環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 SDGsの各ゴールの関係と世界の現状

第2節 SDGsの各ゴールの関係と世界の現状

1 SDGsの各ゴールの関係

(1)SDGsのゴール・ターゲット間の関連性に関する研究

2030アジェンダにおいて、SDGsは「世界全体の普遍的な目標とターゲットであり、これらは、統合され、不可分のもの」であり、「持続可能な開発の三側面をバランスする」と随所で強調されています。一つのゴールやターゲットのみの達成を目指すことは、時として他のゴールやターゲットの達成を妨たげる可能性があります。さらに、近年のグローバル化と製品やサービスの国際貿易の拡大に伴い、ゴール間の関連は国境を越えることになり、その相互影響力は更に強く、複雑になります。現在、SDGsのゴール・ターゲット間の関連性に関する研究が世界各地で行われています。

コラム:持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究

2013年度より環境省が環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトの一つとして実施した「持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究―地球の限られた資源と環境容量に基づくポスト2015年開発・成長目標の制定と実現に向けて―」では、「持続可能な開発」の概念を、従来の「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」に加えて、「地球の生命維持システムの保護」の重要性を明示することで、「現在及び将来の世代の人類の繁栄が依存している地球の生命維持システムを保護しつつ、現在の世代の要求を満足させるような開発」へと広げることを提案しています。人間が持続可能な経済活動や社会活動を営む前提として、地球環境が健全である必要がありますが、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)で示したとおり、人間活動に伴う地球環境の悪化はますます深刻になってきており、我々の生命活動自体が危機に瀕していると言えます。この概念を分かりやすく整理したものが、環境、経済、社会を三層構造で表した木の模式図です。木の枝には、環境、社会、経済の三層を示す葉が繁り、木を支える幹は、ガバナンスを示しています。木の根に最も近い枝葉の層は環境であり、環境が全ての根底にあり、その基盤上に社会経済活動が依存していることを示しています。また、木が健全に生育するためには、木の幹が枝葉をしっかり支えるとともに、水や養分を隅々まで行き渡らせる必要があります。木の幹に例えられているガバナンスは、SDGsが目指す環境、経済、社会の三側面の統合的向上を達成する手段として不可欠なものです。また、模式図の三層それぞれに、関連の深いSDGsのゴールを当てはめてみると、ゴールが相互に関連していることが一層理解しやすくなります。

環境、経済、社会を三層構造で示した木の図
(2)食品ロスを例とした各ゴール・ターゲットの関係

ターゲットを通じたゴール間の関連性について、環境に深く関係する持続可能な生産と消費の観点から具体的に見ていきます(図1-2-1)。ターゲット12.3「小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品の廃棄を半減させ、収穫後損失等の生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」ことの達成を目指した場合、同じゴール内のターゲット12.2(天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用)及び12.5(廃棄物の発生の大幅削減)を同時達成できるだけでなく、有限な食料資源の効率的な利用が経済生産性及び資源効率の向上に寄与するため、「ゴール8(雇用)」における、ターゲット8.2(高いレベルの経済生産性)及び8.4(資源効率の改善)も同時に達成できると考えられます。

図1-2-1 ターゲット12.3と他ゴール・ターゲットとの相関関係

さらに、食品の廃棄や食品ロスの削減は、気候変動対策とも深く関係します。食品廃棄物の約8割が水分と言われており、焼却炉への投入量が減れば、焼却時のエネルギーロスの削減につながります。また、遠方から航空や船舶により必要量以上の食料を輸送することは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出増加につながります。持続可能な農業が実践されておらず、農作物の生産のために必要な農耕地を得るため、温室効果ガスの一つであるCO2を吸収する森林を伐採して農地に転用したり、森林が回復するのを待たずに無計画な焼畑を実施したりすると、森林資源を大幅に劣化させることがあります。需要以上の食料の生産は、この問題に拍車を掛けます。この観点から、政府全体で食品の廃棄や食品ロスの削減を目指すことは、「ゴール13(気候変動)」のターゲット13.2(気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む)ことを同時達成することができます。加えて、食品原材料の損失が減少したり、一部の地域に需要量を超えた食料が集中することがなくなれば、「ゴール2(飢餓)」にも貢献します。

