図で見る環境白書 昭和63年


 地球環境の保全に向けてのわが国の貢献

  1 地球環境問題とわが国の貢献

   (1)地球環境問題の動向

    地球的規模の環境問題の動向

    国境を越える環境問題の動向

    開発途上国の公害問題

   (2)地球環境問題の背景

    世界的な経済社会活動の拡大と環境負荷の増大

    開発途上国の貧困と環境問題

   (3)環境問題に関する国際社会での認識の高まりと国際的環境協力の進展

    国際社会における環境についての認識の高まり

    地球環境保全への国際的取組の進展

   (4)地球環境とわが国のかかわり

    わが国の活動と地球環境とのかかわり

    わが国の国際的環境協力への取組の現状

   (5)地球環境保全へのわが国の貢献

    基本的な考え方

    世界への積極的な貢献の方向

  2 環境の現状と保全のための対策

    大気の汚染と現状と対策

    水質の汚濁

    その他の公害の現状と対策

    自然環境の現状

  3 新たな視点に立った環境政策の展開

    新たな汚染の可能性への対応

    生態系の保全

    環境資源の管理

 用語解説





この本を読まれる方に


財団法人 日本環境協会
会長 和達清夫

 今日、地球上に住む50億人を超える人々の活動によってもたらされる環境への影響は、限られた国や地域だけでなく、地球全体にまでおよぶようになりました。
 この地球環境問題は、わが国をはじめとする先進国の物質的に豊かな消費生活に起因するものが多く、私たちの日々の生活に深いかかわりがあります。しかし、この問題は国内問題と異なり、私たち自身の身近な問題としてとらえにくいものがありますが、地球環境は将来にわたって引き継いでゆかなければならない「人類共通の資産」であることに思いをいたし、その保全について十分認識する必要があります。
 一方、国内においても環境汚染の未然防止や自然環境の保全、住みよい快適な環境を築いていくことなど、幅広い環境政策を一層推進する必要があるといえましょう。
 そこで、これらのことを考える基礎として、「公害の状況に関する年次報告―環境白書―」の内容を簡潔で理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この本が多くの方に読まれ、また青少年の教材資料として活用されることによって、地球環境問題をはじめ国内環境問題にいたる理解が国民の間に広く浸透し、よりよい環境が生れる基盤が培われることを願っております。
(巻末に用語解説を加えました。ご参照下さい。)








地球環境の保全に向けてのわが国の貢献


 今日、地球上では50億人を超える人々が生活し、人間活動によってもたらされる環境影響は、限られた国や地域にとどまらず、地球レベルにまで影響を及ぼすようになっています。例えば、熱帯林の減少や砂漠化の進行等の地球的規模の環境問題や酸性雨のように国境を越える環境問題等です。
 こうした地球環境問題は、各国の利害が関係する経済、貿易等が背景にあり、持続的開発に向けて各国が協調して行動していくための国際的ルールが必要であります。

マレーシア・サバ州の熱帯林
マレーシア・サバ州の熱帯林

 また、開発途上国で生じている問題に対処するには、国際的協力が不可欠です。経済大国であり、地球環境と大きなかかわりを持つわが国は「世界に貢献する国家」として、地球環境の保全に向けて積極的に取り組む必要があります。
 第一は、フロンガスの排出抑制をはじめとする国際的協調による取組を履行するため、その国際的責任を分担していくとともに、増大している国際活動の際の環境配慮を徹底していくことです。
 第二は、政府開発援助等を通して、開発途上国の持続的開発に向けての環境協力を強化していくことです。
 第三は、地球環境保全に関する科学的知見の集積、技術開発分野における積極的貢献です。
 第四は、政府のみならず非政府機関(NGOs)1)、産業界など多様な主体の活動による環境協力のネットワークの形成を図ることです。
 第五は、国民一人ひとりが地球環境に影響を及ぼす生活そのものを見直す「地球人としてのライフスタイル」を追求し、積極的に行動していくことです。
 地球環境は、将来にわたって永続的に引き継いでいくべき人類の「共有の資産」であること、地球生態系の基本的維持機構は一度破壊されると回復がほとんど不可能であり、我々自身が未知の可能性を閉ざすことにもなりかねない重大な問題であることを十分認識して対応しなければなりません。

小笠原海中公園
小笠原海中公園





1 地球環境問題とわが国の貢献


(1)地球環境問題の動向


地球的規模の環境問題の動向


大気環境

●温室効果

 温室効果2)をもたらすといわれている二酸化炭素、フロンガスなどの対流圏中の量は増大しています。現在の趨勢が続けば、2030年代には地球の平均気温は1.5〜4.5℃上昇し、海面も20〜140センチメートル上昇すると予測され、この結果大規模な気候変動や沿岸地方の都市の浸水等が生じるおそれがあるといわれています。

■大気中の二酸化炭素濃度観測値
■大気中の二酸化炭素濃度観測値

■温室効果の仕組み
■温室効果の仕組み

●成層圏のオゾンの破壊

 成層圏中のオゾン層は太陽から放出される有害な紫外線のほとんどを吸収しています。
 ところが、ある種のフロンガスが大気中に放出されると、成層圏に達し、強い紫外線の作用によりオゾンが破壊されます。成層圏のオゾンが破壊され減少すると、地球に到達する有害な紫外線の量が増えて皮膚ガンの増加、農作物の収穫や品質の低下、水生生物への悪影響などを引き起こす恐れがあるといわれています。

