第2節 静脈産業で世界の循環型社会の構築を

1 世界の廃棄物の将来予測

 人類は、自然界から天然資源を採取し、それを用いて道具や製品を製造、生産し、それらを消費、使用し、使い終われば廃棄するという形で、地球上において発展をしてきました。古代人が貝殻や獣、魚の骨等を廃棄した場所が貝塚として残っているように、人類の誕生以来、人間の活動において、廃棄物の発生は避けて通れないものといえます。

 産業革命以降、特に20世紀は、資源採取、生産、流通、消費、廃棄といった社会経済活動の全段階を通じてモノの流れが増大し、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済システムを構築しました。この結果、確かに人類は急速な経済成長を成し遂げ、人口も増加しました。一方で、消費される資源、エネルギーの増大及びそれに伴う廃棄物の大量発生、天然資源の枯渇、資源採取に伴う自然破壊、埋立処分場の問題など、環境に対するさまざまな悪影響を生じることとなりました(図4-2-1)。


図4-2-1 世界人口と廃棄物量(都市ごみ+産業廃棄物)の推移

 また、21世紀に入り、これまでのような先進国だけではなく、発展途上国において急激な経済発展と人口増大が予想され、廃棄物の発生量の増大など環境負荷の増加が懸念されています。特に発展途上国においては廃棄物処理等の意識や技術の未熟さから環境に与える影響はさらに増大する可能性があります(図4-2-2)。


図4-2-2 世界の廃棄物量の推移(将来)

 天然資源の大量消費を前提とし、多量で質的にも自然界での分解が困難な物質を自然環境に排出することによって成り立つ「一方通行」型の社会経済システムは、将来に亘って環境に悪影響を与える負の遺産となります。一方通行型の社会から生じる環境負荷の低減を図り、持続可能な社会を実現するためには、廃棄物の発生抑制(Reduce(リデュース))、再使用(Reuse(リユース))、リサイクル(Recycle)の3Rを進め、適正処理の確保を徹底し、物質の循環の輪を途切れさせない循環型社会を構築することが不可欠です。

 我が国は、第2次世界大戦後から、今日に至るまで、経済社会情勢の変化及びそれに伴う廃棄物の質・量の変化に応じてさまざまな廃棄物問題を経験してきました(図4-2-3)。また、そうした問題を解決するために廃棄物・リサイクル分野における取組を発展させてきました。現在の我が国の取組はこれまでの課題の解決方法が蓄積されたものということもできるでしょう。


図4-2-3 廃棄物・リサイクル分野における我が国の経験

 経済成長と都市ごみ量には密接な関係があり、図4-2-4にあるように、1人当たりGDPと都市ごみ排出量との間には相関関係が認められます。経済発展の途上にある国々は、これまで我が国が経験してきた廃棄物問題を近い将来に経験する可能性があることが予測されます。


図4-2-4 一人当たりGDPと都市ごみ排出量の相関関係について

 こうした国々において、我が国の経験が参考となると考えられます。これは世界全体の環境負荷の削減に対する我が国の大きな貢献となります。また、我が国の廃棄物・リサイクルの経験を世界に発信することで循環型社会ビジネスを世界展開し、グリーン・イノベーションによる成長にもつながるものです。

 そこで、本節では、廃棄物・リサイクル分野におけるこれまでの我が国の経験及びその時々で獲得し、発展させてきた社会システム、技術、ライフスタイルなどの取組を世界の廃棄物問題の解決に役立てるための視点から、アジアを始めとする世界の廃棄物・リサイクル事情及びニーズを概観し、今日の我が国が有している経験を海外において活用する道筋を展望します。

2 世界の廃棄物・リサイクル事情

 世界に目を向けてみると、急速な人口増と新興国の台頭に伴い、世界的な資源需要が高まり、石油、レアメタル、食料などの価格が高騰しています。また、前項で見たように発展途上国では急速な経済発展に伴い、廃棄物が今後増大することが見込まれています。このような中で、廃棄物・リサイクル対策は国際的にも極めて重要になっています。特に発展途上国のなかには、我が国が過去に辿ってきたような公衆衛生問題、公害問題、廃棄物問題に直面している国もあります。

