第5節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 国際的取組

(1)生物多様性条約

 ア COP10の開催

 2010年(平成22年)10月に愛知県名古屋市で開催されたCOP10に向け、多様な主体間の情報の共有、意見交換、連携の促進などを図るため、21年2月に設置した「生物多様性条約第10回締約国会議及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議に関する円卓会議」を、22年度に2回開催しました。また、COP10に向けて政府が一体となった取組を進めるため、関係省庁の副大臣及び政務官からなる「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に関する関係副大臣等会議」を開催するとともに、関係省庁が合同で設置した「生物多様性条約COP10日本準備事務局」において会場設営や運営に係る業務を行いました。

 国際的には、条約の補助機関会合や作業部会での事前交渉や開催支援等を行ったほか、平成22年9月にニューヨークで開催された国際生物多様性年に貢献する国連総会ハイレベル会合等に出席し、COP10の成功に向け協力を呼びかけるとともに各国との協議を実施しました。

 遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する議定書については、平成22年3月にカリ(コロンビア)で開催された第9回ABS作業部会において、ABS議定書の結論を得ることが出来なかったため、7月にモントリオール(カナダ)で追加で開催されることになった第9回ABS作業部会再開会合、9月にモントリオール(カナダ)で開催された第9回ABS作業部会少人数交渉会合を開催するための必要経費について、COP10議長国として各締約国がABSの議論を尽くすことに貢献できるように我が国が負担しました。

 COP10において、わが国は議長国として条約事務局と協力しつつ会議の運営及び議論の取りまとめに尽力し、その結果、2011年以降の条約の戦略計画(愛知目標)、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書をはじめ、全体で47の決定事項が採択されました。

 イ COP10決定事項の実施支援

 COP10の各種決定事項をはじめ生物多様性条約の実施を進めていくためには、途上国への資金や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されました。このため、我が国は、COP10議長国として、愛知目標の達成にむけた途上国の能力養成等を支援するため、生物多様性日本基金として平成22年度、10億円を条約事務局に拠出しました。

 また、ABSに関する名古屋議定書の採択を受け、同議定書の早期発効に貢献するため、遺伝資源の自然生息地の保全、遺伝資源等に関する途上国への技術移転を内容とする新たな基金を世界銀行に設置し、10億円の拠出を行いました。本基金は、名古屋議定書第10条に基づく地球規模多国間利益配分制度の必要性の検討に資するパイロット的な事業として実施される予定です。

 ウ SATOYAMAイニシアティブ

 世界的なレベルで進行する生物多様性の損失を減少させるためには、原生的な自然を保護するだけではなく、農林水産業など、人間活動の影響を受けて形成・維持され、世界中に広範囲に分布する二次的な自然環境において人間活動と生物多様性の保全の両立を図ることも重要です。このため、二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用・管理を推進していくための取組を、「SATOYAMAイニシアティブ」としてCOP10で提案・発信するとともに、情報の共有や研究等を推進するための「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を発足させました。また、COP10において、締約国会議としてSATOYAMAイニシアティブを生物多様性及び人間の福利のために人為的影響を受けた自然環境をより理解・支援する有用なツールとなりうるものとして認識し、締約国その他の政府及び関連する機関に対して、SATOYAMAイニシアティブを更に発展させるためにIPSIへの参加を勧奨すること等を含む決定が行われました。さらに、平成23年3月には、IPSIの第1回総会を愛知県名古屋市で開催し、運営委員会のメンバーの選出やIPSIの下で行う共同活動の承認等をおこないました。

(2)カルタヘナ議定書

 国内担保法であるカルタヘナ法に基づき、議定書で求められている遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を実施しました。また、わが国はCOP10の直前、平成22年10月に開催されたカルタヘナ議定書の第5回締約国会議(COP-MOP5)の議長を務めました。同会議において、遺伝子組換え生物の国境を越える移動により、生物多様性の保全及び持続可能な利用に損害が生じた場合の「責任と救済」に関して、締約国が講じるべき措置を規定した「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が採択されました。

(3)ラムサール条約

 ラムサール条約に基づき、国際的に重要な湿地として、平成23年3月末現在、全国で37か所が登録されています。これらの条約湿地の保全と賢明な利用に向けた取組を進めるとともに、ラムサール条約湿地候補地の追加に向けた見直しを行い、平成22年9月に、ラムサール条約湿地の国際基準を満たす潜在候補地172か所を公表しました。また、東南アジア諸国に対する国際的に重要な湿地の特定、保全及び賢明な利用に向けた協力等を行いました。

(4)ワシントン条約

 ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、国内での譲渡し等の規制を行っています。また、関係省庁、関連機関が連携・協力し、インターネット取引を含む条約規制対象種の違法取引削減に向けた取組等を進めました。

(5)世界遺産条約

 世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づく世界遺産一覧表に、屋久島、白神山地及び知床が記載されています。これらの世界自然遺産について、関係省庁・地方公共団体・地元関係者・専門家の連携により適正な保全・管理を実施しました。平成22年6月に、知床及び屋久島に続いて、白神山地について専門家で構成される科学委員会を立ち上げ、わが国の全ての世界自然遺産地域について科学的な保全・管理を進めるための体制を整えました。