■南極におけるオゾンの変化
■南極におけるオゾンの変化
(備考)1.UNEP「UNEP News March/April 1986」等による。なお、データは米国連邦航空宇宙局(NASA)による。
    2.DUは標準状態で0.01mmの厚さに相当するオゾン量。




成層圏には、オゾンがたくさんあります。そこまで達したフロンは、強い紫外線を浴びて壊れ塩素原子を出します。この塩素原子がオゾン層を破壊します。


海洋生態系

●海洋の汚染

 油による汚染は、そのほとんどがメキシコ湾内、欧州、日本のタンカー航路及び米国と欧州間のタンカー航路に沿ってみられます。油以外でもDDTなどの化学物質が外洋で検出されるなど地球的規模での汚染の広がりが指摘されています。

●湿地などの減少

 多くの生物の産卵地、生息地などとなっている湿地(マングローブ林、泥炭沼など)やサンゴ礁などの海岸・河口生態系の破壊が問題になっています。例えば、熱帯地方の開発途上国で薪炭などのために伐採されたマングローブ林の減少は、著しい漁場の荒廃等を招いています。
 また、バングラディッシュ、タイなどでは、マングローブ林を切り開いてエビの養殖がおこなわれ、これがマングローブ林の減少の一因ともなっています。

■油膜の発見された場所の分布(1980年代前半)
■油膜の発見された場所の分布(1980年代前半)
(備考)ユネスコ国際海洋学委員会による。


マングローブでのエビ養殖
マングローブでのエビ養殖

陸上生態系

●熱帯林の減少

 熱帯林は熱帯地方の人々にとって食糧、肥料、燃料等の供給源となる生活の基礎そのものです。また、全世界の生物種の半分以上が生息しているといわれており、近年、遺伝子資源の貯蔵庫として注目されています。さらに土壌保全、治山・治水、気候の緩和などさまざまな環境調整機能があります。
 国連機関の調査によると全世界の熱帯林は年間1,130万ha(本州の約半分に相当する面積)も減少していると推定されています。
 熱帯林減少の原因は焼畑移動耕作が最大の原因となっていますが、東南アジア島しょ部では商業用の伐採が林地の荒廃、間接的な減少の主な要因であるといわれています。

熱帯林(WWF JAPAN)
熱帯林(WWF JAPAN)

南米アマゾン川流域における熱帯林の変化。
南米アマゾン川流域における熱帯林の変化。
左 昭和48年撮影
熱帯林を示す緑が全体を占めている。縦の線は道路。
右 昭和58年撮影
道路と直角な多くの横線が伐採された裸地。紫色は焼き払われた跡を示している。
(備考)地球観測衛星ランドサットが撮影し、コンピューターで処理した画像。


●砂漠化

 年間600万ha(九州と四国の面積の合計に相当)が砂漠化によって不毛の地となっています。その主な人為的要因は、過放牧、過耕作、薪炭用などの樹木の伐採であり、すでに砂漠化している土地は約35億haそして、深刻な砂漠化の影響を受けている人は2億3,000万人におよんでいます。

●土壌浸食

 年間約250億tもの表土が雨や風によって耕地から失われ、乾燥地において砂漠化を進行させたり、乾燥地以外にも農業生産等に被害を与えています。

野生生物の種の減少

 野生生物の種は、人間活動による熱帯林などの生息地の破壊、商業取引などのための乱獲、外来種の侵入などによって急速に減少しています。

■砂漠化の危険性の高い地域等の分布
■砂漠化の危険性の高い地域等の分布
(備考)UNEP「The State of the Environment 1985」による。


■種の絶滅速度(推定)
■種の絶減速度(推定)
(備考)N.マイヤース「沈みゆく箱舟」(1979年)により作成。


アフリカの砂漠化
アフリカの砂漠化
乾燥地の土壌浸食はやがて砂漠化をもたらします。


国境を越える環境問題の動向


 国境を越えた広がりをもつ問題として
● 森林や農産物に被害を与え、水質を酸性化させて魚類の減少をもたらす等生態系に影響を与える酸性雨
● 水質汚濁の原因となる各種の重金属、化学物質、油、栄養塩類等が流入している北海等の地域海やライン川等の国際河川の汚染。
● 管理等について国際的な取組が必要な有害廃棄物の越境移動
などの問題があります。

■欧州における酸性雨や大気汚染による森林の被害状況(1985年)
■欧州における酸性雨や大気汚染による森林の被害状況(1985年)
(備考)UNECE資料等により作成。*は1984年、**は1986年。


■西ドイツの各国との二酸化硫黄の越境収支(1984年)
■西ドイツの各国との二酸化硫黄の越境収支(1984年)
(備考)1.UNECE「大気汚染物質長距離移動監視評価共同プログラム」により作成。
    2.棒グラフの長さは、硫黄の量を示す(単位:千t)。


開発途上国の公害問題


 開発途上国のなかでも工業や人口の増大・都市集中化が進んでいる地域では、大気汚染や水質汚濁などの公害問題が顕在化しています。大気汚染の状況を二酸化硫黄の濃度でみると、開発途上国の都市の濃度は悪化の傾向にあるところが多いことがわかります。
 また、安全な飲み水の確保や生活汚水の処理など多くの問題を抱えています。

■主要都市の二酸化硫黄濃度
■主要都市の二酸化硫黄濃度
(備考)1.UNEP/WHO「Urban Air Pollution 1973−1980」(1984年)により作成。
    2.各2年間の平均値、ただし、テヘランの1975〜76およびサンチャゴの1979〜80は単年測定値。
    3.測定局はいずれの都市も3局。


