図で見る環境白書 昭和57年


 I 幅広い環境政策の展開をめざして

   広がる環境問題

   求められる総合的な環境政策

 II 公害の現状と対策

  公害の範囲

  大気の汚染

   現状

   環境基準

   汚染防止対策

   エネルギー問題

  水質の汚濁

   現状

   環境基準

   汚濁防止対策

   閉鎖性水域の水質保全

   富栄養化対策

  その他の公害の現状と対策

   騒音・振動

   土壌汚染

   悪臭

   地盤沈下

  空きカン問題

 III 自然環境の現状と保全の推進

  自然環境の現状

   植生の状況

   野生動物の状況

   水辺環境の状況

  自然をまもるしくみ

   自然環境保全地域

   自然公園

   都市・森林の自然環境の保全

   鳥獣保護

  自然とのふれあい

   休養施設・野外レクリエーション施設

  国民の自発的意欲を生かした自然環境保全の推進

 IV 経済社会活動と環境問題

  経済成長と環境問題

   経済社会活動の拡大

   環境汚染の拡大

   自然の改変

  環境問題と世論

  環境問題をめぐる諸要因の変化

   公害防止対策の進展

   産業構造の変化

   省資源・省エネルギー

   石炭利用の拡大

   都市化の進展・消費の拡大

 V 環境の総合的管理

  環境汚染の未然防止

  快適な環境づくり

  環境の総合的管理の推進

 VI 地球的規模の環境問題

  経済活動の世界的拡大

  広がる環境汚染

  国際協力の推進

   国連人間環境会議の開催とUNEP(国連環境計画)の発足

   UNEPの主要成果(国連環境計画)

   OECD環境委員会の主要成果(経済協力開発機構)

   環境問題における国際協力の重要性と日本の貢献





この本を読まれる方に


財団法人 日本環境協会
会長 和達清夫

 昭和30年代の経済の高度成長にともなって表面化した環境問題は、40年代に入って次々とられてきた対策によって、危機的な状況の克服にはかなりの成果をあげることができました。このことは国際的にも高く評価されています。しかし、これをもって環境問題が全面的に解決されたとはいえません。むしろ環境問題はあらたな局面を迎えているといえるでしょう。
 今日産業活動に起因する環境汚染はかなりの改善をみせ、防除の目途もたってきました。一方、生活排水、一般廃棄物、交通騒音、近隣騒音など国民の日常生活に起因する環境汚染要因にも高い関心が払われるようになってきました。また、人びとの生活に関する価値観が多様化し、物質的な豊かさだけではなく、精神的なものをも含めた生活の豊かさ、快適さを求める声も高くなってきました。そのためには、現在の公害の防除にとどまらず、自然環境の保全を含めて、環境汚染の未然防止を一層推進する必要があります。
 人びとにとって何が快適な環境であるのか、またどの程度の費用、代償を払って、どのような快適な環境を創造していくのか、その判断は国民一人ひとりの価値観とその合意に委ねるべきものでしょう。これらのことを考える基礎としては、政府が毎年国会に提出する公害の状況に関する年次報告が環境白書として刊行されています。しかし、環境白書が広く国民の各階層に読まれることは望ましいことではありますが実際には困難です。そこでその内容を簡潔で、しかもグラフや写真を加えた誰にでも理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この本が多くの方に読まれるとともに、次代を担う青少年の教材資料として活用されることによって、環境問題に関する理解が国民の間に広く深く浸透し、よりよい環境が生まれる基盤が培われることを願っております。

霧ヶ峰高原(長野県)
霧ヶ峰高原(長野県)

I 幅広い環境政策の展開をめざして


広がる環境問題



 経済成長率が低下し、また一方で省資源・省エネルギーが進んでおりますが、このような動きは、環境汚染が進むのを抑える効果をもっています。
 しかし、環境問題の根は深く、新しい問題も生まれてきています。
 経済が拡大し、都市の過密化が進み、消費生活が高度化したことなどを背景に様々な問題が生じています。例えば、自動車が普及した一方で道路が十分に整備されていないために発生している公害、生活排水や産業排水が流れ込む中小河川や湖沼などの水の汚れ、石炭の利用が増えてきたことによる環境問題などです。道路周辺や自然の風景地などでの空きカンの散乱も美観を大変損ねています。
 美しい自然も人手が加わり次第に変わってきています。宅地開発などによって身近な照葉樹林(カシ、シイなどの林)が失われたり、シカやクマなどの生息できる区域が小さくなったり、海や湖の自然の岸辺が減って波打ち際がコンクリートで固められることによって、水とふれあうことのできる場所が減っています。
 世界に目を向けると、森林の減少や砂漠化の進行によって気候が変化し、フロンガスによる成層圏オゾン層の破壊のため、人体への悪影響も心配されるようになってきています。
 一方で、人々の環境への意識も変わってきています。消費水準の向上や定住化傾向の強まりなどを背景に、公害の防止・自然環境の保全だけでなく、身近な緑や水辺、美しい町並み、のびのび歩ける道や広場など、うるおいのある快適な環境に対する期待が次第に高まってきています。




求められる総合的な環境政策



 環境問題は複雑化し、広がってきていますが、このような問題に的確に対応するためには、環境のもつ様々な機能を生かしながら、環境を総合的に管理することが重要です。また、国際的にも各国と協力し合っていくことが必要です。
 環境を総合的に管理していくためには、土地、水、森林などを利用していく際に、その地域の土壌、水質、地形、生物などの特性を生かしながら、環境を総合的、計画的に保全するという視点から経済、社会活動を進めていくことが必要です。その第一歩として環境汚染や自然破壊を未然に防止することが大切になってきます。そのためにも環境影響評価などのしくみが大きな役割をもつことになります。
 将来に向けての持続的な繁栄は、環境へのきめ細かい配慮がなければ期待できません。すべての生命をはぐくんできた地球環境を保全し、将来に伝えていくことは、現在に生きる私たちの重要な責務であります。先人の努力と経験を生かし、将来により良い環境を伝えていくためにも多様化している環境問題を解決し、幅広い環境政策を展開していくことが求められています。

II 公害の現状と対策


公害の範囲


 公害という言葉は、明治時代から使われています。そして、現在では広く用いられている言葉となっていますが、人により、場合によりその意味が少しずつ異なっていることがあります。
 「公害対策基本法」では、公害の範囲を次のように定義し、対策の目標を明らかにしています。それによりますと、
 公害とは、
1)事業活動などの人の活動に伴って生ずる
2)相当の範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって
3)人の健康または生活環境に係る被害が生じること
となっています。
 このことから次のようなことが言えます。
 まず、公害は、「人の活動に伴って生ずる」ものですから、地震や洪水など自然の現象を原因とする被害は、公害に含まれません。
 次に、公害は2)にある「大気の汚染・・・悪臭」の7種類(典型7公害といいます)となっています。したがって、しばしば社会的に「公害」と呼ばれることがあっても、マンションの建設による日照の阻害、テレビの受信障害などは、この法律による公害とはなりません。
 ここでは、典型7公害について現状と対策をみることにしましょう。

隅田川・昭和42年
隅田川・昭和42年

隅田川・昭和57年
隅田川・昭和57年

大気の汚染


 大気の汚染とは、大気中にいろいろな汚染物質があって、人の健康や生活環境に悪い影響が生じてくるとみられるような状態を言います。
 汚染物質としては、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)などの硫黄酸化物、二酸化窒素などの窒素酸化物、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダントなどが挙げられます。