また、ターゲット12.3の達成に当たっては、他のゴール・ターゲットが効果を及ぼします。「ゴール4(教育)」のターゲット4.7の推進を通じて、人々が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを獲得することで、一人一人が食品ロスを削減しようと意識し、実際の行動につながります。さらに、「ゴール9(インフラ)」のターゲット9.4(資源効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大)を通じ、インフラ改良や産業改善を目指すことは、食料の需要を正確に把握した効率的な食料の輸送や、食品の加工・保存技術の向上を可能にし、食品の廃棄や食品ロスの削減に貢献します。また、開発途上国では、生産工程が産業化・効率化されておらず、食品原材料の損失が生じることがありますが、ターゲット9.4の達成を目指すことで、この問題が解消する可能性があります。そのほか、「ターゲット17(パートナーシップ)」の推進は、国境をまたぐ食品サプライチェーン全体を通じた食品廃棄物及び食品ロス削減の取組を容易にすることで、ターゲット12.3の達成に貢献します。

このように、ターゲット12.3の食品ロスの達成を目指すには、様々なゴール・ターゲットが相互に関係してきます。SDGsのゴール・ターゲットは統合され、不可分のものであるという考え方に基づきSDGs全体を俯瞰する視点を持ってその達成を目指すことで、様々な課題の同時解決につながります。

2 SDGsの各ゴールに関する世界の現状

SDGs達成に向けた世界の現状は、各ゴールや各地域で様々な段階にあります。しかし明らかなことは、地球環境の悪化は無視できないものとなり、1972年のストックホルム宣言の「我々は、我々の生命と福祉が依存する地球上の環境に対し、重大かつ取り返しのつかない害」を与えてきているという事実と、SDGsの各ゴールは、先進国も開発途上国も一様に関係しているという点です。2015年に採択された、SDGsを中核とする2030アジェンダは、国際社会がこの現状に真剣に向き合い、持続可能な開発に向けた取組を加速させる気運を作り出したと言えます。同じくストックホルム宣言の「十分な知識と賢明な行動をもってするならば、我々は、我々自身と子孫のため、人類の必要と希望にそった環境で、より良い生活を達成することができる」という持続可能な開発の理念を今一度認識し、私たち一人一人がその実施に向けて進んでいく必要があります。

持続可能な開発の実現を目指すためには、各ゴールの内容とその達成状況を把握した上で、SDGsを統合的に捉えることが必要です。本項では、SDGsのゴールに関する世界の現状について、ゴールごとに概説します。

(1)ゴール1(貧困)
ゴール1(貧困)

世界人口のうち、一日当たり1.9ドル未満で生活する極度の貧困状態にある人の割合は、2012年は12.7%であり、1990年の37.1%から約3分の1まで減少しました。しかし、2012年に極度の貧困状態にある人の人数は約9億人であり、世界で8人に一人が極度の貧困の状態で生活していることになります。さらに、貧困の割合は世界で一律ではありません。アフリカのサハラ砂漠より南に位置するサブサハラ地域では、40%以上の人が極度の貧困状態にあります。

(2)ゴール2(飢餓)
ゴール2(飢餓)

世界人口に占める栄養不足人口の割合(栄養不足蔓延率)は、1990年~1992年の18.6%から2010年~2012年の11.8%に低下しました。世界農業機関(FAO)による最新の推定値では、2014年~2016年の栄養不足蔓延率は更に低下し、10.9%になっています。しかし、2014年~2016年においても、世界で約7億9,500万人が食料を十分に確保することができず、飢餓に苦しんでいることになります。

持続可能な農業は、飢餓の撲滅のみならず、環境負荷の低減にも寄与します。我が国では、単位面積当たりの化学肥料使用量は、欧州諸国と比較すると高いことがわかっています。過剰な施肥は農業の経営的な側面でも合理的ではない上、水質汚染を引き起こしたり、地球温暖化の原因となる一酸化二窒素を発生させ、環境に悪影響を与えます。我が国では、化学肥料や農薬の使用等による環境負荷の低減を目指す環境保全型農業を目指す支援策を行っています。地力の維持・促進と化学肥料・化学合成農薬の低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)認定制度や、有機農法促進支援等を実施しています。

コラム:食料危機の解決策の一つは昆虫食?