 そこで本項では、国際的な廃棄物等の現状や発展途上国、先進諸国における廃棄物・リサイクルの現状、取組を概観します。

(1)国際的な廃棄物の現状

 図4-2-5は我が国の一人当たり名目GDPの推移と主要アジア・南米各国の比較を示しています。我が国は第2次世界大戦後に驚異的な経済成長を遂げ、一人当たりGDPは1993年には世界第3位に達しました(最新の2010年では世界第16位、IMF「World Economic Outlook」)。この推移をアジア・南米各国と比較すると、インドは我が国の経済成長の入口の1960年代と同等の水準に、中国やマレーシア、ブラジルは高度経済成長期と同等の水準にあるものと思われます。


図4-2-5 日本の一人当たり名目GDPの推移と主要アジア・南米各国の比較

 廃棄物の定義は各国で異なるため、単純に比較はできませんが、図4-2-6は我が国の一般廃棄物(ごみ)排出量の推移と主要アジア・南米各国の最近の一人一日当たり都市ごみ排出量の関係を示しています。かつて経済成長とともに急増した日本のごみ排出量ですが、廃棄物・リサイクル対策が進んだため1970年代からはほぼ横ばいとなっています。これに対しアジア・南米各国は、現在のところまだ多くの国が経済成長の緒についたばかりであることもあり、一人一日当たり都市ごみ排出量は少ないですが、今後急増していくことが見込まれています。


図4-2-6 日本の一般廃棄物(ごみ)排出量の推移と主要アジア・南米各国の最近の都市ごみ排出量の関係

 図4-2-7は、世界の主な国々の一人当たりGDPと都市ごみ排出量を図に示したものです。世界の国々の一人当たり都市ごみ排出量は、前項にも述べたようにその国の一人当たりGDPとの相関関係があります。欧州各国や我が国などは廃棄物・リサイクル対策も比較的進んでいるため、一人当たりGDPが上昇しても都市ごみ排出量があまり高くならない傾向にあります。ただし、一人当たりGDPが極めて高い国の中には、一人当たり都市ごみ排出量も高くなっている国もあります。また、広大な国土を有する国々では、発生した廃棄物は居住地から遠く離れた場所に持っていくなど、費用をかけない廃棄物処理が主流であるため、廃棄物削減への取組が企業や国民に十分浸透していないと言われています。


図4-2-7 主要各国の一人当たりGDPと一人当たり排出量の比較

 これをみると今後急速な経済成長が見込まれる発展途上国が深刻な公害問題や廃棄物問題を回避して循環型社会を達成するためには、一人当たりGDPが上昇しても廃棄物量は少ない日本型の経済成長を促していくことが重要です。

(2)発展途上国の廃棄物・リサイクルを巡る現状

 それでは、発展途上国の廃棄物・リサイクルの取組はどのようになっているでしょうか。

 発展途上国でも特に中国やインドなど、近年急速に工業化が進む国々においては、日本が高度成長期に経験したような公害の問題や、廃棄物処理に関する問題が発生しています。


 例えば急速な経済成長を遂げている中国は、2010年にはGDPで日本を抜き世界2位となりましたが、同時に廃棄物の量も増え、2005年には都市ごみの量が世界一となりました。人口増が進む北京市では都市ごみの量も一日約1.8万トンに達し、現在も年8%の割合で増加しているとされています。しかもこれらの都市ごみの多くは埋立処理しており、埋立場の不足も懸念されています。中国政府もこの問題に対し、2011年から始まる第12次五ヵ年計画で資源リサイクルの産業化を示すなど、積極的な対応を図っていくことが見込まれます。

 国内経済の工業化がそれほど進んでいない発展途上国は、工業化に伴って発生する廃棄物量そのものが少なく、また都市ごみのうち厨芥は家畜の餌・飼料や堆肥として利用したり、ガラスやプラスチック、金属などは何度も再利用されるなど昔ながらのリサイクルが行われています。しかし、厨芥の河川や湖などへの投棄は、環境汚染の要因となっています。

 こうした発展途上国の廃棄物問題の解決に対し、我が国が経験に基づく貢献を行うことは、世界の環境負荷の低減、環境保全につながります。また、特に廃棄物・リサイクル分野においては日本の企業は高い技術とシステムを蓄積しており国際競争力も持っています。これらの企業にとっては発展途上国への事業拡大は大きなビジネスチャンスであるといえるでしょう。さらに、発展途上国にとっては環境に配慮したスムーズな経済成長のチャンスでもあります。