現状



 1)二酸化硫黄(SO2
 昭和40年から継続して測定している15測定局の二酸化硫黄の濃度の年平均値は、42年度の0.059ppmをピークに年々低下し、55年度は0.016ppmとなっています。また、環境基準の達成率は、55年度98.4%(54年度96.9%)となっています。しかし、東京都、大阪府の達成率は全国平均を下回っています。
 2)二酸化窒素(NO2
 二酸化窒素はあまり改善されていません。47年度には0.020ppmであったのに、49年度以降は0.027ppm前後で、ほぼ横ばいを続けています。また、環境基準の達成状況にも、大きな変化はなく、55年度では、0.04ppm未満が71.8%、0.04〜0.06ppmが24.4%、0.06ppm超が3.8%となっています。
 二酸化窒素の濃度を車道の近くで測定する自動車排出ガス測定局の測定結果で見ますと、このところ横ばいの状態が続いており、55年度は0.041ppmとなっています。また、環境基準との対応を見ますと、上限である0.06ppmを超える測定局が38.2%となっています。
 中でも東京都、大阪府、神奈川県などの大都市地域に0.06ppmを超える測定局が集中しています。
 3)浮遊粒子状物質(SPM)
 浮遊粒子状物質について環境基準を達成している測定局の割合は、53年度22.4%、54年度20.4%、55年度29.2%であり、非常に低い水準となっています。
 4)一酸化炭素(CO)
 大気中の一酸化炭素の発生源は主に自動車と考えられています。自動車排出ガス測定局の環境基準の達成状況は53年度94.9%、54年度98.4%、55年度99.1%と年々改善を示しています。
 5)光化学オキシダント
 光化学オキシダントは光化学スモッグの原因と考えられています。
 光化学オキシダント注意報(1時間値0.12ppm以上のとき発令)の発令日数は48年の328日をピークに49年度以降減少してきており、56年は59日でした。

京浜工業地帯・昭和40年代
京浜工業地帯・昭和40年代

●大気汚染に係る環境基準
●大気汚染に係る環境基準
ppmとは百万分の一のことで、lppmとは例えばl立方メートル中に1立方センチメートル含まれることをいいます。


環境基準



 汚染物質は、主に肺などの呼吸器系に影響を及ぼし、濃度によっては人の健康を損なうことがあります。
 汚染物質のうち二酸化硫黄は、のどや肺を刺激して、気管支炎や上気道炎などを起こしやすくします。浮遊粒子状物質とは空気中にただようチリ(ばいじんやふんじん)のことですが、この物質は二酸化硫黄などの作用を強めるはたらきがあります。また、二酸化窒素も二酸化硫黄と同じような作用をもたらすとされています。
 一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと結びつき、神経系に影響をもたらします。光化学オキシダントは、目、のどなどを強く刺激します。
 このような物質については、人の健康をまもるための環境上の条件として、環境基準が定められています。

汚染防止対策



 大気汚染を防止し、環境基準を達成するために必要なことは、それぞれの地域において様々な発生源から大気中に排出される汚染物質の量を減らすことです。主な発生源としては、工場・事業場と自動車とが挙げられます。「大気汚染防止法」では、こうした発生源ごとに汚染物質の排出量の上限を定めています。
 このうち、工場や事業場では、ボイラーなどのばい煙を発生する施設ごとに、排出口での汚染物質の濃度などを一定の値(排出基準)以下にしなければならなくなっています。さらに、二酸化硫黄などの硫黄酸化物については、地域全体の汚染の状態を考えて、工場からの総排出量を少なくしようとする総量規制が実施されています。また、窒素酸化物についても総量規制を実施しようとしています。
 自動車に対しても排出基準があり、これをまもらなければなりません。
 このような規制に対して、工場や事業場では、1)燃料の種類をかえる、2)重油から硫黄をとり除く、3)燃焼方法を工夫する、4)集じん装置などによって煙の中の汚染物質を取り除くなどの防止対策がとられています。
 また、自動車についてもエンジンの改良が進められ、特に乗用車から排出される窒素酸化物、一酸化炭素などは対策前に比べ9割以上減少しています。しかしディーゼル大型車などの対策は遅れています。
 このほか、大気汚染による被害者の救済のため、事業活動に伴う汚染物質の排出によって、健康被害を生じさせた場合には、意図して排出したとか、過って排出したとかを問わず、たとえ過失がなくとも事業者が賠償責任を負う(無過失賠償責任という)制度が設けられています。

東京のスモッグ・昭和46年
東京のスモッグ・昭和46年

●大気汚染防止法体系図
●大気汚染防止法体系図
<備考> 直罰とは、基準を遵守しない者に対して、改善命令などを経ることなく、直ちに罰則をかけることをいいます。


エネルギー問題



 石油価格が大幅に上昇したために、石炭等の石油代替エネルギーの利用が拡大しています。また、輸入石油のうち重質油の割合が高くなっています。
 石炭には1)燃焼に伴う窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじんなどの発生量が一般に石油に比べてかなり多い2)石炭を運ぶときなどに石炭の粉末が風によって飛ばされやすいなどの特徴があります。このため石炭の利用に際しては、十分な環境対策が求められています。
 また、重質油も窒素酸化物やばいじんの発生量を増加させる窒素分や灰分を多く含んでいますので、大気保全上の問題を起こさないよう十分注意することが必要です。

水質の汚濁


 水質の汚濁とは、川、湖、海など私たちの生活に密接な関係がある水に有毒な物質が含まれたり、水の状態が悪化したりすることを言います。
 水質汚濁の代表的な原因物質のうち、人の健康に有害な物質としては、カドミウム、水銀などがあげられます。カドミウムは人体に蓄積し、骨や腎臓に悪い影響を及ぼします。カドミウムによる健康被害の例としては、富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病が有名です。
 また水銀は人体に蓄積すると、脳、神経の障害をもたらすことがあります。熊本県八代海周辺や新潟県阿賀野川流域で発生した水俣病は、水銀の中でも毒性の強いメチル水銀が原因であることがわかっています。
 次に、水中の有機物質による水質の汚濁についてみてみます。この代表的な測定指標としてBOD(生物化学的酸素要求量)とCOD(化学的酸素要求量)があります。
 これは、水中の多くの汚濁物質が酸素と結びついて分解したり、変化したりする性質を持つという点に着目して、汚濁物質が分解したり、変化したりするのに必要な酸素の量で、汚濁の程度を測定する方法です。このBOD(COD)の数値が高いと、飲み水の悪臭、農作物や魚介類への被害が生じることがあります。
 有機物質による水質の汚濁を測る方法としては、BOD(COD)のほかに、水に浮んでいるごみなどで測る方法や、大腸菌の数、酸性、アルカリ性を調べる方法などがあります。

相模湖のゴミ・昭和57年8月
相模湖のゴミ・昭和57年8月

金峰山川(長野県)のダム湖・昭和57年8月
金峰山川(長野県)のダム湖・昭和57年8月

現状



 水質汚濁のうち人の健康に有害な9物質に関する健康項目についてみますと、全国の総測定数のうち、環境基準に適合していない測定数の割合(不適合率)は、55年度0.05%(54年0.06%)となっており、年々改善が進んでいます。
 利水上の障害などに関する生活環境項目について、55年3月までに環境基準の類型当てはめが行われた2,913水域での達成状況をみますとBOD(又はCOD)では環境基準を達成している水域が、55年度2,001水域と全体の68.7%(54年度は66.7%)となっています。これを水域別にみますと、河川67.2%(54年度65.0%)、湖沼41.6%(54年度41.8%)、海域79.8%(54年度78.2%)と全体的には改善してきていますが、湖沼では依然として達成率が低くなっています。また、都市内を流れる河川では、かつての深刻な状況からは脱しましたが、まだまだ努力していくことが必要です。