人口増加に伴う食料需要増加とそれに伴う耕作地の増加に対応するとともに、気候変動への適応の一助として昆虫食が注目を集めています。2013年に、FAOは気候変動への解決策の一つとして昆虫食を提案する報告書をまとめています。昆虫は、鶏・豚・牛肉、海洋魚と比較しても栄養価が高く、タンパク質豊富で良質な脂肪が含まれており、カルシウム、鉄、亜鉛も多く含んでいるため、健康的な食物と言えます。さらに、多くの家畜と比較し、成長の際にメタンを始めとする温室効果ガスの排出量が極めて少なく、土壌に負荷を掛けることもありません。同量のタンパク質源となるために、牛の12分の1、羊の4分の1、豚とブロイラーの2分の1の飼料しか必要としません。昆虫食は、人間の健康に良いだけでなく、食料生産のための環境負荷も低減させるのです。

我が国では、江戸時代以降庶民が昆虫を食べていた記録が残っています。大正時代のアンケートを通じた食用・薬用昆虫の全国的な調査では、ハチ14種を始め、ガ類11種、バッタ類10種等、合計55種に及ぶ昆虫が食されており、内陸の長野県の17種を筆頭に、41都道府県に達しています。長野県では、今も昆虫の缶詰が販売されているほか、「蜂の子」は高級食材として人気があります。また、イナゴは、甘露煮や佃煮として日本各地で販売されています。

長野県で販売されるイナゴの佃煮
(3)ゴール3(健康な生活)
ゴール3(健康な生活)

SDGsの「ゴール3(健康な生活)」のターゲット3.9では、「2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる」ことを目指しています。化学物質は、近代的な日常生活と工業生産に不可欠なものですが、その不適切な管理や利用は、環境汚染のみならず人類への健康被害も引き起こします。世界には1億100万以上の有機、無機の化学物質が存在しています。そのうち20万以上の化学物質が商業的に流通しており、毎年1,000種類以上の新しい化学物質が市場に現れます。化学物質は経済成長と社会の発展に大きく貢献していますが、環境と人間の健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。

世界保健機関(WHO)によると、世界では毎年約20万人が、重金属、農薬、溶融剤、塗料、薬剤等の化学物質へのばく露が原因で死亡していると推定されています。また、世界の死亡要因の第1位である虚血性心疾患の35%、死亡要因の第2位の脳卒中の42%については、大気汚染、室内空気汚染、受動喫煙等に起因する化学物質へのばく露を減らすことで防ぐことができたとも言われています。

コラム:電気電子機器廃棄物(E-waste)の不適切な処理が引き起こす環境汚染

化学汚染のうち、世界的に大きな影響を及ぼしているのが鉛汚染です。鉛は、鉛バッテリーとしての使用が大半を占めていますが、開発途上国では塗料に含まれていたり、鉛でメッキされた金属が使用されています。鉛は中毒性を持ち、神経組織に影響を及ぼすため、特に乳幼児への被害が大きいと言われています。電気電子機器廃棄物(E-waste)には、鉛等人間の健康に悪影響を及ぼす化学物質が含まれています。これらには資源としての価値がある金属が含まれているため、リサイクル資源として利用されていますが、環境保全コストを負担しない不適切なリサイクルが行われている開発途上国に対して、先進国からE-wasteが運び込まれ、不適切なリサイクルが行われることで、作業に従事する従業者の健康被害や現地の環境汚染を引き起こしています。

国立研究開発法人国立環境研究所によるベトナム北部の調査では、リサイクル施設と電源ケーブル野焼き現場の土壌や河川から、E-waste由来と思われる重金属類やダイオキシン類が高濃度で検出されています。

E-wasteには有用な金属が多く含まれ、その適切なリサイクルは持続可能な社会の構築に欠かせません。今後輸出入の管理のみならず、リサイクル現場における環境影響の把握や適正管理等のための制度設計が求められており、我が国は、制度面と技術面の両方で引き続き国際社会に貢献していく必要があります。

ベトナムにおける電源ケーブルの野焼きの様子(左)、ダイオキシンの周辺環境への拡散状況(右)
(4)ゴール4(教育)
ゴール4(教育)

世界では、十分な教育を受けられない子供がたくさんいます。2013年には、初等教育就学年齢の子供の9%に当たる5,900万人が学校に通っていません。十分な教育機会を得られないと、社会生活を営むために必要な知識や技術を得ることができません。2013年においては、世界の15歳以上の人口のうち、7.6億人が読み書きできず、そのうち3分の2は女性でした。

人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等、人類の開発活動に起因する現代社会における様々な問題を、各人が自らの問題として主体的に捉え、身近なところから取り組むことで、それらの問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、もって持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動を「持続可能な開発のための教育(ESD)」と言い、我が国を始めとする国連加盟国で推進されています。