 廃棄物・リサイクル分野の産業は「静脈産業」と呼ばれています。資源を採取し、加工して製品を製造し、販売する「動脈産業」と対比したものです。我が国の静脈産業が廃棄物・リサイクルの取組を日本国内で進めることはもちろん、アジアを始めとして世界に展開し、環境と経済の両立を図っていくことが、世界の環境保全にとってきわめて重要となっています。


写真4-2-1 発展途上国におけるオープンダンピングの処分場


全世界及びアジアにおける廃棄物処理・リサイクル産業の輸出シェアの比較


 世界の廃棄物処理・リサイクル産業における輸出シェアを比較すると、我が国はアメリカやドイツ、イタリア、イギリスといったEU諸国とシェアを競っています。


廃棄物処理産業の全輸出高に占める各国の比率


表4-2-1 主要アジア各国の廃棄物・リサイクル政策・廃棄物量
表4-2-1 主要アジア各国の廃棄物・リサイクル政策・廃棄物量


(3)先進諸国の取組の状況

 欧州、米国など先進国といわれる国々では、20世紀初頭から廃棄物・リサイクルの取組が行われてきました。

 18世紀に産業革命を迎えた先進国は急速な産業化により廃棄物も増大し、19世紀には都市ごみの問題も表面化します。これを受け早くも1848年にはイギリスで世界初の公衆衛生法が制定され、ごみ処理用の高度な焼却炉も建設されます。

 しかし20世紀には、先進国の廃棄物問題はより深刻になります。とりわけ経済成長が著しかった1970年代以降は大量生産・大量消費の時代を迎え、都市ではますますごみが増え、工場は有害物質を多量に排出し、酸性雨、大気汚染、水質汚染などの環境汚染が著しく増大しました。また、アメリカのラブ・カナル事件のような過去に投棄された有害化学物質が結果として住民等に悪影響を及ぼす例やイタリアのカリンB号事件のような発展途上国への不適正な廃棄物の輸出や不法に処理する例も増えました。

 このような状況を憂慮し、EUでは1970年代から廃棄物枠組み指令(1975年)、有害廃棄物指令(1991年)、埋立指令(1999年)など廃棄物にかかる様々な指令を発令し、各国も実施してきました。アメリカにおいても水質清浄法(1972年)、有害物質管理法(1976年)、資源保全再生法(1976年)などが制定されました。

 さらに、経済のグローバル化により、モノやサービスのグローバルな移動のみならず、循環資源となる廃棄物の国境を越える移動が活発化しました。しかし、1980年代には先進国から環境規制の緩い発展途上国への有害廃棄物の不適正な輸出が多発し、輸出先での環境上不適正な処理による環境汚染等が深刻化しました。これを受け、1989年に有害廃棄物の輸出入やその処分に伴って生じる環境汚染や健康被害を防ぐことを目的とした「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(バーゼル条約)が採択され、1992年に発効しました。またリサイクルに関する取組も進みました。分別収集やリサイクルデポジット制度の普及に加えリサイクル技術が進んだこともあり、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、フランスなど欧州諸国では廃容器、廃電気・電子機器、廃車、廃電池・蓄電池のリサイクルが進んでいます。また拡大生産者責任(EPR)という、生産者は製品の生産・使用段階だけでなく廃棄・リサイクル段階まで責任を負うべきであるという考え方が提唱され、日本をはじめ各国でリサイクル法の整備も進んでいます。


 先進国が実施してきた廃棄物・リサイクルの取組は今後もますます重要になるとともに、これから成長を迎えようという発展途上国の参考となることが求められています。

3 我が国の廃棄物・リサイクル産業の世界展開に向けて

 前項では、各国の廃棄物を巡る状況を概観しました。特に我が国の経験をアジアなどの発展途上国に伝えることによって、深刻な廃棄物問題に陥ることなく発展を遂げられるよう促すことは世界全体の環境保全にとって非常に重要です。しかしながら、発展途上国にとっては、経済発展が最優先課題であるため、循環型社会の構築を優先課題とすることは困難である場合が多いと考えられます。