●水質汚濁の推移
●水質汚濁の推移



環境基準



 水質の環境基準には、人の健康の保護に関する健康項目と、生活環境の保全に関する生活環境項目とがあります。健康項目は、カドミウム、シアンなど9項目について、河川、湖沼、海域を問わず一律に定められています。
 また、生活環境項目はBOD(又はCOD)など7項目について、利用目的に応じて分けた水域類型ごとに定められています。したがって同じ河川であっても、利用目的が異なれば、上流と下流とでは別々の類型が当てはめられ、環境基準値も異なることになります。

●人の健康の保護に関する環境基準
●人の健康の保護に関する環境基準

●生活環境に係る環境基準の例
●生活環境に係る環境基準の例

汚濁防止対策



 水質の汚濁を防止し、環境基準を達成するため「水質汚濁防止法」などの法律が定められ様々な対策がとられています。
 「水質汚濁防止法」では、洗浄施設など汚水を排出する施設を設置する工場や事業場に対して排水基準が定められています。この基準では、健康項目(9項目)と生活環境項目(14項目)のそれぞれの項目ごとに一定の濃度などで示されており、工場や事業場は排水口でこの基準に適合した排水を行わなければならないことになっています。
 排水基準には、国が全国一律に定めている一律基準と、都道府県がそれぞれの水域の状況に応じて一律基準よりも厳しく定めている上乗せ基準とがあります。また一部の地域では総量規制基準を設けて規制を行っています。
 なお、「水質汚濁防止法」では、こうした規制に違反した場合、都道府県知事によって改善命令が行われるほか、罰則が課せられることもあります。このほか、水質汚濁による被害者の救済のために大気汚染の場合と同じように無過失賠償責任という制度(7ページ参照)が設けられています。
 一方、下水道は、都市排水を中心とした汚水を受け入れ、処理した上で河川や海域などに流すはたらきを持っており、生活環境の向上という点からも、また水質保全という点からも重要な役割を担っています。下水道普及率は56年度末で約31%ですが、現在、第5次下水道整備5ヵ年計画に基づき一層整備が進められることになっています。

閉鎖性水域の水質保全



 周囲の大部分が陸地であるような水域を閉鎖性水域と呼んでいます。閉鎖性水域としては、湖沼のほかに、瀬戸内海などの内海、東京湾や伊勢湾など陸地の奥まで海が入り込んだ内湾が挙げられます。閉鎖性水域では、水の交換が進みにくく、汚濁物質がたまりやすくなっています。このために、人口・産業が集中しているところでは、環境基準(COD)の達成率ははかばかしくありません。
 55年度の状態をみますと、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海では、達成率はそれぞれ61%、53%、72%とその他の海域(85%)に比べ低く、また、湖沼は42%とさらに低くなっています。
 このため、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に流入する河川の流域にある工場や事業場を対象として総量規制が実施されています。例えば、東京湾に流れ込む1日当たりの汚濁物質の総量を考え、この総量が一定量(CODで測って660トン)以下になるよう、工場や事業場の排水を規制する制度です。
 湖沼でも汚濁が大変進んでいるところがあり、水道の異臭味問題、水産被害などの大きな利用障害が起きています。現在、湖沼の水質汚濁の問題は全国的に広がっていて、このままでは汚濁がさらに進むことが心配されています。このため、湖沼の特性に合わせ総合的、計画的に各種の施策を進めていくことが強く求められています。そのために様々な検討が、国や地方公共団体などで進められています。

富栄養化対策



 閉鎖性水域では、汚濁物質のほかに、窒素、リンなどの栄養塩類が流れ込んで、富栄養化が進むという問題が起こっています。排水に含まれる窒素、リンなどが大量に流れ込むと、これらの物質が肥料のはたらきをして、プランクトンなどが非常な勢いで増加し、水質が悪化していきます。このための水道の異臭味問題、養殖魚の大量死などの様々な障害が起こっています。
 富栄養化対策としては、栄養塩類(窒素、リンなどを含む物質)そのものを減らすことが必要とされています。このため、望ましい環境の状態、排水処理のあり方などの対策を実施する上で必要な事柄について調査し、研究しています。
 なお、瀬戸内海に面する地域等では、法律に基づいてリンの削減対策が、琵琶湖等では条例に基づいて窒素・リンの規制が行われています。

印旛沼のアオコ・昭和57年8月
印旛沼のアオコ・昭和57年8月

その他の公害の現状と対策


騒音・振動



 騒音は、公害の中でも日常生活に最も関係が深く、発生源にも多種多様なものがあります。このため、例年、公害に関する苦情のうちで件数が最も多くなっています。
 騒音についての環境基準は、住居地域、商業地域などの地域の特性、道路面、飛行場周辺などの周辺の状況、昼、夜などの時間の区分に応じた基準値が定められていて、都道府県知事が、それぞれの地域に応じて環境基準を当てはめることになっています。例えば、道路に面していない住居地域は昼間50ホン以下、夜間40ホン以下などとなっています。
 騒音対策としては、工場や建設作業の騒音について「騒音規制法」に基づく対策が進められています。近隣騒音については、カラオケ等の深夜営業騒音に対して、条例による規制を新設したり強化したりしています。また、エアコンや換気扇などについても騒音を下げるための努力が続けられています。
 振動は騒音とともに日常生活と深いつながりをもつ問題で、「振動規制法」等に基づいて対策が進められています。橋やトンネルなどから発生する、人の耳には聴きとりにくい低い周波数の空気振動についても、調査が行われています。
 自動車による騒音、道路交通に伴う振動については、自動車や道路の改良、沿道の整備など各種対策が講じられています。航空機の騒音については、低騒音大型機(いわゆるエアバス)の採用、飛行場周辺にある学校、病院、住宅等の防音工事などが進められています。
 新幹線鉄道の騒音や振動については、鉄橋やレールなどの改良、沿線の学校、病院、住宅等の防音工事などが行われています。一般の鉄道についても様々な検討が進められています。

首都高速道路・湾岸線の遮音壁
首都高速道路・湾岸線の遮音壁

●騒音に係る苦情の内訳
●騒音に係る苦情の内訳

●振動に係る苦情の内訳
●振動に係る苦情の内訳
<備考> 1.環境庁調べ  2.( )内は低周波空気振動による苦情件数で、外数である。


対馬における土壌汚染対策事業
対馬における土壌汚染対策事業


土壌汚染



 土壌汚染とは、大気の汚染、水質の汚濁などを通じてカドミウム、銅、ひ素などの有害物質が農用地に蓄積し、農作物が育たなくなったり、汚染されたりすることです。57年1月現在で、約4,820ヘクタールの農用地が対策を必要とする地域として指定されています。
 指定された地域では、「土壌汚染防止法」に基づき、かんがい排水施設の設置、客土などの事業が実施されています。

悪臭



 悪臭は生活環境を損なう感覚公害で、苦情は騒音に次いで多くなっています。このため、「悪臭防止法」に基づき、アンモニア、硫化水素などの8物質が悪臭物質として定められ、46都道府県、10大都市などで、規制地域の指定、規制基準の設定が行われています。