(5)ゴール5(ジェンダー平等)
ゴール5(ジェンダー平等)

世界の59か国で2000年から2014年の間に実施された調査では、女性が一日に無給の仕事に従事する割合は19%であり、男性の8%の2倍以上になりました。2016年に議会の両院で女性議員が占める割合は23%となり、過去10年の間に6%増加しましたが、まだ男性の割合とは大きなかい離があります。我が国は、女性国会議員の人数が特に少ないと内外から指摘されており、女性議員割合の11.6%は、世界189か国中147位と低くなっています。

(6)ゴール6(水)
ゴール6(水)

地球環境の重要な要素である水資源は地球上に偏在しています。水資源の95%が海洋に、1%が氷河等の氷の状態で存在しており、淡水の状態で存在しているのは1%程度に過ぎません。そのため、人々が淡水資源にいかにアクセスできるかが持続可能な開発の重要な視点になります。

2015年には、世界人口の91%に当たる66億人が、外部からの汚染、特に人や動物の排せつ物から十分に保護される構造を備えている水源・給水設備(以下「改善された水源」という。)を使用しています。しかし、今も残りの全世界人口の約9%、約6億6千万人の人々が、改善された水源を利用することができません(図1-2-2)。特に、アフリカのサハラ砂漠以南のサブサハラ地域やアジア地域において、改善された水源を使用できない人口が多くなっており、世界で地域間格差が見られます。また、世界的には、都市の人口の96%が改善された水源を使えるようになった一方、地方では84%にとどまります。

図1-2-2 改善された水源を使用できる人口の割合
(7)ゴール7(エネルギー)
ゴール7(エネルギー)

世界で電源を利用できる人の割合は、2000年の79%から2012年の85%へと着実に増加していますが、それでもなお、11億人が電気を利用することができていません。特に、サハラ砂漠以南のサブサハラ地域では、人口の65%が電気を利用せずに生活しています。

液体・固体バイオ燃料、風力、太陽光、バイオガス、地熱、海洋エネルギー等の再生可能エネルギーは、2014年では世界の最終エネルギー消費量の18.4%を占めています。2014年までの5年間で、全世界の発電量は年平均3.4%増加しているのに対し、再生可能エネルギー発電量は、全発電量の約2倍である年平均6.4%で急速に増加しています。

我が国でも、再生可能エネルギーの導入量は着実に増加しています。我が国における再生可能エネルギーの導入量は、2012年7月の固定価格買取制度(FIT制度)の導入以来、特に太陽光発電を中心に急速に拡大しており、2014年に発電量に占める割合は約13%に達しています。

(8)ゴール8(雇用)
ゴール8(雇用)

継続的、包摂的で持続可能な経済成長は、世界の繁栄に不可欠です。後発開発途上国の一人当たり実質GDP成長率の平均は、2005年から2009年は4.7%であったのに対して、2010年から2014年は2.6%に減少し、目標値の7%より低くなっています。また、開発途上地域での労働生産性は、2005年から2015年の間に増加しましたが、先進国の労働生産性の半分にも及びません。特に、サブサハラ地域や東南アジアの労働生産性は、先進国と比較して約20分の1です。2015年には、女性と男性の失業率は、それぞれ6.7%、5.8%となっており、性別による格差は、西アジアや北アフリカで顕著であり、女性の失業率は男性の2倍以上となっています。

「ゴール8(雇用)」で目指す包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)の促進は、我が国を始めとする先進国が持続的に成長を続ける上で非常に重要です。我が国では、誰もが活躍できる一億総活躍社会を実現するため、2016年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、我が国の労働者の約4割を占める非正規労働者と残りの正規労働者間で、均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金を実現することや、仕事と子育て・介護等の家庭生活の両立を可能にするため、長時間労働を是正するなどの働き方改革等の取組を進めています。

(9)ゴール9(インフラ)
ゴール9(インフラ)

「ゴール9(インフラ)」では、強靱なインフラの構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの拡大を図ることを目指しています。技術開発が進み、世界中を航空機や船舶で自由に移動できる現代において、重要なインフラの一つに航空輸送及び航空移動が挙げられます。2014年には、飛行機の旅客数のうち、45%は開発途上地域からの乗客でした。しかし、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国からの旅客数は少なく、それぞれ全体の0.8%、0.8%、1.4%しか占めていません。