■ジャカルタ湾及びシャム湾上部の重金属濃度(1978年)
■ジャカルタ湾及びシャム湾上部の重金属濃度(1978年)
(備考)UNEP/WHO「Preliminary Assessment of Land−Based Sources of Pollution in East Asian Seas」(1981年)による。


(2)地球環境問題の背景



 環境問題の地球的規模での広がりの背景には、環境への配慮やそのための管理技術が不十分なまま人口や経済活動の拡大が続いていることなどがあります。


世界的な経済社会活動の拡大と環境負荷の増大


 今世紀半ばからの地球上の人間活動は歴史上類例のない規模とスピードで拡大していますが、その反面で化石燃料消費・化学物質の利用、廃棄物の増大をはじめとして、地球環境への負荷が増加しています。このことは局地的な問題にとどまらず、地球生態系の維持能力、浄化能力にも影響を及ぼしています。

■戦後の世界全体の経済社会活動の拡大状況(1950〜85年の増加倍率)
■戦後の世界全体の経済社会活動の拡大状況(1950〜85年の増加倍率)

■人間活動に伴う二酸化硫黄排出量
■人間活動に伴う二酸化硫黄排出量
(備考)1.D.Moller「Estimation of Grobal Man-made Sulphur Emission」(1984)による。
    2.1985年の値は予測値。


開発途上国の貧困と環境問題


人口の増加、貧困の深刻化と環境問題

 開発途上国での人口の急増は、熱帯林の農地への転換、薪炭材の過剰伐採などが行われることにより熱帯林の減少、砂漠化などにつながっています。生活基盤である環境の破壊は貧困を深刻化させるとともに、貧困に苦しむ人々が生存を維持するためにさらに環境を破壊し、「貧困と環境破壊の悪循環」が生じています。

一次産品貿易と環境問題

 輸出用の一次産品を生産する際、過度の環境利用などにより資源が減少したり、環境破壊を招いている事例が世界各地で起きています。
 例えば、熱帯アジア地域の樹木の資源量は減少し、現在世界最大の熱帯木材輸出国であるマレーシアのサバ州の丸太生産量は、1990年代中頃には現地の消費を賄う程度に減少するものとみられています。





(3)環境問題に関する国際社会での認識の高まりと国際的環境協力の進展



国際社会における環境についての認識の高まり


 1972年6月、ストックホルムで国連人間環境会議が開催され、環境問題を人類共通の課題として考え、世界的なレベルでの取組が本格化しました。しかし、開発途上国では環境対策を行うことで開発や経済の発展を阻害してはならないという認識が大勢を占め、環境と開発の関係は対立するものとされていました。
 その後の地球環境問題の広がり・深刻化にともない、環境は経済・社会の発展の基盤であり、環境を損なうことなく開発することが持続的な発展につながるという「持続的開発」の考え方が国際社会の間で次第に定着するようになりました。
 一方、温室効果やオゾン層の破壊問題が提起され、1980年の米国政府の「2000年の地球」報告などを契機に急速に関心が高まりました。
 こうしたなかで、1982年のナイロビ会議においてわが国の提案により設置された「環境と開発に関する世界委員会」は、「われら共有の未来」という報告書を発表しました。
 この報告は1987年末の国連総会に提出され、総会は各国政府・国際機関に対し、政策や活動計画の策定に際しては、同報告書の分析結果及び勧告を考慮するよう要請するなどの決議を行いました。今日においては持続的開発に向けて世界が具体的行動を起さなければならない段階へと進展しています。

UNEP国連会議
原環境庁長官代表演説
(1982年5月11日)
UNEP国連会議 原環境庁長官代表演説(1982年5月11日)


地球環境保全への国際的取組の進展


 環境問題に関する認識の高まりを背景に、国際機関、関係国、非政府機関(NGOs)等では、様々な分野で地球環境保全に対する国際的な取組を行ってきています。

国連環境計画(UNEP)等国連機関等の取組

 UNEPは国連諸機関の環境に関係するいろいろな活動を総合的に調整管理すると同時に、環境保全分野での活動を促進することを目的としています。
 UNEPは、「地球監視」「環境管理」「支援措置」の三つの柱からなっていますが、そのほか国連教育科学文化機関(UNESCO)国連食糧農業機関(FAO)世界保健機構(WHO)世界気象機関(WMO)などの諸機関も科学的調査活動を実施しています。
 国際開発金融機関も環境に配慮した開発の必要性を明らかにし、また、世界銀行も、融資審査の様々な段階で環境保全のために配慮されるべき技術的なガイドラインを作成するなど、環境保全上に積極的な政策を採用しています。

■UNEPの活動
UNEPの活動
(備考)国連専門機関等


経済協力開発機構(OECD)の取組

 OECDでは、化学物質の安全性調査を行うほか、酸性雨、有害廃棄物の移動の問題、開発途上国への開発援助プロジェクトなどについての勧告などを行っています。

条約による取組

 野生生物保護の分野でラムサール条約、ワシントン条約3)等が、海洋汚染防止などの分野ではロンドン・ダンピング条約、MARPOL 73/78 条約4)が採択されています。また、地球的規模の環境問題の予防措置として、オゾン層保護のためのウィーン条約5)のほか、具体的規則方法を定める議定書も締結されています。
 このほか酸性雨など国境を越える環境問題について地域的な条約が締結されるとともに野生生物保護のための地域間・二国間条約が多数締結されています。

