末)。市街地土壌の汚染については、近年、工場跡地や研究機関跡地の再開発等に伴い、有害物質の不適切な取扱い、汚染物質の漏洩等による汚染の事例が増えています。
 地盤沈下は、地下水取水制限等により長期的には沈静化に向かっています。平成9年度の年間4cm以上の地盤沈下地域の面積は、昭和43年以降初めてゼロになりました。ただし一部では依然として沈下が続いています。

市街地土壌汚染の年度別判明事例数
市街地土壌汚染の年度別判明事例数
 (資料)環境庁
 (注1)調査の対象は昭和50年度(1975年)以降であるが、それ以前に判明し、報告があった事例については、平成8年度調査と同様、対象とした。
 (注2)「調査事例」
   本調査で対象とした全ての事例のうち、溶出基準項目又はその他物質の土壌中の濃度について、何らかの測定を行った事例。(土壌環境基準設定以前のもの、調査を行ったが環境基準に適合しているもの、含有量について測定したもの、簡易調査法により測定したものを含む。)
 (注3)「超過事例」
   調査事例のうち、土壌環境基準が設定された後に、公定法による測定の結果、土壌環境基準に適合しないことが判明した事例。(平成6年の土壌環境基準の改正により追加された物質については、同改正以降に基準に適合しないことが判明したもの。)


廃棄物

 ごみの排出量の削減やごみの再使用・再資源化は緊急の課題となっています。平成8年度の我が国の一般廃棄物の総排出量(推計値)は、5,110万t(国民1人1日当たり1,110g)、産業廃棄物の総排出量は約4億500万tであり、横這いの状況が続いています。リサイクルの現状については、市町村による資源化と集団回収を合わせたリサイクル率は、上昇傾向にあるものの、平成8年度は10.7%と依然低い水準にあります。

一般廃棄物排出量の推移
一般廃棄物排出量の推移
 (資料)厚生省



自然環境

 我が国は国土の92.5%が自然植生や植林地など何らかの植生で覆われており、森林は国土の67.1%を占めています。これは海外と比較しても高い水準です。自然植生は国土の19.1%であり、このうちの58.8%が北海道に分布しています。近畿、中国、四国、九州地方では、小面積の分布域が山地の上部や半島部、離島等に存在しているに過ぎません。
 また、湖沼、河川、海岸等についての自然状況の調査では、いずれも人工化の進行が明らかになりました。

地方別に見る植生自然度の構成比
地方別に見る植生自然度の構成比
 (出展)第4回自然環境保全基礎調査「植生調査」



海外の自然環境

 森林は世界の陸地の約4分の1を占め、CO2の吸収、生物多様性の保全等に重要な役割を果たしています。近年の熱帯林の急速な減少により、森林資源の枯渇だけでなく、生息する生物種が減少することも懸念されています。また、森林減少による大量のCO2の放出が地球温暖化を加速させるおそれもあります。
 また、国連環境計画(UNEP)によると、世界の陸地の40%近くを占める61億ha以上の乾燥地で、世界の約5分め1の人々が生活しています。そのうち9億haがいわゆる砂漠で、残りの52億haの一部でも人間の活動による砂漠化が進行しています。


日本の野生生物種
 我が国には、気候的、地理的、地形的条件により亜熱帯から亜寒帯まで広がる多様な生態系が存在します。種の数は、熱帯林を擁する国々と比べると少ないのですが、先進国、特にヨーロッパ各国と比べると豊かな水準です。しかし、開発による自然環境の改変や都市化、希少な動植物の乱獲・密猟・盗掘等により、多くの種が存続を脅かされるに至っています。我が国は、緊急に保護を要する動植物の種の選定調査を実施し、「日本の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータブック)」を発行していますが、これによると我が国に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の2割強、爬虫類、維管束植物の2割弱、鳥類の1割強の種が存続を脅かされています。