●悪臭に係る苦情の内訳
●悪臭に係る苦情の内訳
<備考>環境庁調べ


地盤沈下



 地盤沈下は大都市ばかりでなく、全国各地で認められています。現在、主な地域だけでも35都道府県59地域にのぼっています。地盤沈下の主な原因は、地下水の過剰な汲み上げであることが明らかにされています。このため、「工業用水法」などにより地下水の汲み上げの規制を行っています。あわせて、水の使用の合理化、水道の整備、ゼロメートル地帯などでの高潮対策などが実施されています。また、地盤沈下防止対策要綱の策定や法制の整備などの検討が行われています。

●代表的地域の地盤沈下の経年変化
●代表的地域の地盤沈下の経年変化

空きカン問題


 手軽で便利なカン入りの飲み物は、現在多くの人に利用され、年間ではl00億個にものぼるとみられています。しかし、「近くにゴミ箱がなかったから」「自動車に乗っていて始末に困ったから」などの理由で空きカンを投げ捨てる人が多く、各地で空きカンが散乱し、地域の環境美化の観点からも問題が生じています。特に、自然公園や名所旧跡などでは、観光客が投げ捨てたりした空きカンが散乱し、景観が損われています。
 空きカン問題は、1)投げ捨てをどのように防止するか、2)投げ捨てられた空きカンをどう回収するかが基本的な問題です。
 このため、地方公共団体では、条例の制定、清掃活動の推進、広報活動などを通じて、空きカン対策を活発に進めております。例えば、収集かごの設置、投げ捨て禁止の呼びかけなどです。
 政府も、環境庁など11省庁で「空きカン問題連絡協議会」を設置し、投げ捨て防止についてのPR、キャンペーン等を行っています。
 これからも空きカン問題の解決を図っていくためには、国、地方公共団体、消費者、企業、美化清掃活動へ参加するボランティア、住民などの空きカン問題に係わる人が協力しあって取り組んでいくことが必要です。
 なお、路上への不法な空きカンの投げ捨てについては、日常の警察活動を通じて、警告、指導などが行われています。

空きカンの散乱の状況
空きカンの散乱の状況

クリーン作戦
クリーン作戦

III 自然環境の現状と保全の推進


自然環境の現状


植生の状況



 我が国の自然環境は、変化に富んだ地形と豊かな緑に特徴づけられており、各地で多くのすぐれた風景が見られるとともに、様々な生き物のすみかとなっています。
 53年度から実施された第2回自然環境保全基礎調査では、人間活動の植物群落に対する影響という観点から、人間活動の影響を受けやすいカシ、シイなどの照葉樹林や尾瀬沼などの湿原について調べています。このうち照葉樹林はかつては日本各地で広く見られたものですが、今では、大変残り少なくなっており、しかも、残ったものについても鎮守の森など1つ1つの群落が小さく孤立しているものが多くなっています。また、湿原についても低地部を中心に改変が進んでおり、西日本では、規模も小さいことが明らかになりました。

尾瀬の湿原
尾瀬の湿原

野生動物の状況



 野生動物は、人間の生活と深くかかわっています。野生動物は、その動物に適した一定の条件の下で生きているので、野生動物が生きているかどうかによってその地域の環境の状況を知ることもできます。
 このことを前提に哺乳動物の分布状態を見てみますと、ニホンザル、シカ、ツキノワグマの3種類は、イノシシ、キツネ、タヌキなどに比べ分布域が縮小しています。また、これらとニホンザルなどの種がともに生息する地域は、中部山岳地帯などの自然性の高い山岳地帯等に限られています。
 また、我が国には約10万種の昆虫類がすんでいると考えられていますが、乱獲、森林伐採、宅地造成などによって、全国に広く分布していた種類でも、残り少なくなっているものもあります。特に、東京や大阪では姿をみかけなくなったものもあり、タガメやハッチョウトンボなど、かつて全国に広く分布していた昆虫が、多くの地点でその姿を見つけにくくなっております。

ニホンザル
ニホンザル

●照葉樹林分布図
●照葉樹林分布図
(備考)環境庁「特定植物群落調査」


●ニホンザル・シカ・ツキノワグマ重複生息域
●ニホンザル・シカ・ツキノワグマ重複生息域
(備考)環境庁「動物分布調査」


水辺環境の状況



 我が国は、四面を海で囲まれていることに加え、地形が複雑で、年間降水量が多いこともあって、湖沼、河川、海岸などの自然の美しい景観を備えた水辺環境に恵まれています。しかし、こうした水辺環境も、次第に人の手が加わり変化してきています。
 湖沼の岸を見ると、水際線がコンクリート護岸等でできている人工湖岸の比率は湖沼全体で29%にも達しています。また、湖岸周辺の土地利用状況についても、湖沼全体では、23%が農業地、17%が市街地・工業地等として利用されており、自然の状態を保持している土地は54%です。
 河川についても、総延長11,414キロメートルに及ぶ我が国の主要河川のうち、19%が護岸等によって人工化されています。特に、瀬戸内海や九州西岸の内湾に注ぐ河川の人工化の程度は高くなっています。
 また海岸についても、北海道、本州、四国及び九州では、全体で人工海岸は海岸総延長の34%であり、自然海岸はわずか49%となっています。

千葉県行徳付近の海岸
千葉県行徳付近の海岸

自然をまもるしくみ


 自然は私達の精神文化に欠かすことのできない要素でもあるため、明治の中ごろから「森林法」など自然を保護する制度が定められてきています。しかし、当時の制度はまだ自然をまもることを主な目的とするものではありませんでした。これに対し、昭和6年に制定された「国立公園法」は、自然の風景地をまもることを主な目的としていました。この制度は、やがて32年には「自然公園法」へと受け継がれ、国立公園を始めとする自然公園の体系が確立しました。
 また、47年には、自然環境の保全を総合的に図るため、「自然環境保全法」が制定されました。この法律では、自然環境保全の基本理念や国、地方公共団体、事業者、住民の果たすべき役割などが規定されました。そして、これに基づいて、自然をまもり、適正に利用するための様々なしくみが整えられてきています。

自然環境保全地域



 「自然環境保全法」には、原生自然環境保全地域と自然環境保全地域が定められています。原生自然環境保全地域とは、自然環境が人の活動によって影響されることなく原生の状態を維持している区域であり、その自然環境を保全することが特に必要な区域を指します。自然環境保全地域とは原生自然環境保全地域以外の区域のうち、自然的、社会的諸条件から見て自然環境を保全することが特に必要な区域を指します。環境庁長官は、これまでに5ヵ所の原生自然環境保全地域と8ヵ所の自然環境保全地域とを指定しています。
 また、都道府県知事が指定した都道府県自然環境保全地域は約470ヵ所に及んでいます。

●自然環境保全制度体系図
●自然環境保全制度体系図

自然公園



 自然公園制度は、「国立公園法」制定以来50年を超える歴史をもっています。現在、「自然公園法」に基づいて、環境庁長官は、我が国を代表するすぐれた自然の風景地27ヵ所を国立公園に、国立公園に準ずる風景地54カ所を国定公園に指定しています。このほか、都道府県知事が、都道府県の風景を代表する風景地約300ヵ所を都道府県立自然公園として指定しています。
 また、「海のお花畑」と言われるような美しい海中の景観を維持するため、海中公園地区が指定され、現在までに57ヵ所(国立公園内27ヵ所、国定公園内30ヵ所)にのぼっています。
 自然公園を適正に管理し、利用し、風致景観を損なわないために、例えば、公園内に建物を新たに建てる場合などには許可を受けたり、届出をしなければならないことになっています。
 このように公園の中における行為は厳しい規制を受けますが、民有地のままでは保護の徹底が図れない土地を対象として、47年から国立公園の特別な地区の民有地を買い上げる制度もできました。この制度は、50年から国定公園に、51年から鳥獣保護区(特別保護地区のみ)にも適用されています。