また、国際市場で生産者が競争力を持つためには、国際的な情報社会へのアクセスを得ることが不可欠ですが、ソフトインフラの一つである携帯電話が全世界で急速に普及したことで、2015年には後発開発途上地域人口の95%が携帯電話電波受信可能地域に暮らすようになりました。一方、第3世代(3G)の高速インターネットサービスは、都市の人口の90%に普及している一方、郊外での普及率は30%未満にとどまっています。

我が国では、強靱なインフラの構築を後押しするとともに、今後世界全体で拡大するインフラ需要等に対応するため、2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットに先立ち、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表しました。資源エネルギー等も含む世界全体のインフラ案件向けに、今後5年間の目標として、約2,000億ドルの資金を供給するとともに、開発途上国に対して低利で長期の緩やかな条件で資金を貸し付ける円借款制度の迅速化等、インフラ輸出のための更なる制度改善を行うこととしています。

(10)ゴール10(不平等の是正)
ゴール10(不平等の是正)

「ゴール10(不平等の是正)」では、収入、性別、年齢、障害、人種、階級、民族性、宗教、機会等による不平等をなくすことを目指しています。2007年から2012年の間に、94か国のうち56か国において、最も貧しい40%の家庭での一人当たり収入の増加率は、国全体の一人当たりの収入増加率を上回っています。2000年から2014年の開発途上国から先進国への非関税の輸入は、約70%から80%に上昇しています。より良い収入を得るために開発途上国から先進国に移住して、収入を母国やその他の国外に送金する際の手数料は送金額の7.5%にも上っており、SDGsのターゲット10.cにおける目標値の3%を大きく上回っています。

(11)ゴール11(安全な都市)
ゴール11(安全な都市)
ア 都市化の進展

産業革命以降の経済成長に伴って、世界的な都市化が進行しています。とりわけ近年は、先進国を追うように、アジアやアフリカの開発途上国を中心に急速な都市化が進んでおり、都市人口は、全世界人口の約54%を占めています。国連によると、2050年の世界の都市人口は66%に達すると予測されており、そのうち、インド、中国、ナイジェリアの3か国の増加数が37%を占めています(図1-2-31-2-4)。

図1-2-3 世界の都市部と農村部の人口推移
図1-2-4 地域別の都市部と農村部の人口推移

都市は、より集中した居住形態を取ることで、住民の暮らしやすさの向上、自治体の行政費用の節約等の利点をもたらします。また、都市には同業種・異業種の産業が集積することで、経済成長を生み出すイノベーションの創出や産業の生産性向上ももたらし、都市における様々な活動は、全世界のGDPの約80%に寄与します。その一方、世界のエネルギー消費量及びCO2排出量のそれぞれ約70%を都市が占めています。急激な都市化が進展すると、過剰な貧困、失業、社会経済的格差、持続可能でない消費と生産を招きやすく、気候変動や環境価値の低下の主要な要因となる可能性があります。さらに、都市周辺に生息する生物も、都市活動による環境破壊や汚染物質によって、生息地を奪われています。

イ 都市化に伴う大気汚染

大気汚染は、人間が社会経済活動を行うことによって排出される、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質等の大気汚染物質が原因で引き起こされる環境汚染です。大気汚染は、特に社会経済活動が集中する都市において深刻であり、SDGsの「ゴール11(安全な都市)」の達成を目指す上で重要な課題として、ターゲット11.6で明記されています。

大気汚染は、都市部も含めて今や世界全体で健康被害を引き起こしています。WHOによると、2012年には、郊外及び都市において約300万人の若年者が屋外での大気汚染が原因で死亡したと推定されています。また、これらの若年死亡者のうち、約88%が中低所得者であると言われています。先進国では、大気汚染物質の排出が少ない交通システムや発電施設、エネルギー効率の良い住環境により、大気汚染は改善していますが、開発途上国を中心に大気汚染は今も死亡原因の上位にあります。

近年、人間の健康に大きな影響を及ぼすとして、微小粒子状物質(PM2.5)の対策が強化されています。PM2.5は、大気中に浮遊している2.5μm以下の小さな粒子のことで、非常に小さいために肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響が懸念されています。中国やアジア各国で、非常に高い濃度のPM2.5濃度が観測されています(図1-2-5)。

図1-2-5 世界のPM2.5濃度
(12)ゴール12(持続可能な生産・消費)
ゴール12(持続可能な生産・消費)