 平成22年1月に世界遺産センターに推薦書を提出した小笠原諸島については、関係機関等と連携し、世界遺産の評価機関である国際自然保護連合の専門家による現地調査を、平成22年7月に受け入れ、その後の追加情報の要請等に適切に対応しました。また、国内候補地である琉球諸島(トカラ列島以南の南西諸島が検討対象)については、関係する地域の人たちの協力を得ながら世界的に優れた自然環境の価値を保全するための方策を検討しました。

(6)南極条約

 南極地域は、地球上で最も人類の活動による破壊や汚染の影響を受けていない地域であり、地球環境研究の場等としてかけがえのない価値を有しています。近年は基地活動や観光利用の増加による環境影響の増大も懸念されています。

 南極の環境保護に向けた国際的な取組は、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進を目的として昭和36年に発効した「南極条約」に始まり、続いて、南極の環境や生態系の保護を目的とした「環境保護に関する南極条約議定書」が平成10年に発効しました。

 わが国は、南極条約の締約国として、「環境保護に関する南極条約議定書」を適切に実施するため制定された「南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)」に基づき、南極地域における観測、観光、冒険旅行、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、ホームページ等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行いました。また、毎年開催される「南極条約協議国会議」に参加し、南極特別保護地区の管理計画や、非在来種の移入防除方法など、南極における環境の保護の方策について議論を行いました。また、平成21年度に実施した議定書第14条に基づく査察の報告書をまとめました。

(7)砂漠化対処条約

 砂漠化とは、国連の砂漠化対処条約において、「乾燥地域における土地の劣化」と定義されています。乾燥地域は地表面積の約41%を占めており、その10〜20%はすでに劣化(砂漠化)しており、乾燥地域に住む1〜6%の人々(約2千万〜1億2千万人超)が砂漠化された地域に住んでいると推定されています。砂漠化の原因として、干ばつ・乾燥化等の気候的要因のほか、過放牧、過度の耕作、過度の薪炭材採取による森林減少、不適切な灌漑による農地への塩分集積等が挙げられます。その背景には、開発途上国における人口増加、貧困、市場経済の進展等の社会的・経済的要因が関係しています。

 平成8年に発効した砂漠化対処条約(UNCCD)では、加盟している開発途上国は砂漠化対処のための行動計画を作成し、先進国がその支援を行うことで砂漠化対策に取り組んでいます。わが国も平成10年に条約を受諾し、締約国会議に参画・貢献すると共に関係各国、各国際機関等と連携を図りつつ国際的な取組を推進しています。また、米国に次ぐ規模の拠出国としてその活動を支援しています。

 このほか、同条約への科学技術面からの貢献を念頭に、砂漠化対処のための技術の活用に関する調査などを行ったほか、JICA等を通じ、農業農村開発、森林保全・造成、水資源保全等のプロジェクト等を実施しました。

(8)二国間渡り鳥条約・協定

 米国、オーストラリア、中国、ロシア及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、オオワシ、ズグロカモメ等に関する共同調査を引き続き実施するとともに、平成22年11月に新潟県において、オーストラリア、中国及び韓国との間で二国間渡り鳥等保護協定等会議を開催し、渡り鳥保護施策や調査研究に関する情報や意見の交換を行いました。

(9)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

 日豪政府のイニシアティブにより、平成18年11月に発足した「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」の活動として、アジア太平洋地域におけるツル、ガンカモ、シギ・チドリ類等の渡り性水鳥の保全を進めました。

(10)国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)

 平成22年6月に、プーケット(タイ)で第6回ICRI東アジア地域会合を開催し、東アジア地域サンゴ礁保護区ネットワーク戦略2010を策定しました。作成したアジア・オセアニア地域のサンゴ礁分布図をホームページ上で公開しました。

(11)持続可能な森林経営と違法伐採対策

 世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びますが、2000年(平成12年)から2010年(平成22年)にかけて、年平均1,300万haの割合で減少しました(増加分を差し引いて年520万haの純減)。特に、熱帯林が分布するアフリカ地域、南アメリカ地域及びアフリカ地域で森林の減少が続いています(第1部図3-2-3参照)。このような森林減少・劣化は、地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与えています。


図5-5-1 世界の森林面積の国別純変化量(2000年〜2010年)

 森林減少の原因として、プランテーション開発等農地への転用、非伝統的な焼畑農業の増加、燃料用木材の過剰採取、森林火災等が挙げられます。また、違法伐採など不適切な森林伐採が森林を劣化させ、森林減少の原因を誘発していることも大きな問題となっています。

 このような森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を実現する必要があります。

 平成4年の地球サミットにおいて、森林原則声明及びアジェンダ21が採択され、以降、世界の森林の持続可能な経営に関する国際的な議論が行われています。わが国は、これらの議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして国際的な取組を推進しています。

 わが国は、持続可能な森林経営の進ちょく状況を客観的に把握・分析・評価するための「基準・指標」を作成・適用する取組として、欧州以外の温帯林等を対象とした「モントリオール・プロセス」に参加しており、平成19年1月より事務局を務めるなど、積極的に取り組んでいます。