非政府機関(NGOs)等の取組

 地球環境のデータ整備・評価や将来予測、野生生物の種の保全などについての調査や支援など、地球環境保全のためにさまざまな分野で、非政府機関(NGOs)が活躍しています。
 一方、産業界でも開発途上国の産業公害防止の協力のために、専門家を派遣するなどの活動が行われています。

■UNEPプログラムの分類
UNEPプログラムの分類
(備考)1)GEMS   :地球環境モニタリングシステム
    2)INFOTERRA:国際環境情報源照会制度
    3)IRPTC  :国際有害科学物質登録制度


(4)地球環境とわが国のかかわり


わが国の活動と地球環境とのかかわり


資源輸入等の貿易の現状と地球環境とのかかわり

 わが国は狭い国土の中で大きな経済活動を行いながら、いろいろな資源を海外に依存しています。

● 食糧品の輸入は年々増加してきています。最大の輸入食糧品であるエビの輸入量は、1985年には世界の輸入量の3分の1を占めるようになりました。このエビは、東南アジアなどの開発途上国の重要な輸出品の一つとなっているので養殖による生産の増大も図られています。また、とうもろこし、小麦、大麦及び大豆の輸入量を作付面積に換算すると、わが国の畑の耕地面積の3.8倍にも相当します。

■主要穀物の我が国の輸入量等(1985年)
■主要穀物の我が国の輸入量等(1985年)
(備考)FAO「生産統計1985」により作成。


● わが国は綿花、羊毛、木材、原油などの原燃料の世界最大の輸入国です。
 輸入商品の中で最大の比率を占める木材の輸入は、1985年には世界の輸入数量の24%を占めました。わが国の熱帯地域からの丸太の輸入は、以前はフィリピン、インドネシアが中心でしたが、これらの国々が資源保護や高付加価値化をめざして丸太輸出の制限などを行い、合板・製材輸出に転換したため、最近はマレーシアのサバ州、サラワク州が中心となっています。
● 野生生物は装飾品、医薬品などの原材料、ペットなどとしてわが国に輸入されており、世界有数の輸入国となっています。
 また、わが国はワシントン条約締結国のなかでも、多くの留保品目を指定して輸入を行っています。

■我が国の主要原燃料の輸入量等(1985年)
■我が国の主要原燃料の輸入量等(1985年)
(備考)FAO「資易年鑑」、FAO「林産統計年鑑」、国連「エネルギー統計」による。


■世界の熱帯木材の主要な輸出国、輸入国(1985年)
■世界の熱帯木材の主要な輸出国、輸入国(1985年)



わが国の国内における諸活動と地球環境とのかかわり

● わが国の主要工業製品の生産活動をみると、多くの分野で世界の最高水準の規模になっています。また、生産活動や国民生活を支えるために、膨大なエネルギーを消費しています。
● 硫黄酸化物や窒素酸化物についてOECD諸国と比較すると、わが国の排出量は主要先進国のなかでは、その経済規模に比べれば小さなものとなっています。
 次に、フロンガスの生産量をみると、モントリオール議定書によって規制されるものについては約12万トンで、世界の生産量の一割強を占めています(1986年)。
 わが国の化石燃料の消費による二酸化炭素の排出量をみると、1985年では世界の排出量の4.3%(世界第4位)となっています。

■主要国の化石燃料の消費に伴う二酸化炭素の排出量
■主要国の化石燃料の消費に伴う二酸化炭素の排出量
(備考)国連「Year Book of World Energy Supply」による各国エネルギー消費量(石油化学原料用消費量については、OECD Energy Balance により除外した。)及びIEA/ORAUの燃料種ごとの炭素排出原単位から環境庁が推計した。


■我が国におけるフロンガス(フロン11、12、22、113)の使用形態
■我が国におけるフロンガス(フロン11、12、22、113)の使用形態
(備考)1.環境庁調べ、 2.フロン22はウィーン条約・モントリオール―議定書の規制の対象外。


わが国の海外活動と地球環境とのかかわり

● わが国の海外直接投資は、1980年代に入り急速な拡大をつづけ、世界有数の投資国となりました。こうした海外直接投資、特に製造業の進出は、受入地の水、土壌、大気などといった環境とかかわりがあります。
● わが国の政府開発援助は飛躍的に増え、1986年には約56億ドル〔OECD開発援助委員会(DAC)諸国の全体の15%〕となっています。わが国の政府開発援助、特に比率の高い経済インフラストラクチャーや鉱工業、建設などの分野は、被援助国の環境とのかかわりが深いといえます。


■アジア諸国における我が国の直接投資(累計ベース)
■アジア諸国における我が国の直接投資(累計ベース)
(備考)通商産業省「経済協力の現状と問題点」(1986年)より作成。



わが国の国際的環境協力への取組の現状


● わが国は、UNEP基金に対し米国に次ぐ拠出を行い、また1982年のナイロビ会議で「環境と開発に関する世界委員会」の設置を提案するなど、地球環境保全に向けての国連活動への協力を行ってきました。また、環境庁では同委員会の勧告を受け、1987年には「地球的規模の環境問題に関する懇談会」に特別委員会を設け、わが国としての具体的取組を検討し、88年6月に、「地球環境問題へのわが国の取組 ―日本の貢献・よりよい地球環境を目指して―」をとりまとめました。
● 二国間の政府開発援助は、被援助国からの要請を受けて実施され、環境関連分野では緒についたばかりのものも多いのですが、協力の件数は全般的には着実に増加しています。また、産業界でも産業公害防止技術を移転しています。

