環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第2章 真に豊かな社会の実現に向けて>第1節 一人ひとりの豊かさや環境に対する意識の変化

第2章 真に豊かな社会の実現に向けて

第1節 一人ひとりの豊かさや環境に対する意識の変化

 我が国は、1960年代の高度経済成長が象徴するように、戦後、物質的・経済的な豊かさを追求してきました。その結果、経済が発展し、我が国の一人当たりのGDPは世界トップレベルとなり、多くの人が便利で快適な生活を送れるようになりました。

 一方、その陰で、地球温暖化や生物多様性の損失などの環境問題が年々深刻な状況になりつつあります。この項では、豊かさや環境に対する国民一人ひとりの意識がどのような状況にあるのかを概観します。

1 豊かさに対する意識の変化

 これまで「豊かさ」と言えば、物や財産を多く所有している「物の豊かさ」のことを表すことが多かったと考えられますが、一方で「心の豊かさ」という表現もあります。ここでは、今の日本の社会では「豊かさ」がどのように捉えられているのかについて調査した結果を紹介します。

 内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、「今後の生活において心の豊かさと物の豊かさのどちらを重視するのか」を質問していますが、平成24年度の調査結果では、「物質的にある程度豊かになったので、心の豊かさやゆとりのある生活に重きを置きたい」とする人の割合が64.0%と過去最高となり、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きを置きたい」とする人の割合(30.1%)を大きく上回りました(図2-1-1)。本調査開始当初は「物質的な豊かさ」を重視する人の割合が「心の豊かさ」を重視する人の割合を上回っていましたが、昭和50年代前半から逆転し、徐々に「心の豊かさに重きをおきたい」とする人の割合が増加しつつあります。


図2-1-1 これからは心の豊かさか、物の豊かさか

2 大量生産・大量消費型の経済

 平成24年度に実施した調査で、「これまでの大量生産・大量消費型の経済に対する意識」を調べたところ、「変えていく必要がある」「どちらかと言えば変えていく必要がある」と回答した人の割合が、約80%という高い値となりました(図2-1-2)。


図2-1-2 大量生産・大量消費型の経済に対する意識

 資源の枯渇や増加する廃棄物の問題、年々深刻化する地球環境問題などを背景に、これまでの大量生産・大量消費型の経済を見直そうとする動きが広がりつつあり、そこには国民の高い問題意識が存在することがうかがえます。

3 将来世代に残したい社会

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質は、今後、長期間にわたって環境中に残存し続けていくことから、子供達への将来的な影響が懸念されるなど、将来世代が生きる世の中への懸念や不安の声が広がっています。

 平成24年度に実施した調査で、「将来世代に残す社会で重視されるべきもの」について問いかけを行ったところ、「良好に保全された自然環境や生活環境」を重視するとの回答が、「心身ともに健康なこと」との回答に次いで多い結果になりました(図2-1-3)。「良好に保全された自然環境や生活環境」を重視すると回答した人は約70%にのぼっており、多くの国民が、子供や孫など子孫達が生きる将来世代に、環境が保全されている社会を残したいと望んでいることがうかがえます。


図2-1-3 将来世代に残す社会で重視されるべきもの

4 東日本大震災による意識の変化

 東日本大震災では、多くの尊い命が犠牲となるだけでなく、放射性物質による汚染、ライフラインの断絶など、甚大な被害をもたらしました。また、この震災により、電力需給のひっ迫や災害廃棄物処理など被災地に留まらない問題も生じました。

 平成24年度に実施した「国民生活に関する世論調査」で、「震災後、生活において強く意識するようになったこと」について調査したところ、「節電に努める」と回答した人の割合が最も高く、以下、「災害に備える」、「家族や親戚とのつながりを大切にする」などが続き、この震災が人々の意識に一定の影響を及ぼしたことがうかがえます(図2-1-4)。


図2-1-4 震災後、強く意識するようになったこと

 また、平成24年度に実施した調査で、「東日本大震災を境に重視するようになったこと」について調査したところ、「防犯・防災などによる安全・安心」「子供や孫など将来世代の未来」を重視するとした人の割合が50%以上の値となり、次いで「幸せを実感できる生活」や「良好に保全された自然環境や生活環境」などが高い値となりました(図2-1-5)。


図2-1-5 東日本大震災を境に重視するようになったこと

 (※上記の数値には、「震災前よりも多少重視するようになった」と回答した人の割合も含んでいます。)

 さらに、「東日本大震災後の環境保全に対する意識の変化」についての調査では、いずれの項目においても45%以上の人が重視するようになったことが明らかとなり、特に「節電や省エネルギー」、「放射能の影響」については60%以上の人が重視するようになったことが明らかとなりました(図2-1-6)。


図2-1-6 東日本大震災後の環境保全に対する意識の変化

 (※上記の数値には、「震災前よりも多少重視するようになった」と回答した人の割合も含んでいます。)