 一方、中国のように電気電子機器廃棄物の処理問題を抱え、EUのWEEE指令RoHS指令と同様の内容を法案として導入するとともに、我が国のエコタウンで展開されているリサイクル技術などの移転を目指す国も現れていることから、国情に合わせて技術やシステムを導入していくことが必要となります。

 他の環境技術と同様、廃棄物・リサイクル対策技術も、市場原理に委ねていては、社会的に望ましい水準まで普及することができません。このため、適切な制度を構築することにより、技術の普及を促す必要があります。

 また、単純に技術だけを導入しても、不適切な運転管理や処理時の廃棄物の状態によって、新たな環境問題を引き起こす可能性があります。さらに、不法投棄の横行等により、適切に収集等が行われず、技術を活かしきれないままで処理等が行われる可能性もあります。そこで、発展途上国で対応可能な技術だけでなく、技術を活かすシステム、人材育成、法制度や諸計画の整備など、廃棄物処理システムの総合的な導入を図ることが大切です。

 すなわち、技術力をもった静脈産業とその技術を活かすためのシステムや人材育成、制度などを一体的にパッケージとして海外に広めていくことが、環境保全の側面だけでなく、環境と経済の両立の観点からも重要だと考えられます。


我が国が有する技術


 我が国が有する技術について表のとおりまとめました。世界各国で文化や生活習慣が異なることから、我が国で機能している技術やシステムが、他国でも同様に機能するとは一概にはいえませんが、我が国の静脈産業による海外展開を検討する際の参考になるものと考えられます。


我が国が有する主な技術の一覧


リサイクル技術の例


(1)我が国の静脈産業による海外展開

 我が国の静脈産業の中には、既に海外展開を行っている事業者も存在します。こうした事業者の海外展開のパターンとしては次のようなものがあります。

[1]静脈産業事業者によるプラント設計、施工型

 日本国内における廃棄物の焼却炉やリサイクル施設などの設計・施工実績をベースに、ごみ処理施設等のプラントを海外において設計、施工している事業者があります。


中国における廃棄物処理プラントの展開


 中国では、都市ごみは埋立処分が主流であり、周辺環境の汚染や最終処分場の逼迫といった問題が深刻化しています。この対策として中国政府は、焼却処理による無害化・減容化の推進のため、来年から始まる第12次5ヵ年計画期間中において、毎年20ヶ所以上のごみ焼却炉の建設を計画するなど、環境産業全体で総額40兆円の投資を行うことが決定されています。

 このような環境の下、A社では、上海市や青島市で都市ごみ処理で一般的に使用される大型ストーカー式ごみ焼却炉を受注するなど、活発に受注活動を展開しています。

 また、廃棄物の適正処理と再資源化のニーズの高まりとともに、レストラン等から出る食品残渣の処理に関しても、収集・運搬から無害化・再資源化まで一貫して請け負うという事業権を、行政当局が民間企業に付与してインフラ整備を加速化しています。

 A社は、レストラン厨芥の収集・運搬からバイオガス製造までの廃棄物処理業を展開する現地企業と業務提携し、同社に技術支援および設計・機器供給を行うことにより、年間事業費2,000億円規模といわれている中国のレストラン厨芥の再資源化市場分野においても営業を展開しています。


上海市の大型ストーカ式ごみ焼却炉完成予想図


東アジアにおける廃棄物処理プラントの展開


 B社では、国内で培った都市ごみ焼却施設200ヶ所以上の受注実績を活かし、中国向け8件、台湾向け5件、韓国向け8件の受注をしています。

 中国では、ストーカ式ごみ焼却炉設備工事を受注し、設計業務や火格子等主要機器の供給、据付時のスーパーバイザー派遣等の技術サービスを請け負っています。

 また、韓国南揚州市向け流動床式ガス化溶融炉ごみ焼却設備工事として、設計業務や主要設備であるガス化溶融炉設備の一部機器供給および据付・試運転時の技術者派遣業務を請け負っています。