■UNEP基金への各国の拠出分担金(1987年末までの累計)
■UNEP基金への各国の拠出分担金(1987年末までの累計)

公害防止技術協力(左中国・右トルコ)
公害防止技術協力(左中国・右トルコ)


● 「ワシントン条約」の履行のため、1987年には「絶滅のおそれのある野生生物の国内取引を規制する法律」を制定し、水際規制については事前確認制を導入しました。さらに、留保品目については、1987年に14品目から12品目とし、1988年を目途にジャコウジカについても撤回することにしています。
● フロンガス対策については、第112回国会において「ウィーン条約」「モントリオール議定書」の締結が承認され、また、「特定物質の規則等によるオゾン層の保護に関する法律」が制定されました。
● このほか、わが国はラムサール条約を1980年に締結し、釧路湿原(北海道)、伊豆沼・内沼(宮城県)を登録したほか米国などとの間に渡り鳥の保護条約・協定を結んでいます。また、海洋汚染の防止のためのロンドン・ダンピング条約、MARPOL73/78条約を締結しています。

■フロン消費量の削減
■フロン消費量の削減
(備考)ドイツ・ブルンブルグで行われた国連環境計画主催の専門家会合の資料から環境庁が作成。


伊豆沼・内沼
伊豆沼・内沼


(5)地球環境保全へのわが国の貢献


基本的な考え方


● 地球環境問題に対しては、国際機関などで関係国が協調して行動するための国際的なルールをつくることが望まれます。
● 開発途上国での「持続的開発」への取組は、資金、技術などが十分でないため、国際的な協力を欠くことができません。
● わが国は、地球環境の保全について「世界へ貢献する国家」として、積極的に取り組む必要があります。

世界への積極的な貢献の方向


わが国政府の対応の方向

● 地球環境保全の取組に対して、貴重な野生生物の保護やフロンガスの排出抑制など、国際的協調を図って取り組まなければならない課題については、わが国の国際的地位にふさわしい行動や対応を行っていくことが前提になります。
● 開発途上国の「持続的開発」への積極的貢献のため、次のような視点から環境協力を積極的に推進する必要があります。
 1. 開発途上国に対して、援助の要請主義を弾力的に運用し、環境分野の重要性の啓発や協力プロジェクトの立案を積極的に働きかけること。
 2. 個別プロジェクトの協力だけではなく、政策段階での交流・対話を推進すること。
 3. 開発途上国の実状把握と国内協力体制を整備すること。
 4. 地方公共団体における環境行政の蓄積を地球環境保全の舞台で有効に活用すること。

オゾン計測用レーザーレーダー(国立公害研究所)
オゾン計測用レーザーレーダー(国立公害研究所)

● 米国、英国、カナダ、西ドイツなどでは、すでに開発援助プロジェクトの環境アセスメントを実施しています。わが国においても開発援助システムのなかでの環境配慮の組入れについて、国際的地位にふさわしい仕組みを確立する必要があります。
 また、企業行動に対しても、環境配慮の徹底が必要です。
● 地球環境についての科学的知見は、地球環境保全への取組の基礎であり、「国際公共財」としての性格を持っています。わが国は、国際的プロジェクトに積極的に参画し、世界に率先してこれらを推進することが強く求められています。
● 開発途上国の風土、生活様式、経済力に応じた「適正技術」を開発し、その普及を推進していくことが必要です。さらに生態学的知見を生かした植林技術など、現地の自然環境にあった研究・技術開発の強力な推進が必要です。
● 国際機関の具体的な活動、例えばUNEPにアジア・太平洋地域での活動強化を求めるとともに、各種の地域プログラム、クリアリングハウス6)などへの技術的・人的側面などの連携・協力についての検討を進めることやUNESCO、FAO、WHO、WMO、OECDなどの活動と積極的に連携・協力を図っていくことが必要です。
 さらに、世界銀行、アジア開発銀行等との環境分野での協力関係を強化することが求められています。

林業協力
林業協力

多様な主体の活動による環境協力ネットワークづくり

● 欧米諸国ではNGOsが国際機関や政府と協力関係を持ちながら、地球環境の保全の分野で多いに活躍しています。わが国ではNGOsの歴史が浅いこともあって、十分な活動を展開するには至っていませんが、今後NGOsが「草の根環境協力」として貢献していくことが期待されています。
● 産業界においても技術移転を、より一層進めていくことが期待されています。
● わが国が地球環境保全の分野で世界に貢献するためには、各種の団体や業界の環境協力ネットワークが重要な位置を占めることになり、政府としてもこれらの主体による環境協力との連携を図っていくことが必要です。

国民一人ひとりの意識の変革と参加

● 環境問題は、生活排水、廃棄物などの身近な問題だけではなく、地球環境問題に至るまで国民生活と深くかかわるようになってきました。
● 例えば、私たちがいま消費しているフロンガスのうち10%強は各種のエアゾール製品の噴射剤として使われ、貴重な野生生物は装飾品の材料、ペットなどとなっています。また、いまや地球にとっての貴重な生物資源となっているラワン材は、建材、家具あるいは日曜大工の材料として親しまれています。
● こうしたことから豊かな消費生活のなかで、地球環境の問題が国民一人ひとりの身近な問題であることを認識し、私たちの生活を見直すこと、すなわち「地球人としてのライフスタイル」を追求することが必要です。
● そのためにも、環境教育は重要となってきており、環境教育システムの構築等が望まれています。