南硫黄島全景
南硫黄島全景

●国立公園、国定公園および自然環境保全地域配置図(昭和57年8月15日現在)
●国立公園、国定公園および自然環境保全地域配置図(昭和57年8月15日現在)

●原生自然環境保全地域
●原生自然環境保全地域

●自然環境保全地域
●自然環境保全地域

●国立公園
●国立公園

●国定公園
●国定公園
<備考>指定年月日の年号は昭和


都市・森林の自然環境の保全



 都市の自然環境を保全するため、都市公園の整備が進められています。また、「都市緑地保全法」に基づく緑地保全地区などいくつかの都市の自然をまもるための制度が整備されています。緑地保全地区に指定された地域では、建物を新築したり、木をきったりすることが制限されています。
 また、国土の7割近くを占め、自然環境の保全の上からも大きな意味を持つ森林の保全のために、「森林法」に基づき林地開発許可制度の運用や保安林の指定が行われています。

都市公園(新宿)、超高層ビルが見える
都市公園(新宿)、超高層ビルが見える

鳥獣保護



 各種の開発等により、私たちのまわりから鳥獣の姿が消えつつあり、国民の間でも野生鳥獣の保護に対する関心が急速に高まってきています。環境庁では全国野鳥保護のつどいなどの愛鳥週間(5月10日〜5月16日)行事を実施し、鳥獣保護思想の普及を図っています。
 野生鳥獣は、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」により、その捕獲を禁止したり制限するとともに、生息環境の保全を図っています。このため、鳥獣保護区を設定し、特別保護地区を指定することにより、水面を埋め立てたり、木をきったりすることを規制しています。
 また、トキ、アホウドリや56年11月に沖縄県で発見されたヤンバルクイナなどの絶滅するおそれのある,鳥類については、「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」により、その売買などが厳しく規制されています。
 渡り鳥については、国際間の協力が重要です。我が国は、既に米国、オーストラリア、中国との間に渡り鳥を保護するための条約などを結んでいます。
 また、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」にも加入しています。




自然とのふれあい


 国立公園・国定公園などの自然公園の利用者は、年間延べ約8億人に及んでいます。一方、利用者が過度に集中し、自然が荒廃するおそれのある地区もあります。
 そこで、国や地方公共団体は、利用者の安全を確保するための施設や、過剰利用の解消に役立つ歩道、園地などを整備したり、自然公園指導員により公園利用の指導を行っています。




休養施設・野外レクリエーション施設



 余暇の増大に伴い、自然を求め自然に親しもうとする人々が増えています。このため、自然との調和を図りながら、自然公園などの休養に適する地に国民宿舎(345ヵ所)、国民休暇村(31地区)を整備するとともに、長距離自然歩道などの野外レクリエーション施設の設置を図っています。

岩手山麓国民休暇村
岩手山麓国民休暇村

国民の自発的意欲を生かした自然環境保全の推進


 自然保護のための民間の活動には、近年、種々のものが見られるようになりました。例えば、国民からの幅広い寄附をもとに、緑や野鳥などを保護したり、人と自然とのふれ合いの場を確保しようとするものがあります。このような自然保護活動としてはイギリスのナショナル・トラスト運動が有名です。
 このナショナル・トラスト運動の我が国での事例としては、北海道の斜里郡斜里町による「知床100平方メートル運動」や財団法人・日本野鳥の会による「バード・サンクチュアリ運動」等があります。
 また、都市化の進む中で、ともすれば見過ごされがちであった居住地周辺の身近な自然の価値に対する意識も高まっています。そのようなものとして市民による海岸線買取り運動(和歌山県田辺市)や、河川環境保全のための活動があります。
 56年の「自然保護に関する世論調査」をみますと、今まで自然保護運動に参加したことがなくても「これから自然保護運動が身近に行われれば参加したい」と考えている人が5割にものぼるなど、自然保護活動に対する参加意識が高まってきていることが示されています。
 国民全体の財産である自然環境については、公共的に保護を図ることが基本ですが、同時に、自然環境の保全についての理解と認識を深め、国民全体で自然をまもり育て、利用していくことが大切です。

北海道苫小牧市ウトナイ湖畔バードサンクチュアリ
北海道苫小牧市ウトナイ湖畔バードサンクチュアリ

IV 経済社会活動と環境問題


経済成長と環境問題


経済社会活動の拡大



 我が国は戦後の復興期以来、着実な経済成長を続けてきました。特に、昭和30年代の半ばから第一次石油ショックまでの十数年間は、世界に類を見ない高い経済成長を実現しました。
 実質国民総生産は昭和35年から44年の間に2.5倍、鉱工業生産は3.2倍、エネルギー消費は2.7倍に増加しました。
 この間、一人当たり国民所得は2.2倍になり、乗用車保有台数は15.3倍にもなるなど、消費生活も充実してきました。45年には電気洗たく機や電気冷蔵庫のある家庭もそれぞれ9割に達しています。
 我が国では、限られた国土に世界でも有数の工業生産活動が営まれているなど、極めて密度の高い経済社会が形づくられています。このことは、可住地面積(国土全体から森林、水面等を除いた部分)当たりでみた国民総生産、乗用車保有台数、エネルギー消費が45年時点でそれぞれアメリカの17倍、6倍、9倍となっていることにも示されています。

●OECD諸国における主要経済活動の指標  (1965年−1975年の伸び率)(%)
●OECD諸国における主要経済活動の指標  (1965年−1975年の伸び率)(%)
(備考)1. OECD「OECD加盟国の環境の状況」(54年)
    2. 国民(内)総生産は1970年の価格と為替レートを使用
    3. オーストラリア、ニュージーランドの工業生産はオーストラリアの伸び率


環境汚染の拡大



 経済が拡大し、生産活動が活発になっていくにしたがって、工場から排出される汚染物質の量も増加を続けました。発展する地域の象徴とされた煙突と黒煙は、やがて公害のシンボルとなりました。
 高度経済成長時代には、環境汚染も著しく進み、四大公害事件(イタイイタイ病、熊本水俣病、新潟水俣病、四日市ぜん息)などのように、人の生命・健康にまで被害が及ぶことになりました。
 戦後早くからコンビナートが形成されてきた四日市地区では、住居地区の周囲を工業地区が囲むように、企業が集団的に立地し、操業が行われました。その過程で風向・風速などの気象条件も加わって、ぜん息患者の増加など、大気汚染による健康被害が生じました。
 さらに、45年になると光化学スモッグやヘドロの蓄積など、それまで知られていなかった汚染問題が次々に表面化し、大きな社会問題となりました。

自然の改変



 戦後の経済社会活動の拡大と都市化の波の中で、自然環境にも大きな影響がもたらされました。
 戦後の復興期には、生活難を克服することが第一で、そのための開発が行われ、現在からみるとすぐれた自然景観が、やむを得ず失われた例も見られました。
 高度経済成長時代には、自然公園内で観光道路が次々と建設されるなど、観光のための開発が自然改変の大きな原因となってきました。特に愛媛県の石鎚スカイライン、山梨県の富士スバルラインなどの山岳の観光道路は、周辺の景観や森林の動植物の保護にとって大きな問題となりました。
 また、工場建設などのために埋め立てが進められましたが、このため、自然の海岸線が減少し、景観が破壊され、レクリエーションの場が失われるなどの事例が現れました。
 都市部では宅地開発が進められ、緑地などの自然環境が大きく改変されてきました。