「ゴール12(持続可能な生産・消費)」では、生産と消費の過程全体を通して、天然資源や有害物質の利用及び廃棄物や汚染物質の排出を最小限に抑えることを目指しています。例えば、製品の原材料となる鉱物資源の採掘に当たっては、地表の直接的な破壊、資源採取や精錬作業に伴う水質汚濁、大気汚染、土壌汚染、大量の捨石・不用鉱物の発生等の環境影響が生じます。原材料を加工する工業プロセスでは、気候変動の原因となる温室効果ガスや大気汚染物質等が発生します。また、廃棄物発生量の増加は、最終処分場の逼(ひっ)迫、有害物質の環境への流出等の様々な環境問題を引き起こします。持続可能な生産・消費の実現には、これらの環境負荷を最小限に抑えることが必要です。

しかし、過去約40年の間に、世界の資源採掘及び使用は急激に拡大し続けています。1970年には、年間物質採掘量は220万トンでしたが、2010年には700万トンにまで増加しています(図1-2-6)。消費の側面から見ると、2000年の一人当たりマテリアルフットプリント(国内最終需要を満たすために消費された天然資源量)は、7.9トンでしたが、2010年には10.1トンに増加しています。加えて、地域別の一人当たりマテリアルフットプリントを見ると、特にアジア太平洋地域において、1990年から2010年にかけて急激に増加しています(図1-2-7)。これは、経済成長に伴い大量生産・大量消費型のライフスタイルが普及してきたためと考えられ、今後、開発途上国における生活水準が先進国に近づくにつれ、一人当たりマテリアルフットプリントがさらに増加することが予想されます。

図1-2-6 世界の物質採掘量
図1-2-7 1人当たりマテリアルフットプリント

SDGsのターゲット12.2では、「2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」ことを目指していますが、そのためには、我が国を始めとする先進国が培ってきた拡大生産者責任(EPR)やエコデザインの考えを開発途上国に普及させていくことが重要です。EPRは、自ら生産する製品等について、生産者が、資源の投入、製品の生産・使用の段階だけでなく、廃棄物等となった後まで一定の責務を負うという考え方です。経済協力開発機構(OECD)では、2001年のEPRガイダンスマニュアルの発行等を通じ、国際社会におけるEPR制度導入を後押ししており、2016年9月にはEPRガイダンスマニュアルを改訂しました。EUでは、EU指令に基づき、包装、電池、自動車、電機電子製品に対するEPR制度を加盟国が導入しています。北米では、主に州レベルでの政策導入が進んでいます。中南米では、チリ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビアが最初のEPR制度の導入を進めています。アジアでは、日本と韓国が法制度化された制度導入を先導しています。新興国では、インド、インドネシア、ベトナムが制度の導入の検討を始めており、中国は電機電子機器廃棄物の制度を導入しています。

我が国は、持続可能な生産・消費に向けた取組を精力的に推進してきました。高度経済成長を遂げた我が国では、大量生産・大量消費型の経済社会活動により大量廃棄型社会が形成され、不法投棄の頻発や最終処分場の逼(ひっ)迫等が課題となっていました。これらの課題に対応すべく、2000年には、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)を始めとした各種リサイクル法が制定され、3R(リデュース、リユース、リサイクル)と熱回収、適正処分を推進してきました。その結果、2001年当時と比べ、廃棄物の最終処分量は2000年度の約5,600万トンから2014年度には約1,480万トンと大幅に低減し、また、循環利用率(循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))についても、2000年の10.0%から2014年には15.8%と、着実に増大しています。さらに、我が国で培った知見を国際社会に共有する取組も進めています。その一つには、我が国の提唱により、アジアでの3Rの推進に向け2009年に設立された「アジア3R太平洋推進フォーラム」があります。同フォーラムの下で、3Rに関するハイレベルの政策対話の促進、各国における3Rプロジェクト実施への支援の促進等を実施しています。

(13)ゴール13(気候変動)
ゴール13(気候変動)