■地球環境問題に関する日本とEC諸国の国民の意識比較(大変心配であるとする者の割合)
■地球環境問題に関する日本とEC諸国の国民の意識比較(大変心配であるとする者の割合)
(備考)日本:総理府「環境問題に関する世論調査」(1988年)
    EC:「THE EUROPEAN AND THEIR ENVIRONMENT IN 1986」(1986年)









2 環境の現状と保全のための対策


大気の汚染の現状と対策


 大気の汚染とは、大気中に人の健康や生活環境に悪い影響を生じさせるようないろいろな汚染物質がある状態をいいます。代表的な汚染物質としては、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)などの硫黄酸化物、二酸化窒素などの窒素酸化物、一酸化炭素、光化学オキシダント、浮遊粒子状物質などがあげられます。

大気汚染の現状

 二酸化硫黄等による大気汚染は、着実に改善されてきました。
 一方、二酸化窒素、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質による大気汚染は、改善がはかばかしくありません。

■主な大気汚染因子の推移
主な大気汚染因子の推移
(備考)環境庁調べ。


改善の遅れている窒素酸化物による大気汚染の対策

 大気中の窒素酸化物は、その大部分が燃焼によって発生するものであり、発生源としては工場などの固定発生源に加えて、自動車などの移動発生源も大きな割合を占めています。
 この窒素酸化物対策として62年度においては、ディーゼル車等について、大型ディーゼルトラックの窒素酸化物排出量の15%削減、ライトバンなど軽量トラックの乗用車なみの規制(30〜60%削減)などの規制強化を63年末〜65年末にかけて行うための許容限度などの強化を行いました。また、近年、利用が拡大しているガスタービン、ディーゼル機関などを規制することにしました。さらに、京浜・阪神地域を対象としてトラックターミナルなどの整備、公共輸送機関の整備などの計画を作成する一方、「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき各種の環境改善事業を進めることにしています。





水質の汚濁


 水質の汚濁とは、川、湖、海など私たちの生活に密接な関係がある水に有害な物質が含まれたり、水の状態が悪化したりすることをいいます。
 カドミウム、水銀などによる水質汚濁が起こると、飲料水や魚などを通して人体に吸収され、人の健康に被害が生じるおそれがあります。
 また、有機物による水質の悪化などにより、飲み水の異臭味、農作物や魚貝類への被害など、水を利用する上で問題が生じることがあります。

水質汚濁の現状

 水質汚濁の状況を人の健康の保護に関する環境基準が設定されている物質についてみると、かなりよくなっており、全国の総測定数のうち環境基準を達成している測定数の割合(達成率)は、昭和61年度で99.8%です。
 一方、生活環境の保全に関する環境基準が設定されている項目については、環境基準を達成していない水域が多く残されています。環境基準の達成状況をBOD(またはCOD)でみると、達成している水域の割合は昭和61年度において69.6%となっています。
 河川、海域の環境基準達成率は長期的には向上しているものの、近年は横ばいで推移しています。また、都市内の中小河川を中心とするE類型では、まだ低い達成状況となっています。

■生活環境項目に係る水質環境基準達成率の推移
■生活環境項目に係る水質環境基準達成率の推移
(備考)環境庁調べ


■生活環境項目の例(河川)
■生活環境項目の例(河川)
(備考)農業用利水点については、水素イオン濃度6.0以上7.5以下、溶存酸素5mg/l以上とする。
(注)1. 自然環境保全:自然探勝等の環境保全
   2. 水 道  1級:ろ過等による簡易な浄水操作を行うもの
     水 道  2級:沈澱ろ過等による通常の浄水操作を行うもの
     水 道  3級:前処理等を伴う高度の浄水操作を行うもの
   3. 水 産  1級:ヤマメ、イワナ等ならびに水産2級および水産3級の水産生物用
     水 産  2級:サケ科魚類およびアユ等および水産3級の水産生物用
     水 産  3級:コイ、フナ等
   4. 工業用水 1級:沈澱等による通常の浄水操作を行うもの
     工業用水 2級:薬品注入等による高度の浄水操作を行うもの
     工業用水 3級:特殊の浄水操作を行うもの
   5. 環 境 保 全:日常生活(沿岸の遊歩道を含む。)に不快感を生じない限度


改善の遅れている閉鎖性水域の水質汚濁対策

 湖沼、内海、内湾といった周囲の大部分が陸地で囲まれた水域は、水の交換が少なく汚濁物質が蓄積しやすいところです。このため、このような水域では水質汚濁が進みやすく、また、一度汚濁するとなかなか改善されません。このような閉鎖性水域などの水質保全対策としては、62年4月に東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域について64年度を目標年度とする汚濁物質の第2次総量削減計画がつくられました。また、湖沼については、「湖沼水質保全特別措置法」に基づき、62年度に指定された釜房ダム貯水池を含め対策が緊要な7湖沼が指定湖沼に指定され、計画に基づいて各種の水質保全対策が総合的に推進されています。このほか、閉鎖性水域及び都市内中小河川については、下水道の整備や合併処理浄化槽7)の普及、家庭での水質保全のための実践活動の実施など生活排水対策を総合的に進めていくことも重要です。

■主要湖沼・内湾の水質汚濁状況(61年度)
■主要湖沼・内湾の水質汚濁状況(61年度)
(備考)1.環境庁調べ。
    2.COD年度平均値である。単位:mg/l
    3.( )内は昭和60年度調べ。