 以上の結果から、甚大な災害をもたらした東日本大震災により、国民の意識に少なくない変化がもたらされていることが明らかとなりました。ここで挙げた調査結果から、「環境」のほか「防災などの安全・安心」「幸せな生活」などが重視される傾向が読み取れ、特に「環境」に関しては、「節電・省エネルギー」「放射能の影響」に対する意識の変化が多く生じたことが分かりました。

5 環境に対する意識

(1)環境問題への取組に対する考え方

 近年、環境問題に関心を抱き、自ら積極的に解決に向けた取組を進める個人、企業、市民団体などが増えています。

 平成24年度に実施した「環境にやさしいライフスタイル実態調査」では、各種の環境問題への取組に対する考えや意見について、ほとんどの項目で肯定的な回答が85%を超え、大勢を占めています。全般的に、環境問題への取組に対しては、多くの国民が肯定的に考えていることがうかがえます(図2-1-7)。


図2-1-7 環境問題への取組に対する考え方(「大変そう思う」、「ややそう思う」の合計)

(2)自然との共生に対する意識

 平成22年に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議を契機に、国内でも生物多様性や自然環境に対する関心が高まっています。

 平成24年度に実施した「環境にやさしいライフスタイル実態調査」では、自然とのふれあいについて、「今よりも大幅に増やしたい」、「今より多少増やしたい」との回答が約6割と半分以上を占めていました(図2-1-8)。


図2-1-8 自然とのふれあいについてのニーズ

 また、平成24年度の「環境問題に関する世論調査」では、自然との共生に対する国民の意識の程度を調査しています。「自然についてどの程度関心があるか」との質問に対し、「関心がある」人の割合が9割を超えました(図2-1-9)。


図2-1-9 自然に対する関心

 さらに、「生物多様性の言葉の認知度」については、「言葉の意味を知っている」が19.4%、「意味は知らないが、言葉は聞いたことがある」が36.3%と、前回の調査(平成21年)と比べ、いずれも増加しています(前回調査ではそれぞれ12.8%、23.6%)(図2-1-10)。


図2-1-10 生物多様性の言葉の認知度

 これらの結果から、多くの国民が自然環境や生物多様性の保全に関心を有していることがうかがえます。

(3)循環型社会に対する意識

 平成24年度に実施した「環境問題に関する世論調査」では、循環型社会に対する意識も調査しており、「ゴミの問題は重要だと思うか」との質問に対し、「重要だと思う」が81.6%、「どちらかと言えば重要だと思う」が16.7%と重要性を肯定する回答が98.4%にのぼっています(図2-1-11)。


図2-1-11 ごみの問題に対する重要感

 また、「大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会から脱却し、循環型社会を形成する施策を進めていくことをどのように思うか」との質問に対し、「現在の生活水準を落とさず、大量生産、大量消費は維持しながら、廃棄物の再使用(リユース)や再生利用(リサイクル)を積極的に進めるなど、できる部分から移行するべき」との答えが約5割と大勢を占めたものの、「移行はやむを得ない」「移行すべき」との回答も約4割と高く、「現在の生活水準を落とすことであり、受け入れられない」との回答を大きく上回っています(図2-1-12)。


図2-1-12 循環型社会の形成についての意識

(4)環境に配慮した製品への購入意向

 近年、環境に配慮された商品やサービスを選択的に購入するグリーンコンシューマーと呼ばれる消費者が増えています。

 平成24年度に実施した「環境にやさしいライフスタイル実態調査」において、環境に配慮した製品として、省エネ型家電、環境配慮型自動車、高効率給湯器、太陽光発電システム、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の5品についての購入意向を調査しています。その結果、「購入済み、もしくは購入を検討する」と回答した人は、省エネ型家電で最も多くなっていました(図2-1-13)。


図2-1-13 環境に配慮した製品への購入意向

「所有」から「共有」へ-シェアする価値観

 最近では、物を「所有」して自分自身のものとすることにこだわるのではなく、必要な時に必要な量を利用し、物を「共有」するということを重視する考え方が広がりつつあります。

 一昔前の物の「共有」といえば、図書館での本の共有や公園など公共空間の共有を意味していましたが、今や共有されるものは増加し、また多様化しています。例えば、都市を中心に生活空間を共有する「シェアハウス」に居住する若者が増えています。冷蔵庫等の家電は一台を共有するため、一人で暮らすよりも環境面・金銭面で効率的です。また、車を共有する「カーシェアリング」も都市部でよく見かけるようになりました。


若者が暮らすシェアハウス

我が国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移

 こうした色々な物を「共有」する価値観の背景には、物を所有することに伴うコストへの負担感、よりコストのかからない生活や、人とのつながりを求める心理が育ちつつあると考えられます。

6 まとめ

 これまで見てきたように、高度経済成長を経て、国民の「豊かさ」に対する考え方が「物」から「心」に移りつつある中で、近年ではこれに加えて環境の保護や自然との共生を重視していこうとする考え方も広がりつつあるということが分かりました。

 また、東日本大震災も国民の意識に一定の影響を与えた可能性があることが分かりました。第2節では、このような意識の変化が起こった時代に焦点を当てるとともに、最近の環境と経済の状況にも触れていきます。