上海市のストーカ式ごみ焼却炉設備完成予想図


[2]静脈産業事業者による資源回収・リサイクル事業展開型

 日本で蓄積した資源回収・リサイクル技術やノウハウを活用して、海外ニーズに応じた資源回収・リサイクル事業を展開している事業者があります。


中国におけるリサイクル事業の展開


 中国における都市ごみは、これまでは埋立処分されることが一般的でした。しかし、GDPの増大に伴って都市ごみの大きな増加が見られています。最終処分場余力の逼迫を軽減するために、焼却施設を新たに設ける都市が見られるようになりました。遼寧省大連市にあるC社の中国拠点では、地元企業と共同で、「灰水洗システム」によりごみ焼却後の飛灰を脱塩し、セメント製造プロセスを利用して無害化かつ再資源化する事業を検討しています。

 また、新疆ウイグル自治区でPVC(ポリ塩化ビニル)を製造・販売している地元企業では、製造過程で副生するカルシウムカーバイド滓を原料としたセメント製造を行っています。この副生滓に含まれる塩素によって損なわれていた安定操業を飛躍的に改善させ、省エネ効果も見込まれる「塩素バイパスシステム」の導入が行われています。


灰水洗システムを導入予定のセメント工場(中国遼寧省)


[3]静脈産業事業者による廃棄物の適正処理事業展開型

 適正な処理を行うための廃棄物処理・リサイクル施設が十分に整備されていない発展途上国において、廃棄物や有害物質の適正な処理等を行う事業を展開している事業者もあります。


アジアの現地企業の買収による事業展開


 日本国内及び中国で廃棄物処理、リサイクル、土壌浄化などの環境・リサイクル事業を展開していたD社は、アジアにおける環境・リサイクル事業の拡大を図るため、2009年に、東南アジア3ヵ国(インドネシア、タイ、シンガポール)4拠点で廃棄物処理・リサイクル事業を展開する企業を買収しました。これにより同社は、インドネシアでは国内で唯一の有害廃棄物最終処理施設、タイでは同国内にそれぞれ数ヶ所しかない大型最終処理施設及び大型焼却処理施設、シンガポールでは有害廃棄物処理施設の運営を行っています。

 東南アジア各国の国内企業のみならず、進出している日本企業に対しても、日本と同様の信頼あるサービスを提供することが可能となり、日本・中国・東南アジアで廃棄物処理・土壌浄化・リサイクルのトータルサービス(One-Stop-Shop)を提供しています。


インドネシアの有害廃棄物最終処理施設


タイの大型最終処理施設


タイの大型焼却施設


[4]商社による事業展開型

 アジアへの廃棄物・リサイクル事業の展開に際しては、すでにさまざまな実績を積み、各界とのつながりが深い商社も取り組んでいます。


商社による展開


 E社は、中国・大連長興島臨港工業区において、現地法人を設立して、鉄スクラップ・非鉄スクラップ・廃家電・廃プラスチックを対象とした複合型リサイクル・再生資源合弁事業に着手しています。同社は、2009年からは遼寧省政府との間で、長興島臨港工業区を省エネルギーと環境保護をベースにした「環境に優しいエコアイランド」として開発すべく協議を進め、水処理をはじめ、エネルギー、輸送、リサイクルなどの分野において、様々な提案を行っています。


中国・大連における複合型リサイクル工場

 また、同社はマレーシアにおいて、世界最大のパーム搾油事業者と固形バイオマス燃料製造事業を行う合弁会社を設立し、パーム油の搾油工程で発生する利用用途のない残渣(EFB:パーム空果房)を原料として、固形バイオマス燃料「EFBペレット」を製造する工場を建設しています。「EFBペレット」はE社を通じて日本の電力会社へ納入することとしています。


[5]メーカーによる3R事業展開型

 多くの国内メーカーは、自社製品について3Rシステムを構築しています。たとえば、コピー機の場合には、国内における自社製品の3Rシステムを構築しており、使用済みのコピー機からの部品リユース率が高く、廃棄物もほとんど排出されません。さらに、国内で培った技術やシステムをアジア地域などに海外展開しています。


アジア市場での製品回収と再生機販売


 F社のタイにおける販売会社は、再生機に対する市場のニーズを受け、2003年度より回収した複写機を再度市場に提供する再生複写機事業を本格的に展開しています。回収された使用済み製品は、まず、各部品の品質や劣化状態を診断します。次に、分解、洗浄、乾燥を行い、ハードディスクのデータを完全消去します。その後、組立工程では、劣化した部品や消耗部品を新品に交換します。最後に検査、調整、仕上げ、品質保証が行われて出荷されます。