■指定湖沼の水質の推移(COD濃度:年平均値:50〜61年度)
■指定湖沼の水質の推移(COD濃度:年平均値:50〜61年度)

■総量規制三海域の環境基準(COD)達成状況の推移(50〜61年度)
■総量規制三海域の環境基準(COD)達成状況の推移(50〜61年度)


その他の公害の現状と対策


騒音

 騒音は日常生活に関係の深い問題であり、発生源も多種多様であるため、例年、地方公共団体に寄せられる苦情件数が最も多くなっています。
 発生源の内訳を苦情件数でみると、工場・事業場騒音が最も多く、建設作業騒音、深夜営業騒音がそれに次いでいます。
 また、一部の交通施設周辺においては、自動車、航空機、新幹線鉄道等の運行に伴って発生する騒音が大きな問題となっています。
 交通騒音については、様々な対策がとられてきましたが、まだまだ改善の進まない地域が残されています。このため引き続き各種の対策を進めていく必要があります。

振動

 振動は騒音とともに日常生活と深いかかわりを持つ問題で、「振動規制法」などに基づいて対策が進められています。その発生源の主なものは、建設作業、工場・事業場、交通です。また、近年人の耳には聴きとりにくい低い周波数の空気振動についても苦情が出されています。




悪臭

 悪臭は人に不快感を与える感覚公害で、苦情件数は騒音の次に多いものです。このため、「悪臭防止法」に基づき、アンモニアなどの8物質が悪臭物質として定められ、規制地域の指定、規制基準の設定が行われています。

土壌汚染

 土壌汚染は、大気、水等を媒介として、排煙や排水中に含まれる重金属等の有害物質が土壌に蓄積し、長期間にわたり農作物等に悪影響を与える蓄積性汚染です。
 「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」において特定有害物質に指定されているカドミウム、銅、砒素の汚染地域及び汚染のおそれのある地域は、61年度までに128地域、7,030haとなっています。このため、これらの地域においては、排土、客土、水源転換等を内容とする公害防除特別土地改良事業等の対策事業が実施されています。
 また、近年、工場、試験研究機関等の跡地の土地利用の転換に際し、水銀等の有害物質が土壌中に検出される等市街地における土壌汚染が問題となっています。

地盤沈下

 61年度までに地盤沈下の認められた主な地域は36都道府県60地域であり、その原因は主として地下水の過剰採取です。
 地盤沈下の防止のため「工業用水法」等に基づく地下水採取の規制等が行われています。

廃棄物

 廃棄物には、事業活動に伴って排出される汚泥、廃油等の産業廃棄物とし尿、ごみなど主として国民の日常生活に伴って生じる一般廃棄物があります。一般廃棄物のうち、ごみの排出量は、近年緩やかながら増加傾向にあり、60年度では、4,345万tとなっています。また、ごみの種類も多様化しており、その適正な収集、処理・処分が課題となっています。

■公害の種類別苦情件数及び構成比の推移(61年度)
■公害の種類別苦情件数及び構成比の推移(61年度)
地盤沈下による建物の被害
(備考)1.公害等調整委員会「公害苦情件数調査結果報告書」(61年度)による。
    2.図中の数値は構成比(%)


自然環境の現状


 わが国は、変化に富んだ海岸線、起伏の大きい山岳等複雑な地形を持ち、気候的には、亜寒帯から亜熱帯まで広がっているうえ、四季を通じて降水量も豊富です。この様な気候風土から、わが国は優れた景観、多様な動植物相がみられるなど、豊かな自然に恵まれています。
 環境庁では、こうした動植物の成育状況をはじめ自然環境の状況を調査し今後の自然保護施策の推進のための基礎資料とするため、いわゆる「緑の国勢調査」を実施しています。第1回(48年)、第2回(53〜54年)に引き続いて、58年度から62年度にかけて第3回調査を実施しました。
 このうち調査結果の明らかになった「湖沼調査」及び「河川調査」についてみると湖岸や河川の水際線の人工化が進んできていることがわかります。

■河川の水際線改変状況の推移
■河川の水際線改変状況の推移
(備考)1.環境庁「第3回自然環境保全基礎調査 河川調査」による
    2.「人工化された水際線」とは、平水時の水際線が護岸等と接している部分をさす。
    3.調査河川全体の調査区間延長の54年と60年の差は、河川改修による流路の短縮化等によるものである。


自然の水際線(河川)
自然の水際線(河川)

タンチョウ
タンチョウ

■江戸時代のツルの分布「過去における鳥獣分布調査」
■江戸時代のツルの分布
 現在、生息地が非常に限定されているツルについても、当時はかなり広く分布していたことがわかります。
(備考)環境庁「第3回自然環境保全基礎調査」による。


■自然環境保全地域および自然公園配置図
■自然環境保全地域および自然公園配置図

■自然環境保全地域等の指定状況
■自然環境保全地域等の指定状況
注:野生動植物保護地区および海中特別地区面積は指定地域内の面積。


■自然公園の指定状況
■自然公園の指定状況
注:公園面積のうち特別地域以外の地域は普通地域。


■鳥獣保護区の指定状況
■鳥獣保護区の指定状況
注:本表のほか特別保護指定区域(国設)1箇所50haがある。





3 新たな視点に立った環境政策の展開


 社会経済活動の高度化、環境に対する認識の深まりなど環境をめぐる諸条件の変化や環境問題の複雑・多様化を背景に、次のような新しい視点に立った環境政策の展開が求められています。