我が国で確認されている動植物及び菌類の種数並びに絶滅のおそれのある種の現状
我が国で確認されている動植物及び菌類の種数並びに絶滅のおそれのある種の現状
絶滅:我が国では既に絶滅したと考えられる種
野生絶滅:飼育・栽培下でのみ存続している種
絶滅危惧I類・絶滅危惧種:絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧II類・危急種:絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧・希少種:存続基盤が脆弱な種
*絶滅のおそれのある種の現状については、分類群毎に定期的見直しを行っているため、平成9年度以降に見直しを行った分類群についてのみ、平成8年度に改訂された新カテゴリーに基づいている。
(1) 動物の種類(亜種等を含む)は「日本産野生生物目録(1993・1995環境庁編)」等による。
(2) 維管束植物の種類(亜種等を含む)は植物分類学会の集計による。
(3) 蘚苔類、藻類、地衣類、菌類の種類(亜種等を含む)は環境庁調査による。
(4) 絶滅のおそれのある種(亜種等を含む)の現状は、新カテゴリーに基づくものについては環境庁
   (1997.1998.1999)に、旧カテゴリー基づくものについては「日本の絶滅のおそれのある野生生物・無脊椎動物編(1991 環境庁編)」による。


生物多様性の保全

 今日の種の絶滅は、自然のプロセスではなく人間の活動が原因であり、地球の歴史始まって以来の速さで進行しています。このため種の絶滅は地球環境問題の一つとして捉えられ、「ワシントン条約」「ラムサール条約」等により国際的な取組が行われています。また、地球上の生物の多様性を包括的に保全するための国際条約として「生物の多様性に関する条約」が締結されています。これを受けて我が国は生物多様性国家戦略を策定しました。この中では、生物多様性の現状を把握し、生物多様性の保全と持続可能な利用のための長期的目標を定めています。


自然とのふれあい

 近年、都市の身近な自然の減少や国民の環境に対する意識の向上等に伴い、人と環境との絆を深める自然とのふれあいへのニーズが高まっています。自然公園を訪れる人々の数(利用者数)は、平成9年は9億5,946万人でした。

檜原湖と磐梯山(磐梯朝日国立公園)
檜原湖と磐梯山(磐梯朝日国立公園)

むすび


 今年の環境白書では、産業部門、国民生活さらに国際社会へとそれぞれ視野を変えて、環境を保全する上での重要な課題を堀り下げました。

 序章「20世紀の環境問題から得た教訓は何か」では、我が国における環境問題の移り変わりとこれまでの対策の歴史を振り返り、「20世紀の教訓」を読みとりました。

 第1章「経済社会の中に環境保全をどう組み込んでいくのか」では、産業活動に焦点を当て、環境保全と融合した地域経済のあり方について考察し、環境保全型の経済社会の将来像を明らかにしました。

 第2章「環境に配慮した生活行動をどう進めていくのか」では、私たちの生活様式と環境への負荷の関わりを考察し、化学物質による環境問題を論じ、環境意識と生活行動とのギャップを埋めるための解決方策を提案しました。

 第3章「途上国のかかえる環境問題にどう関わるべきか」では、途上国の環境問題の地球規模での重要性を論じ、アジア諸国を中心に、我が国の環境協力の現状を考察、今後のあり方を各主体の役割から論じました。

 我が国の経済社会は、食料や資源・エネルギーの多くを諸外国からの輸入に頼っており、将来にわたって持続していくためには弱い基盤に立っています。このため、限られた食料や資源・エネルギーの輸入量と国内調達量から最大限の効用を引き出す創意工夫を重ねなければなりません。同時に、 他国のニーズも満たす付加価値を生み出せるような、地球的視野で見ても、資源の効率的な利用を最大限に高め、環境への負荷を最小限に押さえた経済社会のあり方を求めなければなりません。これが、世界に誇るべき美しい自然環境と豊かな文化を大切にするという意味も含め、我が国が「環境立国」に向かう道です。

 我が国にとって、21世紀は、「環境立国」として国際的な地位を固め、地球全体が持続的に発展していくための役割を果たしていくための極めて重要な世紀です。