富士スバルライン四合目附近・昭和48年7月
富士スバルライン四合目附近・昭和48年7月

環境問題と世論


 環境汚染や自然改変が進むとともに、環境問題に関する社会的関心が高まってきました。政府の実施している公害に関する世論調査でその動向を見てみましょう。
 産業の発展と公害の発生の関係については、「産業の発展のためといっても公害の発生は許せない」とする比率が高くなっています。
 被害を受けた公害の発生源としては、交通機関が最も多く、次いで事業活動、都市生活によるものなどとなっています。また、事業活動によるものが減少しているのに対し、都市生活によるものは増加してきています。
 公害の先行きについては、「ますますひどくなる」という意見が増加傾向にあります。
 他方、快適な環境を実現する上で必要な事項としては、「豊かな緑」、「さわやかな空気」、「のびのびと歩ける道や歩道」などが重要な要素として挙げられています。

●産業の発展と公害の発生について
●産業の発展と公害の発生について

●公害被害の発生源に関する意識(単位:%)
●公害被害の発生源に関する意識(単位:%)

環境問題をめぐる諸要因の変化


公害防止対策の進展



 国や都道府県などでは、法律に基づく排出規制のほか、土地利用の規制、社会資本の整備などを行っています。
 さらに、これらの公害防止施策を補充・強化し、未然防止の観点をも含む公害防止協定の役割が昭和40年代前半に注目され、協定の数は急速に増加しています。地方公共団体と協定を結んだ事業所の数は、45年度の496から56年度には19,670となっています。
 国・地方公共団体の施策に対応して、事業者は生産方法の転換、公害防止装置の設置など、公害防止対策を進めてきました。これを大企業の公害防止投資についてみますと、45年度には2,800億円(50年価格)でしたが、その後の規制基準の設定・強化、規制対象の拡大に対応して、急速に増加し、50年度には9,600億円に達しました。
 51年度以降、既設の生産設備に対する公害防止施設の設置がほぼ一巡したと見られることなどもあって、公害防止投資は減少しましたが、最近では再び増える気配も出てきています。
 中小企業の公害防止投資の動向についても、大企業と同じような動きとなっており、48年度をピークに減少しましたが、最近では緩やかに増加しています。

●年度別排煙脱硫装置設置状況
●年度別排煙脱硫装置設置状況

●自動車排出ガス規制効果の推移
●自動車排出ガス規制効果の推移

産業構造の変化



 48年の第一次石油危機、54年の第二次石油危機の際には石油価格が大幅に上昇しました。全エネルギーの4分の3を輸入石油に依存していた我が国は、大きな影響を受けました。特に、基礎資材型産業では、原材料やエネルギーコストは上昇し、国内での需要が伸び悩み、国際競争力も弱まり、生産や出荷の伸びが鈍化しました。一方、電子製品や精密機械などに代表されるような加工組立型産業は、技術革新が進み、輸出も大幅に増加し、製造業に占める比率を高めてきています。
 一般に基礎資材型産業は、エネルギーや製品処理用水などの単位使用量が多く、環境への負荷が相対的に大きいのに対し、加工組立型産業は、相対的に小さいとされています。このことから、加工組立型産業の生産の伸びが大きかったことは、全体として負荷量の増加を抑える効果をもたらしたと言えます。

●硫黄酸化物の排出量の変化
●硫黄酸化物の排出量の変化

●COD排出量の変化
●COD排出量の変化
(備考)1.環境庁「ばい煙処理装置の設置実態」、通商産業省「鉱工業出荷指数」、「稼動率指数」、「工業統計」、「総合エネルギー統計」、OECD「環境政策のマクロ経済的評価」、石油連盟資料等により試算。
    2.産業構造の変化は、50年と55年で出荷の業種ごとの構成比が変ったことによる効果。
    3.省資源、省エネルギーの効果は、それぞれ用水量、エネルギー消費量節減率から産業構造の効果を除き求めた。
    4.燃料転換の効果は50年とエネルギー構成比の差分から求めた。
    5.除去量の増加等は、除去設備の増加と稼動率により求めた。


省資源・省エネルギー



 省資源・省エネルギーの動きが進んでいます。これは、資源・エネルギー価格の高騰、供給の不安などに対して、政府・民間が一体となって省資源・省エネルギーに取り組んだことによります。特に、企業がより一層経費節減を進めるため、多くの工程にわたって省資源・省エネルギーのための合理化努力をしたことが挙げられます。
 省資源・省エネルギーは、生産活動に伴って生じる汚染物質の量を減らすことにより、環境汚染を減らすのに役立ったと考えられています。




石炭利用の拡大



 最近、石油の代わりに石炭を燃焼させるボイラーなどが増加しています。しかし、石炭は石油に比べて、一般に大気汚染物質の発生量が非常に多いとされています。今後とも、環境を守るために、十分な公害防止対策を続けていくことが必要です。
 また、ほとんどの場合、石炭が燃焼した後には大量の石炭灰が残ります。石炭灰の大部分は埋め立て処分されますが、瀬戸内海などの貴重な海岸線への埋め立ては避けたいものです。




都市化の進展・消費の拡大



都市化の進展
 高度経済成長は、工業化を軸に、地域的には三大都市圏を中心に進みました。このため、就職・就学などの機会を求めて大都市へ人口が集中しました。しかし、昭和40年代後半になりますと、地方での雇用機会の増加、大都市の生活条件の悪化などもあって、地方圏での都市化が進んできました。
 都市では、産業の立地、人口の集中のため、森や林、農地などが次々に失われ、市街地にとって替わっています。

消費の拡大
 所得が増加し、生活が豊かになるにしたがって、消費生活も充実してきました。ステレオ、カラオケ、自動車など、大きな音を生ずるものも普及してきました。都市では、住宅が密集していることなどから、生活に伴って発生する音が隣近所には騒音として問題になっています。

日野市(東京都)附近の造成地・昭和57年8月
日野市(東京都)附近の造成地・昭和57年8月

 また、ゴミの量も増加しています。都市には、ゴミの捨て場所として適当な場所がなかなか見つからず、大量に出るゴミをどこで処分するかが問題になっています。さらに、ゴミの中には有害な物質を含んでいることもあり、処理の難しいものも増えてきています。

ゴミ処理場(東京都)・昭和56年12月
ゴミ処理場(東京都)・昭和56年12月

交通公害
 都市化や消費の拡大を支えたものとして、自動車を挙げることができます。しかし、交通量の増加、道路構造など様々な要因が複雑にからみあって、自動車交通による騒音・振動などの深刻な公害が生じています。
 このうち、騒音についての環境基準の達成率を見ますと、17%程度と低く、場所によっては夜間でも70ホンを超すところがあり、対策を緊急に必要とする状況にあります。
 また、都市では、窒素酸化物による大気汚染の改善が進んでいませんが、このかなりの部分が自動車から発生していると考えられています。
 ディーゼル大型車は、ガソリン乗用車に比べて窒素酸化物の排出が多いのですが、技術的問題もあって、対策が進んでいません。これまでの規制により、新たに製造される車両は、10年前に比べ1台当たりの排出量は約半分に減りますが、走っている自動車の数が非常に増えていることを考えると、対策の一層の進展が求められています。
 航空機については、離着陸時の騒音が大きく、飛行場周辺の住民の苦情も大きいことから、深夜や早朝の飛行の禁止、騒音の少ない飛行機の採用、飛行場周辺の建物の防音工事などを行っています。

国道15号線(第一京浜)
国道15号線(第一東浜)