■トリブチルスズ化合物濃度の経年推移(昭和58年度〜62年度、瀬戸内海(大阪湾を含む))
■トリブチルスズ化合物濃度の経年推移(昭和58年度〜62年度、瀬戸内海(大阪湾を含む))
(備考)1.環境庁調べ。
    2.すべての検体から検出された。


新たな汚染の可能性への対応


 産業活動の高度化や現在工業的に生産されているものだけでも数万点にもおよぶと言われている化学物質の使用の拡大等による新たな環境汚染の可能性に対応していくため、先端技術における使用物質についての情報や環境影響についての科学的知見を整備したうえで、さらに的確なモニタリングを行いながら、事業者による安全確保、回収、分別廃棄促進を含めた汚染の未然防止対策をより一層進めていく必要があります。また、化学物質についての各種の情報を集めたり、汚染対策の対象とすべき物質の優先順位づけを行いながら、複数の環境媒体を通じた汚染の影響を総合的に評価し、管理する手法(クロスメディア・アプローチ)を確立する必要があります。

■主要汚染物質の検出割合(61年度)
■主要汚染物質の検出割合(61年度)

(備考)各化学物質の用途
● 「PCB(ポリ塩化ビフェニル)」トランス油、熱媒体として用いられていました。昭和47年度以降一般に使用が中止されています。
● 「HCB(ヘキサクロロベンゼン)」防腐剤、防かび剤として用いられていました。昭和54年8月以降使用が中止されています。
● 「ディルドリン」ドリン系の殺虫剤として用いられていました。昭和56年10月以降使用が中止されています。
● 「PP'-DDT」殺虫剤として用いられていました。昭和56年10月以降使用が中止されています。
● 「α-HCH(ヘキサクロロシクロヘキサン)」農薬として用いられていました。昭和46年以降使用が中止されています。




生態系の保全


 生態系は人間を含むあらゆる生命を育む母胎であり、大気、水、土壌、森林、野生生物などのさまざまな構成要素が互いに微妙なバランスを保ちながら人間に限りない恵みを与えています。環境政策を進める場合、自然環境については、このような生態系そのものの積極的な保全を図ることが必要です。
 さらに都市環境については、都市内に残された生態系の保全に努めるばかりでなく、都市のシステムを生態系にみられるような自立的、循環的、安定的なシステムとして構築していく方向が必要とされています。





環境資源の管理


 私たちをとりまく環境は、自然浄化、気候緩和などの機能のほか、経済面、生命・健康面、快適面などのさまざまな面で価値をもつ有限な資源であって、将来の世代にとっても貴重な資源です。
 このような視点から、人びとにさまざまな恵みをもたらす環境を環境資源としてとらえ、適切に管理していこうとする考え方が確立されようとしています。
 環境資源の適切な管理のためには、環境資源の価値を総合的に評価するためのデータ整備を行うとともに、生態系のメカニズム、環境容量等を勘案した指標の開発を進めることにより、環境資源の適正な保全、利用、創造を図るためのビジョンや目標を示す必要があります。
 特に、近年、臨海部などで大規模な開発が予想されている首都圏などの大都市圏では、環境へのさまざまな配慮を行い環境資源の保全活用を図っていく必要があります。








用語解説



1)NGOs(非政府機関)

 NGOsとは、ここでは環境の保全等に取り組んでいるさまざまな民間機関をいいます。例えば地球環境のデータ整備・評価を行っている米国のWRI(世界資源研究所)、野生生物の保護活動を推進しているWWF(世界自然保護基金)、があり、また、これらのうち主要な団体や各国政府・政府機関が加盟しているIUCN(国際自然保護連合)があります。わが国にも数多くの団体があります。

2)温室効果

 対流圏中の二酸化炭素、フロンガス等は、太陽からの放射エネルギーを透過させますが、逆に、地表から放出される赤外線を途中で吸収して宇宙空間に熱が逃げるのを妨げ地球を温暖化させるという性質を持っています。そのことは、温室と同じような現象であることから、これを温室効果と呼んでいます。

3)ワシントン条約

 ワシントン条約(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)は、絶滅に瀕している野生動植物の国際取引の規制を目的とした条約で1973年に採択されました。

4)MARPOL73/78条約

 MARPOL73/78条約(「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」)は、船舶からの油や有害物質等の排出の規制を目的とした条約で1978年に採択されました。

5)オゾン層保護のためのウィーン条約

 「オゾン層保護のためのウィーン条約」は、オゾン層の変化による悪影響から人の健康や環境を保護するために、特定のフロンの生産量の規制等を実施するための国際的な条約です。同条約は、地球的規模の環境問題の予防的措置として、国際的合意が成立した、世界で初めての条約です。

6)UNEPのクリアリングハウス

 開発途上国の環境管理計画の策定や環境改善のための対策事業を実施すべき地域等についてUNEPがコンサルティングを行い、その結果をもとに当該対策事業の具体的実施のための援助を先進国の援助機関等に仲介を行う仕組みです。

7)合併処理浄化槽

 各家庭から排出される生活雑排水(生活排水のうち、し尿を除いたもの)は水質汚濁の大きな原因となっています。合併処理浄化槽はし尿と生活雑排水を併せて処理する施設です。し尿のみを処理する単独浄化槽と比べて、生活雑排水を含めて処理することとなるため、生活雑排水対策としては下水道と同様に極めて有効な方法です。