再生複写機事業の行程


(2)静脈産業の海外展開を支える国際枠組み

 廃棄物の適正な回収・処理や循環的な利用に当たっては法律等の制度の整備とその適切な執行が不可欠です。一般に、発展途上国では、廃棄物をマネジメントするシステムの優先度が低く、国民の関心も薄いため、都市域に廃棄物が分散している国もあり、これらを適切に収集して運搬し、3Rを推進するとともに、中間処理や最終処分を行う統合的なマネジメントシステムが求められます。相手国で廃棄物が適切に回収、処理されるような社会システムが整っていない状況では、技術を提供しただけでは、廃棄物問題の解決につながることは難しいと考えられます。このため、我が国は、アジア各国において、国家として3Rを推進するための戦略づくりの支援や政策対話を実施しています(図4-2-8)。また、我が国の提唱により2009年(平成21年)に設立された「アジア3R推進フォーラム」を推進し、3Rに関するハイレベルの政策対話の促進、情報共有、関係者のネットワーク化等を行い、各国において3Rが主要施策として位置づけられるよう促進するとともに、具体的なプロジェクトにつながる事業の実施支援を進め、アジアにおける循環型社会づくりに取り組んでいます。


図4-2-8 アジアにおける3R・廃棄物分野の国際協力国家戦略支援


写真4-2-2 アジア3R推進フォーラム


川崎市-瀋陽市(中国)間の協力支援について


 2009年6月14日、日本国環境大臣と中国環境保護部長により、「川崎市と瀋陽市の環境にやさしい都市の構築に係る協力に関する覚書」が交わされました。覚書の主な内容には、「川崎市及び瀋陽市において、循環経済産業の発展を通じた環境にやさしい都市構築のモデル事業を共同で推進」、「資源節約及び回収・リサイクルシステムの構築、廃棄物管理に関する政策交流、研究、技術等の情報共有の実施」、「学界、産業界及び民間部門の積極的な参加の奨励」が掲げられました。

 現在の取組状況ですが、環境省は川崎市、瀋陽市、事業者、国立環境研究所、中国科学院等と協力し、瀋陽市へのリサイクル事業展開の実施可能性調査を実施しています。また、北京市や瀋陽市において日本のエコタウンや3Rの取組を紹介するワークショップを開催しています。川崎市は国際ワークショップ、環境ニーズ調査、研修等を実施し、川崎市のエコタウン立地企業は、PETボトル等のリサイクルや下水汚泥処理事業の瀋陽市への展開について、瀋陽市や現地企業と調整しています。また、国立環境研究所は、川崎市をフィールドとして開発した「循環経済都市シミュレーションシステム」の瀋陽市への適用に向けて、中国科学院と協力して取組を行っています。

 このように、川崎市-瀋陽市の協力モデルは、国、地方自治体、民間企業、研究機関が連携し、日本の先進的な廃棄物処理・リサイクル技術が制度・システムと一体となって海外へ展開していくことにより、国際的な環境保全や資源循環に貢献し、循環型社会構築に寄与するモデルケースとして取組が進められています(図参照)。


川崎市―瀋陽市(中国)間の協力支援


茨城県-天津市(中国)における日中循環型都市協力について


 我が国のエコタウン整備・経験のノウハウを自治体間協力の枠組みの下で移転しつつ、我が国企業が中国進出しやすい環境(土台)づくりを行うことを目的として、日本国経済産業大臣と中国国家発展改革委員会主任の合意により平成19年から日中循環型都市協力を開始し、リサイクル分野における協力を推進してきました。

 平成21年度からは茨城県と天津市との間で協力事業を開始し、天津経済技術開発区(TEDA)を中心とした濱海新区における資源循環経済構築に向けた協力を実施しました。平成22年6月には、茨城県知事と天津市長との間で環境協力に関する覚書が締結され、両自治体間で強固な協力関係を築きつつ事業を推進しました。具体的には、TEDAを中心とした濱海新区における廃棄物処理モデル事業のプレFS、TEDAにおける廃棄物・再生資源のマテリアルフロー調査、天津市・濱海新区の行政・企業関係者を対象とした人材育成等を行いました。