水質の汚濁
 現在、都市域の拡大が各地で急速に進んでいますが、下水道の整備が十分でないこともあり、宅地開発に伴って、大量の生活雑排水などの汚水が、河川に流れ込んでいます。このため、都市内を流れる中小河川では汚濁が進み、また、このような河川が流れ込む湖沼などの汚濁も深刻なものがあります。
 こうした水域の水質保全対策としては、下水道整備を促進するとともに、下水道が未整備な地域では、し尿浄化槽の適正な維持管理、雑排水処理対策などを進めていく必要があります。

神田川(東京都)の汚濁・昭和47年6月
神田川(東京都)の汚濁・昭和47年6月

V 環境の総合的管理


 今後着実に環境の質を向上させていくためには、多様化し高度化している国民の環境に関する意識を考えながら、環境問題の変化と広がりに的確に対応していく必要があります。そのためには、環境のもつ様々な機能に留意しながら、環境の総合的管理を進めていかなければなりません。
 その際、これまで進めてきた公害を防止することや、自然環境を保全することだけでなく、環境影響評価制度の確立を始めとする環境汚染、自然破壊を未然に防止する体制を整備し、充実していくことが大切です。さらに、一歩進めて望ましい環境を保全し、創造していくための具体策が求められています。

●地方公共団体における環境影響評価の制度化の動向(57年8月現在)
●地方公共団体における環境影響評価の制度化の動向(57年8月現在)

環境汚染の未然防止


 公害や自然環境の破壊は、いったん起こるとその対策には多くの年月と費用がかかり、また、元の状態にもどすことは困難です。そのため、各種事業の実施に際し、その影響を事前に調査、予測、評価し、その結果を公表して、地域住民等の意見を聴き、十分な公害防止等の対策を講じようとする環境影響評価制度の確立が急がれています。
 環境影響評価は、外国でも、重要な課題となっており、アメリカを始め西ドイツ、フランスなどの国々においても、それぞれの国の事情に応じて実施に移されています。
 我が国でも、昭和47年の「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解以降、本格的な取り組みが始まりました。その後48年には、港湾法の一部改正により、重要港湾の港湾計画の策定に際しては、環境に与える影響を事前に評価することとされました。また、公有水面埋立法の改正により、公有水面の埋め立てについても、環境影響評価が義務付けられることとなりました。道路などの公共事業、新幹線の建設、発電所の立地などに際しては行政指導によっても環境影響評価が行われています。
 地方公共団体でも、環境影響評価の取り組みが進められています。条例・指導要綱等に基づいて、環境影響評価の実施や組織体制の整備が図られつつあります。57年8月現在で、都道府県や十大都市のうち、条例を制定しているのは、北海道・東京都・神奈川県・川崎市であり、要綱などを制定している団体は、福岡県・兵庫県・岡山県・神戸市・横浜市など16団体になっています。
 このように、現在、環境影響評価は、特定の事業ごと、地域ごとに実施されてきています。しかし、その手続などはそれぞれ異なっており、評価手順等が十分整備されていないものもあります。このため、政府においては、環境影響評価法案を取りまとめ、国会へ提出したところです。

本州四国連絡橋・完成予想図
本州四国連絡橋・完成予想図

快適な環境づくり


 環境の総合的管理とは、土地や水や生物などの限りのある環境資源の利用を、総合的、計画的な環境保全の視点に立って、調整していこうとするものです。そのためには、地域ごとの環境の特性をとらえ、それを考慮して、望ましい地域の環境管理を進めていくことが重要です。このことは各地で進められている美しく住みよい町づくり、村づくりといった快適な環境づくりにも応えることになるものです。
 快適な環境は、単に安全であるとか、衛生的であるとか、便利であるとかといった物的な面での住みやすさだけでなく、人々に心のやすらぎやうるおいを与えるものでなければなりません。このためには、地域にある緑、水辺、歴史的、文化的な遺産、近代的な都市の美しさなどを生かしていく必要があります。
 快適な環境づくりは、それぞれの地域の自然的、経済的、社会的な特性を生かし、地域住民の中から盛り上がってくる熱意とコンセンサスをもとに進めていくことが重要です。
 国では、快適な環境づくりに関する情報を提供したり、そのような環境をつくるための方法を示したりして、地方公共団体や地域住民の活動を助けたり、補ったりすることを進めています。

岡山市・西川緑道公園・昭和57年
岡山市・西川緑道公園・昭和57年

鹿児島市グリーンストーム作戦・昭和57年
鹿児島市グリーンストーム作戦・昭和57年

鹿児島県知覧町・歴史的町並み・昭和57年
鹿児島県知覧町・歴史的町並み・昭和57年

環境の総合的管理の推進


 経済社会諸活動は、地域の自然的、社会的条件を考慮して、環境の受容能力の範囲内で行われることが望まれます。また、土地、水などの環境資源をむだに使ったり、使い尽してしまうことなく、すぐれた環境を将来の世代に引き継いでいくという考え方に立って進めることが必要です。そのため、環境問題に対する幅広い政策の指針として、環境管理システムを確立することが望まれます。
 環境管理計画は、地域環境の望ましいビジョンを明らかにし、その実現の仕方を示すことをねらいとするものです。環境管理計画は、土地、水、生物など限りある環境資源を適切に保全、利用するという考え方に立って、公害の防除、環境汚染の未然防止、より良い環境づくりなどの総合的な環境管理のための様々な施策を結びつけて、総合的、計画的に政策を進めようとするものです。
 今後国は、地方公共団体に示すことのできる環境管理の指導理念や環境管理計画の策定手法などについて検討し、また、全国的な規模での事業、施策と地域環境管理計画との整合性を図り、地域間の調和を保つよう配慮していくことが必要です。
 環境管理計画は、地域環境の望ましいビジョンに基づく具体的な目標、環境の利用が適正に行われるための指針、目標達成のための施策から構成されます。
 例えば、地方公共団体では地形、地質などの地域の自然条件についての情報をもとに様々な自然作用の性質を地図に表示し、環境資源を利用するに際しての環境保全上の制約条件などを明らかにするための努力が払われています。




VI 地球的規模の環境問題


経済活動の世界的拡大


 環境問題は国内にとどまらず、国際的な影響も大きく、全地球的にも拡大してきています。地球的規模での環境問題は、世界的な生産活動の高まり、特に開発途上国の貧困と人口増加の悪循環、それから脱出するための経済開発によってもたらされている面が大きくなっています。
 国連では、1975年から2000年の間に世界人口は21億5,000万人増加し、このうち90%強が開発途上国で増加すると推計しています。また、世界銀行は、2,000年には、中国を除く開発途上国で、絶対的貧困状態の人口が6億3,000万人から8億5,000万人に達する可能性もあるとしています。
 開発途上国の経済成長は、工業化と農業開発によって進められています。焼畑農業などで森林が焼かれ農地が拡大し、肥料や農薬の利用も増大しています。また、エネルギーの需要も増え続けており、価格の高騰した石油等の代りに木材が大量に使用されることも森林減少の一因となっています。

●世界の人口推移と予測
●世界の人口推移と予測
(備考) 財団法人 人口問題研究会「世界の将来人口」(54年12月)