SDGsの「ゴール13(気候変動)」では、気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じることを目指しています。地球は太陽からのエネルギーで暖められ、暖められた地表面から熱が放射されます。エネルギーを生み出すために化石燃料を燃焼させた時など、CO2が排出されますが、このCO2を始め、メタン、亜酸化窒素等の温室効果ガスは、地表面から放射された熱を吸収することで、大気を暖め、地球温暖化を引き起こします。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、気候システムの温暖化には疑う余地がなく、1950年代以降、観測された変化の多くは数十年から数千年間にわたり前例がないものであるとされています。1986~2005年の平均と比較すると、陸域と海上を合わせた世界平均地上気温は、1880年~2012年の間に0.85℃上昇し、世界年平均海面水位は1901年~2010年の間に0.19m上昇しています(図1-2-8図1-2-9)。また、20世紀半ば以降、観測された温暖化は人間活動による影響が支配的な要因である可能性が極めて高い(95%以上)と結論付けています。さらに、人為起源影響と自然起源影響のみの経年比較シミュレーションを行った結果、人為起源の影響を加えないと、観測値のような気温上昇は起こらないことが明らかになっています(図1-2-10)。こうした科学的知見を踏まえ、パリ協定に基づいて各国が気候変動に対処するための取組を進めています。

図1-2-8 陸域と海上を合わせた世界平均地上気温偏差
図1-2-9 世界平均海面水位の変化
図1-2-10 人為起源影響と自然影響のみを考慮した気温変化の経年比較シミュレーション
(14)ゴール14(海洋)
ゴール14(海洋)

SDGsの「ゴール14(海洋)」では、持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に利用することを目指しています。水産資源は重要な食料資源であり、世界の食料安全保障や経済に大きく貢献しています。しかし、世界の人口増加に伴い、世界の漁業・養殖業を合わせた生産量は増加し続けています。FAOによると、2014年の世界の漁業・養殖業生産量は1億9,580万トンで、前年と比べ2%増加しました。このうち、漁船漁業生産量は9,466万トン(前年比1%増)、養殖業生産量は1億114万トン(前年比4%増)となり、初めて1億トンを上回りました(図1-2-11)。漁船漁業生産量は1980年代後半以降頭打ち傾向が続いているのに対し、養殖業生産量は著しい伸びが続いています。また、1974年から2011年までの生物学的に持続可能でない過剰漁獲の状態にある資源(海域別魚種)の割合は約30%となっています。過剰漁獲の状態にある、あるいは漁獲を拡大する余地のない資源については、適切な資源管理措置により、資源の回復・維持を図る必要がありますが、海洋は広大であり、国際社会が強調して取り組むことが重要です。

図1-2-11 世界の漁業・養殖業生産量の推移

一方、不適切な廃棄物処理等により、世界の海洋汚染も深刻化しています。海洋汚染の原因の一つである海洋プラスチックごみには、漁具、食品・飲料の容器及び包装、たばこのライターやフィルター等が含まれています。2010年に海岸地域から発生したプラスチックごみの量の推計値は9,950万トンで、そのうち3,190万トンが不適切に廃棄され、480万~1,270万トンが海洋に流出したと考えられています(図1-2-12)。

図1-2-12 海洋に流出したプラスチックごみ(2010年推計)

この国際的な問題に対処するため、2016年5月のG7伊勢志摩サミットでは、首脳宣言の「資源効率性及び3R」の項において、陸域を発生源とする海洋ごみ、特にマイクロプラスチックの発生抑制及び削減に寄与することも認識しつつ、海洋ごみに対処することが再確認されました。同じく5月に開催されたG7富山環境大臣会合では、前年のG7エルマウ・サミットで合意された首脳宣言附属書の「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」及びその効率的な実施の重要性について再確認するとともに、G7として、各国の状況に応じ、優先的施策の実施に貢献することが約束されました。

(15)ゴール15(生態系・森林)
ゴール15(生態系・森林)

世界の森林面積は約40億haで、世界の陸上面積の3割が森林で占められています。森林は、陸域の生物種の約8割の生息・生育場所を提供するとともに、温室効果ガスの一つであるCO2の吸収・貯蔵に主要な貢献を果たすなど、生物多様性の保全や気候変動の緩和等の環境サービスを提供します。また、食料、木質エネルギー等の供給を通じ、世界の約16億人以上の人々がその生計を森林に依存しているほか、林産物の供給や林業及び伐採業における雇用の創出等にも重要な役割を果たしています。

2005年以降の10年間の世界の森林面積の減少速度は、森林面積に対する森林減少面積の割合で見ると年間0.08%で、1990年代の0.18%と比較すると半分以下に低下したものの、依然として減少傾向にあります(図1-2-13)。森林減少の大部分は、南米、アフリカ、アジアの低所得国で起こっており、特にブラジル、インドネシア、ミャンマー等でその減少が大きくなっています。これは、人口増加や貧困、商品作物の生産拡大等を背景として、森林が農地に転用されていることが主な原因だとされています。