 その結果、廃棄物処理モデル事業として、第12次五カ年計画の中に「汚泥処理」が位置づけられたことを踏まえ、汚水処理場等から発生する余剰汚泥の処理施設の建設に向けたプランを作成しました。また、マテリアルフロー調査では、廃棄物の適正処理・リサイクルを更に促進するためには、再生資源・廃棄物のフローを管理するための制度の構築及び排出事業者の省資源・リサイクルに関する意識・技術の向上に課題があることが分かりました。

 今後は、これらの調査・提案を踏まえ、廃棄物適正処理・リサイクルを促進するための制度構築及び人材育成の支援、汚泥処理施設建設のためのFS、茨城県を中心としたリサイクル企業とのビジネスマッチングを実施し、濱海新区における資源循環経済の構築に向けて協力・支援していきます。


循環型都市協力事業(茨城県-天津市)


(3)アジアに伝えたい地域コミュニティの力

 循環型社会を目指すためには、自然を敬い、限りある資源を大切にするという「もったいない」の心を国民一人ひとりが持ち、3R行動に積極的に取り組むことも重要です。技術に依存するだけでは、廃棄物問題の解決や、さらには循環型社会の形成に向かうことは容易でありません。廃棄物やリサイクルの当事者の一員である国民一人ひとりが、3Rについて理解するとともに、日常の行為から実践、参加することが欠かせません。我が国でも自治会活動などが廃棄物問題の解決に大きく貢献したように、地域コミュニティや市民活動と社会システム、技術が連携することによって循環型社会が構築されていくと考えられます。世界の循環型社会の構築に向けて、地域コミュニティの力をアジア諸国に広げていくことも重要です。


地域の経験を活かした3Rマインドの定着促進


 那覇市では、市民・行政・企業の協働による循環型社会形成の取組で、3Rが市民の行動として定着しており、ごみ排出量の削減に結びつきました。ベトナム・ホイアン市とマレーシア・サバ州においては、市民のごみに対する意識を高めること、すなわち「市民へのマインドセット」が課題となっていました。そこで、那覇市における3R行動の経験を紹介し、現地において市民への効果的な3R推進を支援するための事業を実施しています。

 本事業は那覇市及び市民団体Aの提案を受けてJICA草の根技術協力事業(地域提案型)として採択されたものです。平成20年度から3年間、ベトナム、マレーシアから13名の地方自治体、NGOの固形廃棄物担当者を受け入れ、3Rについての講義や実習、現地に専門家を派遣しての協議やアドバイスなどを通して、3R推進の人材育成を行っています。本事業により、両国では那覇をモデルにした計画作りや環境教育プログラムが実施に移されています。


子どもたちへの環境教育としての埋立地見学


ノービニール袋キャンペーン


(4)今後の展開に向けて

 我が国は、経済発展の段階に応じて、さまざまな廃棄物問題を経験し、解決してきた歴史があります。こうした歴史を前提に、我が国静脈産業には、現在の高水準の技術から必要最低限の機能に限定した技術まで多様な技術の蓄積があります。また、廃棄物の適正処理や循環的な利用にあたっては法律等の制度の整備とその適切な執行が不可欠ですが、我が国はアジア各国と法整備等においても協力を行っています。

 こうした我が国の廃棄物処理、リサイクル技術と、循環型社会の構築に向けた法整備等のシステムに係る国際協力等を背景として、平成23年度において我が国の静脈産業の海外展開を積極的に支援するための事業を行うこととしています。まずは海外展開を目指す先行静脈産業グループに対して事業展開の実施可能性調査等の支援により、我が国静脈産業の海外展開を促進していきます。また、次世代の静脈産業を育成するために企業の新たな循環ビジネスモデルの確立支援を行います。

 さらに、平成22年6月に産業構造審議会がとりまとめた産業構造ビジョン2010に基づき、リサイクル産業の海外展開を積極的に支援すべく、アジアエコタウン協力事業(平成19年度より実施)、アジア資源循環実証事業(平成21年度より実施)に加え、インフラ・システム輸出促進調査事業(リサイクル企業によるFS)を実施することで、我が国リサイクル産業のアジア展開を支援しています。

 我が国の技術とシステムを一体的に、パッケージとして活用しながら、アジア各国が現に直面し、また将来において直面するであろう廃棄物問題が解決されるよう、日系静脈産業の海外展開に取り組み、世界の環境保全に貢献していきます。



前ページ 目次 次ページ