 平成23年1月から2月にかけてニューヨークで開催された国連森林フォーラムUNFF)第9回会合では、「人々、生活、貧困撲滅のための森林」をテーマに、森林に関する4つの世界的な目標の達成状況及び「すべてのタイプの森林に関する法的拘束力を持たない文書(NLBI)」の実施状況の評価、持続可能な森林経営の実施手段(資金提供、技術移転等)のあり方等について検討が行われました。会期中に開催された閣僚級会合では、2011年国際森林年の公式開幕式典が開催されるとともに、持続可能な森林経営とその推進の重要性や、国際協力等の今後の取組について明らかにした閣僚宣言が採択されました。

 平成22年12月に横浜で開催された第46回国際熱帯木材機関(ITTO)理事会では、熱帯木材貿易の発展や持続可能な熱帯林経営を促進するための事業・活動が承認されました。また、ITTOによる2010年の国際生物多様性年の活動報告や2011年国際森林年における活動計画の説明がなされました。

 また、特に持続可能な森林経営の阻害要因の一つとなっている違法伐採については、平成10年のバーミンガム・サミット以降、国際的な議論が行われていますが、わが国では、平成18年4月から、この対策として、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)により、合法性、持続可能性が証明された木材・木材製品を政府調達の対象とする措置を実施しています。

 さらに、IPCC第4次評価報告書では、森林減少及び土地利用の変化に伴う人為的な温室効果ガス排出量が全体の17%を占めるとされており、地球温暖化対策の観点からも森林減少を防止することが極めて重要であるとの認識から、平成19年12月にバリで開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議の機会を捉え、世界銀行による「森林炭素パートナーシップファシリティ(FCPF)」が設立されました。わが国は1千万ドルの資金拠出を行い、この活動を支援しています。

 上記の取組のほか、ITTO、国連食糧農業機関FAO)等の国際機関への拠出、独立行政法人国際協力機構JICA)等を通じた協力、独立行政法人環境再生保全機構の地球環境基金等を通じた民間団体の植林活動等への支援、熱帯林における生態系管理に関する研究等を行いました。

2 情報整備・技術開発

(1)生物多様性の総合評価

 わが国の生物多様性の現状と傾向を社会的な側面も含めて総合的に評価・分析するため、平成20年度より生物多様性総合評価検討委員会を設置し、22年5月に報告書を公表しました。また、国土の生物多様性の損失を防止するための目標の達成状況を評価するうえで重要となる指標の設定に向け、国土の生物多様性の状況や変化の空間的な分析・評価方法に関する検討を行いました。

(2)自然環境調査

 わが国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査や、さまざまな生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する重要生態系監視地域モニタリング推進事業モニタリングサイト1000)等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化状況を把握しています。

 自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した植生図を作成しており、わが国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。平成22年度は、全国の約55%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。特定哺乳類生息状況調査では、シカやクマ等を対象として、全国的な個体群動向の把握を行いました。

 モニタリングサイト1000では、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁)、小島嶼の各生態系について、合計約1000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施しています。高山帯においては、平成21年度の試行調査の結果を踏まえ、新たに3サイトを含む計5サイトで本格的に調査を開始しました。

 平成20年度から身近な生き物の発現日や分布の情報を全国から収集する、市民参加型調査(愛称「いきものみっけ」)を実施しています。22年度は、本事業の成果発表をはじめ、全国で参加型調査に取り組んでいる自治体・団体が集まり、得られた生物情報の役立て方などについて語り合う「いきものみっけシンポジウム」を開催しました。

(3)地球規模生物多様性モニタリングなど

 地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化などを推進するアジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)への支援を行いました。また、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする事業である東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)において、絶滅危惧種や渡り鳥の情報提供のためのウェブサイト作成及びサンゴ・植物等の分類研修を実施しました。

 生物多様性に関する科学及び政策の連携の強化を目的とした「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームIPBES)」の創設に向けた国際的な議論に積極的に参画しました。

(4)研究・技術開発など

 生物多様性と生態系サービスの損失に関する経済分析を行う国際的取組である「生態系と生物多様性の経済学TEEB)」について、COP10での最終報告に向けた支援を行うとともに、TEEBと連携し、生物多様性の経済評価に関する政策研究を実施しました。

 生物多様性保全に必要な技術開発や応用的な調査研究の推進を目的として、平成21年度より「生物多様性関連技術開発等推進事業」を開始し、「自然環境モニタリングネットワーク及び野生鳥獣行動追跡技術の研究開発」及び「侵略的外来中型哺乳類の効果的・効率的な防除技術の開発」の2件を実施しました。

 独立行政法人国立科学博物館において、「生物多様性ホットスポットの特定と形成に関する研究」などの調査研究を推進するとともに、約394万点の登録標本を保管し、これらの情報をインターネットで広く公開しました。また、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)の日本ノードとして、国内の自然史系博物館と協働で、標本資料情報を国際的に発信しました。さらに「かはく生物多様性シリーズ2010」として様々な企画展や講座、体験教室を実施したほか、COP10サイドイベントや屋外展示に参画しました。



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