図1-2-13 1990年と2015年を比較した森林面積の増減(国別)

国際自然保護連合(IUCN)が作成する「絶滅のおそれのある種のレッドリスト」(以下レッドリストという。)は、世界の絶滅のおそれのある野生生物のリストで、絶滅種から情報不足種まで9種類の分類があります。2016年9月のレッドリストでは、絶滅のおそれのある野生生物として定義される三つのカテゴリー(近絶滅種、絶滅危惧種、危急種)に含まれる種数は2万3,928種になり、2015年の更新時の2万3,250種から600種以上増えました。

レッドリストインデックスは、分類群ごとの絶滅のおそれの状況を表す指標で、この値が1の場合はその分類群の全ての種が近い将来に絶滅の危機に瀕していないことを表し、値が0の場合はその分類群の全ての種が既に絶滅したことを表しています。地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)では、鳥類、哺乳類、両生類及びサンゴ類の統合レッドリストインデックスは、絶滅に向かう動きの継続を示唆する大幅な減少を示しています。(図1-2-14)。

図1-2-14 鳥類、ほ乳類、両生類及びサンゴ類のレッドリストインデックス(統合指標)
(16)ゴール16(法の支配等)
ゴール16(法の支配等)

世界で殺人被害に遭う人数は、2014年には10万人に4.6~6.8人であると推定されています。開発途上地域における同時期の殺人率は先進国の約2倍となり、犯罪を防ぐ上で不可欠な法の支配が実効される状況について、先進国と開発途上地域で差があることが読み取れます。

世界がグローバル化し利害関係者も広範囲に広がる中、国際機関や各国政府の行動を規定する国際条約や国際協定の重要性は一層増しています。国際条約や国際協定は、各国が知見を共有し、目標とその達成に必要な行動を明確化することが不可欠です。我が国も、国際的な法の支配の実現に向け、国際条約や国際協定の実施に引き続き貢献していきます。

(17)ゴール17(パートナーシップ)
ゴール17(パートナーシップ)

全ての国、全てのステークホルダー、全ての人々の参加によるグローバル・パートナーシップの重要性は、2030アジェンダの序文を始め、随所で協調されています。2015年の公的な開発支援額は1,316億ドルであり、2014年と比較して6.9%増加の過去最高額となりました。我が国の政府開発援助予算は、2016年度当初予算で5,519億円であり、前年度比1.8%増額となりました。

パートナーシップの例として都市間連携が挙げられますが、我が国は様々な分野で、国際・国内での都市間の連携を推進してきました。環境分野においては、神奈川県、福島市、川崎市、京都市、大阪市、北九州市等が、二国間クレジット制度(JCM)を活用し、連携先の都市全体での低炭素化を進めるなどの取組を実施しています。

3 SDGsへの取組に対する我が国の現状と評価

SDGsは全ての主体に適用される普遍的な目標であり、各ゴールは我が国にも深く関係しています。我が国は、これまで極めて高い水準の経済・社会発展を達成してきていますが、SDGs達成のためには、更に取組を強化すべき分野も指摘されています。

例えば、2016年7月にドイツのベルテルスマン財団と国連が設立した持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が共同で発表した各国のSDGsの状況に関する報告書によれば、我が国のSDGs全体の達成度は、評価を行った149か国中18位で、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの北欧諸国が上位を占めています。

我が国の各ゴールの状況を見ると、「ゴール1(貧困)」、「ゴール5(ジェンダー平等)」、「ゴール7(エネルギー)」、「ゴール13(気候変動)」、「ゴール14(海洋)」、「ゴール15(生態系・森林)」、「ゴール17(パートナーシップ)」の7つのゴールについては、「達成の度合いが低い」と評価されています(図1-2-15)。これは、各ゴールの複数指標のうち最も評価が低い指標に基づいてゴール全体が評価されるためです。環境と関わりが深いゴールでは、「ゴール7(エネルギー)」は最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合、「ゴール13(気候変動)」は一人当たりCO2排出量(エネルギー起源)、「ゴール14(海洋)」は海洋健全度指数(漁業)及び過剰漁獲・乱獲される水産資源割合、「ゴール15(生態系・森林)」はレッドリストインデックスの値が低いことが指摘されています。今後こうした評価も参考にしつつ、SDGsの達成に向けた更なる取組を進めていく必要があります。

図1-2-15 SDGs達成に向けた日本の現状の評価