広がる環境汚染


 東アジア、太洋州地域などの経済成長率が比較的高い中所得国では、先進工業国と同じように公害が生じてきています。
 また、世界的に人口が増加し続ける中で、森林は減少し、砂漠化が進み、土壌の流失が起きています。
 例えば、森林の減少について見てみますと、アジアでは、毎年約500万ヘクタールの森林が減少しています。これは、我が国の中国地方と四国地方とを合わせた面積とほぼ同じ広さです。森林は、洪水を防いだり、水を貯えたり、野生動物のすみかとなったり、様々な役割をもっています。このため森林が減少しますと、土壌が流失したりして大きな被害が生じ、野生動物にも大きな影響が及びます。実際、サルクイワシなどは絶滅の危機に直面しています。
 地球的規模での環境問題の広がりは、自然環境の改変だけにはとどまりません。開発途上国では、農業開発を進めるために肥料や殺虫剤などを、かつてと比べると非常にたくさん使うようになってきています。このため大気や海水の汚染が拡がっていくことが気がかりな状態になっています。最近、日本の調査団が南極まで往復したとき、途中の海水中に含まれるDDTやPCBの濃度を測ったことがあります。それによりますと、今や南極でもDDTやPCBが検出されています。化学物質による汚染が地球的規模で拡がってきていると言ってよいのではないかと思われます。

●国民総生産及び1人当たり国民総生産の伸び1960-80年
●国民総生産及び1人当たり国民総生産の伸び1960-80年
<備考>世界銀行「世界銀行年次報告 1980」


●海水中のDDT濃度
●海水中のDDT濃度

国際協力の推進


国連人間環境会議の開催とUNEP(国連環境計画)の発足



 1972年のスウェーデンのストックホルムでの国連人間環境会議は、環境問題についての最初の世界的な政府間会議でした。また、113ヵ国が参加するなどその開催は画期的なものでした。この会議では、人間環境宣言とその宣言を実現するための具体的な行動方針を示す勧告を採択しています。
 UNEPは、この勧告を受けて発足しました。UNEPの主な仕事は様々な国連機関が行っている環境関係の活動を調整し、環境の分野での国際協力を促進することにあります。

ナイロビ会議で演説する原長官・昭和57年5月
ナイロビ会議で演説する原長官・昭和57年5月

UNEPの主要成果(国連環境計画)



 UNEPは、環境汚染の実態の把握と環境汚染に対する規制はもちろんのことですが、さらに範囲を拡げて資源問題、生活環境など非常に広い分野を対象としています。UNEPが策定している計画は大きく分けて1)環境の現況把握、2)個別問題への対応計画、3)支援措置の3つになります。
 環境の現況把握については、資源モニタリング、汚染モニタリング、自然災害モニタリングなどからなるGEMS(地球環境モニタリング・システム)などが計画され実施に移されています。
 個別問題への対応としては開発途上国での貧困がもたらす問題を始め、種々の環境問題がとりあげられています。
 支援措置としては、環境教育と訓練、技術援助などが行われています。
 例えば、環境教育については、UNEPの支援の下でUNESCO(国連教育科学文化機関)が実施しています。1977年にはソ連のトビリシで国連環境教育会議が開催されるなど、様々な会合がもたれ順調に発展しています。
 UNEPは、さらに最近では、地球的規模の環境問題への取り組みを強めてきています。砂漠化の進行に例をとりますと、1977年ケニアのナイロビで国連砂漠化防止会議が開催されました。この会議は、国内地域行動計画と国際行動計画からなる行動計画を採択しました。このような活動により、各国で地球的規模の環境問題に対する理解は次第に深まってきています。
 1982年5月には、国連人間環境会議10周年を記念し、UNEP管理理事会特別会合がケニアのナイロビで開かれました。同会合には、世界各地から国家元首、環境担当大臣等をはじめ、関連国際機関等から多数の代表者が出席し、国連人間環境会議で採択された行動計画の達成状況の検討や今後10年間にUNEPが優先的に取り組むべき主な問題等についての検討が行われました。その結果、地球環境の現状と地球環境保全のための人類の責任について述べた「ナイロビ宣言」、ストックホルム世界環境行動計画の主要な成果等からなる「1982年の環境・回顧と展望」、我が国の提案した、21世紀の地球環境の理想像を模索し、これを実現するための戦略を検討するための特別委員会に関する決議等が採択されました。これらの「ナイロビ宣言」等は、国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」、「世界環境行動計画」を補うものとして、今後の世界の環境保全に、重要な意味を持つものと思われます。




OECD環境委員会の主要成果(経済協力開発機構)



 OECDは、世界の先進工業国24ヵ国が集まって作っている国際機関です。そして、1)経済成長、雇用の増進と生活水準の向上、2)開発途上国の援助、3)多角的な自由貿易の拡大という3つの目標を掲げ、失業、インフレーション、資源・エネルギー問題など幅広い分野で活発な活動を展開しています。
 環境保全の分野では、1970年7月に環境委員会が設置され、環境問題に関する専門的な検討が開始されました。1960年代の全世界的な環境問題に対する認識の高まりを背景に、様々な問題を加盟国政府が共同で解決することを目指したものです。
 これまで1974年11月と1979年5月の2度にわたり環境大臣会議が開催され、環境政策の進むべき方向についての討議が行われました。このようなOECDでの協議の結果は、各国政府が環境政策を企画、推進し、国際協力を進めていく上で重要な役割を果たしています。なお、環境委員会は、1976〜77年に日本の環境政策についてのレビューを行いました。そのレビューは、日本の環境政策に概して高い評価を与えており、また、その後の日本の環境政策の改善にも大いに役立ったと言われています。
 これまでOECDの対象とする環境問題はどちらかといえばOECD域内の問題に限定されていました。しかし、アメリカの「西暦2000年の地球」、OECDの「インターフューチャーズ報告(世界の未来像)」、我が国の「地球的規模の環境問題に対する取組みの基本的方向について」などで、地球的規模での資源、環境問題の重要性が指摘されたことを背景に、地球的規模での問題へ目が向けられるようになりました。1981年4月に開催された環境委員会設立10周年記念特別会合ではこうした問題を、今後OECDとして取り上げていくことが確認されました。

OECD会議
OECD会議

環境問題における国際協力の重要性と日本の貢献



 1972年の国連人間環境会議をきっかけに、環境問題に関する各国の認識は格段に高まってきています。先進工業国では、環境政策の整備が急速に進められてきております。経済成長の著しい中所得国でも、環境汚染が進んできたため、環境政策の整備に着手してきております。また、開発途上国では、貧困がもたらす様々な問題の解決を進めるかたわら、地球的規模の環境問題に関する認識も深めてきています。
 地球的規模の環境問題の影響は世界の大多数の人々に及び、その解決は究極的には世界のあらゆる国の利益になると言えるものです。このため1981年7月カナダのオタワで開催された主要国首脳会議の宣言には、我が国の提案に基づき「我々の長期経済政策を策定するに当たっては、地球の環境及び資源基盤を保全するよう配慮が払われなければならない」と明言されています。
 このように環境問題の解決に当たって、国際協力の重要性が次第に高まってきており、我が国への期待にも大きいものがあります。経済成長を達成しつつ環境汚染対策を進めてきた我が国の経験は、経済開発が第一義的に必要な開発途上国にとっては、大きな参考になるものと思われます。開発プロジェクトの内容に対する配慮も必要です。世界銀行が開発途上国の開発プロジェクトの審査の際に、環境への配慮も重視しているように、我が国も援助や、企業の海外立地の際には、環境保全に十分配慮していくことが重要です。
 我が国は、これまでの環境汚染防止の経験を基礎にして調査研究を進めていくことが世界の国々に対しても貢献していくことになります。特に海洋国日本としては、海洋汚染についての調査研究を進めていくことが、地球環境の保全のための我が国の積極的な姿勢を示すことになると考えられます。

キリマンジャロとヌー
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